とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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打ち止め《ラストオーダー》編
8月31日


8月31日

 

深夜。

 

「ふ、不幸だぁああああああああああああああああああああああ!」

 

 夏休みの宿題をすっかり忘れていたことを思い出した幻想殺しの少年が叫び声をあげ、

 

「なんか知らない間に人が増えているんだけどぉおおおおおおおおおお!?」

 

 幻想殺しの少年が、とある殺人鬼と大天使を相手に、死線をくぐった場所の調査を終えて戻ってきた悪魔使いの少年が、いつの間にか増えていた寮の新しい住人(龍使い)に目を見開いた時だった。

 

「あぁ、つまらねぇ……」

 

 とある通路でうめき声をあげながら、折れた腕を抱えてのた打ち回る人間たちをしり目に、悠然とコーヒーの入った袋を片手に歩き続ける少年がいた。

 

 いうまでもなく、真っ白な肌と髪をした、一方通行だ。

 

 現在イルとミサカ10032号と同居している彼は、その二人と顔を合わせなければならない今の環境がめんどくさくて仕方なく、夜であってもよくこうして出歩き、ふらふらする日々を送っていた。

 

 当然、そんな無防備なことをしていると一方通行敗北の知らせを受け、今の彼なら倒せると、愉快な勘違いをしたバカどもが襲撃してくる。今歩道に倒れている体の一部が粉砕されたバカどもも、そういった頭の足りない判断をした屑野郎だった。

 

――たとえ俺が一度敗北したところで、お前らが強くなったわけじゃねェだろォが。

 

 内心で吐き捨てながら、一方通行はうっとうしい男たちのうめき声を能力で遮断し、あてどない歩みを続ける。

 

 いるたちが待つ寮に帰るという選択肢はなかった。

 

 別に今そんな選択をしなくとも、深夜を超えればいい笑顔を浮かべたイルが、いつの間にか自分の前にたたずみ、

 

『保護者に心配かけるとはえぇ根性や、チンピラ。歯ぁくいしばれ!!』

 

 といって、量子力学的確率制御を使って、一方通行の反射をぶち抜くパンチを叩き込み、意識を刈り取った後無理やり寮へと引っ張っていくのだ。

 

 自分から帰ろうとしないのは、一方通行なりのせめてもの抵抗だった。

 

「いや、って何考えてンだ俺は。ちげェだろ。お前はそうじゃねェだろうが」

 

 せめてもの抵抗? 馬鹿か。気に入らないやつがいれば、何をしても殺す手段を考え、ぶち殺す。

 

 それが今までの一方通行だった。

 

 絶対君臨者であったがゆえに、勝つための創意工夫などしたことがないが、だからと言って自分の意識を笑顔で刈り取るような不届き者の生存を許せるほど、一方通行はできた人間ではなかった。

 

 量子力学的確率制御。それは確かに一方通行の能力ではどうすることもできない、ベクトルの存在しない『確率』を操る能力者だが、顔面の筋肉が八割がた爆散することに耐えられれば、骨に反射をかけてイルの攻撃を反射することくらい可能なのだ。

 

 深い闇の中にいた時分なら、ためらいなくやったであろう、だれにとっても非常すぎる反撃手段。

 

 その可能性を頭に置きながら、どういうわけか今の自分には、自分の笑顔で教育的制裁と殴りつけてくるイルや、そんなイルに別途に放り込まれた自分を見て「学園都市最強(笑)ですねと、ミサカは隠しきれない失笑を浮かべて一方通行にモーニングコールします」といってくる、いけ好かないクローンをどうこうしようという気が起きなかった。

 

「何かが変わったのか? あの戦いで……俺の中の何かが」

 

 恐らくそうだろう。でなければ、自分がこんなにおとなしくしている理由がない。だが、その変化の内容がわからない。

 

 いや……もしかしたら。

 

「わかりたくないのか?」

 

 そう口に出した瞬間、一方通行は首を振る。

 

――なンだその弱気な言葉は。俺にそンなもンが似合うと思ってンのか。と、失笑とも冷笑ともいえない、微妙な自嘲の笑みを浮かべて。

 

 と、その時だった。

 

「あァ?」

 

 自分の目の前に何かが飛び出してきた。

 

 それは頭から足もとまですっぽり毛布をかぶった不審者だった。

 

 一応手や足があり、毛布の下からのぞくくるぶしや裸足の足から推察するに、人間ということはわかる。

 

 ついでにその背格好から、かなり幼い人間だということも分かった。

 

 だが、

 

「なんだてめェ?」

 

 そんなやつがこんな時間に、こんな凶悪な人物(一方通行)の前に飛び出してくる理由がわからなかった。

 

 おまけに一方通行の問いかけに対して、その毛布お化けは無言を貫いている。

 

――新手の暗部か? また俺にろくでもない仕事の依頼か?

 

 一方通行はそう判断し、うっとうしそうに能力を使い、この馬鹿を殺そうとしたが、

 

「ン? なんだしゃべってんのか」

 

 毛布の隙間からのぞいている口元が、ようやく何かを言っているかのようにぱくぱくと動いていることに気付く。

 

――そういや、うめき声を封じるために反射で音を反射していたな。と、その事実にようやく思い至った一方通行は、ため息をつきながら音の反射を停止。

 

 同時に響き渡ってきた声は、

 

「いぇーい! せっかくあなたの問いかけに答えてやったのに、その言いぐさはいったい何なの!? バーカバーカ、この一方通行!! って、ミサカはミサカはシカトされまくった腹いせに、どうせ聞こえないだろうと、散々あなたをののしってみたり!!」

 

「聞こえてんぞコラ」

 

「ミギャ!?」

 

 とりあえず開口一番に罵詈雑言が聞こえたので、遠慮なく頭部と思われる部分にチョップ(ベクトル変換オフ)を叩き込む一方通行。

 

 そして、その後、先ほど聞こえた特徴的な言葉の中に潜む聞き覚えのあるワードに、一方通行は反応する。

 

「って、あぁ? ミサカ? ちょっとお前、その毛布脱げ」

 

「えっ!? ちょ、いきなり何の意思疎通もなしに一発のチョップで、いきなり服を脱げと強要するのは、人間としてどうかと思うって、ミサカはミサカは……って、ぎゃぁあああああああああああああ!?」

 

 とりあえずこんなわけわからん相手に、常識を語られたのが腹立たしかったので、一方通行はベクトル変換を使い無理やり相手から毛布をはぎ取る。

 

 毛布お化けは悲鳴を上げ、あわてて毛布を取り返そうとするが、その小さくきゃしゃな体で一方通行のベクトル変換にかなうわけもなく、

 

「って、あぁ!?」

 

 哀れ服をはぎ取られた毛布お化けあらため、ちんまいミサカは顔を真っ赤にして泣きそうな顔になりながら、自分から遠ざかっていく毛布を見つめていた。

 

 全裸で……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 数分後。

 

 しぶしぶ寮に帰ってきた一方通行が、エグエグと嗚咽を漏らす、毛布一枚だけを装備してあとは全裸というミニミサカを連れてきたのを見て、家事をしていたエプロン装備のイルが愕然としていた。

 

「一方通行……いつか、やると思っていたんや」

 

「おィ。どういう意味だ、それ」

 

警備員(アンチスキル)ですか? 風紀委員(ジャッジメント)ですか?」

 

「てめぇは、まず電話の受話器を置けクソクローン」

 

「うぅ……けがされちゃったよぉ。ってミサカはミサカは泣きまねしながらさっきの復讐をしてみたり」

 

「てめェは事態がややこしくなることを言ってんじゃねェ!!」

 

 こうして、一方通行の夏休み(もともと年中休みみたいなものだが……)、最後の一日が始まる。

 

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