とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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もう一人の悪魔使い

 背後からの突然の声。

 

 サクラはその声に振り返りつつも、脳内のIブレインに素早く指示を飛ばしていた。

 

(call):計算機数学・仮想精神体制御『生物化』】

 

 脳裏のIブレインで処理されたその命令は、瞬く間に世界の写し鏡である《情報の海》を書き換え、サクラが地面に接地している足から仮想精神体を床に放つ。

 

 仮想精神体は解き放たれた瞬間、情報的に自分の姿を正しくするため、床の蓄財を材料に巨大な腕を生成。桜の背後に立ったはずの人物を打ち据えようとし、

 

「おっと、あぶない」

 

 外す。攻撃を外した!!

 

「なっ!?」

 

 ふたたび振り返ろうとするサクラの首筋に突きつけられる何か。

 

 鉄のヒヤリたした感触。そこから感じられる形状は円筒形の何か。

 

「銃……か?」

 

「説明が省けて助かります」

 

 背後から聞こえてくる少年の声は、まるで自分の優位性を疑っていない自信にあふれた声。

 

 背後からの急襲に、振り返った瞬間避けられた攻撃。

 

 サクラはその事象を考察し、何とか敵の能力の割り出しに成功する。

 

「《瞬間移動能力者(テレポーター)》。それも他人の背後に回り込むこと限定の……。仮称をつけるならさしずめ《死角移動(キルポイント)》といったところか」

 

「よくお気づきで」

 

 サクラの漏らしたつぶやきが聞こえたのか、背後に立っているであろう少年は、サクラの予想が正解であると手をたたく。

 

「とはいえ、これでお分かりいただけましたか? たとえあなたがどれほど強力な能力を使おうとも、それはあくまであなたの視覚が、きちんと私をとらえたときにしか有効な攻撃になりえない。それはどんな人間だろうとのがれられない宿命。そのため私の能力は、あらゆる人間と対峙するとき、比類なき回避能力を私に与える」

 

 さぁ、膝をついて座りなさい。あなたのその首に風穴を開けたくないなら。そういって、銃を突きつけ、引き金に指をかける音を響かせながら、視覚を移動する瞬間移動能力者は傲然と言い放つ。

 

 そんな彼の言葉に、サクラは思わずため息をついた。

 

――まったく。舐められたものだ。と。

 

「一ついいか? 死角移動(キルポイント)

 

「ん? なんですか?」

 

「私をなめるのも大概にしろ」

 

 そう言ってサクラは不敵に笑う。

 

 死角に移動した? なんだそれは? 情報的にあらゆる化学現象を全方位で知覚する。そのため、たとえ瞬間移動能力者であっても、魔法士の知覚から逃れるためには、その知覚領域の外に逃れるしかない。

 

 つまり、現在死角移動のが彼女の背後のどの位置にいるかは、サクラにとっては筒抜けにも等しいものだったのだ。

 

 瞬間、サクラの脳裏に事前に叩き込まれていた命令が、立て続けに効果を発した!

 

(call):連弾・『仮想精神体制御・翼』『分子運動制御・弾丸』……】

 

 サクラのIブレインは煉瓦保持するIブレインと全く同じ……。劣化版ではあるが敵の能力を模倣学習し、自分の能力として使用する《悪魔使い》のIブレイン。

 

 だがしかし、彼女と錬には決定的な違いが一つあった。

 

 錬は自分が学習した複数の能力を、最大二つまで脳内に展開し同時並列に使用することができる。本当の意味での多重スキルが実現するなら、恐らく彼がそうなるだろう。

 

 だがしかし、サクラは複写した能力を脳内で一つずつしか展開できない。そのため彼女はこのように、立て続けに能力を高速展開し、いくつもの能力を瞬時に切り替えながら複数の能力の運用を行うのだ。

 

 《並列》を得られなかった彼女のために真昼が考え出した高速切り替え能力運用。

 

 その脅威が背後にたたずむ回避のスペシャリストに情け容赦なく牙をむく!

 

「っ!?」

 

 突如サクラが着ていた上着が形状を変更し、まるで刃物のような鋭い先端を持つ巨大な翼に変化。ギロチンのように死角移動の首を挟み込みに来たのだ!

 

 当然そんなものをくらっては無事では済まない。死角移動はそれを理解していたのか、慌てて能力を使い遠巻きにこちらを見ていた黒いスーツの男たちの背後に転移した。

 

 だがしかし、サクラはそれにも平然と対処する。

 

「終わりだ」

 

 サクラがそう告げた瞬間、力技の暴力が彼らを襲う。

 

 キルポイントが移動しそうな黒服の男たち全員に向かって、でたらめな量が用意された氷の弾丸が降り注いだのだ。

 

 これでもエントロピー制御の本職《炎使い》よりかは少ないが、狭い通路にいる男たちを制圧するには十分な量の弾幕。

 

 当然、その飽和攻撃に、通常の人間である黒服たちが耐えられる道理もなかった。

 

「なっ!?」

 

 滅多打ちにされた移動した男の体を盾にし、何とかその攻撃からは免れた死角移動。だがしかし、それも完全ではなかったのか、彼は右の太ももと左肩を弾丸に撃ちぬかれ、その激痛のあまり瞬間移動演算を失敗する。

 

 それを見逃すサクラではない!

 

【……『電磁気学制御・銃身』】

 

 躱す暇すら、与えない!

 

「ま、まてっ!?」

 

「お別れだ。死角移動」

 

 瞬間、情報の改竄によって空中に生まれた筒状の電磁場に向かい、サクラは容赦なく投擲ナイフを放った。

 

 情報制御に産物の為か、はたまた悪魔使いが劣化した能力しか使えないためか、御坂美琴と比べればはるかに威力は劣る砲撃。だがしかし、それは確かに、

 

超電磁砲(レールガン)!?」

 

 瞬間、死角移動が盾として使った黒服の男ごと、真紅の閃光が死角移動の脇腹を射抜く!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 死角移動は巻き込まれた男諸共ばたりと倒れる。桜はそんな彼の姿を見つめながら判断に迷う。

 

 死角移動のわき腹は4割ほどごっそり抉られていた。夥しいほどの出血があり、恐らく長くはもつまい。

 

 だが……生きてはいた。

 

「殺すべきか?」

 

 自問自答するサクラ。任務の内容としてはむしろ情けはいらない。容赦なく殺すべきだ。

 

 だが、

 

「今日の私は、少し殺しすぎたか……」

 

――これでは家に帰ってもフィアに余計な心配をかけてしまうな。と、先ほどから殺し続けた人間の返り血を無数に浴びて重くなった黒いドレスとコートを見て、心配そうな顔で自分たちの帰りを待っているであろう優しい少女の顔を思い出し、サクラは小さく笑った後、倒れた死角移動に背を向けた。

 

――どちらにしろあれは死に体だ。放っておいてもいずれ死ぬ。ここでわざわざ丁寧にすりつぶす必要もないだろう。万が一に生き残ったとしても、あの程度の相手が生き残ったところでこちらは痛くもかゆくもないしな。

 

 そう告げながらサクラは再び歩を進める。

 

 おそらくトマス=プラチナバーグがいると思われる、最上階の怪談へと。

 

 当然。行く手を阻むかのように、配置された機械製の犬たちが邪魔をしてくるが、

 

「どいてもらおう」

 

 彼女は簡潔にそう告げた後、ぺたりと自分の近くにあった壁に手を付けるだけで機械犬たちへの対応を終わらせる。

 

 彼女の脳裏に浮かぶ窓が送った命令はたった一つ。

 

(call):『踊る人形』】

 

 瞬間、見えないほどの速度でうごめく何かが突如現れ、彼女の行く手を遮った犬たちを粉微塵に粉砕する。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「くそっ!! くそっ!! なんなんだよあの化物は!? 超電磁砲(レールガン)まで使いやがったぞ!? いったいどうなってやがる!!」

 

 トマスのビルの地下にあるとある巨大な空間。

 

 既存の核シェルターなど及びもつかない学園都市製の核シェルターに身を隠した、無数のロボットを操る少年――馬場芳郎は怒号を上げながら拳を核シェルターの壁にたたきつけた。

 

 彼が見ていたロボットたちの制御端末には、倒れ伏した自分の仲間であるキルポイントの姿が映されている。

 

 彼が倒されてしまった以上、もはや馬場に預けられたロボットたちで彼女を倒すことは絶対に不可能といってもよかった。

 

 そう……犬型のロボットであるなら。

 

「仕方がない……」

 

 彼はそう言って自分の背後を振り返る。

 

 そこには核シェルターにしまわれた巨大なコンテナ。そこにはまるでカマキリのような形状をした巨大なロボットがしまわれている。

 

T:MT――タイプ:マンティス。学園都市がロボット工学を軍事利用するために作り出した、本格的なロボット殺戮兵器。

 

 馬場が切れる最強の手札。

 

「ふ、はははははははは! 目に物を見せてやる! こいつの威容を見て畏れ慄け!!」

 

 馬場はそんなことを言いながらコンテナの開閉スイッチを押し、いざT:TMを出撃させようと操作端末を手に取った瞬間。

 

「あ、あれ?」

 

 端末が全く動かないことに気付いた。

 

「な、なんだこれ!? どうなっている!?」

 

 慌てて端末内の機能を精査しようと自作のプログラムを走らせかけたその時。

 

『あぁ、ようやく気付いたかな? でも残念。その端末はとっくの昔に僕が掌握しているんだよね』

 

「なっ!? だ、誰だ一体!?」

 

 突如として端末から聞こえてきた声に、馬場は焦ったような声で詰問する。当然、声がそんなバカバカしい質問に答えるわけもなく、

 

『僕も実動じゃないとはいえ、一応仕事はしておかないとね。あの娘や仲間に何言われるかわかったもんじゃないし』

 

 独り言でも漏らすかのように、端末からの声はそれだけ言って、端末の制御を握っている証と言わんばかりに、

 

「ひっ!?」

 

ガショガショとロボット然とした足音を立てながら、T:MTが動き出す。

 

『じゃぁとりあえず……撃墜、一』

 

 瞬間、カマキリの腕から飛び出す大ばさみが、馬場の体を引き裂いた!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 真昼はワゴン車の中で無数の端末をいじりながら、自分が先ほど殺した少年の核シェルターの様子を見ていた。

 

 少年がT:MTと呼んでいた機体はすでに停止している。

 

 このまま核シェルターをぶち破って外に出して暴れさせようかとも思ったが、あいにくとこの機械がいる核シェルターを作ったのは学園都市だ。

 

 強度は窓のないビル……とまではいかないが、それ相応の兵器を用意しても破れないというぐらいの覚悟はしておいた方がいいだろう。

 

 というわけで、T:MTの使用と馬場芳郎の正確な生死確認はひとまず諦め、真昼は再び状況把握に徹する。

 

――サクラはロボットだけになったおかげかさっきよりも進行ペースが速い。まぁ、あの子が殺人をしなくてよくなったというのは僕としてもうれしいところだし、こっちはほっといても大丈夫でしょう。

 

――ヘイズさんとクレアさんは、こっちも危なげはないかな。さっきクレアさんから送られてきた情報だと、相手が攻撃に使っている武器は反射金属《オジギソウ》みたいだし。コンピューターでもないただの物理攻撃ならタッグを組んだ二人には傷一つつけられないだろう。

 

 問題なのは、

 

「こっちかな?」

 

 そう言って真昼が映し出したモニターには信じられない速度で裏路地を飛び回る人影と、それに対応できてはいないが、何度斬撃や情報解体をくらっても平然と元に戻る金属色の人影が激闘をくり広げていた。

 

「おそらく能力は操作系。それも自意識を与えられるとなるとかなりレベルは高いみたいだ。使っている物は……水銀に近い液体金属かな? シオンさんがちょうどエドのメリクリウス作るのに参考にしたって言っていたあれだと思うけど……。どちらにしろ、祐一には少し相性が悪い」

 

 叩き斬っても本体ではないため幾らでも再生するし、情報解体で分解したところでマンホールから幾らでも補充がやってくる。

 

 まさしくイタチゴッコという体をなし始めたその戦いに、真昼は顎に手を当て、

 

「さて……どうやって攻略するか」

 

 軍使の仕事を始める。

 




馬場さんが死んだ!?

この人でなしっ!!



 と、冗談はさておいて……。殺すかどうか迷っていたり。《メンバー》意外と動いているからな……。

 ここで馬場が死んだら大覇星祭その他もろもろがほかのチームが出張ってくる可能性が。

 アイテムはともかく、スクールとか出てきたら御坂の死亡フラグが立つし……どうしよ?
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