「黒ウサギ、君達の事情を教えてくれないか?」
その問いの答えは、大理と黒ウサギの双方にとって異なる意味でだが重要なことであった。
黒ウサギは、真実を明かせばせっかく異世界から呼び出した者達を手放してしまうかもしれない。そうなれば恐らく、いや絶対に金輪際、今黒ウサギ達を脅かしている原因を取り除くことはできないままだろう。
そして大理は、自分の命が、何より
黒ウサギはしばしの間沈黙を貫いていた。その様子は悲痛さを感じ取れるものだ。大理の問いに正直に答えるべきか、それともはぐらかすべきかどうかを考えているのだろう。
四人は、それを静かに見守っていた。どんな答えが返ってくるのかは分からない。この世界についてなぞ知らないから。だが、大理は返答次第によってはどう動くべきかすでに判断していた。もし、はぐらかすような真似をした場合、それに乗ったフリをして黒ウサギを安全地帯に行くまで利用すると。
しかし、黒ウサギははぐらかす、という手段を取らなかった。それは、はぐらかしたところでバレると考えた結果なのか、それとも真実を話してももしかしたら手を貸してくれるかもしれないという希望からなのかは分からないが。
「……大理さんの言った通りでございます。真実を話す前に先ほど話していなかった箱庭のことをお教えします。まず、箱庭では“コミュニティ”という組織に属さねばいけません。“コミュニティ”の数はそれはもう星の数ほどあります。そのコミュニティにも大小様々なものがあり、全コミュニティは先ほど話したギフトゲームを行い組織の力を高めていきます。ギフトゲームは勝者がゲームの“
「……主催者って誰?」
「様々です。修羅神仏が試練と称したゲーム、コミュニティが自らの力を誇示するという目的のために開催するものも。前者は基本自由参加です。その代わり難解なものが多いです。しかし、見返りは大きいです。主催者によっては“ギフト”を得ることもできるのでございます。後者は、参加者はチップを用意し、ゲームをします。参加者が勝利すれば参加者は賞品を、敗退すればチップを主催者側コミュニティが得る、というシステムです。」
今の説明で大体の予想ができたのだろう。四人の表情は納得が言ったように頷いている。黒ウサギはそれを見て、困ったような笑みを浮かべる。
「黒ウサギ達のコミュニティはギフトゲームで何か大事なものを奪われた、ってとこか?」
「ということはそれを取り返すために私達を呼び出したのかしら」
「……多分、そう」
十六夜達は既に楽な姿勢を取っていた。先程とは違い、身体から力を抜いている。
「そうでございます。私達にはコミュニティには名乗るべき“名”がありません。呼ばれる際は、その他大勢とくくって“ノーネーム”という蔑称が使われます。さらにはコミュニティの誇りである旗印もないのです。旗印はコミュニティのテリトリーを示す重要な役割なのです」
さらに! ともう喋っている内に自棄にでもなったか、一周回って元気になったのかおかしなテンションになってきている黒ウサギ。
「百二十二人いる我がコミュニティにはジン坊ちゃんという少年と黒ウサギの他は十歳以下の子供ばかりで中核を成す仲間など一人もいませんのデスヨ!!!」
「もう崖っぷちだな!」
「終わりはすぐそこ、かしら」
「……大ピンチ」
「絶対絶命、四面楚歌、八方塞がり」
「ホントでございますね~♪」
四人の言葉に黒ウサギはフフフと笑うのだがやはりグサッときたのかガックリと項垂れる。あれ、これ断られたらもうおしまい? とすごい事実を突き付けられたと思う他なかった。
「そうなった原因はなんだ? 孤児院でも黒ウサギのコミュニティはやってんのか?」
いいえ、と黒ウサギは横に首を振る。その反応を分かっていたのか既に十六夜の表情は真剣そのものだ。
「仲間達は、子供達の親は、名も旗印も奪われたのです。箱庭を襲う災厄、“魔王”の手によって」
“魔王”。その言葉に対する反応はそれぞれだった。十六夜は面白そうに笑い、耀はわずかだが目が見開かれており、飛鳥は「魔王……」と黒ウサギの言葉を反芻し、大理は眉を顰めていた。
そして、誰よりも先に言葉を発したのはやはりというか十六夜だった。
「魔王……! ハハッ、なんだそいつ。超カッコいいじゃねえかよ! ここにはそんな如何にも悪そうな素敵ネームで呼ばれるような奴がいるってのか!?」
「え、ええまあ。しかし十六夜さんが抱いている魔王というものとは些か差異があるかと」
十六夜の反応に身体をビクッと揺らしながらも対応する黒ウサギ。まさか、魔王という存在を聞いて喜ぶとは思わなかったのだろう。
「魔王、ねえ。サタンとかベルゼブブとかそのあたりの存在かな? いや、キリスト関係だけとは限らないのか。……黒ウサギ、魔王の定義はなに?」
「魔王というのは“主催者権限”という箱庭における特権階級を持った修羅神仏のことです。彼等にゲームを仕掛けられたが最後、そのゲームに勝利しない限りは助かることはありません。……黒ウサギたちのコミュニティは魔王のゲームに挑まれ、コミュニティがコミュニティたらしめるためのものを全て奪われました」
なるほどね、と返す大理。黒ウサギが言ったことは実際問題、比喩でもなんでもない。証拠に黒ウサギ達のコミュニティに残ったのは空き地のみの廃墟と多くの子ども達だけだ。
「黒ウサギの私達を呼んだ目的はその魔王とかいう存在から奪われたものを取り返す、ということでいいのかしら?」
「はい、今のままでは憔悴していくばかり。ですから、異世界の同士を呼ばせてもらいました」
そんな時、十六夜と大理が口を開いた。
「旗印と名前、新しく作ることはできないのか?」
「そうだね、名前がないと他コミュニティから相手にされないんだよね? それじゃゲームも出来るか不安だ。旗印も
黒ウサギは俯く。
十六夜と大理の言ったことは正論だ。名前が無ければ舐められ、旗印が無ければ縄張りを主張できない。その事実はトラブルしか引き起こさないものだろう。
可能です……、と俯きながら黒ウサギは答える。
そう、可能なのだ。だが、黒ウサギは今までそれをしなかった。それはやはり――
「――だめ、なんです」
「え?」
「……どういうこと?」
飛鳥と耀が反応する。
「改名はコミュニティの完全解散を意味します。ですが、それではダメなのです! 仲間が帰ってこれる場所を守りたいんです……!」
やはり、奪われた仲間達のためなのだろう。しかし、それは茨の道だ。取り返せるか分からない仲間のために帰る場所を守る。とても、辛いことだろう。だが、彼女はそれでもその道を歩むと言ったのだ。決めたのだ。どんなに傷だらけになったとしても、どれだけ痛かったとしても、コミュニティを守ると。
「どうか、どうか我々のコミュニティに力を貸してはいただけないでしょうか……!!」
黒ウサギはは頭を下げて懇願した。そこには恥も外聞もなく、ただただ一途な願いのみ。しかし、その様子に心を打たれるわけでもなく十六夜が最初に発した言葉は、
「へえ、魔王から奪われた仲間と誇りを取り戻す、ねえ?」
素っ気ない返事だった。その言葉を聞いた時、恐らく、黒ウサギは今にも泣きたい気分になった筈だ。それほど追いつめられている。だが、その涙を流さなかったのはそんなことをしても意味が無いと分かっているからだろう。
他三名は十六夜のように返事はせずにただ沈黙している。
「――面白そうだな、それ」
その言葉は十六夜の発したものだった。
黒ウサギはバッ、と顏を上げて呆けた顏をしている。ようやくでたのであろう声は間抜けな音。
「――…………は?」
「HA? じゃねえよ。協力してやるって言ってんだ。魔王と戦う、こんなにロマンがあって面白そうなことを逃して堪るかってんだ。それともなんだ? 俺はいらないか?」
「そ、そんなことないです! ありがとうございます!」
またもや、だが今回は別の意味で頭を下げる黒ウサギ。だが、十六夜はその前に未だ沈黙している三人の方を向く。
「お前らはどうするんだ? 聞いた通り、俺は協力することにした。面白そうだったからな」
「……私もいいよ。呼んでくれたのは黒ウサギ。なら、義理は通すべき」
耀の返事に一層喜ぶ黒ウサギ。再び感謝の意を示す。
「私もいいわ。災厄に立ち向かう弱小コミュニティ、夢があるもの」
ありがとうございます! と涙ぐみながら喜ぶ黒ウサギ。
皆はまだ返事をしていない大理の方を見た。
「まあ、お前はギフトをもっていないってんだから迷うのは分かるがよ」
「た、大理さんの安全は可能な限りご配慮いたします! ギフトが無いからと言って差別するつもりもありません! ですからどうか……!」
皆が大理に注目するなか、またもやその口から出たのは予想していなかった言葉だった。
「いや俺はいいんだけど、飛鳥の安全を保障してくれないかな。怪我させちゃダメとかゲームに参加させないとかは言わないけど、出来る限り、ゲームとか魔王絡み以外のことで箱庭で起こる危険から守ってほしい」
え? と皆が口から発した。飛鳥もこれは予想していなかったらしく驚いている。
それもそうだ。大理から出たのは自らの安全を保障する言葉ではなく、飛鳥の安全を保障することなのだから。
「なあ、さっきから思ってたんだが。お嬢様と大理って一体どういう関係なんだ? 同じ世界から来たってのは知ってるが」
十六夜の言葉に大理は何でもないように言い放った。
「ああ、言ってなかったね。――俺と飛鳥は許嫁だよ」
えええええええええ!!!?? と森に驚愕の叫びが響き渡った。
説明化and暴露回
文章量が安定しない今日この頃、そしてもういいやと諦めた今日。