とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

26 / 68
吸血殺し《ディープ・ブラッド》編
二巻開始・ターゲット・三沢塾


 学園都市最深部――窓のないビル。

 

入口どころか窓一つない、外部からの外的侵入個所が一切ないため、そう呼ばれる漆黒のビルの中で、二人の男が邂逅を果たしていた。

 

 一人は不気味な液体に満たされた円筒状の水槽の中でさかさまに浮かぶ――ニンゲン、アレイスター・クロウリー。

 

 もう一つは年齢に似合わぬ巨漢である、赤毛のアクセサリーだらけのヤンキー神父――ステイル・マグヌス。

 

 一人は伝説の魔法使いであり、一人は対魔法使い戦闘集団であるイギリス清教《必要悪の協会(ネセサリウス)》のやり手魔術師。

 

 本来なら出会った瞬間殺し合いを演じても構わない役職に就く彼らであったが、その最悪の事態はアレイスターが持つもう一つの肩書によって何とか回避されていた。

 

 いわく――学園都市統括理事長。

 

 世界の勢力を魔術と二分する《科学サイド》の長。万が一殺してしまえば、魔術師と学園都市との全面戦争に発展しかねない人物。

 

――とはいえ、この男を殺す手立ても手段も、今の僕は持ち合わせていないが。

 

 と、ステイルは内心で吐き捨てながら、大人しくアレイスターが話し出すのを待っていた。

 

 彼は知っていた。アレイスターに反抗的な態度をとれば自分がどうなるのかを。

 

 五体が引き裂かれるくらいなら可愛い方だろうという予想が容易に成り立つ。

 

 つまり、彼はそれほどまで危険な場所を訪れていたということだった。

 

 230万人。魔術と異能勢力を二分する大派閥――科学。その科学が保有する異能者の人数がその数字だった。ステイルがアレイスターに敵意を持たれてしまったら、そのすべてが彼に向かって牙をむく。

 

 彼は今、敵の腹の中にいるのだ。

 

「呼ばれた用件は理解していると思うが……まずいことになった」

 

 言外に、自分たち魔術師の関与がうかがえる言葉がアレイスターの口から発せられる。

 

 ステイルは、脳裏の中から現在《科学》が保有している魔術師がかかわりそうな案件を瞬く間に頭に浮かべ、今回の件と関係がありそうなものを取捨選択していく。

 

 そして、

 

吸血殺し(ディープブラッド)ですね?」

 

 いくら格上であったとしても、幾ら敵の本拠地であったとしても、舐められるわけにはいかないと……今回彼が切りだそうとした案件について言い当てて見せた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「行方不明?」

 

「せ、正確にいうと帰ってこないなんですけど……。三沢塾って塾から」

 

 その日のお昼、とある新米教師が、自分が受け持つ部活に励んでいる生徒から、とある相談事を受けていることなど知らずに。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 上条当麻は疲れ切っていた。

 

 朝から炎天下の中、自分の《学》の高さを証明するため参考書を買いに行ったり、そのせいでまっしろしろすけシスターから反感を買い、ご機嫌取りの為タダでさえ少ない手持ちの金を削り某ハンバーガーショップのシェイクを買わされたり、そこで出会った珍妙な巫女服少女と連れの白シスターが喧嘩したり、その妙な巫女に絡まれたりと相変わらず散々な一日だったと彼は思う。

 

 クラスメイト達が見れば『また、フラグかっ!!』と憎悪がこもった視線を向けてくるだろうが(実際先ほどであった青髪ピアスは似たような反応をしていた)、本当に彼にとっては不幸なことなのだ。

 

――おかげで、明日からとは言わないまでも、あさってからは水と塩だけの生活を送らないといけないかもしれない。と、まだ八月入ったばかりなのに、そんな生命の危機を覚えてしまう自分の生活に絶望しながら、上条当麻はつれである真っ白シスター――インデックスの帰りを、とある小さな公園で待っていた。

 

――魔術の気配がするんだよ!! と、某美少女戦士たちのマスコットも真っ青なわけのわからない感知能力を発揮した彼女は、とりあえずと言わんばかりに現場に急行。当麻もついて行った方がよかったのだろうが、なんでも反応が微弱らしく、気のせいかもしれないから残っているようにと言われてしまい、ついていくタイミングを逃してしまった。

 

「インデックスさん……そいつぁフラグじゃございませんこと?」

 

――主に襲撃的な意味で。と、内心で呟きながらも、当麻はやはり動こうとはしなかった。

 

 当然だ。現実世界のそんなわかりやすいフラグがいくつもあってたまるか。いくら彼が不幸であっても、その現実世界の不文律は変わらない……はずだ。

 

「きっとインデックスもしばらく探検したら飽きて帰ってくるだろう……」

 

 と、楽観的に考え近くのベンチに腰を下ろした瞬間だった。

 

「久しぶりだね、上条当麻」

 

 突如かけられる声。驚く当麻。そして、彼は声が聞こえてきた方向へと、視線を向ける。

 

 そこには、顔のバーコードの入れ墨をした、ジャラジャラとシルバーのアクセサリーを施す巨漢のヤンキー神父が立っていて、

 

「……」

 

 当麻は思わず氷結し、何かを決意したかのように口を開く。

 

「ステイル、イギリスにいるはずのお前がどうして……。とうとう仕事をうっちゃって、インデックスのストーカーに正式就職しちゃったのか!?」

 

「たった一度の共闘で日和ってるんじゃないぞミュータントが!!」

 

 ブチキレた怒声と共に、紅蓮の炎剣が当麻に向かって振るわれた。

 

 どうやら襲撃フラグが立っていたのは当麻の方だったらしい。

 

「不幸だぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 いつも通りの悲鳴が、学園都市に響く。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「行方不明の捜索?」

 

 天樹錬は自分が住んでいる寮の食堂にて、彼の彼女であるフィアが作ってくれた晩御飯に舌鼓をうちつつ、夏休み中でも仕事があると本日も学校に行っていた天樹寮の母――黒沢雪からお願いをされていたところだった。

 

「正確には、行方不明っていうよりか《拉致監禁の可能性有》っていうのが有力ね。私が顧問している陸上部にいる子がね、友達が『三沢塾』っていう塾の見学に行ってから帰ってこないっていうのよ」

 

「夏休みだから合宿夏期講習しているんじゃないの?」

 

 錬はそういうと、食堂の隅に詰まれた大量のチラシや新聞に視線を向ける。

 

 その中にはたしか、月夜が「あんたたちにこんなもん必要ないわよね~」と言って捨てていた、予備校の宣伝チラシも挟まっていたはずだった。

 

「それがそう言う感じでもないのよね……。もしそうだったとするなら、着替えや荷物を取りに一回は寮に戻ってくるだろうし、予備校とそういう契約をしたっていう報告もない」

 

 雪がそう言いながらめくっている紙束は、確か錬たちが通う学校の予備校進学リスト。

 

 たとえ常識から外れた科学の恩恵を受ける学園都市でも、やはり将来のために予備校に通いたいという人物は存在するものだ。

 

 だが、だからと言って学校が易々と自分たちが開発している超能力者を、他の公共施設に預けるのは気が引けるということで、生徒たちは予備校や塾に行く際、どこに行くかを学校に報告する義務がある。

 

それを受けた学校がその予備校がはたして本当に安全なのか確認してから、初めて生徒は予備校や塾などに通うことができるようになるのだが……どうやらその行方不明の生徒というやつは、そういった申請をせずにいなくなってしまったらしい。

 

「教師として、警備員(アンチスキル)として、見逃しておけない事態よ」

 

「だろうね」

 

「で、三沢塾に乗り込もうと思っていたんだけど……よくよく考えたら敵の本拠地に乗り込んでいって『拉致監禁してますよね?』なんて聞いても、答えてくれないのは明白だし」

 

「……だろうね」

 

――たまに愚直すぎるところがあるのが雪姉さんの悪いところだと思う。と、錬は内心でため息をつきながらもコップに注がれたお茶を飲みほし、その瞬間に「おかわりです」といって、お茶を注いでくれたフィアに笑いかける。

 

「ありがとう」

 

「いえ」

 

 そう言ってほほ笑むフィアに、内心で悶えながら雪と目配せをする錬。

 

『フィアに聞かせて大丈夫かな?』

 

『大丈夫よ。不安にはさせるでしょうけど、聞き分けはいい子だから。ついてくるなって言ったらついてこないわ』

 

 内心でそんな会話をしながら(とはいえ、彼女は心を読めるので筒抜けかもしれないが)、雪と錬はそう結論をだし、変わりなく会話を続けた。

 

「で、雪姉さんは最終的に僕にどうしてほしいの?」

 

「ちょっと三沢塾に潜入捜査したいから、入塾希望者とその保護者といった体であの塾に訪れたいのよ。でね」

 

「僕にその入塾希望者をやれってことだね……」

 

 錬はその話の流れに思わずため息を漏らしながら、小さく肩をすくめた。

 

 どちらにしろ、日ごろお世話になっている雪の頼みごとを断るなどという選択肢は、錬にはない。

 

 だからこそ、錬はため息をつきながらも、

 

「オッケー。そのくらいなら、まかされたよ」

 

 再び戦場への片道切符を、手にしてしまった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ところで、今回錬は連れて行かないのか?」

 

「君と違って、実際問題どうかとは無縁の方向で、彼は完全にレベル1の能力者(科学サイドにくみする人間)だからね。変にバランスを崩したくないから、今回の魔術師掃討戦からは外したんだよ」

 

 と、ステイルと当麻が話していることなどつゆ知らず……。

 




 章の始まりだから短めに……。勘弁してください。

 ん? なに? それよりも、姫神さんが空気になってる?

 んなバカな。姫神さん救済のためにこの話を書いたのに、空気になっているだなんて本末転倒な事態ありえるわけが……あれ? あれ~?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。