とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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虚空爆破《グラビドン》

「ええっと……風紀委員(ジャッジメント)です。この場から早急に退避してくれると嬉しいのですけど」

 

「ディー君なんであなたそんなに弱腰なの!? 即刻退避してください!!」

 

 とあるコンビニにて、盾を模したマークが刻まれた腕章をつけた少年と少女が防弾用の盾をもって入ってきた。

 

 一人は眼鏡をかけ、自己主張の激しい胸部をもつ少女。白井黒子の上司にして風紀委員会第177支部所属の固法美偉(このりみい)。もうひとりは、初春の監督をしている白い少年。ディー・N・ファクトリー。ジャジメントに入ったときからコンビを組んでいた二人は、アイコンタクトだけで役割分担をきめ素早く行動を開始する。

 

 ディーは爆弾の捜索。

 

 固法は店員に事情説明をしていた。

 

「あ、あの……うちの店に何か?」

 

「現在、この付近で重力子(グラビトン)の爆発的加速が観測されました」

 

「ぐ、ぐら?」

 

「ようするに爆弾が爆発すれ前兆があったと言うことです。この店に爆弾が仕掛けられたと思われます」

 

 固法が説明しているのを横目で見ながら、ディーは店内をくまなく捜索していく。アルミを起点に爆弾を作成する能力のため、缶ジュースが置いてあるエリアには極力近づかないようにしてだ。

 

 その時、

 

「イタタタタタ」

 

 一人の少女が足首を押さえながら座り込んでいた。

 

「どうされました?」

 

「すいません。足を……」

 

 駆け寄ったディーに少女は申し訳なさそうに謝る。どうやら逃げるときに足を挫いてしまったようだ。

 

「ああ。大丈夫ですよ。一般の方を助けるのが風紀委員の仕事ですから。それよりも早くここを離れないと……」

 

 その時だ!

 

 まるで隠されたかのように配置されたウサギの人形の姿が、まるで見えない力に包まれたかのようにその姿を歪めた!

 

「な、まさかこれが爆弾!」

 

 ディーは驚きの声を上げると同時に腰にさしてある竹刀袋をわずかにはずし、むき出しになった二振りの警棒に触れた。

 

《Iブレイン戦闘起動》

 

 警棒――に見せかけた仕込み《騎士剣》から流れてくるシステムルーチンを制御し、思考の主体を大脳新皮質上にある生体コンピュータ──Iブレインに移行。思考の速度はナノセカンド(十億分の一秒)まで加速される。五感は全てデータ化され自分の頭の中に情報がばらまかれる。

 

 Iブレインの回転速度はその間も止まることなく上がり続け情報の――リアル世界の改変を開始した。

 

《身体能力制御を起動。知覚速度・運動速度を53倍で再定義》

 

 ディー・N・ファクトリーは《騎士》である。

 

 そして騎士の主体となる能力の一つがこの身体能力制御なのだ。

 

 世界が一気に減速し、自分だけが普通に動いているような感覚がディーを包み込む。

 

 だが、実際は世界が減速したのではなく、ディーが加速したのだ。

 

 現在ディーはIブレインの事象改変によって、通常の53倍はやく活動することができる。

 

 人形は既に形を失い、黒い点に成り果てていた。

 

 だが、ディーにとってそれは、十分な時間があるということだ。

 

《騎士剣・森羅プログラム、外界干渉起動。接触対象の加速化影響を0%で再定義》

 

 シシンが『風紀委員(ジャッジメント)になるならこの機能は必須だ』といって騎士剣についでとばかりに搭載してくれたプログラムをたたき起こした後、ディーは隣にいた少女を抱え、その場から跳躍。異常な加速により本来ならズタボロになってしまうはずの少女の体は、限定的な《騎士》の能力の情報的保護を受け、傷一つつけないままディーの干渉を受け入れる。

 

さらに固法の後ろに降り立つと、店長と固法の二人も小脇に抱え込みコンビニの中から飛び出した。

 

《情報制御制限時間経過。『情報の海』の切断を確認。能力自動停止》

 

 現実世界ではちょうど十秒経ったことを示す文章が脳内に表示されるのと同時に、世界に《速度》が戻ってくる。

 

「はや! 相変わらず早っ! 何されたか解らなかったわよ!?」

 

「美偉いいから早く盾!!」

 

 ディーが悲鳴を上げるのと同時に、コンビニのガラスを叩き割り、凄まじい衝撃をまとった爆風が、飛び出してきた!

 

 轟音とともに辺りが爆煙に包み込まれ、辺りの景色が一瞬だけ見えなくなる。

 

 そして爆風が晴れたときには、盾を構えた固法とその後ろに店員と女の子を押し込んだ、ディーの姿があった。

 

「ふぅ。間一髪だったわね」

 

「主に美偉のせいでね……」

 

「う……ゴメン」

 

 少しだけ髪が煤けてしまったディーに恨みがましい目で見られて、固法はシュンとしながら謝った。

 

「にしてもディーの能力は本当に凄いわね。十秒間だけとはいえ、通常の53倍で動けるなんて。これでレベル2だっていうんだから不思議よね」

 

「ははははは……」

 

 固法の言葉にディーは引きつった笑みを返すだけに止めた。

 

 い、言えない。本当は1週間近く能力を使っても大丈夫だとか、実はまだ隠し玉があるとか絶対に言えない!

 

 魔法士には、なかなか大変な気苦労が付き纏っているようだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

  エドワード・ザインの日常は劇的である。

 

 早朝。エドの目覚ましは八割の確率でシオンの実験失敗による爆発である。

 

 今朝もそうだった。

 

 突然響き渡った轟音に反応して、エドはノロノロと起き上がる。

 

 彼は朝が苦手なのだ。

 

 ゴーストハック(彼の能力)によって生み出された、犬程度の知能を持つ床や壁と同じ材質のネジたちが彼のまわりを走り、彼を着替えさせる。

 

 本来ならばこんな複雑な動作をすることはできないのだが、それはシオンが作り出したブレスレッド型の演算補助機械《スカイネット》によって可能になっていた。

 

 ネーミングの趣味が悪すぎる気がしないでもなかったが、エドはこの時、ターミ〇ーターを知らないので黙ってこの暴走しそうな名前のブレスレッドを使っていた。

 

 閑話休題。

 

 ネジたちによって着替えを終えたエドは半分眠ったままノンビリとした動作でシオンの工房に出る。

 

 シオンの工房は天樹寮の地下にあり、人喰い(Hunter)(Pigeon)のドッグもかねている。シオンとエドはその隣に部屋を作成しそこで寝泊りをしているのだ。

 

 正直に言わせてもらうと学園都市の建築法に完璧に引っかかる違法建築ではあったが、シオンやエドは特に悪びれた風もなくこの場所を使っている。どっちにしろこのドッグのことは秘密だし、今さら同じような秘密が二三増えたところで大した違いはないと思っているのだろう。

 

 さて、そんな二人だったが、寝起きは劇的であっても挨拶は平凡である。

 

「おはよう」

 

「おお、おはようエド……。クソッタレが。また失敗しちまった」

 

「今度はなに?」

 

「錬の《エクスプローラ》に他の機能がつめないか研究してたんだ。いくつか思いついたんだが……素材がな……。おまけにサバイバルナイフじゃ面積的に刻める《論理回路》も限られてくるし……やっぱ新しい武器を作ったほうが早そうだな。だとしたら小太刀の二刀か、長刀か……。ソードブレイカーとか奇をてらっていていいかもしれないが、でもどうするにしても材料がな……」

 

 ちなみに、論理回路とは情報の海に形成される魔方陣のようなもののことだ。

 これを使うことによって、本来《魔法》を使えない一般人でも簡単な事象改変ができるようになるのである。

 

 閑話休題。

 

 エドはウンウンうなりながら新しい武器の構想を練っているシオンにこう尋ねた。

 

「買い物?」

 

「ああ。そうだな。ヴィドのところにでもいくか。エド。飯食ったら出かけるから用意しておけ」

 

「わかった」

 

 二人の会話は大体こんな感じだ。

 

 エドの最小限の発言からシオンが何を言いたいのか類推し会話をつなげていく。

 

 シオンとしてはもう少ししゃべって貰いたくはあるのだが、まあ、それは時間や経験が解決してくれるだろうからあまり真剣に矯正しようとはおもっていない。

 

 そんなシオンはポンポンとエドの頭を撫で、上に上がるように促した。

 

「さて飯にするか」

 

「当番は月夜」

 

「……やっぱ朝食は抜くか」

 

「どういう意味かしらシオン?」

 

 少しだけ青ざめた顔をしてドッグに引っ込もうとするシオンの肩をいつの間にかやってきていた月夜がガッチリと捕まえた。

 

「い、いや別に月夜の飯をくいたくないわけじゃないんだ。ただ命の危険を感じただけだ!!」

 

「最終的に一番失礼なところに落ち着いてんでしょうがァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 ヘッドロックをかけられ首を絞めあげられるシオンに合掌してエドはさっさと食堂に逃げた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 昼。少しだけ赤くなった喉元を擦りながらシオンはブチブチ文句を言っていた。

 

「たく。月夜のやつ……手加減なしで絞めやがって……」

 

「ごめんなさい」

 

「ああ? エドが謝る必要はねーよ。ほかにできるやつがいるからって料理の練習しなかったあいつが悪い」

 

「……シオンよりまし」

 

「いうようになったじゃねーか」

 

 エドの初めての軽口に、シオンは笑いながら頭をなでた。

 

 現在、彼らは学園都市内第一位のシェアをほこる《セブンスミスト》というスーパーの中を歩いていた。

 

 ヴィドという知り合いの商人によって作られたこのスーパーは、食材から工業部品までが揃えられた異常なまでに品揃えが多い店である。

 

「にしても、相変わらず裏方の通路ってのはクソ狭いな……。改善しとけよ、ヴィドのやろー」

 

「表から入れば?」

 

「それができたら苦労しねーよ」

 

 だがしかし、彼らはただの客ではない。シオンとエドはなんの迷いもなく、店の正規の入り口からではなく、店員や関係者が出入りに使う裏口を使いスーパーの中に入った。

 

 この店で彼が買うパーツは、大半が情報制御理論の組み込まれた精密機器だ。

 

 そのため、学園都市に取引現場を押さえられるのは非常にマズイ。

 

 だからシオンや真昼は店の裏から入店し完全なセキュリティが施されたヴィドの執務室で取引を行う。

 

「あ、シオンさん。お久しぶりでーす」

 

「おう。また世話になるぜ」

 

 そんな話をしながら店員が利用する狭い廊下を歩いていた彼らを見て一人の店員が足を止めて挨拶してきた。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは、エド君」

 

「ヴィドに会いたいんだけど……いまいるか?」

 

「またアポなしですか……。ええ、丁度海外出張から帰ってきたところですから執務室でのんびりされていますよ」

 

「そうか。サンキュー」

 

「お礼言う前にアポを取ってください……」

 

 面倒だろうが。と、店員に言った後、シオンは再び廊下を進み階段を登る。

 

 そして、シオンは何の変哲もない扉の前で立ち止まり、その壁を蹴り飛ばす。

 

 瞬間、まるで回転ドアのように壁が回転し、無数の電子機器によって埋め尽くされた部屋がその全貌をのぞかせた。

 

 瞬間、無数の弾丸がシオンの体を貫くように襲い掛かってくる。

 

 能力者用に改造を施された加速式弾丸。軽く音速をぶち破る単価二万円の最新鋭弾丸を、シオンは到底刀が入るとは思えないジャケットの懐から取り出した銀の刀身を持つ刀によってあっさりと迎撃。二十発あったそれらをすべて叩き落とした!!

 

「ヴィド!! 落ち着け、俺だ!」

 

「あれ? シオンか。来るなら連絡よこせよ。うっかり学園都市の裏の連中かと思っちまっただろうが!」

 

「いつもアポなんてとってないだろうが……」

 

「だからいつもこんなやり取りしているんだろうがっ!!」

 

 右手にカップラーメンを持ち、左手にはシオン特製の《ベレッタ改》を装備したひげ面の男。

 

 世界随一金持ちといわれる豪商――ヴィド・マクレイスターの登場だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ったく。面倒がらずにアポぐらいとってこいと毎回言っているだろう。お前が来ると一々心臓に悪い」

 

「悪かったよ。エドの顔に免じて許してくれ」

 

「ガキを盾に取りやがって……恥を知れバカ野郎」

 

 エドを全面に押し出して謝ってくるシオンに多少引きながらも、ヴィドはエドの頭を撫でた。

 

「よく来たな」

 

「こんにちは」

 

 折り目正しく頭を下げてきたエドに感心しつつ、ヴィドはエドに飴を渡す。

 

「ほれ、これでもなめてちょっと待っとけ。俺とシオンは少し商談があるからな」

 

「外に出てもいいぞ。四時にこっちに帰ってきてくれりゃいいから」

 

 ヴィドとシオンの言葉に、エドはぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。

 

「ったく。お前とは似ても似つかないガキになったな。お前に預けられたって聞いたときは正直「大丈夫なのかよ?」と思ったんだがこの分だと心配はなさそうだ」

 

「ああ。まったくだ。もう一人のバカ息子とは似ても似つかない性格になってくれてほっとしているぜ」

 

「なんだ、息子がいたのか?」

 

「独り立ちしたバカが一人な。どういうわけか会うたびに殺しにかかってきやがる」

 

「それはまた……。ずいぶんなサイコ野郎みたいだな」

 

「まったくだぜ。どこで育て方を間違えたのか……。ほんの二億円ほど借金を押し付けただけじゃないか」

 

「訂正するわ。やっぱりお前は死んだほうがいいと思う」

 

 そんな軽口をたたきながら、二人は戦闘態勢を整えていく。

 

 片や一流の商人として。情報制御理論を知る共犯者とはいえ一切の妥協を許さない冷徹に利益を上げるため。

 

 片や消費者として。一円でも自分の出費を削るために。

 

 一流同士の油断を許さない舌戦の火ぶたが今切って落とされようとしていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 とはいえ、そんなことはエドには一切関係なく彼はぼんやりとした表情のまま学園都市を徘徊していた。

 

 もとより感情の起伏が少ない彼は、突然与えられた自由をどう消費すればいいかわかっていない。そのため、特に何をするでもなく徘徊するという愚策とも取れる選択肢をとってしまっていた。

 

「やることない……」

 

 そんなときだ、彼は無数の嬌声が聞こえる施設の前を通りかかった。

 

 やることもなかったエドはなんとなくその施設について検索を始めてみる。

 

 近くを通りかかった警部ロボットを引き留め、能力によって作り出したネジをコードの代わりに使いハッキングを開始。一般生徒のアクセスコードに偽装したコード番号を使いネットに侵入。その施設の情報すべてをかき集める。

 

 その間わずか1ナノ秒。果てしない演算能力の無駄遣いである。

 

「公立・転輪高等学院進学率は中の下。能力開発に関しても同じく。総生徒数は8654人。特に何の変哲もない高校」

 

 学校……。エドの脳裏に朝食の時に聞いた錬の学校生活やそれを楽しみながら聞いていたフィアの楽しそうな笑い声。月夜の学生時代の自慢話や、レノアや雪の教師生活の苦労などが浮かんだ。

 

「学校は楽しいところ?」

 

 エドは本来自分やその周りの人のこと以外にあまり興味を示さないエドが、珍しくほかのことに興味を持っていた。

 

 シオンやほかの寮のメンバーがこの光景を見たら大いに喜ぶだろうが、あいにくと彼らは全員この近くにはいなかった。

 

 そして、エドは学校の人に見つからないようにこっそりと敷地内に侵入。(許可を取らずに学校に入り込むといろいろとややこしいことになるとシオンに教えられていたから) 生徒たちの学校生活を覗いて行った。

 

 そして彼はそれを目撃した。

 

「おら。すぐに返すっつってんだろうが!!」

 

「お前は金出せばいいんだよ、もやしメガネ!!」

 

 3人の生徒たちが寄ってたかって眼鏡をかけたひょろ長い生徒に暴行を働き、金を巻き上げようとしている現場に……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

世界は少年にとって優しくはなかった。

 

 外の世界でいじめにあった少年は力にあこがれて学園都市にやってきた。

 

 たった一人で戦車すら制圧することができるLEVEL5の超能力者たち。

 

 単体戦力において無類の力を誇る超能力者。

 

 学園都市に入った当時の少年は彼らにあこがれ、彼らのようになるために努力を怠ることはなかった。

 

 しかし、世界は彼にやさしくはなかった。

 

「くそ……。なんで、なんでだよ!!」

 

 身体計測(システムスキャン)の結果用紙を地面にたたきつけ、少年――介旅初矢(かいたびはつや)はそう叫んだ。

 

 身体計測(システムスキャン)の結果はLEVEL1。LEVEL0よりかはましだが、能力はほとんどあってなきような数値のことを指している。

 

 そう。少年の努力は決して報われることはなかった。高校1年になった彼はいまだに学園都市の底辺から――世界の底辺から抜け出すことができないでいた。

 

 そして、

 

「よう。またちょっと金かしてくんない?」

 

「……ま、またなの!? この前貸したお金もまだ返してくれていないよね?」

 

「はぁ?」

 

 筋道は一応の抵抗を試みるが、介旅に話しかけてきた3人の生徒たちは3人がかかりで介旅を拉致して校舎裏へ連行した。その後はごらんのとおり、

 

「おいこら。チョウシのってんじゃねぇぞ? お前は黙って金を出してりゃいいんだよ!!」

 

 筋道は3人組のリーダー格の少年に殴り飛ばされた。

 

「おい。風紀委員(ジャッジメント)は大丈夫か?」

 

「おう。いたずらに見せかけて廊下に水をぶちまけたら一発だぜ。あいつら、今頃総出で掃除しているさ」

 

 気持ち悪い嘲笑を浮かべた彼らの仲間がそう言って戻ってくるのを見て、介旅は絶望する。

 

 何が学園の治安を守る風紀委員(ジャッジメント)だよ……。ここに助けなきゃいけないやつがいるのに、掃除なんてしてんじゃねぇよ!!

 

 そう内心で風紀委員(ジャッジメント)を罵りながら、目にいっぱいの涙をためた介旅は必死に歯を食いしばり、少年の暴行に耐える。しかし、筋道のみぞおちにかなり強力なブローが叩き込まれ介旅は地面に倒れ伏した。

 

 そんな事態になっているというのに、暴行を働いた少年は特に何も感じないといった風な表情で筋介旅のポケットから財布を抜き取った。

 

「はっ!! なんだ。結構金持ってんじゃんねぇか。最初から素直に出してりゃこんな目に合わずに済んだのによ!」

 

 少年たちはそう吐き捨てると意気揚々と校舎裏から出て行こうとした。

 

 地面に倒れたままの介旅は涙を流しながらそれを見送るしかできなかった。

 

 ちくしょう。力さえあれば……。あんなやつら……………つかえない風紀委員(ジャッジメント)よりもうまく懲らしめてやれるのに!!

 

 と、歯を食いしばり、手を握り締め、介旅は泣き続けた。そのとき。

 

「な、なんだ、これ……ぐあ!!」

 

「ひぃ!! こ、高レベルの能力!?」

 

「が、ガキ!? なんでこんなところに……」

 

 突然、介旅から金を巻き上げた少年たちの苦痛に満ちた声が響いた。

 

「な、なんだ」

 

 そして介旅はそれを目撃した。

 

 校舎の壁や地面片ら飛び出した細長いネジたちが生きているようにうごめき、介旅から金を巻き上げた少年たちを殴打し意識を刈り取っているのを……。

 

「大丈夫?」

 

 そして、カツアゲ3人組が完全に動かなくなると、校舎の陰から小学生ぐらいの、薄い茶色の髪と目をもった少年が姿を現した。

 

「お、お前がさっきの能力を操っていた能力者なのか!?」

 

 こんな子供が!!

 

 そう介旅が驚愕して薄い茶色の目と髪の少年を見つめている間も、ネジたちはうねうねとうごめき、カツアゲ3人組を校舎にもたれかからせながら財布を抜き取った。

 

「お兄ちゃん、痛い?」

 

 ネジたちが介旅の財布だけを選別し、ほかの財布を投げ捨てた。そして、ネジはまるで従順な犬のように薄い茶色の目と髪の少年に近づき介旅の財布を渡す。

 

 少年は財布を受け取るとそれを介旅に差し出しながらそう尋ねた。

 

 それが、幻想御手(レベルアッパー)被害者。介旅初矢とエドワード・ザインの出会いだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「いつまでついてくるきだ?」

 

「……心配」

 

「大きなお世話だ!!」

 

 介旅が寮に帰る帰り道。介旅の後ろにはエドがぴったりとついてきていた。どうやら、エドは介旅の怪我の具合を心配して付き添っているつもりのようだ。

 

 助けた方と助けられた方といった関係ならいたって普通の光景ではあったが、仮にも介旅は高校生でエドは年齢的には小学二年生だ。

 

 いくらエドが強力な能力を持っているとはいえ、年下に心配されるのは恥ずかしいと思う程度の自尊心を介旅は持ち合わせていた。

 

「怪我はもう大丈夫だって保健室の教諭が言っていただろうが!! 余計なおせっかいはするな!! 友達のところにでも行って遊んで来いよ!!」

 

「友達……?」

 

 介旅の言葉に、エドは普通に首をかしげた。

 

 そしてしばらくの間、何かを考えていたかと思うと、再び介旅の後ろに並んだ。

 

「なんだよ」

 

「友達いない。みんな学校」

 

「はぁ!? じゃぁ学校に行けよ!!」

 

「だめ。エドは欠陥品。まだ調整が必要」

 

 エドが言った言葉に、介旅は目を見開いた。

 

 欠陥品? 調整!? 何を言っているこいつは!? と。

 

「エドは人形だから。まだ人の中には入れない」

 

 それから無言になるエドに、余計なこと言ってしまったか? と、何となく聞いてはいけないのだと悟った介旅はなんともいえない居心地の悪さを感じる。そんな介旅に、一筋の光明が差しこむ。

 

「あ」

 

「ん?」

 

 エドが小さな声を上げたと思ったら、そのままそこで固まってしまったのだ。

 

 その顔には、先ほどまではなかった興味深そうな表情が浮かんでいた。

 

 介旅がその視線の先を追うとそこには黄色にペイントされた派手な車が公園の中に止まっていた。

 

 最近噂になっているおいしいクレープ屋の屋台だ。

 

「クレープ……食べたいのか?」

 

「……………」

 

 エドは何も言わなかったが、何度も首を縦に振った。

 

 そのやたらと保護欲をくすぐるしぐさに閉口しながら、介旅はクレープ屋に行き、二つのいちごクレープを買ってくる。

 

「これ食ったらさっさと家に帰れよ」

 

「! ……いいの?」

 

「ああ。だが、これで貸し借りはなしだ」

 

 エドはそれに何度も頷くと、慎重な手つきでクレープを受け取った。

 

 そしてベンチに座り、無表情のまま目を輝かせるというある意味高等技能を発揮するエドの隣に介旅は腰を下ろす。

 

 そして、クレープを食べようと口を開くと同時に、エドも同じしぐさをしていることに気付いた。

 

 介旅と同じように大口を開けてクレープにかじりつこうとしていたのだ。

 

 介旅は、しばらくそれを見て固まっていたが、無言のままクレープに近づけていた口を遠ざけてみる。

 

 エドはそれを見て、ひどく驚いたかのように目を見開き少しだけ躊躇した後、介旅と同じようにクレープを口から離した。

 

「……………………」

 

 再びクレープを食べようとする介旅。真似をするエド。離す介旅。最初の時以上の迷いを見せたのち渋々クレープを離すエド。

 

 それを見て、介旅は一言つぶやいた。

 

「先に食っていいぞ」

 

 その言葉を待っていたのか、エドは素晴らしい勢いでクレープをほおばり始めた。

 

「なぁ……」

 

 見た目に似合わず、鼻や口元に大量のクリームがっつくようなエドの豪快な食べ方にしばらく呆然とした後、介旅は思わず彼の頭に軽いチョップをたたきこんでしまった。

 

「!!」

 

 突然頭に走った衝撃に、エドは目を白黒させながらクレープを食べるのをやめた。

 

「ああ、すまん。でも、もっときれいに食べろ」

 

 介旅にそう言われて、エドはしばらく考え込んだ後、ぺこりと頭を下げゆっくりとクレープをほおばり始めた。

 

 手のかかるガキ。

 

 高レベル能力者への認識を改めつつ、介旅もようやくクレープに口をつけるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 松壊シオンは困っていた。

 

 ヴィドとの交渉は思っていた以上にうまくいき、ソコソコの値段で買いたいパーツは買えたのだが、荷物持ちのために連れてきていたエドがいつまでたっても帰ってこないからだ。

 

 買ったパーツのほとんどが重量のある金属部品のためエドのゴーストハックを使い荷物を持たせる予定だったのだが、

 

「エドが時間通りに帰ってこないとはな……。珍しいこともあったものだ」

 

 嫌な予感なんてものは全くしない。当然だ。もし学園都市が何らかの手を打っているのだとしてもエドをどうこうできるランクの敵はレベル5の第四位以上。ハウンドドッグ程度なら撃退できるどころか、相性は最悪級である。

 

 もともと、エドの能力は《不特定多数の歩兵を効率的に殲滅することに特化した能力》として、アルフレッド・ウィッテンが考え出した《魔法士三大基礎能力》の一つ。

 

 エリザベートは雑用に便利そうというくだらない理由でこの能力をエドに与えたようだが、ひとたび戦闘用に調整されたエドが戦闘を始めれば、理論上では一瞬で一千人の人間を葬り去ることができる。

 

 ハウンドドッグのような特殊部隊タイプの一般(?)(ユニット)では瞬殺されるのが落ちだろう。

 

 代わりにエドが苦手とするのは、一騎当千型の単体ユニット。高速で動くものはさらに苦手とする。ようするに祐一と雪、そしてディーの《騎士》のような能力を持つものが天敵なのだ。

 

 現状それに匹敵する能力者は第一位の一方通行(アクセラレータ)のみ。

 

 第四位以上のほかのレベル5なら何らかの工夫で攻略してきそうだが現状では誰も動いていないことは真昼が確認している。

 

「ということで、あいつに身の危険が迫っているわけではなさそうだな……」

 

 とはいえ、異常事態であることに変わりない。基本的に、エドはいうことを気持ち悪いぐらいよく聞くので、シオンの言いつけを破って何かをしている時点で異常事態だ。

 

「しゃぁない。使いたくはなかったけど……」

 

 シオンはそういうと、ポケットから数枚の札を取出し呪文を唱え(・・・・・)あたりにばらまく。

 

 すると、その札は色彩豊かなスーツを着た六人の美男美女に変化した。

 

「六鬼。悪いが荷物を寮に運んどいてくれ。俺はエドを探す」

 

 むごんのままぺこりと頷いた六人は、一個数百キロはあるはずの荷物を軽々と持ち上げ寮に帰って行った。明らかに人外の所業だったが、もとより人外の能力者たちが住まう学園都市。その光景は特に気にかけられることもなく学生の雑踏の中に消えて行った。

 

「……さて、さっさとエドを探しますか」

 

 シオンがそう言った瞬間、その空間に白銀に輝く風が渦巻きシオンを包み込んだ。そして、その風がやんだ時には、シオンの姿はそこから消え去っていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから十二秒後。シオンは意外なところでエドを見つけた。それも、かなり意外なシーンで。

 

「なにしてんだ、エド?」

 

「滑っている」

 

「見りゃわかるよ……」

 

 多少呆れを含んだシオンの声を完璧に無視して、エドは再び滑り台に上り始めた。

 

「あんたが、こいつの保護者か?」

 

「ああ。どうやらうちの餓鬼が世話になったみたいだな」

 

 珍しく一向に帰る様子を見せないエドに苦笑しながら、シオンは近くでエドを見守っていた眼鏡をかけたひょろ長い少年に頭を下げた。もちろん介旅のことだ。

 

「いや、それはいいけど……いったいどういうことなんだ? このガキほんとうに何も知らなかったぞ。公園の遊具についてもほかにもいろいろ……」

 

「最近の餓鬼は知り合って間もない相手に、家庭の事情を根掘り葉掘り聞くのが礼儀なのかよ」

 

「……」

 

 シオンの鋭い返しに、介旅は多少ムッとしながらも正論だと思ったのか黙り込んだ。

 

「はぁ。なんて、ただの冗談なんだけどな」

 

「……………おい」

 

「まぁ安心しろ。大したことじゃない。エドは特別心の成長が遅くなる心の病を患っていてな。精神年齢的にはまだ3歳にもいったってないんだわ。なのにあんな強力な能力持っているだろう? だから、精神的に成長が完了するまで外の世界と切り離して育てていたのさ」

 

 すらすらと嘘の話をしていくシオン。微妙に本当のことが含まれているところが、たちが悪い。

 

肩をすくめるシオンの言葉に納得した介旅はいまだに滑り台を続けるエドを見つめた。

 

 強い奴には、強い奴なりの苦労があるんだなぁ、と思いながら。

 

「さて、そろそろ6時まわっちまうしな。ひきあげるぞ、エド!!」

 

「…………………」

 

 若干不満そうなエドを見て苦笑をうかべながらシオンはエドを肩車する。

 

「じゃあな兄ちゃん。またこいつと遊んでくれや」

 

「あ、はい」

 

 そう言ってシオンは公園を出て行こうとする。しかし、エドはそれを自分が操るネジをシオンの足に絡ませることによってとどめた。

 

「ああ? なんだ、エド? そろそろ帰らないと月夜が心配するだろう」

 

「ちょっとだけまって」

 

 エドはそういうと、するするとシオンの肩から降りると介旅の前にやってきた。

 

「あしたも……遊んで」

 

 エドのその言葉に、少し驚きながらも、介旅はしゃがみこみエドに目線を合わせてこういった。

 

「昼からなら遊んでやる。ここで待っとけ」

 

「うん!!」

 

 その言葉に、エドは目だけではなく顔全体に笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 しかし、世界は彼に優しくない。

 

「こ、これだ……これさえあれば、僕は……」

 

 パソコンの前でとあるサイトを見ていた介旅はあるものを見つけてしまう。そして、それが放つ、濁った暗い光に目が眩んだ介旅は、今日一人の少年が与えてくれは小さな光を忘れてしまうのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 お昼ご飯を食べたエドは意気揚々と昨日の公園へと向かった。

 

 そして、まだ介旅が来ていないことに無表情のままがっかりしながらエドは昨日クレープを食べたベンチに腰掛け介旅の到着を待った。

 

 それから1時間、2時間が過ぎる。

 

 筋道はまだ来ない。

 

 やがて空は曇り、雨が降り始める。

 

 小雨だったそれはやがて大雨になり、エドの体を容赦なく濡らした。

 

 ずぶぬれになりながらエドはそれでも介旅を待ち続けた。

 

 やがて日は暮れあたりの街灯に明かりがともる。幾人もの学生たちが家路を急ぐ中、エドはひとりさびしく待ち続けていた。そんなときだ、

 

「おい、どうした!! こんなところにいたら風邪をひくぞ!!」

 

「え……」

 

 エドの頭の上に黒い傘が差されていた。

 

「大丈夫か? って、おまえ……錬のところの」

 

 そう言って、傘を差しだしてくれたのはつんつん頭をした高校生ぐらいの少年だった。

 

「はい」

 

「はいって、お前……泣いてるじゃないか?」

 

 上条当麻はそう言って、エドにハンカチを差し出した。

 

 雨に紛れて涙の有無は確認できない。表情にもこれといった変化はない。能面のような無表情だ。

 

 しかし、その時当麻には、なぜかエドが泣いているように見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 初めの虚空爆破(グラビドン)事件が起こる一週間前のことである。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

虚空爆破(グラビドン)にセラちゃんが巻き込まれたの!!」

 

「いえ。正確には昨日の爆発に巻き込まれた私達の先輩がどうやらセラさんの知り合いだったようですわ。いま本部に来られていて先輩を説教しているみたいですの」

 

「ふーん知り合いねぇ。その人も魔法士なの?」

 

「いえ。普通の超能力者のはずですわ。学園都市の書庫(バンク)にもきちんと登録されている方で《瞬間加速(モーメントアクセル)》という能力を持っている方ですの」

 

「ふーん。便利そうな能力ね」

 

「ご本人も逃げ足ならだれにも負けないといっておられましたわ」

 

「……能力の果てしない無駄遣いね」

 

 白井の言葉に若干の呆れをにじませながら美琴は自販機から強奪したジュースを口に含む。

 

「にしても、その虚空爆破(グラビドン)の犯人、なんで捕まっていないの? 能力者の犯行なんでしょう。だったら書庫(バンク)で検索かければ一発じゃない」

 

「妙なのはそこなんですの」

 

 美琴の疑問に白井はため息をつきながら答える。

 

量子変速(シンクロトロン)。それも爆弾使用できるほどの強い能力をもった能力者となると学園都市には大能力者(レベル4)・釧路帷子という能力者ただ一人……」

 

「じゃあその人が容疑者じゃないの?」

 

「それが一連の事件の始まりは1週間前なんですけれども……彼女は8日前から原因不明の昏睡状態に陥っていますの」

 

 白井は確認してきた病室の様子を思い出しながら最悪の事実を告げた。

 

「病院からの外出はおろか、一度も意識を取り戻しておりませんし医療機器にも記録が残っておりますので、彼女による犯行は不可能ですの」

 

書庫(バンク)のデータに不備があるってこと?」

 

「あるいは……めったにないケースですが、前回からの身体計測(システムスキャン)後の短期間で能力をつけた能力者の犯行という可能性もありますわね……」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その日の放課後。

 

 初春飾利は風紀委員(ジャッジメント)の仕事をさぼり、親友の佐天涙子とともに洋服を買いに行く途中で意外な人物に出会った。

 

「あれ、初春さん、佐天さん。こんなところで何しているの?」

 

「あ、御坂さん」

 

「お久しぶりでーす」

 

 そこに学校帰りにコンビニに寄ろうとしていた御坂美琴だ。

 

「私たちこれから洋服を買いに行く予定なんですけど、よかったら御坂さんもどうですか?」

 

「え、いいの。そういえば、ちょうど夏服買に行かないとなって思っていたところだったのよ」

 

「お店はセンブンスミストっていうチェーン店なんですけど……」

 

「ああ。うちの学校は休日でも制服着用が義務付けられているからそういうこと気にする人あんまりいないの。だから、そういったことはあんまり関係ないわよ」

 

「そうなんですかー」

 

「さすが、お嬢様」

 

「初春……何がさすがなの? ところで白井さんとフィアさんは?」

 

「ああ。あの二人はなんか忙しいらしいわよ?」

 

 3人はそんなことを言いながらセブンスミストへ歩いていく。

 

 その時、初春は何か忘れている気がしたが、とくに気にすることなくそのまま佐天たちについて行ってしまった。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そのころの風紀委員(ジャッジメント)第177支部にて。

 

 

「初春さん……おそいなぁ」

 

「いくら能力があるからって爆弾のそばに行くなんて無茶……ディー君!! 聞いているんですか!!」

 

「はい、聞いています!!」

 

 風紀委員(ジャッジメント)で初春の上司をしているディーは、怒り狂ったセラに正座させられ強烈な説教を食らっていた。

 

「なんか最近、ここに平然と入ってくる部外者多くないかしら?」

 

 自分が統括している支部のありように多少頭痛を覚えながら、固法美偉はコーヒーをすすった。

 

「うーいーはーる!! どこで油をうっていますのぉおおおおおおお!!」

 

 そして、機嫌が究極的に悪くなっている白井が頭をかきむしりながらそう叫ぶ。今日も今日とてこの支部はかなり騒がしいのだった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 とあるゲームセンターで介旅はクレーンゲームでカエルの人形をゲットしていた。

 

 別に自分の部屋に飾るために取ったわけではない。これから行うとあることに必要なのだ。

 

 自分の隣に風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけた少女が通り過ぎるのを確認すると介旅は凶悪な笑みを浮かべながら黒い手袋を身に着ける。

 

 その時。

 

「ん?」

 

 どこかで聞いた。小さな男の子の声が聞こえた気がした。

 

 介旅はあわててあたりを見回すが、彼が探している人物は確認できない。

 

「きの……せいか?」

 

 介旅はそう言って頭を振り。違う入口から彼女たちが入って行ったセブンスミストに入っていく。

 

 

 

そして、違う場所で。

 

「まったく当麻は。女の子とみれば見境なく助けるそのくせどうにかした方がいいと思うよ」

 

「待てよ、錬。それだと俺がまるで下心を持って女に接しているように聞こえるだろうが!!」

 

「あれ、違ったの? この前困っている男の子に『助けて!!』って頼まれたのに『いえ、すいません。遠慮します』って言っていたからてっきりそうなのだと思っていたよ」

 

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ!! してねぇしそんなこと!!」

 

「錬さん、いくらなんでも失礼ですよ」

 

「お兄ちゃん喧嘩はだめだよ!!」

 

「喧嘩……ダメ」

 

 やたらと騒がしい一団がセブンスミストに入って行った。

 

 この時、世界は初めて介旅にやさしくなったのかもしれない。

 

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