プロローグ・幻影と一方通行
あるとき、ある夜、ある日のこと。
今の彼はとても機嫌が悪いのか、ただでさえ悪人面である形相がさらに凶悪になっていた。
胸糞悪い頭の悪い挑戦者たちに、学園都市暗部からかけられるわずらわしい勧誘。壊されたまともに住めたものではない自宅に、
「ちッ」
目の前にちらつく、後味の悪い言葉を残してあっさり死んでいったクローンの幻影。
実際その誘いは学園都市暗部からだった。ろくなことにならないことくらい重々に承知していた。その過程で胸糞悪いことになるだろうとも覚悟はしていたのだが、
「なンなンだよ、ったく。雑魚を二万体プチプチつぶしてレベル上げたァ、ずいぶんと気長な計画じゃねェか」
愚痴でもいうかのようにそう漏らす。
そもそも、あんなクソザコい相手にそんなことして、果たして本当にレベルアップができるのか一方通行には疑問だった。
それほどまでにあの敵は弱かった。クローンは貧弱だった。
あれではまるで自分に襲い掛かって死んでいく、普通の人間のよう……。
「ちィ」
そこまで考えて、一方通行は再び舌打ちし思考を区切る。
今更計画から離脱するつもりはないのだから。反吐が出ようが、吐き気がしようが、続けると自分自身で決めたのだから、今更こんなことを考えても仕方がない。
すでに人一人殺した後で、こんなくだらないことで悩むなどとバカバカしいにもほどがある。
「ッてェ……人じゃないンだったッけか?」
――人形か、人形……。
そう吐き捨てながら、一方通行が自宅への近道を使うために裏路地をまがった時だった。
「いいところ? と、ミサカは初めてきく面白そうな場所の名前に目を輝かせながら問いを発します」
「あぁ、そうや!! 君ももう中学生なんやったら、大人の夜の城――ラブホの一つや二つくらいいっとかなあかんなぁ。あ、でも君がまだ子供やいうんやったら話は別やけど」
「むぅ。失礼な。ミサカにはナンパをあしらう手段ごときいくらでもインストールされていますが、いいでしょう。その挑発にはあえて乗って……」
馬鹿が馬鹿に捕まってバカな話をバカバカしくしていた。
要するに、自分の実験相手であるクローン――ミサカシスターズが、真っ白な格好をしたクラサン装備の学生につかまり、挑発をうけあっさりそのナンパに乗ろうとしていた。
――
おそらく以前研究員たちが言っていた、外での実験のための研修か何かのために出てきたのだろうが、その際変な人間に引っかかって実験に支障が出ないように、そういった人間用の対応マニュアルが学習装置を使って、シスターズにはインプットされているはずだった。
だというのにこの体たらく……。正直一方通行としては学園都市の科学にもできないことはあるもんだと呆れつつ、
「おい。なにしてンだ」
「ん?」
「あ」
声をかけないわけにもいかなかった。
何せ彼女は一方通行がレベル6に至るために絶対必要な存在だった。こんなくだらないことでろくでもない影響受けて、実験に支障が出るようならばそちらのほうが困る。
だから一方通行は声をかけて、
「ッたくよォ。変なのに引ッかかッてンじゃねェよ」
「ふふん! なンですか一方通行? よもやミサカのほうが先に大人になることに対しての嫉妬というものですか? と、ミサカはほんの少しだけ自慢げに思いながらも、それがばれないように淡々と口にして……」
馬鹿が口を開く前にベクトル操作。その男の眼前に信じられない速度で到達した後、その右手で軽く触れ、
「え?」
真っ白な男を砲弾のような速度で打ち出した。
錐もみ状に回転しながら裏路地を一直線に吹き飛ぶ男。そして、男は十数メートルほど先の地面にたたきつけられ動かなくなる。
「……」
その光景に思わず無言になるミサカを睨み付け、一方通行は口を開いた。
「おいおい、勘弁してくれよ、クソッタレが。お前、自分の立場が分かってンのか?」
「……どういうことでしょう? と、ミサカは疑問の声を上げます」
「決まってンだろう。お前は実験のために生まれて死ぬンだ。妙なところでトラウマ作られて実験に支障が出たら困るンだよ」
「トラウマとはどういうことでしょう? と、ミサカは疑問を」
「うるせェ。これ以上バカな話させてンじゃねェ」
最後にそう吐き捨てながら、一方通行は踵を返す。実験の当事者としての務めを果たした以上、これ以上このクローンと話す気は起きなかったから。
だが、
「もしかして、あなたはミサカを助けてくれたのですか?」
「あァ?」
――この俺が? 学園都市最強にして災厄と恐れられたこの俺がッ!? まさかの人助けだと!?
凶悪な王者として常に傍若無人な振る舞いをしてきた一方通行にとって、そんなイカレタ評価は聞き捨てならなかった。
「ざけてンじゃねェぞ!!」
だから一方通行は怒声交じりに振り返り、
「あいたたたたた。いきなり何すんねん少年? いや、まぁ確かに美人な彼女さん変なところに連れて行こうとしたんは悪かったけどさぁ」
先ほど一方通行が吹き飛ばした男が、うめき声をあげながらもあっさり立ち上がり、服についた汚れをぱんぱんとはらっている光景を見て、思わず絶句した。
――馬鹿な。ありえねェ。一方通行は内心でそう思いながら、愕然とする。
――いッたいどれだけの人間を壊してきたと思ッてやがる。さっきの攻撃が、人間一人の意識を刈り取るのに十分な打撃だったことも、30分42秒は男が起き上がらないであろうことも、全部わかっていたはずだろォが!?
だというのに、男はあっさりと立ち上がっていた。そして、
「ぽっ……。と、ミサカは生まれて初めて受けた評価にほほを染めてみます」
「お前はお前で何してやがんだッ!!」
クローンが突如発した信じられない言動に、アクセラレータが怒声を上げるのを苦笑いで眺めながら、真っ白な男は肩をすくめて歩いてきた。
「まぁまぁ、少年、落ち着こうや? あかんでそんな彼女さん怒ったら。良好な交際関係を築くには一に男の我慢と忍耐や」
「だからちげェ……」
「あぁ、そうや。彼女さんナンパしかけた詫びになんかおごったるわ? 金ないから近くのファミレスになるやろうけどかまへん?」
「ファミレス……。データでは見たことがありますが、ミサカは実際行ったことはありません。研修に金銭は持っていけないので」
「なんやねーちゃん文無しかいな? こらおごりがいがあるな。ほな、少年もさっさいこか? この時間帯で空いてる店はっと……」
「おい、何かッてに話進めてやが……」
「ほないこか! レッツゴー!!」
そう言って、男が自分の手を取った瞬間、一方通行は今度こそ目を見開いた。
なぜなら、その男の手はあっさりと一方通行の体に触れ、その体を軽々と引っ張ったからだ。
「ファミレス。ファミリーレストラン……ふふ。いったい何を頼みましょうと、ミサカはミサカネットワークを介在し、同位個体に自慢たらたらにこのこと語りながらも、まだ見ぬ料理たちの存在にトリップをしてみます」
と、ちょっともうバカの領域通り越して、壊れていんじゃないかと思える言動を取るミサカのことなどもはや気にしている場合ではない。
常時かけている自分の最強を支える力……《反射》を無効化されたという事実に、一方通行は驚愕で目を見開き、
「お前っ……いったい!?」
「あぁ? 俺の名前かいな? そうやな……遊び人のイルさんとだけ覚えとき」
ニカッと笑う、青い瞳と真っ白な髪をした男の言葉に、一方通行は今度こそ絶句した。
というわけで、
なぜかこのタイトルつけると《絶対能力写真家》に変換される。不思議!? 写真家にいったいどれだけの可能性が秘められているというんだ!?
という馬鹿な話はさておいて、時間軸的にはミサカの一人目が殺されたところです。イルの思惑とかは、この後おいおい語っていきます。
ではまた次回!!