とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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量子力学的確率制御《シュレディンガー》

 なンだこいつは?

 

 再び自身に入ったダメージに苦悶の声を上げながら、一方通行はギンッとイルを睨みつける。

 

 だが、イルがそんな視線を受けても平然と受け流すのを見て、舌打ちを漏らしながらその行為が無駄だということを悟り、黙って彼は立ち上がった。

 

 一撃入れられたのは気に入らない。

 

 だがしかし、だからどうした。

 

――かンけェねェか。いま俺の手には世界が掌握されている!!

 

 さきほどの無能力者との戦いでは一方通行が油断し、近接戦闘を挑んだ油断があったから押された。

 

――幸い目の前のイルとかぬかす男の攻撃手段は先ほどのウニ頭と同じ拳による打撃。だったら、その拳の届かない範囲から一方的な遠距離攻撃を叩き込ンでやれば、十分勝利は可能だ。いざとなれば風のベクトルを操って、さっきのあいつみたいに吹き飛ばしてやればいい!

 

 一方通行は先ほどとは違い上条を沈めたがゆえに、ある程度余裕を取り戻した思考でそう判断を下し、

 

「問題はこいつが前使ったダメージを軽減する何らかの能力だが……」

 

 そう言いながら一方通行は、足元の砂利のベクトルを変化。散弾のような速度でそれを吹き飛ばし、イルに向かって飛ばす。

 

「シッ!!」

 

 イルもそんな攻撃が来るだろうと予想はしていたのか、低く身を沈め疾走を開始した。

 

 運がいいことに直撃(・・)はしなかったらしい、砂利の散弾を通り過ぎたイルはそのままの速度で一方通行に突っ込んでくる。

 

――だが。一方通行は内心でそう言いながら、イルの姿を見てにやりと笑う。

 

 その体には砂利の散弾がかすったのか無数の裂傷が走っており、わずかな量ではあるが確かな出血が、イルの真っ白な服装にサイケデリックな模様付けをしている。

 

「ぎゃはははははははは!! 攻撃は効くらしいなァ、三下ァ!!」

 

 それがわかれば十分だ。

 

「よかったなァ。今の俺は気分がいィ……。テメェが愉快なひき肉になるまで、丁寧に削り殺してやるよォ!!」

 

――もしかしたら俺との戦闘時間最長記録がもらえるかもしれねェぞ!!

 

 ゲラゲラ凶悪に笑いながら、一方通行は先ほど当麻を苦しめた遠距離攻撃を続けていく。

 

「おゥおう! 粘るなァおい! 運がいい奴だ!!」

 

 レールの雨による砲撃。レールが地面に突き立つことによって発生する衝撃波が、イルの体を泥だらけにし、よろめかせる。

 

 だが、イルは止まらない。

 

「ダメージ軽減系の能力ねェ……いったいどんなイカサマ使ってやがンだぁ? おい!!」

 

 地面を踏みつけることによって、イルの下方向から起こるベクトル変換。土砂が噴水のように巻き上がり、イルの体を無数の砂利が削っていく。

 

 だが、イルは止まらない。

 

「いい加減進むのがつらくなってきたんじゃねェか? ぎゃはははは! お前さいっこうに無様だよ!!」

 

 手が触れることによって吹き飛ぶコンテナの嵐。レールの砲撃とは比べ物にならない蹂躙がイルに向かって飛来する。

 

 だが、イルは止まらない。

 

 土煙の中から、凄まじい勢いで飛び出し、

 

「あァ?」

 

――どういうことだ? と、一方通行が不思議に思っている中で、その眼前に到達。

 

「どないした、最強。この程度かいな?」

 

 瞬間凄まじい速度で振るわれた回し蹴りが、一方通行の側頭部を再び打ち抜いた!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 再び吹き飛び、受け身も取れず、無様に地面をごろごろ転がる自分の体を、今度ははっきりと感じ取った一方通行は、今度こそ悲鳴を上げながら、まるでそこらへんにいる人間と変わらないように、無様に地面に這いつくばった。

 

「なンでだッ!? ありえねェ!!」

 

――普通の人間が一回くらっただけで10回は死ねる攻撃の連打だぞっ!? 何故あいつは無事でいられるっ!! いや、そもそもどうしてこいつには俺の反射がきかねェ!?

 

 簡単にすりつぶせると思っていた相手が、いつでも殺せると思っていた相手が、いつまでたっても立ち続け、走り続け、自身に対して有効な攻撃を叩き込んだことにより、一方通行は先ほどまで取り戻していた余裕を再び失う。

 

――ダメージは確かに与えてンだっ! 攻撃が当たるたび、こいつの体には傷が増えている! だがどういうわけだ……こいつに致命傷を与えるであろう傷が、こいつの体からは見受けられねェ!!

 

 そう。一方通行の攻撃は何も通じていないわけではない。

 

 イルの裂傷は初めに来たときよりも明らかに増えているし、衝撃波を食らったあざや、口の中でも切ったのか口から流れる血もそれを証明している。

 

 だがしかし、それでも目の前の男は一方通行の前に立ち続けている。

 

「なんだ……一体お前はっ!!」

 

――なんなんだっ!! 怒声のような、悲鳴のような、そんな詰問の声をあげながら、一方通行は再び世界を掌握する。

 

 莫大なベクトル変換演算と共に作り出される空気の圧縮。それによって生まれる巨大なプラズマが、再び夜の学園都市を照らす。

 

――考えている暇はねェ! と、一方通行はそんなことを考えながら、風を操る。

 

「何らかの感知系能力での回避がお前の能力の正体だろっ!!」

 

 そうでなければおかしい。だから一方通行は、何者もよけられない空間そのものを埋め尽くす攻撃をすることを選択する。

 

 当然、その際イルに近づかれないために暴風の障壁を自分の周りにはることも忘れない。

 

――これであいつの拳は、おれには届かねェ!!

 

 そのことに安堵の息をつきながら、

 

「消し飛べッ!! 三下ァあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 甲高い怒号の声をあげ、プラズマをそのまま叩きつけようとして、

 

「おいおい、シャレにならへんから勘弁せーよ」

 

 まるで暴風の障壁など存在しないかのように、平然とそれを素通りしてきたイルの姿に愕然とする。

 

 それはまるで壁などなかったかのように、文字通りのすり抜けであった。

 

――瞬間移動? 一瞬一方通行はそう現実逃避をするが、彼の優秀な頭脳がそれを否定する。

 

 こんな現象を起こせる能力はたった一つしかない。だがしかし、一方通行としてはそれを認めるわけにはいかなかった。

 

「あ、ありえねェ……。お前がもし本当にアレ(・・)なら、どうしてお前は血を流してんだァ!!」

 

 そんな一方通行のかすれた詰問の答えは、

 

「ん? あ、すまん。なんかいうたか?」

 

 今度は肋骨に走った、拳の打撃による衝撃だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

《量子力学的確率制御能力者》

 

 一方通行の優秀すぎる頭脳が叩き出したイルの能力の正体がそれだった。

 

 量子力学の説明は以下の通り。

 

ここにりんごが1個ある。

このりんごは、無論果肉や果汁や皮からできている。ココまではいい。

この果肉や果汁を構成しているのは、「分子」と言う非常に細かい粒の集まりである。

この分子は、さらに細かく見ると「原子」と言う粒まで分解される。

この辺は中学校でも習う。

で、その原子は、さらに細かく見ると、「中性子」とか、もっと見れば「素粒子」という

普通の顕微鏡では到底観察できないほどの細かい粒子の集まりである。

この「素粒子」の世界では、我々が通常認識しているのとは違った世界がある。

先に例を出したりんご。これが「どこにあるか」は、誰でも分かるだろう。

机の上とか、流しの中、どこでもいいが、「りんごがある地点Aに存在する」ことは、誰が見ようと疑いは無い。

だが、素粒子の世界はそうはいかない。

「りんごを構成するある一粒の素粒子α(アルファ)」が、「地点Aに存在する」ことは、確率の話でしか言えない。

「素粒子αが地点Aに存在する確率は何%」という形になる。

幻影のIブレインは、この「存在する確率」を自在に変えることができる。

例えば、一方通行が投擲したレールが着弾する点を座標Aとする。

「イルの体(を構成する素粒子)が座標Aに存在する確率」を0%にしてしまえば、 いかに見えようと「そこにいる確率は0%」なのだから、絶対に攻撃は当たらない。

これが、量子力学的確率制御、「存在確率の改変」――イル=幻影(イリュージョン)№2が持つ絶対能力。

 

 よくわからなないのなら、《この世のありとあらゆる事象はイルの体をすり抜ける》と考えていただいて結構だ。

 

 一方通行の反射を抜いたのもこの力だ。

 

 一方通行は触れた対象のベクトルを操作しその力を相手に反射させる。

 

 だが、存在確率制御によって存在しないことになっているイルのベクトルはさすがに操作できない。

 

 なぜなら――存在しない存在には、ベクトルも同じように存在しないからだ。

 

 そして、あっさりと一方通行の皮膚を透過したイルの拳は、今度は一方通行の骨格に接触する瞬間その存在確率を100パーセントに戻し干渉を行った。

 

 むろん骨格に反射をかければその攻撃は防げる。何せ今度は明確に存在する拳が一方通行の骨格を殴りつけたのだ。反射できない道理がない。

 

 だが、

 

「っ――!!」

 

 そこまで考えて一方通行はその防御法を否定する。

 

 彼の優秀な頭脳が試算していたからだ。

 

 万が一骨格に反射などかけようものなら、

 

「できひんよな? 骨に反射なんてかけてもうたら自分の筋肉の動きすら反射してまうんやから。そんなんしたらお前、肉離れ程度ではすまへんで? お前の犠牲者と同じような状態になった自分が病院に運び込まれるだけや」

 

 不敵に笑いながら眼前で構えるイルの言葉に、一方通行は荒い息を漏らしながら立ち上がった。

 

――納得がいかねェ……。

 

「なンでだ……」

 

「ん?」

 

「なンでてめェは……こんな無駄な傷を負ってまで自分の能力を封じてやがるっ!!」

 

 そう。一方通行の言うとおり、イルが本気でこの能力の運用を行えば、たとえ一方通行のでたらめな攻撃であっても、彼には傷一つつけることができないはずだった。何せ彼はこの世界に存在しなくなるのだから。

 

 だが、それでも彼は傷を負っていた。

 

 全身に裂傷を走らせ、真っ白な服に血でサイケデリックな模様付けを行い、

 

 戦っていた。

 

「お前は俺と同じはずだ!! 戦わなくていい、周りなんて気に掛ける必要はねェ!! そォいう存在のはずだろォがよォ!!」

 

 能力の詳細が分かったから、一方通行はその絡繰りの正体を悟る。ダメージを顕現した能力の運用法を看破する。

 

 いかにしてダメージを軽減したのかではなく、どうやってダメージを受けたのかという理論。

 

 簡単な話だ。攻撃が当たる部分の致命傷にならない個所だけ存在確立を上げ、その攻撃をあえて食らったのだ。そうすることによって、イルは本来受けなくてもいい傷をその身に作り、さながらダメージを軽減しているように見せかけた。

 

 本当なら体の傷など、まったく無縁な能力を持っているくせに。

 

 気に食わなかった。血まみれになって戦ってなお満足げに笑い、なお拳を握りしめ自分に立ち向かってくるこの男の姿が……一方通行はどうしようもなく気に入らなかった。

 

――なンでだ? と、理由のわからない苛立ちに一方通行は内心でそう問いかける。

 

 そして、その答えは。

 

「俺の能力はな……自分しか守れへんねん」

 

「っ!」

 

「それでも俺は誰かを守りたかった。昔はお前とおんなじように、自分さえよかったらそれでええっておもっとったけど、それではあかんって言ってくれる奴がおったから……そいつを守れる男になりたかったから」

 

 俺は無敵の鎧を投げ捨てたんや。そう言って笑うイルの姿に、一方通行はようやく自分のいら立ちの正体を悟る。

 

――こいつは……俺であって俺じゃねェ。こいつは、

 

 自分が目指して諦めた場所を、諦めずに目指した自分だと……。一方通行はさとる。

 

「おかげでお前は『この白いのにはダメージが入る!』と勘違いしてくれた。そして俺にひたすら無駄な攻撃を叩き込んで、こうして俺に足止めされ、うちの弟子にとどめを刺すことはなかったやろ?」

 

 絶対ダメージを食らわない体を、人より受けるダメージを減らせる程度にクラスダウンし、敵に痛めつけられる役を――囮として全身を傷だらけにしながら戦う役目を自分に強いた。

 

 そうはっきりと宣言したイルの姿に、一方通行は思わず茫然自失となる。

 

 そんなこと考えたこともなかったからだ。

 

 誰かを助けるために、自分の能力の出力を下げるなど……絶対強者として君臨していた彼は考えたことなどなかった。

 

「そんで、俺が稼いだ時間は無駄やないんや……。それは俺の弟子がきちんと証明してくれよる」

 

 そういって、唖然とする一方通行の眼前から、イル構えを解き、まるで幻か何かのようにあっさりといなくなる。

 

――確率制御による転移(テレポート)か。

 

 今いる空間とは違う空間に自身の存在確率を100%にすることによって、自分の体を違う場所に出現させる能力。

 

 一方通行がそう判断する中、

 

「……っ!!」

 

 傷だらけの最弱(かみじょうとうま)が、確かにしっかりと立ち上がっていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なんなんだ……なんなんだお前らはっ!!」

 

 悲鳴のような、怒号のような……信じがたいものを見てそれを必死に否定するような、そんな一方通行の声に向かい、当麻は朦朧とする意識の中しっかりを歩を進める。

 

――イルさんが時間をかせいでくれた。

 

 それがわかっていたからこそ、当麻は止まらない。

 

――御坂が俺を助けようとしてくれた。

 

 だからこそ、当麻はぼろぼろの体を引きずる。

 

――御坂妹は……もっともっと……長生きするべきなんだ!!

 

 そう思ったからこそ、当麻は拳を握り、

 

「よぉ……歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)――」

 

 一方通行の眼前にたどり着いた。

 

「――俺の最弱(さいきょう)は、ちっとばっか響くぞ!!」

 

「っ――!!」

 

 必死の防御反応だったのか、手を振り回そうとする一方通行。

 

 だが、その反応よりも早く当麻の拳が一方通行を打ち抜き吹き飛ばした。

 

「……あぁ」

 

 そんな一方通行の姿を見て、完全に力を失った最強の姿を見て当麻は安堵したように崩れ落ちた。

 

 そんな当麻の耳には確かに、

 

「何やってンだ……。俺」

 

 確かに、自嘲の色が込められた一方通行のつぶやきが聞こえた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その翌日。もはや当麻専用の病室となりつつあるとある部屋にて、

 

「ねぇねぇどんな気持ち? かっこつけて任せろって言った割には最終的にイル兄さんにおいしいところとられちゃったのはどんな気持ち?」

 

「う、うるせぇ!! とどめを刺したのは上条さんですの事よ!?」

 

「あんたは病人なんだから少し静かにしなさいよっ!!」

 

 ギャーギャーワーワー騒ぎながら、やっぱり当麻のお見舞いにやってきた錬と、もう一人……いつもは見ない茶髪の中学生――御坂美琴が当然と言わんばかりに病院に入院している当麻のお見舞いにやってきていた。

 

 あれから起こった妹達の実験の事後について彼女は当麻に説明しに来たのだ。

 

「あんたの思った通り、無能力者に一方通行が負けたことによって、実験は大幅な見直しが必要って判断されて凍結されたらしいわ。妹達も今後の生活に慣れるために多少の調整が施された後きちんと世間に出してもらえるって」

 

「……そうか」

 

――よかったな。と、夜中に自分に向かってお礼を言いに来たクローンの姿を脳裏に浮かべながら笑う当麻に、美琴は顔を真っ赤にして何やら言いたげな雰囲気を振りまく。

 

「で、それでなんだけど……」

 

「ん?」

 

「なんていうの? ほらっ!! あんたには今回いろいろ迷惑かけたわけだし……このまま何のお礼もなしっていうのも気が引けるから……ほ、ほらっ!!」

 

 そういって美琴が差し出してきたのは、やたら上等そうな紙袋に入れられた市販クッキー。

 

 といってもただの市販クッキーではない。庶民では到底手が出せない、超高級店が売りに出している、豪華クッキーだ!!

 

 が、

 

「はぁ……」

 

 なぜか当麻の反応は悪かった。

 

――わかってねぇ。こいつ全然わかってないな……。と首を振る当麻に呆れたような視線を向ける錬。

 

 どうやら彼には当麻が何を言うのかわかっていたらしく、

 

「あ、そうだ……。そろそろ花瓶の水カエナイト……」

 

 何やら怪しい棒読みになりながら花瓶を片手に病室を出ていく。

 

 危機察知能力の高い少年だった……。

 

 そんな錬をしり目に、

 

「まったく御坂は分かってないな!」

 

「はぁ?」

 

「いいか? こういう時は、女の子は手作りクッキーを持って誠意を見せるっていうシチュエーションがいいんじゃないか! 市販はそりゃ確かにおいしいけど、そこはちょっとくらい下手でも手作りというファクターが補完してくれてだな……」

 

 なんて熱く語りだす当麻に、自分の精いっぱいの勇気を出して示した好意の証を全否定された御坂は、ブルブルとすさまじい速度で震え始め、

 

「あ、あれ? み、御坂さん!?」

 

「あんたは……あんたは私にどんなキャラ付求めてんのよぉおおおおおおおおおおお!!」

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああ!? 不幸だぁああああああああああ!!」

 

 その日、とある病院の一室にピンポイントで落雷が降り注いだ。

 

 ちなみにいうとその音を聞いていたとあるギャルゲ少年は、

 

「当麻……今回はただの自業自得だよ?」

 

 と手際よく花瓶の水を変えながら言っていたとかいないとか……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 一方通行は顔に走った打撲の跡をガーゼで押さえながら、とある高級な生徒寮の一室を訪れていた。

 

 実験が終わった際、今まで自分が住んでいた場所を引き払い、とある人物の元監視下に入れという命令が一方通行には下されていたのだ。

 

――さすがにレベル6進化ができなかったからって、俺を放置するのはいただけないってか学園都市。ったく、くだらねぇ……。

 

 内心でそう吐き捨てながら、一方通行は自分の新しい住まいの部屋の扉を開く。

 

 そこには、

 

「おっ!! ようやくきよったな! これからよろしく一方通行!!」

 

「むむ……もう一人の同居人とはあなたでしたか。と、ミサカ10032号はあまりにデリカシーのなさすぎるあのカエル医師の常識を疑いながら、とりあえず共同生活を送る側としてフレンドリーに接してみます」

 

「……」

 

 いけ好かない笑顔を浮かべた真っ白ないでたちにグラサンをかけた、鋼のような肉体を持つ青年と、

 

 正直今の気分的に顔を合わせたくなかった、一万ほどに数を減らしたクローンの顔を見て、

 

「………………………………はァ?」

 

 あまりの意味不明すぎる事態に、思わずそんな間の抜けた声を上げた。

 

 こうして、真昼が裏で手を回したとある高級学生寮内での、イル監修――一方通行更生計画が始動することになるのだが、そのことを彼はまだ知らない。

 

 こうして、学園都市の闇は一つ潰え、

 

 夏休みは……もうすぐ佳境に突入する。

 

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