とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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Void Sphere

 パチン!

 

 指を打ち鳴らす音が暗闇の通路に響き渡る。

 

「次! 右から来るわよ!!」

 

「オッケーだ!」

 

 背後にいる少女からの声をとらえ、ヘイズは素早く足を踏み鳴らし、対応。

 

 それによって、どういうわけか、不可視のオジギソウによる攻撃は瞬時に無くなり、空中で雲散霧消する。

 

 それがヘイズの力。

 

 学園都市に正式登録された、第八位――削板軍覇と同じ解析不能の《原石》にして超能力者(レベル5)

 

レベル5。序列第七位。組成分解(クラッカー)。それがヘイズの学園都市での名前だった。

 

「にしてもどれだけあるんだ? いくらなんでもきりがねぇ!」

 

「文句を言わない! この反射金属だってあまり潤沢に作られている製品じゃないんだから、いつかは無くなるわ。それまで戦い続けるしかないでしょ!!」

 

「まったく……相変わらず俺らの戦いは地味だな!!」

 

 他の魔法士たちとは違い、ヘイズのIブレインは欠陥品だ。そのため、彼は自身の能力をある一点特化にすることでしか能力者同士の戦いに活路を見出すことができなかった。

 

 だが、それでも……彼は、原石と偽っているとはいえ、偽物の異能として登録しているとはいえ、学園都市のレベル5として認定されている人物。

 

 つまり、彼はそれだけの力を持っているということ。

 

 それは、彼が先ほどから打ち鳴らす指の音が証明していた。

 

 一見何の意味もないように思える、戦闘中に時々響くフィンガースナップ。

 

 彼の指から響き渡るその音は、まるで手品か何かのように……。

 

「行く手を阻んでいるオジギソウの消滅を確認。一歩前進よ、ヘイズ!」

 

「了解だ!」

 

 彼らの行く手を阻んでいる不可視の金属片たち、オジギソウたちを消滅させていた。

 

 ヘイズが放った、世界にとっては取るに足らないようにしか見えない小さな音が、オジギソウを分子単位まで分解して、合金に使われた元の鉄に分解分割していく。

 

 明らかな異常。明確な異能。たった一つの音ですべてを破壊しつくす男は、すべてを見透かす相棒の声に絶対的信頼を寄せ、歩を進める。

 

「さて……次はどこのを消したらいい?」

 

 自分たちにケンカを売った、不届きものの白衣の老人を倒すために。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふむ……。これは少し厄介なことになったな」

 

――まさか超能力者(レベル5)が敵にまわっているとは。いささかどころではない想定外だ。

 

 と、書庫(バンク)に記載されたヘイズの情報を自分の端末で覗きつつ、博士はもう一つの端末に移る画面の中で暴れる二人の姿をじっと見つめた。

 

 暴れるというにはあまりに穏やかな動きでオジギソウを消していくヘイズに、その背後から的確にオジギソウの位置を指示していくブルネット髪の少女。

 

 ヘイズについては書庫(バンク)で調べがついたが、背後にいる少女に関してはよくわからなかった。

 

――一応書庫(バンク)では、レベル2の透視能力者(クレアヴォイアンス)となっているが、ほとんどミクロン単位に近いオジギソウの位置を、こうも的確に言い当てられる人物が、まさかレベル2ということは有るまい。と、博士は考察する。

 

「ということは、書庫(バンク)に不備があるのか……。先の事件の幻想御手(レベルアッパー)に適合した個体なのか……。あるいは、書庫(バンク)を改竄し、あえて自分の能力のレベルを下げているのか……」

 

 どの理由にしろまともな理由ではない。彼女もれっきとした裏の住人とみるのが自然。

 

 だがしかし、裏の人間であろうとなかろうと、彼女の戦闘能力は今までの戦闘風景を見て非常に低いことが分かった。おそらく、彼女は単純なレーダー役なのだろう。ヘイズの力を最大限に生かすための、人の形をした外付け武装。

 

 そう考えた博士の脳裏には、アイテムという暗部組織に所属する滝壺という少女の顔が思い浮かんだ。

 

 彼女もレベル5である原子崩し(メルトダウナー)の性能を最大限に引き出すために、常に彼女と共に活動しているらしい。おそらくヘイズの背後にいる少女もそれに準じるものでしかないと、博士は今までの資料から断定する。

 

 ならば、

 

「やることは単純だ」

 

 博士はそういうと同時に、手元の端末の画面を切り替え、即座にオジギソウとは違う彼の武器に命令を下す。

 

「各個撃破していこうか……組成分解(クラッカー)

 

 瞬間、彼の端末に浮かぶ文字が不気味に暗いビルの通路を照らす。

 

『ナノデバイス《早蕨》――起動』

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【攻撃探知。ステータス・ナノデバイス。データ照合。デバイス名《早蕨》】

 

「ヘイズ! 上っ!!」

 

「っ!?」

 

 通称《漂う地雷》。ナノサイズとなり空気を漂い、建物の壁や人間の体内に入り込んで付着した後、端末から放たれる特定のシグナルを受け、連鎖爆発を起こし破壊・殺傷を行う攻撃性の高いナノデバイス。

 

 Iブレインが告げたその名前にクレアは瞬時に呼吸器系を塞ぐよう、ジェスチャーでヘイズに指示を出しながら、そのデバイスが爆発する場所を的確に言い当てる。

 

 瞬間、突如として彼らが立っていた場所の天井が網目状のラインに沿って爆破解体され、無数の瓦礫となって彼らを押しつぶそうとした。

 

 ヘイズの能力を使えば、この瓦礫を消すこともたやすいだろうが、物質はあくまで分子単位まで分解されるだけ。質量がなくなるわけでないから、どちらにしてもこの瓦礫の下にいれば押しつぶされてしまう。

 

「逃げてっ!!」

 

「っ!?」

 

 だからこそ、クレアは瞬時によけるという判断を下し、ヘイズを突き飛ばしながら自分も反対側へ飛ぶ。

 

 二人がかろうじて攻撃範囲から逃げたところで、瓦礫が、二人が先ほどまでたっていた空間に降り注ぐ。

 

 轟音。そして激震。一階層の足場を形成していた場所はとてつもない重量を持って、床に激突。うまく瓦礫の被害から逃れた彼らが立つ場所にも亀裂を入れる。

 

「大丈夫か、クレア!」

 

「へ、平気!! でも、歩くのはちょっと待って!!」

 

――間一髪だったわね。と、土煙を上げながら床に降り積もる瓦礫の山を見ながら、クレアは思わず冷や汗をかいた。

 

「私たちがここを通ることを見越して事前に《早蕨》を設置していたの? さすがは今戦っている暗部組織のリーダーってところなんでしょうけで」

 

――建物ぶち壊して相手の打倒を狙うなんて、相当イカレてるわね。

 

 と、危うく瓦礫につぶされそうになったことに文句を漏らしながら、クレアは能力を使い足場の状況を確認していく。

 

 そして、

 

「っ!?」

 

 自分が立って居る足場のさらに裏……つまり、下の階の天井にも、同じように早蕨が仕掛けられていることに気付いたクレアは、慌ててその場から飛び退こうとして、

 

「え!?」

 

 間に合わず、再びの足場の崩落に巻き込まれ、下の階へ落ちて行った。

 

たった一人で。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「クレア? クレアっ!! クソっ!! 俺たちを分断するのが目的か!!」

 

 瓦礫の向こうからの轟音を聞き、慌てて相棒の名を呼んでみても返事がない。

 

 彼の脳裏にあるIブレインが、響いた音から予測演算を行い、それが床の爆破解体が行われた可能性が高いことを示唆している。

 

――完全に分断された。Iブレインのその判断にヘイズは思わず舌打ちしながら、瓦礫から離れるように走りだす。

 

 目指す場所は、下に降りる階段だ。

 

 クレアは確かに異常なまでの知覚領域を保有する魔法士で、こと探知索敵に関しては天樹寮で敵う人間はいないが、代わりに戦闘に関係する能力を一切保有することなく生まれた魔法士でもある。

 

――そんなあいつが単独でいるところを敵に襲われたら……。

 

 嫌な予想ばかりがヘイズの脳裏によぎる。

 

 その不安を払しょくするため、ヘイズは一刻も早く階段にたどり着こうと足を速め、

 

「あぁ? 侵入者こんなところにまで入れちまったんすか、博士の奴? いや。さっきの爆音を聞く限り、いい感じに有利に事は運んでいるみたいっすね。なのにこいつがここに来たってことは……。あぁ、なるほど。俺の方で処理しろってことですか」

 

 一枚の扉に背中を預けた、黄色い稲妻模様が入った漆黒のパーカを着用し、フードをかぶって顔を隠している少年が、通路を曲がったヘイズの視界に入った。

 

 彼が目指していた階段は、その少年の隣に口を開いてまっている。

 

 それはあの階段が、ほぼ通行禁止となったということと同義で、

 

「ようこそ侵入者の方。ゴールは間近。俺が背中を預けているこの扉こそが、現在トマス=プラチナバーグさんが隠れている居室への扉っす。隠しボスである俺を倒して、ぜひとも豪華賞品――学園都市統括理事会の命を手に入れよ~!! もっとも」

 

簡単にやられるつもりはありませんけど。と、ふざけきった態度で少年がそう言った瞬間、突如ヘイズが立っていた通路が光を通さない漆黒の雲に包まれる!

 

「さて……。遊んでけよ、第七位」

 

 雲に隠された視界の中で、少年の不気味な声だけが響き渡る。

 

「クソッ!!」

 

 その事実にヘイズは舌打ちを漏らしながら、

 

「お前にかまっている暇はないんだよっ!!」

 

 と、悪態をつき、雲を突っ切って少年を殴り飛ばそうとしたとき、

 

「っ!?」

 

 彼の視界に電撃が走った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「つ~。頭うった」

 

――とはいえ、床ぶち抜かれて階下に落ちたっていうのに、その被害というのはむしろ運がいい方でしょうけど。

 

 と、ヘイズと経っていた場所とから一階下の階層に落とされたクレアは、ちょっとだけ痛む頭を少し撫でた後、太ももにバンドでくくりつけておいた拳銃を引き抜き、警戒態勢をとる。

 

「ナノデバイス使いにこんなのがどこまで通じるかわからないけど……」

 

――ヘイズの援軍が来るまで、時間を稼がないと。

 

 相棒は必ず助けに来てくれると、そういった強固な信頼によって成り立つその判断に、彼女を見ていた人物は拍手を送った。

 

「素晴らしい信頼関係だ。暗部組織では例を見ないほどにね」

 

「っ!?」

 

 突如聞こえてきた声に、クレアは慌てて声の方向に拳銃を向け、能力を起動させる。

 

 そして、彼女は見てしまった――。

 

「冗談でしょう?」

 

「残念なことに。冗談ではない」

 

 そう告げた男――白衣を着た白髪交じりの老成した男性、《博士》はまるで劇中にいる役者のように両手を広げ、誇る。

 

「私は君と同じように直接的戦闘能力が低くてね。だからこそ、私が姿を現した時は君がほとんど死んでいるのと同義の状態にいるときだけだ」

 

 博士はそう言いながら肩を竦め。

 

「では、お別れだ。レベルにそぐわぬ御嬢さん」

 

 瞬間、クレアが見たもの――空間一杯に埋め尽くされた、オギジソウと早蕨がクレアを殺傷しつくすために空間ごと襲い掛かってきた!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分に向かって迸る無数の小さな電撃、ヘイズは思わず驚きの声を漏らす。

 

「俺の能力は《暗黒雷雲(ノイズクラウド)》。その名の通り、空気中にある水蒸気を高速展開して、雷雲を作り出す能力なんすけど……本職の電撃使い(エレクトロマスター)に比べると、実はいうほど発電力はないんっすよね。せいぜい触ったらピリピリくる程度の電撃しか生み出せないんっすよ。でも、この黒雲は実は一定の法則に沿って並べると面白い効果を生み出してくれるんっす」

 

――それはつまり……。と、ヘイズは思わず舌打ちを漏らしそうになりながら、真昼から可能性が示唆されていた対魔法仕様の兵器の名を思い出す。

 

「ノイズメイカー……」

 

 特定の電磁波を出すことによって、情報の海を改竄する超高速演算を阻害し、正しい対応をとらないと魔法士の脳に致命的な負荷を与えるという、電磁兵器。

 

 一応学園都市がこちらの対応策として考えるかもしれないと、真昼が警戒していた兵器群の中にあったその凶悪な魔法士殺しの名を、ヘイズは思わず思い浮かべた。

 

 そして、急いで自分のIブレインに演算をさせてみるとやはりと言ったところか【ノイズ検知】の文字が彼の脳裏では踊っていた。

 

「実はこれ、能力者の演算能力を阻害する働きを得るんっすよね。音響を使ったキャパシティダウンっていうのが最近開発されたそうっすけど、あれのもともとの構想は俺の演算阻害からきたもんっすよ。とはいえ、俺の方は電磁関係での効果っすから、専門家である超電磁砲(レールガン)や、系列的に同じである原子崩し(メルトダウナー)。常識が通じない第一位・二位には絶対届かないってことで没になったみたいっすけど。おかげで俺はまだレベル4どまりっすよ……」

 

 そして、そんなヘイズの様子が手に取るようにわかるのか、黒雲の向こうから少年はへらへら笑いながら自慢げに自分の能力を話していく。

 

――こっちのことをなめているのか? と、ヘイズは思わず顔をしかめた。

 

 確かに不快な電撃だ。脳内のIブレインが一々ノイズを拾い上げるため鬱陶しいことこの上ない。

 

 だが、だからどうした?

 

 ヘイズのIブレインは欠陥品だ。通常の魔法士にできることは、一切合財できはしない。

 

 だがしかし、それは同時に利点でもあった。

 

「おまけに、ほとんどの電子機器ぶち壊しちまうせいで、電子機器が主武装のうちのメンバーからは毛嫌いされちまいますし……。まったく誰がジョーカーっすか。ただ自分の武装壊されたくないだけっしょ、あの白髪」

 

 そんな風に自分たちのリーダーに不満を漏らしながら、少年はこちらに向かって歩いてきた。

 

「まぁ、でも、俺の能力はレベル5の序列七位には通じるってことがわかってよかったっすよ。バンクを見た上では、あなたは電磁的能力を有していないんだから。もう、能力は使えないんでしょう?」

 

 油断しきっている少年は、無造作に一歩を踏み出しヘイズの前にたたずんだ。

 

「許してください。命だけは助けてください。みじめに俺にそう命乞いするなら、助けてやらないこともないっすけど?」

 

 そう言って拳銃を突きつけてくる少年を見つめながら、ヘイズは脳内のIブレインに出てきた窓を見て、不敵に笑う。

 

【システム稼働率120%に再設定】

 

 そして、ヘイズは指を打ち鳴らす形にして構え、

 

「寝言は、寝てから言えよ、格下(レベル4)

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分に向かって一斉に襲い掛かってくる不可視の死の軍勢。

 

 Iブレインによって強化された視覚でそれを見ていたクレアは、それでも不敵な笑みをこぼした。

 

「何のつもりだ?」

 

「あなたの言うとおり、私に戦闘能力なんてないわ。せいぜい護身用の拳銃が人並みにうまい程度の実力よ。でもね……」

 

 そこでクレアは先ほど一通の通信が来た腕時計型の端末を見て小さく笑い、自信にあふれた笑みを浮かべながら、全力で通路の隅へと走り出す。

 

 襲い掛かってくるオジギソウや早蕨は、能力によって計算されつくした発砲によって生み出される、弾丸と発砲音で何とか蹴散らし、クレアはその場所に到達した。

 

「あいつは違う……。ヘイズは違う。あいつがどうしてレベル5に数えられるか。あいつがどうして学園都市最強の一人に数えられるか……その理由をあなたは軽んじすぎた!」

 

 そう言ったクレアの腕時計型端末にはこんな文字が浮かんでいた。

 

『From:ハリー

 To  :クレア

ご無事ですかクレア殿。ご無事でしたら情報障壁を展開した後、こちらが提示する所定の場所に行ってください。

《虚無》が参ります』

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【予測演算成功】

 

 Iブレインが告げる文字を見て、ヘイズはゆっくりと指を掲げる。

 

【《虚無の領域(Void Sphere)》展開準備完了】

 

 その光景に暗黒雷雲は顔をひきつらせた。

 

「ば、バカな……。能力は使えないはず!?」

 

「あいにく……俺のIブレイン(のうみそ)は特別製でな」

 

――お前には言ってもわかんねーだろうけど。と、ヘイズは内心でそう吐き捨てながら、

 

「じゃぁな。テメェの情報が思った以上に強固なことを祈っとけ」

 

 指を鳴らした。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ヘイズのIブレインは欠陥品だ。

 

 Iブレインとは本来二つの部品で構成されている。

 

 一つは、世界を改竄するための高速演算を行う《演算器官》。

 

 もう一つは、その演算によってどのように世界を改変するかを制御するプログラムが入った部分である《記憶領域》。

 

 ヘイズには後者の記憶領域がなかった。

 

 ヘイズが生み出された培養器が誤作動を起こし、本来通常通りに成長するはずだったヘイズのIブレインのうち演算器官のみを肥大成長させてしまったため、記憶領域に栄養がいきわたらず枯れてしまったのだ。

 

 結果残ったのは、誰にも負けない演算速度をもった、魔法を使うためのプログラムをもたない、最強のエントロピー制御能力者《炎使い》になるはずだったものの残骸。

 

 これでは戦えないと、ウィッテン達が彼を捨てたのも致し方ないと言えるだろう。

 

 だがしかし、その異常な演算器官はヘイズにある力を与えた。

 

 現実世界を観測することによって得た数値を、入力し演算することによって生み出される、絶対精度の《予測演算》。せいぜい10秒20秒先の未来がわかる程度だが、戦闘においてその予測演算はヘイズに絶対的回避能力を与えた。

 

 また、魔法士が電磁波を嫌う理由である魔法仕様の阻害は、ヘイズには適用されないというアドバンテージもある。

 

 それは、魔法士が電磁波の影響を受けるのは、演算を統括制御する《記憶領域》による《情報の海》の接続であり、そこ制御を電磁波によって阻害されるため《情報の海》への接続が困難になり、情報の改ざんが難しくなるからだ。

 

 だが、ヘイズは違う。もとより記憶領域を持たない彼にとって、情報の海への接続は能力の発動の可否に関係しない。

 

 では、ヘイズはいったいどのようにして魔法を使っているのか? どのように音によって物質解体を行っていたのか?

 

 それは以前錬が使ったとある能力が答えとなる。

 

 音を使い、その振動のバタフライ効果によって空気分子をあやつり、論理回路を形成。その論理回路を使って、騎士の最強の攻撃である《情報解体》を再現する。それがヘイズの能力の本質であり、錬が以前神裂戦で使った使った《ファイマン》の原点(オリジナル)

 

 彼のIブレインが《破砕の領域(Erase circle)》と命名した、その論理回路形成攻撃は、空気中にある粒子の位置情報の習得と、その空気粒子にどのような音―—フィンガースナップや足音―—を与えれば論理回路を形作るのかを、演算(・・)するだけの能力だ。ヘイズはその演算結果に従いフィンガースナップや足音を鳴らしているだけに過ぎない。

 

 そう、つまり彼の魔法とは、本当は魔法ですらない、ヘイズ級の演算能力を持てば誰でも再現ができる、ちょっとした奇跡の発生率を百パーセントにするだけの特技なのだ。

 

 だからこそ、《記憶領域》による情報の海の接続は一切関係しないため、たとえ電磁波の嵐の中であっても、彼の能力は何の問題もなく発動することができる。

 

 そして、錬の能力のオリジナルであるがゆえに、その能力は錬の使ったものの数段上を行く。

 

 範囲・情報解体の威力そのすべてが錬のファイマンをはるかに凌駕し、情報解体の威力に至っては最強の騎士である祐一や雪すら上回る。

 

 その証拠に、騎士の情報解体は、人間やコンピューターを破壊できないが……ヘイズの情報解体は、限定的ではあるが、人間の分解が可能だ。

 

 そして、先ほどヘイズが使った攻撃は、普段彼が使う論理回路をさらに発展させた広範囲殺傷情報解体攻撃。

 

彼の演算器官を限界以上に酷使することによって、一瞬だけ彼が知覚できる世界の分子運動の、すべてを知ることができる奇跡の技。

 

 それによって作り出された演算に従い、ならされた指からフィンガースナップが響き渡る。その音の振動によって空気中の粒子にあたえられたバタフライ効果は、見る見るうちにいくつもの論理回路の群れを形成していき、彼に敵対していたメンバーたちの予想をはるかに上回る規模で、

 

 

 

 作り出された論理回路内にいるすべてのものを、破壊しつくす。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

現在時刻3:00ジャスト。

 

 トマス=プラチナバーグ居住ビル上層部。一部を残して完全消滅。

 

 その珍妙どころかありえない事態に、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)が総動員され捜査が行われた。

 

 結果わかったことは――トマス=プラチナバーグの完全な死亡と、なぜかそこにいた、留置所にいることになっている犯罪者生徒の死体があったこと。

 

 ただし、その死体たちはまるで魔法か何かでも食らったかのように体の端から分子の塵となって解体されるという、珍妙な死に方をしており、まともに残っていたのは脳を収めた頭蓋骨と、わずかな肉片だけだったという。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「最後の最後で派手にやっちゃったね……」

 

『いや……なんか、わりい』

 

 通信機越しに聞こえてくるヘイズの申し訳なさそうな声を聴きながら、真昼は苦笑し小さく経肩をすくめた。

 

「いや。いいデモンストレーションになったよ。とはいえ、ヘイズさんが対峙した《暗黒雷雲(ノイズクラウド)》以外の《メンバー》勢には逃げられたみたいだけど」

 

 あの死に体の状態からどうやって抜け出したのやら。と、真昼はわずかに驚きを示しながら、ワゴン車の中より、ヘイズの手によって上層部が綺麗に無くなってしまったトマスのビルを見つめた。

 

「とはいえ、これで初仕事も終了だ。みんな、お疲れ様。各自学園都市に悟られないルートを通って天樹寮に帰還をお願いするね」

 

『わかった』

 

『了解だ。真昼』

 

『あ~やっと帰れる』

 

『あ、ちょっと待ちなさいよっ!! まだ私を巻き込みかけた謝罪してないわよアンタ!!』

 

 率直な祐一の返事。安堵の息交じりのサクラの返事。だるそうなヘイズの声とそんな彼に怒り狂うクレアの怒声。

 

 そんな賑やかな仲間たちの声に笑みを浮かべながら真昼は、ワゴン車からおり、長時間座って端末をいじっていたため、凝り固まった体を大きく伸びをしてほぐす。

 

 そして、視界に入った窓のないビルを見つめ彼は小さく笑った。

 

「さてアレイスター。戦争を始めようか?」

 

――実動部隊用に組織名がもう一ついるよね。《メンバー》みたいな簡潔なのがいいんだけど。

 

 と、のんきな考えをしつつも彼は確かに、戦う意思を明確に宣言したのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ほう……。ではあの依頼はもともと失敗すること前提で組まれていたのかね?」

 

『……どうにもそうみたいね。今裏付け調査しているところだけど、トマスの安否確認は全くされなかったところを見ると、私たちはあいつらの力を図るために今回の依頼を受けさせられたみたい』

 

「ふん。笑えない冗談だな。暗部組織の中でも割と上位に位置する我々の組織が、完全な当て馬扱いとは」

 

――アレイスターめ。相変わらず嫌味な真似をしてくれる。

 

 どこかの薄暗い裏路地で、一人たたずんでいた博士はそう漏らし、小さな舌打ちを刻む。

 

 別に仲間が重傷を負ったり、大事な戦力を一人失ったことを悔やんでいるのではない。

 

 暗部に落ちるような人間などゴマンといる。補充などいくらでもきくのだ。

 

 いま彼が苛立っているのは、自分がそんな危ない戦場に送られても構わないと学園都市上層部に判断されたことだった。

 

 数学を調べ、真理の探究をし、学園都市に学術面でも戦力面でもそれ相応に貢献してきた自負があった彼にとって、それはあまりにも危機感を覚える事実。

 

 もはや自分は学園都市に必要とされていないと考えるには、十分なことだった。

 

――手柄がいる。自分の命をもう少し長らえさせるための……学園都市に延命を交渉できるだけの手柄が。

 

 そんな博士の内心を知ってか知らずか、端末の向こうの仲介人・警策は疲れきった声で話を締めくくる。

 

『とにかく、お互い生きていてよかったわね。よければまた……次の仕事で会いましょう。それにしてもあの黒づくめ……私に舐めた真似をしてくれて。今度会ったら絶対なます切りにしてやるわ』

 

 最後に何やら物騒な言葉を残し切断される通信に、博士はフムと鼻を鳴らしながら通信端末を見つめ。

 

「まぁ、今は生きて帰れたことを祝うべきか」

 

 と言い捨て、その通信端末を地面に捨て、オジギソウを使い細かい粒子になるまでバラしていく。

 

 そして通信端末が完全に消滅するころには、その路地裏に博士の姿はなく、いつもと変わらないくらい空間だけが残っていた。

 




 というわけで、ひとまず暗部編終了!! 真昼たちの統括理事会参入は成功という形で幕を下ろしました。

 この後誰が統括理事会としてトマスの後釜に座るのかは後々のお楽しみ!

 あ、ちなみに原作での対人戦闘では全く役に立たないヘイズの情報解体が、今回なぜあそこまでの威力を発揮したのかというと、原作では《虚無の領域》が対人で使われた例がないため想像で補うしかなかったということと、一般人では魔法士のような情報障壁を張ることができないためもろに解体を受けたということがあります。

 おかしくね? ということであればご指摘お願いします^^;

 次はやる気がなかった二巻の話。

 ぶっちゃけ飛ばす気でいたのですが、「姫神さんがかわいそうだろうがっ!?」という友人の主張を受けて書くことにしました。

 とはいえ、敵はウィザブレの誰を参入させても勝てる気がしないチート錬金術師……。

 誰突っ込んでどうやって攻略させよう……。
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