Scarlet Busters! ~Refrain~ 作:Sepia
おもしろそうなテーマなので今から作るのが楽しみです。
単純に後輩想いの人間なら無条件で募集とするかもしれないが、即戦力の助手として
では、アリアは一体どうかというと、彼女にとって
アリアとしては、仲間として欲しい人材という条件をを
―――――――まぁ、だからといってあかりが他の挑戦者よりも優位になっているということにはならないのだが。
アリアは武偵高校のある
「あ」
そのせいで、あかりが駅のプラットホームへと到着したころには、アリアが乗ったモノレールのドアが完全に閉じてしまっていた。バイバイ、とアリアは手を振ってウインクしている姿まで見てしまった。次のモノレールを待っていたら、いやそもそも一瞬でもアリアの姿を見失ってしまったりしたら自分では二度と見つけることもできないという判断のもと、あかりが合格するためには多少の無茶でもやるしかなかった。
「そうりゃああああああ!!!」
あかりは決死の思いで転落防止用の柵をよじ登り、モノレールの最後尾の窓に据えられたワイパーに飛びついた。車掌さんがいないこともあったのか、モノレールはあかりの存在に気づいて停止することもなくそのまま走行していく。
(ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!落ちる落ちるお落ちてしまう!!!)
もしここで手を放して転落してしまったら、自分の命は危ういだろう。
それでももしアリア先輩と組むことがあればこれくらいは日常茶飯事になるのだと自分に言い聞かせ、必死に恐怖に耐え抜こうとした。それでも人間は疲れを感じる生き物のため、電車から振り落とされずに台場駅までたどり着くことができたのはほぼ奇跡だっただろう。落ちたら死ぬ、という切羽詰まった状況がなせる技だったのかもしれないが、もう一度やってできる保証などどこにもない。
(まだだ……まだアリア先輩はみえる場所にいる。早く追いかけなきゃ……)
本当なら死んでいてもおかしくないような命の危機を乗り越えた。安堵してもいいはずだが、あかりはそんなことは頭にもなくただアリア先輩のことを追いかけなければいけないということだけが頭にあった。混雑している台場駅をかけるあかりであったが、それでもアリアとの距離が縮まることなんてない。むしろ、最初からどんどん引き離されていくばかりである。
どうしてあかりとアリアでそんな差ができてしまうのか。
なんていうことはなく、彼女たち二人の間には『走る』ということですら別次元の性能があったというだけのこと。ただ足が速ければいいわけじゃない。混雑している人という障害物をいかく潜り抜けるかという総合的な能力の差が、ちょっとだけだが出てしまったいる。追いつける可能性はない。
アリアがこのまま逃げ続けているのにあかりが追いつけたのだとしたら、それはアリアの方に何らかのトラブルがあったということになる。あかりにとっては運がよかったと言えるかのしれないが、それで喜んでいるようではどのみち未来はない。
(こんなの、ムリ。追いつける気がしない……ッ!)
どのみち無理だ。諦めろ。心のどこかでそうささやいてくる声が聞こえているはずなのに、それでもあかりは追いかけていた。いつかはアリア先輩も立ち止まってくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いたあかりであるが、もちろん制限時間である30分もの間アリアとしても走る続けるつもりはなかったようで、立ち止まってあかりを待ってくれていた。
ただし、レインボーブリッジの主塔の上に立っていてだったのだが。
レインボーブリッジは橋長800メートル近い巨大なつり橋であり、その橋を吊るケーブルを支える二本の主塔は、海面からの高さが126メートルもある。つまり主塔の上は30階縦のビルと同じ高さがある。しかも主塔なんてビルとは異なり見た目以上に揺れる場所でもある。そんな場所にいこうなんて普通の人間はまず思わないはずなのに、アリアはというと地面に立つのと変わらないかのようにして立っていた。
(……チャンスは……チャンスは人を待たないんだ)
当然あかりが平然と足を踏み入れられる場所ではないにも関わらず、彼女がアリアを追って主塔を登り始めたのは、彼女の執念がなせる技だといってもいいだろう。怖くないわけではないのだ。ただ、アリアを追わないといけないことばかりが頭にあって、半ばヤケクソみたいなものだっただろう。歯をガチガチとならし、必死に太いケーブルの上を歩いて登っていく。
だが、そんな状態なんていつまでも続くはずがない。
だいたい10メートルくらい上ったあたりから、あかりの本能的な震えが止まらなくなていた。その時にうっかりと視線を下へと向けてしまったのもまずかった。今からでも降りた方がいい。アリア先輩の戦姉妹になるなんて諦めろ。そんな警告が心の中でなり続けるが、あかりはそれでも一歩、また一歩と登っていく。
そんなあかりのことを、一体アリアからはどのように見えるのだろう。
努力は必ず報われる?
失敗は成功のもとだから恐れる必要などなく、むしろ誇るべきだ?
何の意味もなくても、努力することには意味があり、それは美しいものだ?
確かにそういう考え方があることも確かだ。
だがその一方で、現実を一切見ない愚か者だという見方もあることもまた事実。
夢を追い続けることはすばらしいことだけど、現実を見ずに果てていくことは愚かなことでしかない。
そのことはアリアだってわかってはいるが、アリアとしてはあかりを実力をわきまえない愚か者だとして見下すようなことはなかった。
(…………ホントにここまでついてきたのね)
アリアの表情に浮かんでいるのは、あかりに対する感心と呆れが半分ずつくらい。
今までも戦姉妹になりたいと挑戦してきた人間はたくさんいて、全員に同じように追いかけっこをさせてきたが、ここまで追ってこれた奴なんていなかった。多くの人間はアリアが自分から降りてくる位置に先回りすることに希望を見出し、そして失敗してきたのだ。別にアリアにとってはこの場にとどまることに対しては抵抗はない。
「よくここまでやってこようと思ったわね」
「―――――――――ムリです……こんなところ立ってられません……せめて……せめて下で……」
「……ん?」
あかりがこの場所までついてきたのは、挑戦者の中では初めてのこと。
その事実には素直に称賛を送りたいものだが、あいにくとそうはいかなくなったようである。
アリアは残り時間が10分04秒と記された携帯の画面を見せると、あかりを放置してずっと眼下を見下ろしていた。
「……邪魔が入ったみたいね」
「え?」
「でもあいにくと、タイマーは止めないわよ。それがルール。分かっているわね? あたしたちは武偵として生きていく人間であって、公平なスポーツをやる人間ではないのだから。どんな状況になっても、不公平だとは言っていられないの」
「一体何を言っているんですか……あれ、え?」
アリアが答えるより先に、あかりもアリアの向いている方向である下を見る。そこで異変に気が付いた。
遥か下の車道では、都心側から台場側にむけてオープンカーとボックスカーが猛スピードでブリッジに走ってきているのだ。……それも逆走で。
その行く先には、見覚えのある車輌科の護送車があった。
そのことを認識するとほぼ同時に、パパパパッ!という遠い銃声が鳴り響く。
護送車の車体側面が攻撃を受けているのだ。
「あの入れ墨はたしか、昨日アリア先輩が捕まえてたやつらの……!」
遠いせいでいまいち判断がつかないが、オープンカーに乗っている男たちの腕には入れ墨が見られた。
線のように見えるそれは、おそらく蛇。
昨日アリアが捕まえていた中国系の犯罪者たちの一味だろう。
おそらくは護送中の仲間を取り戻そうとして一味の仲間が襲撃を仕掛けてきたのだ。
「やっぱり仲間がいたのね」
「アリア先輩?」
「あんたはそこでおとなしくしてなさい」
アリアは
「えぇ!?」
パンジージャンプのように、主塔の上から飛び降りていった。
下で始まった武偵高生徒と、犯罪者集団との戦いに加勢するつもりなのだ。
武偵は武力を有する探偵という意味であるが、誰しも直接戦えるわけじゃない。
彼らが主に扱うのは拳銃ではなくハンドルだ。
射撃技術なんて、場慣れした犯罪者と並ぶことがあっても上回ることなどないに等しい。
運転の邪魔にならないために彼らが選ぶ拳銃は小ぶりのものが多く、火力としてはアサルトライフルで武装してきた襲撃者たちに大幅に劣っている。劣勢になるのは必然であった。
「犯人グループの仲間による襲撃を受けている!
彼らの命は実質、どれだけ増援がはやく来てくれるかにすべてかかっていた。
とはいえ今から準備をして駆けつけてくれるまで生き残っている可能性なんてほとんどないのも見えていた。
「先輩、もうだめです!僕たちだけでも逃げましょう!護送車にいる犯人たちが目的なら、彼らさえ開放したら撤収するはずです!」
「ダメだ。武偵が犯罪者を自分から逃がすようなことをするわけにはいかない!」
「でも、このままじゃ全滅します!なんなら僕が最後までのこって抵抗しますから、先輩だけでも逃げてください!先輩なら、先輩ならいつか僕たちの無念を晴らすことができるって信じています!」
「後輩をみすみす見殺しになんてするかッ!こ、こうなったら俺が……」
「―――――――――――――あいにくと
上空から飛び降りたアリアは、戦闘機が空襲するかのように参戦した。
白銀と漆黒のガバメントを手に、犯罪者たちの銃を殴るようにしてターゲットの銃だけを狙い撃ちしていった。射撃の天才児といわれているアリアからしたら、多少腕に覚えがある程度の人間なんて、どれだけこようとも相手にもならないのだ。
どれだけの銃を向けられても、ひるむこともなく淡々と犯罪者をさばいていくアリアの光景は、死の危険を肌で感じ取っていた
アリアにはこの場にいるように言われたが、あかりも下に降りようとしていた。
あかりの最終的な目標は憧れのアリア先輩の隣に立つにふさわしいほどの人間となること。
そのためには、どんな現場であってもアリア先輩がいるなら飛び込んでいかないといけない。それが
(仲間が襲われているんだ。アリア先輩が戦っているんだ。あたしは武偵であって、臆病者なんかじゃないんだ!)
そのことを証明するためにあかりは降りて自分のできることをやろうとするが、そのスピードはカメのように遅かった。レインボーブリッジからはアリアのように飛び降りすことができない以上、少しずつ降りていく必要があったが、転落の危険が、死の恐怖が彼女を震えさせていたのだ。しかもあかりがこれから向かうのは銃弾が飛び交う現場。ためらう理由は確認するまでもなく数えられる。それでも仲間たちのもとへと行こうとしていたあかりであったが、
「あれ?」
彼女の心に響き渡る恐怖による震えが原因か、何もないところげ滑ってしまい転落していく。
(きゃあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!)
一応は橋に空挺ワイヤーをかけておいたとはいえ、空中では二の足を踏むこともできないためそのまま落ちていくしかない。こうなってしまった以上はもうキャンセルはできないが、それは事件でも同じこと。臆病者であろうが勇気ある人であろうが関係なく機会というものは訪れる。ためらっていると、どんな結果になるかわからない。自分がまだ弱いから、まだロクに強くなってはいないから。そんなことを言ってはいられないのだ。才能も努力も関係なく、今その時を必死に行動する人間には今がすべてなのだ。
(あれはッ!)
できるかどうかなんて関係ない。できないかもしれないなんて言っていられない。とにかく、やる。それだけを決めることになったあかりであったが、彼女はアリアに迫っている危機を見てしまう。犯罪者を制圧し、車輌科ロジの生徒たちからは戦勝ムードが漂っていたが、アリアの死角となる場所からひそかにオープンカーに乗りこんで、アクセルを踏んでいる男がいた。やられたふりをして、捨て身の攻撃を仕掛けようというのだろう。上空から見ていたあかりくらいしか気づいた人間はおらず、アリアが気づくころにはもう回避はできなくなっているかもしれない。だったら自分がやるしかない。
「アリア先輩に、ふれるなぁあああああああああああああああああ!!」
あかりは落ちていく最中に柱をけり、無理やりにでも落ちていく方向をずらしてアリアに飛びかかったのだ。
「え?ちょっとあんた何してんの!?」
アリアはあかりが来る前に車に気づき、はねられることを覚悟で受け身の体制を取ろうとしていたためにあかりからの体当たりに対処できず、そのままオープンカーの進路外に蹴り飛ばされてしまう。
ただ、その代償としてあかりがオーピンカーの進路上にいることになったのだが。
「あかり!!」
当然あかりに回避なんてできるはずもなく、あかりはオープンカーのフロントガラスを破壊しながら車内に突っ込んでしまう。運転手はアリアをひき殺すつもりでいたのもあり、上空からいきなり現れたあかりに対処できるはずもなくそのまま二人はぶつかってしまい、運転手は一瞬意識を失いかけてハンドルを大きく切らしてしまい、オープンカーはガードレールへと衝突した。
「あかり、しっかりしなさい!」
致命傷を負ったのではないかと心配して後輩を呼びかけるアリアであったが、あかりから帰ってきたのは比較的元気な声であった。
「アリア先輩、やりました!」
「は?」
アリアが猛然としたかのような声を上げた理由は二つ。
一つは致命傷を負ったのではないかと心配していた後輩が平然としていたこと。
仮にも車で撥ねられたのだ。痛いですめば幸運もいいところである。
そしてもう一つは、あかりがオープンカーのキーを手にしていたことだ。
(……あの一瞬でかすめ取ったのね。運がいい子ね)
偶然引っかかって取れたのだろうが、あかりはオープンカーのキーを翳め取ったのだ。
運転席の男はそれを見て降参だとばかりにうなだれる。
これで、すべての人間を制圧したことになる。
ほとんどがアリア一人で成し遂げたことであったが、それでもあかりが憧れとしていたアリア先輩との共同戦闘であったことに彼女はまだ気づいていない。
「まだ立てるわね?」
「……はい、もちろんです」
犯罪者たちの制圧が終わったとはいえ、事件が終わったわけではない。これから警察への説明のためにアリアもそこにいなければならないだろう。だが、そんなことをしていたら残り時間がなくなってしまう。わざわざもう一度チャンスをやるわけにもいかないのだ。
「なんだ、ひょっとして
「えぇ。そうよ。偶然近くにいたからこそ、すぐに駆けつけられた。あの子は運が悪かったと思うわ」
「……行ってくれ」
「あら、いいの?本当ならあたしも警察への説明のためにいなきゃいけないでしょう」
「俺たちはお前と、お前に対する挑戦者に救われたんだ。俺たちが原因で不合格の一因となったといったら、さすがに申し訳が立たない。なぁに、俺は女子の寮長とも面識があるんだ。こっちの立場を理解してくれそうな風紀委員でも紹介してもらってトラブルにならないようにと仲介でもお願いしてみるさ。だから、気にせずに続けてくれよ」
「そう。あかり!」
「は、はい!」
「続き、やるわよ。ついてきなさい」
新たな護送車が来て犯罪者たちが運ばれていき、警察は事後処理に追われていく中でアリアとあかりはレインボーブリッジの端へと立つ。そこは橋梁の保守点検作業用の縁道であり、足場は細くフェンスもない場所だった。ここまであかりをつれてきて、そこでアリアは形態の画面を再び提示した。そこには残り1分と少しの時間しか残っていなかった。
「……泣きそうな顔をしながらも、結局ここまでついてきたわね。ご褒美に最後にチャンスをあげる。さぁ、全力を持って挑んできなさい」
「こ、ここでですか?」
今いるこの場所は、一歩踏み外せば転落してしまうような場所だった。
自由に動ける武偵高校の敷地内のグラウンドですら歯が立たなかったのに、こんな場所で勝てる気がしない。そんなのムリだ、そんな言葉が出ようとする。
「いいこと、あかり。チャンスをあげる代わりに、一生『ムリ』なんて言葉は使わないでね。これは人間の持つ無限の可能性を自ら押しとどめるよくない言葉よ」
「―――――――――――はい、わかりました」
あかりにとってアリアが憧れの存在であることは揺らがない。
たとえ厳しいことを言われようとも、自分のことをしっかりと見てくれた言葉はうれしいものだ。
かつてののかが言っていた言葉を思い出す。
『わたしの夢はね、あなたは家族を大切にできる人だってことを誰かに教えてあげられるような人になることだよ。わたしはいままで、お姉ちゃんがいることが当たり前のことだったけど、それは違ったんだ。わたしもいつか、あの人のように家族のために奮闘する人を手助けてしてあげる人になるの。だから、お姉ちゃん。お姉ちゃんも、自分の夢があるならあきらめないで頑張ってね』
志乃ちゃんは言ってくれた。
『あかりさん。あかりさんは、そのままでもいいんですよ。私たちは友達です。友達なんです。あかりさんがやりたいということなら口は出しませんけど、一人だけで何でもやろうとは思わないでくださいね。私、なんでも協力しますから』
ライカは言った。
『どーせお前には無理だよ。無理無理。アリア先輩のようになるなんて諦めた方がいい。……けどさ、あたしはあかりのこと嫌いじゃないんだ。お前がそう望むなら、もう好きなだけやりといい。そしてきっぱり諦めようぜ。もうやり残したことがないってほど努力して努力して、もう嫌だって言うほどやってみてもいいんじゃないか』
みんな、私のことを見てくれた。
アリア先輩に憧れていることを知っていて、そんなのはムリだとは言いながらも心の底では応援してくれていた。ならばもう、覚悟を決めるしかない。憧れの人が見てくれている今、自分がムリだと逃げるようなマネはできない。
「ならアリア先輩。あたしのことを襲ってください」
「?」
「先輩、ずっと逃げていたじゃないですか。逃げるアリア先輩は、あたしが憧れたアリア先輩の姿じゃありません。あたしにとってのアリア先輩は、どんな相手でも立ち向かっていく、そんな勇敢で強い人です。何がどう間違ってもあたし相手に逃げるような人じゃないです」
あかりがアリアことを尊敬していることは、あかりはアリアを理解していることを意味しない。
憧れというものは自分の理想の押しつけともいえる。
それでも、勇敢で強い人だといわれてアリアは悪い気はしなった。
つまらない挑発だということは理解しつつも、理想の姿だと想ってくれている相手の印象を悪くするだけの必要もない。どのみち結果は覆るような差ではない以上、のってやろうと思った。
「そう。言ったことは取り消せないわよ」
「アリア先輩。あたしにアリア先輩を、見せてください」
「そうね。普段は後輩たちとかかわることなんてロクにないしね。いいわ、見せてあげるわ!」
アリアはピューマのように駆け始めた一方で、あかるは不動の姿勢のままたち向かう。
距離はみるみると近づいていき、残り時間も10秒ともなくなっていく。
正真正銘の最後のチャンスということがはっきりしている分、あかりの拳は自然と握りこまれそうになる。でも、あかりは必死に腕の力を抜こうとした。
(……この技は、カウンターでしかあたしには使えない。だからこそ、今こそあたしにとって最高のチャンスが巡ってきた瞬間!!)
アリアの動きは変則的だ。重心がわずあに左へと移し、あかりの真横から駆け抜けざまに顔面を正面から張り、同時に足を背面蹴りで刈る大外刈りの動きをする。おそらく強襲科の高ランクの人間でさえ、今のアリアの攻撃に対処することができる人間なんてそういないだろう。Eランクのあかりなんて論外だ。
―――――――――まぁ、回避を諦めていればどうということはないのだが。
アリアの技をかわすことができないということもあったが、そもそもあかりはよける気がなかった。その点では変に意識しなくてもよかったと安心しておこう。どんな攻撃であろうとも、わざと受けた方が彼女には可能性があるのだ。
(なにせ、これができるのはカウンターの時だけだからッ!!)
攻撃の瞬間、どうしても防御などできはしない。
攻撃は最大の防御という言葉があるのは、相手が防御に手一杯で反撃する機会を与えないからだ。
攻撃されないからこそ、防御もする必要がない。
だから攻撃は最大の防御。
なら、防御なんて考えずに反撃することだけを考えれば、攻撃は絶対的な防御ではなくなる。
「―――――――――――――――ッ!!」
当然自分の防御をかなぐり捨てることとなるので、あかりはアリアの攻撃を認識すらできずに食らってしまう。 脳が揺れ、全身が崩され、宙を舞ったあかりはレインボーブリッジから投げ出される。
「え、ちょ……ちょっと待って!アンタ
あかりのあまりの抵抗のなさに、相手も武偵だということによる無意識化での信頼が崩され、驚いて叫んで橋から落ちていったあかりを呼びかけるが、あかりからの返答はアリアが全く予想していなかったものであった。あかりは海面から顔を出すと、腕を必死にあげて宣言する。
「アリア先輩、あたし取りました!!」
その手に掲げられていた星型のエンブレムを見て、まさかと一瞬で血が引くような気分になったアリアは慌てて自分のセーラー服をめくり、そこにおかれているはずのエンブレムの有無を確認する。
(……うそ、取られてる)
そこに貼ってあったはずのシールがなかったことを確認しても、今海へと落ちていった後輩に取られたのだという実感が全くわいてこなかった。
(あの時、あの子は意識を失っていたはず。あたしがわざわざ拳じゃなくて掌底であかりの頭蓋を叩いて揺らしたんだから間違いない。じゃあ、さっきオープンカーから鍵を取れたのも偶然じゃなかったってことかしらね)
偶然で一本取られるほど、強襲科アサルトのSランクの壁は低くない。
そもそもSランクというのは、その道のプロと呼んでも差し支えない実力のAランクの人間が束になっても敵わない程の人間なのだ。正真正銘のEランクが、策をめぐらせた程度でどうこうできるような実力差ではないのだ。
(意識を失うその刹那であってもできるほど、反復練習を重ねた技か。衝突と同時に目的のものをスリとる技なんて、どちらかというと
アリアにとって分かるのは、あかりは自分の知らない何らかの技を持っていることぐらいだ。
使われてもいまいちピンときていないし、なぜあかりが骨の髄まで覚えているよう形で身に着けているのかも分からない。そのうえ、この子の場合は教育の方向性を考えたら自分よりももっと適任者がいるような気もする。
だけど、一つだけはっきりとしていることもあった。
(あれが、あたしの初めての
それは、間宮あかりが試験に合格したと言うことだった。
「すいませぇええええええええええん!!!あたし、なにかが足に絡まっていてうまく泳げません!!!たすけてくださぁああああああい!!!」
早くも先行き不安な声があがってくるが、合格したことに対して今はおめでとうと、アリアは口には出さなかったが祝福していた。
(……本当に大丈夫かしら。でも、これから先はまた楽しくなりそうね)
●
「ふーん、あれが神崎さんね」
実を言うと、あかりとアリアの戦姉妹試験を覗いている人間がいた。
別にあかりかアリアを監視してたというわけはなかったのっだが、偶然近くまで通りかかっていてからちょっと覗いてやろうかとやじ馬みたいなことをやっている人間がいたのである。あかりもアリアも戦姉妹試験ということで互いのことにだけ全力で視線を向けていたため、二人とも気づかなかったようであるが。
「あれ?佳奈多ってアリアのことを見たことがなかったっけ?」
「寮会で仕事やってるから顔写真を見たことはあるし、廊下ですれ違ったことぐらいはあるわよ。でも、武偵として行動しているところを見たことはなかったわね。向こうも私のことなんてまず知らないでしょうね」
野次馬をしていた二人の少女の名は峰理子。そして二木佳奈多。
偶然見れた戦姉妹の試験を覗いていた二人は、互いに感想を交換していた。
もっと、興味があるのはアリアなのか、あかりなのか、そこから二人の認識は違っていたようであるが。
「で、実際見てみてどう思う?」
「なにも」
「なにも思わないの?」
「なんてコメントしたらいいの?彼女は大したことがないだとか、彼女はあなたの敵じゃないとでも私に言って欲しいの?峰さんは彼女に執着しているようだけど、別に私は神崎さんにそう興味はないのよね。どうせ私から関わることなんてないでしょうし。むしろ、どちらかというと興味は間宮さんの方にあるわ」
「間宮あかり、ねぇ」
海に叩きつけられて溺れまいともがいているあかりを遠くから見ていた理子は、佳奈多の発言の意図を考えて聞いてみることにした。
「……間宮の一族か。同じような立場だから近親感でもわいてくるの?間宮の一族も佳奈多のところの一族も、イ・ウーと関わったことによって滅亡することとなった。そんな滅びた一族の生き残りとして、何か思うところでもあるのかな?」
「………別に、そんなんじゃないわ。ただ」
「ただ?」
「ちょっとしか見ていないけど、私のはあの子の原動力がいまいちよく分からないのよね」
「どういうこと?」
「知っての通り、神崎さんは強襲科のSランク。そして間宮さんはEランク。とてもじゃないけど、この試験に合格することも、神崎さんに一矢報いるようなこともできるはずがなかったのよ」
「でも、実際は一矢報いるどころかエンブレムをもぎ取っていたよね」
「そう。それは身体が覚えている技のおかげでもあるけれど、それはあくまで執念がなせる技。その執念となるものが、今いち見えてこないのよね。憧れのアリア先輩のようになりたい?その思いは誰にも負けない?そんなことはどうでもいい。いちいち検証するに値しない」
「じゃあ復讐心とかどうよ?それだけの過去だと思うよ」
「いまいちピンとこないわね。原動力として薄いとは言わないけど、今のあの子には合わないような気がする。でも、だからといって純粋な神崎さんへの羨望が理由というのは私が理解できない。憧れている人がいることも、譲れない夢がある人もこの世にはたくさんいる。そんなものは別に特別なことじゃないのよ。きっと神崎さんに憧れている人は他にもたくさんいるでしょうし、その中で間宮さんよりも実力のあった人もいたでしょう」
「……じゃあ、佳奈多はあの子が試験に合格できたのは必然だったとでもいいたいの?」
そうは言わないけど。
そんな風に佳奈多は前置きをして言った。
「あの子が身をゆだねるほどのその執念じみた感情が、かつて私が信じたものと同じものだとしたらぜひ見せて欲しいとは思うわね」
「何を?」
「あの子にこれからふりかかるであろう困難なんて、未来のための踏み台でしかないっていうことをよ。夾竹桃がまた何か変なことでも考えているみたいだけど、あんなのなんて所詮は敵じゃないんだってことを示してほしい」
「……お前、またそんなこと言って。立場なくしても知らないぞ」
「私と友達だって面と向かってあの連中に言い切っているリサやあなただって同類よ、峰さん。そんなもの好きな人が二人もいてくれたら私はもう十分だわ」
「ふーん、まぁいいか。これからまたおもしろくなりそうだね」
「そうかもね」
理子と佳奈多。
二人の少女もまた、間宮あかりという人間の未来を考えそして祝福していた。
AAの話をやると、一番出番の多いリトバスキャラはたぶん佳奈多さんになると思います。この人、立場上外伝って書きやすいんですよね……。
佳奈多と理子の関係が分からない方がいましたら、ぜひ本編の方も覗いてみてくださいね!