とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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捜査線上の一方通行

 一方通行は、先ほど昼食を食べたファミレスから一人で出てきて、さっさとその場を離れた。

 

 背後のファミレスの外に面した大きな窓からは、机に突っ伏し苦しそうに荒い息をつく打ち止めの姿がある。

 

 おそらく調整不足による限界が来たのだろう。イルと10032号と話していた打ち止めの言葉を思い出しながら、一方通行は内心でつぶやく。

 

『ミサカは突然、よくわからない攻撃を受けて慌てて研究施設を出てきちゃって……。まだほかのクローンみたいに、延命の処置とか完全じゃないんだよ。だから、研究施設の知り合いがいそうな一方通行に頼ろうって思ったんだけど……。って、ミサカはミサカは意外と切羽詰まった状況を丁寧に話してみるっ』

 

 と言いながら、割と元気よくイルが作った食事を食べていた打ち止め。

 

 正直その時は新手の詐欺かなんかだと思ったのだが、なるほど。あの苦しそうな姿を見る限り、どうも奴の言葉は本当だったらしい。

 

「とはいえ、どこのどいつだァ? 今更あのクローンどもに、ちょッかい出そうなんていう馬鹿は」

 

 軍事用クローンの生産計画も、一方通行の絶対能力者進化計画も、ことごとく頓挫してしまったあのクローンには、もはや研究対象としての価値はないはずだ。

 

 万一あったとしても、二回も実験に失敗したあのクローンたちに手を出してまで、その《価値ある何か》を成功させるリスクを背負える研究者が、暗部にまだいるとは思えない。

 

 そんなものをいまさら攻撃する……。それも打ち止めの口ぶりや、培養層で調整を受けていたという彼女の状況から考えるに、その正体不明の攻撃とはおそらく、物理的な破壊を伴ったものではなく、脳に対するハッキングというまどろっこしい手段だろう。

 

 そんな手間暇かけてろくな成果も出そうにない攻撃を、いまさら打ち止めにするような理由が、一方通行にはどうしても思いつかなかった。

 

 そして、一方通行はしばらくそんなことを考えながら、黙って道を歩き続ける。

 

 途中どこぞのバカどもが、たまたま肩がぶつかったという理由で一方通行に因縁をつけてきたが、うっとうしいので無視した。

 

 激怒した様子で襲い掛かってくるバカどもを、反射の力で蹴散らしながら一方通行は歩き続ける。

 

「って、俺にはかんけェねェだろうがよォ。何真剣に、打ち止めの事件について考えてんだ」

 

 らしくねェ。唾を吐くように忌々しげにそう吐き捨て、一方通行は歩き続ける。

 

 そしてかれは、

 

「……ふンッ」

 

 一方通行は、絶対能力者進化計画を手伝っていた、ある研究所にたどり着いていた。

 

 実験の失敗で多大な叱責を受け、もはや施設が完全に停止するのは秒読み段階といわれている研究所。

 

 この研究所には確かあいつがいたはずだと、一方通行は鋼鉄の門を蹴り開け、研究所の中に侵入する。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「うん? あら、お帰りなさい一方通行。あんな手洗い手段を取らなくても、きみのIDはまだ90日ほどは有効よ?」

 

「うるせぇ。ちょっとした探しもんだ、芳川」

 

 やッぱりいやがッたか。と、内心でつぶやきながら、一方通行は何やら膨大な数のデータ養子から視線を上げ、こちらを振り返った女性をにらみつける。

 

 白衣を着た、黒い髪を肩口で切りそろえた女性。

 

 遺伝子方面を専門とする研究者で、妹達(シスターズ)についていろいろな調整をしていたはずの女性研究員、芳川桔梗だ。

 

 一方通行は内心で彼女がいたという事実に安堵した自分に舌打ちを漏らしながら、研究所のガサ入れを開始。もはやこの研究室は芳川だけしか使っていないのか、散らかりに散らかっているその場所を、ごみの類を掘り進めながら目的のものを探す。

 

「ちょっと、今複雑な計算しているところなんだから、あまりこの部屋にあるものを雑に扱わないでほしいのだけれど?」

 

「だったら、シスターズの調整に関してのデータをよこせ。調整用の設備一式も借りるぞ。文句があるなら、実験凍結で未払いになっている契約料だと思ってくれりゃぁいい。今そいつが要り様なんだよ」

 

 一方通行の名を表したかのような一方的な要求を聞き、芳川は驚いたように目を見開いた。

 

「おどろいた。君が来てくれるなんてありがたいと思っていたけど、どこでそのことを知ったの?」

 

「あぁ?」

 

 何の話だ。と、わけのわからない芳川からの問いかけに一方通行が、内心で首をかしげるなか、芳川は椅子ごと自分の体を動かし、先ほどまで自身が見ていたパソコンのディスプレイを、一方通行に見せた。

 

「なにって、これをどうにかするためにさっき言ったものを探しに来たんじゃないの?」

 

 そして、芳川が話し出したことは、一方通行にとってはほんの少し憂慮すべきことだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「打ち止めの人格データにウイルスが仕込まれとるやって?」

 

「あぁ。僕もついさっき匿名希望の関係者から依頼を回されて、何とかしてくれと懇願されたところなんだけどね?」

 

 イルは病院についたと同時に、ミサカ10032号が調整用に培養層に放り込まれてしまい、いったい何事かと、カエル顔医者に詰め寄っていた。

 

 それの答えが、先ほど医者が教えてくれた、信じがたい事実だった。

 

「なんでも原因はとあるクローンにあるらしくてね。ミサカシスターズにはストッパーがいるということは話したかな?」

 

「ストッパー?」

 

「そう、ストッパーだ。何せあの規模の実験で、LEVEL3級の超能力者を二万対用意したんだよ。テスタメントで最低限の安全装置は掛けてあるにしても、万一それを破られて反乱でも起こされたら大変だろう。だから、その反乱がおこった際の抑止力にするために、ミサカシスターズの制作者は、例外的に20001体目のクローン個体を作り、彼女にミサカネットワーク……同じ脳波周波数を持つクローンが構築した、クローン脳内で展開される巨大なネットワークの中枢を担わせ、それを制御できるようにしたのさ。まぁ、体のいいミサカネットワークの操作端末だと思ってくれればいい」

 

 《コード》では《最終信号(ラストオーダー)》と呼ばれていたらしい。そう医者がつぶやくのを聞き、イルは思わず歯を食いしばる。

 

 その、安全装置扱いされている少女に、イルは覚えがあった……というか、

 

「で、そいつの頭にウィルスが仕込まれてるんが何でヤバいねん?」

 

「彼女にはミサカネットワークの制御権が握られているんだよ? 逆説的にそれは、彼女を抑えてしまえば、ミサカネットワークを介して、9000体以上ものクローンが自由に操れるということに他ならない。一方通行に歯が立たなかったみたいだけど、彼女たちも一応は戦闘に耐えうる強度を持つLEVEL3だし、戦闘実験による学習で、なまなかな軍隊よりもはるかに高い戦闘パフォーマンスをすることができる。それが一斉に無差別に暴れまわったりしたら、いったいどれだけの被害が出ると思う?」

 

「………………………………………」

 

 それを聞いた瞬間、イルは慌てて自分の携帯を取出し、「病院でそれを使うのは感心しないね」と言ってくるカエル顔医者を無視して、自分の家に電話をかけた。

 

 当然、出るものは帰ってこない。

 

「クソッ!」

 

 イルさは小さく悪態をつくと同時に、着用していた拍を射脱ぎ捨て、即座に病院から飛び出した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『笑えよ。どォやら俺は、この期に及ンでまだ救いがほしいみてェだぜ』

 

『ええ。それは大いに笑ってあげましょう。君の中にまだそんな感情があるというのなら、それは笑みをもって祝福するべきことよ。だから安心して証明しなさい、君の力は大切な誰かを守れるということを』

 

「くそッたれ……」

 

 研究所で交わした偽善者染みたやり取りを思い出しながら、一方通行は研究所に向かった時とは比較にならない速度で、打ち止め(ラストオーダー)を放置していたファミレスへと向かっていた。

 

 時刻はすでに夕暮れ。放置してから随分と時間が経っているが、あの状態ではまず動くことは無理だろうと、一方通行は考察する。

 

――それにしても、警備員(アンチスキル)の連中が多いな。天井関係で出てきてんのか?

 

 と、普段と比べてかなり目につく、防弾装備に身を包んだ警備員たちの姿に、一方通行は目を眇めた。

 

 天井亜雄は、今回の事件の主犯と思われる男だ。打ち止めにウィルスを流し込み、妹達の暴走をたくらんだ張本人。

 

――大方暗部から派遣されてそいつを助けるように言われたか……もしくはすでにあのカエルが動いていて、学園都市内でテロをもくろむ奴がいると通報されたか……。

 

 どちらにしても、介入はあまり有難くない連中の姿に、一方通行は思わず舌打ちを漏らす。

 

 だが、どうもそいつらの通信を盗み聞きすると、どうもそうではないらしい。

 

「不法侵入者はいまだに逃走中……」

 

「応援要請」

 

「Bブロックから、Oブロックまで閉鎖急がせろっ!」

 

「あァ?」

 

――こんな時に侵入者か。天井の関係者か? と、一方通行は内心で呟きながら、だとしたらなおのこと打ち止めの回収を急がねばと足を速める。

 

 数秒後、あのファミレスが目前にまで迫った。

 

――打ち止めはまだいるだろうな。と、一方通行はベクトル操作を使い、疾走していた勢いをファミレス前で殺そうとしたときだった。

 

 ファミレスの、通りに面した巨大な窓ガラスが木端微塵に砕け散った。

 

「あァ!?」

 

 砕け散ったガラスのに面した道路を見ると、そこには漆黒のスーツを着たプロレスラーのようなガタイの男が立っていた。

 

 男は悠々とファミレスに侵入すると、ファミレスで言い争うような会話が響き渡り、今度は透明になった人のような物体が、飛び散ったガラスの破片を砕きながら砕けた窓ガラスから、出てきた。

 

 頭に盛大に料理がぶっかかっているので、透明人間の意味が8割がた減少している気がしないでもないが……。

 

 そんな一方通行の感想などつゆ知らず、透明人間は彼とは逆方向へとむかったらしい。途中、猫の餌を抱えていた、巫女服の変わった女にぶつかり、彼女を盛大に転倒させていた。

 

 巫女服の少女も、空飛ぶスパゲッティと言っていい用紙をした透明人間の姿にびっくりしたのか、袋の口が開いており、ペットフードがまき散らされたにもかかわらず、ぼうぜんと透明人間が過ぎ去った方を見ている。

 

 その時、ファミレスからツンツン頭の少年と、これと言って特徴のない少年が、泡を食って飛び出してきたではないか。

 

「ッ!! あいつらッ!!」

 

 あの実験の時、自分を殴り飛ばしたツンツン頭と、そいつとつるんでいた無個性少年だ。

 

 色々彼らには含むところがある一方通行だが、今は打ち止めの方が先決と判断したのか、

 

「まったく! また藤間は不幸を呼び込んでっ!! 僕がとっさにスパぶつけてなかったら、どうするつもりだったのさっ!!」「俺のせいっ!? 俺のせいなのっ!?」

 

 なんて言い合いをしながらどこかへ消える彼らを、舌打ちをしながら見送った後、一方通行はファミレスに入った。

 

 そこには、昼間一方通行が脅してしまった女性店員が、先ほどの襲撃に腰を抜かしたのか、しりもちをついていて、

 

「おい」

 

「えっ!? あ!? あなたはっ!!」

 

「俺と一緒にいたガキはまだここにいるか?」

 

「え? えっと……あ!」

 

 さすがに一方通行に脅された事実は忘れがたかったのか、一方通行が問うと同時に、女性店員は即座に打ち止めに関して思い出してくれ、

 

「確か、苦しそうにしていたので声を駆けたら、保護者を名乗るかたがちょうど来られたので、その人に預けたんですけど……」

 

 その返答に、一方通行は思わず舌打ちをもらし、頭痛でも憶えたかのように額を抑えた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 自分の部屋に帰ったイルは、そこがもぬけの殻になっているのを見て舌打ちを漏らした。

 

 そして、こういう時こそと言わんばかりに寮に電話をかけ、学園都市に独自のネットワークを築いている、真昼に頼ったわけだが。

 

『すまないね……イル。学園都市に今別口の侵入者が来ているみたいで、いろいろ情報が錯そうしていて。探すのに時間がかかった』

 

「そんなんええから。それよりもはよ、天井の居場所教えてくれへんか?」

 

 時刻はすっかり夜。周りは暗くなってしまい、町のあちこちで電気の明かりが輝きだした。

 

 それが一層イルを焦らせて、彼の口調をやや乱暴にしてしまう。

 

 真昼もそれがわかっているのか、彼は簡潔にイルが求めている情報を提示した。

 

『場所は、超電磁砲(レールガン)量産型能力者(レディオノイズ)計画の研究所だ』

 

 瞬間、イルの体が夜の学園都市へと舞い上がった。

 




遅くなってスイマセン……書きたいオリジナル小説とかがあって。

これからは極力土日更新で行きたいと思います^^;
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