なまけものの悪魔のお話   作:魚の目

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さんわ

 クラスの奴らは俺が授業中居眠りばっかりしていると思っている様だがそういう訳でも無い。俺だって眠くないときは起きている。授業は聞いて無いが。

 

 眠くないときはどうでも良いことばっかり考えている。最近のトレンドは悪魔らしくない悪魔についてだ。

 現在魔王の座に就いているアジュカ・ベルゼブブの生み出した「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」によって転生したソーマのような転生悪魔は勿論、純血の悪魔の中にもそんな感じの奴らがいる。現在の4大魔王たちも性格が相当軽いらしいが身近な所で例を出すなら、俺と同様く、く……何とか学園に通うソーナ・シトリーが挙げられる。

 

 割と仲の良いらしいソーマ曰く、彼女は冥界に学校を作りたいそうだ。学校と言っても普通の学校では無くレーティング・ゲーム、悪魔同士がそれぞれの眷属と共にぶつかり合うスポーツみたいな物の知識を得るための学校だ。

 一応今もそう言う学校があるにはあるみたいだが通えるのは純血の上級悪魔だけ。彼女が目指しているのは下級も中級も、ましてや転生悪魔でさえも受け入れる物らしい。埋もれている才能を発掘すると言えば聞こえは良いが正直悪魔が平等を目指すなんて何かが間違ってる気がする。そうしたいと言う欲望に忠実と言われればそれまでだが、やっぱり彼女は普通の悪魔とはどこか考え方が違うと思う。

 

 変わっていると言えば同じくこの学園に通うリアス・グレモリーもそうだ。

 その名の通り元72柱の一家門であるグレモリー家は身内への慈愛が強いという評判だ。リアスもその評判に漏れず自身の眷属を非常に大事にしている。

 だが、そもそも彼女の眷属の選び方からして身内以外、特に弱い立場の者にはかなり優しいのでは無いかと言うのが俺の意見だ。

 彼女の眷属達が情報通りの経歴なら全員が全員同情に値する程悲惨な境遇の者たちばかりだ。人間と堕天使のハーフであり母方の親族に母親をぶち殺され放浪する羽目になった少女。人体実験の被験者にして唯一の生存者。姉がはぐれ悪魔になり自分も処理されそうになった猫又。家から追放され野垂れ死にしかけたハーフヴァンパイア。

 悪魔同士での面倒ごとを避けるべく、ソーマに調べさせた裏の取れていない情報ではあるがこれが正しいなら誰一人としてお気楽な経歴ではない。リアスはそんな奴らばかり選んで己の慈愛で心の隙間を埋めてやっているのだ。。

 

 ところで彼女の母方は72柱の筆頭であるバアル家の者であり、元を辿れば我が家と同じバアル神族に行きつく為、俺と彼女は限りなく他人に近い親戚と言える。親戚云々は別に関係ないのだが、バアルという悪魔は元はと言えば現在のシリアにおいてかつて『崇高なる王(バアル・ゼブル)』として信仰された神が乏しめられた姿である。そういう意味で言えば『蠅の王(ベルゼブブ)』とも関係が深いのだがそれも今回は置いておく。

 

 重要なのは彼の神が嵐と慈雨の神であるという事だ。

 愛情という恵みの雨で哀れな者たちの渇きを癒し、手を出すものには嵐のごとき怒りをぶつけるリアス・グレモリー。

 グレモリーでありながらバアル家に伝わる力を持ち合わせているという事実も鑑みると、実の所彼女はこのバアル神としての側面が強く出ているのでは無いかと言うのが俺の推測だ。自身に縋る弱きもの、信徒を救うというのもいかにも神様らしい。

 まあ正直神も悪魔も立場が違うだけというオチがつくし、そんな風に対象を限定しているところを見れば悪魔らしいと言えばそうかもしれないが。

 

 今日も今日とて朝から無駄な事を考えて疲れたなとぼんやりしていると意識していない人物から話を振られた。

 

「今日は起きている様ですね、ベル君。それでは続きを読んでもらいましょうか」

 

 名前も覚えていないが、確か漢文の教諭であるおっさんだ。当然俺は教科書を開いていないのでこうなると困ってしまう。そんな事向こうは百も承知であり俺に対する嫌がらせであることは明らかだ。何ページかなーとぼんやり考えていると頭の中に聞きなれた言葉が響き渡る。

 

『タイダー様、117ページ後ろから3行目です』

 

『あっぱれ』

 

 俺の眷属であるソーマからの念話だ。流石にカンニングまでは許してくれないが、授業中はこれまでよく彼女に助けられてきた。席自体は離れているが念話があるので関係ない。人間の語学書なぞ悪魔にしてみれば絵本と同じような物なのですらすら読み進めていく。

 俺の態度に教諭は一瞬形容しがたい形相を浮かべるが直ぐに平静を装い澄まし顔で説明に入った。この2年で同じようなやり取りを何度もしたというのにつくづく学ばない奴である。他の授業の担当教諭は皆最初の授業から1ヶ月も経たないうちに俺に触れなくなったというのに。

 そうこうしているうちに先ほどの思考と漢文朗読の疲れからか眠気が湧いてきたので机に身を預けることにする。

 

『お休みなさいませ、タイダー様』

 

『おや……すみ』

 

 ソーマからの念話を聞きながら、意識が闇に落ちていった。 

 

 

 

「タイダー様、もうお昼休みですよ。そろそろ一度起きてくださいませ」

 

「むぅ……うむ」

 

 いつものようにソーマに声を掛けられると共に揺すられまどろみから目覚める。ソーマの言葉によると既に昼休みに入っている様で、教室内にはクラスメイトがちらほらとしか残っておらず窓の外からも学生の声が聞こえてくる。

 ふむ、うららかな春の陽気に当てられ深く眠っていたようだ。いつもなら1限目に眠り始めれば三限目には一度起きているので今日はよっぽど心地よかったらしい。

 

「今日は天気も良いので外で食事にしましょうか。こんなこともあろうかと今日はレジャーシートを持ってきています」

 

「そうしよう」

 

 笑みを浮かべ鞄から意気揚々にレジャーシートを取り出したソーマに肯定の意思を表す。別に俺は教室内でも良いのだが、ソーマがそうしたいのであれば仕方ない。こういう時に反論するとしょんぼりして凄く悲しそうな目で見つめながら俺への世話をするのだ。どうせお世話されるなら気持ち良くお世話されたいので、その辺は俺であっても配慮している。

 

「頼むぞ」

 

「はい。それではいざ出発です」

 

 レジャーシートと俺たち2人の弁当が入った鞄を肩に掛けたソーマに手を差し出し引かれるままに立ち上がり教室を後にする。 

 恐らく場所の目星は付いているのだろう。俺を先導するソーマの足取りに迷いは無い。ややあって辿り着いたのは学園敷地内の一角、庭園の様になっている広場だった。

 

「えっと、あそこの木陰が良いですね」

 

「うむ」

 

 同意を受けたソーマがレジャーシートを広げ食事の準備を始めるのを尻目にちゃんと靴を脱いでからシートの上に座り込む。履いたままだと小言を貰うのだ。座り込みぼんやりと雲の形を見ていると準備が出来たソーマに声を掛けられた。

 

「タイダー様、手をお拭きしますね」

 

「うむ」

 

 食事の前に手を清めるべく使い捨てタオルで両手を拭かれる。俺は気にしないがソーマが気にするのでされるがままだ。ソーマのほっそりとした手が俺の手の隅々まで満遍なく拭いていく。

 あったかくて柔らかい左手。

 見た目は普通なのにひんやりと硬い右手。

 そんなソーマの両手が忙しなく動くので毎度のことながらくすぐったい。

 

「よしっ、と。少々お待ち下さい」

 

 最後にソーマ自身が同じように手を清め、ここで漸く食事に入る。

 

「お待たせしました、タイダー様」

 

「うむ、いただきます」

 

「頂きます」

 

 朝と同じく俺の言葉にソーマが続く。あぐらをかいている俺とは違いちょこんと姿勢良く正座しているソーマの膝の上にはピクニックバスケットが乗っている。蓋が開けられると中には様々な具材が挟まったサンドイッチの姿が目に入ってきた。正直容器の時点で予想はしていた。付け合わせは無いが、ハムエッグやポテトサラダ、レタスとハムにチーズの他にもハムかなにかのカツ、果てはフルーツサンドという感じに具材が結構豊富なのでそもそも必要ないだろう。

 ……ハム多いな。

 

「今日は少しばかり手抜きになってしまって申し訳ありません、タイダー様」

 

「これで手抜きか」

 

 俺の眼には充分手が込んでいるように見えるのだが、ソーマの本気の弁当とは一体どのような物なのだろうか。大体2年間を共に過ごしてきた俺ではあるが見当がつかない。

 いつも美味いぞ。

 

「俺は充分すごいと思う。ハムエッグをくれ」

 

「ありがとうございます、タイダー様。……どうぞ」

 

 取り敢えずソーマの頑張りを褒めたうえでハムエッグサンドを要求する。笑みを浮かべ礼を言うソーマの手で口元に運ばれてきたサンドにかぶり付く。ふむ、塩コショウによる玉子の味付けも主張が強過ぎないで丁度良く、ハムの塩っ気と合わさり良い感じである。

 

「うむ」

 

「ご満足頂けて嬉しいです」

 

 俺の反応を見て安心したらしいソーマも自身の作ったサンドイッチに手を付ける。サンドイッチを両手で持ってもきゅもきゅ食べてる様子を見ていると、背は低くないのにどこか小動物でも見ているような気分になってくる。

 俺が食べたら次はソーマが食べて、という風に順番にサンドイッチを食べていく。俺としても連続で食べるのはきついし、ソーマとしても自分が食べる時間が必要であるのでどっちにも都合が良い。

 

「タイダー様、コーヒーはいかがですか?」

 

「飲もう」

 

 パンに口の中の水分を奪われたていることを察したソーマがコーヒーを勧めてきたので飲ませて貰う。ボトルに入っていたコーヒーをまだまだ熱めであるらしく、ソーマはわざわざ紙コップに移し息を吹きかけて少し冷ましてから俺の口元に持ってきた。その程度の熱どうってことないのだがソーマの心遣いは嬉しい。何回かに分けて少しずつ口の中に入ってきたコーヒーは飲みやすい暖かさだった。

 

 ソーマが最後のフルーツサンドを食べ終わる頃には昼休みも半分以上が過ぎていた。最後に紙コップに残ったコーヒーを流し込んで貰い食事を終える。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ご馳走さまでした。……タイダー様、もう少し休んでから教室に戻りましょうか」

 

「うむ」

 

 ゆっくりできるのならそれで良いので、ソーマの提案を受け入れる。俺はいつものんびりしているが、こうやって2人そろって静かな時間を楽しむと言うのも良いものだ。この学園を卒業して冥界に帰るまでの残り1年もこんな風に緩く過ごせれば良いのだけれど。

 

「……ふむ」

 

「どうかしましたか、タイダー様?」

 

 漏れ出た声を聞きとめたソーマが不思議そうに顔を覗き込んでくる。無駄な声を出すという俺らしくない態度に疑問を抱いたようである。

 

「何でもない」

 

「なら、良いのですが……」

 

 俺の否定の言葉にソーマは引き下がるが、どこか納得いってない様子だ。些細なことではあるが悩み事を隠しているのは確かなので少々申し訳ない気持ちになる。俺の悩み事とは、今現在問題は起きていないがこの先何か起こる可能性があるという程度の物だ。

 

 赤い龍がもう暫く大人しくしていてくれれば良いのだが。

 

 そよ風を受けて気持ちよさそうに目を細めるソーマを眺めながらそんな事を考えていた。

 

 




 
 この主人公もの食ってるシーンばっかりだよ。

 次辺りから話を進めていきます。

 2015.10.31

タイダーがソーマと2人で暮らしてきた年数を2年に修正。
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