とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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終わる争乱。錬金術師の道しるべ

「当麻っ!!」

 

 錬はそんな怒声じみた声を上げながら、塾長室へと飛び込んだ。

 

 そこには、腕を斬りおとされ倒れ伏した当麻と、気絶した姫神秋沙を抱え、のんきに煙草をふかしながら下の戦闘を見つめるテイルの姿があった。

 

 錬は、右腕がなく肩口から夥しい量の血を流す当麻を見て一瞬固まってしまったが、当麻の体が規則正しく呼吸を刻んでいるのを確認しひとまず安心する。

 

 そして、それ以上に最悪の事態になりつつある現実を思い出し、慌ててステイルと同じように窓から下を覗き込んだ。

 

「雪姉さんが来ちゃったの!?」

 

「あぁ……すごいことになってるぞ?」

 

――やっぱりか! さっき、たまたま通りがかった窓の横を人間らしき物体が信じられない速度で落下していったときから、なんとなく嫌な予感はしていたんだけど……。

 

 予想通りになってしまった事態に、錬は悔しそうに唇をかみしめつつも、何とかしてこの状況を打開しようと思考を巡らせる。

 

「とにかく、僕も下に降りてくる。ステイルさんは姫神さんの目を覚まさせて、できるだけ早く下に送ってくれ」

 

吸血殺し(ディープ・ブラッド)を?」

 

 不思議そうにこちらを見てくるステイルに、錬は大きく首肯を示し、自分の脳内からいくつかの機能をたたき起こす。

 

 そして、

 

「アウレオルスを止められるのはもう彼女しかいない。だから、今でも姫神さんがアウレオルスを救いたいと願っているなら、もう一度アウレオルスと話してほしいんだ」

 

「やめておけ。たとえアウレオルスがそれで止められるのだとしても、それはあの男を殺すつもりでいるあの女性の前に立ちふさがるということだ。正直僕なら御免こうむるね」

 

 インデックスはもうアウレオルスの手元から離れ、自分の庇護下にあるせいか、ステイルの言葉はとてつもなくドライで平坦だった。

 

 きっと彼はアウレオルスが死のうがどうなろうが、インデックスさえ無事ならどうでもいいと考えているのだろう。

 

 その考えは理解できるし、錬だって姫神と約束さえしていなければアウレオルスを見殺しにしていただろう。

 

 だが、

 

「約束しちゃったから」

 

――姫神と、アウレオルスを止めるのを協力するって。と、錬は小さく笑うしかできなかった。

 

 自分は相変わらず、どうしようもない貧乏くじを引く男だと。

 

「まぁ、僕はあの人に息子みたいに可愛がられているからね。いざとなったら情に訴えかけてでも止めて見せるさ」

 

――それが姫神さんの願いだからね。そういうと錬も苦笑いを見て、捨ているも何かを感じたのか、盛大に舌打ちを漏らしながら自分の首にぶら下げてある十字架を引きちぎり錬に投げつけた。

 

「まて、天樹錬。選別だ」

 

「なにこれ?」

 

 自分の手に収まったその十字架を見て首をかしげる錬に、ステイルは苦々しげな顔でぶっきらぼうに告げる。

 

「もしも本当にアウレオルスを救うつもりならば、それを奴にあった時に渡しておけ。そうしないと、今度はあの魔女の代わりにローマ生協の騎士団がやつを殺すだろうからな」

 

「……ありがとう」

 

「君のお礼なんかいらない。反吐が出る。僕らは馴れ合うような関係ではないはずだ」

 

本気でそう言っているのか、今にも吐きそうな顔色になったステイルに錬は肩をすくめながら、自分の身を窓の外へと躍らせる。

 

 地面にたたきつけられた錬金術師に向かって紅蓮を突きつける雪に向かい、自由落下を開始した!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「楽には殺してあげないわ」

 

 アウレオルスは自分首筋に添えるように配置された真っ赤な刀身を、絶望的な気持ちで見つめていた。

 

 もはや黄金錬成(アルス=マグナ)は発動しない。発動したとしても、その力はきっとアウレオルスに害する形で発動してしまうだろう。

 

 なぜなら、彼は体に叩き込まれてしまったからだ。

 

――なにをしても、この聖人には勝てない……。

 

 深い絶望がアウレオルスの心の中に降りる。

 

 もう、彼は動くことさえできなかった。

 

――いったい何が悪かったのだ?

 

 アウレオルスはそんな絶望の中で、最後の悪あがきと言わんばかりに自問自答していた。

 

 私が三年間もインデックスを放置していたのが悪かったのか? 多少無理があったとしても、彼女を連れて逃げればよかったのか?

 

 それとも、ローマ正教を裏切らずその庇護下でインデックスを救うための研究をするべきだったのか? そうすれば、黄金錬成(アルス=マグナ)ももっと完全な形で作り出せたのではないのか? 少なくとも、この聖人の逆鱗に触れる方法ではない、もっと違う方法で……。

 

 そんな考えばかりがアウレオルスの脳内をよぎる。

 

「まずは腕を斬りおとすわ。上条君が味わった激痛を思い知りなさい。次に全身をなます切りにしてあげる。体の内側から血管を破裂させられたあの女の子と同じように、血だらけになるまでね」

 

 静かな怒りを瞳に湛える教育者は、そんなアウレオルスの心情を知ってか知らずか、非常な言葉を紡ぎ出していた。

 

 そんな彼女の顔を見て、アウレオルスは初めて笑みを浮かべることができた。

 

 その笑いは、戦う者の不敵な笑みではなく、余命を告げられた重篤患者のようなやけっぱちな笑みだった。

 

「かまわん……。必然……あの子を救えなかった以上、私はもう生きている価値はない」

 

「よくわかっているじゃない?」

 

 そして、そんなアウレオルスの言葉に従うかのように、断罪の剣が振り上げられた。

 

 そんな光景を、アウレオルスは目を閉じ受け入れる。

 

――あぁ、思えば……どうしようもない人生だった。と。

 

 が、

 

 アウレオルスの眼前で響き渡った、硬質な音。鉄でも殴りつけたかのようなすんだ音が、アウレオルスの死をはねのける。

 

「なっ!?」

 

 目を閉じた先から聞こえてくるのは、明らかな驚きを示す驚嘆の声。

 

 その声を不思議に思いアウレオルスが目を開けると、そこにはアウレオルスを守るかのように突如出現していた、淡青色の氷の盾があった。

 

「何してるの、雪姉さん!」

 

「錬!?」

 

「生徒の前で……教師が人殺しをするつもり?」

 

「っ!?」

 

 聞こえてきた声に聖人は目を見開き、声の方へと顔を向け何かきつい一言を言われたかのような顔で、凍り付いた。

 

 そのことを不思議に思い、アウレオルスが目を向けるとそこには学生らしいシャツと黒のスラックスで身を包んだ、一人の少年が佇んでいた。

 

「初めましてだね、アウレオルス=イザード。僕の名前は天樹錬。そこにいる雪姉さんの生徒で……君が右腕を斬りおとした上条当麻の親友で、君が殺してしまった少女の――姫神秋沙と約束した、ただの部外者だよ」

 

 そう告げた少年の息は少し切れぎれだった。よほど急いでこちらに来たのだろう。

 

 そして、そんな少年は最後に大きく安堵の息を吐いた後、

 

「まにあってよかった」

 

 屈託のない、本心からの安心を得たような笑顔で笑った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「錬っ! でもこいつは!!」

 

「確かに、この人がやったことは僕も許せないよ」

 

 何か言いたげな顔で食い下がってくる雪の言葉に、錬は先んじて自分の言葉を投じた。

 

「でもさ、それ以上に……この人に死んでほしくないって言った娘がいたんだ。だから僕は、誰も死なない方の選択肢をとる」

 

「……錬」

 

「誰もが笑って過ごせる世界なんてないのかもしれないけど、一人でも多くの人たちが笑える世界を作ろうとみんなががんばれば、泣く人はきっといくらでも減らせる。そう教えてくれたのは雪姉さんでしょ?」

 

――だから。

 

 錬はそう言いながら、必死に雪の説得をした。

 

「だから、こんなところで女の子を泣かすような選択肢をとらないで、雪姉さん」

 

「…………………」

 

 錬のその言葉に、雪の瞳が大きく揺れた。そして、

 

「……くっ」

 

 雪はおとなしく剣を引き、紅蓮を空間のポケットにおさめてくれた。

 

「私はあなたを許さない……。大切な生徒を傷つけたあなたを、許すことは絶対にできない。でも」

 

 そして雪は悔しそうな顔で倒れているアウレオルスを詰った。

 

「教師として、あなたをしたっている子供がいると知った以上、その子を泣かせるようなこともできないわ……」

 

「そうか……」

 

 どこか、残念そうな声でそう答えたアウレオルスに、雪はありったけの怒りを込めた言葉をぶつける。

 

「死ぬほど生きなさい、アウレオルス=イザード。あなたを生かしたいと願った少女に感謝しながらね……」

 

 そう言って雪は自分の体を半透明な揺らぎで包み込みその場から消えた。

 

 錬が視線を上に向けると、先ほどアウレオルスをたたき出した窓の淵にいつの間にか雪が立っている。その手には誰かが抱えられていた。おそらく右腕を斬りおとされた当麻だろう。

 

 そして、そのまま当麻を抱えた雪は無言でアウレオルスをもう一度一瞥し、再びそこから姿を消した。

 

――当麻を病院にでも連れて行ったのかな? そんなことを考えながら、

 

「立てる? アウレオルスさん?」

 

「……私のことはもう、放っておけ」

 

――今日一番の難関だね。と、無気力に倒れたままのアウレオルスを見て、表情を引き締めた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

――もはや私に生きる価値はない。アウレオルスは内心でそうつぶやきながら、結局生かされてしまった自分の悪運に唾を吐きかける。

 

「なんだというのだ? 殺すと言ったり、生かすと言ったり……私はいったいなんだというのだ?」

 

――これでは愉快なピエロではないか?

 

 そうつぶやいたアウレオルスは、これほどいまの自分を的確に表した存在はないと思った。主人に逆らえない人形劇のピエロ役。今のアウレオルスを言い表すには、それが一番的確だった。

 

 救いたかった少女はどこの馬の骨とも知れない少年に横からかっさらわれ、

 

 八つ当たりをしようものなら聖人級の敵が飛んできて自分を粉砕し、

 

 最後には惨めに地面に横たわりながらも、よく知りもしない少年に情けをかけられた。

 

 こんな無様な人間が、いったいこの世界のどこにいる? アウレオルスはそんなことを考えながら、力なくその場に横たわる。

 

「この三年……すべてが無駄だった。助けたかった少女ももういない。成したかったことはもう消えた。すべて私の……知らないところでだ」

 

 結局自分は主人公の器ではなかったのだとアウレオルスは思う。見ず知らずの少女だったはずの、姫神秋沙のために拳を握ったあの少年とは、土台格が違ったのだとも……。

 

 そして、

 

「この世界が、あの少年のような主人公しか……誰かを救えない世界だというのなら、私はもうこんな世界に未練はない」

 

――殺してくれ。

 

 最後の言葉は、懇願のようであり、悲嘆のようであり、祈りのような静かな言葉だった。

 

 だが、

 

「バカなこと言わないで」

 

 錬は平然とその祈りを一蹴した。

 

「なぜだ?」

 

「言ったでしょ? 僕ははっきり言うと君のことを許したわけじゃない。むしろ、本当ならあのまま雪姉さんになます切りにしてもらっても僕は一切かまわないんだ」

 

 目の前であんな女の子を見せられちゃね。と、何かを思い出すようにつぶやく錬。アウレオルスは「なんのことだ?」と一瞬考えかけ、きっと錬が自分の術式の材料となった超能力者のなれの果てを見たのだろうという考えにいたり、眉をしかめた。

 

――確かに、この少年にとっては厳しい現実だったのかもな。と、一度だけ見たことがある、体が悲鳴を上げ、全身から血を噴出しながら倒れた魔術を使った超能力者の姿を思い出し、アウレオルスは眉をしかめた。

 

「ならばなぜ?」

 

「耳でも遠くなったの? 君のことを助けてほしいって頼まれたからに決まってるでしょ」

 

 辛辣にそんな言葉を吐き捨てながら、錬はさっさと身をひるがえしアウレオルスに背を向けた。

 

「謝る準備をしておいた方がいい。そろそろこっちに来るから……。あ、それと」

 

 そして、錬は後ろ手に何かをアウレオルスに向かって投げつける。

 

 放物線を描いてアウレオルスの体の上に落ちたのは、中心に赤いラインが走る十字架だった。

 

「お土産。さっき雪姉さんが言っていたみたいに、せいぜい死ぬほど生きるんだね」

 

 最後にそう言って歩いて行った錬。そして、彼が三沢塾の玄関に近づいていくと同時に、彼の体に隠れていた、こちらに駆け寄ってくる一人の少女の姿が見えた。

 

「あっ……」

 

 その少女の姿を見て、アウレオルスは思わずそんな間の抜けた声を上げる。

 

 一度死んだ体を酷使しながら急いで走ったのか、整っていた黒い髪を乱しながら、ボロボロになった緋袴を翻し、真っ白な服の身を包んだその少女は、

 

「よかった……無事で」

 

 ボロボロになって倒れる、こちらを見て泣きそうな顔をしている姫神秋沙だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「大丈夫?」

 

「……憮然」

 

 心配そうに倒れるアウレオルスのもとに座り込んだ姫神は、彼の頬に走った裂傷に触れ傷の具合を確かめる。

 

――出血の量や出方からしてそれほど深く切られたわけじゃない。打撃が主な攻撃手段だって聞いていたから、むしろ体の内出血の方が心配。

 

 そんなことを考えながら、てきぱきと自分ができる応急処置を行っていく姫神。

 

 彼女の能力は大きく血液に依存する。そのため、こと出血関係の負傷は彼女にとっては専門分野と言っていいものだった。

 

 そんな姫神の姿を見て、しばらく無言だったアウレオルスは、

 

「なぜだ……」

 

「っ!?」

 

 ようやく、重い口を開けた。

 

「なぜ私をここまでかいがいしく世話をする? 私はお前を殺しかけた……いや。殺したつもりだったんだぞ? 秋沙……」

 

 アウレオルスのそんな問いかけに、姫神はしばらく無言になったあと、

 

「痛いところ……ない?」

 

 今はその返答よりも治療の方が優先としたのか、少し硬くなった声でアウレオルスに確認をとった。

 

 そして、わずかながらに苦痛に顔をゆがめながらも小さく頷くアウレオルスを見て、安堵の息を漏らした後、

 

「正直……ショックだった」

 

「……」

 

 素直に自分の本心を吐露した。

 

――何もわかりあえていなかったことは私をためらいなく殺した時に分かっていた。でも、それでも、嘘をついたらバレるぐらいに関係だったと信じたいから。

 

 姫神秋沙は正直な自分の気持ちを告げる。

 

「あなたにとってはあのインデックスさんっていうのが世界の中心で、私なんかそこらへんの石ころよりも気にかけていないことくらい、話を聞いていて理解はしていた」

 

「ならばなぜ」

 

 なぜだ……。まるで老人のように疲れ切った声音でそう繰り返すアウレオルスに、姫神は何度か声をつかえさせながらも、

 

「わ、私を……助けてくれたのは……あなただったから」

 

「っ!!」

 

 泣きそうな震えた声で、今度こそ届けと願いながら自分の気持ちを言葉に変える。

 

「上条君でも、天樹君でも、あの女の人でもない……。三沢塾で苦しんでいた私を助けてくれたのは……あなただった。アウレオルス」

 

「……」

 

 姫神の必死の告白はきちんと彼に届いたのだろうか? アウレオルスは無言のまま、ただ茫然と姫神の顔を見ているだけだ。

 

「ねぇ、アウレオルス……。私じゃダメなのはわかっているけど、あなたの目的にすらなれないことは理解しているけど……こんな私は、あなたみたいなかっこいいヒーローに助けられたんだって……誇っていても、良いですか?」

 

 そう告げた彼女の瞳からは、とうとう限界に至ったのか、いくつもの涙が零れ落ち、アウレオルスの体に落ちる。

 

 ヒーローにもなれず、魔法使いにもなれず、ヒロインにもなれなかった彼女(ひめがみあいさ)

 

 だが、この時確かに彼女は、泣きながらという情けない姿を見せながらも、絶望していたアウレオルスを救い上げた、ヒーローであり、魔法使いであり、ヒロインになっていた。

 

「あぁ……。そうか、こんな近くにあったのか」

 

 そのことにようやく気が付いたアウレオルスは、情けない苦笑を顔に浮かべながら、自分のために泣いてくれた少女の涙を、必死に動かした手で拭う。

 

「アウレオルス……?」

 

「私の三年間は……無駄ではなかったのか」

 

 救いたい少女は救えなかった。

 

 無駄な犠牲を出しただけの、罪を重ねただけの日々。

 

 だがしかし、この少女が誇ってくれるといったのは、他の誰でもない自分だった。

 

 この少女に平穏を与えたのはほかでもない自分だった。そのことが、アウレオルスのすさんだ心に光を射し込み、

 

「うん……。うん……。そうだよ、アウレオルス。私を助けてくれて、本当にありがとう」

 

「こちらこそ……」

 

ありがとう……秋沙。すまなかった。最後にそう言って、塾で朝食を食べていた時のように、自分に笑いかけてくれたアウレオルスの笑顔を見て、姫神も涙にぬれた顔を必死に動かしながら、アウレオルスに笑いかけるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから数日後。とある病院にて。

 

「結局、俺たちは何をしたんだろうな?」

 

「身内の不始末を何とか防いだだけなんじゃない? いや、ホンと雪姉さんが迷惑かけてごめんね?」

 

「そ、そんなことはない! あなたたちがいなかったら、私はあそこで死んでいたから」

 

 いつも通りいつものごとく、右腕をざっくり斬りおとされた上条当麻は、もはや専用の病室となりつつあるとある病室に入院していた。

 

 幸いなことによほど鮮やかな切断面だったのか、当麻の右手は問題なくくっつき、しばらく安静にしていれば元に戻るとのこと。

 

 とはいえ、最後にカエル顔を医者が言っていた「なかなかファンタジーな体だよね、彼。まさかあんなにきれいにくっつくとは思っていなかったよ」という言葉が、不穏すぎた気がしたが、そこは錬の専門ではないので無視することとする。

 

 というわけで、いつも通り当麻の見舞いにやってきた錬は、助けてくれたお礼が言いたいといって現在小萌先生の家でお世話になっている姫神を連れ、こうして当麻のお見舞いにやってきたわけだ。

 

「よし……リンゴ皮むき15メートル達成……」

 

「すごい……」

 

「当麻のおかげでこのスキルだけは上がったよ」

 

「ふふん! 上条さんに感謝してもよろしくてよ!!」

 

「調子に乗るな万年入院者」

 

――本当は僕がフィアにむいてほしいのに。と、若干舌打ちをしながらも、これ以上フラグを立てられたら本気で当麻の女難に巻き込まれかねないので、当麻のリンゴの皮むきは決して女にはさせる気はない錬。

 

――リンゴの皮むきごときであっても、フラグを立てるのがこの男。警戒するに越したことはない。フィアが一回だけやりかけたことがあったけど、あれは本気で肝が冷えたね!! 

 

 そんなことを内心で考えながら、錬の手の温度によって鮮度が落ちないよう、マクスウェルで完璧にリンゴの温度を冷たいままで制御する錬。完全に能力の無駄遣いだったが、便利なので仕方がない。

 

 彼がリンゴの皮むきでギネス申請される日も、そう遠くないのかもしれない。

 

「で、結局アウレオルスはどうなったんだ、姫神?」

 

「流石に学園都市にはいられないからって、ステイルさんが学園都市の外へと逃亡させたみたい。イギリス清教? ってところに、しばらくは身を寄せるんだって」

 

「イギリス清教? 確か、アウレオルスってローマ正教って場所から狙われているんだよな? 大丈夫なのか?」

 

「さぁね。学生のぼくたちにそれを聞かれても何ともとしか言いようがないよ。ステイルさんが『女狐め……』って吐き捨てていた、最大主教(アークビショップ)様とやらの政治手腕に期待しよう」

 

 とはいえ、悪い選択肢ではないのだろうと錬は告げた。

 

「もともとアウレオルスの目的である《一般人の魔女被害撲滅》は、イギリス清教の最大教義である《異端な魔術師の排除》と重なるところがあるらしいから、組織的にはローマ正教よりもうまくやっていける可能性があるって。それに、アウレオルスは世界で初めて、黄金錬成(アルス=マグナ)の実用化に成功した人物だ。今までの罪なんか帳消しにしてでも、欲しがる組織は大勢ある」

 

 それこそ、敵対しないのであれば今までの罪はすべて水に流すと、あのローマ正教の騎士たちが言ったほどにだ……。

 

 もっとも、あの時は上からの支持だったらしく、本人たちは物凄く不服そうな顔をしていたが。

 

「って、そうだった……あの騎士たちはどうしたんだよっ!?」

 

「姫神さんがアウレオルスに会う前にイギリス清教との証であるケルト十字渡しておいたから、何とかどいてもらえたみたいだよ? ひかえおろ~。この紋所が目に入らぬか~!! みたいなことをステイルさんが言っていた」

 

「政治問題がどうとかこうとか言っていたけど……」

 

「うん! ならいいんだ!!」

 

――当麻。逃げたね? と、なにやら難しいことを言いかけた姫神にかぶせるように話題をぶった切った当麻に、錬は呆れたよな視線を向ける。当然それには気づいているのか、必死に目をそらし錬の視線から逃げる当麻。

 

「あと、姫神さんの能力も、インデックスさんとステイルさんが掛け合って何とかしてくれるんだって。歩く協会(・・)だっけ?」

 

「字が違うぞ、錬……」

 

「《歩く教会》だって。これがそう」

 

 そう言って姫神が胸元から出したのは、質素な形をした十字架。

 

「これで吸血鬼を呼び寄せる誘因体質をどうにかできるみたい。イメージ的には、見えないビニール袋をかぶせて密閉した状態だとか」

 

「匂いが飛ばないようにってことでいいんだろうな。あとでインデックスに聞いておくよ」

 

「うっかり触って壊さないでよ当麻。これ彼女の生命線なんだから」

 

「わかってるって、インデックスを裸に剥いちまった時の二の舞は起こしませんのこと……よ」

 

 瞬間、当麻の失言を聞いた錬と姫神の目が、絶対零度の冷たさに変わるのを感じ取り当麻は笑顔を凍りつかせる。

 

「うわ、引いたわ……今のはガチで引いたわ」

 

「おい、錬!? いつもと口調が変わっているのですがっ!?」

 

「えっと、110番110番。まって、この場合児童問題相談所の方が……」

 

「やめて姫神ィイイイイイイイイイ!? その正義感は上条さんを社会的に殺すための断罪の剣ぃいいいいいいい!!」

 

 ギャーギャーワーワー三人が騒いでいる間に、今日も今日とてやってきたインデックスが、

 

「あぁあああああああああああ!! また当麻が《ふら~ぐ》たててる!! 今度はあのハンバーガーくれた巫女さんなの!? もう、当麻はどうしていつもそうなんだよっ!! 人がせかっく心配してお見舞いに来てい上げたのにぃいいいいいい!!」

 

「いや、待てインデックス!? お前には隣にいる錬が見えんのぎゃおあああああああああああああああああ!?」

 

 と叫びながら、フライング噛みつきを発動。当麻の頭に盛大に食らいつく。

 

 一つの事件が終わった学園都市は、今日も平和な時間が流れていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして、場所は変わりイギリス。

 

 そこにある巨大な図書館において、一人の青年が静かに魔導書を刻んでいた。

 

 少しでも魔女の被害を減らせるように。

 

 少しでも多くの人を笑顔に変えられるように。

 

 そして、

 

「必然。あの娘の笑顔を、今度こそきちんと守れるようにしておかないとな」

 

 そう言って彼が笑いかけた先には、いつだれが撮ったのかもわからない一枚の写真があった。

 

 そこでは、姫神が作った手作り料理を三沢塾の食堂で共に食べて笑いあっている、アウレオルスと姫神の姿が映っていた。

 




ようやく二巻終わったぁあああああああああT-T

知ってるか!? これ第三次世界大戦まで続くんだぜ?

終わる気がしねぇえええええええええええええええT-T

ちょっと休んでから、三巻の序章。超電磁砲の話もちょっと入れる予定なので、これよりも長くなるかも……。
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