それでは、どーぞ!
「……」
気が付くと辺りは草原。恐らくこの景色は俺の住んでいた外の世界にある実家付近の大きな公園。何年も訪れてないのにその景色は鮮明に視界一杯に広がっていた。
俺は思わず「またか……」と呟いてしまう。
最近、とても妙な夢を見続けるのだ。そしてどれも草原に立っていてしばらくすると目が覚める。展開に山も谷もないただ適当に過ごしているだけの夢。これだけならつまらない夢と言う結論で済む。だが、何故だかはわからないがこの夢を見ていると何かがわかりそうなのだ。
「……っ!」
だが、そんな山も谷もないはずの夢に今回は変化があった。ここからそう遠くない所に一人の和服を着た人。小柄な事から女性だとわかる。
「っ! おい! お前は誰だ!?」
俺が大声でそう声をかけるとその女性は一度こちらを振り返る……が、すぐにそっぽを向いて歩いて行ってしまう。
「っ! 待ってくれ!」
そう行って女性の後を追うが、向こうは歩いていると言うのに距離は縮まらない。むしろ差が開きはじめている。
どんどんその女性は離れて行き、遂に辺りは光で溢れていく。いつも夢から覚める時はこの様に辺りが光で溢れるのだ。恐らくもうすぐ夢から覚めるのだろう。
今回ばかりはいつも通りじゃなければ良かったのに、と思いながらも俺は諦めきれずひたすら走る。何か知っている。何処かで会った事のある気がする。
「___っ!?」
その時、その女性がもう一度振り返った。顔は辺りに溢れる光でよく見えなかったが、振り向いた顔はまるで様子を伺う様に見え、そして何より___
「___狐の耳と、尻尾……?」
「___おい待て!?」
大声をあげると同時にバサッ! と跳ね起きて少し経ってから俺は我に帰った。そして赤面。寝言とは言えこんな事を叫ぶのは恥ずかしすぎる。天狗がこの場に居たら幻想郷最速のスピードで新聞を作り上げるだろう。
「……ああ、そうだ。今日は霊夢の掃除の手伝いをするんだったな」
ぼんやりと徐々に前日の記憶が戻ってきて霊夢との約束を思い出す。きっと今ごろ境内は台風が通りすぎた後の様な悲惨な状態になっている筈だ。どちらかと言えばこっちの方が悪夢だ。
「……しゃーない、用事は早めに終わらせとくか」
肩を鳴らして俺は縁側へ向かう。きっと境内には雑草の様に空き瓶が転がってるんだろなー、うわー、やだなー。
……そうだ、コロにも手伝ってもらえば作業は早く終わるかもしれない。せっかくだし連れていくか。
「……おーい、コロー?」
家の中で俺はそう声をかけた、が。返事どころか物音一つしない。シーンとした空気がなんかむなしい。
「……あれ? どこいったんだ?」
……もしかしてあの妖精達と何処かに出掛けているのだろうか? いや、でも今まで勝手に家を飛び出すだなんてあったか?
……これがまさか、反抗期?
「いやいや、んなこたあるか。兎に角、今は霊夢の所に飛んで行くか」
俺はそう言いながら流れる様に草履を履いて外に出てから空に向かって跳んだ。
……ポスッ。
「……へ?」
飛んだと思ったら下に引っ張られて着地。ただ少し高くジャンプして終わった。
「……ほっ! はっ! ふっ!」
……ポスッ、ポスッ、ポスッ。
「……」
……
…………
………………。
「___なんか、飛べねぇ!?」
三回程試して地面に落ちた俺は大声を出して硬直。脳内では瞬時に色々な思考が飛び交った。
これはあれだろうか、地球の重力がアホみたいに狂って土星並みの重力になったとかそんなもん___いやいや、それはない、それは。常識的に考えてありえないってか早苗はなんで常識的に囚われてないと言うか何時から俺が平然と飛べると錯覚してうばばばばばば。
「……ハッ! いや、まて、落ち着け……って、アレッ!? アレ、アレ!?」
俺はある異変に気が付いて思わず腰に手を当て、頭に手を当てる。自然と目が泳いでしまってるのがよくわかる。
「な……ぁ……う、嘘……だろ……? な、何で……」
「___何で耳と尻尾が無いんだああぁぁぁぁぁぁああああ!?」
「ぜぇ……ぜぇ……」
想像を絶する声量で叫んだ後、猛ダッシュで霊夢の元へ走って行った。そう、走って行ったのだ。
何故か俺の体に何時もあった筈の狐の耳と尻尾がすっかり消えてしまっているのだ。つまり、簡単に言うと先程空を飛べなかった様に、妖怪としての能力が大幅に下がっている。この状態のまま神社へ向かう途中で妖怪とかに会わなかったのが奇跡だろう。
「霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢霊夢___霊夢っ!」
俺は霊夢の名前を何度も連呼しながら無駄に長い階段をかけ上る。ノンストップで階段をかけ上って境内を走って昨日宴会が開かれていた神社の裏に向かう。
「……どうしたの? 私の名前を呼びまくって」
「___れえぇぇぇええええむううぅぅぅぅううう!」
遠くで俺を見た霊夢がそう尋ねてくきて俺は霊夢の元へ全力で走ってキキッ、と目の前で止まる。
「うわっ! びっくりした。一体どうしたのよそんなに焦って走ってきて」
「なあ! これを見ろ!」
「……見ろって、どれを?」
「わからんか!? 俺の何処か何時もと変じゃないか!?」
俺が全力でそう大声で言うと霊夢は少し考える仕草をしてポン、と手を叩く。
「……あ、髪型、変えたとか?」
「___そこじゃねええぇぇぇぇぇええええ!!」
霊夢の返事を聞いて俺は心からの叫びが出た。
「あれ? 違った?」
「違うわ! 明らかに重要パーツが無いだろと言うかどうして気付かないんだ!?」
「じゃあ……えー、あー……和服?」
「お前の目は節穴かぁ! いや、寧ろ節穴じゃああぁぁぁあああ!」
……結局、狐の耳と尻尾が無いことに気が付くのは数分も後の事だった。
「……で、なんであんた人間に?」
俺はあの後、なんとか掃除を終えて霊夢にお茶をいただいていると霊夢がそんな事を言った。
「……人間? 俺が? 妖怪の言い間違いじゃなくて?」
「ええ、なんと言うか……うん、あり得なすぎて驚きすら出来ないわよ。妖怪が完全に妖力を失う。つまり人間と全く同じになるだなんて今までで初めて聞いたわ」
そう言って霊夢はお茶を飲む。俺も一度お茶を飲んでからその緑色の水面を見る。
そこには一人の男の顔。黒いくせっ毛で何となく懐かしい感じがする、人間として普通な自分の顔がそこにはあった。
「……やっぱり気にしてるのね」
水面を見て耳があった筈の場所に手を当てているとそんな事を言われて俺はその手を下ろして湯飲みに添える。俺は目を瞑ってお茶をまた一口飲んでから息をつく。
「……なんか、大事にしていた物を無くした様な気分がするんだよな……」
「なに? その耳と尻尾は宝物か何かだったの?」
「それにしては毎回相手の攻撃でボロボロになったり焦がしてるじゃねーか」
霊夢の一言にそう言い返しながら腰の辺りを見る。やはり尻尾は無い。
やっぱり、何かが居なくなって心寂しい気分だ。人間に戻りたいとは何度も考えていたものの、いざこうなると何故か名残惜しいと言うか、慣れないと言うか。そもそも何故人間になったのかすら謎だ。
「……あれ、そう言えば緑? 妖力が無いんだったら今まで通りの事って出来るの?」
「……何故だかは知らんが、空は飛べなくなってる」
「うわぁ」
「うわぁ言うな。……武器はどうなってるんだろ」
そう言って俺は右の袖から銃を滑らせて片手でそれを掴んで正面に向けて引き金を引く。
___ボフッ!
「……やっぱり、妖力が無いとただの霊力シャワーしか出来んな」
「銃は無理っぽいわね。それ以外は?」
俺は霊夢にそう言われて刀を出そうとしたが、刃が引っ掛かって鞘から抜けない。
……そうだった、この刀は神力で引き抜く仕組みだったんだっけ。
「……神力も無くなってる」
「うわっ」
……何がうわっ、だ。俺はそう思いながら縁側から境内に出て心の中で念じる。……そして、
「___時よ止まれっ!」
……
…………
………………。
「……え、なにしてんの?」
「___グハッ!? なんか突き刺さる!?」
自分の能力が使えるかどうかを確かめる為に試しに咲夜の能力を発動させようとしてみるが、効果なし。むしろ恥ずかしくなったし霊夢の針の様な追撃に沈んだ。自分、此処に眠る。
「……なんか、能力すら使えない」
「……あんた、主人公?」
「___なんだよこれっ! どんな仕打ちだ! 幻想入りした主人公で終盤に戦闘力ゼロの主人公がこの世のどこにいるっ!? アイデンティティ失う主人公が何処にいるっ!? こんなの最早『東方の幻想日記』じゃねーよ! ただの『東方の幻想入り』だよォ! そんな新作の予定はサラサラねーからぁ! そんな一発ギャグな小説書くゆとりも余裕もバイタリティもねーからぁ!」
「いや、緑。わかった、わかったからもうその発言はその辺にしておいて」
……色々と吹っ切れてしまったが結局の所、俺は突然えらく弱体化してしまった。銃は霊力シャワーしか出せず、刀は使えない。弓矢は今は居ないコロが持っている。
……あらら、これって妖怪に会ったら死ぬんじゃね?
「……いや、どうしてこうなった」
「まあ、よくわからないけどあんたが良いならしばらくは家でゆっくりしていて良いわよ。
___私は人間の味方だからね」
霊夢はそう言ってお茶を飲み干してそばに立て掛けていた箒を持って表に向かった。その後ろ姿を見てから俺は水面に映った自分をもう一度見る。
___私は“人間”の味方だからね。
「人間、かぁ……こんなにあっさりなれるもんとは思えないんだがなぁ」
「ん? どうした? そんな落ち込んでて」
「___っ!? うのわっ!?」
ふと、目線を上げると白黒の服装をした魔法使いらしい格好をしている人___魔理沙が立っていて思わず後ろに引っくり返る様に下がってしまう。お茶を引っくり返さなかったのは奇跡だと思う。
「……びっくりした」
「へへっ、こりゃこっそり近付いた甲斐があったな……って、ん? 緑、何かお前……」
「ああ、そうなんだよ。突然無くなっててさぁ……」
俺の顔を見て魔理沙がそう言ってきて俺はやっとか、と心の中で思う。まだ霊夢にしか会ってないのだが、いい加減に耳と尻尾に気が付いて欲しいのだが……
「___ああ、そうか! わかったぜ!」
指をパチン! と鳴らしてから魔理沙は指を上に向けて得意気に、
「……眼鏡、外しただろ?」
……と、言った。
「___お前らからしたら、狐の耳と尻尾は眼鏡とかアクセサリみたいなもんなのかああぁぁぁぁぁぁああああっ!!」
またまた心の底からの叫びが博麗神社から幻想郷中に響いた。
今回は繋ぎの話です。なんか緑が叫んでばかりなのは気のせいじゃないです。
最初の頃の気が付いたら妖怪になった、から今回は気が付いたら人間なった、と言う展開になりました。
人間になったのでこのまま外の世界に……なんて行かず、そこから色々と謎やらなんやらを追求して行きます。この作品で狐耳を求めてる方にはすまぬ。暫しの辛抱ですよ(?)
皆さん方の期待する展開にならないかもしれませんが、どうか次をお楽しみにっ!