とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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悲劇の理由と発端

「いや~。ほんまゴメンな~。ちょいダチと『どっちが先に彼女作れるか勝負しようぜっ!!』って男同士の熱いバトルしとってな~。もうすぐ期限やったからつい引っかけたら簡単についてきそうな世間知らずオーラバンバンな嬢ちゃんに声かけてもーてん。いや、マジで悪かったわ~」

 

「お前……それでまさか謝ってるつもりなのか?」

 

 結局ファミレスに強制ご招待されてしまった一方通行は、ドリンクバーからコーヒー一杯だけをとってきて、イルを睨みつけていた。

 

 たとえ他人のおごりでただ飯が食えるとしても、こんな得体のしれない奴から飯をおごってもらうなど、一方通行には考えられなかった。が、

 

「では私はもう一つ追加で、このジャンボココナッツロイヤルタバスコパフェを! と、ミサカはもうイッパイイッパイであるにもかかわらず自分の限界に挑戦してみます」

 

「限界ならやめろ」

 

「あとそれネーミングからして、それ食ったら死ぬと思うねん……」

 

 ミサカ妹は一人マイペースに何の遠慮もなくフェミレスで出される料理をむさぼっていた。

 

「チッ……ッたく。なンで俺がこンなバカバカしいことに付き合わないといけねェーンだ」

 

――くだらねェ。イルの隣に何のためらいもなく座り、あまつさえ出される料理をリスのように頬を膨らませながらむさぼるミサカ妹に、一方通行は舌打ちする。

 

 これでは慣れない人助けをしたというのにまったく意味はない。結局この男からミサカ妹を引きはなすという当初の目的は達成されていないのだから。

 

 これでは帰るに帰れ……。

 

「って、何考えてンだ、俺はァ?」

 

――帰るに帰れない? バカか? 帰ったらいいじゃねェか。内心で一方通行はそう呟く。

 

 一度は助けようとしたのだ。柄にもない人助け。いずれ自分が殺さなければならない相手だから、似合わないと分かっていても彼は一度努力した。

 

 だったらもういいだろう? 実験に対する義理は果たした。これで万が一実験に支障が出るようなトラウマがミサカ妹に刻まれたのだとしても、一方通行としては責任をとれないといっても文句は出ないはずだ。

 

 そこまで考えた一方通行は「無駄な時間過ごしちまった……」と盛大に舌打ちをしながら、席を立とうとして、

 

「他にどっかいきたいところある?」

 

「む。ミサカは研修中です……。これ以上休息をしていると実験場から叱責が……」

 

「あぁ。なんや用事があったんか。そら悪かったな……。よかったらゲーセンでもいこかおもてたんやけど」

 

「げ、ゲーセンですかっ!?」

 

「……………」

 

 目の前で盛大な釣り針にひっかかる哀れな(ミサカ)の姿を見せつけられ、その動きは見事に固まった。

 

「あ、あー。ごほん。ま、まぁ……研修はできるだけ多くの外の環境に慣れておけと言われているわけですし、そ、そのゲーセンなるものに行くのもやぶさかではないです。と、ミサカは棒読みになりかける口調を必死に取り繕いながら、自分の願望を見事押し隠すことに成功します」

 

 なんて、全然棒読みを隠し暮れていない口調で、完全についていきたそうな目でちらちらとイルを見つめるミサカ妹。そのミサカをニヤニヤ笑いながら見つめるイルを見て、一方通行の顔が盛大に引きつる。

 

――助ける義理なんてねェ。一方通行は必死に自分にそう言い聞かせた。

 

 殺し殺す関係だ。嬲り犯す関係だ。相手は自分がこれからずっと一方的に搾取し続ける実験動物。どうなろうと知ったことではない。一方通行は自分に必死にそう言い聞かせ……言い聞かせ続けて、

 

「なァ」

 

「ん?」

 

「そのゲーセンとやら……俺が行ってもいいだろうな?」

 

 結局彼の口から出てきたのはそんな言葉だった。

 

――何考えてンだ俺はァ。と、決して学園都市第一位らしくない論理的ではない答えを出した自分に、彼は今度こそ大きなため息を漏らしながらそれでも言葉は撤回しなかった。

 

 そして、

 

「なんや、彼氏君も来たかったんかいな? それならそうというてくれたらええのに!」

 

 にっこり笑いながらも肩を竦めるイルのとんでも発言に、一方通行は盛大に顔をひきつらせつつも、

 

「ア゛ア゛……そうだな」

 

 怒りあふれる言葉を必死に押し隠しながら、何とかそう答えるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「こ、このメダルはなんですかっ!? と、ミサカは自分の目の前に現れた図柄に天啓的な何かを感じながら感動に打ち震えます!!」

 

「なんやここを運営している会社が押してるマスコットキャラらしいで? 系列会社は大抵このキャラを使っているとか……」

 

 と、ゲコタというカエルのファンシーキャラという意味不明な物体が描かれたメダルをまるで神を崇めるように掲げるミサカ妹に、イルは盛大に苦笑いし一方通行は鼻を鳴らし無視する。

 

 場所は『ゲーランド』と呼ばれる地下にある巨大ゲームセンター。夜も遅いというのにたくさんの学生たちが遊びに来ている、学園都市随一の巨大さと治安の良さをほこるゲームセンターだ。

 

 イルはミサカがゲーム初心者だということは分かっていたので「なら、初めは簡単なメダルゲーでもしよか?」と、百枚ほどのゲームセンターのメダルをミサカに買い与えたのだが、その結果がこのざまである。

 

 メダルにくぎ付けで、ゲームには一切見向きもしないミサカ妹。これではつれてきたイルも思わず苦笑いするしかないだろう。

 

 そんなイルを後ろから眺めながら、一方通行はこのくだらない茶番劇を終わらせる手段を割と真剣に脳内で模索していた。

 

――一番手っ取り早いのはこの男をぶち殺すことだが、どういうわけかこいつは俺の能力によるダメージを減少する力があるみてェだ。そうでもなけりャ、こいつはあの裏路地時点で意識を刈り取られてダウンしてやがる。

 

 詳細不明のダメージ減衰能力。一方通行はイルの能力にそう評価を下しながら、どうにかしてこの男を仕留めるために、その一挙手一投足を見流さないように観察する。

 

「ひゃ、百枚では足りません! ミサカはもっとこのメダルを要求します!! と、ミサカはあふれるこのカエルへの愛を抑えきれず、上目づかいでおねだりしてみます!!」

 

「いやいや、ミサカちゃんそう言われても……。というか、ゲームしてそのメダルを増やすんがメダルゲーの醍醐味やしな? まずはその手持ち百枚をどうやって増やすかを考えてみ?」

 

「む。一理ありますね?」

 

 そういわれて、ようやくゲームをやる気になったのか辺りを見回すミサカ。

 

「見つけました。勝利は私にあります。と、ミサカは大量にメダルがゲットできるであろうゲームを瞬時にリサーチし、自分の優秀さに恐怖すら抱きます」

 

 そう言って彼女が近づいて行ったのは、大量のメダルの山が動く棚の上に山積されている。

 

 メダルマウンテンとタイトルに記載されたそのゲームは、どうやらメダルをタイミングよく積まれた山の上に投入することで、メダルの山の体積を増やしそれによって動く棚から押し出されるメダルをゲットするという単純かつ原始的なゲームのようだった。

 

 だが、このゲーム実は素人が考える異常に難易度が高い。

 

 ゲームの動く棚は三段構造になっており、メダルが吐きだされる三段目の一番上の棚からメダルを落とすのはたやすいのだが、そこからさらに二段目、一段目と続けてメダルを落とすのが非常に難しいのだ。このゲームを完全攻略するためには、棚の動きとメダルの体積を完全に把握し、一枚のメダルが投入されることによっておこるバタフライ効果を完全に算出しなければならない。

 

 とはいえ、ここは学園都市。スパコン並みの脳みそを持つ学生がクラス町だ。攻略されたことがないわけではない。実はとある赤毛の青年が、このゲームの筐体の中からメダルを全部奪い取りゲーセンの店員を号泣させ、連れのブルネット髪の少女に正座させられ怒られるという事件が数週間前起っているのだ。が、それは今の一方通行達には関係ないので割愛しよう。

 

 とはいえ、相手は仮にも学園都市第三位のクローン。ミサカネットワークというわけのわからない電磁回線からのバックアップもうけているようなので、このくらいのゲームを攻略するための演算くらいたやすい……。

 

「なぜです……。と、ミサカは自分の手元から一匹もいなくなってしまったカエルたちに涙を流しながら、仇敵を睨みつけます。このゲーム壊れています」

 

「壊れてンのはァ、お前の頭だ……」

 

 百枚のコインをすっかりすってしまい打ちひしがれるミサカ妹に、信じられないといわんばかりの視線を向ける一方通行。

 

 所要時間わずか5分。本当に第三位の遺伝子を受け継いでいるのか疑わしくなるほどの惨敗っぷりだった。

 

「ま、まぁこういうこともあるって! またメダルやったら買ったるさかいに」

 

 と、流石のイルもちょっと顔が引きつっている。まさか彼もここまでミサカがゲームに弱いとは予想外だったのだろう。

 

――とはいえ、これ以上こいつ相手にクローンの借りを作るわけにはいかねェな。

 

 これ以上ミサカ妹がいるに懐けば引き離すのが面倒なことになりかねないので、一方通行はため息をつきながらも先ほど購入していたメダルを投入し、

 

「一方通行?」

 

 首をかしげるミサカをしり目に、

 

「ふん」

 

 メダルが落とされる投入口を選ぶボタンを押す。

 

 だが、彼の目的はそこではない。

 

 そのボタンに触れるという事象によって起こせる、ゲーム筐体そのものへのベクトル操作。

 

 それによって三段目二段目一段目に向かって行われたベクトル操作は、コインへと直撃し、

 

「っ!?」

 

 上方向へ増大されたベクトル変換を受け、コインは噴水のように吹き上がり、ジャラジャラとけたたましい音を立てながらコイン出現口にあふれだす。

 

「ほら。これ使え」

 

「あ、一方通行(アクセラレータ)ぁ!! あなたはゲームの神ですかっ!? とミサカはあふれる尊敬を隠すことなく一方通行に向けます」

 

「愉快なひき肉になりてェのか……」

 

 まったくいらない称号をミサカにつけられたことに青筋を浮かべながら、一方通行はそう吐き捨てた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから一方通行は慣れないなりにナイトという役割をがんばったと思う。

 

 イルがUFOキャッチャーでミサカ妹に贈り物をしようとするなら、それよりも早くその人形をとりミサカ妹にわたし、

 

 ゾンビを拳銃でプチプチ殺すゲームでイルと勝負をするときは、学園都市第一位の演算能力を使い完膚なきまでにたたきつぶし、

 

 プリクラを三人でとるときは、できるだけイルを後方に押しやり妙な雰囲気にならないよう心掛けた。

 

 結果、

 

「一方通行! 一方通行!! つぎ、次はあのゲームです!! と、ミサカははやる気持ちを抑えながらも、一方通行の手を引いてみます!!」

 

「引っ張てンじゃねェよォおおおおおお!!」

 

 反射でミサカ妹の腕を木端微塵にしないよう必死に演算調整しながら、一方通行は怒号を上げる。どうやらミサカに懐かれてしまったようだ。

 

 イルの姿はもうここにはない。一方通行の過保護っぷりと、本気で一方通行に懐いてしまったミサカ妹の姿を見て脈なしだとようやく思ってくれたのか、数分前に別れの言葉を告げどこかへ行ってしまった。

 

 だから、一方通行としてはもうミサカ妹に付き合ってやる義理はないのだが……。

 

「まったく、なんなのですかこの店は!? 新手の桃源郷か何かでしょうか! と、ミサカは楽しさのあまり思わず本音を漏らします」

 

「……」

 

 どういうわけか、一方通行は帰ろうの一言が言い出せなかった。

 

 無表情をほんの少しだけ緩め、本当に楽しげな笑みを浮かべ一生懸命遊ぶミサカ妹の姿を見て、どうしてもその言葉が言えなかったのだ。

 

 らしくないというのは分かっていた。

 

 もう一人殺してしまっている状況で、まさか今更これから殺す相手に気を使っているなんてことは絶対にないし、彼の矜持として思いたくはなかった。

 

 だが、それでも、

 

「お前……シリアルナンバーはいくつだ?」

 

 一方通行は、思わずそう問いかけてしまう自分を止めることができなかった。

 

「ミサカのですか?」

 

「あぁ……」

 

「ミサカのシリアルナンバーは00002号。ちょうど次にあなたの相手となります」

 

「っ!?」

 

 何の遠慮もなく、何のためらいもなく告げられたその事実に、一方通行は思わず愕然とする。

 

「お前……室内実験用のユニットだろうが? なんで外部研修なんざしてんだよ」

 

「ミサカは遺伝子単位でまったく同一の体をもつという優位点を生かした電磁ネットワークを所有しています。そのため、私が経験したことは他のミサカ達にもネットワークを通してインストールすることが可能なのですよ。と、ミサカはそんなことも知らない一方通行に若干呆れた顔をしつつも、懇切丁寧に説明してやります」

 

「背骨メキメキ八つに折りたたンで現代アートにすンぞ、コラ」

 

 クソ生意気にもそんなことを言ってくる推定年齢ゼロ歳児に頬をひきつらせながら、一方通行は舌打ちを漏らす。

 

――こいつが次、自分が殺さなければならない相手? 出来のわりィ冗談みてェな話だ。

 

 きっと自分はここで実験を続けることを思いとどまらなければならないのだろう。これはおそらくそういう話だ。三文小説でありがちな展開。情にほだされ悪党が悪いことを止める……そういうお話。

 

 だが、いまさら一方通行は止まるつもりはない。もう自分は一人目を……。

 

「あぁ……でも」

 

 だが、自分にそんなことを必死に言い聞かせていた一方通行は、

 

「世界とはこんなに楽しいものだったのですね……」

 

 もう少しだけ、長生きしたいものでした。

 

 ミサカ妹が聞こえないほど小さな声で漏らした本当の本音を一方通行はしっかりと聞いてしまい、

 

「……っ!!」

 

 歯を食いしばった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 戦利品を抱えニコニコ笑って帰るミサカと、どこか吹っ切れたような表情でだるそうに体を引きずり帰っていく一方通行をビルの上から眺めながら、イルは耳につけていた盗聴器からの音を伝えるイヤホンを外す。

 

「作戦成功……で、ええんかな?」

 

――これで止まらんようやったらガチバトルするしかないからな……。と、ちょっとだけ安堵の表情を浮かべながら、イルは真昼の言葉を思い出していた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分の上司であるカエル顔の医師の伝手から、絶対能力者進化(レベル6シフト)計画の存在を知ったイルこと幻影(イリュージョン)№2は、激怒しながら寮を飛び出そうとするのを見事に真昼に止められた。

 

 このまま押し切ってもよかったのかもしれないが、背後には自分を取り押さえられる数少ない人間であるサクラが控えているし、この青年はただでさえ奥の手が多すぎて喧嘩挑む気にはなれない。だからイルは渋々ながら怒りを抑え込み、真昼の話を聞くことになった。

 

「はぁ? 殴りに行ったらあかん? なんでや?」

 

「君は本当に賢いのに……どうして時々そうモノを知らないんだろうね?」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべた真昼はある資料を持ち出し、イルにそれを見せた。

 

「なんやこれ?」

 

「学園都市第一位、一方通行(アクセラレータ)が災厄と言われる原因となった事件だよ」

 

 その資料にはこんなことが書かれていた。

 

『事件の始まりは第一位の友人であったとある少年が、第一位の能力によって傷ついた事故。

 それによって第一は学園都市を出奔をもくろむ。理由は友人を傷つけてしまったための傷心。

 10:29 捕獲部隊《シェパード》を都市内隠密戦闘用装備――防弾スーツに拳銃装備で投入。失敗。

 11:10 鎮圧部隊《レガリア》。パワードスーツ装備で投入。失敗。

 11:43 警備員による非常線招集。対LEVEL4用装備で展開。失敗。

Etc…』

 

 それは、何度も何度も繰り返された一方通行の望まぬ虐殺と、それを続けさせた愚かな学園都市の歴史だった。

 

 学園都市から出ようとする一方通行を、貴重な検体だからと許さなかった学園都市。

 

 だが、当時の学園都市には彼を止めるすべなどなく、一方通行を止めるために展開された学園都市の戦力は無駄な被害を積み上げていくだけだった。

 

 そのさい、彼はいったい何を見てきたのだろう。

 

 パワードスーツごと腕がひしゃげ、悲鳴を上げた男性だろうか?

 

 自分に向かって放たれ反射されたミサイルによって、焼き尽くされた女性警備員(アンチスキル)だろうか?

 

 自分の体に触れた瞬間ぐちゃぐちゃになり、中の人間の血液を川のように垂れ流す戦車だろうか?

 

 そのすべてが、到底幼い子供が見ていい光景ではなかった。

 

 それらを見てしまった一方通行は、

 

 それらの景色を作り上げてしまった一方通行は、いったい何を思ったのだろうか?

 

 結局、一方通行は最終的に自主的に捕まり、学園都市暗部へと落ちて行った。捕まった際、彼は最後にこう言っていたそうだ。

 

『この力はいずれ……世界そのものを敵に回し、本当に世界を壊してしまうかもしれないから』

 

「……」

 

 その資料を読み、イルの怒りは完全とは言えないまでもそこそこ落ち着いていた。

 

 こんなイカレタ実験に協力するようになっているのだ。おそらく一方通行は学園都市の闇を見すぎて、もう壊れてしまっている。いまさら引き返せるとはイル自身はみじんも思えなかった。

 

こいつはもうだめだと。殺すべきだ……と、いつも線引き(・・・)をする自分が一方通行をそう見限っている。

 

 だが、それでも彼には理由があったのだ。

 

 こんな実験に協力してでも……かなえたい夢があった。

 

 そのことを……同じ絶対的(・・・)と言われる能力を持つイルは、なんとなくではあるが理解していた。

 

 だからこそ、

 

「彼はきっと、本当は優しい少年だ……」

 

 イルは真昼の言葉を聞き届けた。

 

「彼に、チャンスをあげてほしい」

 

 多分何かの作戦にでも利用するための下心ありまくりの頼みではあったが、

 

「お願いだ。イル」

 

 一方通行の資料を見た後のイルの心を動かすには、十二分な言葉だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「さて、これでひとまずは安心ってことでええんかな?」

 

 情報制御技術が利用された高性能盗聴器は、ミサカ妹には聞こえなかった一方通行のつぶやきを確かに拾っていた。

 

『ちくしょう。クソッタレ……萎えちまったじゃねェか。殺す気が起きねェ』

 

 その呟きを、確かにとらえていた。

 

 これで一方通行はおそらくこの実験から手を引くことになるだろう。彼がそう決めてしまった以上、いかなる手段をもってしても学園都市の学者たちは止めることができない。

 

 彼はいかなる手段をもってしても言うことを聞かせられない存在だ。だからこそ、彼は学園都市第一位の座に君臨している。

 

「やぁ、あんなかっこ悪い男の演技をするだけの価値はあったんかな? ええもん見せてもろたわ」

 

――今度あったらなんか驕ったろかいな? と、ちゃんと思いとどまってくれた少年に笑いかけながらイルはその身をひるがえした。

 

 今日はいい夢が見れそうだと。そう思いながら……。自分と同じ少年が、自分と同じ『殺すしかない』という結論に達しなかったことを、素直に喜んでいたのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 だが、イルは油断していた……。甘く見ていた。

 

 学園都市の闇を。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「これは困ったことになったなぁ~……」

 

 真っ暗な研究室の中、一人の学者がそうつぶやく。

 

 そして、

 

「ちょ~っち計画に変更が必要だが……しゃーねーか」

 

 これから起こる悲劇が楽しみで仕方ないといわんばかりに、

 

「木原情規ちゃんの名において命じちゃうぜ~。上位固体(ラストオーダー)のファイヤーウォールを一時的にOFFにしろ」

 

 笑い声をあげる。

 

心理定規(メジャーハート)をよべ」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 翌日、一方通行はあのイカレタ実験の会場である、研究施設へとダラダラ歩いていた。

 

 やることはもう決まっている。実験のスタッフに三下り半をたたきつけて、ついでにあの研究所を跡形も残らないくらいに粉砕し尽くす。

 

 そうすればもう学園都市暗部は自分にこんな話をもちかけてこないだろう。と、一方通行はこれからの手間を減らすためにそんなことを考えていた。

 

 もう二度とLEVEL6などという言葉に踊らされて、こんな面倒な悩みはかかえないと心に誓ったから。

 

 だが、そんな彼の前の前に、

 

「おまえ……」

 

 一人の少女が立ちふさがった。

 

「何のつもりだァ?」

 

 そう問いかける一方通行にたいし、少女――ミサカ妹はゲーセンで見たような無表情……いや、それ以上に感情の抜けおちた顔になり手に持ったアサルトライフルを構える。

 

「ミサカ00002号。現時刻より第二次実験を開始します」

 

 瞬間、彼女の指はたやすく引き金を引き、

 

 ミサカ00002号は、全身を弾丸に貫かれ倒れ伏した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

――えげつないことするわね……。研究施設に残り、自分の心理操作がうまくいったのを確認した心理定規は、お互いにハイタッチを交わし実験成功労う研究者たちをしり目に、さっさと帰路についた。

 

 彼女が頼まれた依頼はこうだ。

 

「とあるクローンの現実世界に対する好意を限界ぎりぎりまで離してほしい」

 

 つまり、生きたいという気持ちを奪い取れ。そういう依頼だった。

 

 殺処分することによって完成する実験をしたかったのだが、そのクローンが外部研修の際まだ生きていたいと思い始めたので、なかなか殺せない。だから殺しやすいようにしてくれ、という依頼。

 

――まさかあんな悪趣味なシーンを見せられるとは思わなかったけど、まぁ依頼は達成したしこれ以上こんな計画にかかわるのはごめんだから、さっさと帰りましょうか。

 

 そんなことを考えながら、メジャーハートは研究施設から出ていく。暗部にはありふれた、ごくごく当たり前の悲劇に彼女の心は何の動きも見せなかった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分の反射によって全身を貫かれたミサカ00002号の姿に、一方通行はしばらく固まっていた。

 

「なん……」

 

 で。という言葉すら出なかった。珍しいことに、一方通行の喉はまるで信じられないものを見たといわんばかりに震えていた。

 

 普通の子供の用に、

 

 普通の学生のように、

 

 耐えられない裏切りにあった人間のように、一方通行は震えていた。

 

「み……さかは」

 

 だが、その言葉を正しく理解してくれたのか、ミサカ00002号は今際の言葉を話し出す。

 

「実験動物……ですから」

 

「……」

 

「単価にして18万円の、変えのある肉体ですから……」

 

「…………」

 

「あなたに殺されて死ぬ以外……生き方を知らない」

 

「そォかよ」

 

 最後にそれだけ言った一方通行は、

 

「やっぱ、お前は人形なンだな……」

 

 もう見たくないといわんばかりにその頭を踏みつけにし、

 

 ぐしゃりと……嫌な感触を残しながらも、原形がわからないくらい踏みつぶした。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 こうして、学園都市の闇は続く。

 

 晴れない闇はずっと続く……そして、

 

8月15日。

 

「そんなもののためにっ!! あの子を殺したのか――――――――――――――っ!!」

 

 一人の少女の怒号と、

 

「あぁ? なンだ? 信じられないって顔しやがって? ああ、そうか。わりィわりィ。今のがお前のとっておきってやつだったンだな? 仮にも同じレベル5だ……クク。まさかこんなしけたもンだとは思わなくてよォ」

 

 壊れてしまった少年の嘲笑がぶつかり、当然と言わんばかりに少女の声がついえた。

 

「お前のクローンには世話になってんぜ第三位。俺の名前は……」

 

 得体のしれない悪意を含んだ邂逅が、果たされ、

 

一方通行(アクセラレータ)だ。よろしくゥ」

 

 物語はまた……動き出す。

 




 というわけで原作に戻っちゃいました……。このまま解決させちゃうかどうしようか迷いはしたのですがねぇ……。

 これからしばらくイルの出番は無かったりします。超電磁砲(レールガン)やるかどうしようか迷ってはいますが、近日中に答えは出すのでしばらくお待ちを^^;
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