とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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空間制御能力者

 それから少しして、常盤台からバス停に通じる通学路で、白井黒子は首のあたりを撫でながら呻き声をもらしていた。

 

「まったくあのターミネーター……。筋を痛めたらどうしてくれますの?」

 

 黒子の能力のテレポートは演算がひどく複雑なため、痛みや体の違和感などによって能力発動の演算が阻害されやすい。そのため、黒子は普段から痛みや違和感には細心の注意をはらっている。露出の多い、布面積の少ない下着を着るのも実はこれが理由だったりする(もっとも、自分の趣味であることも否定しないようだが)。

 

「あの……何かすいません。私のせいで……」

 

「いいのよ、いいのよ。全部黒子が悪いんだからセレスティちゃんが気にする必要はないわ」

 

 転校初日から先輩の首がおかしな方向にねじ曲げられたセレスティは顔を真っ青にして黒子に謝っていたが、それを美琴は笑い飛ばしながら背中を叩く。

 

「お姉さま……酷いですわ! 黒子があんなに傷ついたのに……」

 

「そうね……肉体的ダメージが特に」

 

「あれは本当に人類ですの? テレポーターの私の後ろをとるなんて本来なら考えられませんわ……」

 

「あ、あの……先輩方?」

 

 ターミネーター寮官の顔を思い出しガタガタと震えるレベル5とレベル4を見て、セレスティは少し困っていた。

 

「ああ、ごめんなさい。学校の案内だったわよね?」

 

「お姉さま、その前に自己紹介ですわ」

 

「ああ、そうか。ごめんね、いきなり話進めちゃって」

 

「い、いえ! 気にしていないです!!」

 

 美琴は黒子の指摘を受け、苦笑しながらセレスティに謝った。

 

 

「私の名前は御坂美琴。常盤台中学の二年生。んでこっちが……」

 

「白井黒子ですわ。アナタと同じ一年ですので敬語はやめてくださいな。あと、わたくしは風紀委員会(ジャッジメント)に所属していますの。困ったことがあったらいつでもおっしゃってください」

 

 気さくに自己紹介をした二人をみて、セレスティからもようやく固さがとれて、自然な微笑みが彼女の顔に宿った。

 

「二学期からお世話になるセレスティ・E・クラインです。セラと呼んでください」

 

 

 

…†…†…†…†…†…

 

 

 

 学園都市のとある中学校。その校門のまえでメールを打っている女子中学生は少々かわっていた。

 

 頭がお花畑なのだ。

 

 いや、別に馬鹿にしたわけではない。頭の中ではなく、ビジュアル的にお花畑なのだ。

 

 彼女は頭に大量の、花の髪飾りをつけており、さながら頭に一つの花壇ができているような様相を呈していた。

 

「白井さん返信おそいですね……」

 

「う〜い〜は〜る!!」

 

 瞬間。

 

 何者かの襲撃によって、花畑少女のスカートが盛大に捲られ、公衆の面前で着用していたパンツをさらされた。

 

「佐天さぁあああああん!? いつも言っているじゃないですか! スカートめくるのは止めてください!」

 

「いや〜、初春がちゃんとパンツをはいているかなと思って」

 

「はいてますよ!? ちゃんとはいてますからね!!」

 

 花壇の少女を襲撃したのは黒く長い髪をもった快活な少女──佐天涙子。レベル0の一般生徒だ。そして花壇の少女の名前は初春飾利。白井黒子と同じく風紀委員(ジャッジメント)に所属する少女だ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その後学校をでた二人は、近くの歩道に設置されたベンチに座り今日の結果報告をしあった。

 

「それで、どうだったの? 身体計測(システムスキャン)

 

「もう散々ですよ。相変わらずのレベル1。担当の先生からも『お前の頭の花は見せ掛けか? その咲き誇る花のように、能力値でも満開のはなを咲かせてみせろ!』って、言われちゃいました」

 

「その担当の先生にいろいろとツッコミを入れたいんだけど……まあ、いいじゃない。超能力があって。私なんてレベル0。無能力者よ」

 

「あ……」

 

 申し訳なさそうに身を縮める初春をみて佐天は苦笑した。この学園都市では能力というものは一種のステータスである。とうぜん強力な能力のほうが尊敬されるし待遇もいい。逆に無能力者はさげすまれ排除される傾向にあるのが今の学園都市の現状だ。

 

 だが、

 

「私にはそんなこと関係ないよ」

 

「え……」

 

「いまが楽しければ私はそれで大丈夫!!」

 

「佐天さん……」

 

 初春は佐天のこういうところが好きだった。能力なんて関係なく自分の友達でいてくれる彼女が………。

 

「あ、そうだ初春。わたしこれからCDショップによるんだけど初春もいっしょにどう?」

 

「え、あ、ごめんなさい佐天さん。わたし白井さんと用事があって……」

 

「白井さんって、初春が言っていたあの風紀委員会の?」

 

「はい! 念願かなってあの常盤台のレベル5、御坂美琴さんに会えることになったんです!! あ、そうだ。佐天さんも一緒にどうですか?」

 

「えー。レベル5?」

 

「どうしたんですか佐天さん?」

 

「だって、レベル高い人ってすぐに低レベルの人を見下すでしよ? おまけに常盤台………。お嬢様でしょ? どうせタカビーでいやな人に決まって……」

 

 しかし、佐天の言葉は初春の激しい反論によってかき消された。

 

「何を言っているんですか!? いいじゃないですか、お嬢様!! 憧れますよね!!」

 

「………………。初春、まさかあんた上流階級に憧れているだけなんじゃ……」

 

「そ、そんなことないですよ! さぁ、佐天さんも一緒に行きましょう!!」

 

「ちょ、初春! ひっぱらないでよ!!」

 

 二人はベンチから立ち上がると、白井との待ち合わせ場所へと急ぐのだった。

 

 

 

…†…†…†…†…†…

 

 

 

「申し訳ありませんわね。こんな所にまで付き合わせてしまって」

 

「いえ。私もいつ迷ってもいいように、この辺の地理を頭に入れておきたかったですし……」

 

「ところで……ずっと気になっていたんだけど、なんでセラさん、ジャージなの?」

 

 ここは学舎の園内部にあるファミレス。少々お高いが質のいい料理を出すことで有名なところだ。

 

 そこに、学校の施設紹介を一通り終えた白井と美琴はセラを伴い初春を待っていた。

 

「プールの近くにいたら何故か津波が襲ってきて……」

 

「今日は身体測定の日でしたからね。大方、水流制御系の能力者が計測をしていたのでしょう。ん、どうされました、お姉さま?」

 

「え、あ、べ、別になんでもないわ!!」

 

 今度から計測の時は周りに気を付けようと固く決意しながら美琴は紅茶に口をつけた。

 

「それにしても、御坂さんにファンがいるなんて驚きました」

 

「当然ですわ! なんてったってお姉さまは、学園都市に8人しかいないレベル5の第三位!! 憧れる者など大勢いますの! ですが最近は目に余る行為をするファンがいて、お姉さまは少しお困りですの……。そこで、私がファンを紹介する以上、お姉さまの負担が極限にまで減るようにキチンとプランを……ヘブッ!!」

 

 ヒートアップしながら手帳を取り出した白井をみて美琴は無言で白井の顔を押さえつけ手帳を取り上げる。

 

「あ……………おね………」

 

「なになに『初春をだしにしてお姉さまとデート』計画? 内容は……」

 

 美琴はしばらく手帳に目を通した後、その手帳を机の上に投げ出した。

 

 その内容を少しだけ見たセラは顔を真っ赤にして紅茶をあおる。なにが書いてあったかはおして知るべきだろう。

 

「く〜ろ〜こ〜!!」

 

 そして、押さえるからアイアンクローに変わった手を通して、電流が流し込まれ白井の体で暴れ回る!!

 

「あぁん! お姉さま、お姉さまぁあああああああああああああ!!」

 

 ちょっと危ない絶叫を上げる白井に、セラは思いっきり顔を引きつらせた。

 

「えっと〜。何しているんですか、白井さん……」

 

 そして、いつの間にかやってきていた頭に大量の花を乗せた少女もセラのように顔を引きつらせるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな騒動がひと段落ついたところで、メンバーが集ったこの集団はファミレスをあとにし、遊びに出かけるためバス停へと向かっていた。

 

「では、ご紹介いたしますわね。お姉さまにセラさん、こちらがジャジメントで私のバックアップをしてくださっている初春飾利さん。あと……?」

 

「初春の親友をやらせてもらっています。佐天涙子でーす。ちなみに能力値はレベル0でーす」

 

「ちょ、佐天さん!」

 

 明らかに挑発するようなニュアンスを含んだ佐天の発言に初春は慌てたが、

 

「初春さんに佐天さんね? よろしく」

 

「え? あ、よ、よろしくお願いします!」

 

 美琴は特に気にした様子もなく二人と握手をし、セラはこれ以上ないというほど丁寧なお辞儀を二人にした。

 

「ど、どうも……」

 

 予想外の対応にやや面をくらいつつ佐天も少しだけ頭を下げる。

 

「おほん、では改めて、初春に佐天さん。こちらは常盤台のエース、御坂美琴お姉さまと、今日常盤台に転入してきたセレスティ・E・クラインさんですわ。セレスティさんは今日越してこられたばかりなので、遊びがてら町の案内をしたいのですけど……お二人ともよろしかったかしら?」

 

「あ、はい! 全然OKですよ! ね、佐天さん!!」

 

「え、あ、うん。今日はよろしくお願いします。セレスティさん」

 

「セラでいいです。呼びにくいでしょうから」

 

 初春と佐天が気さくな対応をみせるとセラの中から固さが消えた。楽しい一日が過ごせそうです……と、彼女が内心で安堵の息をついたのは言うまでもないことだろう。

 

「じゃあ、立ち話もあれだし……ゲーセン行こうか!!」

 

「え……?」

 

「げ、ゲーセンですか?」

 

 美琴の提案に佐天と初春は驚き固まってしまった。

 

 二人の脳裏に浮かぶのはお嬢様らしくないなという考えだ。

 

「ゲーセン? 常盤台の人でもそんなところへ行くんですね」

 

 二人の気持ちを代弁するかのようにセラが美琴にそう聞いたが、返答は呆れ返った白井から帰ってきた。

 

「そんなわけないでしょう。行っているのはお姉さまだけですわ。まったくお姉さまも、お茶とかお琴とか、もっとお姉さまらしい趣味を持たれたほうがよろしいですわよ」

 

「お茶とお琴のどこが私らしいっていうのよ」

 

 そう言い合いながら先を歩く二人を見て、佐天と初春は驚いたまま言葉をかわす。

 

「あんまり、お嬢様らしくないね」

 

「見下したりもしていませんね……」

 

 初春の言葉に若干不満の意を表しながらも佐天はとりあえず肯定した。

 

 だが、佐天は未だに美琴のことを信用しきれていなかった。どうせ一皮むいたらこの人も……という考えがどうしても頭を離れなかったのだ。

 

 そんな時だ。

 

「こわい顔をしていますよ。佐天さん」

 

「!」

 

 セラが突然後ろから話し掛けたため、佐天は少し飛び上がってしまった。

 

「私も会ってびっくりしました。あれだけの力を持ちながら全然偉そうぶらないし、気さくに話し掛けてくれますし……」

 

「えっと……セラさんはどうして常盤台に?」

 

「いえ……私も何で入れたのかはよくわかっていませんが、個人的な理由を上げるなら、お母さんに楽をさせてあげたかったからです。私の家は母子家庭ですから、私の面倒をみる傍ら仕事に打ち込むというのは結構大変そうでしたし。幸い父が残してくれた遺産がかなりありますので、常盤台の寮代ならなんとか賄えそうでしたから、一人暮らしを……。あ、こんなこと聞いていませんでしたね?」

 

「あ、いえ……」

 

 漸く脱線していることに気付いたセラが苦笑混じりに話を切り上げるが、初春は恐縮して逆に頭をさげた。

 

 その時だ、

 

「よろしくお願いしま〜す」

 

 街頭で広告を配っていたので、佐天がそれをもらう。前を見るとどうやら美琴ももらったらしいので、三人はその広告に目を通した。

 

「あ、これ新しくできたクレープやさんのチラシですよ」

 

「えーっと、なになに。今なら期間限定、かわいいゲコ太ストラップをプレゼント?」

 

「えっと……かなり失礼だと思いますが、誰かもらう人がいるのでしょうか、これ?」

 

 三人が三人とも、おまけについてくるストラップに微妙な表情をしたとき、突然美琴が立ち止まりチラシを穴が開くほど見つめだす。

 

「ん、あれ? どうしたんですか御坂さん」

 

「どうされましたの……おやおや?」

 

 佐天達が不思議そうに美琴を見つめていると、固まった美琴に白井が近づき、ニヤニヤした笑みを浮かべた。

 

「お姉さま、クレープが食べたいんですの? それともこのストラップがほしいのでしょうか?」

 

「え、み、御坂さん!?」

 

「意外ですね……」

 

「な、え、ち、違うわよ! 誰がこんなもの欲しがんのよ! だってカエルよ!両生類よ!?」

 

 顔を真っ赤にして否定する美琴をみて、佐天の高レベル能力者にたいする偏見はどんどんと氷解していくのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 結局気をきかせたセラの『クレープが食べたい』という要望をきくということで四人はクレープ屋にやってきていた。

 

 しかし、どうしたのか今日に限ってクレープ屋の車が止まっている公園には、はしゃぎ回る子供があふれ、クレープ屋の前には長い行列ができていた。

 

「なんかあったのかな?」

 

「学園都市の見学に来ていた外の子供たちですね。なんでも信号が壊れて交通機関が麻痺したそうなので、ここで信号が復旧するまで時間をつぶしているみたいです」

 

 一応、風紀委員の初春が事件ではないかとバスガイドに裏付けをとったが、特に事件ということではないらしい。

 

 美琴がなんだかとんでもない量の冷や汗を流しているような気がするが気のせいだろう。

 

「それにしても長いですわね。わたくしたちは先に場所をとってきますわ。お姉さま私の分よろしくお願いしますわ」

 

「あ、佐天さん。わたしの分もお願いします」

 

「すいません。私も頼んでいいですか?」

 

 白井についていき、初春とセラも行列から外れていく。

 

 残された佐天は気まずそうに自分の後ろに並ぶ美琴を振り返った。

 

「え、なに!?」

 

「い、いえ……」

 

 ものすごくイライラしながら貧乏ゆすりをする常盤台のエースを見て、佐天は思わずため息をつくのだった。

 

 

……数分後……

 

 

「はい、イチゴクリームとチョコレート、あと季節限定のマンゴークレープお待たせいたしました」

 

「ありがとうございます」

 

 行列をならびきった佐天は無事にクレープを買うことができた。

 

 これで常盤台のエースのいらいらから解放されると佐天が安堵した直後……!

 

「あと、おまけのゲコ太。最後の一個ですよ」

 

 クレープ屋の店員が爆弾を投下した。

 

「え、最後の一個ですか?」

 

「はい」

 

 瞬間。

 

 後ろで何かが崩れ落ちる音がした。

 

 佐天が振り返ってみると、そこには案の定うちひしがれた御坂美琴の姿があって……。

 

「えっと……いります?」

 

 取り敢えず自分にはこのストラップはいらないし、何より美琴がかわいそうに見えた佐天はそういって、ストラップを美琴に差し出した。

 

 とたん、美琴の目が猫のように細まったかと思うと、佐天の両手を握りしめ嬉し涙をこぼしながら、まるで捨てられた子猫のような顔で猛烈に尋ねてくる。

 

「いいの? いいの!?」

 

「あ、はい……」

 

「ありがとォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 後に佐天はこう語る。

 

 

 猫の餌付けをしている気分でしたと…………。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なんていうかさ……。御坂さんってつくづくお嬢様らしくないよね」

 

 無事にクレープを買えた佐天は初春とセラと同じベンチに座りながらクレープを頬張っていた。クレープを食べたいと言ったのはどうやら嘘ではなかったらしく、セラは幸せ一杯といった様子でクレープを頬張っていた。

 

 美琴は、白井が美琴に自分のクレープ(クリーム納豆味)を食べさせようと躍起になって襲い掛かってくるのでクレープ片手にそれから必死に逃げていた。

 

「でも、よかったじゃないですか。神坂さんが高レベルを鼻にかけた嫌な人じゃなくて」

 

「そんなことを考えていたのですか?」

 

「え。うん、まあ……」

 

「だめですよ! 会ってもいない人にそんな評価しちゃ……」

 

 話していてわかったのだが、セラは意外にもしっかりとした面があり、話すことになれた佐天たちに時々的確な注意やアドバイスをしていた。

 

 まるでお姉さんのようだなと、注意を受けるたびに佐天は苦笑した。

 

 美琴が頼れる姉御肌なら、セラは間違いなく、どんな相談にも優しくのってくれるしっかり者の姉だろう。タイプが違うがどちらも頼りになることに違いはない。

 

「そういえば、セラさんはどんな能力をもっていらっしゃるんですか?」

 

「え!?」

 

「あ、それ私も気になる!!」

 

 クレープを食べ終わった初春が何気なく聞いた一言にセラは固まり、佐天はそれにのっかった。

 

 セラは暫く迷ったあと、ため息混じりに、自分の能力を明かした。

 

「一応《空間制御能力》となっています」

 

「一応?」

「なっています?」

 

 歯切れが悪いにもほどがあるセラの言葉に、佐天も初春も首を傾げた。

 

「そ、その~ちょっと事情がありまして……」

 

 セラが説明しようとしたその時だ!!

 

 後ろにあったシャッターを閉めた銀行から爆発が発生し佐天達を襲う!!

 

 しかし、セラは脳裏に開いた大量の《窓》に処理を施し、自分の能力を発動させるための命令を《Iブレイン(・・・・・)》にたたき込んだ!

 

『攻撃感知。危険度《小》』

 

『Dimension Distorting Device─「D3」A─L空間閉鎖解除』

 

『「Shield」展開』

 

 瞬間。突如、虚空から現れた正八面体のガラスの結晶のようなものが出現し、佐天や初春、セラの周りをとりまく。

 

 そして、なにもない空間が突然歪み、爆風の軌道を歪にねじ曲げた!

 

「え……」

 

「何ですか……それ!!」

 

「だから一応といったんですよ……」

 

 佐天と初春の驚きの声をBGMにセラは周りの被害を、質量数値によって現実世界を形作る《窓》を使って確認する。

 

『質量計測の結果……ケガ人はいませんね。銀行のほうには三人の人間の質量があります。うち一人は、AIM拡散力場の量からして、レベル3が妥当でしょうか?』

 

 ついでとばかりに相手の戦力分析をおえ、他のメンバーに注意を促そうとしたが……。

 

「初春! 怪我人の有無の確認と警備員(アンチスキル)への連絡お願いしますわ。お姉さまはここにいてくださいですの。これは風紀委員のお仕事ですのよ。たまには私を信用してくださいな」

 

「黒子……わかったわ」

 

「……」

 

 たくましい人たちですね……。そう言えば白井さんや初春さんは風紀委員でした……。と、今更ながらそのことを思い出した自分に苦笑を浮かべつつ、セラは白井にかけより先ほど自分が調査した情報を伝える。

 

「白井さん。怪我人は今のところいません。相手はおそらく男が三人。うち一人はレベル3です」

 

「!? どうしてそんなことまで……。いえ、今はそんなことを聞いている場合では有りませんね。御協力感謝しますわ」

 

 白井はそれだけいうと、虚空にきえ、銀行の前に出現した。

 

「テレポーター!? 初めて見ました!!」

 

「それは、能力のレア度でいえばあっちのほうが電撃使い(エレクトレマスター)よりも上だしね」

 

 真剣に驚いた様子を見せるセラを尻目に、美琴は公園に残っていた子供たちの避難誘導を始める。黒子が任せろと言ったのだ。負けることはまずないだろう。だったら、私は少しでもあの子の負担が減るように、自分のできることをやろう。

 

そう思いながら………。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「早くしろ!」

 

 煙が溢れる銀行内から三人の男が飛び出して来るのを白井は確認した。

 

 セラが言ったとおりの人数が出てきたことに多少驚きながら、袖につけた風紀委員の腕章を引っ張り犯人たちに見せ付けるようにして、白井は名乗りを上げた。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの! 器物損壊および強盗の現行犯で貴方たちを拘束します!!」

 

「な、嘘だろ! どうしてこんなに早く……」

 

 煙から出てきた三人組のリーダーが白井の声に動揺するが、その姿を見た途端……。

 

「「「ギャハハハハハハハハハハ」」」

 

 爆笑しはじめた………。

 

「こんなガキがくるなんて、ジャッジメントも人手不足か?」

 

 白井はその一言に内心カチンときたが、表面上は何とかクールな表情を保つ。

 

「そこをどきなお嬢ちゃん。どかないと……」

 

 笑いおわった三人のうちの一人が、白井に向かって突進を始める!!

 

「怪我しちまうぜ!」

 

 しかし、白井は今度は本気でクールフェイスのまま、体を少しずらすだけで男の突進をよける。

 

「そういう、三下のセリフは……」

 

 そして、男の足を払い、服の袖を引っ張りながら、男の体の重心を崩し、勢い良く男の体を回転させた。

 

「死亡フラグですわよ」

 

 芸術といっていいほど美しく投げられた男は、顔面から地面に叩きつけられ意識を手放す。

 

 下手をすれば首の骨を折っていそうな一撃だが、白井も死なない程度の手加減はしていた。そして、それは白井と男たちの歴然とした力の差を指し示している。

 

「クッ」

 

 残った強盗犯ひとりがひるんだが、もう一人は不敵な笑みを浮かべて前に出た。

 

「なるほど、見かけどおりじゃないってか? だったら俺も……!」

 

 そして、男の言葉が終わると共に、男が掲げていた右手に深紅の炎が渦巻きながら出現する!

 

発火能力(パイロキネシス)ですわね。火力からしてレベルは3といったとこれかしら。また、セラさんの言うとおりですわね。一体あの方は何者ですの? まあ、取り敢えず……』

 

 内心で驚きながらも、白井は表情を操り、

 

「はっ!!」

 

 ……男の能力を鼻で笑った。いや、まあ、実際白井にとってはどうとでもなる相手なのだが……。

 

「な、なんだその顔は! レベル3だぞ、レベル3!! ちったぁ驚けよ!!」

 

「戦うまえから手の内を明かしてどうするおつもりですの? そういうのはギリギリまで隠しておくのがセオリーですわ。まったくこれだから素人は……」

 

「くっ!!」

 

「まあ、それは別にしてそれだけの強力な能力は確かに怠惰な人間には制御は不可能ですわ。大方能力開発の壁にぶつかって、グレたクチでしょう?」

 

「なっ!!!!」

 

 どうやら図星だったらしい。まったくこれだから最近のガキは……。と、自分のことは棚に上げつつ、白井は大きく円を描くように、男の周りを走りだした。

 

 

「この……舐めやがってぇええええええ!」

 

 図星をつかれて逆上した男を尻目に白井はさらに軽口をたたく。

 

「まったく。あきらめたらそこで試合終了ですわよ」

 

 そして、再び瞬間移動して男が放った炎弾を回避。同時に男の前に出現し、再び能力を発動。地面に伏せるように移動させられた男は一瞬なにをされたのかわからないまま、白井が瞬間移動させた、鉄の矢によって服を縫い止められ拘束された。

 

「なっ……テレポーターか!」

 

 全てが終わったあと、ようやく気付いた男は白井の能力の早さ、そして精度に戦慄した。まちがいなくレベル4クラスの能力者の実力……格が違う相手とケンカをしていたのだと男はいまさらながら自覚する。

 

「さて、残り一人は……」

 

 白井が残り一人を拘束しようと、辺りを見回した時だった。

 

「ちくしょう! 離しやがれ!!」

 

 白井の目に、子供を庇って蹴りとばされる、佐天の姿が映った。

 

 

 

…†…†…†…†…†…

 

 

 

 ほとんどの子供の誘導が終わったときそれは起こった。

 

 セラが公園内を、能力を使って子供がいないか調査していたとき、子供たちを引率していたバスのガイドさんが突然騒ぎはじめたのだ。

 

「だめですって、近くにいったら!!」

 

「子供が一人見当たらないんです!! さっき、バスに荷物をとりに行ってくるっていったっきり帰って来ないんです!!」

 

 セラはその言葉をきいて血の気が引くのを感じた。

 

 今までは公園内だけに注意を向けていたため、公園の外にあるバスの調査はやっていなかった。

 

「御坂さん! 私バスを見てきます!!」

 

「まって、初春! 私もいく」

 

 初春と佐天がバスに向かって走っていくのをみて、セラは公園内の質量計測に全能をついやした。

 

 結果、普段の三倍早く計測を終えたIブレインはこの公園にはこどもらしき人影がないことをセラに告げた。

 

「セラ! 何しているの! 私たちは公園の方を……」

 

「その必要はありません御坂さん。この公園に子供はいません!!」

 

「っつ! あなた一体なんなの!? さっきから断言しまくっているけど、千里眼でも持っているていうの!?」

 

「今は事情を説明している余裕はありません! とにかく、今は私を信じて外の方の捜索を!!」

 

その時、

 

「ちくしょう! 離しやがれ!!」

 

 男の怒声とともに、セラの目の前で見つけた子供をかばっていた佐天が蹴り飛ばされた。どうやら連れ去られそうになった子供を助けるために、必死に男にしがみついてギリギリまで食い下がっていたらしい。

 

 怒りのあまり一気にセラの血の気が引く。だが、

 

「黒子ぉおおおおお!」

 

 その光景に怒りを覚えたのは、セラだけではなかった。

 

 

 額に青筋を浮かべ、電撃をほとばしらせる御坂美琴が、犯人が逃げるために乗り込んだ車の前に立ちふさがった。

 

「これは個人的に私が喧嘩を売られたってことだから、手ェ出させてもらうわよ!!!!」

 

「どけぇええええええええええええええ!」

 

 追い詰められて凶暴になっている犯人はそのまま美琴から距離をとったあと、美琴を真っ正面からひき殺そうとした!

 

しかし、

 

「あんた……」

 

コインを弾く澄んだ音が響き渡る。宙を舞ったコインは回転しながら美しい軌跡を描き、カチッ! という音を響かせながら美琴の手にセットされる。それから、美琴は腕をまっすぐのばし……

 

そして、

 

「私の友達(・・)に、なにしてくれてんのよっ!!」

 

 

ゴッ!! 

 

 という形容しがたい轟音が鳴り響き、真紅の光が閃いた。

 

 一瞬の出来事だったが、セラは確かにその光景を視認していた。

 

 青白い雷を纏った、美しい砲撃を。

 

「あれが……学園都市に8人しかいないレベル5の第三位。常盤台の電撃姫……」

 

「「「超電磁砲(レールガン)……」」」

 

 初めて見た佐天や初春と一緒に、セラはその光景を呆然と見つめるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 夕日によってそまった公園で、佐天は火照った顔をさましていた。

 

 先ほど助けた子供の親と、引率のバスガイドに熱烈なお礼を言われたせいだ。

 

「うわ〜。けっこう恥ずかしいな」

 

「そんなことないわよ。かっこよかったわよ、佐天さん」

 

 熱を持った顔をパタパタ仰ぎながら、照れる佐天に美琴は冷えたジュース(近くにあった自販機をけりとばして強奪してきた。)を渡し、隣に座る。

 

「ありがとうございます」

 

 佐天はお礼を言うと、ジュースの蓋を開けて、それを飲んだ。

 

「御坂さんもかっこよかったですよ」

 

「ありがと」

 

 そして二人はにこやかに笑いあい、お互いの健闘を称えあった。佐天からはいつの間にか高レベルの美琴にたいする遠慮や忌避感が消えており、初春と話すように普通に話せていた。

 

 二人が友達になった瞬間である。

 

「佐天さん! 怪我、大丈夫ですか!?」

 

 笑いあっていた二人に、初春は慌てて駆け寄ってきて、後にいる白井はやや憮然とした表情で、弱りきった顔をしたセラをひっぱってきた。

 

「だーいじょうぶだって、タダのかすり傷だよ」

 

「で、黒子、どうしたの? そんな機嫌悪そうな顔して?」

 

「どうやら、セラさんの能力に関しては有耶無耶にされてしまいそうですわ」

 

 白井の言葉に美琴の表情が厳しくなった。

 

 風紀委員会は学園都市の治安維持のためにかなりの権力を持っている。正体不明の能力者を調査するために《書庫(バンク)》を閲覧する権利などその最たるものだ。

 

 しかし、ジャッジメントの権限を使っても調べる事ができないとなると、その秘匿重要度は間違いなくレベル3〜5。最高ランクのセキュリティで情報が保護されていることになる。

 

 警備員(アンチスキル)が秘匿している程度(レベル3)なら可愛いものだが、下手をすれば統括理事会が関わっている可能性すらある。

 

 あけてビックリ、パンドラの箱ってね……。いったいこの子何者なの? と、美琴がそう思い冷や汗を流したときだ。

 

「あの……ちょっといいですか?」

 

 そんな少しだけシリアスな空気になった四人をみて、セラはおずおずと手を上げた。

 

「もし、私の能力について知りたいなら、私の実家に行きませんか? 私のお母さんは学園都市で働いていますから学園都市を出る必要はありませんし、そこに一緒にすんでいる人たちも私の能力についてはよく知っています。そこで許可がもらえたら、私の能力について説明することができます」

 

「「「「…………………………………………」」」」

 

 四人は、無言で思考したあと、

 

 

「いくわ」

「いきますわよ」

「いくよ」

「いきますよ」

 

 同時にそういったあと、

 

「「「「このままだと、何か気持ち悪いし」」」」

 

 同じ返事を口にしたのだった。

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