インフィニット・ストラトス ~蒼天の魔王~   作:ハルン

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某日 織斑家にて暴君に異変が起きた。

「オイラはビィ!オイラはビィ!オイラはビィ!」

「大変だよお兄ちゃん! 一夏の様子がおかしくなっちゃった!?」

「戦いの中で頭を打ち付けすぎたり、爆発四散しすぎたのがこんな所で現れるなんて」

「オイラはビィ!...夢の中で赤い竜が呼びかけてきてな」

「本格的に頭が可笑しくなって変なトカゲの夢を見ちゃったよ...」

『オイラはトカゲじゃね!』

「「「! ?」」」

「直接脳内に...!」

「い、一夏の後ろに謎の赤い二頭身のナニカが見えたよう...」





(待ってるぜ相棒。いつか、一緒に空を駆ける時が来る日をよ)


この出来事が、後に一夏の大きな力になるとしらずに。


武林の至尊と若き魔王 

天高く舞った護堂は背中から地面に打ち付けたが、対してダメージは無かった。

 

柔道の達人は投げた相手のダメージをコントロールできるという。

 

だが、それは相手を掴んでいるからできる芸当であり、放り投げただけの羅濠がこのような芸当が出来る事からどれだけ常識離れした達人なのか窺える。

 

そんな常識はずれが自分の身近にもう一人いた事を護堂は思い出した。

 

 

「ダッリャ、ダダダダダダダダダダッ!」

 

「以前合った時よりも突きの鋭さが増していますね。喜ばしい事です...。ですが」

 

「ンッ!?」

 

「まだまだ粗削り...そのような拳では私に膝を突かせることはできませんよ?」

 

「ンワァ!? クッ...オラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 

空中で残像が残る速さで殴る一夏の拳を何食わぬ顔で躱す羅濠は、突き出された拳を掴み近くにあった木々目掛け放り投げるが一夏はその木を思いっきり蹴り再度、羅濠に接近すると高速で殴りつける。

 

その光景を見た護堂は「まるでDBだ...」と武の達人たちの戦闘にただ釘付けになっていた。

 

 

「流石は、私が見込んで王ですね。あと5年もすればこの羅濠と同等か、それ以上の強さを得るでしょう」

 

「グッ!?」

 

「先刻、告げたようにまだ粗削りの状態。フフッ...その成長は師として喜ばしい事です」

 

 

オラオララッシュを何事も無い様に躱し、その成長速度の感心する羅濠は回し蹴りをした足を掴み護堂の近くに投げつける。

 

 

「だ、大丈夫ですか!? 一夏さん!」

 

「腕の骨が外れる程度、いつもの事だ。気にするな」

 

「全然大丈夫じゃない!?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

外れた左肩押さえつけながらぐりぐりと回しハメていく一夏。その光景に問題しかない、と言う護堂だが一夏はすまし顔で問題ないという始末。

 

 

「仕合をするのであれば広い所がいいと思いましたが、先ほどのような戦いは草薙王は出来ない様子。であれば地に足をつけ、適度に痛めつけ蒙を拓く程度にしておきましょう」

 

「蒙ってなんだよ!アンタに教えてもらう事は何もないぞ!!」

 

「羅濠の勅に逆らう。この所行を藁と呼ばずなんと呼ぶのです?」

 

「護堂!」

 

 

いつの間にか接近した羅濠に天高く投げ捨てられた護堂。これを数回繰り返していく最中に気づいた事がある。

 

羅濠が護堂の胸ぐらを掴むと腰を落とし、踏ん張る。

 

怪力の持ち主と対決する時だけ発動できるウルスラグナの権能の化身の一つ『雄牛』が使える事に気づいたのは投げられている最中だけだった。

 

 

「アンタのその怪力! 権能だろ!!」

 

「阿吽一体の仁王より簒奪した『大力金剛神功』です。非力なる者を強者にしてこその武術。しかし、剛力なる壮者が至高の技を会得すた時に得る武功はその比に及ばず」

 

「強キャラにチート性能が加わるんだ、バグだよ。まったくさ!」

 

「天道清明、地道安寧、人道虚寧!―――哈!」

 

「深海に住まいし天と冥の兄弟を持ちし海神よ!」

 

「夜叉王よ。突きとはこうやるのです」

 

「ウ゛ゥ゛!?」

 

 

深くめり込んだ羅濠の拳に一夏は内臓にダメージを負ったのだろう。

 

口の端から鮮血を零し、死者の呻き声を沸騰させる苦悶の声を漏らしながら一夏は打たれた野球ボールの様に体をくの時にしながら飛ばされていく。

 

飛ばした一夏に目もくれず、護堂に向け地面を砕きながら進んでいく。

 

 

「でいやァァァァ!」

 

 

意味のない咆哮上げ護堂は地面を思いっきりジャンプする。立ち幅跳びの要領で羅濠の頭上を飛び越えていく。

 

『雄牛』の怪力は、振う対象によってその強さが変化する。

 

4tトラックに使えば、それを両腕で持ち上げることも出来る。逆に言えば、70キロそこそこの護堂に使っても小なりとはいえ効果を発揮する。

 

羅濠の正面から脱出するだけならばこの程度で十分だろう。

 

護堂は、そのまま走る。とにかく走り続ける。

 

走る先には、豪華な宮殿の建物があった。

 

壁全体に対して、『雄牛』の怪力を使いその壁を突き崩していく。

 

その光景に腕力至上主義の乙女が賛嘆が響く中、護堂は宮殿内部に入ることが出来た。

 

 

「草薙王よ、何か仕掛けるつもりですね? あなたの目の輝きが、秘めた企みの存在をわたくしに教えてくれます。この羅濠、逃げも隠れもいたしません。その秘策、存分に試してみなさい!」

 

「分かっていて好きにさせるのかよ?」

 

「当然です、わたくしの様な武の大家が少壮の若輩なりふり構わず打ち負かすなどあってはならないこと。これは武林の慣い、遠慮は無用です」

 

 

その割にはその若輩(一夏)をなりふり構わずやっていなかったか?、と思いながら心の中で弟子だから問題ないのか、思いを秘めながら護堂は新たな化身『猪』を行使した。足元の床が黒く変色する。

 

巨大、雄壮にして傍若無人な黒き『猪』の顕現だった。

 

 

「鋭く近寄り難き者よ! 契約を破りし罪科に鉄槌を下せ!」

 

 

言霊を強く叫びで神獣をたきつける。

 

『猪』が広間を叩き割りながら全身が浮上する。巨大な物体を破壊するときだけ顕現可能な化身。

 

今回対象にしたのはこの宮殿である。どうせ人間社会に影響ないのだから問題ないだろう、と自分も周りと同じような思考をしていることに気づいていないようだった。

 

並みならぬ大きさの猪を目の前にしても「でけぇ!(驚き)」ではなく、「次何するの?wktk」と言った様子の羅濠は並みの神経はしていなようだ。

 

宮殿を粉砕しながら突き進む『猪』は外に躍り出た。崩壊する宮殿に羅濠を置き去りにして。

 

本来なら、事が事なだけに慌てるものだがまぁ、神殺しだし何とかなるだろう、等と考えていた。

 

 

「並みのロデオじゃ問題ないが、こいつは相当な暴れ猪だな!」

 

「い、一夏さん! ...倒されたはずじゃ!?」

 

「残念だったな、トリックだよ」

 

 

いつの間にか、『猪』の毛に掴まり、カウボーイハットを指で回しながら楽しんでいた。

 

ロキの権能で自分の存在を欺き、木陰から|木|ω・)チラッ、っと様子を窺いながら護堂が走り出すと同時に、アンパン食ながら並走するという、お前参戦しろやと言いたくなるような行動である。

 

そんなこと知らない護堂は、いつからここにいた?などと考えていると猪の動きが止まる。

 

活動現界か、と思いながら廃墟となった惨状を目にしながら気を引き締める。

 

剣馬鹿であれば瓦礫を切り裂き、狼爺であれば巨狼になり周を吹き飛ばすだろう。

 

彼女も何かしらの方法で脱出できるだろうと確信した瞬間、その次の展開に呆れた。

 

 

「哈――――ッ!」

 

 

美しい掛け声と同時に宮殿の建材が吹き飛ばされていく。

 

それを行っているのは急旋回する美少女の肉体。両腕をまっすぐに伸ばした姿勢でプロペラの様に回転し、浮上していた。

 

 

「空を自由に、飛びたいなー。はい! スイコプター!!」

 

「すっごーい!彼女は空を飛ぶことが出来るカンピオーネなんだね!!」

 

「なにあれ、なにあれ! じゃなくて、急激にIQが下がっているぞ」

 

「一夏さんだって、変な歌を歌ってるじゃないですか!」

 

 

あまりの光景に両者ツッコみとボケを同時にするという珍事態が発生していた。

 

 

「褒めてあげましょう、草薙王! そして、よくぞ五体満足で戻ってきました夜叉王! あの一撃は確実に全身を破壊するつもり放った一撃です。羅濠の衣に土埃つけさせるものは滅多にいません。サルバトーレ某といい、英吉利国のひねくれ者といいい、夜叉王といい、ここ10年で4人もの魔王がこの難業に成功するとは......。覇道の先達として、嬉しく思います」

 

「やったね護堂! 翠姐に認められたよ!」

 

「露骨なフラグやめてください」

 

 

翠コプター改めオトコプターを止め、瓦礫に降りた羅濠の発言に「あー、だから何時もより痛かったんだ」と一撃貰った場所を擦る一夏は、目の前の現実から逃げる様にボケるのだった。

 

地面に降りたった羅濠の衣服は確かに土埃で薄汚れているが、彼女の身体は傷一無く、髪一つ乱れていない。

 

そんな彼女の服装が、何かしらの魔術なのだろう、仙女思わせる淑やかな漢服からチャイナドレスに似た華やかな衣に、空いた胸元や裳のスリットからからは玉の肌がかいま見える。

 

衣装が変わり、より動きやすくなった羅濠に対し一夏達に緊張が走る。

 

何故なら、動きやすい服装に変わったのだから。

 

 

「...本当は三手譲るつもりでおりました」

 

 

彼女はにっこりと微笑む。可憐な、素晴らしい乙女の表情である。

 

だが、一夏は普段の彼女を知っている為、内心「やだぁ...。地上最強(オーガ)の生物が...笑ってる...」と恐怖していた。

 

あふれ出る無邪気な可憐さに、隠れたその過激な武を知っている一夏は気を引き締めるのだった。

 

 

「でも、もうやめておきましょう。あなたたちに二手を許せば、わたくしといえども不覚を取りかねません。ですから、先達として譲るのは一手まで。......これより全力の羅濠で、あなたたちに武の険しさを示します」

 

 

何処か可愛らしく、慎ましやかに言い渡された。

 

高みから見下ろす様ないままでの物言いよりも、むしろ逆に怖い。

 

 

「我が権能、『大力金剛神功』はすでに見せました。今から披露するのは『竜吟虎嘯大法』。この大絶技ふたつを以て、わたくしは武林の至尊となったのです」

 

 

次の瞬間、羅濠は大きく息を吸い込み、美声と共に吐き出された。

 

吐き出された美しい謡声は、周囲のあらゆる総てが吹き飛び出す。

 

瓦礫が、建物の残骸が、まだ無事だった宮殿の壁や石畳が、強風で吹き飛ばされるように。彼女の謡は、万物を薙ぎ倒す魔風さながらだった。

 

魔風は重圧に変わり、そして衝撃波に威力が上がっていった。

 

『猪』の魁偉な巨体が一瞬、宙に浮くとそこに追い打ちをかける衝撃波。

 

バランスを崩された神獣の巨体は横倒しになった。

 

 

「うわあああッ!」

 

「神々によって生み出され、逆らいし者よ!! 天を繋ぐ鎖としての輝きをここに示さん!!」

 

 

背中に乗っていた一夏は瞬時に猪から離れ、不死の権能と初出の権能の聖句を唱え、落下しそうになった護堂の身体に一夏の腕から現れた黄金の鎖のような形状の物を巻き付けると、自分の所に引き寄せ掴むとそのまま地面に着地する。

 

 

「ありがとうござます。一夏さん」

 

「気にするな」

 

 

地上に降りた二人はある事に気づいた羅濠の謡が終わっていたのだ。

 

今が好機と言わんばかりに『猪』は、咆哮を挙げるが、羅濠の全力はこれからだった。

 

 

「赫々陽々、電灼光華! 天霊霊、地霊霊、太上老君、急急如律令!」

 

 

漆黒の巨人?に悠然と近づきながら、言霊を唱える。

 

羅濠から呪力が立ちのぼり、ゆらりと陽炎の様に揺らめく。

 

待ち構える『猪』に殴りつける。

 

 

――――ルアアアアァァァンッ!

 

 

殴られた猪が哭いた、苦痛にのたうち回る犬のように。

 

護堂は陽炎を注視して、絶句した。

 

ゆらゆらと蜃気楼のように揺れる状態から形をとる様になり、陽炎は逞しい巨人へとなった。

 

綺麗に剃り上げた頭。厳めしい表情。筋骨隆々とした巨体。下半身を覆う粗末な衣。そして、全身が金色に輝いていた。

 

流石に神話などに疎い護堂もこの巨人の正体を理解した。

 

以前、写真で見た東大寺南大門、金剛力士像だと理解するのに時間はかからなかった。

 

彼女の身体から立ちのぼる金剛力士の影が機敏に動く。

 

上段の突き、踏み込みながらアッパーと膝蹴りを同時に。続いてショートパンチの連打、膝蹴り中段突き。空中に舞い上がって、回し蹴りを着地なしで二連続する。

 

まるでカンフー映画の殺陣流麗さ。食らう『猪』の咆哮はもはや泣き声である。

 

 

「あれ、食らうと痛いんだよなァ...」

 

「い、痛いって言いますけどどれくらいですか?」

 

「軽く逝けます。天国に」

 

「アウトじゃないですかそれ!?」

 

「あの権能だけで俺はもう、三途の川を50回以上往復してるよ」

 

「もはや常連?!」

 

 

修行で喰らったことを思い出した一夏は苦笑いしながらサムズアップするが、体験者の話を聞いた護堂は思わず叫んだ。

 

ハハハ、と乾いた笑みを浮かべる一夏の心の傷は相当深い。

 

一夏のボケ?に突っ込んでいると金剛力士に投げられた神獣が落下すると霞の様に消えていくのだった。

 

 

「さぁ、貴方の顕身は消えました。次はあなた自身の番です」

 

「俺を忘れてもらっては困りますな」

 

 

羅濠の怜悧な瞳が護堂を捉える中、一夏が羅濠を睨んだ、その時だった。

 

 

「ご、ご無事ですか、護堂さん!?」

 

「大丈夫、一夏!?」

 

 

可憐な少女の声が聞こえた。

 

それは、転移によって護堂のすぐ側に現れた万理谷祐理の姿と、虚ろな瞳で茫洋としているひかりを連れている。

 

そして、上空からはISを身に纏ったシャルロットと簪が一夏のすぐ後ろに着地した。

 

話を聞く限り、猿猴神君の神通力にかかり、意識はあるが意思疎通出来ない状態であり、あのままいては危険だと判断し、護堂の近くに転移したとのことだった。

 

同様に簪も一夏の場所を特定し、周囲の状況を確認する為、別方法できたとのことだった。

 

目の前の脅威もそうだが、対処しなければいけない相手は一つだけではなかったことを思い出した護堂達。

 

だが、この状況に目の前の脅威は柳眉をひそめいていた。

 

 

「......魔王と魔王が鎬を削る戦場に、紛れ込むとは恐れを知らない巫女供ですね

 

 

呟きに合わせて金剛力士が拳を振りかぶった。

 

一夏の腕から現れた鎖は金剛力士の腕に絡みつきその動きを封じると、顔面蒼白の祐理を背に庇い護堂は叫んだ。

 

 

「ちょっと待った! 俺と一緒に万理谷もそいつでぶん殴る気か!?」

 

「か弱き少女の身で我らの間に割って入ったのです。主に殉死する覚悟はすでに抱いている事でしょう。ならば、羅翠蓮、君臣の固き絆に水を差すような無粋はいたしません。草薙王よ、娘を死なせたくなければ我が絶技破って見せなさい!」

 

 

羅濠の言葉に頭を抱えたくなった護堂だが、それよりも先ほどから俯いた一夏の様子が気になった瞬間。

 

 

「そンなふざけた事、今ここデ起こさせル訳にハ行かなインだよッ!!」

 

「い、一夏さん!?」

 

「グ嗚呼ああァァァァaaaaa!!!」

 

 

ひかりの事を考え、この場から離れたい護堂は策を巡らせる中、一夏はそれを読み取り一歩前に出る。

 

一夏の右肩に漆黒の猪の頭部が現れると身体の至る所に現れた黒い毛皮、鋭利な爪、そして、一夏が纏う雰囲気そのものが変質していた。

 

 

「時間を稼いでやる。それまでに考えろ」

 

「え?」

 

「アァッ!!」

 

「自ら理性を失うとは...。愚策に出ましたか夜叉王!」

 

「ア゛アアァゥッ!」

 

「クッ...!このような事が...」

 

 

現界まで引き絞られた弓から放たれた一撃は相当の反動だったったのだろう。持っていた腕を振り上げるほどだった。

 

羅濠はその一撃を金剛力士の巨腕で薙ぎ伏せるが、放つと同時に移動した一夏に正拳突きが迫るが、一夏はその腕を蹴り、躱すと同時に金剛力士の正面に迫ると両腕の鋭利な爪で攻撃するとすぐさま背後を取り、攻撃し頭上から踵落としをすると金剛力士のいた地面が割れる。

 

理性の無い狂戦士の如く咆哮を挙げ、猛攻を繰り出している一夏に驚きを隠せずにいられなかった。

 

 

「理性を失ってなおこの動き、何処か獣の狩りを思わせる、迅速に相手を倒すような行動...。膨大な力の代償に理性を失うが、論理的思考が可能となり、さらにその戦闘に対しての自己進化が促されてる様子」

 

「憎め、憎め憎め、憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎めッ!!」

 

「その禍々しさ、差し詰め魔緒と言った所でしょうか」

 

 

漆黒の猪に変化した一夏は金剛力士に突撃、踏み砕くと人の姿に戻り弓を取り出すと二矢を番える。

 

 

「我ガ憎悪よッ!天地二轟けェッ!!」

 

「流石に全て防ぐのは困難ですね。理性を失ってなお、このような攻撃をしてくるとは...」

 

「ウァ...ア゛アアァァァッ!!」

 

 

豪雨の如く降り注ぐ矢に流石の羅濠も防ぐのは困難と判断し、後退する。

 

後退する羅濠を両腕に翼を生やした一夏が複数の矢を番え放ちながら追従する。

 

そして、ある程度護堂から離れると一夏は何処までも高く飛んでいく。

 

 

「間違いじゃない......!間違いのはずが無いんだ!俺は、俺は......。ア゛アアァァァーーッ!! 『闇天の弓(タウロポロス)』!全て喰らいつくせぇ!」

 

「回避不能の一撃と見ましたよ義弟。なら、羅翠蓮その一撃に答えましょう」

 

 

金剛力士が姿を消し、羅濠に金色のオーラが収束していく。

 

収束したオーラは巨大な掌となり、一夏とぶつかり合うと当たり一面を覆う闇と光のぶつかりは、凄まじい閃光を生み出した。

 

閃光が止むにつれ、一つの物体が吹き飛ばされてくる。

 

 

「い、一夏!!」

 

「だ、大丈夫一夏!?しっかりして」

 

「...うるさい。この程度どうってことは無い」

 

「大丈夫なわけないじゃない! そんな傷だらけで、それに頭から血だって...」

 

「んなの日常茶飯事だ。で、状況を打開するための策は?」

 

 

なんとか力のぶつかり合いは拮抗し、打ち勝つことが出来たが羅濠に一撃を与えるだけで終わり、そのまま返り討ちに遭い護堂達の所に飛ばされた一夏。

 

全身傷だらけ、打ち所が悪かったのか頭から流血しているが、当の本人はどこ吹く風と至って平然としてる。

 

 

「色々、考えましたがどれもダメです。転移もきっと警戒してるから出来ない。『鳳』で逃げ回って―――」

 

 

羅濠が再び、金剛力士を呼び出し構える最中、護堂はやたら燃える様に熱かった右手が何か疼くと、鋼の輝き、剣の閃き。なぜかそんなことを思い浮かぶ。

 

次の瞬間、護堂と万理谷姉妹の身体は霞の如く消え去った。

 

 

「い、一夏! 三人が消えちゃった!!」

 

「あの感覚は...。俺たちを置いて行ったな飲んだくれの剣は...」

 

「夜叉王よ。忽然と消えていった草薙王と巫女共の行方を知っていますね」

 

「さて、行先は予想はつくが......。まぁ、俺達はこのまま戦っても不利だろう。だから、ここはお暇させていただこうか」

 

 

一夏の足元に大気中の水分を集めて出来た大量の水が現れると渦を巻きながらシャルロットと簪まで広がると一夏は背中から現れた黄金の鎖が二人を離さないように腕に絡みつく。

 

振り下ろされた拳を前にしても一夏は微動だにせず、一言呟いた。

 

 

深海に沈みし(ゲート・オブ・)幻想大陸(アトランティス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げましたか。今のは間違いなく転移の法......しかし城内には姿は見えず」

 

 

阿形仁王尊の拳を受ける前に、護堂と巫女二人は姿を消え、その後を追うように一夏と巫女と魔術師もその場から消えた。

 

常にあらゆる策を講じながら戦う一夏は、戦闘中にシャルロット達の周囲にあらかじめ水分を集めいつでも逃げれるように準備していたのは知っていた。

 

護堂が消えたのは、間違いなく幽世への旅をする転移の法。だが、城内は閉ざされた結界、あの技には必要不可欠な精神集中をする暇はなかった。

 

城内に居ないか探知してみるも見つからず、護堂は何らかの方法で結界を斬り破り、外界へと転移したのだろう。

 

 

「あの少年、なかなか奥深い素性を隠していると見えます。......まぁ、ここで一息に仕留めるのも短兵急というもの。しばし放っておきましょう。そして、流石は義弟と言った所でしょう。わたくしに手傷を負わせ、あのような権能を隠し持っていようとは......」

 

『くくっ。お主も随分と暴れたようじゃのう』

 

 

旧敵である猴王の声が、忽然と響いた。

 

声だけという事は、まだ完全に蘇っていないのだろう。

 

 

『さっそく現世に戻って勝負―――と行きたい所じゃが、今しばらく待て。弼馬温の位を突っ返すには、まだまだ時が必要じゃ』

 

 

こちらはもう良いようだ。羅濠は地上の事を思い出した。

 

ならば、向こうの様子が気になる。弟子たちが怠けぬよう目を光らせるとしよう。

 

 

「承知しました。わたくしは一足先に現世に戻り、再戦の時を待ちましょう」

 

『ああ。ご期待に答えて進ぜよう。括目して待つがよい、神殺しよ!』

 

 

 

 

カラカラ、と笑いながら猴王の声は尊大に告げた。

 

武林の至尊は大いに勇を示し、まつろわぬ神猿は聖蛇を生贄として本堂に戻る。

 

この一幕がいかなる騒擾へと至るかは、いまだ定かではなかった。

 

 

 

 




深海に沈みし(ゲート・オブ・)幻想大陸(アトランティス)

ポセイドンの権能のもう一つの能力。
大量の水と一滴の血液を媒介に開くことが出来る扉を開く。
この中へは一夏が認めたもの若しくは触れていなければ入ることができないため
緊急の脱出手段であり
自分が許可を出さない限りその大陸から出ることが出来ない為、足止めにも使える。
また、この大陸から幽世に行くことも可能。

天地繋ぐ禊の鎖(エヌマ・エリシュ)
古代メソポタミア神話その中でもギルガメッシュ叙事詩に登場するエンキドゥから簒奪した権能。

自身の身体、もしくは魔法陣や地面から槍や鎖といった武器を生み出し、攻撃又は相手を拘束する。
星、もしくは人類への破壊行為に反応して威力が激増し、また別のナニカからの力も作用している。
完全に権能を扱えておらず、部分的な開放に留まっている。



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