「おい真昼大変なことがっ……!?」
その後イルが天樹寮に帰ってきたのは日が沈みかけた夕方だった。
慌てふためいた様子で彼が駆け込むのはいつも重要な会議が行われる食堂。
そこでは困ったような表情で眉をしかめる真昼と、激怒した様子で無言のまま座るレノア。そして、彼女の隣でいつでも彼女を取り押さえられるように待機している雪。真昼の隣でこちらも何かをなやむような表情でいるサクラがいた。
「イル……その様子だとどうやら君も知ったみたいだね?」
「絶対能力者進化実験がまだ継続しとることかっ!!」
どうやら同じ問題に行きあっているらしいということをその場の雰囲気から読み取ったイルは、天樹寮の情報の速さに目を見開きながら、驚きながらもまだ冷静さを失っていない真昼の声音に、先ほどまでの慌てふためいた様子を何とか抑え、大人しくあいている席に座る。
「どうやって知ったんだい?」
「ミサカシスターズに会ったんや。あいつらまだ外で研修しとった……実験のためにな」
「なるほど。そりゃたしかにこれ以上ない計画継続の証拠だね……」
うかつだった。と、悔しげに眉をゆがめる真昼は先ほど学園都市の
「君が接触を図った第二次実験だけど、どうやら多少の脚色を行われて実施されたようなんだ。内容はミサカシスターズに向かって行われた
資料を見る限り反射であっさり返されて死んだらしいね。軍師としての特性の為か極力感情を映さないよう言葉を紡ぐ真昼の説明に、イルはギリギリと奥歯を食いしばりながら資料に目を通していく。
そこには血だまりで倒れ伏すミサカ00002号を無言で見下ろす一方通行の写真資料が添付されていて……。
『一方通行にミサカシスターズが正しく実験動物であることを再認識させることに成功。メンタル状況に若干の変化がみられるが、実験には支障がない領域と判断。実験継続に成功。ただし第二次実験としては条件を整えきれなかったため失敗と判断。
そんな言葉で一方通行の悲劇は何の感情も込められない、機械的な処理が行われた。
「こいつらは……人間をなんやと思ってるんや!!」
激怒のあまり資料を机にたたきつけるイル。いつもならサクラか雪あたりから「ものにあたるな」という叱責でも飛ばされるのだろうが、その二人も無言でイルの行動を見逃した。
だが、そのあとイルが素早く立ち上がり出て行こうとする行為には、
「待つんだイル……」
真昼からの静止の声が飛んできた。
「なんや真昼? 俺はいますぐあのアホのところに行って、殴りつけて止めたるっていう大事な仕事があるんやけど……」
「もう、君が出て行ったところでこの実験は止まらない」
「っ!!」
ギシリと、イルの奥歯がさらに強く食いしばられた。
「ざけんなよ真昼……。これ以上ないほど今の俺は機嫌悪いねん」
――これ以上下らん時間とらせるつもりやったら、お前であろうと押しのけんぞ? 殺気交じりにそう吐き捨てたイルに対し、サクラが若干軽快の視線を向けながら立ち上がる。
だが、真昼はそれを片手で制した。
「君がとる手段は一方通行を殴りつけて目を覚まさせるってことなのかい?」
「そうやっ!!」
「確実性に欠けるね」
「っ!!」
そして吐きだされた真昼の言葉は機械のように冷徹で辛辣だった。
「なんやとっ!!」
「もう彼は選んでしまった。ミサカシスターズを屍山血河の上に自分の絶対を追い求めると。たとえ君に殴られても、たとえ君がどれだけ言葉を尽くしても……すでに一万人を超えるクローンを殺してしまった彼が簡単に止まるとは思えない。内心だいぶささくれ立っているから言葉も荒いし、本人自身だって凶悪な思考のままだろうけど……彼の心の根底にはこんな思考がわずかにでもあるはずだ。『ここで自分が辞めてしまっては殺してしまったシスターズの死がすべて、ただの無駄死にになる』っていう思考が。それをどうにかするほどの、根幹を揺るがすほどの説得力でも持たない限りは、彼は決して止められない」
「――!!」
正論だった。これ以上ない正論だった。だが、イルとしてはここで足を止めるわけにはいかなかった。
「それやったら……それやったらっ、残り一万人近いシスターズを全部見殺しにしろとでもいうんかっ!!」
そんなことは許されないし、あってはならない。イル自身が自分を許せない。
だからこそ必死に食って掛かろうとする彼に、真昼は諦めたかのように首を横に振り。
「そうだよ。イル……この計画を止めることは僕たちには決してできない。……諦めるんだ」
瞬間イルの体が真昼の眼前の机の上に
だが、それはサクラが着ていた上着が変貌した翼によってさえぎられ、あっさりと弾き飛ばす。
「くっ!!」
激怒の視線を向けるイルに対し、真昼は淡々とした様子でさらに言葉を重ねていく、
「それよりも問題なのは今回の事件を知ったセラちゃんが学園都市暗部に接触してしまったことだ。それも喧嘩を売ったのは暗部組織《アイテム》のリーダーである第四位の
「戯言はくんもたいがいにせーよ!!」
そう吐き捨てると同時にいるは寮の外に向かって飛び出そうとして、
「みんな……ごめんね?」
真昼の謝罪と共に、魔法士たちの情報の視界がノイズまみれの嵐に襲われた。
…†…†…………†…†…
地面に倒れ伏して動かないイルと、気持ち悪そうな顔をして抗体をつける三人に女性魔法士。
そんな彼らを申し訳なさそうに見つめながら、真昼は手元から小さな黒い箱を取り出した。
「ノイズメイカー……その試作品だよ。学園都市暗部にこれと似たような能力を使う人がいたからね。学園都市にはこれの制作基盤が十分にあると判断して慌てて作ったんだ。今後これを使われた時用に各々の手段で対策してもらうためにね」
――こんなことに使うことになるなんて……残念だよ。
この兵器を最初に使った理由が仲間の捕縛だったことを悔やみながら、真昼はイルの首筋に拘束用のノイズメイカーを張り付け、完全にIブレインの機能を殺す。
「真昼……お前はっ!!」
もはや怒りというよりも驚愕の視線でこちらを見つめてくるイルに、真昼は何度も謝罪しながら、
「でも、今の僕らではこうするしかないんだ。まだ学園都市に正面切って戦うには、僕らは手札が少なすぎる……。ジョーカーである君の存在をここで明るみに出すわけにはいかない……」
一方通行と戦うことになれば、恐らくイルは盛大な能力使用を強制される。
それを学園都市に解析されてしまう危険性を真昼は恐れていた。
「ごめん……本当は僕だって助けに行きたいんだ。どうにかしてあげたいんだよ。でも、今の僕では……家族を守るだけで手いっぱいだから。だから僕は……
そんな後悔だらけの真昼の言葉を聞きながら、イルの意識は深い闇の底へと沈んでいった。
…†…†…………†…†…
「御坂ちゃんの様子がおかしい?」
本日日時は8月21日。夏休みに集合して遊ぼうぜ!! なじみの三バカと約束してしまった錬は、残りのバカ二人とともに当麻の補修が終わるのをひとまず待ち、錬との事前学習の成果によって何とか補修を早く切り上げた当麻と共に、三バカとファミレスを訪れ昼食をとっていた。
ちなみにファミレスにやってきているというのに錬はなぜか弁当装備だ。不思議に思い首をかしげる三バカに対し、錬は自慢げにその弁当がフィア謹製のものだといってしまったため空気は現在氷点下だったりする。
そんなバカ二人の殺意溢れる空間をどうにかしようとした当麻が口に出した話題が、先ほど錬が言ったものだった。
「チッ……またかよ、カミヤン……」
「リア充爆発したらええねん……」
「そんなんだから彼女がいつまでたってもできないんだよ当麻……」
「ちょ、なんだよそれ!? 人がせっかく気を使って話題転換してやったのに、返す言葉がそれですか!? それなのか!? それでいいのか!? 三段活用!!」
「いや、全然三段活用じゃないし……」
そんなツッコミをシレッと入れつつ、
――要するにいつまでたっても『この子のためにならほかの女の子なんて投げ出せる!!』なんて言える子をいつまでも作らないから愛想つかされるんだよ。僕が高校に入ってから何度君に惚れた女の子から相談受けて「私は上条君の特別にはなれなかったよ……」って、言われたと思ってんのさ? というか、どうしてわざわざ僕に相談するのさっ!? と、内心でわずかに愚痴りつつも錬もその話題は少し気になりはしたのか、一応乗ってやる。
「まぁ、最近セラからも相談受けていたんだけど確かに最近何か忙しいみたいだよ? 朝帰りして、疲れてぶっ倒れて寝てまた昼には出ていくっていう生活が続いているみたいだし」
「常盤台でも知られていないってことは、学校は関係ないのかな?」
「いや、それよりもまず、なんで錬君そんな女の子に相談されてんねん!?」
「ほらあれだぜい青髪。この人畜無害そうな顔で大抵の女が騙されて懐に入れちまって、不意打ち交じりの恋のCQCによってあっさり女心を狩っていくのがこいつの常套句なんだぜい」
「ははははは、土御門。あんまバカなこと言って僕の名誉を棄損するようならコンクリの腕で頭握りつぶすぞ」
割とガチの錬の脅迫を受けて顔を青ざめさせる青髪と土御門に苦笑をしつつ、当麻は話を続ける。
「それも昨日変な奴にあってさ……」
「それ女の子かいな?」
「え? あぁ、うん。そうだけど……」
――はぁ……。と、土御門と青髪とともに一斉にため息をつく錬。そんな三人の態度に、
「おい、言いたいことがあるならはっきり言え」
当麻もさすがに青筋を浮かべて凄んできた。だが、
「はいはい。どうせまた何かの陰謀なんだろ? 魔術結社か? 革命組織か? 世界征服か? 学園都市暗部か何かか?」
「そしてその厄介ごとを解決して『キャー素敵! 上条君抱いて!!』になるんやで?」
「カミヤン……ちょっといい自殺の名所があるんだけどそこ行ってみる気はないかにゃー?」
「まじめな話してんだよお前らっ!! というか土御門、あんま俺の抹殺企むようなら舞夏に言いつけんぞ!!」
「あぁ、こらっ!! それ卑怯じゃないかにゃー!?」
ギャーギャー抗議の声を上げる土御門に同意を示しつつも、
「で、結局その変な奴って誰なの?」
「ん? 御坂の妹」
「妹?」
――第三位に妹なんていないはずだけど……? と、有名人故に若干一般にも漏れているパーソナルデータを参照しながら錬が漏らした瞬間だった。
「読めたぜい……」
先ほどまで騒いでいた土御門が、突然クールボイスでそんなことを言い出したのはっ!!
「読めたって……土御門突然どないしたんや?」
「ふっ……まだ分からないのかにゃー青髪? 突如現れた非公式の
「そ、それはっ?」
何やら真剣な様子の土御門に、思わずつばを飲み込む当麻と錬。
そして、
「御坂家に……隠し子が発覚したんだぜい!! おそらく
「「「っ!!」」」
三バカ(当麻・青ピ・錬)に衝撃が走った。
「ば、バカな……この時代に隠し子だとっ!!」
「い、いやでもそれやったら御坂ちゃんとやらの様子がおかしいことにも納得がいくで……」
「なるほど。今御坂さんの家は修羅場なんだね……」
「い、いやでも……そいつ本気でミサカにそっくりで双子みたいだったぞ!?」
「でもそういえば、御坂さんはお母さんに瓜二つだっていう話を聞いたことがあるような……」
「つまり、浮気かっ!!」
「御坂にそっくりだったのは母親の遺伝子が色濃く受け継がれたからって考えも否定できんぜい」
「な……なんてこった、ミサカがそんな大変なことになっているなんて!?」
戦慄を隠せない四バカ達の思考がてんで外れた方向に暴走していく。そして、
当麻は勢いよく席を立った。
「ちょ、当麻どうする気!?」
「決まってる……。ミサカは信じていた親に裏切られて傷付いているはずだっ!! それなのに俺はっ……あいつを自販機泥棒の犯人にしちまった!!」
「いや、いったい何があってそうなったのさっ!?」
こんな時でもキレを失わない錬のツッコミ。
「今すぐ御坂を探して謝らないと……。そんで、何か俺に力になれることはないかって……」
「やめとけカミヤン。家族の問題に他人が首を突っ込んでもこじれるだけだ……」
「で、でもっ!!」
「えぇかカミヤン。たとえ君がどれだけお人よしでどれだけできる男やったとしても……決して手の出せへん領域ってもんは存在するんや。ええ加減君はそれを覚えた方がええ」
「くっ……」
青髪の珍しい真剣な声の忠告を受け悔しげに歯噛みをしながら、当麻はファミレスの椅子に身を戻す。
「ま、まぁ……昨日は若干機嫌がよかったんだろ? だったらきっと、御坂さんの問題もある程度片付いたんだって。そう信じて、当麻は御坂さんにあったらいつも通りに接してあげるのがいいんじゃないかな?」
最後に錬にそう締めくくられ、当麻は少し落ち込んだ顔をしながらも、
「あぁ、そうだな。俺にできるのは多分そのくらいなんだろうな……」
久しぶりに感じる無力感に苦い笑みを浮かべながら、ドリンクバーからとってきた小豆コーラを口に含むのだった。
…†…†…………†…†…
その数時間後。結局微妙な空気になってしまった空間を払拭すべく、錬たちと散々遊びまわった当麻が帰り際に、
「はっ、お前は!!」
「あっ。あなたは……ちょうどよかった。実はここに捨てネコ……」
「御坂家の隠し子のミサカ妹っ!!」
「……どうやら大いなる勘違いがあるようです。と御坂は再会早々かなり失礼な言葉をぶつけられたことに不機嫌になりながらも、誤解を解く努力をします」
「あ、あれ? 違うの?」
とある道で捨て猫をどうしようか苦悶しているミサカ妹に出会い、当麻が混乱の極みに至ることになるのだが……錬たちとしてはそこまで責任をもてないのであった。
というか、
「いや、んなバカな話まさか本気で信じるとは思ってなかったよ」
「たまには勘違いで痛い目見たらええんちゃうの?」
「いや、にしてもあのときのカミヤンの顔は傑作だったぜい!!」
と、当麻と別れた三人がそんな話をしているわけだが……当麻は多分、知らない方がいいだろう。
ようやく時間の余裕ができたので投稿してみたっ!!
えらい落差に書いた本人もびっくりだよ!?