「逆鱗が、吹き飛ばされました! 両翼、制御が出来ません!」
乗員の悲鳴が操舵室に木霊する。
「まだ、まだだ!」
博士が制御盤に触れる。微弱な電流を操る程度の魔力は、両翼の制御を取り戻すことには特化していた。
「持ち直しました、流石です! 博士!」
「あぁ、当然だ! まだ、まだ闘えるぞ!」
乗員が驚く。当然だ、損傷率の加減で考えれば、撤退をしなければ、生き残る保証などない。
「何をやっている。ようやく化け物の目の前までたどり着いたんだぞ? あれを乗り越えるために、今まで努力してきたのだ! 打ち倒すのだ、我々の手で!」
狂気、執念に取りつかれているのだ。凡人の手で才気溢れる伐剣者を打ち倒す、その思想に取りつかれていると言っても良い。
「いいえ、撤退です。この先に破軍学園理事長も控え、生徒会執行部も姿を見せていない。このまま突撃しても、徒に兵を失うだけです」
「……それはビジネス、だからか?」
爪から血が滲み、顔をそむける余裕も博士にはない。元々素養がないのだ、あと数分持つとも思えない。
「ええ、破軍学園の戦力も垣間見えました。少なくとも底しれぬことは、はっきりと。だからこそ、一度引くべきです」
博士が歯噛みする。
「……ならば、殺せ。ここまで来て、引く術など、納める刃は持ち合せておらん。引くつもりはない、止めたいのならば、殺せ!」
実際にそれを行う事は容易い。刃を背に突き立てても、備え付きの拳銃で頭部を打っても、あるいは魔力制御の邪魔をするだけで死に至るかもしれない。だが、それのどれも行わない。
「いいえ、引いて頂きます。怒りを納めて頂きます。ここで貴女を失う訳にはいきませんので」
「……私は貴女の助手ですから」
引き絞る様に綴った言葉は、沈黙を呼んだ。
「……撤退だ」
両翼が、胴体が、ドラグーンが進行方向を変える。
月夜の中、龍の背に二人剣を構えて向き合う。方向を変えるまで、何秒あるだろうか、それを数える時間すら惜しい。お互いに命を燃やしているのだ。二つとないそれを、ただ燃やす場を求めていた。
「第七秘剣 雷光!」
目にも映らない速度で、左の胸部を誤る事無く貫く。何の抵抗も無く、その刃は吸い込まれた。もう一度踏み込み、陰鉄が上空へと軌跡を描き、左手を吹き飛ばす。
「―――遅い」
赤い双瞳に居抜かれたその時、決着は付いた。片腕が無くとも、その伐刀の一撃は右袈裟から一線、赤い傷跡を残した。
(……届かない、のか)
意識が途切れるその瞬間、一輝は笑っていた。自分のその先が、垣間見えた気がしたから。
「ほんっと、なにしてるの!?」
アリスが能力を最大限に稼働させて、何とか二人を破軍学園の中まで呼びもどした。
一輝は一刀修羅の副作用と伐刀の一撃で息も絶え絶え、シンは魔力の消費と雷光の左手の修復もままならない。すぐにでも処置しなければ、死にいたる。
「―――有り得ませんわ」
「今回は、失敗しません」
黒鉄珠雫、立花詩織が二人の前に立つ。珠雫は魔力の補充と傷を癒す。詩織は細胞を精錬される前に再生をする。どちらも、並の伐刀者に出来る事ではない、十年に一人の逸材ですら、出来る保証はない。
(本当に、頼もしいわね)
この光景を見ても、一歩も引かない二人に、恋路に、失敗する未来等想像も出来なかった。
「……ドラグーン、撤退を確認しました」
破軍学園を見上げる。二年半通った学園を、卒業前に去るのは心惜しい。そんな気持ちがあったことに驚いた。
「ちょっと、シン。おいてかないでよ!」
多くの荷物を転がしながら、小走りで詩織が付いてくる。
「……別に、お前は卒業まで居たってよかったんだぞ?」
「何よ、私が居なかったら、まともに伐刀絶技も使えない癖に」
彼女の魔力制御には驚かされた。まさか、意識を失う事も無く元の姿に戻して見せた荒技に。
「……」
むず痒くなって、うなじを掻く。あまり、こういうのは自分の役割じゃないと思っていたのだが。
「分かったよ、これからも、ずっと一緒に居てくれるか?」
「……うん」
そっと、手を繋ぐ。お見送りの姿が見えた、友人と一輝達だ。名残惜しさはあるが、魔術研が新たな動きをする前に、反撃に出なければ、受け身でばかりいても、いつか守りきれなくなるかもしれない。
「離さないから」
使った経費、人材費、各部への交渉費用ドラグーンの技術提供を行ったとして、赤字は免れないだろう。
「助手にしては珍しいな、赤字を出すとは」
予測はしていた。恐らく破軍学園に太刀打ちは出来ないこと、各国への根回しの費用も膨らんでいる事や、人材費が多くなることも、それでも行ったのは。
(博士の熱がうつったかな)
それでも悪くない、赤字の帳簿を付けるくらいなら、と思うくらいに。
「さぁ、次は宇宙でも目指そうか! 早速準備だ、助手よ!」
「……ビジネスなら」
いつからか、この人の後を追うのが楽しくなったのは。
終わった、終わりましたよ先生!(虚空を見つめながら
なんとかかんとか最終話まで書ききりました。
主人公チームのエピローグ書いてない気がするけど気にしない(考えてない
一輝君の修羅ENDとか書きたいなぁ、ステラ姫切っちゃって、珠雫がそれをおいかけるエピソードみたいな……(普通に寝惚けてるよ
まぁ、なんにせよ、これにて落第騎士と人形の一夜物語完結です!
珍しく終わりを考えていない話の書き方だったのに、最後に一輝とシンのバトルないと終わんねぇな!と思いきって追加したのによく終わったなこれ。
その所為でステラ姫の出番無くなったとか言えないw
ここまで読んで下さった方に最大の感謝を
寝惚けてないで、職場行けよ!