とある科学の魔法士たち   作:過労死志願

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守る戦い

 天井亜雄は震えていた。天敵に狙われ、穴倉の中でひたすら敵が過ぎ去るのを願い続ける、情けない小動物のように。

 

 元々のケチのつき始めは、クローンを使ったレベル5量産計画――量産型能力者(レディオノイズ)計画の頓挫から始まった。

 

 クローンを製造する際に、どうしても避けられないオリジナルとのスペック差、それによって量産型能力者計画は廃棄されてしまった。このままでは天井は、莫大な借金を抱えることになってしまう。

 

 そんな風に困っていると、天井に再びある仕事が舞い込んできたのだ。

 

 彼が作っていたクローンを使って、一方通行をレベル6へと進化させる《絶対能力者進化(レベル6シフト)計画》。

 

 もはや進退窮まっていた天井は、それに一も二もなく飛びついた。

 

 計画は至って順調そのもの。一方通行は順調に計画の過程を消化し、天井の借金帳消しも目の前と言ったところまで来たところで……………………また計画は頓挫した。

 

 それも、最強だと疑ってやまなかった一方通行が、どこの馬の骨かもわからない無能力者に殴り飛ばされることによって。

 

 何が起こったのか全く分からなかった。おまけに計画の再会を何度要求しても、再会に必要な経費が現実的ではないとのことで、計画は無期の中止状態。

 

 天井に残ったのは、自身の内臓を売りさばいたところで返せない額の借金だけ……。

 

 何を恨めばいいのかわからない、そんな状況で極限状態を迎えた天井は、とうとう禁じ手に手を出した。

 

 学園都市の技術を持って、外部の研究施設に出奔しようと考えたのだ。

 

 当然、そんなあからさまな技術漏洩を、学園都市が許すわけもない。

 

 逃げるのがうまくいったところで、逃げた研究所ごと学園都市暗部が叩き潰しに来るだけだ。

 

 だからこそ、学園都市から逃げる前に、天井は学園都市に打撃を与える必要があった。

 

 だからこそ、天井は外部組織の口車に乗り、シスターズを使った世界的テロを画策。

 

 学園都市の評判を地の底まで落とし、自分は悠々学園都市から逃げ出すための算段を立てていたのだ。

 

 だが、その計画も現在頓挫しつつある。

 

「俺はお前に呪われているのか……」

 

 シスターズの要である打ち止め(ラストオーダー)。彼女の脳に打ち込んだウィルスが発動するまで、残り数()と言ったところまで来ている。

 

 あとは彼女を抱えて学園都市銃を逃げ回るだけ……時間を稼ぐだけだったはずだ。

 

 それなのに、彼の目の前には――正確にいうと彼の目の前にある、ルームミラーには――あの男が映っていた。

 

 どこの馬の骨かもわからない奴に敗北し……だがしかし、その能力は変わらず圧倒的な、まるで悪い冗談か何かのような学園都市最強が。

 

「よォ」

 

 真っ白な怪物――一方通行の口がそんな風に動いた気がした。

 

 だが、そんなものを気にしている余裕は天井にはない。

 

 もはや彼にとって、この追いかけっこは負ける確率が高い、命がけのチキンレースになった。

 

 余裕などあるわけもなく、彼は車のクラッチをガタガタ震える手で必死に操作し、飛び上がるように車を勢いよく発進させる!!

 

 

 

 だが、その抵抗虚しく、彼は一方通行に数秒で一蹴され、彼は情けなく意識を途絶させた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ったく、手間ァかけさせやがって。芳川か? ガキの方は確保したぞ」

 

 目の前で、地面にめり込み、もはやただの鉄くずと化したスポーツカーを眺めながら、一方通行はベクトル変換で天井の意識を刈り取り、打ち止めが座っている助手席を覗いた。

 

 呼吸は荒く、脈拍も早い。顔も赤くなっており、明らかに身体的異常をきたしている状態に、打ち止めはなっていた。

 

 だが生きている。そのことに柄にもなく安堵の気持ちを覚えながら、顔には相変わらず凶悪な色を浮かべ、一方通行は携帯電話越しにこちらに向かっているらしい芳川への報告をすませる。

 

「おい、ガキの頭に電極やら何やらがついてンだが、これはずさねェ方がいいのか?」

 

『あぁ、それは多分うちの研究員が持っている身体計測(システムスキャン)用のキットよ。電極ははがしてしまって構わないわね』

 

 そォかよ。と一方通行は返事を返しながら、胸糞わるい電子機器を打ち止めから引きはがす。

 

 その際、気になったことを二三芳川に聞きくことによって、とりあえず打ち止めの命に別状がないこと……ただし、移動している時間は惜しいから、こちらに向かっている芳川をその場で待たなければならないということを確認した一方通行は、舌打ち交じりに解決したはずの事件が無為に伸ばされているような状況を嘆いた。

 

「ったく、クソガキが。いったいどれだけ俺に手間をかけさせやがる」

 

――まァ、とにかく……ウィルス発動の数時間(・・)前に、こいつが確保できたのは不幸中の幸いかァ?

 

 不快になった気分を、一方通行はそう考えることで何とか紛らわそうとしたときだった。

 

「み、ミサカは……」

 

「あァ?」

 

「ミサ……――――――――――。かハミサか。みさ、カみさカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサミサ「zsdfyuikleswrtl;/:wzxrcvhjmk,.;:xtyubiklk.ml[edrfYUNMLO;]brtxfvbnmlnubuytrerswjjn」

 

「おいおい……どォなってやがるッ!」

 

 突然暴れ出す打ち止めの体。目は大きく見開かれているのだが、それが意識を取り戻したからではないことはすぐに分かった。

 

 瞳に色濃い激痛の色が浮かんでいる。まともな人間の状態ではない。

 

「おい、芳川ッ! どォなってやがるっ!? これも何かの症状か何かなのかっ!!」

 

『ちょっと、落ち着きなさい! とつぜん怒鳴ってないで、何が起こったのか説明しなさい! あなたが持っている携帯でテレビ電話の機能ある? あるようならそっちの様子を……』

 

 珍しく慌てているらしい声を上げる一方通行に、冷静になるよう指示を出しかけた芳川の声が止まった。

 

「オイどォした!! これって何か応急処置とかできねェのか!!」

 

『だまって一方通行っ! いいえ、それよりもその子が何を話しているのか、ちゃんと私に聞かせなさいっ!』

 

「はァ? なにいって……」

 

『早くっ!』

 

 切羽詰まった様子の芳川の声に、一方通行は黙って電話のマイクを打ち止めに向ける。

 

 すると、芳川はそのうわごとの正体を、

 

『間違いないわ……ウィルスコードよ。暗号化されているみたいだけど、そのウィルスはもう起動段階に入っているわ』

 

「っ!!」

 

 そう言われて一方通行は、ようやく何が起こったのかを悟った。

 

 天井亜雄がかく乱のために、偽のウィルス起動時間を掴ませていたことと、

 

 打ち止めによっておこる悲劇の始まりが、もはや秒読み段階に至ったということを。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

『一方通行。あなたは決断しなければならない……。ウィルス完全起動までにはまだ時間がある。妹達がウィルスにのまれ、無差別に人々を攻撃するようになる前に……あなたの手でその娘を殺しなさい。その娘を殺すことで、世界を救うのよ』

 

「………………………………………………………」

 

 携帯電話越しに告げられる、芳川からの最善手。

 

 確かに、そちらの方が最善の選択肢なのだろう。

 

 世界がかかっているんだ。こんな単価数万円のクローン一体を殺したところで、誰も一方通行を責めやしないだろう。

 

――あァ、そうだ。さんざんやってきただろうが。こいつらをゴミみたいに潰して、羽虫を弄ぶように四肢をもいできた。たくさん……命を絶ってきた。

 

 一方通行はいまさら「殺したくない」などと……いえる口を持っていなかった。

 

 だが、

 

『命無きミサカに魂を吹き込んでくれたのは、間違いなくあなたのおかげだったんだからって、ミサカはミサカは感謝してみたり』

 

『あなたは、本当は実験なんてしたくなかったんだと思う、ってミサカはミサカは推測してみる』

 

『あなたはミサカ達に……もう戦いたくないって言ってほしかったんだと思う』

 

――コイツは、自分の仲間を一万人も殺した俺に、そんな言葉を吐いた。

 

 一方通行は思い返す。ファミレスで、一方通行ですら忘れてしまっていたその気持ちを的確に言い当てたあの少女の顔を。

 

 そのとき一方通行の脳裏によぎったのは、無機質な表情で自分に銃を向ける、彼が殺した二人目のミサカだ。

 

 打ち止めの、調整不足による体調不良を、何とかしようと研究所を訪れた際に、あさった資料の中からたまたま抜き出した一枚の書類。

 

 そこには、自分を戦いにけしかけるために、研究者があの二人目に対して何かの細工を施した記録が残っていた。

 

――あの時、俺は確かにあの実験をやめる気だった。

 

 一方通行の脳裏に浮かぶのは、クローンらしくない、まるで普通の年頃の少女のように、遊んで笑って楽しむ、二人目の顔。

 

 あの時は気恥ずかしくて目をそらしてしまったが……らしくないと自嘲し、心にふたをして無視してしまったが……あのとき、一方通行は確かに。

 

「あいつに……死んでほしくねェと思ったんだ」

 

 いまさらすぎるその事実確認に、一方通行は表情を切り替える。

 

 二人目が種を植え、打ち止めが探し出してくれたその感情を、一方通行はようやく自覚した。

 

 だから一方通行は、今度こそその感情を捨てないために、

 

「芳川」

 

『……なに?』

 

「脳の電気信号さえ制御できれば、学習装置なしでも、こいつの脳内のウィルスは除去できるんだな?」

 

『え?』

 

 一方通行はらしくない……だが、とても尊い、誰かを守る戦いに身を投じた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 手元にある打ち止めの人格データをもとに、ベクトル演算によって把握したウィルスコードを算出。人格データにはない余剰な文章を、一方通行は根こそぎ消していく。

 

 脳に収納されたデータを、生体電気制御で操るといった繊細作業ゆえ、彼のベクトル変換能力はすべてそこに当てられ、いつも使っている反射は全く機能しなくなった。

 

 夏の夜の蒸し暑い空気が一方通行にまとわりつき、最近ではほとんどかいたことがなかった汗を、一方通行は流し始める。

 

 だが、そんなものはもう気にはならない。

 

「qwertyuikjmn.::yvcubikl,dayvujkj,yvcbkvlmdehmbl[]biukmlkmal:;lbnvkaコード08からコード72までの波形レッドをルートC経由でA8へ代入閉鎖コード56をルートSへ迂回波形ブルーをイエローへ変換」

 

 打ち止めが吐き出していた意味不明な言葉が、どんどん日本語へと変わっていく。

 

 暗号化されていたウィルスコードが明らかになり、一方通行は瞬く間にそれを消していく。

 

 ウィルスコード発動から三十秒以上が経過していた。

 

 コードの残りは23891。

 

 中には一方通行との思い出も入っているかもしれないが、どれがウィルスでどれが記憶かもわからない以上、それも根こそぎ消していく。

 

 それにわずかな寂しさを覚えながら、一方通行が笑った時だった、

 

「じゃまをするな……」

 

「っ!!」

 

 地の底からはいずってくるかのような、敗残者の声が聞こえた。

 

 一方通行がそこに目を向けると、意識を失っていた天井がいつのまにか意識を取り戻し、一方通行に向けて拳銃を構えていた。

 

 距離4メートル。拳銃をたしなむ程度の人間でも、はずそうとしてはずせる距離ではない。

 

 だがしかし、天井にはまだ一方通行が、『反射を使えない』でいるという確証はない。

 

 脳内の生体電気をベクトル制御で制御していることは分かっているようだが、それで本当に一方通行(アクセラレータ)の反射が使えなくなっているかどうかは、彼にもわからないのだ。

 

 天井の握る拳銃が震える。天井が無事に学園都市から逃げきるためには、この計画は絶対成功させなければならない。

 

 だがしかし、銃を撃ったところで一方通行の反射があれば、死ぬのは自分だ。

 

 それどころか、さっきは見逃されたというのに、こんな反抗をしては一方通行は天井を見逃さない。自分は愉快なミンチになるまで潰されて、二度と反抗ができないようにされるだろう。

 

 そんな《可能性》の話が天井の頭をぐるぐるとまわる。

 

 どれが最善の選択しか天井は分からなくなる。

 

 ただ時間だけが彼を追い詰めていき、彼に選択を迫る。

 

 天井の目が大きく泳ぎ始める。目は焦点が合わなくなり、緊張のあまり体がブルブル震え始めた。

 

 それが、追い詰められた人間特有の、『まともな判断ができなくなっている』状態だと、一方通行は長年の経験でわかった。

 

――ヤケになられちまうとまずい。

 

 反射が使えない状態で弾丸などをうければ、一方通行はただでは済まない。

 

 だがそれ以上に、打ち止めのウィルスコードが完全に消えていない状態で、弾丸などを受けるわけにはいかなかった。

 

――時間をかせがねェと。弱者特有のその判断を、迷いなくする自分に驚きながら、一方通行は必死に状況を打破する手段を考える。

 

 そのとき、彼の脳裏に浮かんだのは、

 

『おかげでお前は『この白いのにはダメージが入る!』と勘違いしてくれた。そして俺にひたすら無駄な攻撃を叩き込んで、こうして俺に足止めされ、うちの弟子にとどめを刺すことはなかったやろ?』

 

 自分と同じ、絶対の能力を持つ……傷だらけの青年の言葉だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「はっ。おいどォした? 撃たねェのか?」

 

「っ!?」

 

 突然口を開く一方通行に、究極の判断に迫られていた天井の体が固まる。

 

 天井はゆっくりと一方通行の方に視線を向け、その顔にいつもと変わらない凶悪な笑みが浮かんでいるのを見て、再び震えあがった。

 

――間違いない、こいつは……反射が使える状態にある。

 

 でなければ、拳銃を向けられてここまで余裕がある態度をとれるわけがない。

 

 それがハッタリだとも、命を懸けた演技だとも知らず、天井は拳銃の引き金から思わず指を離してしまった。

 

 もう、自分の計画は成功しない。それがもうわかってしまった。

 

 その途端、

 

――なぜだ?

 

 そんな疑問が、天井の頭を埋め尽くした。

 

「なんでだ……なんで今更、お前がそいつを助けようとするっ!!」

 

「…………………………………………………」

 

「今までたくさん殺してきたじゃないか! お前だって自分のために、そいつらを踏み台にしてきたじゃないかっ! いまさら助けたところで、救われるとでも思っているのかっ!? 何かが変わると思っているのかっ!? そんなわけがないだろう……お前は俺と同じだ。同じ穴のムジナなんだよぉ!!」

 

 もう何を言っているのかもわからなかった。だが、それがいわゆる負け惜しみだというやつだと、理解できるくらいには天井の頭は正常だった。

 

 だが、そんな天井の言葉に、一方通行は平然とした顔で。

 

「……わかってンだよそんなことは。こンな人間のクズが、いまさら誰かを助けようなンて思うのは、馬鹿馬鹿しいってことぐらいはよォ。まったく甘すぎだよな。自分でも虫唾が走る」

 

 そう、自分の行いを全否定した。

 

 今は正しい行いをしているだけであって、自分は決して正しくないのだと一方通行は告げる。

 

 天井の言うように、自分は甘いと同じ穴のムジナだと。だが、

 

「けどよォ、このガキは関係ねェだろ」

 

 一方通行は笑いながらそう告げた。

 

「たとえ俺たちがどんなにクズでも、誰かを助けようと言い出すことすら、馬鹿馬鹿しいと思われるくらいの、人間のクズだったとしてもさァ……このガキが見殺しにされていいって理由には、なンねェだろォが!! 俺達がクズだってことが、このガキが抱えているモン、踏みにじっていい理由になるハズねェだろうが!!」

 

 一方通行が自分のような下っ端に初めて発する怒号に、天井は目を見開く。

 

 そして同時に彼は気づいた。一方通行が汗をかいているということに。

 

 ありとあらゆるものを反射し、不快な熱量すらカットする一方通行が、汗をかいているという事実に。

 

――反射は使えない。あれはハッタリかっ!

 

 それにいまさら気づいた自分に舌打ちを漏らし、同時に一方通行が自分相手にハッタリを使ったという事実に愕然としながら、天井は再び銃を構える。

 

 だが、それを見ても一方通行はひかない。

 

 ゆるぎない何かをひめた瞳で、天井と対峙する。

 

「クソッタレ……あたりまえのことじゃねェか。確かに俺は一万人の妹達(シスターズ)をぶっ殺した。だからってなァ、残り一万人を見殺しにしていい理由にはならねェンだ。ああ、きれいごとだっていうのは分かってる。今更どの口がそンなことを言うンだってのは、自分でもわかってる! でも違うンだよっ! たとえ俺たちがどれほどの屑でも、どんな理由を並べても、それでこのガキが殺されていい事になンかならねぇだろうがっ!」

 

 そう叫ぶ一方通行の気迫に押され、天井の引き金を引く指が一瞬だけ止まる。

 

 その瞬間納あまりに小さな瞬間だった。だが、確かに価値のある瞬間だった。

 

 その瞬間があったおかげで、銃弾が発射されたころには、一方通行は打ち止めのウィルス処理を終えており、飛来する弾丸と一方通行の間に、ひとりの人間の手が割り込む時間が稼げたのだから。

 

 弾丸が一人の男に着弾する……骨をうがちへし折る音が、車内に響き渡った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「……あァ?」

 

「よォやった、一方通行」

 

 弾丸が発砲される音がやけに大きく聞こえた後、一方通行の眼前には、ひとりの人間の掌が差し込まれていた。

 

 一方通行を正確に狙っていた弾丸は、どういうわけか大きく軌道をそらし、後部座席のシートをぶち破っている。

 

 一方通行は無傷。そして、そんな一方通行に労いの言葉をかけてきた手のひらの主へと、一方通行は視線を向ける。

 

「……はっ。保護者のくせにくんのがおせェんじゃねェのか?」

 

「これでも全速力で来たんやで? 少しは労えや」

 

 生意気にもそんなことを言ってくる一方通行に、肩を竦めへ展示を返す青年――イルに、一方通行はため息をついた後、複雑な演算を行ったことによって悲鳴を上げる脳を休めるために、ゆっくりとその瞳を閉じた。

 

 打ち止めはそんな彼の手の中で、穏やかな寝息を立てていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな騒動が終わった翌日。

 

「君結構無茶をするよね。弾丸を骨に引っかけて軌道をそらすとか、普通の人間なら掌が丸々なくなっている所業だよ?」

 

「いや、せんせぇ! 俺が普通の人間やないことくらい知っているでしょう?」

 

 そんな会話を交わしながら、自力で添え木(無論木を使っているわけでなく、最新の医術素材だが)をして、折れた……というか砕け散った掌の骨の再生処置を施した掌に、グルグルと包帯を巻きながら、イルは小さく肩をすくめた。

 

 彼の主治医であり医術の師匠でもあるカエル顔の医者――冥土帰しは、そんなイルの姿を見て、そっと嘆息をつく。

 

「おまけにその手を使って、銃撃犯をしこたま殴りつけるとか、もはやバカの所業としか思えないよ? 傷が悪化したらどうするつもりだったんだい。骨の小さな破片が筋繊維に刺さると、元の状態になるように、気をつけながら手術で取り除くのは大変な手間なんだよ?」

 

「安心してくださいせんせぇ! 俺ノーリスクで筋繊維に刺さった骨の破片とかぬけるから!! そんな複雑な手術いらずっ!!」

 

「君は一度その能力を失ってみるべきだと思うけどね……」

 

 医学の大切さを骨身にしみて覚えなさい。と、嘆息しながら冥土帰しは、診療室の窓の外を眺める。

 

「それで、そんな無茶をしてまで行ったんだ。きちんと君の患者は守れたんだろうね?」

 

「せんせぇ、守ったんは俺ちゃいますよ。あいにく横からかっさらわれてもうて」

 

「ほう?」

 

 それはそれは、珍しいこともあったものだ。と、冥土帰しが感心する中、彼が覗いた窓の外では、白衣を着た女性と真っ白な少年を伴い、元気よく病院にかけてくる一人の少女がいた。

 

「芳川~、一方通行(アクセラレータ)っ! 早く早くっ! 面会時間終っちゃうってミサカはミサカは叫んでみたり!!」

 

「ったく……走ってんじゃねぇぞクソガキ!!」

 

「転んじゃうわよ、打ち止め。一方通行も、もっと口調に気をつけなさい。教育上よろしくないでしょう?」

 

「だいじょうぶ! ミサカにインストールされたデータには、《反面教師》という言葉がちゃんとある! と、ミサカはミサカは自分の優秀さに戦慄してみたりっ!! あだっ!?」

 

「誰が反面教師だ、あァ?」

 

 そんなけたたましい自分の見舞客一行に、イルは苦笑いを浮かべて、彼らを出迎えるためにさっさと自分の病室へと帰る準備を始めるのだった。

 




 原作通りにいかず無敵状態のまま生き残った一方通行……。

 弱点? ないけど?

 今後どうなるかは作者も不安です……。
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