小説家でゲーマーですがなにか?   作:花吹雪

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プロローグ後

「あっ、小説のネタ浮かんだから俺抜けるわ」

「…白、ねむい…スヤァ」

「ちょ、待て!今兄貴達にオチられたら回復担当と魔法担当がー」

「「にぃ(空)なら出来る」」

「理論上はそうですね!今、両手で操作して二キャラに、兄貴達が操作放棄した二キャラを二足で操作すれば!」

「がんばっ」

「…ふぁい、と」

「待ってっ いやお待ちください白さんあなたが寝ちゃうと

って黒さんあなただけでもいいのでー俺死んじゃう!ーうおぉぉぉやったろーじゃねぇかぁ!」

 

そんな兄弟達のやり取りが部屋に響く。

兄の悲痛な…覚悟の叫びを他所に、黒の膝で眠ろうとしている白。パソコン開いて小説を書こうとしている黒の耳に。ーピロンッ、と。パソコンから新着メールを告げる音が届く。

 

「黒にぃ、メール」

「おう、空なんかメール来たぞ」

「四画面四キャラ操作してる空くんに何を訪ねているか知らんが、そんな余裕ねぇっ」

 

一人四人パーティを操り獅子奮迅の活躍を見せる空は余裕なさげにそう答える。

 

「…友達…から、かも?」

空は固まりながらもゲームをしながら訪ねる。

「ー誰の?」

「…にぃ、の」

「あはは、おかしいな、愛しい妹に胸を抉られる皮肉。言われた気がする」

「…黒にぃ、は仕事、関係」

「…しろは…察して…欲しい」

「じゃあやっぱ広告メールだろーが。てか、寝るなら寝ろよっ!寝ないなら手伝えぇぇぇっ!あ、あぁっ 死ぬ、死ぬっ!」

 

兄ー空。

繰り返すがー十八歳・無職・童貞・非モテ・コミュ障・ゲーム廃人。

自慢ではないが、彼女はおろか、友達すらいない己に届くメール候補に『友人』というカテゴリはあるはずもなく、その説は却下される。

もっとも、それは黒も白も同じらしかったが。

 

「とりあえず見るか。空、タブPCどこだ」

「三時方向左から二番目の山の上から四個目のエロゲの下ッ

ぐおぉ足攣りそぉッ!」

 

苦悶にあえぐ空を無視して、言われた通りの場所を漁る黒ー発見。

引きこもりとニートが、タブレットPCを何に使うのか?

しかしそれこそ愚問である。もちろんーゲーム用だ。

 

ゲームをする為に用意した無数のメールアドレスを調べる黒。

「音はピロンか、じゃあこれか」

無駄な記憶力を使いあっさり見つける。

 

とーどうやら本当に一人で四キャラ、リアルタイム戦闘だ操って、討伐に成功したらしき空の方向を背に、メールをチェックする。

ーー【新着一件ー件名:『 』"黒"達へ】

 

「はぁ?」

「…?」

 

横から覗きこみ、こく、と小首をかしげる白。

意味が分からない顔をしている黒。

 

黒ーつまり自分の事である。別にメールが来ることはおかしくない。取材依頼、仕事ーいくらでもあるだが、この文章は些かおかしな文面がある。

 

「空」

「…にぃ」

「なにかな?寝るといってお兄ちゃん一人にゲームを放り出して、結局寝ていない上にお兄ちゃん一人に物理的な縛りプレイさせた、兄弟達よ」

 

「見ろ」

「…これ…」

 

どうでもいいように、画面に映るメールを空に見せる。

 

「うん?ーなんだこれ」

 

空はそのメールの特殊性に気づいたのか。

 

「セーブよーし、ドロップ確認よーし」

 

間違いなく、確実に完全にセーブされたのを確認して、画面を閉じ。

パソコンからメーラーをアクセスする。そして訝しげに。

 

「…何で『』と"黒"が兄弟だって知ってんだ」

 

ー確かに、ネット上で空白複数人説があるのは空も知るところだった。

だが、問題は件名ではなく、本文にあった。

本文には、一言だけ、こう書かれ、URLがはられていた。

 

【君たち兄弟は、生まれる世界を間違えたと感じたことはないかい?】

 

「…なんだこれ」

「へぇ…」

「……」

 

かなり怪しい文面。

そして見たことないURL。

URLの末尾に、「'jp」などの国を表す文字列はない。

特定のページスクリプトへのーつまりゲームへの直通アドレスで見かけるURL。

 

「…にぃ達、どう、する?」

膝の上で興味なさそうに、白が問う。

だが、三人の正体を知っているそぶりの文面には、白も思うところはあるようで。

兄達に判断を委ねるーそれは、兄達の領分だと判断したため、即ちー

 

「空、おもしろそうだし(笑)ノろうぜ」

「そうだな、まあ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か」

 

そう判断し、URLをクリックする。

ウイルスの類なども警戒して、セキュリティソフトを走らせながらURLを踏んでみた。

が…現れたのは、なんとも簡素な。

至ってシンプルは、オンラインチェスの盤面だった。

 

「ぶほぉっ!」

 

何にツボが入ったのか知らないが笑い始める黒

 

「…おやすみ…スヤァ」

 

「待て待て!『』あての挑戦状だぞ。相手が高度なチェスプログラムとかだったら俺達じゃ手に負えないって」

「…いまさら、チェスとか」

 

世界最高のチェス打ちーグランドマスターを完封したプログラム。

そのプログラムに妹は、二十連勝して興味が失せて久しい。

ヤル気がわかないのもわかる。が。

 

「『』に負けは認められない。せめて相手の実力がわかるまで。起きててくれ」

「黒もな、白 終わったらお菓子作ってやるからな」

「オッケー」

 

そうして、チェスを打ち始める黒と空。

一手、二手と積み重ねて行く兄の対戦を、興味なさそうに。

いや、眠そうに。船を漕ぐように、かくん、かくんと眺めている白。

がー五手、十手と重ねたところで。

五分の四閉じられていた白の目は開かれ、画面を凝視していた。

 

「…え?あれ、こいつ」

「…」

 

空が違和感を覚えると同時に白が立ち上がり、言う

 

「…にぃ達、交代…」

 

空と黒はそれを聞くと椅子を渡す。

 

チェスーそれは『二人零和有限確定完全情報ゲーム』である。

『運』という、偶然が差し挟む余地のないこのゲームにおいて。

理論上、必勝法は明確に存在するが、それはあくまで理論の話。

十の百二十乗という膨大な局面を把握出来た場合の話である。

つまりは、事実上ないに等しい。

ーが、それは「ある」と断言するのが白。

つまり、十の百二十乗の盤面を読めばいいだけの話と断言し。

チェスは最善手を打ち続ければ先手が勝ち、後手は引き分けることしか出来ない。

理論上、そうなっている。

そのチェスにおいて、一秒で二億局面を見通すプログラム相手に。

先手後手入れ替えで二十連勝し、プログラムの不完全性を証明した、その白が。

 

「…うそ」

 

と驚愕に目を開く。

ーだが、一方で兄達はその打ち方に違和感を覚えていた。

 

「白さんや、こやつは人間じゃよ」

「いや、誰だよお前」

「ーえ?」

「プログラムは、常に最善手を打つからな。集中力も切らさないが、即存の戦術通りの動きしかしない。だからこそ、

白、お前は勝てる。けどーこいつは」

 

画面に指をさす空。

 

「あえて悪手をとって誘ってる。それを相手プログラムのミスと判断したお前のミスだ」

「……あぅ」

 

黒と空の言葉に、しかし白は反論しない。

 

「まぁまぁ、相手がプログラムじゃないなら、白が負ける要素なんてない。相手の挑発に乗るな。相手のひっかけや戦術は俺達が指摘するから、冷静になれ」

「いっちょヤリますか」

「…りょーかい…がんば、る」

 

コレガ。

数多のゲームで世界ランキングのトップを独走するゲーマーのからくりだった。

 

ーー六時間後。

パソコンのスピーカーから響く、無感動な音。

 

『チェックメイト』

 

空達の勝ちだ。

 

「「「ーーー」」」

 

長い沈黙の後。

 

「「はぁあぁぁあ〜〜〜…」」

「ウボあぁぁあぁ〜…」

 

大きく息を吐く三人。それは呼吸さえ忘れるほどの勝負だったことを語る。

長い長い息を吐いたあと、三人は笑い出す。

 

「…すごい…こんな苦戦…ひさし、ぶり」

「はは、俺は白が苦戦するのを見るのすら、初めてだぞ?」

「俺の創作意欲を全て消費して勝てた」

「「それはない」」

「なんでだよ!」

 

勝負後のエンドルフィンがもたらす幸福感に、にやけた顔でしゃべる三人に、再び。

ーテロンッ

というメールの着信音が響く。

 

「今の対戦相手からじゃねぇの?ほら、開けてみろよ」

「ウイルスが入っていたり」

「…うん、うん」

 

とーしかし届いたメールには。

ただ一言、こう書かれていた。

 

【おみごと、それほどまでの腕前、さぞ世界が生きにくくないかい?】

 

その一文で。

空気が氷点下まで下がる。

 

黒はどうでもいいような顔して空達を見る。

空と白は苦々しい顔して記憶を奔らせる。

生まれつき出来が悪く、その為、人の真意を読むことに長けすぎた兄。

生まれつき高すぎる知能と、真っ白い髪と赤い瞳故に理解者のいなかった妹。

生まれつき人より秀でていたからと、疎まれ嫉妬され何処に怒りをぶつければいいかわからない兄。

 

黒はキーボードを打つ。

 

『それはどうも。お前はなんだ?』

 

即座に返信がくる。

ーいや、果たしてそれは返信だったのか。

答えになっていない文面が届いた。

 

【君達は、その世界をどう思う?楽しいかい?生きやすいかい?】

 

その文面に呆気をとられ、空と白に顔を見合わせる。

改めて確認するまでもない。答えは決まっている。

ー「クソゲー」だと。

 

…ルールも不明瞭な、くだらないゲーム。

七十億ものプレイヤーが、好き勝手に手番を動かし。

勝ちすぎるとペナルティを受け。

 

ー頭が良すぎる故に、理解されず孤立していじめられる妹。

負けすぎてもペナルティを受け。

ー赤点が続いて、教師に、親に怒鳴られても笑顔を保つ兄。

パスする権利はなく。

ー勝手に嫉妬され。居場所を消される兄。

勝ってもペナルティを受け。

ー黙っていればなおも加速していったいじめ。

喋りすぎたら、踏み込みすぎと疎まれる。

ー真意を読みすぎて、的を射すぎて疎まれる。

 

目的もわからず、パラメーターもなく。ジャンルすら不明。

決められたルールに従っても罰せられーなにより。

ルールを無視した奴が我が物顔で上に立つー。

こんな人生(クソゲー)に比べたら、どんなゲームだってー簡単すぎる。

 

テロンッ♪ーとまたメールが届く。

空が構わずシャットダウンをしようとする。

その手は白が止める

 

【もし、単純なゲームで全てが決まる"世界"があったらー】

 

その文面に、訝しげに、しかし憧れを隠すことの出来ない三人。

 

【目的も、ルールも明確な盤上の世界があったら、どう思うかな?】

 

再び三人は顔を見合わせて、自傷気味に笑い、肯いた。

黒がキーボードに手を置き。

 

『そんな世界あったなら、俺達は生まれる世界を間違えたわけだ』

 

ーと、最初に届いたメールの文面になぞらえて。

返信する。

 

ー刹那。

 

パソコンの画面に微かにノイズが走り。

同時に、ブレーカーが落ちたように、バツンッと音を立てて部屋の全てが止まる。

唯一 ーメールが表示されていた、その画面を除いて。

そしてー

 

「な、なんだっ!?」

「…っ?」

 

部屋全体に、ノイズが走り始める。

家が軋むような音、放電するような弾ける音。

慌てて周囲を見渡す空、何が起こっているのかわからずただ呆ける白。一人画面を見つめる黒。

そんな三人を他所に、ノイズはなおも激しくなりー

ついにはテレビの砂嵐のように。

そしてスピーカーからーいや。

間違いなく画面から。

今度は文章ではないー『音声』が返ってきた。

 

『僕もそう思う。君達はまさしく、生まれる世界を間違えた』

 

もはや画面以外の、部屋の全てが砂嵐に呑まれる中。

唐突に、白い腕が生える。

 

「なっ!?」

「…ひっー」

「ファッ!?」

 

画面から伸びた腕は、兄弟達の腕を掴み。

抗う余地もない程の力でもって、二人を引きずり込む。

画面の中へー。

 

『ならば僕が生まれ直させてあげようー君達が生まれるべきだった世界にっ』

 

ー…。

そしてー。

 

白く染まる視界。

それが、目を開いたからー即ち陽の光だと認識出来たのは。

突然の光に、網膜を焼かれる感覚故。

そしてようやく光に慣れつつある瞳に飛び込んだ景色から、空は理解した。

そこはー上空だった。

 

「うぉおおああああっ!?」

 

狭い部屋から一気な広がった広大な空間。

ーだが空を叫ばせたのは、視界に広がる景色の異常さ故にだった。

 

「なんじゃあぁ!ころりゃあぁぁぁ!?」

 

黒も気づいた。

空に、島が浮かんでいた。

目を、擦っても消えない。視界の果てで飛んでいるのは、ドラゴン。

地平線の向こう、山々の奥に見える巨大なチェスのコマは、遠近感。失わせるほどの巨大。

何処かのゲームに出てきそうな。ファンタジーの中の景色。

どう考えも己が知る『地球』のそれではない景色。

だが、それよりもなによりも。

眼下に広がる雲から、浮遊感の正体が、落下している事実だと気づき。

自分達は今まさに、パラシュートなしのスカイダイビング中であること。

この全てに気づいた空の、絶叫がー

 

「「あ、死ぬ」」

 

という確信に変わるまで、黒と空が要したの、実に三秒だった。

だが、そんな悲愴な確信を打ち破るように。

高らかに叫ぶ声は、隣はから聞こえた。

 

 

「ようこそ。僕の世界へッ!」

 

壮大で、異常な景色を背後に、落下しながら『少年?』は腕を開いて笑う。

 

「ここが君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ!この世のすべてが単純なゲームで決まる世界ッ!そうー人の生命も、国境線さえもッ!」

 

黒と空に遅れてこと十秒ほどだろうか。

ようやく状況を把握したのか、目を開いて、泣きそうな顔で黒に抱きつく白。

 

「…あ、あ、あなたー誰ーっ」

 

精一杯の、しかし囁くような抗議の叫びをあげる白。

だが、相変わらず楽しそうに笑って、少年は言う。

 

「僕?僕はね〜、あそこに住んでいる」

 

言って、遠くー空も見た、地平線の彼方の巨大なチェスのコマを指す少年。

 

「そうだね、君達の世界風に言うならー"神様"ーかな?」

「うるせぇ!この駄神、可愛げに言ってんじゃねぇよ!」

 

ブチッ

 

なぜか、聞こえてはいけない。音が響く。

ーだがそんなのは知ったことではなかった。

 

「それよりオイ、コレどうすんだよッ!地面がッ!ぶつかッ!」

「…〜〜〜〜〜〜〜っ」

 

黒は白を抱き込むように、意味があるのか分からないが、自分を下にする。

そして声にならない声で、黒の胸の中で絶叫をあげる白。

そんな三人に、神を名乗る少年は、額に血管を浮かばせ。

 

「また会えることを期待しているよ。それと体にご注意」

 

ーそうして、三人の意識は暗転した。

 

ーーーー……

 

「ぅ…うーん…」

 

土の感触。草の香りー気がつくと、空は、地面に倒れていた。

うめきながら起き上がる空。

 

「ーな、なんだったんだありゃ…?」

 

ー夢か?

そう思うが、空は口にはしないでおいた。

 

「…うぅ…変な夢」

 

と、空に遅れて目を覚ました妹が、うめく。

ー嗚呼、妹よ。

"夢じゃなかったフラグ"なんてたてないでおくれ。

そう思いながら立ち上がるが、どう気づかぬふりをしても足場は土。

見慣れない高い空、そしてー

 

「うをああああ!」

 

自分ががけっぷちに立っていることに気づいて、慌てて後ずさる空。

ー崖から一望出来る景色を見渡す。

そこには、ありえない景色が広がっていた。

…いや、違う。言い直そう。

空に島。龍。そして地平線の山々の向こうに、巨大なチェスのコマ。

つまり、落ちてくる時に見えた、変な世界の景色。

つまり、夢オチはーなかった。

 

「なあ、妹よ」

「…ん」

 

二人はまるでヤンデレのような目をして言った。

 

「"人生"なんて、無理ゲーだ、マゾゲーだと、幾度となく思ったが」

「…うん…」

 

二人は声をハモらせて言う。

 

「「ついに"バグった"…もう、なにこれ、超クソゲぇ…」」

 

そうしてーー二人の意識は、再び暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー『こんな噂をきいたことがあるだろうか』ー

 

あまりにゲームが上手すぎる者のもとには、ある日、メールが届くという。

本文にはー短い文と、URLがはられているだけ。

そしてそのURLをクリックすると、あるゲームが始まる。

そのゲームをクリアするとーこの世界から消えるという。

そしてー

 

異世界へと誘われるという、そんな『都市伝説』。

 

 

…あなたは、信じますか?

 

 

 

 

 




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