Scarlet Busters! ~Refrain~   作:Sepia

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緋弾のアリアAAの放送を記念して短編集を始めてみました。
基本的には一話完結型でいこうと思いますが、いずれこちらの方でAAの話もやってみたいと思っています。

AAといえば、志乃ちゃんと白雪さんのコンビは結構好きだったりします。
あの二人は平常運転でしたね!



Refrain Episode
Refrain1 僕の名前は


 

 幸せって何なんだろう。そんなのは人それぞれだと学校の先生は言う。

 例えば、自分の夢をかなえることも幸せなことだと言っていた。

 より具体的にいうなれば、クラスで発表しあった自分の将来の夢をかなえることだろうか。

 お医者さんになりたい。ケーキ屋さんになりたい。大工さんになりたい。総理大臣になりたい。

 実際になるためにはどんなことをしていかなければならないかなんてことは何も分からないときから思い描いていた夢を、大人になって自分のなりたいものになったとき人は幸せだと言えるのだろうか。

 

 絵本によると、人の幸せは失ってから初めて気づくものだという。

 幸せなんてものはなくすまでは当たり前のようにその恩恵を受けているから分からないものだという。

 その気持ちは今だとなんとなくわかる気がする。

 

「……お父さん……お母さん」

 

 両親を事故で無くしてしまった僕は、居なくなってしまった家族の名をつぶやくことしかできなかった。

 そんなことをしても何の意味もないことぐらいは分かっている。呼びかけてももう返事などは戻ってくることはない。

 

『理樹。こんな時間まで一体何をしていたの!これからはもうちょっと早く帰ってきなさい!』

『理樹。帰ってきたんだったら早く手を洗えばどうだ。夕食まであと少しだぞ』

 

 もう、少しばかり遅く帰ってきても遅いと咎める声は聞こえてこない。おかえりなさいと言ってくれるあたたかな声も聞こえてこない。聞こえてくるのはせいぜい、ポツンというキッチンの水道から水滴が落ちてくる音ぐらい。それがどんなに寂しいことであるのかなんてことは僕には全く想像ができなかった。いや、今まで考えもしなかった、といったほうが正しいか。一体誰が自分の家族がいなくなってしまう未来なんて想像するというのだろうか。

 

(……どうして、どうしてこうなってしまったんだろう)

 

 本当なら楽しいピクニックになるはずだった。

 いつも仕事で忙しかった両親がそろって休みが取れたということで、家族三人でちょっとした旅行に行こうということだった。秋も中旬にさしかかり、紅葉狩りにはうってつけの季節になっていた。ちょっとおしゃれな帽子をかぶり、お父さんに肩車をしてもらいながら山道を歩いていた。お母さんはお昼のために作ったサンドイッチが入っているバッグを持ちながら僕たちを見ては微笑んで、僕は何かを見つけては見て見てとはしゃいでいた。

 

「ねえねえお父さん!お母さん!トンボがいるよ!」

「おっ。そうか、秋なんだかトンボくらいいてもおかしくはないが、久しぶりに見た気がするな」

「久しぶりなの?」

「ああ。最近はずっと仕事が忙しかったし、休日に外に出ることなんてそうそうなかったかな。じゃあ、珍しいものをいることができたのは理樹のおかげかな」

「えへへ」

 

 お父さんは休日になっても外に出るということがほとんどない。性格的にアウトドアが嫌いな根っからのインドア派というわけでもなく、単に休日まで外に出るなんて疲れるようなことはしたくはないという気持ちを持つ人だというだけだった。でも、僕がどこかに遊びに連れて行ってというと、どこに行きたいかといつも笑顔で聞いてくれた。

 

「ねえお父さん」

「どうした理樹」

「また連れてきてくれる?」

「ああ、もちろんだ」

 

 仕事で忙しい両親だったけど、僕のことを大切にしてくれていることはよくわかっていた。決して無理を言うつもりではなかったけど、あまりに楽しかったから僕ははしゃいでしまっていたのだ。

 

 ―――――だから、あんなにも唐突に別れがくるなんて思いもしなかった。

 

 ピクニックからの帰り道。もうお日様も落ちてしまい、ワゴン車にのって家に帰ろうとしていたときのことだ。雲一つとして見当たらないきれいな星空を眺めていた僕は、突然目に入る光が強くなっていくのを感じた。一度車が大きく揺れる。山道のカーブの地点を走行中、急ブレーキがかかったと思ったら、自分たちの目の前を車が通り過ぎていった。危ないな、と思うだけの時間はなかった。

 

「理樹ッ!!」

 

 後ろの座席に座っていた僕は、隣の席に座っていたお母さんに突然抱きしめられた。いったい何があったのかなんて全く分からなかった。ただ僕が理解できたのは、お母さんに強く抱きしめられたということだけ。そこから車に衝撃が走った。

 

『くそ!一般車にぶつかってしまったか!!犯人は!?』

『犯人の車両はそのまま行ってしまいました!』

『こっちの車はいったいどうなった!?』

『防弾性の車です!そう簡単には壊れはしませんが……事故にあった人たちが』

『構わん追え!あいつらをここで逃がしたら、のちのちまた大きな被害を生むッ!!あれはここでけりをつけておかなきゃならん連中だッ!!』

『被害者が出てるんですよッ!?今ならまだ助けられるかもしれませんッ!!』

 

 車の外から何やら声がしていることには気づくものの、何を言っているのかは全く頭には入ってはこない。ただ僕の分かったのは、

 

「お母さん……お母さん」

 

 車は横に倒れ、割れたガラスは散らばってしまっている。そんな状況なのに、僕を抱きかかえたお母さんは何も言わないままだった。電気もなく、周囲の様子なんて分からない。星空だって何も映してはくれない。けど、暗闇の中でもお母さんの体温だけは感じることができた。

 

「お父さん」

 

 お母さんに押し倒された状態とはいえ、何とかお父さんに呼びかけようした僕が見たのは、血であった。お父さんを中心として、僕のところまで血の海が広がってきたのだ。

 

「お父さん……お母さん……。しっかりしてよ。返事をしてよ、ねえ」

 

 自分たちは事故にあったのだと、そう認識できるほど冷静ではいられなかった。

 

「ねえ、お父さん。お母さん」

 

 泣きながら、何度も両親に呼びかける。

 それは僕が、いつの間にか意識を失うまで続けていた。

 

 

 

 

           ●

 

 

 この事故は新聞でも大きく報道された。死者が出たからという理由もあったのだろうが、そもそもこの事故が武偵により引き起こされたものだという点もきっと大きかったのだろう。単なる飲酒運転により起こったものではないのだ。いや、それよりも質が悪いもかもしれない。武偵というものがどういう人間であるかは正直僕にはよくわかっていない。そもそもたかだか一小学生でしかない僕には、職業の名前こそ知っていてもその実態について詳しく知っているわけではなかった。

 

 けど、少しくらいは知っていることもある。

 

 一つは武偵とは探偵みたいな仕事をしている人間のこと。

 そして、基本的には金で動く何でも屋であるということ。

 

 定義が広すぎてこれだと言い切ることができないだけで、理樹の思う武偵とは警察と同じような認識であった。犯人を追い詰めては逮捕する正義の味方。武偵が逮捕権を持っていることを知っていたためか、身近なイメージしやすい例を持って理解に励んだ。

 

『やはり、武偵という制度を導入したこと自体が間違いだったのではないですか!?』

『犯罪が凶悪化していることはれっきとした事実でしょう。ですが、それを助長させているのは武偵という存在なんじゃないですかッ!!そもそもアメリカの銃社会につられる形で、武偵という肩書があれば誰だって銃を身に着けています。そのこと自体が、銃なんていう殺人兵器が社会にに溶け込みつつある現状こそ何よりの問題なんじゃないですかッ!!』

 

 どうやら武偵というものは社会に登場してからそんなに時間は立っていないらしい。武偵というものの原形を作ったのはかの名探偵シャーロック・ホームズとのことだ。当然社会からは受け入れられたというにはまだまだ程遠く、仕方なくとした存在が認められたようなもの。ちょっとした不祥事が起きれば、すぐに大問題となる。

 

『何より、一般人の死者を出してるんですよ!!こればっかりは擁護のしようがありません!まだ幼い子供を残し、両親は死んでしまいました。彼ら親子を引き裂いたのは、どこかの犯罪者じゃありません、武偵という存在です!!事故の原因は犯人によって武偵たちの乗っていた車のサイレンが破壊され、周囲への警戒連絡ができなかったためと彼らはしていますが、問題はそんなことではないはすですッ!!』

 

 テレビをつければ、今はいつだってこの事故の報道で一杯だ。

 事故の原因はいったい何だったのか。そもそもこれは誰の責任によるものなのか。

 テレビに映っている人間はみんな、武偵という存在に対して否定的なことを言う。

 

『そして、たった一人残された子供がかわいそうだとは思わないんですかッ!!』

 

 僕のことを心配するようなことを言っているコメンテーターもいる。

 けど、彼らだって本気で僕のことを心配しているわけではないのだろう。

 勿論本気の人もいるのだろう。かわいそうに、と心の底から思ってくれている人だってどこかにはいるのだろう。だけど、その人にとってはそんなものはどこか遠い世界での物語にすぎないはずだ。

 

『あなたの両親を殺したのは武偵のようなもんなんですよ!何か、何かコメントをください!!あなたの大切な家族を奪った武偵に対する憤りを訴えてッ!!』

 

 ―――――やめて。

 

『あなたは彼等を、武偵という人たちを本当に許したというんですかッ!!あの事件さえなければ、あなたは今も家族と笑ってすごせていたのにッ!!さぁ、真実を語ってください!あの事件で一体何があったのですかッ!あの日、あなたは何を見たのですかッ!!』

 

――――――やめてよッ!!

 

 僕の両親が死んだと個室の病室でお医者さんに聞かされたあと、やってきたのは大量の報道陣だった。大量のマイクを僕に向けて、何か言ってくれと彼らは言う。いくつものカメラが決定的な瞬間をとらえようと、探るような視線を向けてくる。カメラは何も言わないはずの物体のはずなのに、生きているかのような錯覚すら受ける。

 

(……助けて。助けてよ……お母さん……お父さんッ!!)

 

 僕は何も言うことはない。何か訴えたいことがあるとするならば、ただ一つだけだ。

 涙目になってて、小さな声で言葉を紡ぐ。

 

「僕の……僕のお母さんを……お父さんを返してよ」

 

 もし。武偵というものが正義の味方とでもいうのなら、どうして僕の両親は死ななければならなかったのだろう。あれは悲しい事故だった。そう口にする人たちは、じゃあ一体どこに原因があるの思っているのだろう。誰も悪くない。ただ運が悪かっただけだ。ちょっとした不幸があっただけ。そんなことはない。そもそも悪いのは武偵ではなく、事件そのものを起こした犯人たちだ。あいつらがすべて悪い。いろいろな意見を耳にしても、結局のところ僕の心にあるのは二つのこと。

 

――――――どうして僕のお母さんとお父さんは死ななきゃいけなかったんだ。

 

 危険の警告ができていなかったとか、そんなことが知りたいわけではない。

 事故は起こるときはどうしようもなく起きるのだろう。事故を起こしたいと重い人間なんていないのだ。

 だから僕が知りたいのは、事故が起きたのはなぜ僕の家族にだったのかということ。

 言ってしまえば、そんなものは運のめぐり合わせでしかないのだろう。でも、それで納得することなんてできやしないのだ。そしてもう一つは、

 

――――――どうして、僕も一緒に連れて行ってくれなかったんだろう。

 

 どうせ死ぬなら、僕もあの時死んでいればよかったんだ。だってそうでしょう?両親を失ってしまって、もう僕には家族と呼べる人がいない。これから一人でどうやって生きていけばいい?お金のことなんて考えていない。僕が言いたいのはそういうことではないのだ。未来のことに希望なんて見えてこない。

 

「……もう、もう嫌だ。生きるって、失うことだったんだね」

 

 小学校に行ったら、大丈夫かいと心配してくれるクラスメイトたちがいないわけではない。

 だから大丈夫かと言われたらそうでもなかった。

 クラスメイトたちは学校が終わるとそれぞれの家の帰っていく。

 どれだけ学校で仲良くしていたとしても、授業が終わればさよならといって別れを告げる。

 何もしなくてもこれなのだ。

 これから僕はきっと、多くの人と出会うのかもしれない。

 でも、これからどれだけの出会いがあるのだとしても、その数だけ別れがあるなら悲しいだけだ。

 

「それならいっそ、最初から出会わなくてもいいかな」

 

 いつしか僕は一人外に出歩いて、ぼんやりと景色でも眺めていることが多くなっていた。

 友達と遊びたいなんてもう思わない。

 いつか分かれることになる友達なんて最初からいらない。

 

「……じゃあ、僕は一体なんのために生きているんだろう」

 

 でも。ふとした時に思うのだ。それじゃ、生きている意味なんてあるのだろうか。

 生きることは失うことだと知った。最愛の家族すら自分を置いていなくなってしまうのだ。

 そして、今の僕のことをまだ友達だと思ってくれている人がまだいるのかも疑わしいような状態だ。

 すっかり人付き合いが悪くなっていたし、そもそも自然に楽しいと思うことがもうない。

 

「そうか。もう僕には生きている意味なんてないのか」

 

 ないならこれから見つければいい。そんな前向きなことなんて考えられなかった。

 お父さん。お母さん。今から僕もそっちに会いに行くよ。

 もし天国というものがあるのなら、そこで出会ったらまた抱きしめてくれるかな。

 思い立ったら行動は早かった。

 僕は近くの河川にかかっている橋から飛び降りた。

 このまま海に叩き付けられた程度では死なないだろうけど、溺れて僕は死ぬことができるだろう。

 なに、なんてことはない。あの事故で一緒に死に損なった僕が、両親を今から追いかけるだけのことだ。

 

 ―――――ああ、やっと。僕は楽になれるんだ。

 

 それが間違いだと、心のどこかでは気づきつつも、これですべて終わると安心している自分がどこかにいた。なのに、いつまでたってもその最後の瞬間がやってこない。誰かに僕が引っ張られているのだ。そんなに深くはないとはいえ、まだ小学生の僕たちにとっては足がつかない河川であることには変わらないのに、僕が橋から飛び降りるのを見て、助けようと飛び込んできた人がいるのだ。

 

――――――ああ、やめて。ほっといて。そんなことをしたら、君まで危険だよ。

 

 そう伝えたかったが、水の中ではうまく伝わるはずもない。結局僕を助けようとした人は、最後までつかんだの僕の右手を離すことはなく岸までたどり着いた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 自分の命の恩人に対し、僕からは感謝の言葉は出てこない。

 それどころか、相手を責めるようなみっともない言葉しか口に出すことはできなかった。

 

「どうして……どうして僕なんかを助けたりしたのさッ!!僕はもう、生きてなんかいたくなかったのにッ!!ひょっとしたら巻き添えで君まで死んでいたのかもしれないッ!!」

 

 対し、返ってきた言葉は心の底から安心したような声だった。

 自分だって疲れ果て、息だって切れているはずなのに、僕を見ては穏やかに微笑んだ。

 

「よかったよ」

「よかった?何がッ!?」

「決まっているだろう。お前が生きていることだよ」

 

 生きていてくれてよかった。その言葉を僕は受け入れることができないでいた。

 

「……よくない。何にもよくないよ。僕はもう、生きていたいとは思えないんだ。もう死のうと思ったけど、それだって失敗した。なんでだよ、お母さん。どうして僕をあの時助けたの?……僕に一人でも、強く生きていけっていうの」

「大丈夫。大丈夫だ」

「僕はもうッ……」

 

 助けてくれた少年に僕は抱きしめられる。彼はそれっきり僕に何か言うでもなく、僕の口からこぼれ出てくる言葉を黙って聞いていた。川の水で身体が冷え切っているのは彼も変わらないはずなのに、彼の体温がいつしか温かいと思うようになっていた。

 

(……お母さん)

 

 思えば、あの時もそうだった気がする。お母さんは最後の最後で僕を抱きかかえた。きっと、とっさのことだから、考えるよりも先に身体が動いていたのだろう。あの体温を、温もりを思い出してしまったからか、僕の瞳からは涙がこぼれ出てくる。両親がもうどこにもいないのだと悟ってしまったとき、もう涙なんて流しつくしてしまったかと思うくらい泣いたのに。

 

「……まだ、気持ちは変わらないか。まだ、死にたいって心の底から思っているのか」

 

 しばらくは声を挙げて、僕は泣き続けた。僕は一体どれだけの間泣き続けていたのか分からない。ようやく落ち着いてきたとき、彼はそう尋ねてきた。

 

「分からない。分からないよ。ほんとは僕だってわかってるんだ。お母さんがつないでくれた命を自分から捨てるようなことはしちゃいけないってことぐらい。でも、これから生きていこうって思えないんだよ」

 

 本心を言うと、死にたくない。でも、これから生きていたくもない。

 矛盾してることぐらいわかってる。

 彼にはどのように僕の言葉は聞こえるのだろうか。

 こんな僕自身すらわけのわからないようなことを言っているのだ。理解してもらえるはずがない。

 けど、彼はすぐにこういった。

 

「生きる目的がないっていうのなら、俺が教えてやるッ!!この世界にはつらいことだってある!悲しいことだってある!だが、それと同じくらい楽しいことだってたくさんあるんだって、俺がお前に見せてやるッ!!だから……だからさ」

 

 彼の僕を抱きしめる力が強くなった。

 どうしてか分からないが、それが心地いいとすら感じてしまった。

 

「生きるのを諦めないでくれよ。生きていたくないなんて悲しいこと……言わないでくれよ」

 

 生きることは失うこと。僕は心の底からそう思っている。彼だっていつか僕の前からいなくなるのだろう。仲良くなれたとしても、いつか失うことになってしまうのだろう。それでも、僕は君に出会いたいと思ってしまった。そんな時だった。ちょっと離れたところから声が聞こえてきた。

 

「おーいきょーすけ!頼む早く来てくれッ!!あのバカども二人じゃどうにもならんっ!!ってうわッ!?どうした、びしょ濡れじゃないかっ」

 

 彼の知り合いなのだろうか。茶髪でジーパンをはいた、ポニーテールの男の子が彼を呼びにやってきた。

 だがポニーテールの男の子は僕の存在に気づくと口を閉じ、逃げるようにして慌てて背を向けて去って行ってしまう。

 

「あ、おい鈴!」

 

 それど同時、彼は立ち上がって男の子を呼び止めようとしたものの、ポニーテールの男の子が聞く耳など持たずに姿がすぐに見えなくなってしまう。

 

「悪いな、あいつは極度の人見知りなんだよ。俺たちは今、敵と戦ってるんだが、聞いての通り俺の仲間たちだけでは手に負えない相手みたいなんだ」

「一体何をしてるの……」

「簡単さ」

 

 状況がよく分からず、とりあえず聞いてみた僕に、きょーすけとか呼ばれた少年は微笑みながら言う。

 

「強敵が現れたんだ!君の力が必要なんだ!君の名前は?」

「僕の名前は……」

 

 自然に出てきた。生きていこうと思い始めたわけではないと思う。

 けど、差し出された手まで拒絶するような気にはなれなかった。

 

「僕の名前は……」

 

 僕は差し出されたその手を取ろうと、僕はゆっくりとその手を伸ばした。

 人生に大きな分かれ道があるのだとしたら、間違いなくこの手をとるかどうかだった。

 僕はのちに心からそう思うようになるが、それはまた後の物語。

 

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