とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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原子崩し《メルトダウナー》

 目の前で一台の鉄の機械がまっ黒焦げになるまで電気で焼かれる。

 

 というか一部溶解していた。到底人間が食らっていい攻撃ではない。

 

「黒こげになりたくなかったら、三秒以内に答えなさい」

 

 巨大な研究施設内で行われたフレンダと美琴の勝負は、美琴に軍配が上がっていた。

 

 そして、負けたフレンダはというと?

 

「3」

 

――わっ!? いういういういう!? 麦野達だったら能力ばれても負けないだろうしっ!!

 

 と、必死に言い訳しながらも暗部のプライドやルールなんてなんのその。あっさり口を割ろうとしていた。

 

 彼女は知らない。この彼女の口の軽さが後に彼女の体をフレ/ンダにしてしまうことなど……。

 

 だが知らないがゆえに、フレンダはそのままためらいなく口を開こうとして、

 

「2」

 

「っ!?」

 

 自分の舌がしびれて全く声が出せないことに気付く。

 

「1」

 

――し、しまった!? 感電したせいで声が!?

 

 そうこうしている間に美琴が終えてしまう三秒のカウントダウン。

 

「0」

 

――あ、終わった。私の人生終わった。と、思わず像内で走馬燈を巡らせてしまうフレンダ。その脳裏では死ぬほどかわいがっていた妹がこちらに向かってほほ笑んでいる。

 

――ごめん、フレメア。私どうも帰れそうにない……。

 

 フレンダがそんな謝罪を内心で漏らしながらうなだれた瞬間、

 

「ちっ……。仲間は売れないっていうの?」

 

――いや、そういうわけではないんだけど。と、勝手になにやら好意的勘違いをしてくれた美琴に思わずそう言いかけたフレンダの眼前を、

 

「まぁ、そういうのは嫌いじゃ……っ!?」

 

 鮮やかな閃光がすべてを破壊しながら横切った。

 

 その破壊風景は見慣れた光景。誰よりも頼りになる自分たちのリーダーの象徴!

 

――麦野っ!!

 

 助かった!! と、万感の思いを込めその閃光が飛んできた方向に視線を向けたフレンダ。その視界に飛び込んできたのはやはり期待した通りの、一見すれば良家のお嬢様にしか見えない美女だった。

 

「あんま静かだったからやられちゃったのかと思ったけど……。無事だったみたいね? フレンダ」

 

 不敵に笑う彼女のリーダー。《原子崩し(メルトダウナー)》――麦野沈利が姿を見せていた。

 

――よかった! ほんとによかった――!!

 

 今なら彼女の靴を舐めたっていいといわんばかりに歓喜するフレンダ。そんな彼女にやさしく微笑みかけた麦野だったが、

 

「にしても、撃破ボーナスに目がくらんだからって何やってんだか。私らがつくまで、足止めに徹しろって言ったでしょうが。これはギャラの分配は考え直さないといけないわね」

 

「ぐはっ!?」

 

 まったくもってその通りな正論を吐かれ、逆に地獄の底へと叩き落された。

 

 だが、それを差し引いたとしても彼女の参戦は心強い。

 

「あぁ?」

 

 雑談をしていた自分たちに対し、飛来してくる鉄の塊。それを麦野は一瞥し、それに向かって手を伸ばすだけで、

 

「邪魔よ」

 

 跡形も残らず消し飛ばす!

 

 心強いなんてものではない。

 

「さて、あれが侵入者(インベーダー)で間違いないのよね? フレンダ」

 

「っ! うっ!!」

 

 声が出ないので必死に頷くフレンダは確信していた。

 

「そう。じゃぁ滝壺。一応これ使っときなさい。結構やるみたいよ。それにしても」

 

 小さく笑う麦野を見て、フレンダも笑っていた。

 

――この勝負、私たちの勝ちってわけよっ!!

 

「壁に張り付いて攻撃回避なんて、蜘蛛みたいな女ね」

 

 瞬間、麦野が放った破壊の閃光が研究所一帯を蹂躙した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【高密度AIM拡散力場感知。危険度・大】

 

 美琴に接触するために研究所へと侵入を果たしたセラは、突如脳内に開いた警告文に驚き、固まってしまう。だが、Iブレインはそんなセラを置き去りに高速で演算を開始する。

 

【質量物体検索……なし】

 

【物質の急速物量消失確認。左方向】

 

 その警告と同時に、セラの真横にあった壁が見る見るうちに真っ赤に熱され溶解を始める。

 

 セラがそれを認識すると同時に、正八面体の結晶体――セラの武器であるD3が彼女の眼前に飛び出してきた。

 

【D3 A-L:《Lance》装填】

 

【《shield》展開】

 

 その命令を受けたD3の周囲の空間が一気に歪みねじ曲がる。それと同時に壁を貫き出現した閃光がその空間に触れ、瞬時に軌道変換。セラの真横をかすめる方でさらに背後にあった壁を貫き爆発を起こす。

 

「きゃっ!?」

 

 突然襲ってきた爆発に悲鳴を上げるセラだったが、その衝撃すらD3が作り出した空間のゆがみが捻じ曲げセラに傷一つ与えることはなかった。

 

 だが、

 

「み、御坂さん……いったい誰と戦っているんですか?」

 

 まだまだ戦闘慣れしていない彼女に友人の安否をさらに心配にさせるには、その攻撃は十分すぎる威力をもっていた。

 

――は、早くミサカさんを見つけてこんな危ないところからは逃げないと!

 

 セラは知らない。その危険な人物とやらは、実は美琴が行っている研究所襲撃が呼び寄せてしまった人物だということを。

 

 だから彼女はIブレインに命令を飛ばす。

 

 きっと戦っている自分の友人を助けるため、

 

【本体周囲に重力制御を開始】

 

 そのプロトコルと同時にセラの体は浮き上がり、先ほどの攻撃があけた大穴へとセラの体を滑り込ませる。

 

「ま、まっててください!」

 

 セラは友人に向かってそう叫んだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 眼前の景色が秒単位で変貌を遂げていく。

 

 見るものが見ればかなり愉快なアートに見えるだろう。

 

 科学の権化である研究所が、次々と穴だらけになり粉砕されていく光景というのは。

 

――やばいわね。なんだかはわかんないけど、あいつからはやばい気配がする!

 

 そんな光景をまざまざと見せつけられていた美琴は、内心で小さく舌打ちを漏らしながら、ある人物へと視線を向けていた。

 

 それは、先ほどからでたらめな破壊力を持つ閃光をばらまき研究所を穴だらけにしている女子高生――ではなく、その背後に控え異常な眼光を光らせていたもう一人の気が抜けた顔をしていた少女だった。

 

 その眼光にとらえられた瞬間、美琴の体内が瞬時に見透かされたかのような悪寒が彼女には感じられた。

 

「このまま戦っても埒があかないか……」

 

 だとするなら、とれる手段は一つだ。

 

 美琴は即座にそう判断を下し、必死になってある物を探す。そして、

 

「みつけたっ!!」

 

 彼女はようやく発見した、館内暖房に使われていた蒸気を巡らせるパイプに向かって電撃を飛ばす!

 

 破壊されたパイプからは瞬く間に白い煙が吹きだし、敵の視界を瞬時に隠した。

 

「あぁ? なによこれ? 目くらましのつもり?」

 

 水蒸気の向こう側ではレーザー女がそんな不審げな声音で問いかけてきたが、それに答えてやる義理は美琴にはない。

 

「付き合ってらんないのよ」

 

 もともと彼女の目的はこの研究所機能の完全破壊だ。レーザー女と戦う理由は皆無。

 

 だから、

 

「逃げさせてもらうわ」

 

 美琴は最後にそう吐き捨てながら、レーザー女があけた大穴に飛び込み姿をくらました。

 

 そして、美琴はその数秒後に信じられない人物に出会った。

 

「っ!? セラッ!? なんでこんなところにっ!?」

 

 同じようにレーザー女が開けた穴を潜り抜けるように飛んでいた、自分の後輩……セレスティ・E・クラインに出会ってしまったのだ。

 

「み、御坂さんがなんだかおかしいから……心配になって……。か、勝手にいろいろ調べさせてもらいました!!」

 

――っ!? セラの言葉を聞いた瞬間美琴の顔から血の気が引く。

 

――まさか、セラ。知っちゃったの!?

 

 自分の失敗で大量の軍用クローンが作られていることを。それを二万体殺す実験が行われていることを。それを止めるために、自分が実験にかかわっている研究施設を根こそぎ壊して回っていることを!!

 

 美琴の体は知らない間に震えていた。

 

――だって、そうでしょう? こんな……こんなこと知られたら私っ!!

 

 この子に嫌われてしまう……。何もかも捨てる覚悟をもってこの戦いの望んでいたはずの自分が、思わずそう考えてしまった事実に美琴は震えていた。

 

 今更許されると思ってはいないのに。

 

 許されていいことではないと自覚しているのに……それでも、まだ友人に嫌われたくないと思ってしまった、自覚のなかった自分の浅ましさに嫌悪感を覚えたのだ。

 

 そして、

 

「Iブレインを使ってハッキングしても、御坂さんがかかわっていることに関してははじかれちゃいましたし……。この研究所の名前だけ何とかピックアップしてやってきてみたらこんなこととになっていて……。御坂さん……いったい何にかかわっているんですか!?」

 

「……」

 

 まだセラがほとんど何も知らないのだと分かった瞬間、安堵の息を漏らしてしまった自分を殴りつけてやりたかった。

 

 だが、そんな気持ちは完全に押し隠し、今ならまだごまかせると、

 

「セラ……あのね?」

 

 美琴は嘘をつくことを決意し、その重たい口を開く。

 

 だが

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「見つけた。東に45度」

 

「おっけ~」

 

 敵は、そんなやり取りを許してくれるほど甘い存在ではなかった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【高密度AIM拡散力場感知。危険度・大】

 

「っ!?」

 

 突如脳内に浮かんだ警告文に、セラは再びD3を操り空間の屈折を生み出し飛来する攻撃を迎撃した。

 

 針の穴を通すような正確さで、先ほど自身が開けた大穴に再び通された破壊の閃光。

 

 だが、それは再び空間の網にとらえられその軌道を屈折。美琴とセラにあたることなくまるで見当違いな場所へと着弾した。

 

 爆風が起こる。二つ目のD3の空間屈折がそれを受け流し切る。

 

 それを見て、初めての実戦に来ているんだと肌で感じたセラはわずかに震えながらも空中を漂うD3を周りに集めた。

 

 そしてセラは、幼い顔にわずかな決意を秘めた顔になり、美琴のほうを振り返る。

 

「行ってください御坂さん」

 

「え?」

 

――いいの? と、頼れる先輩の顔が確かにそういっているのをセラは認識し、

 

「本当は……今すぐにでも御坂さんに帰ってほしいんです。危ないことはしてほしくない。あんな辛そうな顔はしてほしくない。今やってることは全部忘れて、全部投げ出して……はやく、いつもの御坂さんに戻ってほしい」

 

「っ!? そ、そんなことっ」

 

「でも、それはできないんですよね?」

 

「っ!」

 

 セラの願いを聞き、辛そうな顔をしながらそれでも否定の言葉を口にしようとする美琴を制し、セラはちょっとだけ悲しそうな笑顔を浮かべた。

 

「私たちに隠し通してでも……やらないといけないことなんですよね?」

 

 セラは、正直に言えばここで美琴に違うといってほしかった。

 

 本当はたいした問題じゃなくて、自分たちが手を貸しさえすればあっさり解決するような笑い話なんだと、美琴の口からそう言ってほしかった。

 

 だが、現実はそんなに都合よくいかない。

 

「ごめん……」

 

 それが美琴の答え。いろいろな感情が含まれたその言葉を聞いただけで、セラは美琴が自分の問いかけに肯定したのだと悟る。

 

 だからセラは、

 

「だったら、先に言ってその目的を終わらせてください。あのビームの発生源は……私が足止めをします!!」

 

「っ!? セラ、何言ってるの!!」

 

「もう嫌なんですっ!!」

 

 セラを巻き込むことなんてできない! そう言いたげな美琴の怒声をセラは同じように大声を上げてさえぎる。

 

「私の大切な人が、私の知らないところで一生懸命頑張って、命が擦り切れるまで頑張って……知らないところで死にかけて……私はそれを知らなくて、平然といつもの生活を送っている……。そんな何も知らないバカな自分でいることが、もう嫌なんですっ!!」

 

――だからっ!! と、セラの脳裏で思い出されるのは、血まみれになっても「大丈夫だよ」と笑いかけてくれた真っ白な双剣の騎士と、つらそうな顔をしながらも自分のためにいつも戦ってくれる母親の顔。

 

「何も話してくれなくてもいいです!」

 

――きっと自分は弱いんだろうけど、

 

「いざとなったら切り捨ててくれてもかまいませんから……」

 

――それでも私はお願いしたんです。イル兄さんが言っていた自分の中の神様に。

 

「私をそばにいさせてください!」

 

――もう二度と、何も知らなかったなどと自分に言い訳させないために、私も戦うって!!

 

「私たちの誰も知らないような場所で、御坂さん一人で死んじゃうような……そんな無茶はもうやめてください!! 御坂さん以上に、私たちがつらいから……。何も知らなかった……たったそれだけの理由で、誰かを失ってしまうのは、本当につらいからっ!!」

 

 いつの間にかセラの瞳からは涙が零れ落ちていた。

 

 ディーを失いかけたあの時と同じ、美琴を失ってしまうかもという恐怖が、彼女にそれをこぼさせたのだろう。

 

――あうっ……。と、ちょっとだけ嗚咽を漏らしながら必死に涙をぬぐうセラ。そんな彼女の手をやわらかい手が握った。

 

「ごめん……セラ。後輩を泣かせるなんて、先輩失格だったわ」

 

 それは、少しだけ今までの追いつめられた、切羽詰まった顔ではない、安心したような、喜んでいるような、罪悪感にまみれた、そんな笑顔。

 

 そんな複雑な笑みを浮かべた美琴は、それでも確かにこういってくれたのだ。

 

「私は……セラを頼ってもいい?」

 

 その問いかけの声は少しだけ震えていた。それを敏感に聞き取ったセラは、グシグシと涙をぬぐいながら、

 

「あ、あたりまえじゃないですかっ!!」

 

 ようやく自分は誰かを守るための場所に立てたんだと思いながら、力強くそう言い切った。

 




 ディーがズタボロになった過去編書くかどうか迷っていたり……。いるかな……いらんかな……。話の流れ見て決めていきたいと思います。

 龍使いとアニルさんの出番はもうちょっと待ってね。四巻の代わりにやるから!! と、予告してみる!!

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