とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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出会う登場人物達

「どうなってるのこれ!?」

 

「どうやら鍵を手に入れちゃったみたいね」

 

「鍵?」

 

 首をかしげる連をしり目に、先ほどまでの怒りなど、まるでなかったかのように通常業務に戻っていく青年の顔を見ながら、雪は苦々しげにつぶやいた。

 

「魔術師――特にシオンさんが言っていた前線に出ないタイプの魔術師――理系魔術師は、自分に有利な戦闘をするために、こういった結界を張った拠点を作ることが多々あるらしいわ。そして、そういったやつらは無駄な戦闘をしないために、結界に入れる人間を選別するための条件をその結界に張っているの」

 

「それが雪姉さんの言っていた鍵? でも、僕らはいったいどうして……」

 

「たぶんあいつが言っていた姫神秋沙の名前が原因だと思うんだけど……」

 

――ここの魔術師にとって重要な人物なの? でも、だとしたらあの職員の様子はいったい?

 

 雪が内心で首をかしげながら、姫神の名を聞いた錬の顔が若干険しくなっていることに気付いた。

 

「錬? どうしたの?」

 

「いや……。雪姉さん、僕その名前知ってる」

 

「え!? どういうこと?」

 

 錬から言われた意外な告白に驚きながら、雪は話の続きを促した。

 

「実は今日の夕方、スキルアウトに絡まれている巫女さん助けたんだけど……」

 

「あんたまた……」

 

――上条君のせいかどうなのか知らないけど、またフィアが泣くわよ……。と、おそらくまた恋愛フラグをたてたであろう自分の弟分に雪は若干呆れながら、錬の彼女である妹分にどう説明したものかと頭痛を覚える。

 

 それはともかく、

 

「その子の名前が姫神秋沙だった。たぶん学園都市の学生だと思うんだけど……」

 

「うちにいるってことはどこかの学生かしら?」

 

――調べてみる必要がありそうね。と、雪はあたりをきょろきょろと見回す。

 

「何しているの、雪姉さん?」

 

「ん? 決まっているでしょ? Iブレインを接続できそうなネット端末を探しているのよ」

 

 そういって雪は先ほど入塾説明を受けた時にもらった、三沢塾のパンフレットを取出し、ネットに接続するための手段を模索し始めた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「必然。結界が活動したな。また妙な侵入者が来たか……」

 

 自分の結界が何かを反転させる気配を感じ取り、アウレオルスは思わず眉をしかめた。

 

 たった一人の少女を救うために、錬金術の境地に達し、吸血鬼をとらえる術も編み出した。あとは姫神の臭いにつられて吸血鬼がやってくるのを待つばかりだというのに、敵対する魔術師たちはまるで怒涛のように襲い掛かってくる。

 

――憤然。いいかげん理解すればいいものを。いかなる魔術をもってしても、わが黄金錬成(アルス=マグナ)の破壊など不可能だということを。

 

 この世のすべてを書き換える力だ。この世のすべてを自分の都合よく改変する力だ。ただの魔術師ごときに負ける気など毛頭しなかった。

 

 だからこそ、

 

「ふむ。わざわざ私が出向く必要もないか」

 

 アウレオルスはそう言って、目の前に転がる死体を見つめる。

 

 先ほど感知した侵入者たちの前に入ってきた、もう一組の侵入者たち。

 

 一人は見知った魔力を持った男。彼が救いたいと願った少女の次のパートナーになった少年。確か役割は『親友』だった。

 

――くだらない。とアウレオルスは思う。

 

――あの子を救いたいのなら、あの子を助けたいのなら、いつまでも組織に属しているようではだめだ。と……アウレオルスはいまだにイギリス清教に属している『親友を救うと語るだけのあまちゃん』を嗤う。

 

 なぜなら、彼には自負があった。

 

 ローマ正教から出奔し、無数の魔術師と交戦を重ねながら自分の研究をさらに深め、とうとう錬金術の境地へと達した魔術師。

 

 彼女を救うためにあらゆる手段を講じた自負が、あらゆるものをなげうった自覚が彼にはあった。

 

――だからこそこちらの侵入者には負ける気はしない。せいぜい即席で作った自分のダミーで十分排除はできるはずだ。唯一やつが連れていた少年が気がかりではあるが、身のこなしなどからみておそらく魔術のど素人。大したことはできないだろう。

 

 大方こちらが戦闘の得意でない錬金術師だと油断して、必要悪の教会(ネセサリウス)の新人研修でもしているのだろう。と、アウレオルスは断じる。

 

 だからこそ、新たに入ってきた、見知らぬ侵入者は問題だった。

 

 どの程度の戦力を配置し、どの程度の力で迎撃するか、一切不明な戦力。油断していい相手ではないが、余計な力もさけないのが現状だった。

 

 何せ彼は吸血鬼がやってきたら即座に呼応し対処しなければならない。

 

 妙なところで余力をなくし、肝心の吸血鬼を捕えられないなどという事態になっては、意味がないのだ。

 

 だから彼は考える。目の前の死体を目にして考える。

 

 はたしてこの死体を……。

 

「どのように作り直せば、敵を穿つのに十分な戦力になりえるのか……」

 

 自然と、気おいなく、死者を辱めることを決めた錬金術師は、着用していた純白のスーツの懐から、鍼治療用の医療用鍼を取出し、

 

「必然――改造」

 

 自身の首へと何のためらいもなく突き刺す!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

その頃、魔術師ステイル=マグヌスからの救援要請を受け、彼とともにこの塾に乗り込んでいた上条当麻は、食らえば即死だ!! とかいわれた真っ白な光の粒たちに追われていた。

 

「あんのやろぉお!! 人のこと囮に使いやがって……次あったら絶対一発ぶん殴るぅううううううううう!!」

 

 そう絶叫しながら、当麻は階段の頂上から勢いよく飛び降り一気に光を引きはなす。

 

 着地の際、ひざのクッションを使っても足がものすごい痛みを感じたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

 魔術の素人とはいっても、自分の後ろから襲いかかってくる白い濁流の正体がなんなのか知らないとはいっても、食らえば死ぬといわれた攻撃を食らってもいいと考えられるほど、当麻は自分が不死身だとは思っていないのだから。

 

「だぁ、もう……不幸だぁああああああああああああああああ!!」

 

 だからこそ、彼はいつもの絶叫を上げながら必死に光の濁流から逃げるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「姫神秋沙……姫神秋沙」

 

「……」

 

 ようやく見つけた塾のネットスペースにて、腕にパソコンとIブレインつなぐための生態ケーブルを差し込み、学園都市書庫(バンク)をハッキング。その中にある学生のパーソナルデータを閲覧しまくっている雪の背後で、錬は彼女を守るかのようにたたずみ警戒していた。

 

 電子戦は祐一のほうが得意なんだけど……。と漏らしている雪ではあったが、それでも自分よりかはましだと錬は思う。

 

 何せ電子戦の練習として守護神(ゴールキーパー)なる情報処理の天才に挑んだのだが、彼は惨敗。Iブレイン使用者として正直シャレにならないトラウマを植え付けられてしまった。

 

――というか、なんで現存するパソコンなんて、光の速度で置き去りにするハードもっているのに、僕が負けたのさ!?

 

 いまだにあの勝負だけは訳が分からない。気が付いたらシステムアラートに引っかかってしまい、いつの間にか自分を取り囲んでいた警備員(アンチスキル)のハッキングプログラムたちが、一斉に自分に襲い掛かってきたのを見て、あわててコードを引き抜きネット回線から自分のパソコンを切り離したのは、あまり思い出したくない思い出だ。

 

「あったわ。能力のレベルはレベル4。能力名は《吸血殺し(ディープブラッド)》。へぇ、原石なのねこの子」

 

 というわけで、あまりネット回線に自分のIブレインをつなぎたがらない錬の代わりに、調べ物を順調に進めていた雪は、ようやく学園都市のバンクから求めていた人物の情報を入手した。

 

吸血殺し(ディープブラッド)?」

 

「なんでも……吸血鬼を呼び寄せる誘引体質と、血を吸った吸血鬼を即死させる猛毒を体内に宿す能力みたいね。問題なのは、本来確認されていないはずの吸血鬼たちに対して有効な能力を、どうして彼女が持っていると分かったのかなのだけれど……」

 

 彼女が吸血鬼を殺すところでも目撃したの? と、小さく洩らされた雪のつぶやきに、錬は思わず背筋に寒気が走る。

 

――あの子……誰かを殺したことがあるのか。

 

 それはあまりに悲しいことだと思った。出会ったのは数時間前。交わした言葉はごく少ない。

 

 そんな彼女との浅いともいえない、糸みたいにすぐ切れそうな関係ではあったが、それでも錬は、姫神が誰かを殺して喜ぶような人物には見えなかった。

 

 そんな彼女が、確実に誰かを殺している。

 

――姫神は、その時いったい何を感じていたんだろう? 錬がそんな風に考えている時だった。

 

「ん? でもこの子、所属していた学校から無断中退してる」

 

「え?」

 

 新たに告げられた情報に、錬は現実に引き戻され、

 

「どちらかというと誘拐みたいな感じになっているようね……。アンチスキルにも捜査届が出てたわ」

 

「それが三沢塾にいるってことは……」

 

 続いて告げられた話に、思わず奥歯をかみしめ憤激をあらわにする。

 

「犯人はここに潜んでいる魔術師? でも、時期的に見ていくらなんでも早すぎる。魔術師なんて異端な存在が入り込んでいたら、アレイスターが黙っていないはずなのに」

 

 そんなわかりやすい錬の態度に苦笑を浮かべながら、雪がそう言って小さく首をかしげた瞬間だった。

 

「……!? あなたは」

 

「え?」

 

 背後からぶつけられた驚いた風な声を聴き、錬はあわてて振り返り、雪も視線をそちらに向ける。

 

 そこには「どうしてここに?」と驚く、巫女服が似合う黒く長い髪を持った少女が一人たたずんでいた。

 

「姫神さん!?」

 

 吸血殺し(ディープブラッド)。姫神秋沙。錬が彼女と二度目の接触を果たした瞬間だった。

 

 そして、

 

「だぁああああああああああああああ!? 不幸だぁああああああああああああ!?」

 

「っ!?」

 

「あっ……」

 

「えっ!? 当麻!?」

 

 驚く彼らの間に飛び込むように、廊下の陰から飛び出してくる少年が一人。

 

 黒い髪をつんつんと立たせた、夏服を着た男子高校生。

 

 右手にすべての異能を殺す力を宿した、錬の親友。

 

「って、あれ!? 錬に雪さん!? なんで? 今回の件には非参加だったんじゃ……。それに姫神!? よかった、無事だったのか!!」

 

 何やら大いなる勘違いをしているらしい当麻の発言に、

 

――訳が分からないんだけど。と、思わず頭を抱える錬。だが、彼らに悠長な会話をしている余裕を、

 

「っ!? なにあれ……!!」

 

「当麻! 今度はいったいどんな不幸を連れてきたのさ!?」

 

「あっと、忘れてた!?」

 

 敵の攻撃は与えてくれなかった。

 

 当麻を追いかけるように流れてきた光の球体たち。

 

 明らかに得体のしれない力を宿した、決して触りたくないその姿を見て錬は再び冷や汗を流す。

 

――異能が消せる当麻が逃げているってことは、あれは触るのもまずいような相当まずいもの!? と、錬が考察しかけた直後、光の濁流がこちらに向かって走ってくる当麻に従い、錬たちに向かって襲い掛かってきた!!

 

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