Scarlet Busters! ~Refrain~   作:Sepia

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子守唄をあなたに
Amika1 憧れの実現へ


人工浮島(メガフロート)の東京武偵高校まで、一応はバス圏内にある埋立島。

 そこに強襲科(アサルト)一年、間宮あかりの住むアパートはあった。

 高校一年生になるくせに、身長が139cmしかない幼児体系の彼女は朝の光を浴びて、しばらくしてからようやくベッドから起き上がった。しかし、どうやら意識自体はいまだはっきりとしていないようであり、まだ半分寝ているともいえるだろう。人間は寝ぼけているときは、理性よりもむしろ本能で行動するものである。彼女は自室の壁に張られている写真を目に映すと、ふらふらと写真が貼られている壁に身体を預けた。

 

「ああ、アリア先輩ぃい。素敵ですぅう」

 

 壁に貼られている写真は、どこかに市販されているものではない。情報科(インフォルマ)にいる二年の先輩に、『覗きの部屋』とかいう写真展をやっている人がいるとの噂を聞きつけたあかりが、何とか知り合いの伝手を頼りに購入したものだ。もともとは手のひらサイズで合った写真だが、拡大コピーと切張りを何度も重ねた結果、映っている少女は等身大の大きさまで行きついていた。頼めば特大サイズのものも作ってもらえたようであるが、予算の関係上それは叶わなかった。金欠って悲しいものである。

 

 写真に映っている少女の名は神崎・H・アリア。

 ピンクのブロンドのツインテールに、白地に臙脂えんじ色のカラーをした東京武偵高校のセーラー服を着こみ、両手にガバメントという二丁の大型拳銃を持つ凛々しき少女。

 彼女は東京武偵高校強襲科二年生。つまり、一年生であるあかりの先輩にあたる人物である。

 

 ――――――あたしは絶対に、アリア先輩のような立派な人になるんだ。

 

 臥薪嘗胆というわけではないが、その誓いを忘れないようにといつでも思い出せるように目につくところにその証を置いておく。その心得はすばらしいものではあるのだが、あいにくとまだ寝起きで夢から覚めないあかりの姿はとてもじゃないが立派な人物だとは言えないものであった。

 

『あかり。よくやったわね』

 

 先輩と後輩。

 憧れの人との関係性を端的にいえばこうなるのだが、現実というと神崎・H・アリアと間宮あかりの接点など無いに等しい。もちろん先輩と後輩という事実は揺らぎないのだが、そんなものは二年生と一年生の間なら誰でもいえることだ。同じ部活に所属しているというのならまだしも、そうでないなら接点など学年が違うとそうそう生まれない。事実、強襲科(アサルト)の有名人であるあるアリアのことは誰しも知ってはいるが、当のアリアが一後輩であるあかりのことを知っているかどうかははなはだ疑問である。体育館で見かけたことがある、くらいの認識が妥当なところだろう。

 

 だというのに、夢とはいえあかりはアリア先輩が自分に笑いかけてくるなんていう事実無根の幻覚まで見るようになっていた。

 

 第三者から見たら頭がおかしくなったかのように見えることでも、当の本人からすれば幸せな夢である。

 だが、そんな夢は長くは続かない。

 夢をぶち壊しにするのはいつだって、悲しい現実である。

 

「――――――ッ!」

 

 ふと目にした置き時計。

 その時刻が八時を示していた。

 

「へ?うぎゃあああああああああ!!!」

 

 経験則から言って、8時5分には家を出ないと学校に遅刻することになる。壁ぎわにかけていた制服を両手と両足の指でつかむという荒業を披露して瞬時に着がえたあかりは、半べそのまま自室を飛び出した。

 

「ののかぁ!なんで起こしてくれなかったんだぁああ!!!」

 

 おはようの挨拶もなしに、妹に半ば八つ当たりでもするように朝一番に叫びだした。

 中学生の妹である間宮ののかはというと、すでに学校の制服に着替えており、リビングの鏡台で肩まである黒髪をブラシでとかしていた。姉とは違い、彼女にはどうやら時間的猶予はまだあるようである。

 

「起こしました。わたしはしっかりと起こしました」

「ののか?」

 

 なんだか妹の機嫌が悪そうであることに気が付いた姉は、何かあったのかと様子を見て見る。

 

「あっかんべー!だよお姉ちゃん!」

「あ、ごめんののか」

 

 ののかの顔にははっきりと分かるくらいくっきり小さな足型が残っていた。おそらくは自分が寝ぼけているときに起こそうとしてくれた妹を蹴り飛ばしてしまったのだろう。時間が厳しいことも忘れて妹に必死に謝罪の言葉を述べていると、妹は心優しいため許してくれた。なんだかしょうがないなぁというあきらめにも似たため息をつかれた気もするが、そこは気にしないことにしておこう。

 

「あ、そうだ時間!早くしないと……ええと、ケータイは……」

「リビングに置いておいたよ」

「ありがとうののか!」

「もーしっかりしねよね。防弾制服もちゃんと着る!」

「もう大丈夫!ちゃんと着ているからね!それじゃ学校行ってくる!」

「銃を忘れてるよお姉ちゃんー!」

 

 通学カバンを持って家からバス停へと駆け出そうとしたあかりを慌てて引き留めたののかは呆れ顔のままあかりのスカートをめくり、太ももに巻かれたレッグホルスターに短機関銃を挿した。

 

 これが間宮あかりの愛銃。マイクロUZIウージー。

 イスラエルの旧IMI社が開発した傑作銃の一つで、コンをパクトな一バリエーションの一つ。

 UZIは一般的な拳銃弾を使用でき、25発もの銃弾を約一秒の間にばらまくことができる上、耐久性も高いサブマシンガン。

 もっともあかりが愛銃としてこれを選んだのは、1000万人以上が流通しているベストセラー銃のため部品も本体もとても安くなっていたということがあげられる。あと、店に行ったとき解説してくれたお姉さんが『数打ちゃあたる』という売り文句にも騙されてのことだが、あいにくと彼女は気が付いていない。

 

「それじゃ、あたしは先に行くね!」

「あ、そうだお姉ちゃん!私今日は委員会に行くから遅くなると思う」

「分かったよ。くるみちゃんにもよろしくね。じゃ、痴漢、スリ、車には気を付けるのだぞー!」

 

 トースターから飛び出した食パンを口にくわえながら、あかりはアパートを出発した。

 彼女が向かう学校は東京武偵高校。彼女はそこの二年Aクラスに在籍している。

 武装を許可され、荒事で有償で解決するなんでも屋である武偵を育成する場である東京武偵高校では一般の高等教育に加えて、捜査、鑑識、武装犯罪者との戦闘にかかわる専門科目を受講できるため、当たり前のように銃器や刀剣で武装した生徒たちが歩いている。東京武偵高校へと向かうバスに何とか駆け込み乗車したあかりはバスの中で息を完全に切らし、呼吸を整えていた。

 

「おはようございます。あかりさん」

「あ、志乃ちゃん、ライカ。おはよう」

「ずいぶんお急ぎでしたね」

 

 あかりがバスの中で見つけたのは同じクラスに所属する二人の友達だった。

 腰のあたりまで伸びていて艶光りする黒髪の大和撫子タイプの少女の佐々木志乃。

 彼女はその外見にそぐわず、あかりに対して穏やかな笑顔であいさつに答えてくれている。

 両手で通学カバンを手に持つ姿一つとっても、育ちの良さが見て取れる。 

 

「お前今日ランク昇格試験だろ?テストの日ぐらい早く来いよなー」

 

 対し、男の子のような勝気な口調で話しかけてくる少女の名は火野ライカ。

 アメリカ人と日本人のハーフのようで、身長も165センチもあり、金髪にポニーテールという風貌の男勝りな女子である。

 

「えへへ」

「あかりさん。テストの方はどうなんですか?」

「へへ……へへへ。正直、正直、自信ない」

「私はあかりさんがどんな成績だろうと、最後まで一生懸命練習や勉強に付き合いますからね!」

「うん。ありがとうね志乃ちゃん」

 

 テストということだが、今このバスで単語帳の一つでも開いて勉強することはない。

 今日あかりに待ち受けているテストは、英語や数学といった科目のテストではなく、武偵高校の専門科目のテストなのだ。そして、今日は実技のテスト。学科の方はもう終わっているため、教科書を開くことはない。下手に車酔いでもして気分を悪くするわけにもいかないのだ。東京武偵高校前にバスが止まり、バスから降りた三人がのんびりと話をしながら校門へと向かっていると、なにやら騒ぎが起きているのを見つけた。

 

「?」

 

 中国語、だろうか。あかりたちにはよく聞き取れなかったが、外国語でなにやら暴れている人間たちがいた。様子を見て見ればどうやら車輌科ロジの護送車で移送してきた犯罪者たちが暴れているようだ。言語が通じないことによるトラブルが起きたのだろう。

 

「おい、車輌科(ロジ)の生徒がやられてるぞ!」

 

 一味は手錠されていてもお構いなしに、車輌科ロジの生徒たちの胸ぐらをつかんだり蹴ったりと暴力を振るっている。助けなきゃいけない。そう思うが、暴れているのは中国系マフィアらしい見るからにガラの悪い連中だ。あかりを含め、見ているやじ馬たちはしり込みをしてしまう。そこに、

 

「―――――――やめなさい!」

 

 鋭く高い声が響き渡った。

 その声の主は、イギリス出身の留学生。そしてアリアの憧れの的。神崎・H・アリア。

 思いもしてなかった登場に、あかりの心臓はぴょんとはねる。

 小学生といっても通用するような身長のアリアは堂々と歩み寄る。

 屈強そうな犯罪者たちにグルリと囲まれながらも、アリアは決してひるむことなどなかった。

 そしてあっという間に、素手で男どもを叩きのめした。

 

「こいつらただの窃盗団のようね。尋問科(ダキュラ)にでもぶち込んでおいて。鑑識科(レピア)は現場の調査。まだ仲間が潜んでいるはずだから、迅速にね」

 

 なんてことのないように騒ぎを納め、周囲の人間に指示を出していくその姿は優秀なキャリアウーマンそのものだった。その姿は後輩から見たら羨望ともいえる視線を集めるのには十分すぎて、朝の話題は一年生の教室もアリアのことばかりになっていた。

 

「いやー朝からすごいもん見ちゃったな」

「驚きましたねアリア先輩。さすがは強襲科所属のSランクです」

「そりゃそうだよ。拳銃、格闘術のエキスパート。イギリス貴族で、14歳からヨーロッパじゅうで活躍!今は日本に留学中!」

「犯罪検挙率99%。とどろくその名は『双剣双銃(カドラ)のアリア』。あかりに何度も聞かされちまったからあたしまで覚えちまったよ。やっぱ、東京武偵高校最強はアリア先輩なのかな」

「それはどうなんでしょうね」

 

 よくある話題として、東京武偵高校最強の武偵はいったい誰なのかというものがある。

 武力を使う学校に通う身としてナンバーワンは知っておきたいと思うことは無理もないことだろう。

 三年生は外部の依頼を受けることで何か月と学校にいないことなんて珍しいことでもなんでもないため、候補者はたいてい一年生が見かけることができる二年生までの人となる。もちろん銃を持って戦うことだけが武偵ではなく、装備科や鑑識科といった後方の活動だって立派な武偵であると言えるのだが、やはり花形というべきか、直接武器を持って戦う人間ばかりが選ばれてしまう。

 

「実際、強襲科(アサルト)の現主席はアリア先輩だしな。去年まではアリア先輩もいなくて、遠山キンジって人だったらしいんだけど。あの人は去年の冬から探偵科に転科してしまったしな。志乃から見たらどうなんだ?」

 

 あかりもライカも、アリアと同じ強襲科(アサルト)を専攻している人間だ。強襲科(アサルト)という分野においては主席のアリア先輩が最強であることは二人とも疑ってはいないが、他の学科から見たらまた違うのかもしれない。そう思ってライカは探偵科(インケスタ)を専攻とする志乃に聞いてみたが、志乃も首を振るばかりであった。

 

探偵科(インケスタ)は本質的に戦うことを専門としているわけではないですから、最強といわれてもいまいちピンときませんね。他の学科の主席のうわさもたびたび耳にしますけど、どうしてか強いっていう印象はないんですよね。委員会を持っていてすごいなとか思う人もいますけど、なにか違う気もしますし」

「『魔の正三角形(トライアングル)』か?」

 

 東京武偵高校の二年生の先輩方には、筆頭問題児たちとて『魔の正三角形(トライアングル)』とか言われている連中がいる。委員会連合に加入することができるほどの実力を持つ委員会を自前で作り上げた三人の委員長たち。ただ、本人たちがそう名乗っているわけではない。三人とも自分の委員会を持っているという共通点があり、あまりに面倒くさい連中であるため教務科(マスターズ)にひとくくりにされて呼ばれているのだ。

 

「噂話はあたしも聞いたりするけど、確かに強いっていう印象がないな。どっちかというと変人って感じがする。なんでも一年生の時は指で数えるくらいしか学校にこなかったとかいう亡霊じみた奴と、装備科(アムド)の主席でありながら超能力捜査研究科(SSR)でもペーパー試験でぶっちぎりのトップの成績を叩き出すとかいう二連覇を達成した奴に、一度も授業には顔を出さないのに超能力捜査研究科(SSR)に籍をだけ置いている奴だったか?しかも本来の専攻は諜報科(レザド)だとか。何をしたいかよくわからん連中だな」

 

 結局のところ、あかりたちにとって最強の武偵が誰であるかの結論は何度話し合っても変わらない。

 誰に憧れて、誰のような武偵を目指したいのかというのならまた話は違ってくるのだろうが、こと最強談義ではアリアに敵うものは東京武偵高校にはいなかった。実際、あかりはアリアの活躍をこの目で見たことにより、やる気が身体の底から湧き出てきているようであった。

 

「最強の武偵はもちろんアリア先輩以外いないよ!そして、あたしにとっての最高の武偵もアリア先輩!アリア先輩の活躍を見てたらあたしもなんだかできそうな気がしてきたよ!」

 

 

         ●

 

 

 もちろんやる気を出したぐらいでどうこうできるようなら世の中には劣等生なんてそんざいしないわけで、あかりのテストの成績は散々であった。試験は教務科から指定された相手との一対一でのペイント弾を使用した実戦形式のテストであったが、あかりはというとサブマシンガンたるマイクロUZIで弾丸をばらまくものの狙いなんて明後日の方角にしか飛ばせず、相手に簡単に狙い打たれてしまった。

 

「間宮あかりさん、だったわよね?あなた、対戦相手の顔もろくに見ずに銃を乱射するなんて、武偵に向いていないんじゃない?」

 

 対戦相手の人は強襲科一年では上位に入る人だったが、それでも彼女の言うことに真っ向からあかりは反論できなかった。いくら試合だったとはいえ、実戦だったらあかりは簡単に心臓を撃たれて終わっていた。相手命のやりとりをすることに真っ向から向き合えるかは天性の資質がものをいう。できる人は最初からできるし、無理な人はいつまでたってもできまいままだ。ゆえに、こればっかりはこれから努力してどうこうできるようなものでもない気もする。まして、練習でもただ無様に逃げ延びようとするだけの自分が武偵に向いていないことをどうしても言い返せなかった。

 

「やはは。二人ともごめんね。せっかく応援にまで来てくれたのに不合格で」

「気にするな。お前の対戦相手は高千穂(たかちほ)(うらら)ていうやつで、どっかの金持ちのお嬢様だとさ。いっちゃなんだが、あかりとは経験が違うんだ。これであかりが簡単に勝っちゃうような中身のない努力はしてきてないだろうしさ」

「最後は追い詰めていたんですから撃つ必要はなかったのに……ちょっとやりすぎです」

 

 ライカはテストに不合格したことは気にするなと言ってくれている。

 志乃ちゃんも高千穂さんのいうことは気にしなくてもいいと励ましてくれている。

 

「しょうがないよ。高千穂さんの方があたしより強かったんだもん。それは変わらないよ。世の中は甘くないんだし、今回はただ運が悪かっただけ。これからも頑張って……あれ?」

 

 それでも、本当にそうなのかと語り掛けてくる自分がいる。

 今回のテストの対戦相手だった高千穂さんがどうこうということではない。

 もし今日の対戦相手が高千穂さんではなくて別の人だったら。

 もし対戦相手が強襲科一年でも上位の人間ではなかったら。

 

 あたしは一体、どうしていたのだろうか。

 

 相手のことを恐れ、顔も見ずにただ銃をぶっぱなすだけという醜態をさらさずに済んだのだろうか。

 

(……いや、きっと違う)

 

 武偵にとって、相手は全く関係ない。たとえ相手が強かろうが弱かろうが立ち向かう。それが武偵だ。

 相手の強さで行動が変わるのなら、できることといえば弱いものをいじめ、強いものに取り入る卑屈者でしかない。あかりの目指す武偵とは、少なくてもそんな臆病者のことじゃない。

 

「あれ……このおかず。わさび効き過ぎだよ。ののかってばまた調味料の配分間違えたな。まったくしょうがない妹だなぁ。家に帰ったら文句言わないと」

 

 本当は自分でもわかっている。だからこそ、あかりは今の自分が情けなくて仕方がない。

 武偵にはきっと向いていないのだろう。それでも夢をあきらめることができなかった。

 涙が静かに零れ落ちていくあかりを見ても、友達二人は彼女を笑うことはなかった。

 

「まぁそんなに落ち込むなって。あたしらまだ一年生なんだしさ」

「そうですよあかりさん。わたしたちの道はまだまだ長いです。わたしも協力しますから、一緒に頑張っていきましょう」

「あたしも忘れてもらっちゃ困るぜ志乃。あたしたち、だろ?」

「そうですね、わたしたちみんなで頑張っていくんです」

「志乃ちゃん……ライカ……ありがとう」

 

 まだ一年生だ。そういう考え方もある。どうせ自分は武偵として生きていくだけの力はつけられないかもしれない。それでも、まだすべてをあきらめるような時期じゃない。どうせダメだったとしても、あがくだけあがいてみよう。あかりはそう決めた。

 

「それにほら、お前だってひょっとしたら、アリア先輩に戦姉妹(アミカ)契約を胸を張って申請できるようにまでなるかもしれないじゃん?」

戦姉妹(アミカ)契約?そうだ。アリア先輩に戦姉妹(アミカ)契約を申請しよう」

「……は?ちょっとまてあかり、今すぐか?」

「うん」

 

 さっきまでと一転、希望を見つけたとばかりに活力を取り戻したあかりとは対照的に、志乃は困惑した表情で疑問を口にした。

 

「あの、戦姉妹(アミカ)契約ってなんですか?」

「知らないのか?まぁ志乃は優秀だから知らなくても不思議はないかもな。戦姉妹契約っていうのは、武偵校の二人一組ツーマンセル特訓制度だよ。志乃のいる探偵科(インケスタ)の場合だと、助手みたいなやつを置いておくみたいな感じになるのかな」

「そう!一人の先輩のもとで直接訓練を受けて一年間過ごすの。実際の事件に協力して、実地の指導も受けられるんだよ。コードネーム付きの作戦に使ってもらったりしてね。あーもうどうして今まで思いつかなかったんだろう!」

「そう簡単にいくもんか」

 

戦姉妹(アミカ)契約は一般的に下級生から上級生に教務科(マスターズ)を通して申請する。

 その後上級生が下級生をテストし、それに合格すると晴れてコンビとして組ませてもらえることになっている。

 

 ただし、それはあくまでも手続き上の話。

 

 実際はそう簡単ではない。

 申請を受ける上級生にも当然事情があるわけで、いくら武偵校のシステムとはいえ戦姉妹契約を結びたくないと思っている人間だっているだろう。戦姉妹契約はあくまでお互いに利があると判断されてこそ双方の同意のもとで結ばれるものなのだ。試験以前の問題として申請書類が弾かれることだってあるらしい。いわば助手の採用試験のようなものだ。気に入らない人間は取らないし、そもそも必要としない受け入れることもない。

 

「今のお前とアリア先輩とじゃ差がありすぎるだろう。アリア先輩のランクはお前だって知ってるだろ?Aランクより上のSランクだぞ?戦姉妹を希望した奴は今までにもいたらしいが、聞いた話じゃ20人続けて不採用だったってさ」

「でも!申請するのは自由だよ」

「無駄無駄。お前みたいなEランクは、テストしてもらえることもなく書類選考で弾かれておわりさ」

 

 実際、ライカの言うことは正しい。

 アリア先輩の属するSランクは武偵の最高位。大人の武偵も含めても日本には数十人しかいないエリート中のエリート。当然アリア先輩が戦姉妹として求めるレベルもそれ相応のものだろう。戦姉妹は一対一の専属家庭教師ではなく、一年間付き従う助手なのだ。一から面倒を見てくれるわけじゃない。技術は勝手に盗んでいく必要がある。

 

(わかってるよ。そんなこと……)

 

 ライカは否定的な意見を言う。けどそれは意地悪で言っているわけではないのだ。

 もし仮にアリア先輩の戦姉妹になれたとして、実際に事件に連れて行ってもらえたとして。

 あたしの実力じゃ、足を引っ張るばかりで何の役にも立たないだろう。

 それだけならまだしも、殉職することだって考えられる。

 アリア先輩の持つ仕事とは、今の自分たちでは想像もつかないような危険度のものばかりのはずなのだ。

 

「あかりさん。私たちは私たちのペースでやっていきましょう。ね?」

「志乃ちゃんまで……」

「どれだけ時間がかかっても、私たちは最後まであかりさんと一緒に戦いますからね」

 

 友達だから言ってくれている。友達だから、みすみす命を捨てに行くようなことはやめた方がいいと言ってくれている。そんな友達ができたことは、あかりにとってまぎれもない自慢の一つだ。だが、結局あきらめられずに、帰宅する際に教務科から申請書類をもらってきてしまった。未練がましいとは分かっているが、どうしてもあきらめられなかったのだ。

 

(あれ、鍵がかかってる。そっか、そういえばののかは今日遅くなるかもとか言ってたっけ)

 

 誰もいない家の鍵を開けて荷物を置く。それからはせっかく持ってきた書類を記入することもなく、机の上において書くまいか、書かないでおくべきかと悩み続ける羽目になった。

 

「ただいまー」

 

 どれだけ机の上でにらめっこしていたか分からない。けど、気が付いたら妹のののかが帰ってきていた。

 

「ごめんねお姉ちゃん。さっきくるみさんと一緒にスーパーの特売に行ってきたから遅くなっちゃった。あと、今日委員会のみんなと一緒にクッキー作って、余った分をもらってきたの。一緒に食べよ?……お姉ちゃん?」

 

 ののかは帰宅早々手に持った買い物袋から冷蔵庫に食べ物を入れてすぐに、あかりの元気がないことに気が付いた。

 

「いつもごめんねののか」

「急にどうしたの?」

 

 自分はこのままではいけない。ののかを見ているとなおさらそう感じてしまう。

 自分はののかのお姉ちゃん。姉として残された家族を守らなければならない。

 けど、実際に支えられているのは、助けられているのはいつも自分の方だった。

 

「本当なら、ののかにアルバイトなんてさせたくはなかったのにやってもらって。家計だって全部ののかが管理していてさ」

 

 ののかは中学二年生。

 あかりとは違い、武偵校ではなく一般の中学に通っている。

 けど、ののかのいう委員会というのは、ののかの中学の委員会のことではない。

 ののかの言う委員会は、武偵の組織としての委員会のことを言っている。

 一チームという規模を越えた委員会にののかはアルバイトとして参加していた。

 

(本当ならお金だって私が用意してあげたいのに)

 

 武偵は依頼を受けることによって、単位だけではなくお金だって手に入る。お金を稼ごうと思えば稼ぐことはできるのだ。ただ、一般中学出身であるあかりにはまだまだ学ぶことだって多い。そう何度も外部の依頼なんて受けられない。それに、あかりの専攻である強襲科は実際に銃を扱う部門の筆頭だ。訓練にだって銃弾を消費するため、あかりにはほとんど収入というものはなかった。

 

 学費は親戚のおじさんに払ってもらっているし、そもそも学生という身分で考えればそれも当然のことであるのだろう。だけど、二つ下の中学生の妹よりも家計貢献度で敗北するというのは姉としてなかなかに心に響くものがあったのだ。今二人が住んでいるこの激安アパートも、本来は委員会の宿舎としての物件をアルバイトとはいえ関係者だからということで特別に使わせてもらっているにすぎないのだ。

 

 だから、今あかりが生活できているのはののかが委員会でアルバイトをしているからでもあった。

 

 かと言って、あかりがののかにしてやれていることはほとんどない。

 朝は寝坊して起こしてもらっているばかりか、今日なんて蹴とばしてしまった。

 お弁当だって作ってもらっている。

 何もない。自分ができていることなんてなにもないのだ。

 

「ホントにどうしたの?」

「いや……ちょっとね」

「あのねお姉ちゃん。気にすることはないよ。むしろ、これでよかったんだと思ってる。だってわたしは、自分の夢を見つけることができたんだから。アルバイトだってわたしがやりたくてやってるの。将来なりたいものになるために、必要なことだからやってるの。今はくるみさんともどもアルバイトの身だけど、いつかは正式に委員会の一員として働けるように勉強してるんだから」

 

 知っている。

 自分がアリア先輩のようになりたいと思っているように、ののかにだって憧れている人がいて、その人のようになりたいと願って今から勉強しているのだ。

 

『わたしの夢は、武偵として生きていくことじゃないから』

 

 ののかは武偵中学には通っていない。

 ののかの夢は武偵として犯罪者と武器を持って戦うことにはないようだ。

 けど、今からやれることは何でもやるつもりでいることをあかりは知っていた。

 学校の宿題を終えた後も、難しい参考書を夜遅くまで開いて勉強していることをののかは隠しているようだが、気づかないはずがない。

 あたしよりも遅くまで必死に勉強して、あたしよりも早く起きてご飯を作っている。

 そんなののかの努力を、あかりは誰よりもあかりは知っていた。

 

「何を悩んでいるのかは知らないけどさ、わたしはお姉ちゃんのやりたいようにすればいいと思うよ」

 

 そんなののかの言葉だからこそ、家族の言葉だからこそあかりの心に響くものがある。

 お姉ちゃんは情けなくなんかない。

 迷うことなんて何もないのだ。そういってもらえている気がした。

 

「わたしはお姉ちゃんを応援するよ。お姉ちゃんがずっと前からアリア先輩に憧れてたの知ってるから」

「うん。ありがとう」

「ほら、クッキー食べよ?ちょっと失敗したのもあるけど、そこまでひどい出来にはなっていないはずだからさ」

「うん」

 

 この戦姉妹(アミカ)申請書類は明日出すことにしよう。

 ダメなのはわかっている。自分にだって、うまくいくわけないことは分かっている。

 だけど、それはきっとやらない理由にはならないはずだ。

 

(あたしも、今できることはなんでもやろう)

 

 妹には負けてはいられない。

 ののかに夢があるように、あたしにはあたしの夢がある。それを妄想のままで終わらせたくはない。

 やれることは今のうちからすべてやっておこう。だから、

 

「晩御飯どうする?」

「もう!あーとーで!わたしは今帰ってきたばかりなんだから、休憩するの!」

 

 とりあえず、家族とのひと時を今は大事にしておこうか。

 

 

 

 

 




ののかちゃんが憧れている人が誰なのか、見当がついたことかと思います。
あかりといいののかといい、本編見てると憧れる人を盛大にまちがえている気がしないこともないですけどね。

あ、AAキャラではぶっちぎりで志乃ちゃんが好きです。
前から思っていたのですが、志乃ちゃんがつけている腕章は一体何なんでしょうね?
鳥取先輩の腕章がクラス代表のものみたいなので、ひょっとして志乃ちゃんってクラス代表だったりします?


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