Scarlet Busters! ~Refrain~   作:Sepia

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Amika2 無謀なる挑戦者

 アリア先輩に戦姉妹(アミカ)契約の申請をする。

 採用されるとは正直思ってはいないかったし、書類の時点で役立たずだと突っぱねられても仕方がないことだと思う。けれど、一度決めたからにはあかりの決心は固かった。 

 

「はぁ!?ホントに申請した!?」

「うん……」

「アリア先輩は二年生なのに、トップの成績なんですよ」

「こんなことあたしだって言いたくないけどさ、お前はEランクのビリじゃん!本来なら組むどころか本来口きけるチャンスすらない相手だぞ」

「あかりさん。人には適正とか、身の程というものがあるのですよ」

 

 なのに、心の底から頼りになるはずの友達二人の意見はとても厳しいもので、心が折れそうになる。

 

「あかりのこの前の中距離射撃試験の結果だって、144人中144位の最下位だったじゃないか。あれはあくまでも訓練だったけど、あれが現実の銃撃戦だったら今ごろ死体になっていたぞ」

 

 志乃ちゃんもライカも、あたしに意地悪をしたくてこんなことをいうわけではない。

 むしろその逆であたしのことが好きだからこそ、想像できてしまう未来を見たくはないから言っている。

 

「あかりさん……お言葉ですが、強襲科(アサルト)はやめた方がいいんじゃないですか?」

 

 普段ならあかりに対して誰よりも優しい言葉をかけてくれる志乃なのだが、彼女はアリア先輩に対して明かりが戦姉妹(アミカ)申請をするつもりだとあかりが伝えてからどうにも冷たいような言い方をしていた。

 

「ねぇ志乃ちゃん。あたしに武偵として生きていく才能がないなら、いっそのこと武偵を辞めるべきだと思う?」

「そ、そんなことありませんよ!私は何も、あかりさんに武偵を辞めろなんてことは言いませんし、まずそんなこと思ってもいません!私が言いたいのは、武偵といっても色々な立場の人がいるということです。私が探偵科(インケスタ)の人間であるのように、なにも強襲科(アサルト)だけが武偵じゃないってことです」

「………」

探偵科(インケスタ)のことなら、私が全力を持ってあかりさんをサポートしてみせます!だから、あかりさんにとっては強襲科(アサルト)がすべてで他の道はないんだという視野の狭いことは言わないでください!」

「こればっかりは志乃の言う通りだと思うぜ。あかり、お前は自分に一番向いているものを知る必要があると思う。結局のところそれが強襲科(アサルト)だったっていうならあたしが助ける。ま、気楽に考えようぜ。お前にはあたしがいるし、志乃だってついてるんだ」

 

 あかりが黙り込んでしまったので何とか志乃とライカの二人はあかりを励まそうとしていたが、あかりが黙り込んでしまったのは自分に適性がないことに対するショックからではなかった。かつて、志乃が今言ったようなことを過去に言われたことがあり、それを思い出していたのだ。

 

 妹であるののかと二人で暮らし始めたばかりの頃だ。中学生の二人暮らしということを心配してくれたのか、あたしたち姉妹をいろいろ気にかけてくれた人がいた。その人はあたしたちに生きていくために必要な手続きといった知っておくべきことのすべてを教えてくれた恩人といっても過言じゃないし、今だっていろいろとお世話になっている。感謝は一度として忘れてなどいない。

 

 だけど一度、その恩を裏切るようなことをしたことがある。

 

 その人が武偵だったこともあり、あたしが武偵の道を進みたいと相談しにいった時、猛反発をくらったのだ。あたしはあの人の反対を押し切るような形で武偵の道を進んだのだ。その時言われたことは忘れていない。

 

『悪いけど、私はあなたの夢を素直に応援することはできないわね』

『な、なんでですか!?』

『武偵になる動機なんていろんな人がいる。車輛科っていう運転技術を学んでいく学科なんかだと分かりやすく、単に夢に描いた乗り物を操縦する機会が得られるからだとか、将来のために高校卒業前に自動車の免許を取りたいとか思っている人だっている。だからとりあえず聞かせてちょうだい。あかりさんは、どうして武偵になろうと思ったの?』

『あたしはまだ中学生です。来年から高校一年生になりますが、ののかと二人暮らしていくためには必要なことだと思いました。親は頼れません。あたしたちは、あたしたち自身の力で生きていかなきゃならないんです』

『そうね。それは否定しないわ。あなたたち姉妹は今後のために法律について詳しく知っておくべきだと思う。法律は武器よ。こんなこと言いたくはないけれど、知らなったなんていうのは負け犬の戯言でしかないのが現実なの。そういう意味では、武偵になった法律と関わっていきたいと思うことは正しいことだと思うわ。私が相談に乗ってあげられるときなら何の問題もないけれど、あいにく私だってあなたたちだけ見ているわけにはいかないし、いついなくなっても不思議じゃないわ。だから、自分で勉強したいと思うことは間違いではないと思うわよ』

『じゃあ……』

『私は別に武偵として生きていくことにそこまで文句があるわけじゃないの。私がいいたいのは、どうしてよりにもよって強襲科(アサルト)の武偵になることにしたのかということよ。武偵をして生きていくとしても、他の道だってあるでしょう?』

『……それを、あなたが言うのですか!!あたしたちを助けてくれた、危険を冒してまであたしたちを気にかけてくれた他でもないあなたがやめておけというのですか!』

『一般に、強襲科(アサルト)の武偵高生徒の卒業時の生存率は97.1パーセント。分かりやすく言うと、50人に一人は死ぬ。それは銃を向か合う機会が圧倒的に多いからそうなるだけで、死ぬときはどの学科の奴でも関係なく死ぬわ。そういう意味ではどの学科にいても大して変わらないのかもしれない。でもね、あなたは死んではいけないの。あなたが死んだら、あなたの妹は一人だけになってしまう』

『………ののか』

『まさか、自分が死んだらその時は誰かに頼もうだなんて考えてないでしょうね?私はあの子が一人残されてしまう可能性を少しでもなくしていくべきだと思っている。だから積極的な応援はできないし、する気もない。けど、あの子と相談して決めたことだというのなら、私にはどうすることもできないわ。もちろん危険なことに足を踏み入れていないかと少し気に掛ける程度のことはしたとしても、事件の現場に連れて行きたいとは思わない』

『……一つ聞いてもいいですか。じゃあなんで、あなたは武偵なんかやっているんですか。そんな命が大事みたいなことをいうなら、どうしてあなたは武偵を続けているのですか!あなたには感謝してます。行き場を失ったあたしたち姉妹を気にかけてくれて、いろいろとしてくれたことは忘れてません。でも!こんなにも面倒見のいいあなたなら、大切に想ってくれている人だっているのでしょう!そんな人のことを棚に上げて、あたしには武偵になるなってどうして言うのですか!』

『……成り行き上仕方なくよ。私の夢は、武偵というものにはない。私はいずれは武偵を辞めるつもりなのよ。私はいつも、その日が一日も早く来ることを願っているわ』

 

 この時のことを忘れられないのは、きっとあかり自身心のどこかで言われていることが正しいことだと認めているからだと思う。それでも恩人と反発してまで強襲科(アサルト)の道を進もうとしたのは、あかりには彼女なりの理由があるのだ。

 

 自分だって、いくら夢のためだとはいえ死にたくはない。

 

 妹であるののかのことも考えれば、強襲科(アサルト)になんて所属するべきじゃないのかもしれないが、ののかのことを考えれば考えるほど自分は変わらなければならないと思う。強く生まれ変わる必要があると思う。

 

(アリア先輩のように、強くなりたい。でも、そのチャンスすら、ダメなあたしには与えられないの?)

 

 努力すれば夢はきっと叶う。

 あかりは今は、そんなことを信じ切ることはできないでいた。

 あかりが知っているとある武偵は、武偵としてトップクラスの実力がありながらも、いつまでも武偵として生きていくつもりはないのだと言い切っていた。あの人の夢がどんなものであるかは知らない。それでも、きっと武偵というものには何の未練もないのだろう。武偵になりたくて武偵になったわけじゃないのに、トップクラスの強さを持った人だって世の中にはいる。そのことを思い知らされたのだ。

 

 あたしは結局変わることができないのかと、あかりの目から涙が零れ落ちていく。

 

『結局のところ、私は賛成しないとは言ったけどあなたの将来を決める権利は私にはない。強襲科(アサルト)の武偵になるということに、あなたの妹さんが納得したというのなら好きしたらいい。どのような結果になったとしても、それはあなたが自分で選んだ人生よ。私に言われるままにするのより、よほどいいのかもしれない』

『あのね、お姉ちゃん。わたしはお姉ちゃんのことを応援するよ。わたしは正直、お姉ちゃんには武偵にはなってほしくはないんだよ。危険なことなんてやらずにいつもわたしと一緒にいてほしい。でもね、お姉ちゃんが武偵になろうと思ったのって、わたしのためなんだよね?だったら、わたしはなにも言えないよ。お姉ちゃん、死なないでね。わたしを一人にしないでね』

 

 最初は武偵になろうと思った理由は、生きていくために必要なことだからと思ったからだ。

 そういう意味では成り行き上仕方なくになるのだろう。

 事実あかりは中学は一般中学出身であり、武偵としての経験値は友達と比較しても誰よりも少ないものだ。

 

 だけどそれは、武偵を始めたころの話。

 

 今は状況に流されているわけでもなく、自分の意思で武偵となりたいと心の底から願うようになっていた。それはあかりと同じような小柄な女子でありながら、誰よりも強く正しくある人間を知ってしまったから。

 

(アリア先輩―――――――――)

 

 生まれ持ったものは変えられない。

 たとえどんなに努力を行おうとしない人間であっても、強い人間は最初から強い。それが現実だ。

 よりにもよって優秀な武偵ですらその現実をどうでもいいとまで思っていることもあったのだ。

 あたしにとって欲しいと思っている強さを持つ人間が、その価値を自分にとっては無価値だと言い切ることもある。

 あたしにはただ願っているだけしかできないものかと思うと無力感が身体を支配していた。

 

 そんなとき、あかりの上から声がかけられた。

 あかりの思いをくみ取ったのか、それとも何か思惑でもあったのかは分からない。

 それでもあかりにとって、その声は天から降ってきた女神のようにすら思えるものであった。

 

「あたしは、機会(チャンス)は誰にも平等に与えられるべきものだと思っている」

 

 わざわざ顔を上げるまでもなく、その声が誰のものであるかあかりにはすぐにわかった。

 第二グラウンドの校門付近にある大きな桜の木の枝に立っていたその人は、神崎・H・アリアは斜め上から仁王立ちであかりたちを見下ろしていたのだ。

 

「あ、アリア先輩ッ!?」

 

 あかりたち三人はそろって目を見開き、驚きのあまり声を失ってしまう。

 ライカなんて買い食いで購入したアメリカンドックの芯棒をポロリと落してしまうくらいだ。

 アリアは彼女たち三人の動揺にも目もくれず、ピンク色をした桜の花びらが舞い散る中宣言した。

 

「気づくのが遅い。もしあたしが敵だったら、頭に風穴あいてたわよ!」

 

 アリアはそう言うと、ビシッ!とあかりに人差し指を向ける。

 その堂々とした姿はまさしくあかりがどうしようもないくらいに憧れた姿。

 自分にとっての理想の姿を前に、あかりは先ほどとは別な意味で泣きそうになる。

 

 けれどこの人は別に、あかりにとってはただ与えてくれるだけの優しい女神様なんかじゃない。

 さぁ、奪い取りにこいと言わんばかりに力強い手つきのまま、アリアは白と黒の二丁拳銃を抜いてみせる。

 

「間宮あかり」

 

 アリアが初めて、あかりの名前を呼んだのは今が初めての時。

 強襲科(アサルト)での先輩後輩の関係だとはいえ、トップとビリでは接点もなにもなかった以上、これは初めてアリアがあかりを面と向かって認識した瞬間であったともいえる。憧れの人に名前を呼んでもらえた。そんなことでいちいち感動していても意味がないと分かっているのに、心がざわつくのをあかりは抑えられなかった。そんなあかりに対し、

 

戦姉妹(アミカ)をかけて、あたしと勝負よ!!」

 

 アリアは堂々と、宣言した。

 それに対してあかりはロクな反応一つとして返せない。

 それは仕方のないことなのかもしれない、

 なにせ、アリアに憧れているのはあかり一人だけではなく大勢いる。

 『魔の正三角形(トライアングル)』とか教務科(マスターズ)に呼ばれている成績トップの三人組のように、実態が全く分からないような変な連中とは違うのだ。アリアは後輩たちにとって、正真正銘のスターにも等しい存在。そんな人間に宣戦布告ともいえる言葉をかけられて反応できなかったことは仕方がないことかもしれない。

 

「機会は誰にでも、平等に与えられるべきだわ。でも結果は平等じゃない。本人の努力次第よ」

 

 ただ話しているだけで、迫力を感じる。身長だってあかりとなにも変わらないはずなのに、どこからあの存在感がわいてくるのだろう。隣にいるはずの志乃ちゃんやライカですら、一気に呑んでしまっていた。

 

「さぁ、あたしの戦姉妹(アミカ)になりたいっていうのなら、その座を奪い取ってみなさい」

 

 アリアはそういうと、拳ぐらいの大きさの星型の黄色のシールをポケットから取り出して見せつける。その後アリアは自分のセーラー服のブラウスをまくり上げると自分の脇腹にシールを張り付け、携帯を捜査してタイマーを起動させてあかりに見せる。そのタイマーはすでにカウントダウンを始めており、画面には残り2分59秒と記されていた。

 

「あかり、試験内容は『エンブレム』だ!強襲科(アサルト)で推奨されている戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)で、あのシールを取ればお前の勝ちだ!無理にアリア先輩をどうこうするなんて考えるな!その方がお前に勝算がある!」

「あかりさん!制限時間がありますが、それはむしろ好都合と考えるべきです!もし、一発勝負のつもりならアリア先輩は今ここであかりさんを叩きのめせばいいだけのことですから、アリア先輩にはあかりさんから逃げはしても攻めてはこないはずです!違ったら30分なんてアリア先輩にとって長い制限時間なんてつけません!」

「そうだぞあかり!アリア先輩じゃなくても、お前を倒すだけなら10秒もいらないはずだから間違いない!」

 

 いきなりの試験ということで弱気になっていたあかりを正気に戻すために、志乃とライカがあかりに思いつく限りのアドバイスを与えた。二人とも、あかりには強襲科アサルトをやめたほうがいいのではないかと進言してはいたが、あかりの夢がかなってほしいとも心の底から思っているのだ。

 

「あら、いい友達を持っているじゃない」

「志乃ちゃん……ライカ……」

 

 アリア先輩は今までに20人もの一年生からの戦姉妹アミカ申請を突っぱねている。

 その一年生は、間違いなくあかりよりも武偵として優秀な人間だったはずだ。

 だから真っ当に考えてみれば、あかりにチャンスなどない。どうせ無駄に終わる。

 それでも、ボーッ!っとしているわけないはいかない。ためらっていたり、言い訳をしているだけ時間は刻一刻と過ぎていくだけだ。

 

(……チャンスは、人を待たないか)

 

 どうせダメだったとしても、今この瞬間に何もしない人間にはどのみち将来も何もできやしないだろう。

 何よりも、志乃ちゃんが、ライカが、大切な友達が背中を押してくれた。

 それが今のあかりにはたまらなくうれしかった。

 

「さぁ、追いかけてきなさい。鬼ごっこしましょ。武偵はいろんなことに通じる必要があるの。戦う以前の問題として、その土俵に立てるようにがんばりなさい」

 

 そう告げると、アリアはツインテールを翻しながら走り出した。鬼ごっこの言葉通りに、あかりに背を向けて逃げていく。逃げすわけにはいかないし、見失うわけにもいかない。でも、アリアとあかりの能力差を考えればあかりに追いつけるとかどうかは甚だ疑問である。それでもあかりには、どうせ無理だと諦める気持ちは不思議とわいてこなかった。

 

『あのね、わたしは知ってるんだよ。お姉ちゃんはアリア先輩にどうしようもないくらいに憧れているんだよね。わたしも憧れている人がいるから分かるんだ。お姉ちゃんはよりにもよってあの人かって言うかもしれないけどさ、誰になんと言われようがどうしようもないんだよ』

 

 ののかがかつてそんなことを言っていたが、今となってようやくその意味の意味が分かってきた気がする。

 ののかは正直言って、あかりにアリアの戦姉妹(アミカ)が務まる能力があるかどうかなんて一切気せずに戦姉妹アミカの申請書類を出すべきだと進言したのだ。その理由は、あかり自身がどう言い繕ってもあきらめることができないことが分かっていたから。たとえ無理だといわれようとも、どうしても捨て去ることができないから。

 

「志乃ちゃん」

「あかりさん……規則上助太刀することはできませんが、御武運を祈っています」

「ライカ」

「がんばれよ、あかり!」

 

 志乃ちゃんは心配そうにあたしを見つめているけど、冷静に落ち着いたまま応援してくれた。

 ライカは少しでも元気を与えようとするかのように、明るく元気にエールを送ってくれた。

 自慢の友達の前で見栄を張るわけじゃないけれど、今は自然な表情を見せることができたと思う。

 

「それじゃ、行ってきます!」

 

 諦めたわけじゃない。でも、絶対にうまくいくとも思っていない。

 複雑な心境のはずなのに、どうしてかあたしの心は落ち着いていた。

 今はただ、前だけを向いて走り出していた。

 

 

 

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