終夜「相変わらず亀だがな」
言うな。
終夜「それではどうぞ」
なにっ
広い広い大地。岩と草から成る地面を、凄まじい数の影が駆け抜けてゆく。
「……多いな」
「そうですね。約二万と聞いていますから、控えめに言っても多いでしょう」
それを高台から見下ろすのは、妖夢と終夜。二人とも目を凝らしている。
「この中から調査対象……目視できるか?」
「無理ですね……とりあえず、交戦してみましょうか」
「そうだな」
妖夢、終夜の順に高台から飛び降りる。それぞれ、軍勢の目の前に着地し、その全体を見回した。
「情報通り、機械だな」
「ただの機械じゃないようですが」
「そうなのか?」
「後で説明します。構えてください。来ますよ」
無数の鉄の塊は、終夜達を目の前に捉えると、数の暴力で制圧するために、一斉に飛びかかった。終夜はその圧力に押され、一瞬反応が遅れた。
「はあ!」
それを見た妖夢は飛び上がり、観楼剣を敵に向かって一閃。鉄を切り裂くと、その太刀筋から弾幕が放たれ、さらに多くの敵を破壊した。鉄屑が辺りに散らばる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、すまん。こんなに団結力があるとは思わなかった」
「謝らなくていいので、早く暴れてください」
「ふっ、了解した」
刻影を構えた終夜は、瞳を蒼く光らせ、前進した。終鬼はパチュリーに預けているので、現在終夜は一刀流である。
「言い機会だ。俺の実力を見ていてくれ、妖夢」
「お安い御用です」
終夜は笑う。そして、地面を蹴り、一気に敵との距離を詰めた。一閃。数体の敵を一度に切り裂く。太刀筋から大量の弾幕が展開され、さらに多数の敵を破壊する。妖夢の技を、ほぼ完全にモノにしていた。
「流石ですね」
妖夢はその出来を見て感心するが、同時に多くの指摘も出てくる。まだまだですね、ということだ。
「次だ」
終夜は、瞳をさらに蒼く輝かせる。そして、心を無にした。雑念を無くし、ただ自身の感覚だけを頼りに周囲の敵を斬り払う。相手が何体いようが、その全てを把握し、攻撃を避けて斬る。機械の体が、次々と倒れて行った。妖夢は、その技を見て驚く。自身の精神を我が物とするのは、至難の業だ。武道の達人でさえも簡単にはできない。だが、終夜はそれを早くも成し遂げたのだ。
「使いこなす程度の能力」
妖夢は、この能力の強さを十分把握していたが、改めてその力を見せつけられた。妖夢は進軍する機械の前でなにもせずに終夜を見ているが、なぜそんな悠長にしていられるかというのも、終夜が一体も通していないからであり、終夜の実力の証であった。妖夢は高揚感を覚えた。終夜にはまだまだ伸びしろがあることを感じていたからだ。この逸材を、自身の手で育てたいとさえ思った。
「妖夢」
終夜が後退してきた。返事をしようとしたが、すぐに喉の奥に引っ込んだ。
「あれは……」
「奴らの動きが、急に止まった」
終夜は目を細めてその方向を見つめている。瞳は淡い赤色に戻っていた。
「エネルギー切れか……?」
「いえ、その線は薄いかと」
「どいうことだ?」
「敵のエネルギー源が確認できないらしいんです。電気でも、燃料でもない。常識は通用しないと考えた方がいいです」
「未知のエネルギー……か」
「もともと偵察が目的ですし、一度撤退しましょう。あの程度の力なら、幻想郷の脅威ではありません」
「そうだな」
終夜が納刀すると、二人は踵を返した。
「さあ、終夜さんの反省点をまとめましょうか」
「よろしく頼む」
そして、撤退しようとした、そのとき──
「おいおい、どこいくのさ」
『!?』
二人とは別の声が、夜空に響いたのである。
「まさか、今のを報告しに行くんじゃあないよね。もう少し見ていきなよ」
動きの止まった軍勢から現れたのは、すらりとした体格の青年だった。暗いので容姿ははっきりとは見えないが、殺気は感じられなかった。
「何者だ」
終夜が突き刺すように言い放つ。抜刀はしていないが、その蒼い瞳は青年をしっかりと睨みつけていた。
「僕のことはそのうちわかるさ。まあ、名前だけ名乗っておくよ。僕は月野工助」
工助は、斬り捨てられた機械たちを見ながら名乗る。
「この軍勢は、貴方が率いているものですか?」
「ああ、そうだよ」
妖夢の質問に、工助は落ち着いて答える。妖夢は工助を警戒しているが、それを表には出さなかった。
「別に撤退してくれて構わない。追いはしないさ。ただ、僕の自慢の軍隊を過小評価したまま報告しないで欲しくてね」
工助は左手で後頭部をかく。口元は微かに笑みを見せていた。
「さあ、動き出すんだ。不死身の戦士達」
工助がそう唱えると、停止していた機械達が動き出した。ただ、それだけではなかった。
「なんだと……?」
「……」
斬られ、破壊され、ただ地面に落ちていた兵士の残骸が、独りでに動き始めて引き合い、その姿を取り戻し始めたのだ。そして一つ、また一つと個体ができあがり、軍勢に加わっていく。確かに切れている。確かに壊れているのだが、それでも無理やり繋ぎ合わさり、一つとなっていた。
「どう?気に入った?」
「ああ……すごくな」
「いい手土産ですよ、ある意味」
それを聞いた工助は、ケタケタと笑い始めた。
「さっきも言ったけど、僕は君たちが退いても追わない。でも、進軍はする。さあ、早く報告してきてくれよ。急がないと、人里に着いちゃうよ」
「目的はなんだ」
「そのうちわかるって」
「チッ」
誰かと同じで、終夜の苦手なタイプであった。苛立つ終夜の肩に、妖夢は手を置く。
「さあ、撤退しましょう。向こうに私達に対する戦意はないようですし」
「そうだな」
妖夢と終夜は、進軍する機械を尻目に、夜空に飛び立った。
博霊神社
室内のちゃぶ台に、湯飲みに入れられたお茶が二つ置かれた。既に座っていた暁雅はそれを手にとって口につけ、霊夢は暁雅の反対側に置かれた座布団の上に着座し、もう一つの湯飲みを自分の方に寄せた。
「さて、私がなぜわざわざあんたを呼んだのかわかる?」
霊夢が早速口を開く。暁雅は湯飲みを口から離すと一息つき、ちゃぶ台の上に戻した。
「見当もつきませんねぇ、告白ですか?」
霊夢は殴りたい衝動を圧殺し、続ける。
「終夜のことよ。終夜のことをあんたに聞きたかった」
「終夜さんのこと?」
暁雅には質問の意味が理解できなかった。なぜ終夜のことを自分に聞いてくるのか、霊夢の意図が掴めなかった。だが、次の霊夢の一言で、理解した。
「終夜の、過去について」
暁雅はそのまま固まる。決して信じられることではなかった。
「今……、なんと……?」
その表情からは既に笑みは消えており、暁雅の無表情が事態の深刻さを物語っていた。
「理解できなかった? 終夜の、本当の過去を知りたいということよ」
「そう……ですか」
霊夢は確かに、疑問を抱えていた。本来持つことはあり得ない疑問を。それを理解すると、暁雅の顔にいつもの楽しげな笑みが戻った。
「なるほど、貴女は私の想像を遙かに超えた存在のようだ」
「やっぱり、そういうことね」
「勘づいていましたか」
「まあ、ね」
自分しかそのことについて気付いていないことすらも、霊夢は理解していたらしい。暁雅は笑い、霊夢はため息を吐く。
「で、詳しく聞かせてほしいんだけど」
「そうですねぇ、まず、終夜さんの過去自体は私も知りません」
「そうなの」
「ええ。ただ、産まれた時から山にいたというのは誤りで、その前があるのはわかっています」
「やっぱり……ね」
霊夢が呟くと、暁雅は再び湯飲みに手を伸ばす。
「じゃあ、なぜみんなそのことに気付かないの?明らかに過去と現状がかみ合っていないのに」
暁雅は茶を飲み干し、答える。
「十数年前、とある街が一夜にして消え去るという事件が起こりました。確か、ご存じでしたね」
「ええ、紫が伝えにきた」
「そうですか、では、紫さんはもう覚えていないでしょう」
幻想郷の賢者、八雲紫さえも欺く力。霊夢はその強大な力を改めて理解し、深刻な表情を浮かべる。
「あの街が終夜さんの故郷だと思われます。そして、終夜さん本人があの街を消した。終夜さんにはもう一つ、能力があると思われる。ここまではいいですよね」
「ええ」
「街を消した力と、終夜さんについての疑問や情報を消す力は、同じものと考えられます」
「消す力……ね」
「どのような力かはわかりませんが、あらゆるものを消すことができるほどの力というのは確実ですね。この力は、終夜さんが幻想郷に来た時点での幻想郷の住人に働いているようです。本人も含めて」
「なぜ私やあんたには効いてないのよ」
「私は、少しイレギュラーでして。正確には幻想郷の住人ではないと見なされたようです。貴女は、おそらく能力のおかげでしょう。空を飛ぶ程度の能力は、あらゆる干渉を受けにくい」
「そういうことね」
霊夢は納得したようにうなずくと、一つ息をついた。
「用は済みました? なら私はさっさと帰らせてもらいますよ」
「あんた、何者なの?」
帰ろうとした暁雅は動きを止め、霊夢を見る。
「……だから言ってるじゃあないですか。一度死んで、この地に辿り着いたのだと」
「それが、あんたの意思によるものだとしたら?」
それを聞いた暁雅は沈黙する。長い沈黙ではなかったが、しばらくすると急に吹き出し、大声で笑った。
「面白いこと言いますねぇ、霊夢さん」
「そうね、冗談が過ぎたわ」
暁雅は、「では、私はこれで」と言って一礼し、スタスタと帰っていった。残された霊夢はしばらくの間、険しい表情でその場に佇んでいた。
いかがでしたでしょうか。少し「なるほどー」と思っていただけた方がいれば幸いです。
終夜「また面倒なのが来たな」
あー、新キャラね。終夜君は我慢してね。
終夜「今後はどうなるんだ?」
んーとね、終夜君に主人公してもらうよ。
終夜「また嫌な予感しかしないんだが」
ちょうど良いでしょ。
終夜「あ”?」
ソレデハジカイモオタノシミニー