自分には、どうしようもなく愛おしい人がいる。
その子は、いつも真っ直ぐで。いつも眩しくて。でも、どこか悲しげだった。
だから、隣に立って支えたいと思った。思えた。それが、彼女との出会いだ。
それから笑顔も、涙も分かち合った。お互いをよく知り合えた。やっと隣に立つことができたと思った。
だが、この世界に来て。
才能の無い自分を突き付けられた気がした。
どうしようもなく、浅ましい自分の本性を暴露された気がした。
自己という概念がとても小さい気がした。
だから、だから――
――大事な人の中に少しでも居たい――
自分のことを真っ直ぐ見てくれた子の中に居続けたいと思った。
否、思ってしまった。それがさらに自分が小さくさせるとは思わずに。
才能、それがこの世界に来て壁として自分の前に聳え立っていた。その向こう側には大事な子が居て。どうしようもなく隣に立ちたくて、その壁をがむしゃらに登る。
でも、やはり現実は甘くなかった。
爪は剥がれて、息は荒くなって、身体は震えていて。あと、壁はどのくらい残っているのかを確認すると。
――もう……だめだった――
自分のがむしゃらは。自分の必死は。この世界には通用しない。いや、大切な子の隣に立つのに相応しくない。それを、実感した。
そう実感したからこそ、最後の悪あがきに出た。少しでもあの子の記憶に残るように。
一人になりたくなかったから。彼女と一緒に居たいから。例え“重い”と言われても良いから、安心を手に入れたかった。
それなのに、それなのに何故。
――俺は飛鳥を泣かせてしまったんだろう――
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深い暗闇から、意識が徐々に浮き上がってくるのを感じる。
意識を失う前の記憶は勿論覚えていた。
大理は、白夜叉に一瞬で気絶させられたのだ。どのような方法によってかは知らない。ただ、気絶させられたという事実だけは覚えていた。
最初に目に入ったのは飛鳥の顏だった。その表情は安堵と悲しみ、怒り。様々な物が綯い交ぜになった複雑な表情。だが、その目元に赤みがあることに大理は気付いた。そして、自分の顏に付いている水滴。
意識が回復したばかりの彼でも、それがなんなのかは理解できた。
涙だ。彼女は、涙を流したのだ。自分の為に。
そのことに、大理の内側からある一種の感情が溢れた。
罪悪感ではない。劣等感でもない。自己嫌悪でも、後悔でもない。
「ありっ……がとうっ、ただいまっ」
幸福だ。感謝だ。安心だ。嬉しさだ。感動だ。愛おしさだ。
気づけば大理の目からも涙が流れていた。自分という存在が、飛鳥にとっても
思えば、彼は箱庭に来てから常に不安と恐怖を心のどこかに抱いていた。
四千メートルからの召喚然り、黒ウサギとの対話然り、ガルドとの対峙然り。大理は全てに敏感に怯えていた。
藍里大理という人間は臆病だ。いきなり訳の分からない世界に来て、どうしようもなく不安になったのだ。
『怖い』それが大理の思う言葉で。しかし、飛鳥を前にそれは内側に押し込めた。自分の情けなさで彼女の道の邪魔する訳にはいかない。飛鳥は、彼女は籠に囚われているべき人ではないから。自由に、のびのびと羽ばたいていくべき人だから。
何より、彼女に見放されて、用済みだと言われたくなかった。一番自分が怖くて恐れているのは彼女に離れられることだから。だが、この世界はその恐怖を徐々に増加させていく。そして、彼女との距離が空いてしまったように感じるまでに時間はかからなかった。
それが、“16歳という少年の本当”だった。
天才でも、神童でも、問題児でもない。そして許嫁でもなくなった藍里大理。
そして、それを迎えてくれた人は――
「ええ、おかえりなさい。大理」
――笑顔で、ちゃんとここに居た。
今回は短い。
これはどうしても単発で書きたかった。
感想、評価共にありがとうございます。