とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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悪魔使いVS聖人

神裂火織は困惑していた。

 

――私は……いったい何をしている? と。

 

 その疑問は心の奥底にしまい続け、無視してきた疑問。ある少女を救うと決めてから、決して見ないようにしてきた彼女の心の闇。それが、現在打倒してしまった学園都市のつんつん頭の少年の怒号によって、呼びさまされてしまった。

 

――私はいったい何をしている? もちろん、インデックスを救うために全力を尽くしている。

 

――違う。実際私がしていることはなんだ? 彼女の記憶を消しとばし、彼女が宝石のように大事にしていた思い出を、どぶに捨てる行為だ。だが、

 

――死ぬよりかはましだと。

 

――つくづく最低な行いだ。はたから見れば吐き気がするだろう……この少年が怒り狂い、自分に説教を垂れたのもわかる。だが、

 

「だったら……どうすればいいというのですか!!」

 

 これ以上の最善の解なんて自分は知らない。自分が施せるあらゆる魔術を、あらゆる力を彼女に与えはしたものの、それでも彼女の絶望を切り払うには至らなかった。

 

――だから、こうするしかないんです。いくら理想を叫んだからと言って、インデックスが救えるわけでは……!!

 

 神裂がそう考えた瞬間だった、

 

「なん……で!?」

 

「あ……」

 

 彼女と少年――上条当麻が戦った激闘の場に、一人の少年が入り込んできた。どこにでもいるような黒目黒髪の普通の少年。

 

――どうして!? ステイルの人払いのルーンは!?

 

 と、同僚の圧倒的技量を信じていたがゆえに、決してありえないと思われたイレギュラーに神裂は困惑する。

 

 そして、

 

「な……にしているんだ……。僕の友達に……何をしているんだっ!!」

 

 当麻の姿を見て激怒し襲いかかってきた少年の言葉を聞き、神裂はさらに目を見開く。

 

「この少年の友人ですか!?」

 

 この際人払いを無視したことは放置で構わない。問題なのはいかにこの少年を無力化するかだ!

 

「あなたも、この少年に協力してインデックスのことを!?」

 

「インデックス!? 何の話だ!! どれだけ重要な索引か知らないけど、まさかそれのために当麻を傷つけたなんてぬかさないよな!!」

 

 怒号交じりにこちらに殴り掛かってくる少年の言葉を聞き、神裂はさらに眉をしかめる。

 

――この少年……完全にただの部外者か!?

 

 こうなってくるとこの少年の扱いは難しい。

 

 学園都市の庇護下にある一般生徒を、魔術師が戦闘で重傷を負わせるわけにはいかないし、何よりそんな事神裂自身の良心が許さない。

 

 だから彼女は選択する。

 

「七閃!!」

 

 視認することすら難しい極細にして強靭なワイヤーによる斬撃。彼女の技術によって神速の速さを得たそれを、彼女は地面にたたきつける!

 

「っ!?」

 

 爆散するアスファルトが、散弾のような勢いを持って少年の襲い掛かり、その姿を土煙で覆い隠す。

 

――これで気絶ぐらいはしたでしょう。

 

 土煙によって完全に姿を隠された少年の安否を気にしながらも、ただの学生であるならば意識を失っていると確信する神裂。だが、彼女は失念していた。

 

 当麻との戦いが、戦闘に関して言えばあまりにあっさり終わってしまっていたので、失念していた。

 

 この町は……異能を操る学生の街だと。

 

「っ!?」

 

 油断しワイヤーを巻き戻していた神裂のほほを、淡青色の氷の槍がかすめることによって、神裂はそのことを思い出す。

 

「何余裕綽々に戦闘態勢解除しているのさ」

 

「!?」

 

 そこには、自分の周囲に先ほどの槍と同じような淡青色の氷の盾を展開した、無傷の少年が佇んでいた!

 

「僕の友達を傷つけておいて、まさかこの程度で終わりだなって思っていないよね?」

 

 怒りに燃えた瞳を見せながら、少年は常人では考えられないほどの速さで神裂に向かって襲い掛かる!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【運動係数制御デーモン《ラグランジュ》、分子運動制御デーモン《マクスウェル》常駐。短期未来予測デーモン《ラプラス》強制終了】

 

 脳裏にひらめく無数の窓を情報サイドの自分に片っ端に処理させながら、錬は女――神裂火織に向かって疾走する。

 

――この人、早い。当麻が勝てないわけだ!

 

 血まみれになって倒れ伏す当麻の姿を視界にとらえ激情にかられながらも、錬はどこか冷静な思考で神裂の戦力を見極める。

 

 ラグランジュの力によって錬の視界は現在、通常の運動速度の五倍という処理速度を有している。だというのに、彼女がアスファルトを粉砕したとき、いったい何がされたのか錬にはさっぱり理解できなかった。

 

 神裂の攻撃速度が錬の知覚速度を上回ったからだ。とはいえ、その体からは何らかの能力を使っているような雰囲気は感じられない。

 

 なにより先ほどからIブレインが告げてくる警告文は《高密度AIM拡散力場を感知》ではなく、

 

『高密度魔力反応を感知。危険度・大』

 

「っ!!」

 

 この理解不能な力が発生しているという警告と、敵の一撃一撃が致命に至るという警告だけ。

 

「やりづらい……いったい何者なんだ!?」

 

 とはいえ、引くつもりはない。どんな理由があれ、当麻をあれだけズタボロにした相手に背を向けるなど、錬自身が許せない。

 

 だから錬は、必死に自分の力をふるい神裂に食らいつく。

 

 それが魔術師たちから見ればいったいどれだけ無謀なことかも知らず、科学の悪魔を使う少年は、魔術の核弾頭である聖人に挑む!

 

【エントロピー制御開始。『氷槍檻』起動】

 

 錬の能力によって熱量を奪われた窒素が、槍の形となり結晶化する。

 

 その威力はその辺の拳銃ごと気なら軽々と凌駕し、鉄板程度なら簡単に貫く氷の凶器。錬は能力を使いその槍を複数生成。神裂の周囲360度――全方位を取り巻く形で生み出し設置する。

 

――氷の槍の全方位攻撃。これに反応して対処できる人は限られてくるけど……。

 

 彼女がもしも対応するなら、錬の神裂に対する警戒度は一気に跳ね上がる。

 

 そしてその警戒は、

 

「七閃!」

 

 現実となった。

 

 翻る、無数の見えない攻撃が、錬の生み出した氷の槍たちを引き裂き分断。切断し尽くす。

 

 それによって砕け散る窒素結晶たちを舌打ち交じりに見ながら、錬は動くことをやめない。

 

 この速度で動く敵を相手に立ち止まるなど、自殺行為以外の何物でもないと、彼女以上の速度で動き回る騎士たちと模擬戦をしたことがある錬は知っていたからだ。

 

 だから錬は止まらない。前進を続ける!!

 

【知覚速度を20に再定義。情報視覚拡張デーモン《ガリレオ》常駐。マクスウェル強制終了】

 

――今はあの正体不明の攻撃の正体を見切ることが先決。そう判断した錬は、観察に特化したクレアの能力の展開と、知覚速度を20倍にまで引き上げる能力を同時展開。神裂の攻撃の正体を見破る。

 

「っ!? ワイヤー!?」

 

「気づきましたか……そこの少年は二度この攻撃をその身に受けてようやく気づいたというのに」

 

 神裂のその言葉に更なる怒りを燃やしながら、錬は冷静に敵の攻撃を見つめる。

 

 攻撃の起点は彼女が手に持つ到底人間に扱いきれると思えない長大な刀。そこの鞘から漏れる、長い長い視認が難しい細身のワイヤーだった。

 

 普通ならそんな武器、あんな手荒な扱い方をすれば壊れそうなものだが、そこは彼女の技量と先ほどからIブレインが警告する魔力とやらで補助しているのだろう。

 

 とにかく、その斬撃は十分脅威たりえる。

 

 だが、

 

「物理攻撃だってわかったんなら、やり方はいくらでもある!」

 

 錬はその事実にわずかばかりの笑みを浮かべながら、疾走を続行。通常の五倍の速度で動く錬はそれなりの速度ではあったが、

 

「七閃」

 

 やはり、神裂の斬撃には及ばない。

 

 20倍に引き伸ばされた視界のなかでなお、早く動く神裂の斬撃。その事実に思わず冷や汗を流しながら、錬は情報サイドの自分に命令を送らせる。

 

【分子運動制御デーモン《マクスウェル》、論理回路生成デーモン《ファイマン》常駐。《ラグランジュ》《ガリレオ》強制終了】

 

 脳裏に翻るプロトコルを認識した瞬間、錬は指を構え、

 

「いけっ!!」

 

 一気に速度が現実へと戻り、錬では到底認識できないほどの速度で襲い掛かってくるワイヤーに向かって、フィンガースナップ。

 

 その音によって動かされた空気分子が、その運動によっていくつかの空気分子の動きに介入する。

 

 そしておこったバタフライ効果によって、空気分子たちは次々と連鎖反応を起こしあるものを形作った。

 

 情報世界に介入し、触れた物質すべてに《情報解体》を行う、手のひら大の論理回路!!

 

 そして、その論理回路にワイヤーがふれた瞬間、

 

「っ!?」

 

 神裂は突然の手ごたえの違和感に目を見開いた。

 

 それはそうだろう。

 

 なぜなら必殺の速度で錬を打ち据えるはずだったワイヤーたちが、まるで見えない攻撃にあったかのようの途中で寸断。その勢いと斬撃威力を失い、まるでそこら辺の毛糸か何かのような情けなく中に散った!

 

 唖然とする神裂をしり目に、空気中で分子単位まで分解されたワイヤーが、再び鉄の塊へと再結晶する空間を引き裂き、

 

「っ!」

 

「とりあえず……一発だけは殴らせてもらう!!」

 

 神裂への距離を一気につめた錬は、さながら当麻が乗り移った如く、強力な右ストレートを神裂の顔へと叩き込んだ!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【電磁場制御《ハインリヒ》起動。ファイマン強制終了。電磁場制御開始。《払之太刀》起動】

 

――いわゆる拳のスタンガン。無数の青白い放電をまとった自分の拳が、神裂をとらえ打ち据えるのを確認した錬は、小さくため息を漏らしながらばたりと倒れる神裂を見つめた。

 

――あの剣戟やワイヤーの扱いをみるかぎり、体のほうはかなり頑丈そうだったから、象を感電死させるくらいの電流を流しこんだんだけど。

 

 結果彼女は死んでいない。気を失ってはいるようだが、口元や胸の上下運動からちゃんと呼吸が継続していることが確認できた。

 

「自分の判断が正しかったと取るべきか、これ食らっても死んでないことにおののくべきか……判断に困るね」

 

――本格的に桜姉さんにこの能力の使い方習おうかな……。と、内心で愚痴をもらしながら、錬は傷だらけのまま倒れ伏す当麻に駆け寄った。

 

「大丈夫当麻! まったく、君はまた厄介ごとに首を突っ込んだな!? なんだってあんな君の天敵みたいな相手とバトルしてるの!?」

 

 そんな錬の怒声に反応したのか、

 

「う……ぁ」

 

 とうめき声をあげる当麻。だがしかし、その言葉をまともな意味をなさない。どうやら、当麻のけがは思った以上に深刻らしい。

 

「くそ……とりあえず病院に行ったほうがベストなんだけど、当麻が絡まれている厄介ごとの内容次第じゃ、それ自体がアウトになることもあるし……当麻! せめて今どこの連れて行ったほしいのか教えてくれ!!」

 

――本当に、厄介の友人をもったものだと、眉をしかめながら、それでも錬は当麻を助けることをあきらめなかった。

 

 そんな彼の呼びかけが功を奏したのか、

 

「あ……月……詠」

 

「!? 小萌先生のところにかくまってもらってるの!?」

 

 いろいろと問題があるような気がしないでもないチョイスだったが、それも何か理由があるのだろうと自己完結。

 

 とりあえず錬は傷だらけの当麻を担ぎ上げ、その場を後にしようとした。

 

 だが、

 

「まち……なさい」

 

「!?」

 

 背後からかけられた声に、錬は思わず目を見開く。

 

 そこには、頭を振りながらもなんとか立ち上がりつつある神裂の姿が。

 

「う、うそでしょ!? あの量の電撃くらってなんで立てるのさ!?」

 

「そ、そのひとは……」

 

 おののく錬をしり目に、何かを言おうとする神裂。

 

 だがその瞬間、

 

「錬さん!」

 

「え!?」

 

 突如空から聞こえてきた声に、錬は眼を見開き、空を見上げる。

 

 そこには、純白の二枚の翼を広げた見覚えのある一人の少女がいた。

 

「て、天使!?」

 

 その姿に度肝を抜かれたのか、唖然と口をあける神裂。だが、錬はそれとは真逆に彼女の姿を見てほっと安堵の息を漏らす。

 

――あぁ、フィアが来てくれたならまだ何とかなる! と。

 

 そして、その思考を読み取りでもしたのか、驚く神裂は一切無視して少女――フィアは一直線に錬のもとへとやってきて、

 

「事情は分かりませんけど、とにかく行きましょう! 上条さんすごい怪我じゃないですか!」

 

「ごめんフィア。恩に着る!!」

 

 そう告げた瞬間、傷だらけの当麻を担いだ錬とともに宙へと浮上。神裂の手から逃れるためにかなりの速さで錬たちを引き連れ飛翔を開始した。

 

「なっ!? まち……」

 

 神裂が何か言おうとしていたが、聞いている余裕はない。

 

 ぎりぎり勝ちを拾えた相手とはいえ、そう何度も戦いたいとは錬自身も思わないのだから。彼女はそれほど規格外だった。もしここで捕まったりなどしたら、次子と当麻の二の舞になるとも限らないのだ。

 

「助かったよフィア……でも、どうしてこんなところに?」

 

「れ、錬さんがいつまでたっても帰ってこないから……それで、心配で」

 

「あ……あぁ……ご、ごめんね」

 

 もう泣きそうな顔でこちらを見つめてくるフィアの顔に、もすごい罪悪感を感じ思わず目をそらす錬。

 

 だがそんな錬に苦笑を浮かべながらもフィアは「いいですよ……今回は事情もあったみたいですし」と、笑って許してくれた。そして、

 

「でも上条さんがそんなことになるなんて……いったいあの人はなんだったんでしょう」

 

「わからない。いろいろ調べる必要がありそうだけど、まずは当麻を安全なところに運ばないと。フィア……小萌先生のところまでお願いできる。当麻は今そこでいろいろお世話になっているらしいから」

 

 その錬の言葉にフィアは小さくうなずき、飛行するルートを修正する。

 

 魔法士たちの少年少女はこうして、とうとう魔術の世界へと首を突っ込んでしまった。

 

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