魔法科高校の劣等生 ~ユキトのやり方~   作:べじん

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入学編
第六話


2095年4月3日。第一高校 司波雪人

 

 

魔法。

それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現代の技術と……えーと、続きなんだっけ? まぁ、いいや。

 

おはよう、諸君!今日も清々しい朝だ。早起きってのは気持ちイイね。空気が澄んでるし、静かだし、静かだし、静かだし!

 

「納得行きません!」

「まだ言っているのか……?」

 

はい、ウソー。ここは東京八王子の国立魔法大学付属第一高校、そして今日はその入学式の日だ。と言ってもまだ式が始まるまで、2時間以上も時間がある。こんなに早く来てる人はやっぱり少ないし、いても式の運営側だ。

 

では何故僕たちはこんな時間に来たでしょうか?深雪さん、はいどうぞ!

 

「なぜお兄様が補欠で、私が新入生総代なのですか!? 本来ならお兄様こそ、その座にふさわしいのに!」

「それは仕方がないことだと言っただろう、深雪? ここは魔法科高校で、魔法力が重視される学校なんだから。ペーパーテストだけ出来ても魔法力で劣っていては話にならない」

 

はい、回答ありがとうございます。そうなんです。うちの深雪ちゃんは新入生総代なんです。……うぅ、お兄ちゃん涙が出ちゃうよー。誇らしい気持ちでいっぱいだー。

 

「もう! 兄さんも何やってるんです! 一緒にお兄様の説得をしてください!」

 

えぇ~、ここで僕に振るの? ……まぁ付き合うけど。ちなみに兄さんとは僕のことだ。お兄様のバーターだけど、魔法師として敬意を持っているからこんな呼び方になっている。

 

とは言え、外ではだ。家では雪人さん、と呼ぶ。一緒に暮らして行くうちにそうなっちゃったんだよね。おにいちゃん、かなしい。

 

で、達也の擁護だっけ?深雪もホントは仕方のないことだと分かってるけど、納得がいかない。そんな所なんだけど、それをホジくり返すと深雪がムキになるからな。助長する方に向ければ深雪も大人しくなる。まぁ見てな。

 

「そうだね、深雪。そんなに言うなら、総代の挨拶で達也の素晴らしさでもスピーチすればいいんじゃないかな? きっとみんな達也に夢中になるよ」

「えぇ!? みんなが!? お兄様に!? た、大変だわ……。お兄様は学業のためにここにいらしておられるのに、私がその邪魔をしてしまうことになる……。はっ!? お兄様が総代として挨拶をしても同じこと!?」

 

「そうなんだよ、深雪。それが分かって達也は、敢えて二科に入ったんだよ。みんなの勉強を邪魔するわけにはいかないもんね」

「まぁ! そこまでお考えでいらっしゃったとは! さすがです、お兄様!」

 

さすおに!さすおに!……うん。そんな非難がましい目でこっちを見ないでほしいな、達也。ん?深雪に変な勘違いを植えつけるな?……分かってないね、達也くん。深雪はこう思ってるんだ。

 

"お兄様をみんなに認めてもらいたい。でも私だけのお兄様が、みんなのお兄様になるのは許しがたい。もちろん、みんなより私を選ぶのは分かっている。けど、お兄様のお側に私以外のものがいるのは嫌だ。”

 

ね、簡単でしょ?だったら深雪の兄尊心を満たしつつ、深雪の嫉妬心を鎮めなければならない。もとより深雪は入学上の魔法力の算出基準が、達也にマッチしていなかったことを分かってる。達也が総代にならないのじゃなくて、なれないのを分かっている。ただ納得がいかなくて、その鬱憤を達也に甘えて解消したかっただけだ。

 

ほら、その証拠に深雪の脳内では『本当はSだけど、ここではB……』とか言っている達也が……アレェ?うわぁ、見るんじゃなかった。薔薇咥えてたよ、うげげぇ。ここは“お馬鹿な深雪がまたお兄様に御迷惑をかけてしまいました。深雪はこれからも精進します!”とか前向きな意見が聞きたかったなぁ……。

 

「それではお兄様、兄さん。深雪は頑張って参りますので、しっかり見ていて下さいね!」

「あ、あぁ、深雪。行っておいで、楽しみにしてるよ」

「カメラもあるからね。緊張で噛んだりしちゃ、ダメだよ?」

 

深雪はもう、兄さんは!とか言って達也と僕に会釈をしてから、講堂へと楚々と歩いていった。

 

あのね、深雪。真面目なことを言う時は妄想を止めなさい。お兄ちゃん、恥ずかしいよ。あと、モウモウ言ってて牛になっても知らないからね。

 

こうして深雪を見送った達也が目線だけを僕に寄こす。少し睨むかのような様子だ。む、何かようかね、達也君?

 

「さて、雪人。何か言うことは?」

 

おやまぁ。……僕も妄想に逃げ込んで説教をかわす魔法を開発した方がいいのかな?

 

 

 

 

 

 

2095年4月3日。第一高校 司波達也

 

 

雪人の弁明を聞き、ついでに深雪の教育方針について懇々と話し合っていると、式まで一時間ほどになっていた。講堂の扉の向こうでは入学式のリハーサルが行われている。深雪も総代の挨拶を練習しているはずだ。噛んだりなんかするわけがない。深雪は立派なレディなのだ。そんなことを考えながら、俺はベンチに座って携帯ディスプレイで本を読んでいた。雪人は隣で手持ち無沙汰に眼鏡を懐から出し、磨いている。

 

コイツは東京に来てからは、眼鏡を掛けて過ごしている。オーラカットコーティングの眼鏡だ。『覚眼』、『サイコメトリー』は眼と書いているが視覚ではない。俺の精霊の眼と同じ第六感だ。しかし全く関係ないとも言えない。視覚的であり、聴覚的であり、触覚的であり、霊的でもある。霊光と雪人が呼ぶ、プシオンに似た“何か”を感じ取っている。

 

故に超強度のオーラカットコーティングなら、気休めぐらいには役に立つ。東京は人が多い。あの恩納に比べれば段違いに。その所為で雪人にはうっとおしい程の情報が入って来るのだ。以前は無意識領域に放っていたのだが、沖縄戦を経て力が強まったらしい。量が多すぎる。もちろん、制御はできるのだが。

 

なので、礼儀として、眼鏡を掛けている時は『覚眼』を出来るだけ閉じるようにしているようだ。親しい人間と話す時や礼儀を払うべき場面でまで心の声を聞きたくない、そういうことらしい。それでも聞こえてしまうものは聞こえてしまうのだが。

 

さっきまで外していたのは深雪の送迎の、一応の警戒のためだ。まぁ深雪は美人だからな。ストーカーが出てもおかしくはない。中学の時はコイツの力に大分世話になった。住所など絶対に特定させない徹底防御だったのを憶えている。そして最後にこれが一番重要、と雪人が言っているのが、雪人の顔のカモフラージュのためだ。

 

雪人の母と俺たちの母がそっくりだったように、深雪と雪人もそっくりだ。俺と雪人、どちらが深雪のきょうだいか、と問われれば十人が十人、雪人と答えるだろう。俺もまぁそうだろうな、と思う。そして双子だとも思うはずだ。

 

雪人はそれが気に入らないらしい。兄妹が姉弟と捉えられるのが嫌なのだそうだ。それ故、俺と雪人が双子兄貴で深雪が妹、という設定になっている。まぁ兄の双子が二科生で、妹は一科生という対比ができている。ダメ兄貴二人と良くできた妹、上手い具合だ。それに何の奇跡か、俺と雪人の誕生日は一致している。丁度良かったし、雪人が拘った理由でもあるのだろう。

 

それに、雪人は己の女顔をコンプレックスに思っている。母に似ていることは喜ばしいが、男らしくないのが嫌なそうだ。眼鏡はそれを誤魔化すためにある。ついでに深雪似の顔を少しでも隠すため、というわけだ。

 

 

まぁ……あまり効果はないように思う。二つの意味で。

 

 

 

 

 

こうして俺たちが読書や眼鏡の手入れをしながら半時ほど時間を潰していたら、講堂の方からこちらに向かって人が歩いて来た。既に新入生が半分ほど講堂へと入って行っている。それでも雪人からサインがあった。“七草”。雪人は既に眼鏡をしまっていた。事前の打ち合わせ通りだ。

 

十師族の“七草”や“十文字”がこの第一高校に通っていることは、簡単に調べがついた。去年の彼女らの九高戦の様子を、雪人がテレビ中継で見ていたからだ。ただ、彼女らの人と為りは掴めてない。深雪は新入生総代だ。生徒会に召集されることは間違いない。深雪の安全のために一通りは“視る”。そう、雪人と決めている。俺たちの方から話しかけに行った。

 

 

2095年4月3日。第一高校 司波雪人

 

 

「七草生徒会長。少しお時間よろしいですか?」

「あら、私?」

 

彼女はまだ講堂に入って来ていない生徒たちの誘導のために、外に出て来たようだ。そしてキョロキョロと周りを見ていた所に、僕たちが話を掛けたのだ。笑顔でね。

 

「今日からこちらでお世話になります。自分は、司波達也と申します。こっちが」

「弟の司波雪人です。よろしくお願いします、七草会長」

「ご丁寧にどうも。第一高校の生徒会長を務めております、七草真由美です。よろしくね」

 

七草会長はふんわりした長髪にたおやかさと可愛らしさを併せ持った美人さんだった。中継で見た通りの可愛らしさだ。“妖精”なんて呼ばれるのもなっとくだな、うん。

 

さてと、達也が言葉を投じたんだ。ここからは僕の仕事だ。

 

“七草真由美。兄弟。異母兄が二人。下に双子の妹。司波。司波深雪。司波達也。司波雪人。新入生総代。生徒会入り。筆記最高得点。話題。ニュース。風紀委員会。『脱走兵捕縛』。”これだ!

 

彼女が自己紹介をしながら無意識に過らせた考え。そのツリーを僕が辿る。その中で見つけた単語、『脱走兵捕縛』。

 

えーっと、なになに?3月にネットにアップされたニュース。それの画像は真夜さんが対処して粗いものになっていたが、彼女と風紀委員長の二人は偶然にもその事件に僕らが絡んていたことに気が付いたようだ。そして僕らを風紀委員として有望だと思っているらしい。ななな、なんだってぇ!?

 

 

……アホくさ。怪しいとこなんて特にないや。まぁこんな可愛い系美人を怪しむ僕らが間抜けなんだけど。それにしても安産型だなぁ。楽しくなってきた。もうちょっと揺さぶってみよう。僕が話しかける。スマイル、スマイル。

 

「妹の深雪がお世話なります。入学後も、生徒会の方に勧誘して頂けるとか」

「あら、良くご存じね。新入生総代は代々生徒会入りする決まりだから、あなた達からもよろしく伝えていただければこちらも助かります」

 

会長は僕らにペコリと頭を下げた。……あれ?この人、僕が妹って言ったのに驚いてる。……書類はちゃんと読め!司波が3人もいておかしいと思わなかったのか!くっそ~、天然系美人だよこの人。詮索のためじゃなかったらもっと楽しく会話できたのに。そんな僕の内心なんて全く知らずに彼女は会話を続けて行く。次は僕らの入試の話みたいだ。

 

「ふふ、そう言えばあなた達、先生たちの間で話題になってたわよ。兄妹三人そろって筆記10番以内なんて。本当にすごいわ」

「まぁ、それでも“妹”だけ一科で、僕たちは二科なんですけどね」

「卑下することはないわ。それにお兄さんは歴代最高得点だったって話よ、ね?」

「……そう言っていただけるのは幸いですが、所詮筆記ですから」

 

……この人まるで悪気がない。皮肉って面白がっているわけでもない。裏表がないわけじゃないけど、心と表現が素直だ。その中にちょっと小悪魔も入ってて、自分のペースに意識せず乗せて行くタイプだ。詮索するにはやっかいなんだよね、こういう人。生徒会長してるのも納得かも。美人だから御輿として良いし、そのくせ天然の人心掌握ができてる。この人の生徒会は仲が良さそうだ。

 

達也もなんだか困惑してる。こういうタイプの人、周りに居なかったもんね。対処しづらいか。ただ、こういうタイプの人の弱点は“逆撃”だ。からかってやろうとしたのに、逆にからかわれること。心構えさえ出来てれば難しいことじゃない。しかも案外脇が甘そうなんだよなぁ。うん、この人イジるのは面白そうだ。うんうん、学校生活が楽しみになって来たぞ!

 

……って、達也。分かってるよ。はいはい、撤収でしょ。さっさと切り上げて報告会&反省会だな。美人を疑うもんじゃないよ、まったく。

 

「って、達也。早く行かなきゃ深雪が良く見える席なくなっちゃうよ。……七草会長、すみませんがここらで失礼させていただきます」

「っと、そうだったな。会長、失礼いたします」

「あら、ごめんなさい。私も長々と話しちゃって。それじゃあ、また後でね?」

 

僕たちは足早に講堂へ向かった。

 

僕は振り返って七草会長に手を振っておいた。

あ、喜んでる喜んでる。

 

 

 

2095年4月3日。第一高校 司波達也

 

 

「結果は?」

 

俺は講堂へ歩きながら雪人に問いかけた。雪人は手を振るのを止めて、前を向きながら答えた。

 

「シロ。まっ白けっけ。変に疑った僕らの方が恥ずかしいぐらいだよ」

 

雪人の答えに、俺は小さくホッと息を吐いた。とりあえずは深雪も安心か。まぁそうだろう、四葉は確りと俺たちの情報を遮断している。たとえ“七草”だろうと出し抜けはしない。それを再確認できた。

 

歩きながら雪人が小声で七草会長の人と為りを話していく。聞くに特別おかしなところはない。見た目通りの人。後は慣れの問題のようだ。なるほど。それはそうと雪人は楽しそうに手を振っていたが、……ホレたか?

 

「どうかな? ……まぁ可愛い人だよね。もっとおしゃべりしたかったな。美人で、性格も良くて、スタイル良し。最高だね」

 

背もお前と同じくらいだしな。

 

「僕の方が高いよ! ……ちょっとね。いやぁ、胸に眼が行かないようにするのに大変だったよ。女の子は視線に敏感だからね。僕には分かる」

 

俺には分からんな、そういうのは。

 

「こう言うのは下半身で考えるものだよ。僕らには次代を紡ぐ義務があるのだよ、達也くん」

 

こうして、見た目意味不明の会話を小声でこなしつつ、俺は席に座った。雪人も俺に続く。場所は講堂、後ろ側正面。絶好のポイント。空いていてよかった。埋まっていたなら交渉して勝ち取る必要があった。

 

俺が手を差し出すと雪人は俺に撮影端末を渡して来た。父兄もいるのだ、撮影許可は降りている。深雪の晴れ姿は俺がしっかりこれに収める。これは義務だ。

 

 

「あの……、隣空いてますか?」

 

そんな準備万端の俺に声を掛けて来たのは、2人組の女生徒たちだった。一度合わせきったフレームをずらすのはおしいが、俺ならば問題はない。一席ずれろと言われない限り不満などない。作り笑顔で対応し、またフレーム調整に入る。

 

 

「あの………」

 

もう一度俺は声の主に目を向けた。大人しめの外見の女生徒。二科生。彼女には他の者にはないものを身につけていた。スッと雪人に目を向けると雪人も既に着け直していた。

 

「あれ? キミも霊光放射光過敏症?」

「え? えっと……。あなたも、ですか?」

 

俺越しに雪人が彼女に声をかける。

雪人が眼鏡を掛けるのは先述の様々な理由があるからだが、学校には軽度の霊光放射光過敏症だと届けている。またこの症状をもつ者たちは俺たちの秘密を知りかねない。それをごまかせるようにするためにも、知り合い程度にはならなくてはならない。

 

雪人が眼鏡を掛けていると相手も少しは仲間意識を持ってくれる、やりやすくなる。今回も上手く行ったようだ。雪人が軽い調子で声を掛けたからなのか、彼女のガードも下がった気がした。

 

「軽度のだけどね。僕は司波雪人、こっちは双子の兄の達也。よろしくね」

「え、双子? ……御兄弟だったんですか。私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

「司波達也です。こちらこそよろしく」

「あ、あたしは千葉エリカ。よろしくね、司波兄弟」

 

柴田美月の更に奥の席から声をかけられる。ショートの明るい髪色、快活な雰囲気の目鼻立ちのいい少女だ。千葉?あの千刃流の千葉にエリカなんて娘はいたか?俺の疑問を見取った雪人が千葉エリカに質問する。この辺りは慣れたものだ。

 

「千葉って、あの千葉でしょ? 『麒麟児』とか『幻影刀』の?」

「うんうん、それそれ! よく知ってるね~」

 

当たりか。彼女にとって陽性の質問を雪人が飛ばしたため千葉の話で盛り上がる。柴田美月もそれに乗り、和やかな雰囲気が作られる。

席順から、司波司波柴田千葉なんて早口言葉みたいだ、なんて冗談も口にしている。俺や千葉エリカは言えたが、柴田美月と雪人は柴田をチバタと噛んでいる。そうしてみんなで軽く笑っていると、時間が来たようだ。

 

入学式の、始まりだ。

 

 

 

 

2095年4月3日。第一高校 司波深雪

 

 

あぁ、お兄様!見ておられましたか?深雪は立派にやり遂げました。入学式が終わり、新入生が退場しつつある中、私はお兄様のことを考えていた。

 

お兄様は講堂後方、私が壇上に立てば真正面に見える位置に座っておられました。お兄様の隣で雪人さんが手を振っている。そしてお兄様は記録機器を手に真剣な表情で私の総代挨拶を聞いていらっしゃいました。

 

俄然やる気が出るというもの、私も淑女としての振る舞いを忘れないように落ちつきながら心を込めて挨拶をさせてもらいました。私が最後に礼をすると、お兄様が微笑まれたのが私には見えた。

 

あぁ!ここにカメラがあれば!深雪を撮って下さるお兄様を撮って差し上げられたのに!!…………あぁ!だめよ、深雪!淑女の振る舞いを忘れちゃ!

 

そんな考えで頭が一杯になっていたため、挨拶を終えた後はあっという間に式が終わってしまっていた。生徒会の方々としばし雑談をしながら、お兄様たちを待つ。これも妹の仕事なのだ。

 

 

お兄様たちは生徒IDの発行に行っている。クラスの確認もしている筈だ。そしての後はお兄様たちと入学祝いのお食事会の予定だ。本来なら私がお兄様のもとへ馳せ参ずべきなのだが、お兄様たちは私の安全のために少なくとも生徒会長の“七草”だけでも“視て”おかねばならぬとのことで、私が引き留め役を仰せつかったのだ。私のためだなんて!お兄様、優しすぎます!深雪はどうにかなってしましそうです!

 

 

……お兄様が近づいてきた、私には分かる。私の周りには生徒会の方々以外に、一科の新入生も多くいる。私と七草生徒会長が話しているのを囲むように見ている。少々どころではない、煩わしい視線だ。その人垣の向こう側からお兄様の視線を感じる。私は七草生徒会長に少し断りを入れて、お兄様たちを迎えに行った。のだが、

 

「お、おにいさま……? そちらの方たちはどなたで?」

 

お兄様が女性連れでいらっしゃられる!雪人さんは何をしているんですか!?まさか早くもお兄様の虜となった女性が現れるだなんて!何のためにお兄様のお側にいらっしゃるのか!?

 

「深雪、こちらは俺たちのクラスメートの人達だ。ご挨拶を」

「ぷぷぷ、深雪が考えてるようなんじゃないよ」

 

お兄様と雪人さんが私に話しかける。しかしこれが落ちついていられますか!?で、でもお兄様に恥をかかせるわけには参りません!すぐに私は頭を切り替え、平静を装いながらお兄様たちと一緒に居た二人組の女生徒に話しかける。

 

「まぁ、お兄様たちのクラスメートの方々なのですね。司波深雪です。兄ともども、よろしくお願いしますね」

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

「あたしは千葉エリカ。あたしのことはエリカ、でいいよ。代わりに深雪って呼んでいい? 司波だと達也くんや雪人と混じっちゃうし」

 

美月さんはペコリと会釈をし、千葉さんは手を差し出して来る。気さくな方々のようだ。私もその手を握り返してエリカの求めに同意した。お兄様たちは中々に良いご友人を得られたみたいだ。

 

 

「深雪、七草会長はどちらに?」

 

お兄様が私に質問をする。いつの間にか私たちの周りにも人垣が出来ていた。一科生ばかりの場だ。二科生であるお兄様たちを見て、『ウィードが何の用だ?』『二科生が兄? 彼女も可哀そうに』といったような視線や小さな会話が聞こえる。

 

ふつふつと怒りを覚える。しかしお兄様たちが気にされた御様子はない。それにお兄様が答えをお求めならば、素早く応えるのが妹の務めだ。こちらです、とお兄様の手を引きながらもう一つの人垣を進む。私がいるからなのか通りやすく道を開けてくれるが、お兄様たちを観察するような目は止まない。

 

 

「また会いましたね。達也くんに雪人くん」

「えぇ。今日は式の準備に深雪のことまで、本当にありがとうございました」

 

講堂の椅子に座っていた七草会長が立ち上がってこちらに話しかけて来る。それに対しお兄様は落ちついて対応された。お兄様?いつの間にお知り合いに?

 

「朝、深雪が行ってからさ。特に問題はなかったよ」

 

私の疑問は発せられる前に雪人さんが拾ってくれた。私の側で雪人さんが小声で説明するには、七草会長に危険要素は見つからなかったらしい。まぁ私もさっきの待ち時間、散々七草会長と雑談したのだ。見た目通りの、お淑やかな楽しげなお方だった。

 

七草会長とはおしゃれの話や料理の話なんかの、魔法とは関係ない普通の女の子のような会話をした。お兄様や雪人さんの話題もそれなりに出たが、そのような素振りは見せなかった。それを雪人さんに言うと、会長は少しイジワルなところも持ち合わせている、と補足した。つまり私もからかわれたのだろうか?

 

それにしても周りがやけにこっちを見ている、正確には私と雪人さんを見ている気がする。『そっくりだ』とか『でも二科だ』なんて会話も聞こえる。……本当は父も母も違うんですけどね。それにお兄様とは似てないみたいで心外です!……ただ、最初に会った頃は陽に焼けていた肌がこちらで暮らすにつれて白くなっている。私とそっくりだ、というのもうなずける程であるのも事実だ。

 

「…………。」

 

……あ、雪人さんのこの顔は、女顔であることをバカにされた時の顔だ。あの一科の男子生徒は、いつか雪人さんに報復されることだろう。雪人さんは滅多にないが、意外と根に持つタイプなのだ。ご愁傷さまです。

 

「ふふ、それにしても良く似てるわね。そっちの二人」

「俺とより、深雪との双子と言われた方が納得が行きますからね」

 

周りと同じように、七草会長とお兄様が私たちの方を見ながらお話していると、それに雪人さんが反応した。

 

「ちょっと達也! 相方の自覚あるのか! 女顔って言うな!」

 

「誰が相方か。……すみません、会長。うるさくしてしまって」

「気にしないで。楽しげな御兄弟じゃない」

 

確かに七草会長の言うとおりだ。雪人さんがうちに来てからというものの、うちも明るさが増した。能力のお陰か気を遣うのも上手だし、会話もテンポがいい。一時期暗い雰囲気だった私とお兄様も彼の調子には助けられた。

 

 

そうこうしているうちにお昼時だ。当初の目的も既に達していたことだし、そろそろお暇させていただくことになるだろう。お兄様がちょうど切り出していた。

 

「会長。そろそろ自分たちは帰らせていただこうかと思います。長々とお引き留めしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいえ、こちらこそ。じゃあ深雪さん、明後日くらいの話だけど、よろしくね」

 

七草会長の言う話とは、私の生徒会入りのことだ。先の待ち時間の内に聞いていた。私は七草会長の言葉に了承を返し、お兄様の手を取る。いつもやっていることなのでお兄様も自然と腕を差し出してくれた。周りがどう見ようが気にしない。ん?あれは……服部副会長だったかしら?何やらお兄様たちをじっと見ている。変な事にはならなきゃ良いのだけれど……。

 

ちょっと、雪人さん。何してるんですか。行きますよ?

 

お兄様に片手をあずけ、もう片方の手で雪人さんの服を掴みながら帰途に着く。雪人さんはそれでも会長に手を振っていた。会長も楽しそうに手を振り返してた。何だか服部副会長の目線が強くなった気がします……。

 

 

 

 

2095日4月3日。 司波宅 司波雪人

 

あの後、僕らはエリカのお勧めのカフェに寄った。ケーキの美味しいフレンチだったので、深雪と美月さんやエリカとの話が弾んだ。僕もそれに交じって話をしていた。楽しい時間だった。……まぁ達也は聞き役に徹していたけど。

 

 

ぷぷぷ、七草会長とのおしゃべりの時、副会長の顔ときたら。思わず手を振る時間も長くなるってもんだ。彼は典型的なツッコミ役だろう。常識観念が強いから例外に対処しづらいタイプだ。あれこれ考えてしまって冷静さをなくしてしまうのだ。それもあるのか、と軽く納得するようになれば向上するんだけどなぁ。

 

いやぁ、それにしてもエリカも美月さんも美人だね。活発美人に儚げ美人。タイプの違う二人だが、深雪との仲も良いみたいだし、僕も運が良いなぁ。でも美月さんもエリカも単なる二科生じゃないんだよなぁ。エリカは千葉流の印可。美月さんは水晶眼、だったかな?それレベルの眼を持っている。マスター・ヤクモの受け売りだ。僕の眼もそれクラスだって言ってたし。しかしホントに一般人は魔法科高校にはいないかぁ……。

 

そうやって今日のことを思い返しながら、パソコンと向き合っていた。やっているのは昨日、放ったらかしにした仕事だ。

 

僕の義父、司波龍郎はFLTの開発本部長をしている。そして今の義母はそこの管理部所属だ。そのため何とも困ったことに僕や達也は彼らの稚気で仕事をさせられている。

 

しかしそこはお兄様だ。達也はその才能を遺憾なく発揮し今やCAD制作界のカリスマ『トーラス・シルバー』の片割れ、シルバー様へと早変わりした。

 

一方で僕は管理部だ。試料や特殊実験器具、または過去の実験データ、開発データの管理が仕事だ。

 

管理なわけだから倉庫にしまって、ハイおしまい、というわけにもいかない。申請があればデータの洗い出しが必要だし、それらに関する知識も必要だ。そのお陰でCADの整備をこなす位の知識は仕入れれたんだけどね。

 

それにもとより書類仕事は苦じゃない。母さんも事務人間だったし、仕事の話は昔たくさん聞いていた。倉庫整理なんてパズルを解いているかのような楽しさがある。

 

ただ、3月は実験がたくさんあった。まず下半期の終わりだから滑り込み実験が多かった。しかも達也が高校に通う予定だったから、今の内にやっちゃえ!的な実験も多かった。

 

そしてそうやって出来た実験データの後始末を僕らがやる、というわけだ。おかげで義母の小百合さんの眉間のしわが増えまくってたよ。ストレス軽減のためにウサギでも獲って来てあげようか?飼うのか食うのか楽しみだね。

 

今やっているのもデータ整理の一環だ。しかしこうしてポチポチ僕がキーボードを叩いているうちにも新たなデータが運び込まれ、管理部のみんなは悲鳴を上げていることだろう。戦死者がでないことをただただ願うのみだ。本当に第一高校に入って良かったと思う。

 

 

さて、これで終わりだ。このデータを小百合さんに送って、仕事は終了!あとは明日の準備をすればいい。

 

「雪人さん、夕食の準備ができましたよ」

 

深雪が僕の部屋の入り口から声を掛ける。ナイスタイミング。そういえばお昼のフレンチみたいなのを作ってみたいと美月さんたちと話していたな。さっそくチャレンジしたみたいだ。

 

フレンチか……ラパン・ア・ラ・ムタードゥある?え、ない?獲ってこようか?いらない?いらないかぁ……。

 

 

 

 

 

こうして僕の高校生活は始まった。

次なる事件はなんと三日後の話である。……ちょっとは高校生活楽しませてくれないかな?無理かぁ……。

 

 

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