もしも、飛鳥に許嫁がいたら?   作:ミミヤヤ

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才能の無い人間は……

 「くっ!」

 

 大理は横に大きく飛び込み受け身を取りながらも白夜叉との距離を出来る限り離す。

 既に身体には無数の傷跡があり、腕からは血が滴っていた。

 

 血を流しながらも体勢を立て直そうとする大理に白夜叉はせっかく離した筈であった距離を瞬時に埋めてしまう。そして、肉体の小ささを利用して懐に入ると腹部に向かって回し蹴りを繰り出す。

 

 それを、ほぼ反射の反応と勘を頼りにして身体を倒すのだが。やはり、そこは才有る者(・・・・)才無き者(・・・・)の差が出た。身体能力の差が極端に出たのだ。おかげで、大理は諸に受ける事は避けることができたが想像を絶する衝撃に苛まれる。

 内臓が元の位置にはもう無いのではないかと錯覚するほどで、口からは血反吐を吐きながら大きく吹っ飛ばされる。向う先は大きな氷の岩。そこに強かに叩きつけられる寸前、何とか気力を持ち直して受け身によって衝撃を減らす。それでも、絶大な痛みに襲われることは間違いないのだが。

 

 「今のに反応するか……」

 

 白夜叉はそう意外そうに言葉を漏らすがそこに油断はなく、大理の姿を真っ直ぐ見据えていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「大理っ!!」

 

 飛鳥の悲痛な声がギフトゲームのルールによって作り出された結界内(・・・)に響く。結界の壁を叩いて向こう側へと行こうとするが、結界がそれを許す筈も無く。ただ、大理が白夜叉に蹂躙される姿を見通させることしか許さない。

 

 

 事が起こったのは、白夜叉が自らの世界に大理達を呼び出してからだった。白夜叉の名を表した白い雪原と湖畔、その上に浮かぶのは白夜。そしてその白夜が水平に廻るという世界。

 そこに着いた時の『私は白夜の魔王、太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらに問おう。望むのは試練か? それとも誇りと命の限り闘う――決闘か?』その言葉に真っ先に反応したのは意外や意外、大理だった。そして、その返答は“決闘”というもの。飛鳥や耀、十六夜ですら止めようとした。黒ウサギも勿論のこと止めた。しかし、何度説得を試みても大理は引かなかったのだ。

 そして、ギフトゲーム(命と誇りを賭けた決闘)が始まった。結界は邪魔するものが出ないようにというものだ。

 飛鳥は最後まで止めていた。世界一つをゲーム盤という強者が相手だ。大理が勝てる訳がない。死んでしまう、そう思ったからこそ涙まで流して止めた。なのに、それなのに大理は止めなかった。それがどんな想いからなのか、ここにいる大理以外の誰一人として分からなかった。

 

 「くそったれ。大理の奴、どういうつもりだっ……! あいつが白夜叉との力量差が分からない程の馬鹿なわけがねえ。くそがっ」

 

 十六夜もまた、悪態を吐きながら手を握りしめていた。短い時間とはいえ意気投合した友と呼べる者が痛めつけられる姿を見て何とも思わない訳がない。

 

 「っ……! また骨に罅が!?」

 

 耀はギフトによる聴覚強化で大理の骨に罅が走る音が聞こえる。目には僅かに涙を浮かべていた。

 

 「大理さん……! どうしてなのですかっ!?」

 

 黒ウサギもまた、耀と同様骨に罅の走る音が聞こえる。そして、大理の姿を見ていられなかった。

 白夜叉の魔王としての姿も初めて見たのか動揺していた。

 

 「黒ウサギ、この邪魔な壁を壊すことはできないの!?」

 「できません! ギフトゲームのルールによって作られた物です。我々では不可能でございます。いくら十六夜さんであっても……」

 「くそっ!」

 

 そう言って十六夜は結界を殴るが、結界はわずかにラグが走るのみで破ることはできなかった。神格保持者を打倒した拳であっても破ることの出来ない結界。ゲームのルールは絶対。それが証明された瞬間でもあった。

 

 

 白夜叉もまた、困惑していた。白夜叉も、やはり自分の誇りも矜持もある。それに触れた大理を簡単に見逃すような真似をすることはできなかった。今も、大理を痛めつけてはいるが、降参をするならばそこはやはり年長者だ。引き下がることもできたのだろう。しかし、一向に大理にその様子は見えない。そればかりか、慣れてきたのか自ら動いてダメージを減らしている。

 

 (どういうことだ。一体、何が目的なのだ!?)

 

 当初は大理のことをギフトを持ったことで調子に乗った生意気が餓鬼だと思っていた。しかし、決闘が始まると同時にその考えは霧散した。目が違う(・・・・)のだ。あれは、覚悟を持った者の眼、そう白夜叉は感じた。だからこそ、困惑もする。

 

 ――聡明であろう大理という者は何故こんな無謀なことを?――

 

 そう思考しながら大理を吹っ飛ばすことで距離を離して体勢を立て直す時間を与える。彼女自身も大理を殺す気はない。なにせ、彼女にしても決闘という選択肢を選ぶとは予想していなかったのだから。

 だから、白夜叉はその理由を考えるために攻撃の手を止めた。

 

 大理は白夜叉が与えてくれた時間で立ち上がりながら脳内をフル回転させていた。

 

 (これが、箱庭の上位の力量……。良かった、知っておいて。ノーネームは魔王を相手にする筈。ガルドの話では元の“ノーネーム”はかなりの力を持っていた。それを滅ぼした魔王が相手だ。今のなにも情報が無い状況じゃ対策の立てようも心構えの取りようもない。最悪俺が死んでも……きっと大丈夫だ。俺にはギフト(才能)がない。それならこんな命の使い方をしても損害は無いと思う。飛鳥は……。彼女は強い。きっと大丈夫。今はこの箱庭の険しさを伝えることが俺の役目)

 

 それは、自分の価値をないがしろにした次へ繋ぐためのバトン。作りあげていたのはそれだ。

 

 それに気づく者は――いない。いくら飛鳥とはいえ、相手の全てを理解するなどという芸当は出来はしない。

 故に、今大理は一人だ。一人で終わりがあるともしれない道を走っている。それも、自ら進んで。

 

 そんな時、大理は不思議に思う。あれだけの猛攻を行っていた白夜叉が一向に動こうとしないのだ。大理が獲得している五感からの情報は今、ほぼ視覚と聴覚、そして触覚のみだ。嗅覚と味覚はほぼ機能していないと言っていい。否、意図的に機能させていない。少しでも目の前のことに集中するためにも。

 

 視覚と触覚から白夜叉に反応。聴覚はどうしても除外できなかった。それは、飛鳥の悲痛の声が常に聞こえるからであろう。

 

 そして、今大理が三つの情報源から不可解に思っているのは視覚からのものだ。白夜叉が動かない。

 

 「おぬし……」

 

 白夜叉から不意に声が出る。その表情は疑問に満ち溢れていた。

 

 「おぬし、何故ギフトを使わないのだ」

 

 まず白夜叉が真っ先に気付いた疑問だった。ギフトを使った様子も、使おうとする素振りも無い。黒ウサギが呼んだのだからギフトを持っている筈であるのに。

 

 「悪い、ね。ギフト、持ってないんだ」

 

 それが、大理の答えだ。そして、白夜叉の思考は全てつながった。

 思えば、最初からおかしかったのだ。異世界から召喚した人数は三人であったし、飛鳥との様子も長年一緒にいたかのような仲だ。それでいて、ギフトを持っていない。

 つまり――

 

 「小娘の召喚に巻き込まれた人間……!?」

 

 それが、冷静になって考え、新たに得た情報から導き出された答え。そして、何よりも残酷な真実だった。

 

 

 

 

 




 今回は無理やり過ぎでしたかね~?

すいません……。あまりにも進行が遅いあまりに焦った感はありました。でも、後悔はしていない。

 良ければ次回もよろしくお願いします
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