とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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嵐の前の……

 そして、時は過ぎ……美琴が研究所で激闘を繰り広げた翌日の昼。

 

「あぁ~しんど」

 

 真夏の灼熱の大気に身をさらしながら、白衣を脱ぎ半袖の黒シャツのボタンを上から三つ盛大に外しながら、丸いレンズをした黒いグラサンで日光を遮る、イルこと《幻影(イリュージョン)№2》は必死に自身の不快度指数を下げるためにシャツをパタパタ動かす。

 

 昨夜未明。急患が入り冥土帰しの助手として執刀を手伝ったイルは、カルテの記載やその他もろもろの雑務まで行ったため現在完徹明けである。

 

 当然体力が落ちており集中力も下がっていたため「こんな状態ではむしろ働かれたところで患者に悪影響が出てしまうよ」と冥土帰しに言われてしまい、現在彼には病院からに帰還命令が出され、だるい体を引きずりながら彼は天樹寮へと帰宅していた。

 

 そんな中、

 

「あれ? あれぇええええええ!?」

 

 聞き覚えのある少年の声が、イルの耳へと飛び込んできた。

 

――あぁ、あいつまた不幸な目にあっとるんやな……。と、その声の調子からして結構長い付き合いになる少年の状態を的確に把握したイルは、のっそりとした動作でありながらもその声の方へと足を向けた。

 

――まぁ、知り合いがこまっとんの見のがすんも寝覚め悪いしな。

 

 そんなことを考えながらイルはひょっこりと声が聞こえた公園に顔をだし、

 

「やっぱりかい……」

 

「うわぁ……。返して、お願いだから返して!! 俺の二千円!!」

 

 そこでは鬼気迫る様子で自販機のおつりレバーをカチャカチャしている学園都市の一般的(?)高校生、上条当麻が叫んでいた。

 

 イルと当麻は、複雑と言えなくもない微妙な二つの立場で関係をもっていた。

 

 一つは錬の友人としてやってきた当麻に、たまにやっていた戦闘訓練を見られてしまい、なんだか思うところがあったのか稽古をつけるようになったのが大体出会いの始まりだったと思う。

 

 それからは当麻もイルのもとを定期的に訪れるようになり、イルも自分の研鑽の成果を見せるのも悪くないと考えてはいたのか、弟子と師匠……とは言わないまでも、街角でやっている柔道教室の講師と受講者程度の仲にはなっていた。

 

 もう一つは医学生と患者という関係である。

 

 当麻はどちらかというと内蔵系よりも外傷系が多い大怪我をしてくることが多かったため、臓器系は完璧だが外傷系はあまり得意ではないイルの治療技術の向上のため、被検体(モルモット)にされていたりする。

 

 無論そのことは本人には内緒で当麻自身は、イルは自分の怪我をなんでも治してくれるスーパーな医者だと思っているようだが……。

 

――何事も知らん方がええ事ってあるよな?

 

 とはいえ、当麻に対しては割と後ろめたいことがあるイルとしては、彼が困っているのを助けるのはやぶさかではないわけで……。

 

「おいおい当麻。近所迷惑やからそんな叫ぶなや。主に完徹明けの俺の頭が痛くなるやろうが」

 

 というわけで早速声をかけたイルに、当麻は助かったと言わんばかりの顔をして縋りついてきた。

 

「やったぁああああああああ!! 今回の俺は不幸じゃない!! お、お願いしますイルさん!! どうかこの上条めをあわれに思うなら、あの俺の金を飲みやがった自販機から二千円札の奪取を!!」

 

「いやお前二千円札って、いまどきそんなアンティークなもんつかっとんのか!?」

 

――そら自販機も壊れるわ。と思わず呆れた様子でツッコミを入れるイルだったが、

 

「でもお前が不幸やないことなんてまずないから、きっとうまくいかへんで?」

 

「ちょ、どういう意味それ!?」

 

――いやいや、そんな簡単にフラグたてんなって言いたかっただけやねん。

 

 と、イルが笑いながらそう答えようとしたときだった。

 

「ちょっとちょっと。買わないならどきなさいよ。こっちは水分補給しないとやってられないって状態なんだから!」

 

 やたらと機嫌のよさそうの明るい声音で、茶色い髪をショートヘアにした女子中学生が、自販機に向かっていた当麻の背中を押した。

 

「……」

 

 見覚えのある顔だ。だが決定的に態度が違いすぎる。イルは彼女が放つ雰囲気からそう判断し、そういえば夏休み前から絡まれるようになっったゆーとったな。と、錬から聞いた愚痴を思い出し当麻の方へと視線を向けた。

 

 面白いくらい顔から血の気をひかせた当麻に……。

 

「ほら……フラグ回収してもうたやん」

 

「なんてこった。こんなところでビリビリに会っちまうなんて……やっぱりおれは不幸なのか?」

 

「どういう意味よそれっ!? あと私には御坂美琴って名前があるって……」

 

 怒声と共にビリビリ溢れる弱電流。嫌な予感がしたイルはササッと当麻の背後に身を隠し、

 

「あちょ!? あんたなら別に大丈夫でしょうが!!」

 

「アホッ!! たまには先生の役に立たんかい!!」

 

 と、醜い言い争いをする二人をしり目に、

 

「言ってんでしょうがコラァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!!」」

 

 凶悪な電撃が二人に向かってぶちかまされる。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

【高密度AIM拡散力場を感知】

 

「ん?」

 

 パトロールをしていたディーは突如としてIブレインが告げたその情報に首をかしげ、AIM拡散力場が感知された方向へと視線を向ける。

 

 その直後響き渡るのは、攻撃性電磁波を受けた電化製品が鳴らす警告音。この音の波形から考えるに、確かこれは自販機のものだったはず……。

 

「自販機荒らし? まぁ、この暑い中では確かにジュースでも飲みたくなるものかもしれませんが……」

 

――実際僕だって飲みたいし。と、内心小さく漏らしたあと、

 

「ちょうどいい確認ついでにちょっとジュースでも買って……」

 

 と、いいことを思いついたといわんばかりにディーがそちらに足を延ばしかけた瞬間。

 

「あ、ディー先輩!!」

 

「え?」

 

 突如として眼前に現れた常盤台の後輩――白井黒子があわてた様子でディーを押しとどめた。

 

「自販機荒らし程度先輩が行かれるまでもありませんわ! ここはわたくし白井黒子が対応しますので、しばしお待ちを~」

 

 そう言ってさっさと自販機の方へと瞬間移動(テレポート)してしまう後輩の姿に、ディーは何か言おうと開いた口をパクパクさせながら呆然とし、

 

「はぁ。どこかで違う自販機探そう……」

 

――まぁ、後輩の自主性を尊重するのも先輩の仕事だよね。と、固法としょっちゅう話し合っていることを思い出しながら、ちょっとだけ惜しいことをしたといわんばかりの雰囲気を出しつつも近くの自販機を探しに出かけた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「やっぱり、お姉さまの力の痕跡が残っていますの」

 

 警備ロボットに取り囲まれ、ほのかに煙を上げる自動販売機を発見した黒子は、ため息をつきながら自分が慕う先輩の所業に思わずため息をついた。

 

――ディー先輩を連れてこなくてよたったですわ。流石にお説教ではすみませんもの。

 

 もっとも、ため息をつきながらも揉み消す気満々なのはさすがといったことろだろうが。

 

「さて、とりあえず揉み消すにしても一度お姉さまと口裏を合わせる必要があるでしょうし……まだお姉さまは遠くには行っていないはず」

 

 まだ痕跡が新しいことからそう予想した黒子は、とりあえずあたりを見廻した後学校で習った拙い心理学のことを思い出しつつ瞬間移動(テレポート)。罪を犯した人物がとっさの判断で逃げるであろう方角へと移動を開始した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 イルは当麻と共に公園内のベンチにて死んでいた。

 

 あの後美琴の余計なおせっかいによって全力逃走をすることを強いられたイルは、ソコソコ離れた場所への緊急避難を何とか成功。こうしてベンチにもたれているわけなのだが、

 

「ほらこれアンタたちの取り分でしょ……」

 

「これうけとった瞬間俺の共犯が成り立つ気がして仕方ないんだが……」

 

「俺達? まさか俺も含まれてるん? ちょ、ジュースなげんのやめてんか。勘違いされるやろ」

 

「今さらでしょうがそれ……」

 

 どうやら見事に当麻たちの追跡に成功してしまったらしい、美琴まで引っ付いてきたのは誤算だった……。

 

「って、そういえばあなた……セラのところの寮にいた」

 

「あぁ、久しぶりやな美琴ちゃん。医学生やっとるイル兄ちゃんやで」

 

 一応面識があった美琴とイルだったが、会うのもずいぶん久しぶりなので念のため自己紹介をしておくイル。

 

 だが、美琴も学園都市最高の頭脳を持つ人間の一人。記憶力はもともと高いのでそんな紹介がなくともイルの名前は思い出していたようだが。

 

「んぁ? 二人とも知り合いなの?」

 

「「おまえ(あんた)ほどの知り合いやないけどな(じゃないけどね)」」

 

 ようするに、いうほど友好関係を築けていない、名前を知っている程度の関係だと二人に言われ、「まぁ広いっつっても学園都市だしそういうこともあるか……」と納得する当麻。

 

 その際美琴は「こいつも魔法士について知っているんですか?」という問いかけの視線をイルに飛ばしていたが、イルは遠慮なくその視線をスルーした。

 

 魔法士については極力口外してもらいたくない。だからこそ、知っている者同士の前であっても変に話題の上らないよう、そういった話題は避けているのだ。

 

 決して妙なジュース窃盗犯に仕立て上げられたことや、完徹の体に全力疾走を強いられたことを恨んでいるわけではない……はずだ。

 

 そんなイルのすげない態度に美琴がちょっとだけ首を傾げた後、

 

「にしてもあんたたち物の価値がわかっていないわね。私からの贈り物なんて、私の学校の後輩が聞いたら卒倒もんよ?」

 

「んなばかな」

 

「少女漫画やあるまいし」

 

 呆れる二人に美琴が言葉を返しかける……が、

 

「甘いわね。私が学校でその後輩になってよばれているかを知ったら……」

 

「お姉さま! こんなところ……」

 

「「お姉さま!?」」

 

 白井黒子が合流した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

――なんや嵐みたいな奴やったな。

 

 以前寮にやってきた黒子の姿が「仕方がありません。卿のところはこれで失礼いたしますが、くれぐれも過ちを犯されませんように」と、余計な心配をしながら虚空に消えるのを眺めつつ、イルはぼんやりとした視線をその場に向けながら、キレた美琴が言った言葉が突き刺さりへこんでいる当麻の隣でぼんやりと空を眺めていた。

 

――あんな危険人物がおるところにセラ置いといて大丈夫やろうか? と、ちょっとだけレノアの心配がわかる気がするイル。とはいえ行ってしまったものは仕方がないので、あっちはあっちでなんとかするだろうと自己完結。とりあえずぼんやりと雲を見続ける。

 

 正直寝不足で頭が回らない。このままベンチで寝てしまいそうだ……。冥土帰しの判断は正しかったらしい。

 

――あぁ、今日も平和や。平和すぎて寝てまいそう……。

 

 近くから聞こえてくる美琴当麻の言い合いが少し耳障りだが、完徹明けの頭にはそれすら子守歌に聞こえてくる。

 

 だからイルはゆっくりとその目を閉じようとして、

 

「っ!?」

 

 Iブレインによって感知される【物体存在確率】の感知によって飛び起きた。

 

 それは、あってはならない存在確率。

 

 いや、あってもいいのかもしれないがあの実験が終わったのなら、少なくともこんなに堂々と出歩いていていい存在ではないもの。

 

「うそやろ……」

 

 切りそろえられた短い茶髪に、ゴツイ軍用暗視ゴーグルをかけた常盤台の制服に身を包んだ少女。

 

「お姉さま?」

 

「え……」

 

 まるで何かにおびえるようにその声の発生源を見つめる美琴と、

 

「はぁ!? また!? って、うをっ!? そっくり!?」

 

 瓜二つの見た目をした……ミサカシスターズがその場に現れた。

 

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