「もうほんとすごかったんだよ!! 弾丸みたいな速度で飛ぶ鉄骨を走りながら紙一重でよけまくって!! おまけに、あの光を操るラスボスの、正確な位置を気配で察知して平然となぐりつけた時のかっこよさったらもう!!」
「あぁ、もう。はいはい、わかりましたから佐天さん……。それで、このレベルアッパーはどこで手に入れたんですか?」
後日。結局風紀委員に出頭した涙子は、おとなしくレベルアッパーが入ったウォークマンを初春に提出。風紀委員に支部にて取り調べを受けていた。
「それにしても、そんな武術の達人がいらっしゃるなんて……学園都市もまだまだ広いですわね」
「そうね……。私もちょっとその人に会ってみたいかな~。そうしたら、あのいけ好かないうに頭に勝てるかも……」
そんな初春と佐天の取り調べ情景を、横目で見ていた美琴と黒子。当然美琴は精神系の能力者でもなければ他人の思考を読めるわけでもないので、涙子が話している人物が、実は自分がよく知る錬のことだとは気付かない。
そんな事情で幸か不幸か、佐天の自慢話は風紀委員内では流されてしまい……。
「ところで、白井さん御坂さん。それ何かわかりました?」
「さっぱりですの……。誰かの脳波ということは分かっているんですが……。現在学園都市の脳波バンクに協力を要請しているのですが……あそこは医療機関専用のデータベースですので、専門医の許可がないと立ち入らせてもらえないんですのよね……」
「いま協力してくれるお医者さんを探している段階みたい」
「木山先生に話を聞いたらいいじゃないですか?」
「あちらは医者というより学者色が強い方ですから。情報開示を行うとなるとそれ相応の手続きが必要なんだそうです。一週間ほど……」
「うわっ、それは……」
――現代書類社会の弊害ですね……。と、わずかに呆れをにじませる涙子との言葉に、美琴と黒子は同意を示すため息を同時に漏らした。
どうやら捜査は完全に行き詰り、停滞状況に移ってしまったらしい。
あとは、方々へ駆けまわってくださっているディー先輩や固法先輩の結果待ちですけど……。何か進展はあったのでしょうか? と、黒子が悪あがきをせんばかりにレベルアッパーが上がっているサイトをたたいていた時だった、
Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!! と、黒子と初春の席にあった風紀委員用の電話が同時に鳴り響く。
「「はい、もしもし、風紀委員第177支部です!!」」
一般人からの通報かもしれないので、営業用の声で電話に出る初春と黒子。そんな二人の様子に「ちゃんと仕事はしているんだ……」と、普段の様子からまったくそんな姿を想像していなかった民間協力者二名はとても驚いた様子で二人の豹変具合を見ていた。だが、
「え!? 本当ですか、固法先輩!!」
「あ、ありがとうございます! 木山先生!!」
二人が告げた二名の名前に、佐天と美琴はようやく事件解決に糸口がつかめたことを悟った。
「固法先輩から電話ですわ。脳波バンクのアクセスを許可してくれる医者が見つかったと!」
「木山先生からです!! レベルアッパーの秘密がわかった。ぜひともこっちに来てくださいとのことです」
それぞれ電話の内容を報告しあいながら、制服に腕章をつけ立ち上がる二人。
「初春、木山先生のほうは任せますの。お姉さまは私と一緒に病院のほうへ!」
「佐天さんはここで待っていてくださいね? まだ事情聴取終わっていないんですから!!」
「え~!? 私も行きたい~!!」
「だめです!!」
レベル5の美琴ならともかく、さすがに一般人かつレベル0の佐天を事件に巻き込むのは警察組織である
そんな三人の背中をふくれっ面をしながら見送った佐天は、
「もう……いってらっしゃい」
やっぱりあの人たちはすごいな……。と、再認識し、自分も早くああなりたいという気持ちを強くするのだった。
…†…†…………†…†…
木山春生は、薄暗い研究室の中パソコンの前でゆったりとコーヒーを飲んでいた。だが、そのパソコンの画面に映っているのは不吉な赤文字で書かれた画面。
《WARNING!! 全データ消去中》の、パソコンにとっての死を意味するウィンドウ。そんなウィンドウを平然と見つめながら、木山は独白をするかのように一枚の研究論文を取り出した。
決して世に出ることがなかった、とある机上の空論を作り続けた天才大脳生理学者。彼女の死後、彼女のもう一人の弟子であったリチャード・ペンウッドに形見分けしてもらった、大切な品。
その論文のタイトルはこう書かれていた。《脳波同調生物の並列接続によって行う、超高速演算コンピューターの実現性について》と。
その論文の最終的結論は
《結果、約一万人以上の人間の脳波を合わせて並列接続することによって学園都市の
だが、物理的に接点がない人間同士を同時接続するための媒介エネルギーは、接続する人間から確保しなくてはならないことが判明。
人間が放つ生体電気を使用することも検証してみたが、あまりに微弱すぎて出力不足であることが早期段階で判明。よって、人間同士を接続し演算コンピューター化することは実質不可能であることが確定したため、この実験考察を凍結する》となっている。
――だが、この学園とでは違う。と、木山は少しだけ自分が自分の師匠――エリザベート・ザイン以上の結果を残していることを、自慢げに思いながらそう内心でもらす。
――この学園都市は、人間同士を接続して余りあるエネルギーが満ち溢れている。――AIM拡散力場という力が。この力を使い、脳波を合わせた人間同士を並列接続すれば、
「あの子たちを助ける力になるっ!!」
だから、
「邪魔はさせないよ……。ディー君」
――風紀委員がかなり早い段階であの音楽の正体が脳波だと気付いたのは意外だったが、昨日ちょうど一万人目のレベルアッパー被害者が病院に運び込まれたのを確認した。こういった情報がすぐに入るのを考えると、案外彼らに早いうちから接触できたのは行幸だったのかもしれないな……。と、木山はひとり呟きながら、完全にブラックアウトしてしまったパソコンを見つめた。
そして、
「木山先生! 風紀委員から来た初春です!!」
「……今あけるよ」
ドアの向こうから聞こえてきたかわいらしい少女の声に、微笑みを取り繕いながら木山は背中に待機状態にしてあるスタンガンを隠す。
――とはいえ、これ以上のごまかしはもう通じないだろう。だったらせめて、あの子たちを助けるための演算が終わるまでの時間を稼がせてもらう。と、覚悟を決めた彼女は、
「よく来てくれた。さぁ、入ってくれ」
「はい!」
油断しきっている風紀委員の少女に向かって、情け容赦なくそのスタンガンを当て、電流を流し込む!!
…†…†…………†…†…
「あぁ? どないしたんやジジイ? 珍しく学生に囲まれたりなんかして。にあわへんで?」
「イリュージョン。君は少し自分の先生というものに敬意を払うべきだと思うけどね」
「やかましいわナースフェチ。セクハラ訴えられて死ね」
「だまらないかシスターフェチ。天罰くらってくたばれ」
イリュージョン・N・ファクトリーは、自分の上司であるカエル顔の医者に頼まれた研究資料をダンボールいっぱいに詰めて持ち込みながら、数分前と比べてすっかり華やかさが増していた研究室に思わず目を見開いた。
そこには女子高生二人と、女子中学生二人という美少女四人がいつの間にか姿を現していて、
「って、あの……イルさん。僕男」
「……お前はほんまになんで、性別逆で生まれてこーへんかったんやろうな……。怨むでウィッテン」
「変なところで恨まないでください……」
と、いつもの冗談交じりの戯言で寮の同居人をからかうイル。そんな彼の弟分であり、彼と連絡を取ってカエル顔の医者につなぎを取ってもらったディーは、いつも浮かべている優しい笑みを盛大にひきつらせながら、とりあえずいつものように釘を刺しておく。
「んで、だれの脳波かわかったんかいな? その珍妙な音楽?」
「あぁ。脳波自体のデータはすでにディー君とやらが組み上げていてくれたからね。あとはそれを入れてバンクに検索をかけるだけだから……って、君ほんとに男かい?」
「泣いていいですか先生?」
割と真剣に信じられないといわんばかりの顔で聞いてくるカエル顔の医者に、本気で泣きそうになるディー。そんな彼を背中でかばいながら、固法が額に青筋を浮かべつつきつい口調で再度尋ねる。
「で? 先生……いったい誰の脳波だったんですかっ!!」
「あぁ、それなんだけどね」
そんな女子高生の怒りあふれる視線を平然と受け流しながら、カエル顔の医者は二、三度キーボードのキーをたたき、
「彼女だよ。以前君たちの協力をしにこの病院に来ていた……」
「っ!?」
そうして、カエル顔の医者のパソコンの画面に出てきた名前に、顔から血の気を引かせて風紀委員勢が絶句する。
「これはっ!?」
「木山……春生!?」
「だれやそれ?」
「エリザベートさんの葬儀に出ていたでしょ!?」
「俺そん時、家出中やったやろうが……」
と、イルが首をかしげた瞬間、
『全
突如無線に入った信じられない情報に、固法は思わず頭を抱え、
「固法先輩!! 先に現場行っています!!」
「行くわよ黒子!!」
「僕も連れて行ってくれないか!」
「え、ちょちょっと!?」
美琴、黒子、ディーの三人は瞬時に現場へ向かう判断を下した。
「美偉は警備員と合流して、連携取り合って! 僕たちへ指示をインカムで頼む!!」
それだけ言うと黒子のテレポートによって、美琴もろとも消えるディーに呆然とする固法。そんな彼らの姿を見ていたイルは、
「あぁ? なんや大変なことになっとんな……」
とりあえず真昼のやつに一報入れとこか? と、寮の裏の管理人である青年に電話をかけるため、院内に設置されている携帯電話使用可能区画へと歩き出した。
…†…†…………†…†…
そして事態は動きだし、
「敵はひとりとはいえ人質をもっているじゃん! 不用意な接敵は避けて、できるだけ交渉で時間を稼ぐじゃん!! いざとなったら狙撃手班!! 理解してるじゃん――レノア!?」
「はい、黄泉川先輩!!」
「でも、まさかあの子がね……。ちなみに《魔法》の使用許可はまだ出ていませんから、私たちは一般の警備員と変わりませんからね、黄泉川先輩」
「わかっているじゃん。だいいち、ガキひとり守るのにそんなたいそうな力を振るわないけないような、軟な鍛え方はしてないじゃん!!」
警備員は木山を止めるため道路に厳戒態勢を敷き、
「犯人……みつかった?」
「おう。なんでもディーが大捕り物始めるらしいぜ? あ、そこのスパナとってくれ!! ………………………エド?」
よく遊んでくれた
「初春さんが!?」
『でも安心しなさい。あの子は私たちが絶対助けるから……だからセラはそこで待って――!!』
光使いの少女は、母の言うことも聞かずただ友人のことが心配で自分が住んでいる寮を飛び出した。
事態は動きだす。動き出してしまう……そして、
窓のないビルの最奥にて……ガラス筒の中に逆さまのまま浮いているニンゲン――アレイスター・クロウリーはそれを見て小さく笑う。
『ようやく、動き出すか』
そして、
『天樹健三……お前の遺産の力、見せてもらおう』
不気味に、不吉に……そう漏らした。
今日はここまで