右手には令呪、左手にウロボロスの紋章が刻まれた雁夜はゆっくりと立ち上がる。
「ふん、死に損ないの落ちこぼれが。サーヴァント召喚も出来なかった分際で死ぬのは儂じゃと?」
「ググッ……がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
臓硯が雁夜の言葉を笑っている最中、雁夜は叫んだ。
ただの叫びでは無い。
見れば雁夜の体に赤い血管の様な物が走っている。
そして更に臓硯は驚愕する。
雁夜の体を蝕んでいる筈の刻印蟲の気配が消えて、代わりに雁夜の体から得体の知れない力を感じるのだ。
「き、貴様!いったい何をした!?」
刻印蟲は自分で取ろうとしても体の内部に浸食している為に引き剥がす事は不可能だ。
にも関わらず今、雁夜の体からは刻印蟲を感じる事が出来ない。
「ク……ククッ……」
静かに笑う雁夜を臓硯は不気味に思う。
なんだ、この余裕は?これが先程まで魔力酷使で苦しんでいた奴なのか?
そんな臓硯の心境をあざ笑うかの様な事が起きた。
刻印蟲の肉体への負荷で左半身は麻痺、内蔵機能は低下して機能しなくなった、左目は壊死して見えなくなった挙げ句、顔筋が固まってしまった筈。
しかし今の雁夜は赤い血管の筋が走ると同時に体が治っているのだ。
治っているどころか元の雁夜の肉体より力強さすら感じた。
それはサーヴァント並みと言える程に。
そして体が治ると雁夜はゆっくりと目を開けた。
その目は雁夜の元の黒い瞳では無く、深紅の様に真っ赤だった。
『ククッ……中々良い体じゃねーか。体の中に居た刻印蟲も奪った甲斐が有るってもんだ』
雁夜の口から発せられたのは別人の声。
「か、雁夜……お主……」
『雁夜……ああ、この体の名前だったな』
臓硯の言葉に反応した雁夜はゴキゴキと首を鳴らすと臓硯に向き合う。
『残念、俺は雁夜じゃあない。俺はコイツが呼び出したサーヴァントだ』
「な、失敗したのでは無かったのか!?」
雁夜は自身の体を親指で刺すと自身の紹介をした。
そう雁夜の召喚したサーヴァント『グリード』は雁夜の体を乗っ取っていた。
そして体を蝕む刻印蟲すら吸収し、己の内部に元々存在しなかった物を作り出していた。
それは後ほど語られるが雁夜の体は元の状態より強化された状態になっていた。
そんな事とはつゆ知らず、臓硯は顔を歪ませて笑みを溢した。
「かかかっ!そうかサーヴァント召喚は成功しておったか!しかもマスターに寄生するタイプとはなんと珍しい。期待などしておらぬが今回の聖杯戦争も楽しくなりそうじゃ!」
『ああ、それなんだがよ』
臓硯は笑うがグリードは頭をガリガリと掻きながら臓硯に歩み寄る。
そしてグリードが右手を振るうと臓硯の左腕が切り落とされた。
「が、がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?貴様、何を!?」
『悪いんだがよ雁夜はテメェが憎くて殺したいんだとよ。死んでくれや』
左腕を押さえながら叫ぶ臓硯に口では謝るが、態度に出ていないグリード。
よく見れば臓硯の左腕を切り落とした右手は黒く染まり、人間の物とは思えない状態になっていた。
「ま、待て……儂を殺せば桜は助けられぬぞ。それに儂に従えば何でもくれてやるぞ。何が良い?女か?名誉か?何でも用意しようではないか」
『ククッ……そうだな』
臓硯の言葉を聞いて笑うグリードは黒くなった右手を再度振るい、臓硯の体を切り裂いた。
「ギャァァァァァァァァァッ!」
『テメェの如きじゃ俺の欲は満たせねぇ』
バラバラに分解された臓硯の体を見下し笑うグリード。
その笑みはグリードのものなのか雁夜のものなのか。
或いは両方だったのかもしれない。