とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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魔法士というものは

そしてときは巻戻り、セラが強盗事件に巻き込まれた日の夜。

 

 普段は明るい笑い声が響いている天樹寮の食堂は、今は静まり返っていた。原因はセラが連れてきた四人の少女だ。

 

「えっと………粗茶ですが」

 

 フィアはそういってこの場に座っている全員の前に茶を置いていく。

 

 御坂美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子。

 この四人のお客様にはちょっぴり高めの紅茶を。

 

 黒沢雪、レノア・E・クライン、シオンには、何時も彼らがのんでいる好みのお茶を。

 

 お茶を入れる前にも、初めて来客してくれた美琴たちが不快にならないように、ここの住人ともめないようにかいがいしく気を使っていたフィアの態度は、お嬢様の美琴達にも満足がいく高度なものだったので彼女達に面食らわせえた。

 

「セラさんのお友達さんですね。私は如月フィアといいます。よろしくお願いします」

 

「え、ええ。こっちこそよろしく」

 

 美琴たちは正直と惑っていた。

 セラが操った謎の能力の正体を確かめに来たはずなのに、つれていかれたのはごく普通の寮。住人達はかなり個性的な人が多いが、それでも学園都市の住人達と比べたら大分ましに見える程度のものである。

 おまけに、管理人夫妻はうちの寮監と違って優しいし、お母さんは美人で優しいし(セラが帰ってきたとき泣きながら抱きついてきたのはかなりひいたが……)。

 

 美琴たちから見ても子どもが育つにはこれ以上ないというほどの環境が整えられている。

 

 セラがなぜここを出たのかわからないくらいだ.

 

「あの……………お母さん」

 

 セラが何かを言おうと口を開いたときだ、

 

「セラこっちへ来て料理を手伝ってくれ。フィアもだ」

 

「はい」

 

「え?」

 

 突然、祐一がキッチンから顔を出してフィアとセラを呼び出した。

 

「でも、祐一さん! 私……」

 

「セラ、お前は能力に目覚めて間もないだろう? 能力に対する理解も圧倒的に足りない。そんな状態で話に加わっても、話を余計にややこしくするだけだ」

 

「…………………………わかりました」

 

 しぶしぶキッチンに引っ込むセラを見送った後、寮の面々は大きく溜息を付きようやくお茶に手をつけはじめる。

 

「ゴメンナサイね。こんなお茶しかなくて。常盤台の人の口にはあわないでしょう?」

 

 始めに口を開いたのは、穏やかな笑みを浮かべた雪だった。

 本気で申し訳なさそうな声を出した彼女に、美琴たちは恐縮してしまう。

 

「い、いえ!そんなことないです!! とっても美味しいです」

 

「そういってもらえるとフィアも喜ぶわ」

 

 雪がそう言って微笑み、場の緊張は一気に解かれた……と、思われたが!

 

「で、あなた達はセラをどうするつもりなの?」

 

 レノアの鋭い問いによってその空気は引き裂かれる。

 

「レノア……」

 

「ごめん、雪。でもこれだけは譲れないわ。私の娘に関わることなんですもの」

 

 とがめるような声音でレノアを見た雪に、レノアはこう答えた。そこにいたのは一人の子を思う母親であり、娘の外敵の排除のためなら手段を選ばないといわんばかりの冷徹な女性だった。

 

 これは寮監以上かも……………。

 

 レノアから発せられる警戒心あふれるビリビリとした殺気にあてられた御坂美琴はそう慄き、白井黒子は冷や汗が止まらない自分の体に鞭をうちながら必死に口を開いた。

 

「わ、私は風紀委員(ジャッジメント)の人間です。先ほどとある事件でセラさんの能力を拝見させていただきました」

 

「娘を事件に巻き込んだの!?」

 

「それに関しては、非常に申し訳ないと思っています。ですが、その際に発動した能力はとても超能力を使ったものとは思えませんでした。バンクにも記載されていない謎の能力を持つ少女。私達風紀委員会は大多数生徒の安全のため、これを無視するわけにはまいりません。お母様があの能力に関してなにか知っていることがおありなら即刻開示していただくことを要求しますわ」

 

 レノアの殺気に抗するためか、いつもより高圧的な黒子の詰問。当然それを向けられたレノアが、黙ってそれを聞くわけもなく、

 

「嫌だといったら?」

 

「力ずくでもしていただきます!!」

 

「ちょっと、黒子!」

 

 流石に黒子の言葉は看過できなかったのか美琴は慌てて立ち上がるが、

 

「はいそこまで。レノア、落ち着きなさい」

 

「うっ」

 

 雪はそんな黒子の言葉を笑って許し、今にも黒子と戦闘をはじめそうだったレノアに釘を刺した。

 

「心配することは無いわよ、美琴さん。今回ばかりは私達が悪いわ。学園都市からの強制退去を命じられてもしかたないことをしているんだもの」

 

「でも……」

 

「レノアも、あんまり若い子をいじめるんじゃないの。私達の後輩でしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「ええ! 後輩ってことはお二人は常盤台の出身なんですか?」

 

 この話に食いついたのは初春だ。基本的にどんな時でもミーハーな少女である。

 

「私達は外の常盤台………しかも、大学のほうだけどね」

 

「外の常盤台って…………もっと凄いじゃないですか! 私立大学の東大って言われるほど偏差値高いのに!」

 

 今度は佐天涙子。場の空気が一気にあったまり、シオンは苦笑を浮かべてお茶を飲んだ。

 

「なあ、レノア。こいつらがセラちゃんをアレイスターのためにどうこうするようには見えないんだが?」

 

「……シオンが言うとおり、この子達自身がそうではくとも、あいつはこの学園都市の頂点に立っているのよ? 風紀委員会を動かす理由なんていくらでも作れるわ!!」

 

「そのために風紀委員会にはディー君に行ってもらっているんですよ、レノアさん」

 

 そういって食堂に入ってきたのは、さっきまで部屋にこもって何かをしていた真昼だ。

 

「こんにちは。この寮でお世話になっています。天樹真昼です」

 

「こ、こんにちは……」

「うわ、かっこいい」

「優しそうな人ですね」

「そうですの? 私はなぜか知りませんが、さっきから警戒心が消えませんわ。なぜだかあの男、油断ならない気がしますの」

 

 意外と核心を突いてきている黒子に苦笑を浮かべながら真昼は台所にいるフィアに珈琲を頼んだ。

 

「さて、君たちが知りたいことに関しては僕がお話させていただこう」

 

「ちょっと、真昼君!?」

 

「アレイスターの対策はできたの?」

 

「バッチリだよ、雪姉さん」

 

 真昼はそう答えた後一つの端末を取り出した。

 

「この世は情報でできている。この言葉を君たちは信じるかい?」

 

 何の遠慮もためらいもなく、少女たちを自分達の闇の中へと、引きずりこんだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「つまりあなた方が操っている力というのは《情報制御》と呼ばれる技術で、その技術の結晶であるIブレインとやらが脳内に存在するかたは、私たち超能力者と同じような異能の力を使えるということですね」

 

 真昼が明かしたとんでもない事実に黒子は頭を抱えていた。

 

 藪をつついて蛇を出すどころの騒ぎではない。

 

 こんな事実が公表されれば、学園都市は間違いなくひっくり返る。

 

「す、すごいじゃないですか!? この技術だったら、レベルの違いもなくなるし、どんな人間でも超能力者になれるじゃないですか!!」

 

 うれしそうな声を上げたのは佐天涙子だけだった。

 

 話を聞き終わった初春も美琴も、難しい顔をして黙りこくってしまっていたのだ。

 

「あれ、みんなどうしたんですか?」

 

「少し聞きたいことがあります」

 

「なんなりと」

 

 ようやく額から手をはなした黒子が、ニコニコとした笑みを崩さない真昼を睨み付ける。

 

 真昼はいたって平然とした表情でそれを受け流し、続きを促す。

 

 

「まず第一に……これのことを統括理事会は知っているのですか?」

 

「しっていたら超能力開発はIブレイン開発に移行していますよ」

 

「やはり……では、これは誰が作り上げたものなのですか?」

 

「天樹健三、アルフレッド・ウィッテン、エリザベート・ザイン。君たちが外と呼んでいる世界の三人の学者が作り上げたものだよ。とはいえ、アルフレッドとエリザベートさんはすでに病気で亡くなられているし、天樹健三は暫く前までこの学園都市に勤務していたけど、研究成果を横取りしようとした学者たちに殺されてしまった」

 

 だから、これを知っている人はもう僕達だけだ。

 

 言外にそういった真昼にため息をつきつつ、黒子はさらに質問を重ねる。

 

「この技術を世界に公表………いえ、学園都市に教えるつもりはありますか?」

 

「ないよ。この力が受け入れられるならそれでもいいけど……最悪僕達が消されてしまう可能性も有るからね」

 

「え、なんで?」

 

「佐天さん。学園都市がどうしてここまでの無茶をして許されていると思いますか?」

 

「超能力開発が唯一できるところだから……」

 

「では、それに準ずる、ややこしいカリキュラムを受けなくても手術でお手軽に手に入る力が出てきたら学園都市の優位性はどこにありますか?」

 

「それは……」

 

 そこまで言われて佐天はようやく気付いた。

 

 そんなものは存在しない。

 

 学園都市はゴミのように切り捨てられ情報制御に関しての知識を持っている勢力にとって変わられるだろう。

 

「最後の質問です。あなた方が魔法士と呼ばれる方々のなかに、レベル5級の力を持っている方は何人いますか? また、人工培養で作り出すこともできるとおっしゃっていましたが、どれくらいのペースで生み出すことができますか?」

 

「現存する魔方士全てがレベル5級だよ。質を落として施設を借りられるというのなら、一年で二千人のレベル4級の能力者を作り出すことができる」

 

 美琴たちの顔から一気に血の気がひいた。

 

 学園都市で生み出されたレベル5の人数はたったの七人。レベル4ですら数えられる程の数しかいない。

 

真昼の話を聞くかぎりでは、現在存在する魔法士は全部で十二人。

 

おまけにまだまだ量産ができるという。

 

 明らかにオーバースペック。規格外も甚だしい。

 

「それで、どうして私たちにこんな重要なことを話したの? ただの女子中学生の私たちに」

 

 漸く口を開いた美琴を見つめ、真昼はほほ笑みを引っ込めて真剣な表情になる。

 

 そして、椅子から立ち上がるとそのまま床に座り、三つ指をついて土下座をした。

 

「どうか…………セラの力になってほしい」

 

 今までとはまったく違った態度で真昼はそういった。

 

「え、ちょ!」

 

「い、いきなりなんですの!?」

 

 いきなりの行動に慌てふためく常盤台中学生の二人組。初春も佐天も一瞬なにがおこったのかわからず、反応が遅れたが、真昼が土下座をしていることに気が付いたら同じような反応をした。

 

「僕達にとってもセラの魔法バレはかなりのイレギュラーだったんだ。気が付いたときにはもう統括理事会が動いていて、もみ消すことは到底不可能だった。このままいけば、間違いなく情報制御理論は学園都市側にばれる。そうなってしまったら、もう僕達ではどうしようもない。君たちだけが頼りなんだ、風紀委員会のお二人とそのお友達。そして、レベル5──超電磁砲」

 

 

「っつ! 私のことを知って……」

 

「こうみえても五年間もの間、学園都市のシステムスキャンを掻い潜ってあの子たちの能力を隠し通したのはこの僕だよ。そのくらいの情報収集ぐらいできるさ」

 

 真昼は再び顔を上げて、四人を見つめる。その瞳にはいままでのような人を食ったような雰囲気はなく、真摯にセラを心配している様子が見て取れた。

 

「実はさっきいった魔法バレを嫌がる理由は建前なんだ。僕は今生きている魔法士たちには何事もない平穏な生活を送ってほしいと思っている」

 

「それは…………どうしてですの?」

 

 黒子の質問に真昼は苦笑で答えた。

 

「さっき言ったよね。魔法士は人工培養でも作ることができると……」

 

「ええ……。あ、まさか!」

 

「君が考えた通りだよ、白井さん。現存する魔法士は、約半分が親のいない人工培養で生まれた。手術をするよりそっちの方が安上がりで簡単だしね。おまけにこの学園都市で天樹健三が作った魔法士二人は壮絶な過去をもっている。天樹健三が殺されたあと、研究成果を横取りしようとした科学者たちは魔法士を情報制御の概念を理解できなかったんだ。そのため、彼らは残された魔法士たちを拷問し天樹健三の研究内容を吐かせようとしたんだ。僕達が助けに来たときには、殆どの魔法士が死んでいて、生きているのはたったの二人。うち一人がさっきお茶を入れてくれていたフィアちゃんなんだけど、彼女ともう一人の子は僕達が助けだす以前の記憶を完全に失っていたよ」

 

 真昼の話を聞いて四人は黙り込んだ。

 

「セラちゃんは魔法士たちの中で二人しかいない、母親から生まれて育った生まれながらの魔法士なんだ。彼女には……フィアちゃんたちのような不幸な目にあって欲しくない。だから頼みます。彼女に力を貸してください」

 

 食堂にしばらくの間沈黙が降り立った。

 

 

 張り詰めるような緊張のなか、先に口を開いたのは白井黒子だった。

 

「頭を上げてくださいですの」

 

 黒子はそういうと、真昼にほほ笑みを向けた。

 

「彼女は私の大切な同級生ですわ。その彼女が平穏に過ごすために身を削るのは風紀委員会として当然の勤めですわ」

 

「黒子と同じ。大切な後輩だしね。守るのは先輩の義務よ」

 

「微力ながら力を使わさせていただきます」

 

「私も…………レベル0ですけど力になります」

 

 四人の返答を聞き、その場にいた大人たちは全員、安堵の息をもらした。

 

「ありがとうございます」

 

 真昼は最後に再び頭を下げて、この場にいる全員の感謝の意を代弁した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「晩ご飯ができましたよ〜」

 

 

 堅苦しい話が終わったところで、夕飯の時間である。

 

 祐一、セラ、フィアが作った料理が所狭しと並んでいく。

 

「あ、では私達はこれで……」

 

「あら夕食ぐらい食べていきなさいよ。セラも食べていくことだし」

 

 雪はそういいながら黒子にだきつき四人を押し留めた。

 

「で、でも。門限を破ると寮監が怖いし」

 

「ああ……あの子今はそんな風になっているのね。時は残酷ねぇー」

 

「レノアからしたらそうかもしれないけど………少しでもマシになったみたいだから私は安心しているわよ?」

 

 突然わけのわからない会話を繰り広げたあと、レノアはバツが悪そうに黒子に近づき一枚の写真を渡した。

 

 そこには、レノアと雪ならび髪を金髪に染めた女性が一緒に映っていた。

 

「さっきは悪かったわね。脅しつけるような真似をして。これを見せたらアナタたちの寮監は門限破り程度なら目をつぶってくれるはずよ。」

 

「これは一体なんですの?」

 

「アナタたちの寮監さんの昔の姿よ?」

 

 

「「……………………………ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」」

 

 美琴と黒子が驚愕の声を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 結局四人は夕食をご馳走してもらうことになった。

 

 いまいるメンバーは、月夜、真昼、サクラ、レノア、セラ、祐一、雪、フィアである。

 

 弥生とイルは急患とのことで昼過ぎには病院に帰り、ヘイズとクレアは再び海外に。シオンは工房で作業中のエドを呼びに行っていた。

 

「この中にも魔法士はおられますの?」

 

 ふて、思いついたのか、元々気になっていたのか食事を食べ終えて優雅に口元をふいていた黒子は真昼にそっくりな双子の姉、月夜にそうたずねた。

 

「祐一、雪、レノア、セラ、サクラと後からくるエド君が魔法士よ。あ、こら真昼!肉まんにカラシ醤油かけるのやめろって言ったでしょうが!」

 

「月夜こそ、なにも付けずに食べて美味しいの? あれ、頭大丈夫なの?」

 

「なんですってぇええ!」

 

「二人とも、お客さんの前で喧嘩しない!!」

 

「真昼、下らないことで揉めるな!」

 

 先ほどの真剣さはどこへやら。肉まんの食べ方という実に下らない理由で喧嘩を始めた双子に雪とサクラの雷が炸裂する。

 

 フィアはそれをコロコロと笑いながらみつめ、佑一は肩をすくめた。

 

「どのような能力ですの?」

 

「それは本人達にきいてみたら? 教えていいこと稼働墓本人たちに判断してもらうし」

 

「では、レノアさんから……」

 

「……まぁ、娘を守ってもらうならそのくらいのことはしてあげるわ。私とセラの能力は時空間制御能力――《光使い》。周囲にある四次元時空を操って重力を生み出して空をとんだり、空間自体をねじ曲げて攻撃をそらす事ができるわ。アナタたちが見た能力がそれね」

 

「へー。便利な能力ね……」

 

「攻撃手段は?」

 

「あるわよ。でも危険すぎるから滅多と使っていいものじゃないわ。セラにもよほどの事がないかぎり使わないようにきつく言ってあるから、見る機会はないはずよ」

 

「ゆ、佑一さんたちはどんな能力なんですか?」

 

 続いての質問は佐天からだ。どうやら黒沢夫妻のことをいたく気に入ったようで先程から色々な話をして助言を貰ったりしている。

 

 目をキラキラと輝かせて尋ねてくる佐天に苦笑しながら、祐一は雪に視線で許可をもらったあと自分の能力をあかした。

 

「俺と雪、あとここにはいない少年がいるんだが……この三人の能力は《身体能力制御》……《騎士》だ。自分の体に情報操作をかけて身体能力を上げる能力だ。我々には情報制御を補助するデバイスがあるんだが、それが剣の形をしていたから雪がその名前をつけた」

 

「かっこいいでしょ?」

 

 子供っぽくウィンクをする雪に佐天は何度も頷いた。

 

「じゃぁ、最後にサクラさんは?」

 

「ああ……すまんない。私の能力はいえなんだ。学園都市ではほぼ諦められている能力者なのでな。監視の目を掻い潜るためにどんな人間であれ能力は秘密にしている。信用しておいて断るのは失礼だとわかっているが、許してもらえないだろうか?」

 

「あ、いえ……こちらこそ不躾な質問をしてしまって……」

 

 本当にすまなさそうに謝罪をしてくるサクラに尋ねた初春は逆に恐縮してしまった。

 

 その時だ、

 

「お腹すいた……」

 

「そうだな。さっさと食おうぜ。他の奴らはもうおわりかけてやがる」

 

 硝子のように無機質な表情で入ってきた少年は一言だけしゃべった後、シオンに促されて開いている席についた。

 

 シオンもその隣に座り、少年と同時にガツガツと夕飯を頬張りはじめる。

 

「あ、こらシオン! もっと上品に食べなさいよ。エドが真似しちゃっているじゃない!」

 

「バカいえ! 男はこんくらい豪快に食ったほうがいいんだよ!! なーエド」

 

「豪快、食べる」

 

 美琴たちとはちがい豪快にご飯を掻き込んでいくシオンとエドをみて月夜は眉を釣り上げて怒ったが、シオンは特に堪えた様子もなくそのまま食事を続けた。

 

「この子も魔法士ですの?」

 

 シオンの様子にやや呆れながらも、隣で若干笑っているように見えなくもない表情で、満足そうにご飯を頬張る少年を見つめて黒子はそうたずねた。

 

 この質問には真昼が答えた。

 

「ああ、そうだよ。最近培養槽をでたばかりでね。こっそり作られたせいで人との接触が少なかったから感情の起伏が乏しいんだ。名前はエドワード・ザイン」

 

「ん? そういえばさっき、情報制御を実用化した三人の内の一人もザインっていう名前でしたよね?」

 

「よく覚えていたね美琴ちゃん。かれは、三人の学者の一人、エリザベート・ザインの遺伝子を元に作られた魔法士で彼女の実の息子みたいなものなんだよ。だからザインの名字をつけて呼んでいる」

 

「この子も能力持っているんだ……」

 

「どんな能力を持っているのか想像もつきませんね」

 

「人形……」

 

「「ん?」」

 

 初春と佐天がそう話し合っていると、エドが何かをボソリと呟いた。

 

 それに気付いた初春や佐天は同時にエドの方へ向き直ったが、食事に夢中だったエドはようやく自分の知らない少女たちに気付いたのか、慌てて椅子をおりてシオンの後ろに隠れた。

 

 ちょこっとでた左手はギュッとシオンの服をつかんでおり、時々初春たちをうかがうようにチラチラと顔を出している。

 

「「か、かわいい……」」

 

 初春と佐天は一瞬でエドの虜になってしまい、実は可愛いもの好きの美琴も思わずケータイで写メろうとしている右腕を無理やり押さえ込んでいた。

 

「こいつの能力は《仮想意識制御能力》《人形使い》。情報の海に仮想意識体を送り込んで物質を生物化して自由自在に操る能力だ。いがいと使い勝手がいいんだぜ。ほれ、エド。お客さんにごあいさつ」

 

 説明をしたあと、シオンはエドに前に出るように促した。

 

 しばらくの間、人見知りをしているのか、おたおたとしてシオンの背中から顔を出そうとしないエドだったが、やがて少しだけ顔を出しじっと美琴たちを見つめた。

 

「御坂美琴よ。よろしくエドワードくん」

 

「白井黒子ですわ」

 

「初春飾利です。よろしくねエドワードくん」

 

「佐天涙子よ。よろしく!」

 

 四人がにこやかに挨拶をしてくれてようやく警戒心をといたのか、エドはようやくシオンの背中から出てきて自分の座席に座った。

 

 そして、

 

「うわ!」

「なにこれ!!」

「ワイヤーでしょうか?」

「いえ、螺旋状の溝がありますからどちらかというとネジ…………でしょうか?」

 

 机の一部から細い螺旋が飛び出し美琴達の手に巻き付いた。

 

 そしてそれは握手するかのように2、3度手をふったあと机に巻き戻り消えてしまう。

 

「え、エドです」

 

 そしてエドは小さく自己紹介。おそらくさっきの螺旋が《仮想意識体(ゴーストハック)》と呼ばれるものなのだろうと納得した四人は、

 

「「「「か、カワイイィイイイイイイイイイ!!!!!!」」」」

 

 遠慮なんてものは一切せずに、エドに抱きつき思う存分可愛がったのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 後日談。

 

 門限を破って帰ることになってしまった美琴たちであったが、何時ものように待ち構えていた寮監にレノアに貰った写真を見せると、寮監は見事に氷結。

 

 写真を渡すことを条件に今回は罰則を免れたのだった。

 

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