どれだけ、続きを書くのに時間をかけてるんだ……遅れて申し訳ない。
約半年ぶり? ですね、一時期は消去も考えてましたが結局続きました。
待たせてしまった方はごめんなさい、また1からやり直しです。
本来は後編となる筈だった36話ですが、長かった為にさらに分割しました。
中編と後編を合わせたら文字数が2万越えてしまいます、それは流石に読むのが大変。
いつもあげていた幕も埃を被ってしまいましたが、ほろってでも上げることにします。
根岸「どうしたの博師君、ここに来て大丈夫? この場所って確か、博師君の苦手な……」
津々村「これは特に、無かった事にしたかった。 でも、自分の魔法じゃ出来なかった。
これじゃあ生き残った自分の意味が無い、あの火事を無かった事にしたいのに。
自分の為に願いをかけてくれたあの子はもういない、どうして自分は……!」
根岸「博師、君?」
津々村「……ねぇ知己、お願いがあるんだ。 もう、自分の心は持ちそうにも無い」
根岸「お願い? あっ、これって博師君のソウルジェムだけど……なんで戻したの?」
津々村「……砕いてくれ、知己の魔法でこの場で、忘却に逃げようとした自分をその手で。
自分はもう持たない! 心が! 記憶が! 孵化が! もう、こんな自分は 嫌 な ん だ !!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上田「知己さん大丈夫?」
根岸「っ!!」
上田「わっ!?」
根岸「……ごめんなさい! ちょっと考え事してたの、悪い事を考えてしまって」
上田「あぁ、大丈夫! いきなり話しかけた私にも落ち目があるから」
知己はせっかく気を使って話しかけてくれた利奈を、驚いたのか押しのけてしまった。
回復を終えた後、どうやらその場で顔を伏せてしゃがんだまま考え込んでいたらしい。
脳裏に残っていたのは少し前の記憶、博師がボス級の魔男へと孵化をする直前の出来事だ。
まるで叫びでもするかのような絶望の言葉を最後に、知己の記憶は途切れていた……
この時に孵化をしたのだろう、笑いとも悲しみとも似つかない狂気的な表情を覚えている。
清水「手筈はそれで良いな! ところでチョーク、お前は『模倣』の魔法だが」
チョーク「誰と一緒に行くかって話でしょ? 僕、利奈がいる前衛が良い!」
清水「お、おぅ……前衛にするんだな? 攻撃が激しいから気をつけろよ」
知己と利奈がちょうど話を終えた所で、チョークが笑顔で利奈の所へやって来た。
相変わらず利奈に懐いているらしい、何故か海里は乗り気でない様子だが。
後に続いて前衛の魔法使いも何人か来た、人数確認を含め前衛を海里が訪ねてくる。
清水「絵莉はどうする? 今回の使い魔と戦った時は、前衛と後衛の両方やってたそうだな」
篠田「う~~ん……融合体の事もあって、魔力を使い過ぎちゃった感じはするかな?
前衛に余裕があるなら、あたしは後ろ辺りがいい! 何かあったら手伝いに行くよ」
清水「じゃあ後衛だな、人数は多いし余裕を持って組んだから心配しなくて良いぞ」
根岸「私は、前衛で行く! 孵化しちゃったけど、博師君の事は1番わかってるから」
清水「ん、根岸は前衛か? 確かお前は家具の魔法、中間辺りが良いはずだが……」
根岸「それで大きな怪我をしちゃっても構わない、私が博師君を助けるんだ!」
清水「……確か根岸と津々村はコンビだったな、良いぜ! 無理しないようにな」
絵莉は最後に利奈と軽いハイタッチを交わすと、後衛担当が集まる魔法使い達の所へ移動した。
床で待機がてら寝ていたハチべぇは絵莉が行くのを見届け、この時利奈の右肩の上に乗った。
海里はまだ利奈たちに用事があるようで、今度は『辞書』を整理する芹香に話しかける。
月村「何の用かしら? まぁ、その様子と状況からして構成を決めるのに間違いは無いわね」
清水「月村さんはいつもの後衛だったな、力強と八雲がいるからそいつらと一緒に」
月村「勝手に決めないでくれない? 私、一言も構成について発言していないわよ」
清水「『本』の魔法で……え? 後衛じゃないのか? 月村さんの魔法は後衛向きじゃ」
月村「愚問ね、後衛に向いてるから何? 今回私は前衛に入らせてもらうわ」
思わぬ答えに海里は少し驚いたが、無駄な間は芹香が片手で強く本を閉じる音で消した。
月村「あら、意外って顔じゃない? そんなに変な事を言ったかしら、前衛でも戦えるわよ」
そう良いながら芹香は『辞書』から剣形の栞を引き抜くと、魔力を込めて掲げてみせた!
栞に着いていた小さなリボンは巨大化し巻いて柄となり、
橙色の淡い光を放ちながら煌々して薄い刃を輝かせる。
何枚もの栞を書いて重ね貼り付けたらしい、作るのに相当時間がかかっただろう。
月村「それに、ちょっと確かめたい事があるの。 これだけの条件が揃えば充分よね?」
清水「お、おう……そこまで言うなら良いぜ、あまり無茶しないように気をつけろよ」
月村「当たり前じゃない、私はそんな簡単に危険を晒すほどバカじゃないわ」
そんな調子でツンとしたまま、芹香は剣を栞に戻して『辞書』に挟み込む。
彼女はその場に留まった、理由は単純にそこが前衛の集まりだったからだ。
他の魔法使いは驚いたような目で見ているが、芹香の睨みがそれを黙らせる。
月村「やたら目線が集まるわね、足手まといとでも思っているのかしら?」
上田「そんな事無いよ! 普段後衛の魔法使いが前衛にいるから珍しいだけだよ!」
月村「……珍しいですって? まぁ、それも一理あるわね……」
芹香の反応が戸惑い気味だったが、利奈に助け船を出されたのが意外だったのだろう。
まだ喧嘩の事を気にしているのだろうか? それなら彼女の行動には変な点がある。
何故自分の得意分野ではなく、わざわざ喧嘩相手のいる陣を選んだのだろうか?
その答えは今回の魔男を救えば明らかになるか、或いは……
……おっと? そろそろ準備が出来たらしい、扉の前に魔法使いたちが集まってきている。
チョーク「魔法使いたちが集まってるみたいだね、行こう行こう! みんな前衛を待っている」
チョークはそう言って、いつもの明るい笑みで扉の方へ走っていった。
前衛の魔法使いたちも後に続いた、チョークの純粋さには感服する。
そうして一同は準備を終えた、後は魔男がいる扉の先に乗り込むだけだ。
扉を開ける役割は海里、開け次第前衛の魔法使いたちが突っ込むのだ。
念話で合図を全体に行き渡らせたなら、海里はその扉を開いて中へ入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ただでさえ歪んでいた宇宙は益々歪む、それでも色を判別できる事に不気味さを憶えた。
規則的に並ぶ床は丸いガラスがはめ込まれ、中で時計が進んだり戻ったりしている。
同じ時を刻む物はなに一つ無い自由な時計、それでも時自体は容赦無く過ぎ去って行く。
床から時計の音はしない、何故なら音を鳴らす権限があるのは結界の主だけだ。
そう、結界の主……最奥の中心にいるのは魔男、絶望した少年の成れの果て。
根岸「……博師、君?」
成れの果てはヒトとは言えない異形の姿、知己が驚愕を覚えるのも無理はない。
魔男はヒトだった頃の面影を大きく残している、すぐにでも元が彼だとわかるだろう。
青と黄と桃色、主に水色の色が使われた時計が魔男の身体となっている。
時計にはストップウォッチを思わせる飾りが付いている、機能するかは謎。
数字の代わりに奇妙な模様が時刻を示す……ここまで聞けば比較的普通だろう。
異質なのは時計の針だ、秒針含め3つの針は一体となってしまっている。
その見た目はまるで折れ曲がった人体だ、脇腹辺りから秒針が飛び出ている。
両端の側面からは先の折れた針が生えており、足となってその巨体を支えている。
魔男はその3つの瞳で魔法使いたちを見据えているだろう、時計のように等間隔で回りながら。
泡沫の魔男、性質は無常。
ハチべぇ((気をつけて! どうやらこれは魔男の攻撃のようだ、しばらく降り続けるよ!))
魔法使い全体に向けて、ハチべぇは念話で大きめに叫んだ。
魔法使いよりも魔力に敏感なハチべぇ、何か異変を感じ取ったのだろう。
ハチべぇの声の後、並大抵の人間なら鳥肌が立つような感覚を覚える……黒い魔力の増大だ。
目覚まし時計な鳴るような音で鳴けば、滲んだ空は色を落とし鉛筆程の時計の針となった。
まさに針の雨と言った所か、これが魔男の攻撃だろう……気を抜いたら刺さってしまう。
その針の雨以外に、魔男は攻撃を仕掛けるような様子は無い。
まだ何かしらの攻撃手段を残している可能性はあるが、今の所は距離を詰めるのが最善だ。
一同はそれぞれの魔法を駆使して先へ進む、そうして魔男との戦いが始まるのだ。
……そのまま、始まれば良かったのだ。 この魔男は異質の強さ、結界もまた異質だった。
唐突に訪れた違和感に利奈は思わず足を止めた、上を見上げてその正体に気がつく。
針の雨……見るからに落ちる速度が遅くなっている、落ちる針を手に取れる程に。
実際に手に取ればまるで絵の具を固めたかの様な、奇妙な強度が感触として残る。
数秒で霧状のただの色となって溶けてしまったが、魔男にとって攻撃するには充分だ。
そもそも何故遅くなったのか? そう思いながら周囲を見渡し、そして驚愕する。
見渡す限り広がる惨劇。 誰しもが転び、怪我をし、串刺し……
軽傷なのは反応が早い者か運が良い者だけ、無傷は1人だけ。
上田「どういう……事? なんでこんなことになってるの!?」
ハチべぇ「針の雨は収まったようだね、
上田「それなら、早くみんなの様子を確認しに……足元以外?」
足元の床にある時計を見てみれば、急ぐことも無く遅れることも無く進んでいる。
これがどんな意味を示すのかはまだ分からないが……今考えるべき事はそっちじゃない。
とにかく最も近い魔法使いの元へと急ぐ、足をやられて見るからに大怪我だ。
上田「大丈夫!? うわっ、すごい血……! 今止血するよ!」
利奈に明確な回復魔法は存在しない、だから熱心な彼女は勉強した。
それが召喚した布類を使った止血方法だ、止血箇所も暗記している。
治療風景を1人が心配そうに見守り、もう1人は呆然と見ていた。
何が起きたのかはある程度わかる、最上の膝につく痛々しい擦り傷を見れば。
1人の面倒を見ながらもう1人を庇うとなれば、彼女の大怪我も納得だ。
浜鳴「しゃ、謝罪な……ごめん!! 私のせいで、優梨がこんな……!」
下鳥「大丈夫よ! 急所をやられなかったわ、自分のせいだなんて考えるのはやめなさい」
木之実「血、針、刺し傷……足、怪我? 優梨が?」
浜鳴「再度上の空なう……もう!! ボス級戦闘なう、
ボケっとしてないでしっかりしてよ美羽!」
上田「……よし! 終わったよ、これで歩くくらいなら大丈夫そうだね」
下鳥「助かったわ利奈、ありがとう。 私は後衛の方へ行くわ、ごめんなさいね」
ハチべぇ「治療魔法を受けに行くんだね優梨、しばらく針の雨を降る様子は無い、
無理をして走らなくても、徒歩で安全に後衛に合流出来そうだよ」
浜鳴「えっ、優梨後退なう? 私たちはこのまま進めばいいの?」
下鳥「悪いけど美羽のことは頼んだわよ、何かあったら念話で連絡してちょうだい」
優梨はそう言うと、持っていた2本の鞭を強化し棒状にする。
後は雪上のスキーの容量で、鞭を支えにしながら歩いて行った。
魔男との戦闘中にこんな閑話を挟んでしまったが、利奈は一切気を抜いていない。
見れば、魔男はその場から動く事無くただ時を刻んでいる……その間は一定感覚だ。
魔男自身が動かないとなれば、代わりに攻撃する使い魔がいてもおかしくはなさそう。
だがいない、この場にいるのは魔男だけ……攻撃する気が無いのだろうか?
……いや、それは無い。 そこまで攻撃の意思が無いのなら、こんな残状にはなっていない。
主を守る使い魔がいないとなれば、それ程までに主が強いという事になる。
まだ何か、魔男にはやっていない行動があるのだろうか?
利奈が彼女に再び会ったのは戦いの中でそんな事を考えていた最中だった。
月村「利奈! どうやらあなたは無事だったようね!」
開いた本を脇に抱えて芹香が走ってきた、明らかにページ数が減っている……頬に切り傷。
利奈はよくわからない違和感と運で無傷で済んだが、どうやら彼女は魔法で凌いだらしい。
流石は頭の回転が早いだけある、そのまま彼女は利奈たちの元へ来る……はずだった。
月村「さっき、女王が足を怪我して歩いて行くのを見……きゃあぁっ!?」
上田「えっ!? なっ、何どうしたの芹うわあぁっ!?」
浜鳴「正面衝突なう……ってちょっと!? 大丈夫なのそれ!?」
文字通り正面衝突だ、芹香が急に予想外加速したかと思えば利奈にぶつかってしまう。
芹香が自ら加速したようには見えなかった、まるである点を境に切り替わったかのようだ。
最上も美羽の手を引っ張り見に来てくれた、前の彼女なら光景を見て笑っていそうな者だが。
上田「痛た……だっ、大丈夫! 思いっきりぶつかっただけで対した事無いよ」
浜鳴「見るからに対した事なさそうに見えないんだけど、心配不解消なう」
月村「目に見える程にひどい怪我は無いわ、無駄な心配をするのはやめなさい」
上田「それにしても、芹香の意思で走るのを早めたようには見えなかったんだけど……」
月村「私の意思じゃないわ、その唐突に早くなるような異変が使い魔の代わりかしら」
そんな芹香の言葉を聞いた瞬間、ふと利奈の頭の中で1つの可能性が浮かんだ。
魔法使いの直感という奴だ、先ほどのハチべぇの言葉と混ざって1つの考えが出来上がる。
まだ次の針の雨が来るまで時間はあるだろうとハチべぇは言った、利奈は行動に出る。
月村「あっ、ちょっと利奈!? 急に走ったりしてどこ行くのよ!?」
上田「思いついた事があるの! ハチべぇもまだ時間があるって言うし、ちょっと見てくる!」
浜鳴「置き去りなう!? 置いて行かないで! ほら、置いて行かれる美羽も行こう!」
木之実「……ん、え? 何? あぁ、またボケっとしてたの私? ごめんごめん」
浜鳴「お目覚めなう、やっと起きてくれたよ……私たちだけになる前に早く行こうよ」
利奈が向かった先は丁度芹香が急激な加速をした辺り、慎重に動きながら模索をした。
そして彼女の考えは正しいと決められ、同時にそれはとても厄介だと息を飲み込む羽目になった。
何がわかったかって? 主がいる結界の最奥の床は、
規則正しいタイル状になっているが、そこに答えがある。
浜鳴「到着なう! あれっ、ここって月村さんが急に早くなったとこ?」
月村「床に埋め込まれた時計……やたらと針の進み方が早いわね、壊れてるのかしら?」
上田「ううん、多分これが答えだよ。 芹香の走る早さが急に早くなった原因」
木之実「……やばい! 言ってる意味が全くわからないんだけど私!? マジウケる!」
月村「放心状態だったからでしょう、これが答え……なるほどね? 言ってる意味がわかったわ」
木之実「ちょ、そっちもそっちで理解するのが早くない?」
月村「少し考えればわかる話よ、あなたももう少し頭を使いなさい」
木之実「なっ……!? 違うわよ! 考えるのは面倒なだけだもん、何言ってんの?」
上田「今は喧嘩してる場合じゃないと思うなぁ……」
その後もしばらく芹香と美羽は言い合ったようだが、結局芹香が論破してしまった。
それよりも、利奈の言っている『答え』とはどういう事かここで説明しておこう。
今利奈が見ている早く進む時計、この時計が示す意味合いとは何なのか?
答えは簡単だ、この床の上では
芹香が走ってる所でこの床の上に入ってすぐ出て行ったのが加速の原理だろう。
もっと細かく追求するなら、利奈が先ほど見た遅く落ちる針も関係してくる。
あの場面は魔力などの影響で針が落ちるのがゆっくりになっていたのではなく、
利奈の方が床の時計に影響されて早くなっていたという事になる。
要するに床の時計は、魔法使い側にのみ時の影響を与える継続的な罠なのだ。
利奈たちは目撃していないが、恐らく加速の逆もあるだろう。
ほら、しばらくすれば利奈の想われ人から念話が聞こえてくる。
清水((前衛のみんな、状況が落ち着いたぜ! そっちの状況はどうだ?))
軽沢((参ったねぇ……急に針の落ちる早さが早くなったもんだから、何本か刺さってしまった))
清水((やっぱり遅行のパターンもあるのか……厄介だな、他の連中の方はどうだ?))
チョーク((僕らの方は大丈夫だよ、桜色の魔法少女が魔法で家具の屋根を作ってくれたんだ!))
根岸((結局何人か怪我しちゃったけどね……持ち運べるのも作ったから、こっちは大丈夫だよ))
利奈と芹香を除いた前衛はどうやら無事だったようだ、
厚手のテーブルを屋根の代わりにしたらしい。
知己の魔法はこの魔男との戦いでは優秀な方だ、屋根を作れば早かろうが遅かろうが関係無い。
何故って? 急な加速で転んだり、急な遅行で針が降るのが早くなっても
屋根さえあればどんな状態になったとしても刺されないからだ、上からだけなら確実。
チョーク((そういえば、利奈と芹香はどこに行ったの? 僕の近くにはいないみたいだけど))
上田((あぁ私たちも大丈夫だよ! 芹香もいる、他には浜鳴さんと木之実さんがいるよ))
清水((その辺の話は後衛にいった優梨から聞いている、かなりボロボロだったようだな……))
木之実((……ねぇ、うちのリーダーは無事? 前坂数夜は無事なの? ねぇ!))
浜鳴((場違いなう!? 聞く事がさっき念話で話したのと別だよ美羽! 優梨は大丈夫?))
橋谷((ち、治療しているのは私ですが……えっと、うぅ……清水さん))
清水((ん? あぁ優梨は順調に回復してる、酷かったんで扉の外にいるがな))
浜鳴((良かったぁ……安心なう、かなり無理してたみたいだけど大丈夫なんだね))
木之実((優梨は無事だったんだね、ありがとう。 それで、後衛の方はどうなってるわけ?))
清水((オイオイ、キレ気味になるなって! お前の言いたい事はわかってるぞ、頼むぜ))
前坂((……後衛の方では俺が全体に『防御』の魔法をかけた、針は全部跳ね返している。
あまり俺に執着するな美羽、今度は利奈中心とした3人に従って行動しろ))
木之実((リーダー!! 無事だったんですね、後衛を守り切るなんてさすがです!!))
浜鳴((執着なう……とにかく、リーダーも無事なんだね))
清水((戦うのに支障が出るほどの怪我をした奴はみんな扉の外に出たぜ。
俐樹も扉の外だ、俐樹を中心として治療を進めているみたいだな、後))
気弱な俐樹が大勢をを引っ張れるとは思わないが……彼女も成長している?
まぁ実現出来ているということは、誰か他の人物が彼女を助けてくれているのだろう。
だが戦える魔法使いが減ってしまったのも事実、またしても早急な討伐が必要になる。
そもそも魔女や魔男長引いて良い事は無い、あるのは魔力の無駄な消費だけだ。
さらに海里が話を続けようとしたところで、ハチべぇが声を上げた。
ハチべぇ((気を付けて! 黒い魔力が高まっている、もうすぐ針の雨が降りそうだよ!))
その声を筆頭に、結界にいる魔法使いたちの警戒度は一気に高まった。
もうすぐ次の針の雨が降る……まともな対策が完成するまで、しばらく凌がなきゃいけない。
何を思いついたのか、利奈は3人に足元に気をつけて自らの周囲に来るよう咄嗟に呼びかけた。
上田「アンヴォカシオン!」
召喚したのは赤々とした2本の棍、2つを結合して高く掲げた。 続いて連続で魔法を使う!
上田「アロンジェ・クグロース!!」
利奈の持つ長い棍は赤い光を放ったかと思うと、長さや太さを変えて変形し始めた!
上の方の棍は厚みを残した円盤となり、下の方の棍はガラスに突き刺さって設置される。
ハチべぇが予告した通り、程なくして容赦無い針の雨が降り注いで来た!
利奈が咄嗟に作った棍の傘、木材に突き刺さる音が何度も何度も聞こえてくる。
まるでキツツキが大量にいるかのような音……しばらくして、針の雨は再び止んだ。
月村「……対応が早かったわね利奈、分厚い木材なら長く持ってくれると分かったのは収穫よ」
浜鳴「おぉ~~!? 脅威回避なう! やっぱり危ないなぁ針の雨……お手柄なう!」
木之実「やっぱうちらの魔法じゃ対処出来そうに無いなぁ……
ていうか、リュミエールのエースいるんだし気を張らなくっても別にいいか!
確かに回避出来そうな魔法は美羽と最上には無いが、美羽は他に言い方があるだろうに。
芹香は『辞書』を開いていて、魔法を使おうとしていた意思を伺う事が出来る。
結局利奈の方が早かったから使わず終いだ、魔力を無駄にしなかっただけ良いだろう。
先を見ればまだ遠い、魔男は微動だに動こうともせずにただ時だけを刻んでいる。
1番近いのはチョークと知己がいる方の、前衛の魔法使いたちだ。
最初に魔男に挑むとすれば彼女らだろう、安定して屋根を補充できるのはこの場では強み。
チョークは利奈の方を見て微笑んだ、その両手には既に色の無いパイプ椅子がある。
どうやら、利奈を含めた前衛より先に魔男へと挑むつもりらしい。
強化や分析等の小さな魔法を使い、先頭にいる魔法使いが合図をしたなら……
一同は加速も併せて走り出した! 利奈たちも何かあったら援護出来るよう後を追いかける!
距離は元からじわりじわりと詰めていた、魔男と前衛はそんなに遠い距離でもない。
初手に走りこんだ抹茶色が、中身が詰まったジュースの瓶で魔男を頂点から殴りつけた!
微動だにしない魔男は微動だにするわけがなく、素直に打撃を喰らってくれる。
殴打による強い衝撃で瓶は粉々に砕け、中に入っていた液が魔男全体にかかった!
炭酸のような音を立てて泡を立てる、淡い光に突かれ魔男の身体はぎりりと軋む。
抹茶の炭酸なんて飲料は飲みたくもないが、ここでは意味合いが違ってくる。
要するに魔男に対するデバフ効果だ、これで機械質の身体にダメージが通り易くなる。
殴打が決まったのなら、抹茶色の魔法少女は新たに武器を召喚して突っ込む!
そのカラフルなメイスの頭は、まるで家庭でもよく見かけるようば電動ミキサー。
魔法で蓋を空ければ、魔力を含め拡販された中身の液体を撒ける機能付き。
突っ込んで行くのは彼女1人だけじゃない、3人の魔法使いが後に続く!
若草色の魔法少女はタンバリンを片手に、秋を思わせる魔法の光を纏いながら奇襲をかけた。
ほぼ同時にウサギと猫を足したような大きな獣が魔男を襲う。
全体は地味な羊羹色、太めの縞模様がチシャ猫を思わせる。
後に続くのは知己とチョーク、2人ともパイプ椅子を持って前衛として戦う。
家具の魔法なんて、チョークは初めて扱う魔法のはずなのに、
まるで元からその魔法を使っていたかの様な模倣を魅せた。
知己も隣で驚いている、目が合おうともただチョークは無邪気な笑みを見せるだけだ。
その場から微動だにしないものの、対する魔男も何もしない訳じゃない。
ボタンかと思われた3つの突起は割れ、ゼラチンで固められた様な不気味な針が大量に出て来た。
巨大な針は刃にもなり、多様性で魔法使いを傷つけようと不規則にその見た目を変えた。
行動が読めない……! 何せ手数が多過ぎて人間の域じゃない、盾役がいないと辛い位だ。
盾の役割は知己が担う、チョークもそれを真似して知己の助けとなった。
5人がかりでも押され気味、後衛からバブや援護射撃が来るがそれでもキツい。
知己が何度も呼び掛けているのがなんとも悲痛だ、聞こえてるのかさえわからない。
根岸「やめて! 私知己だよ、わからないの!? お願いだから……キャッ!?」
チョーク「ダメだよ、声は聞こえてるみたいだけど……まるで感情を感じないよ!
今は戦うのに集中した方が良い、それだけ今は危ない状況なんだ!!」
根岸「感情が……? わっ砥鳴さん!? クロウステト・セッメーガ!!」
知己は何かを見たのか、咄嗟にでかでかとした
すぐに後、待たずして分厚い桐箪笥の背に大量の針が貫通はせずとも強く突き刺さる。
どうやら紗良の事を助けてくれたらしい、桐箪笥は間に割り込んで身代わりとなったのだ。
これで終わりか? いや、機動力がある者はこれでは終わらない!
紗良は片足で引き出しを開けたかと思えば、片手を着いてタンスの上に乗った。
そのまま魔男の多数の腕を駆け下りる、器用にバランスを取りながら本体に向かって一直線!
途中他の針による邪魔が入ったが、抹茶色の魔法少女が酸を撒いて動きを鈍らせた。
要するに千代子の魔法だ、度を越した最早薬品同然のジュースを妨害目当てで振り撒いている。
おかげで紗良は針の根元に辿り着いた、軽く飛び斬撃を避けて突っ込む!
研鳴「斬り裂け! ウィンターナイトフィーバー!!」
元は秋の魔法を使っていたのだが、攻撃を目当てに別の魔法に切り替える。
彼女が持つ魔法のタンバリンは音を鳴らしながら魔力が蓄積され、半円の刃を生み出した!
片手を着いての側転で最後の針の攻撃をかわすと、根本から魔男の腕を斬り落とす!
響いたのは目覚まし時計の鳴るような断末魔……ふと、チョークが苦い顔をした。
言葉の意味がわかるのだろうか? そうだとしても、悲鳴の内容なんて知りたくもない。
里口((やった! これで魔男の猛攻が少しは弱くなるんじゃないかな?))
研鳴((いいねいいね! 良い感じにテンション上がって来たよ!!))
チョーク((うん、2人は上手い具合に連携を組んで他の腕も……ってうわ!? 大変だ!!))
見れば、響夏が苦戦を強いられていた……その姿は鋭い刃を持つ獣、食いちぎる方針らしい。
だが魔男も思考出来ない訳じゃない、特にボス級となればその強さは一段と上がる。
何が起きたのかって、要するに響夏に対する魔男の攻撃が全て
その漆黒の刃の硬さは見た目ではわからないが、
下手に噛もうとすればその口は勢いで切れてしまうだろう。
魔男による斬撃の手数の多さを見れば、姿を再び擬態させる暇が無いのは明らかだ。
軽沢((ここまで余裕が無いのは久々だねぇ……ぅわ!? ちょっと、あれは流石にマズいぞ!))
余裕が無い状況なのに、何故かまだ余裕がある様に聞こえるのは何とも彼らしい。
さて、響夏が言うあれ……唇の魔女の時に少し似ている、
漆黒の刃を編み上げた後に繰り広げられる独特の攻撃。
その見た目はまるでイソギンチャクだ、パラサイトのごとく刃を開いて食らいつきにかかる!
軽沢「っ……! みんな、ごめ」
チョーク「こっちだ、(ttmrhrs)!!」
軽沢「なっ!? ちょ、白? 白いの! 何をしてんだ!!」
……刹那、突然チョークが色の無い桐箪笥に乗り魔男に向かって大きな声をぶつけた!
後半は意味を聞き取る事が出来なかったものの、魔男の注意を引く事には成功したらしい。
その動きは硬直してしまっている、人間で言えまるで動揺でもしてしまっているかのようだ。
そのままチョークは桐箪笥を魔男にぶつけた、魔男は大きく仰け反ってさらにその動きを鈍らせる。
宙返りに近い形での飛び降り際、チョークは響夏の方を顔も向けて見た。
響夏はその意味を魔法使いの感性ですぐに察する、やるべき事はやろうとしていた事の再開だ。
瞬時に鳥のような獣になって空を飛んだかと思えば、牙を生やした獅子となる。
響くのは百獣をもひれ伏すような吠える声、黒色の根元に噛みつき魔力を込めて引きちぎった!
響いたのは目覚まし時計の鳴るような断末魔……知己は既に、涙目だ。
軽沢「ゔえっ!? ぺっぺ……」((うぅ、錆びた金属を舐めたみたいな味がした))
里口((うわっ、噛んだ時の味の感想なんて言わなくて良いよ!? どう考えても刺激的だって))
チョーク((とにかく後1本で魔男を無力化出来るよ、みんなもうひと踏ん張りだ!))
そう言ってチョークは魔男の方が見た、
秒を3つ刻んで魔男のヒトにも見える針は動いた、表情を作れそうなのは3つの目だけ。
その瞼が白目を狭めたのだ、それでも感情を感じないとなるとこれは本能か。
不意を突いた突如の発光、チョークは咄嗟に目を瞑ったが……他者の目は眩んだ。
刹那、チョークたちは強い衝撃波を浴びた! 追い打ちのように針の雨が降る。
打撲と衝突による激痛を感じると共に、誰かの呻くような声が長く聞こえたような気がした……。
この針の雨も、もう1つの前衛は利奈による棍の魔法で先程と同じように凌いだ。
が、突然の強力な発光に一同の目は眩んでしまっていた。 慣れが早いのが魔法使いの身体。
回復したのならすぐに駆け付ける、だが急ごうとしてもやはり途中の床に手間取る。
それでも抗いながら到着した先……その光景は、大惨事と呼ぶのに相応しい。
全身に針を浴びて重傷の獣、淡い魔力の光を放って縮み、1人の魔法少年に戻った。
上田「酷い……あっ!? チョーク!!」
根岸「ぇ、え? なっ、何が起こったの?」
月村「いいから! 魔男から一旦距離を置きなさい!!」
何が起きたか分からないとなれば、芹香の命令口調の指示は正しいと言えるだろう。
芹香の声を筆頭に、混乱が混じりながらも前衛一同は後ろに下がって行った。
その有り様を見てショックを受け呆然とその場に立ち尽くす知己を除いて。
月村「重傷者!? 攻撃を全て庇ったようね……って利奈! 早くしなさい!!」
芹香が駆け寄る先、近くで改めて見たチョークの容態は凄まじい物だった。
既に針は溶けるようにして消えたらしいが、所々に刺し傷があり血が滲み出ている。
下手に動かしたら衝撃があれば血液が益々流れる位の深い傷だ、利奈が手間取るのも無理はない。
根岸「う、そ!? こ、れ、博師……君が?」
上田「そうだ、知己さん! えっと、タイヤ付きのベットは作れる? 病院にあるような」
根岸「……せ、セッメーガ・クラヴァーチ」
突然の利奈の思い付きを受け入れ、知己は手際良く桜色の魔力を使いベッドを作り出した。
行動の反面で返事をする気力は無かったらしく、呪文を唱える声には気力が無い。
親友の手によって重傷が出た……知己にとってその事実が、相当ショックだったのだろう。
方法が見つかる前の段階でも、一旦下がった前衛一同は利奈の加勢に来てくれていた。
皆で手分けをしてチョークを慎重かつ急いでベッドに乗せると、そのまま魔男から距離を置く。
そして、前衛の魔法使い達は引き下がるのに必死で気がつく余裕が無かった。
今までチョーク達が与えたダメージ、その大半が
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次回、
上田「それ、確か芹香の『辞書』のページ……え、ちょっと!?」
清水「……前衛の中で、重傷者が出たそうだ」
月村「察しが早いわね、つまりそういう事よ」
根岸「……博師君を、おねがい!!」
〜終……(36)儚げな裏で友情の行末[中編]〜
〜次……(37)儚げな裏で友情の行末[後編]〜
魔法使いは運命に沿う。
久しぶりのうえマギとなりましたが、いかがでしたか?
泡沫の魔男はどうやら、チョークたちの攻撃を無かった事にしてしまったようです。
また1から攻撃のし直し、果たして倒しきれるのだろうか?
そういや今日はひな祭り、今年も雛人形が屋根裏からやってきました。
金平糖が好きだと言っていた姉妹も、今となればカロリーが高いと食さない現状。
幼い頃は「灯りを付けましょ爆弾に」と歌ったりしてふざけたものです。
成人ともなると、急に19年の間に問題が見えてしまうもので……
えぇ、姉妹にふざけた方が正しい歌詞だと思われてしまったのは後悔しかない。
それでは雑談もこの辺にして、また次回お会いしましょう。
せめて今年は去年のような失敗がないよう、細々とやってく方針です。