とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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プロローグ
プロローグ セレスティ・E・クライン


「アンチスキルだ。おとなしくするじゃん」

 

 全身を学園都市製の特殊装備に身を包んだ教師達が軍人のような………いや、それ以上に洗練された動きで瞬く間にその空間を制圧した。

 

 反抗するもの。実験に使っていた子供を盾にしようとした者。研究内容を知らせないために自爆スイッチを押そうとしたものは容赦なく彼らによって撃ち殺されていく。

 

「き、貴様ら!こんなことをしていいと思っているのか! こ、ここは統括理事会が支援して作られた工場だぞ!!」

 

「ガキを物扱いしている時点でかなり許せないし、今すぐにでも撃ち殺してやりたいんだけど、一応仕事だからそれはしないじゃん。あとお前にいいことを教えてやるじゃん。ここのタレコミをしたのは統括理事会の親船最中さんじゃん。アンタたちの支援をしていた潮岸は今回の作戦に何も言ってこなかった。アンタたちは見捨てられたんじゃん」

 

「そ、そんな……!」

 

 最後まで抵抗をしていた研究員が、脱力し膝をつく。

 

「お前たちの背後関係はうちのムショでしっかり調べるじゃん。覚悟……」

 

 女性の警備員(アンチスキル)が言えたのはそこまでだった。

 

 突如として警備員が捕らえていた、研究員たちの頭が爆発し絶命したのだ。

 

「全員伏せろ!」

 

 警備員の隊長の命令に女性の警備員を含めすべての警備員が床に伏せた。

 

 しかし、数分たってもそれ以上の変化はない。

 

「口封じか……潮岸のやろー。やりやがったな」

 

 警備員の隊長の苦々しいつぶやきを聞いた後、隊員たちも悔しそうな面持ちをしながら立ち上がる。

 

「研究所をくまなく捜索しろ。可能性は薄いが何か証拠が残っているかもしれん。」

 

 警備員たちは各小隊に別れて三々五々に散っていく。

 

 その中で、女性の警備員──黄泉川愛穂は血溜まりに沈んだ研究員達を見つめてため息をつく。

 

「くそったれ。また真相は闇の中じゃん。この学園都市で何が起きているじゃん」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『研究所は押さえられたか』

 

 ここは、学園都市の窓のないビル。最硬の要塞。

 

 学園都市一安全なその場所では、直径4メートル、全長10メートルを超す巨大な強化ガラスでできた円筒があった。

 

 無数の生命維持装置のケーブルが繋がれた、その中では紅い液体が満たされ緑の手術衣を着た男が逆さまになって浮かんでいた。

 

 アレイスター・クロウリー。当代最高の魔術師にして、なんらかの理由で魔術を捨て、科学の街学園都市を作り上げた怪物がその男の正体だった。

 

『まあいい。所詮あの計画はスペアプランに過ぎない。ばれたところで計画にはなんら影響はない。ましてや、あの天才科学者──天樹建三を殺したあそこの研究員達では《人工培養技術》の確立など到底できないだろう』

 

 アレイスターはそう結論づけると、今回の件をすぐさま思考の彼方へと追いやった。

 だが彼は知らなかった。

天樹建三が、彼が思った以上の天才であったことを……。天樹建三が、アレイスターの援助を受けながらも肝心な所は知らせず、なおかつアレイスターの圧倒的情報収集力を蹴散らし、とある技術を隠し通したことを……。彼が学園都市に来る前に研究していたものと、彼の同僚であり今は故人となってしまった、エリザベート・ザイン、アルフレッド・ウィッテンと共に作り上げた驚異の技術の存在を……。

 

 

《I─ブレイン》《情報制御理論》そして《魔法士》。

 

 彼は後に、このことを知り天樹建三を失ってしまったことを激しく後悔することになる。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 黄泉川愛穂は驚愕していた。警備員の精鋭たちがたった三人の人間に蹴散らされてしまったからだ。

 

 三人のうち二人は今自分と対峙している日本人だ。いま自分の前に立っている二人は物凄く申し訳なさそうな顔で黄泉川に頭を下げていた。

 

 その背中に到底人が操れるとは思えない、紅と蒼……二振りの大剣が背負われていた。

 

「申し訳ありません。まさか警備員の方々がこれほど早くここに来るとは思っていなかったもので、うっかり猟犬部隊(ハウンド・ドッグ)あたりかと思い示威行動をとらせていただきました。」

 

「雪とりあえずこの人をあそこへと案内しよう。事情を説明しないといけない」

 

「そうね……ザイン先生もウィテン先生もいないいま、ここであの子達を育てるしかないわけだし……」

 

 白い雪のような肌をした少女は背中の紅の剣を揺らし身を翻した。

 

「ついてきてください警備員(アンチスキル)。この研究所の正体をお見せしましょう」

 

 黄泉川は正直かなり迷ったが後ろを蒼い剣を持った青年に押さえられているため逃げるという事は出来なかった。

 

 少女に続いて慎重歩を進める黄泉川に続き青年も歩みを進める。

 

 そして、黄泉川はたどり着いた。

 

「なんじゃん、これは……」

 

「人工培養装置ですよ。人間のね……」

 

 そこには羊水に満たされた無数のガラスの円筒と、その中で眠っている十五才前後の少年少女たちがいた。

 

「来たわね。祐一、雪」

 

 信じられないそのおぞましい光景を見つめて呆然とする黄泉川。そんな彼女の様子など知ったことではないといわんばかりの態度で、この部屋にたたずみ足元に二人の警備員(アンチスキル)を転がしていた女性が話しかけてくる。

 

「レノア………彼らは?」

 

「問題なし……。どうやら真昼や月夜が頑張ってくれていたみたいね。流石は天樹建三の子供と言ったところかしら」

 

 レノアと呼ばれた女性が苦笑混じりに指差した先には、見た目がそっくりな白衣を着た少年少女が眠っていた。

 

「人の人工培養……本当に成功していたんじゃん」

 

 クローン技術が発達している現在だが、全く何もないところから新しい人を作る技術は未だに確立されてはいなかった。だからこそ、黄泉川はこれほどまでに驚愕したのだ。

 

「一体……どんな天才がここにいたんじゃん」

 

「ただの科学オタクがいただけですよ」

 

 雪はそういって少しだけ笑った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時は流れて、

 

 輝き流れる美しい金髪。海のような青い瞳。《学舎の園》ですら珍しい外国人の美少女が途方にくれた様子で、地図と睨めっこしていた。

 

 少女は暫くしたら携帯を取出し、少しの間葛藤して、名案を思いついたとばかりに携帯の通信ボタンを押した。

 

『はい、黒沢です』

 

「ゆ、祐一さん? セレスティです」

 

『セラ? どうしたんだ。常盤台に行ったのでは?』

 

「そ、それが、道に迷ってしまって…………」

 

『だとしたら、雪かレノアに電話をかけたらいいだろう。あの二人は常盤台大学の卒業生だから、常盤台中学の場所も知っているぞ』

 

「えっと……私、お母さんに1人で行けるって言っちゃって……。行けなかったら下宿はさせないって言われているんです……」

 

『なるほどな』

 

 電話越しに聞こえる渋い声に、若干の苦笑と優しさが加わる。

 

 やっぱり祐一さんはお父さんみたいです。

 

 少女がそんなことを考えていたとき、少女の携帯にデータとアプリが送られてきた。常盤台への道筋の地図と、それをオートで案内してくれるアプリだ。

 

「ありがとうです、祐一さん!」

 

『いや。大したことはしていない。それよりも、いま常盤台では能力測定をしているようだから、プールには近づくんじゃないぞ』

 

「能力測定ですか?」

 

 プールでの測定ということは……水流制御系の能力でしょうか?

 

少女が首をかしげた時だった!

 

《高密度AIM拡散力場を感知。危険度・低》

 

 脳内に展開された複数の窓の一つに一瞬だけ文字が浮かんだ。そして……。

 

 突如、隣の敷地からとんでもない轟音が響き渡り、天空に凄まじい量の水を跳ね上げた。

 

 祐一さんが言っていたのはこのことだったのですね。

 

 少女がのんびりとそんなことを考えているのは、突然発生した異常事態に思考がついていかなかったためだ。

 

 結果……。

 

 少女は盛大に頭から水をかぶり濡れ鼠になってしまった。

 

 そして、少女は幾つかのことについて覚る。

 

 自分が意外と正解に近い場所にいたのだということと、制服での登校は諦めたほうがいいということ……そして、

 

「携帯……壊れちゃいました」

 

 少女はそう言って大きくため息をついた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「うっそ、黒子のとこまで聞こえていたの?」

 

「ものすごい音でしたもの。皆驚いていましたわ」

 

 常盤台中学、シャワールーム。《帰様の浴院》。そこにいる二人の少女はそんなことを言いながらシャワーをあびていた。

 

 一人は常盤台中学一年生。レベル4の瞬間移動能力者(テレポーター)・白井黒子。

 風紀委員(ジャッジメント)に所属している常盤台を代表する能力者の一人だ。

 

 対するもう一人は……学園都市に8人しかいない、レベル5。そのうち三番目に強力とされる電撃使い。《超電磁砲(レールガン)》御坂美琴。

 

 常盤台代表どころか世界に代表できるほどの、最強の超能力者の一人。

 

「あと、おもしろそうなのが……転入生がくるらしいですわ」

 

「転入生? この時期に!?」

 

 季節は夏真っ盛り。当然夏休みも目前で、授業も殆ど無くなってしまっている。

 

「なんでも最近能力に目覚めた強力な能力者のようで、能力の制御が甘いらしいですわ。だから、常盤台に編入させて能力の制御方法をおしえるそうですわ」

 

「なるほどねー」

 

 黒子の説明に美琴は納得したようにつぶやきながら、隣室に気付かれないように静かにシャワールームから出る。

 

瞬間。

 

 突如いままで美琴がいたシャワーのまえに出現した黒子の頭をはたき、美琴はさっさとシャワールームを離れた。

 

「うう………お姉さま! なんだか最近黒子に対する扱いが雑ですわ!」

 

「あんたが変質的行為に及ぶからでしょうが!」

 

 髪をゴシゴシと雑に拭いていく美琴をみて黒子は頬を膨らませる。そして、フシャーと猫のように怒り狂う美琴からタオルを奪い取ると、彼女の髪を優しく丁寧に拭きはじめた。

 

「まったく、お姉様は……髪は女の命ですのよ。それをあんなに雑に扱ってはいけませんわ!」

 

「え、ああ、ごめん」

 

 珍しく普通に注意されてしまい、美琴は思わず謝ってしまう。そして、くそっ……地味に正論じゃないの。内心で悔しがりながらも、黒子の今回の言い分は正しかったので、なすがままにされていた。

 

《クフフフフフフフ! お姉様はギャグパートとシリアスパートをしっかり分けられるからいいですわぁ〜。こんな至近距離でお風呂上がりのお姉様の匂いを嗅げるなんて、黒子は…………黒子はぁああああああ!》

 

 明らかに邪悪なことを考えている黒子の内心には気付かず美琴は黙っている。

 

《も、もう我慢できませんわ! 後でお仕置きを食らうでしょうけど、欲には勝てませんもの!》

 

 宗教関係者がいたら涙を流して、神に許しをこうだろうが、あいにくここは科学が支配する街、学園都市だ。

 

 黒子が事故に見せ掛けて美琴の胸にジワジワと手を伸ばしはじめたとき!

 

 

 

「え……………!」

 

「「は………………。」」

 

 帰様の浴院になぜかずぶ濡れになった外国人の少女が入ってきた。

 

 当然、彼女の目には胸に卑猥な動きをする手を伸ばしている黒子と、それを黙認している美琴という図式にこの光景は解釈されるわけで……。

 

「し、失礼しました!」

 

「ちょ、どうしたのいきなり踵を帰して! は!? まさか黒子あんた!!」

 

「ここまできてお預けはないですわ! お姉様ぁああああああああああああ!」

 

「やっぱりかぁあああああ!」

 

 帰様の浴院更衣室に、電撃がはしったのはいうまでもないだろう。

 

 

 

…†…†…†…†…†…

 

 

 

「はぁ? つまり私達に新しい編入生の学院案内をまかせたいと言うことですわね、寮官様」

 

「その通りだ、白井」

 

 メタルフレームの眼鏡をかけ、全身から覇王色の覇気のようなものがにじみ出ている、女性の前で黒子と美琴は軍人のような直立不動体勢で話を聞いていた。

 

 御坂美琴をはじめ、単体で戦車すら迎撃する高レベルの能力者の多いエリートお嬢様学校。そこの風紀を能力も使わずに、拳と格闘技だけで守護する怪物がいた!

 

 常盤台の生徒が寝泊りをする寮を管理する、その名も……RYOUKAN!!

 

 生きるターミネーターと恐れられる彼女には、性癖に問題がある黒子はもちろん、わりとやっかい事に自分から首を突っ込んでしまう質の美琴も何度か折檻を食らっていた。

 

 そのため、二人ともこの寮官にはなかなか頭があがらないのだ。

 

「私、ジャッジメントの仕事があるので途中でいなくなる可能性が高いのですけど……」

 

「かまわん」

 

「私も特に用事もないですし……いいですよ」

 

 本当はここ最近、どうしても勝ちたい奴がいてそいつに喧嘩を吹っかけるために、学園都市を歩き回っている美琴。だが個人の事情な上に理由が《喧嘩をするため》なので、この寮官に知られると、冗談ではなく首をへし折られる可能性が高いので自重する。

 

「よし。常盤台の先輩として二人とも編入生を幻滅させないように。とくに白井……お前は言動に細心の注意を払え」

 

「寮官様……確かに私の趣味は褒められたものではありませんが、それ故に初対面の方にそのような姿をさらすことはありませんわ」

 

「自覚があるならなおせ……」

 

 かなり呆れた表情をしながら、

 

「よし、では入ってこい。セレスティ・E・クライン」

 

 寮官に言われて入ってきたのは、

 

「あ、あなたは!」

 

「ゲッ!」

 

 なぜかジャージを着て立っている、先程の美琴と黒子の過激なスキンシップを目撃してしまった少女だった。

 

「なんだ……白井、知り合いか?」

 

「え、いや……その……」

 

「えっと……そっち方面の人ですよね……だったら私は遠慮したいです!」

 

 はっきりと物を言い過ぎのような気がするが、初めての下宿生活が始まる前にあんなショッキングな光景をみてしまったのだ。テンパるなと言うほうが逆に無理だろう。

 

 当然、寮官にとってはさっきの台詞だけで判断材料は十分なわけで、

 

「白井……」

 

「は、ハイィイイイイイイイイイ!」

 

「事情を話せとはいわん。むしろもう話すな」

 

 寮官はそれだけ言うと、テレポーターも真っ青な速度で黒子の背後に移動し、両腕で、頭をがっちりロック。技術によって黒子の頭をおかしな方向にねじ曲げ意識を刈り取る!!

 

「く、黒子ぉオオオオオオオ!」

 

 寮官がどうでもいいとばかり床に投げ捨てた後輩を見ながら、美琴は悲鳴をあげる。

 

「御坂美琴」

 

「は、はい」

 

「白井が暴走をした時は……しっかり」

 

「はい、ちゃんと止めます」

 

 こうして、常盤台にはまた新しい生徒が入ってきたのだった!

 

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