魔法科高校の劣等生 ~ユキトのやり方~   作:べじん

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第四話

 

 

2092年8月11日。恩納基地 小林雪人

 

 

 

一緒に朝ごはんを食べる。今朝の記憶。

 

山菜に顔を綻ばせる。昨日の記憶。

 

みんなで晩餐。先週の記憶。

 

一緒に海に泳ぎに。ぴったり二十日前。

 

僕の誕生日。だいたい100日前。

 

卒業式と入学式で記念写真。4ヶ月前。

 

母の誕生日にチョコを貰う。6ケ月前。

 

一緒に秘密基地へ。去年の大みそか。

 

父さんの墓参り。12月30日。

 

祖母の墓参り。同日。

 

お酒をこそっと一緒に飲む。12月24日。

 

一緒にお祭りへ。10ヶ月前。

 

 

 

 

 …………母さんとの最後の思い出だ。もう二度と一緒には行けない。もう山菜を採りに行く必要もなくなる。もう秘密基地に行く意味もなくなる。鍛える意味がない。なんのためにもならない。なにもいみがなくなる。

 

 司波達也に支えられて母さんの前に来たって意味がない。僕には分かる。死んでる。もう母さんはここにはいなくなってる。

 

なんでだよ。……なんでなんだよ!! なんで母さんだったんだ!! くそっ!! ふざけんなッ!! バカやろうが!! 殺してやるッ!!

 

 

 ……あはは、バカは僕だ。力を手にした途端に調子に乗って、母さんの言うことも聞かずに乗り込んだ。僕たちは“逃げ”の一族だ。討つんじゃなくて、生き残ることが勝利の一族だ。母さんもそのことはキツく言っていた。

 

 

 ……僕も生き残らなきゃいけないのか? 僕なんかが最後の一族か。……意味なんかないよ……。四葉にこのまま身売りしようか。上手く使ってくれるはずだ。僕がこのまま生きるより遥かに世の中のためになるだろう。つらい。死ぬべきなんじゃないか。調子に乗って母を殺した間抜けな息子。最低だよな……。生きてる価値なんかないや……。さっきまで涙が流れてたのに、もう止まってる。もう動くことがない母さんを無気力に眺めている。いや、視界に入っているだけで見てはいないのかもしれない。僕の霊光が萎んでいくのが分かる。内へ内へと光を失っていく。僕はここで死ねるのか。母さんと同じ場所で。そう思うと少しだけ救われたような気がする。

 

 ……もう眠い。まぶたが落ちて来る。ごめんね、母さん。バカな息子で。出来るなら母さんの手を握って死にたい。幼かったころを思い出せる。幸せだったころを。母さん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雪人くん』

 

 

 

 

 母さんの手に、正確には母さんの手に着いている指輪に触れた時、母さんの声が、聞こえた。

指輪に霊光が宿っている。それが死者の残した想いを伝えてくる。母さんはこの指輪を大事にしていた。だからこうして想いが残るのも分かる気がする。

 

 

 

 

『生きて』

 

 

 

 

……むりだよ。母さんがいないのに、僕が生きる意味なんてないよ……。

 

 

 

 

『生きて幸せになって』

 

 

 

 

母さんがいなくちゃ意味がないんだよッ!! なんで母さんがそんなこと言うんだッ!!

 

 

 

 

『あなたは生きていけるわ』

 

 

 

 

そんなわけないよ……。もう死にたいんだ。疲れたんだよ……。

 

 

 

 

『あなたは優しい子』

 

 

 

 

母さんのためだから出来たんだ!! 他の誰かのためじゃない!!

 

 

 

 

『あなたは人の痛みを分かってあげられる』

 

 

 

 

それはチカラがあるからだッ!! このチカラだって母さんがくれたものだろッ!?

 

 

 

 

『この指輪が教えてくれるわ』

 

 

 

 

なんなんだよ、いったい!!

 

 

 

 

『よく“視て”』

 

 

 

 

よく、みる……?

 

 

 

 

 

 

『忘れないで。悲しくても、苦しくても、生きなきゃダメなの』

 

 

 

 

 

 

 指輪に意識を集中させる。飲みこまれるように、あるいは溢れだすように霊光らしき光が僕を包む。僕の意識はこことは違う場所へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■年■■月■■日。

 

 

 

 

ここは僕の無意識の奥深く。もしくは指輪の中。

 

 

 

 

『2020年代。一族は再発見され、またもや狩られる立場に立つ。』

 

 

よく魔法発見から20年も隠れられたよ。

 

 

『2030年代。地球寒冷化。とある研究所の研究のため、実験材料として一組の母娘を残し、族滅。』

 

 

祖母と曾祖母だ。吹雪の中を歩いてる。

 

 

『2040年代。娘は母を亡くす。第三次世界大戦が始まる。』

 

 

祖母は二十歳にもなっていないころだ。……祖母も母に良く似てる。逆か。

 

 

『2050年代。娘は軍人と出会い恋に落ちる。二人は結ばれ、娘は母になった。』

 

 

母さんだ……。おじいちゃんって軍人だったんだ。

 

 

『2060年代。第三次世界大戦の終結。しかしそのわずか前に母と娘は父を亡くした。』

 

 

母さんも幼いころに父さんを亡くしてたんだ……。僕、全然知らなかった。

 

 

『2070年代。娘もまた、軍人と恋に落ちる。母はそれを認められなかったが、二人は深く愛し合い、子が生まれる。娘は母となり、母は祖母となった。男もまた、父となった。』

 

 

僕だ。

 

 

『2080年代。子もまた、父を亡くす。その四日前に祖母も喪う。母と子だけが残った。』

 

 

……。

 

 

『2092年8月11日。子は己のチカラの代償として、母を亡くす。子だけが残った。』

 

 

 

…………。

 

……。

 

 

なんだよ。

 

 

なんなんだよ、これ。意味分かんないよ。意味分かんないよ。うしなってばっかじゃんか。一族を失って、故郷を失って、大切な人たちをうしなって、うしなって、うしなって! なくしてばっかじゃないか!! どうしてこうなるんだよ!! 僕たちが何かしたのかよ!! ただ……ただ生きてただけじゃないか! 生きていたかっただけじゃないか!! それってそんなにいけないことなのか!? ……なんの意味があるんだよ……。

 

 

 

 

『母は娘の命を重んじ、命を掛けても守ると誓った。故郷を捨てようと遥か遠方の地へ身を埋めようと、ただただ娘を生かすためにチカラを振るった。母はそれで幸せだった。』

 

 

……。

 

 

『娘は軍人を愛した。互いに明日をも知れぬ身としりながらも愛し合った。軍人の孤独と恐怖を埋めるためだけに娘はチカラを振るった。娘はそれで幸せだった。』

 

 

…………。

 

 

『次の娘は己のためにチカラを振るった。誰にも癒せぬ不安を抱き、相手を信じることができない。ただ一人の男だけが娘の不安に気が付いた。子が生まれ母となった娘は男を亡くした。娘は子を慈しみ、守るためだけにチカラを振るうようになった。娘はそれで幸せだった。』

 

 

………………。

 

 

『子は怪物にならぬために己のチカラを封じた。己のチカラは特異に過ぎる。己にできることを模索する日々。いつか己のチカラが必要になるのかもしれない。希望と恐怖がその身の内にある。ただ誰かのためにチカラを振るわんとする。子の行方は、まだ定まっていない。』

 

 

…………。

 

……。

 

………なんだよ。

 

“生きて”ってそういうことなのか? 僕はまだ生きてなかったのか? こんなもんじゃ、まだまだ足りないってことか? どれだけうしなっても、苦しくても、悲しくても、母さんもお祖母ちゃんも曾お祖母ちゃんみたいに、幸せだって言えるまで“生きて”って。

 

……そういうことなのか?

 

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……止めてくれよ。

 

僕にはむりだよ。今起きてる戦争だって司波達也が止めてくれる。僕には分かる。やつにはそれだけのチカラがある。あいつは僕とは違うんだ。守りたいものを、あいつは絶対守り切る。

 

 

僕とは違う……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………だからってなにもしないでいられるのか?

 

 

…………大切な人を喪うのってこんなにもつらいことなのに、僕にはそれが分かるのに。

 

 

…………なにもしないでいていいのか?

 

 

 

 

…………こんなに苦しくて、悲しいって、分かってる

 

 

それでも

 

 

…………僕も生きていいんだろうか?

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『忘れないで。苦しくても、悲しくても、生きなきゃダメなの』

 

 

『雪人くん、“生きて”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2092年8月11日。恩納基地 司波達也

 

 

 

「深雪!」

「お兄様……?」

 

 気絶していた深雪が目を覚ました。無事とは分かっていたが、目を開けていると違う。あの女性の死に引きずられているのだろう。深雪の生を確かめるように抱きしめてしまった。深雪はすこし茫洋としているようだ。時期に意識もはっきりしてくるだろう。本当によかった……。

 

 

 彼とあの彼女は俺の背中で隠している。深雪からは見えない。他の死体はともかく何もなしにあの女性の姿を見れば、深雪が勘違いして卒倒しかねない。しっかり言い含めてから立たせる。そして深雪が俺の後ろを見た。

 

 

「え……」

 

 深雪は驚愕と諦観が混じったような声を出した。ほとんど即死だった。深雪も見ていたのかもしれない。そして深雪はキョロキョロと周りを見渡し、桜井さんに介抱されている深夜様を見つけホッと息を吐いた。

 

 

 彼はさっきから彼女のすぐ側に座り込み、膝の上に手を運び込み両手で包んでいた。俺が運び込んでからずっとあのままだ。だが俺の精霊の眼には彼のプシオンが彼の奥の方で不思議な動きを取っていることが見て取れている。本当に不思議なやつだ、俺はそう思った。

 

 最初に会った時は忍術と呼ばれる古式魔法師、密偵と思い、次は王者のようにサイオンを撒き散らしながら現れ、更には俺の分解を避け、謎の魔法で意識のやり取りをし、それを攻撃にも使っていた。そして最後に思わず手を貸してしまっていた。

 

 ……俺もアテられてしまったのだろうか。……そうなのかもしれない。あの死体の前での俺の決意は、尚も変わらない。……彼のことはもう充分だろう。

 

 風間大尉たちが近づいてくるのが分かる。俺も彼ほどではないが怒りはある。今回のことを画策したやつら、そしてここを攻めようとしている敵軍たちには、無事だったとは言え深雪を危ない目に合わせた落とし前をつけさせなければならない。

 

 

 

 

「雪人っ……!」

 

 風間大尉が隊を引き連れて現れた。桧垣上等兵の姿もある。彼はどうやら足を怪我していたらしい。隊員に肩を貸してもらいながらの登場だった。察するに、あの少年の名前は雪人というらしい。深雪に雪人。ますます彼に変な類似性が生まれてくる。そして知り合いでもあるようだ。

 

 なるほど、だから潜水艦の事件の時、我々を見て少し驚いたような顔をしていたのか。そしてそれを隠し通して来た。……何か理由があるのだろうか。俺自身も少年たちには何かがあるという思いが強い。もしかすると四葉に関係する者なのかもしれない。……先代の隠し子か? 

 

 いや、バカバカしい。隠し過ぎて誰も知らなくなっていたのなら笑い草を通り越して間抜けでしかない。それに伝え聞く先代像とかけ離れている。っと、少年の周りに真田中尉、桧垣上等兵が寄り、少年の様子を窺っている。風間大尉は部屋の惨状を見て重い息を吐きながら首を振っている。そしてこちらの方に歩いて来た。

 

 

 

「これは……達也君が?」

 

 少し縋るような雰囲気で風間大尉が聞いて来た。彼自身、想像が付いているだろうに。しかし分からないでもない。

 

 外れたドアに標本のように長めのナイフを首に刺されて留められた死体、首をザッパリ切り落とされそのまま転がされたまま放置されている死体、四肢を動かせないよう腱を切られ原型が分からなくなるまで顔を殴られ最後に心臓に穴を空けられた死体。

 

 こんな惨状をあの見た目普通の少年が作り出したのだとすると、どんな狂気がそこにあったのか。それを想像するのは楽しいことではないだろう。しかし大尉には認めていただかねばならない。己の失態を痛感すればするほど、俺の提案も通りやすくなるはずだ。

 

 

 

「いえ、雪人……でしたか。彼ですよ」

「くっ……そうか」

 

 大尉は思わず目を伏せた。いやな想像が当たってしまった。そんな顔だ。もう少し探る。

 

 

「反乱兵のせいで、ここも民間人に被害が出てしまいましたね」

「痛恨の極みだ」

「あの女性は、彼の?」

「……母親だよ」

 

 最初の質問への答えは確りしていた。ほかの基地の状況を聞いて来たのかもしれない。しかし落ち付いている。少しは好転しているのだろう。二つ目の質問への答えには少し間が合った。やはり我々に隠そうとしていたが、意味がなくなった。そういうことだろうか? 当事者の一人が死んだのだ。大尉からは少し引き出しにくい話でもある。

 

 

 深雪は俺の後ろで話を聞いている。この惨状を作りだしたのが彼で、この場唯一の被害者が彼の母親だったことを知り、座り込む彼を心配そうに見つめている。罪悪感を感じているのだろうか。

 

 確かに深雪が本気を出せば、3人程度あっという間に殺せるだろう。しかし深雪は殺しになれていないし、キャスト・ジャミングの嵐の中だった。冷静に魔法を行使することはできなかっただろう。どうしようもなかったことなら深雪が気に病んでも仕方がない。半身を返し、深雪の頭に手を置く。落ち着かせるように撫でつければ、少し頬を染めて目礼してきた。さて、そろそろ本題に入ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本気か、達也君?」

「自分の目的はただの報復です。奴らは深雪に危害を加えました。その報いを受けさせる」

 

 風間大尉の負い目を利用し、戦争の詳しい状況を聞き出した俺は、更に戦闘に参加させるように風間大尉に要請した。深雪たちの安全もシェルターより良い場所を確保した。

 

 目標は名護の揚陸地点の壊滅。上陸制圧部隊がなくなれば沖縄を占領することはできなくなる。圧倒的勝利を演出し、敵部隊を塵殺する。これだけの部隊を動かして一時占領もできなかったのでは大亜連の軍部にも混乱が生まれることだろう。俺たちが沖縄から引き上げるまでの時間的余裕は簡単に生まれる。本当なら命令を出したやつらごと俺の手で殺してやりたいのだがな、そこまでは望みすぎか。

 

 

「我々の任務は敵の殲滅。しかし非戦闘員や捕虜の虐殺までは認められんぞ」

「降伏する暇も与えません。自分ならそれが出来ます」

 

 風間大尉は厳めしい顔をして俺を見て来る。その瞳の中には悔恨が読み取れる。知り合いの凄惨な死とその子どもの狂変。そして俺が新たな地獄を作ると言っている。だが彼は軍人だ。勝利のために為すべきことを為す。そのための自制心を持っていることはこれまでのことで理解している。返答は数瞬の間もないものだった。ある程度踏ん切りが付いたのかもしれない。

 

 

「よろしい。共に轡を並べようか、司波達也君」

「敵の殲滅には力を貸します。軍の指揮に従うわけには行きませんので」

「結構だ。……真田、彼に装備を、っと」

 

 これで風間大尉の了解も得られた。さっそく動くとしよう、そう思って真田中尉の方、少年がいる方を見ると少年は立ち上がって風間大尉と向き合っていた。真田中尉は彼の背後でため息をついている。桧垣上等兵は女性の死体の前で涙をこぼすばかり。少年と大尉は互いに無言で見つめ合って、何かを確かめ合っているかのようだった。口火を切ったのは少年だ。

 

 

 

 

 

「風間大尉、僕も司波達也と一緒に戦わせて下さい」

「達也君と? ……うしなったもののための復讐はつらい。それでもやるか?」

「復讐じゃないんです。僕は戦争を止めたい」

 

 部隊の人間たちもざわついている。これだけの惨状を作りだしながら、ここから先は復讐ではないと言ったのだ。意外な答えだ。いや、異常な答えだ。風間大尉もコイツの答えには瞠目している。いったいどういうことなんだ? コイツは俺と同じように怒りを感じているはずなのに。そのはずなのにコイツの眼には復讐の暗さはない。恒星のような輝きがあるだけだ。熱く燃え滾ってもいない、ひどく澄んだ色合いの瞳だ。風間大尉もそれを疑問に思って答えを釣りだしたようだが、意外な獲物がかかってしまった、と言うような顔をしている。

 

 

 

「お母さんはもういいのか?」

「母はもうここにはいません。僕には分かる」

「……そうか。達也君、雪人は君を御指名だが?」

 

 大尉は俺に話を振って来た。少年はやけに断定的に言い切った。そして後半の台詞には何がしかの自負があるかのような調子の強さだった。

 

 ……別に必要はない。強いことは分かる。俺以上のスピード、謎の察知能力、サイオンのスタミナもあるようだ。足手まといにはならないだろうが、俺がこれからやることには及ばない。コイツは別に必要ない。そう考えていると、

 

 

 

「僕を貴方と一緒に戦わせて下さい。僕が一番貴方の力になれる」

「……しかしな」

「僕が一番貴方の力を強くできる。世界一の力を貴方に与えられる」

「…………」

 

 俺の力? 分解は見られたが、あれだけで俺の異能を理解したとでも言うのだろうか。少し興味が出て来た。ここまで大口を叩くのだから相当な自身があるのかも知れない。……しかし己一人では使えぬものでもあるのだろう。使えたなら彼は母を喪わなかった。

 

 まぁいい。世界一と言い放ったのだ。どれほどのものか体験したくもある。許可しよう。

 

 

 

「……そこまで自信があるのなら構わない。俺の力になる、というが具体的には何をするんだ?」

「その前にしなければならない話があります」

「?」

「僕は精神魔法師です。第四研の原材、その生き残りでもあります」

「!!」

 

 第四研究所の実験材料、その生き残り! 事実かどうかは分からない。だがそうなら色々納得がいく。俺の分解を避けたのは俺の精霊の眼の亜種、もしくは本流によるもので、謎の攻撃も精神魔法を使ったものなのだろう。

 

 第四研究所のテーマは“精神改造による能力向上”。コイツらの能力は大いに活用され、そして四葉を生む肥料にもされたことだろう。だがこの場で俺の精神を改造して、能力向上をするというのならこの話は聞けない。

 

 

「そんなことはしません」

「!」

 

 間の良すぎる言葉。表情から読まれたか?そんなはずはない。いや、ある程度察しはついていた。驚くべきことだが納得が行くことだった。表情には出ていない。さっき考えた通りのことだ。ならば……。

 

 

「そうです。御想像の通りそれが僕の二つの能力の一つ目」

「読心……か」

「正確には人や物質の心と記憶を読み取る能力、『サイコメトリー』の能力です」

 

 精神改造の前段階として、対象の精神を鑑定することが必要となる。俺の精霊の眼のようにコイツには相手の精神が読み取れる、ということだろう。ならばもう一つは? 考えるまでもない。精神干渉系の能力だ。

 

 

「それが二つ目、『シンクロニシティ』です。精神を近似させ同調し、能力行使を爆発的に向上させる。今回は僕の精神を貴方の精神に近似させ、疑似的な集合無意識を作り出します。魔法の本領は如何に無意識領域を使うかです。僕を介して貴方はそこにアクセスして力を使って下さい。僕も貴方も生まれ持ったものは大きい。正直言ってどれだけ能力が高まるか想像も付きません。制御には僕も力を貸しますから、おそらく世界で誰も見たことのない規模で魔法が使えることになると思います」

「…………」

 

 ……集合無意識を利用した魔法? どれだけのものになるか、俺にも皆目見当が付かない。明らかに新段階の魔法だ。四葉はこれをもっているのだろうか。だとしたらとても恐ろしいことになる気がする。

 

 桜井さんはまだ目覚めない深夜さまの介抱をしながら話を聞いている。今も目をパチクリさせて慌てている。深雪も口が半開きだ。可愛いがはしたないぞ。空挺部隊の面々も驚きに顔を歪めている。ついさっきまで知り合いの子供でしかなかったのに、意味不明の爆弾を持っていたんだからな。混乱するのは分かる。

 

 ……そうか、コイツは今まで力を隠してた。こうなるのが分かっていたから。強すぎる力。誰もが利用したがる力。世界を壊すに足る力。……俺と同じだ。そして俺と違うのが俺には深雪という俺を繋ぎとめてくれる人間がいるが、コイツにはいない。うしなった。それでもコイツは戦争を止めたいと思って力を打ち明けた。

 

 

世界を壊す力を、治める力に変えようとしている。……ならば俺は。

 

 

 

 

 

 

 

「分かった、力を貸してくれ。俺は名前は司波達也だ」

「ありがとう。僕は小林雪人です」

 

こうして世界最強の戦略級魔法師コンビが誕生したのだった。

 

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