ファング   作:ZERO式

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1 Sword : The Scarlet Eye

──850年前。

 

 

一言で表すならそこは灼熱の平原だった。

平原と言っても草花はすでに無く、代わりに真っ赤な炎が辺り一面を燃やしている。

 

そしてそこに転がる沢山の亡骸。

人間の者ではなく、今転がっているのはたった今“私”が斃した元同士だ。

 

せめてもの情けで苦しまさせずに、この剣の一閃で仕留めている。

 

「……な、なぜだ……」

 

遠くの丘からこちらを怒りと困惑の眼差しで睨む者がいた。

その周りにも沢山の兵士が待機していて、ガクガクと震えている者もいれば、今か今かと攻撃するのを待っている者もいる。

 

「なぜ我々を裏切った!フェンリル!!」

 

“私”の名を叫びながら元同士の大将は姿を人から、本来の姿の巨大な蛇へと変わる。

 

「気でもおかしくなったか、同士フェンリルよ!レイピレス最凶と唱われた魔狼の名が泣くぞ!!」

 

レイピレス最凶……か。

いつの間にかそう呼ばれるようになってたな。

今までの“私”なら喜んでこれからもそう呼ばれるように、このレイピレスを恐怖で包んでいただろう。

 

しかし、今の“私”は違う。

 

「悪いな。今の“私”にはレイピレス最凶なぞ無意味。だが……貴様らを斃し反逆できないように、恐怖に陥れるためにはこれからも必要かもな」

 

「ほざけ裏切者がぁ!!ならばこの俺様自らが貴様を斃し、新たなレイピレス最凶となろう!!者共、行けぃぃぃ!!!」

 

大将のその声で待機していた兵士達はまるで濁流のようにこちらに押し寄せてくる。

同時に空からも大量の魔物が襲いかかってくる。

 

「……ゆくぞ、“ディセント”よ!!」

 

右手に持った大剣に力を込めて“私”は迫り来る敵へと突っ込んで行く。

恐怖は一切無く、むしろ戦いと人間を護る事に対する喜びが大きい。

こんな気持ちは戦いに身を投じてから初めての事だ。

 

今までは己の醜い欲求のために殺戮をしてきたが、今はこの力で全ての人間を迫り来る脅威から護っていきたいと思う。

 

今までは人間の敵として戦ってきたから、そう簡単に信頼が得られるとは考えてはいない。

 

だがもう決心した事だ。

 

「おらぁ!!」

 

「死ね裏切者!!」

 

目の前に2体の悪魔が毒を吐きながら武器を振りかざしてくる。

だが残念ながら“私”には毒なぞただの汚れた空気程度でしかない。

 

「隙だらけだぞ」

 

「ひっ──」

 

「え──」

 

攻撃される前に先にディセントで2体を真っ二つにする。

斬られた断面からは大量の血が吹き出し、地面と“私”を真っ赤に染め上げる。

 

「馬鹿め!後ろががら空きだ!!」

 

「このままズタズタに引き裂いてやるわ!!」

 

すると“私”の後ろから沢山の魔物が空から襲ってくる。

 

「見え見えだ馬鹿が」

 

後ろに向けて“私”はディセントをブーメランのように空から襲ってくる魔物に投擲する。

 

「んな──」

 

「ぎゃっ──」

 

「ぐあっ!」

 

投擲されたディセントは空中の敵を普通なら考えられない軌道で、1匹残らず細切れにしていった。

手元に戻ってきた時には既に空の敵は全滅している。

 

「くっ……!怯むなぁ!!」

 

たった1人にこれだけ殺られているのにあちらは降参をしようとはしない。

ならばその勇気と戦いに対する想いを称えて“私”も本気で相手をしなくてはな。

 

「……解放。グレイプニル」

 

刹那、“私”の力を制限していた手首と足首の枷が弾け飛ぶ。

これで“私”を縛り付けるものはなにもない。

 

今、改めてレイピレス最凶と唱われたこの“私”の全てを解放しよう。

 

そして残酷にあの世へ送ってやろう。

シンプルなまでの、純粋なる『力』でな……。

 

「あ、あれは……!?」

 

「漆黒の巨体……燃える深紅の瞳……!!」

 

「……魔狼フェンリルの……真の姿!!!」

 

あぁ……この姿を現すのは何百年ぶりだろうか。

沸々と力が身体の奥から沸き上がってくる。

 

「さぁ……覚悟はできたか塵芥共……!」

 

そして、“私”は一気に迫り来る敵へと駆け出した。

 

これから来るであろう、レイピレスの新たな時代のために──。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──それから833年後。

 

B.F.(ブライトフューチャー)833年。

 

過去最大の大戦争『クロメリス戦争』からら既に833年が経過した。

戦火に包まれていた街や森も、今では全てが元に戻り、戦前当時よりも繁栄しているのがほとんどだ。

 

また、クロメリス戦争を忘れないための式典が毎年開催されたり、戦時中の建物や遺跡等も遺されている。

 

戦争が終結したばかりの時は、また人間と魔の者はギクシャクしていて小さな争いはあったものの、クロメリス戦争のような大惨劇にはならず、死亡者も出ずに済んだ。

 

多少魔の者優先の社会となった時期があったが、今では人間と魔の者はお互いに協力しながらレイピレスを生き、魔法以外にも戦争時には乏しかった科学力もかなり発展した。

 

そしてここは賑やかな街から大分離れた、暗く閉ざされた魔の山『アウィッグ』。

古代レイピレス語で『光』という意味だが、残念ながらその名前とは裏腹に山は太陽の光も届かない。

一日中夜のように暗く、唯一の明かりと言えるのは怪しく光るキノコやコケ等の植物のみだ。

 

またこの森には古くから半人半鳥の怪物が棲んでいる。

名を『セイレーン』。

 

魔の者としては珍しく、古くから山の周辺の村に住んでる人間とは、友好的な関係を築いていてクロメリス戦争の時も、セイレーン族とこの村の人間達は参加していない。

 

しかしいくら友好的関係でも、契りを交わした者は未だかつていない。

そこは互いのルール、掟として固く禁じられているからだ。

なので決して恋に落ちる事はない。

 

またセイレーンは森の薬草を煎じて薬にして村人に提供したり、子育ての手伝いもしている。

その見返りとしてセイレーンは文字や音楽を教えてもらっている。

 

昔からアウィッグ山に棲んでいたセイレーンは人語は理解していても、それを文字として表す事ができなかった。

また音楽に触れたことがなく、初めて聞いた時にはあまりの感動で泣き出したり、気絶するほどだった。

 

そして、そんなセイレーンの棲むアウィッグ山に2人の人間が入りこんでいた。

 

「ったく、まだ朝だってのにホント暗いなここは」

 

「は、早くこの子を置いて帰りましょう。迷って帰れなくなるわ」

 

すると女性は腕の中ですやすやと寝ている我が子を、大きな木の根元に置いた。

 

「これでいいのよ。悪いのはこの子よ、私達は悪くないわ」

 

「ああ。ったく、悪魔を生んじまうなんて……まぁこれで俺達は今まで通り、平和に暮らせる」

 

そう言って男は背を向ける。

 

「ふん。じゃあねボウヤ。恨むなら人間から生まれた自分を恨みなさいな」

 

最後に寝ている赤ん坊に向けて女は唾を吐きかけるが、唾は赤ん坊に届かず、地面に落ちた。

 

「おら、行くぞ」

 

「……分かってるわよ」

 

そして2人は自分達の我が子をこの暗く深いアウィッグ山に捨てて行ってしまった。

 

「…………ひどいことするわね」

 

その一部始終を木の上から見ていたセイレーンのアティスは、2人が完全に見えなくなってから木の上から降りてその根元を見る。

 

ちょうど薬を村人に届けようと森の中を飛んでいたアティス。

いつもならもう少し遅くに届けるのだが、今日は違った。

実は昨日から村の子供が風邪を引いてしまい、それを治す薬を早く届けるために今日は朝早く向かっていたのだ。

 

そして偶然、この場所に差し掛かった時に先程の夫婦と思われる人間の声が聞こえて、ずっと木の上で様子をうかがっていたのだ。

 

「まったく、自分の子供を捨てる人間もいるのね」

 

アティスはやれやれと思いながら赤ん坊を抱き上げる。

するとそれに気付いた赤ん坊はゆっくりとそのつぶらな瞳を開けた。

 

「……!この子……」

 

赤ん坊はアティスを見ても泣きはしなかった。

しかし、アティスが驚いたのは他にあった。

 

「深紅の瞳……」

 

そう、赤ん坊の瞳の色は燃えるような深紅。

普通の人間でも瞳の色が青や緑の人種はいるが、ここまで鮮やかな深紅の瞳は人間には存在するはずがない。

しかし、この赤ん坊からは魔力は感じられず、ましてや姿形も人間の赤ん坊そのものだ。

 

「あなた不思議ね……。ふふっ、これも運命かもしれない」

 

そう呟きアティスは赤ん坊の頬をそっと撫でて笑顔を浮かべる。

赤ん坊の方もアティスに対して満面の笑みを浮かべてキャッキャッと喜んでいた。

 

「あなたの名前は『レミリス』。私の子供よ」

 

セイレーンの使うサイレン語でレミリスとは『深紅』を表す。

アティスがそう名付けるほど、この赤ん坊の瞳は印象深かったのだ。

 

「んー、母乳は私出ないから……。村の人達から牛や山羊のミルクを貰おう」

 

これから行く村は村人のほとんどが酪農で生計を立てている。

そして村人は優しい方々ばかりだ。

事情を説明してお願いすればちょっとはもらえるかもしれない。

 

「そうと決まれば早く行かなきゃっ」

 

アティスはレミリスが落ちないようにしっかりと抱いて翼を広げると、ゆっくりとレミリスに気を使いながら村へと飛んだ。

レミリスは空を飛んでいる事が、かなり楽しいらしく先程以上に喜んでいる。

 

「こ、こらっ。そんなに暴れたら落ちちゃうよ」

 

先程より少し力をいれてレミリスが落ちないするアティス。

 

「あ、服ももらわなきゃ」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

レミリスを拾ってから約15分ほどでアティスは村に着いた。

ちょうど今は朝ごはんの時間らしく、どこの家の煙突からも煙が上がり、美味しそうな匂いが立ち込めている。

 

「えっと……。確かこっちね」

 

アティスはレミリスのミルクや服を貰いに行く前に、先に用事のある家へ向かう。

そこの家の子供の風邪は引いたばかりらしく、ちょうど引き始めに効く薬草があったので、昨夜煎じて粉薬としてきた。

先程いた広場から少し離れた約100mほどで目的地である家に到着した。

こちらの家も朝食を取っているらしく、パンの焼けた良い匂いがアティスの鼻と胃を刺激する。

 

「うぅ、良い匂い。お腹すいちゃう」

 

そう思いながらも家のドアを叩く。

するとすぐにパタパタとこちらに近づいてくる音がして、ガチャッと若い女性がドアを開けてアティスを中に迎え入れた。

 

「おはようネル。テルの様子はどう?」

 

「おはようアティス。んー、相変わらずの調子ね。咳と鼻水が止まらないわ」

 

ネルは苦笑いしながらアティスをテルの部屋へと案内する。

テルもちょうど朝食を取っていたみたいで、ベッドの上にお盆を置いてミルク粥を食べていた。

 

「あ!アティスねーちゃ──ゲホッゲホッ」

 

「おはよーテル。相変わらずその呼び方は恥ずかしいわ」

 

アティスは生まれてからもう108年生きているが、人間で言えばまだ19歳の女性と同じくらいだ。

ゆえにお姉さんと呼ばれるのは嬉しいのだが、やはり100年以上生きているので複雑な気持ちらしい。

 

「ねーねー。その赤ちゃん誰のー?」

 

するとテルはアティスの腕の中で寝ているレミリスに気づいて目をキラキラさせる。

 

「私も気になってたのよね。誰かの子のお守りでも?」

 

「あーこの子ね……。実はアウィッグ山に捨てられた子なの」

 

あの親子と思われる2人の大人の立ち去る姿を思い出すとムカムカする。

優しい心のアティスはどうしても怒りを覚えてしまうのだ。

 

「なるほどね……。なら、その子は誰かに育ててもらうの?」

 

「いえ、この子は私が育てる。もう名前も付けたしね」

 

「えっ!」

 

まさかの返答にネルはびっくりしたが、すぐに笑顔になってアティスの背中を叩いた。

 

「アッハッハッ!そう、そうかい。アティスがね。よし、聞きたいことは山ほどあるけど、それは後回しだ」

 

そう言ってネルはテルの部屋から出ていってしまった。

 

「……ん?」

 

「ママに任せておけば大丈夫だよ」

 

「そ、そうね。あ、これお薬ね」

 

「あ、はーい」

 

腰の革袋から粉薬を出してテルに飲ませるアティス。

テルは子供にしては珍しく、粉薬を嫌がらないのでかなり助かっている。

 

それから数分経って戻ってきたネルの手には、ぎっしり服の詰まった袋が2つも握られていた。

 

「これは……?」

 

「テルがまだ赤ん坊だった頃の服よ。私、服作るの好きだから色々とバリエーション豊富よ?良かったら使ってね!」

 

ネルから渡されたその袋は意外と重く、あなた作りすぎじゃない?と、思わずツッコミたくなったが、せっかく頂いておいて失礼なので言わないでおく。

 

「私が小さい頃からアティスには色々とお世話になってるからね。これからは私もアティスの子育てに協力するわ」

 

「ありがとう。人間の子を自分で育てるのは初めてだから、色々とよろしくね」

 

アティスは帰る際にもう一度ネルにお礼を言って、次の目的地である酪農家の家に向かう。

ただ酪農家の家はネルの家から少々遠いので飛んで行く事にした。

 

「まぁ距離的には2km弱だからすぐに着くけど」

 

左手にレミリス、右手には服の入った袋を持ちながら空を飛ぶ。

セイレーン族の足はスネの途中から鳥足なので、帰りは右手の袋を足で掴んで、右手にミルクを持つ事にした。

人間とは違い、一度に100kg近い荷物を持つことができるセイレーン族にとってはこれくらいの重さは、人間で例えるなら本を数冊持った程度である。

 

「あ、着いた着いた」

 

地面に足が付く前に足の袋を右手に持ち直してから、ふわっと静かに降りる。

そのままスタスタと歩いてドアをコンコンと優しくノックする。

 

「はーい、どちら様──あら、アティスじゃない」

 

最初に出てきたのは今年で70歳になるフランおばあちゃん。

その後ろから夫のジョセフおじいちゃんが出てきた。

ちなみにジョセフおじいちゃんは今年で74歳だ。

 

「おやおや。これまた珍しいお客様が来たもんだ」

 

ジョセフおじいちゃんは豪快に笑いながらアティスを中へと招き入れ、フランおばあちゃんはアティスの好きなココアを出してくれた。

 

「実は今日はお願いがあって来たんです」

 

「ほう?もしかしてその抱いている赤ん坊でか?」

 

ジョセフおじいちゃんはコーヒーを飲みながらレミリスを見る。

対してレミリスはスヤスヤと寝息を立てて寝ている。

 

「あー、そういうことね」

 

「なるほどなるほど」

 

すると2人は笑いながら寝ているレミリスの頭を優しく撫でる。

 

「ミルクなら私達では飲みきれない程あるから、好きなだけ持っていきなさい」

 

「日持ちは短いから1週間に何度からアウィッグ山の入り口まで届けてやろう」

 

なんとも行動が早い夫婦で、ジョセフおじいちゃんは朝絞ったミルクを取りに、フランおばあちゃんは畑へ向かい野菜を取りにアティスを残して行ってしまった。

 

「え、えーと……」

 

私まだ内容言ってないんだけど……。と、心の中で呟くアティスであったが、目的のものがもらえる事になったので良しとした。

 

「ふぅ。外にとりあえず今週分のミルクを用意したよ」

 

「あとは食べ物も少しばかりだけど持っていて」

 

額に少し汗を浮かべながら2人は笑顔でリビングに入ってくる。

 

「すみません。何から何まで……」

 

「いいのよ。子育てを手伝えるのは、年寄りの幸せなのよ?」

 

「そうそう。それにアティスには昔から世話になってるからな。次はわしらがアティスの手助けする番だ」

 

思わずアティスは泣きそうになるが、涙が溢れる直前で堪えて2人に笑顔を見せる。

そしてここまで自分のために手助けしてくれるネル、ジョセフおじいちゃん、フランおばあちゃんのためにも、レミリスを一人前に育てる事を誓った。

 

「ありがとう……本当にありがとうございます」

 

「なーに、気にしなくて良い良い」

 

「ほらほら。早くみんなの所に行って、その子を育てる事を族長に行っておいで」

 

「あ、はい。では、失礼します」

 

出ていく際に深くお辞儀をしてアティスは、外に置いてあるミルクの入った大きなビンと食べ物の入った袋のそばに行く。

 

「こ、これはさすがに足で掴んで持ってくしかないわね……」

 

ちょっと行儀悪いが足でミルクと野菜を持つことにした。

そして腕にはもちろんレミリスとネルから貰った服を抱える。

 

「よっと。おぉ……まぁ苦にはならないから大丈夫か」

 

 

 

 

 

 

それから17年後──。

 

「レミリス?さすがにそろそろ出ないと遅刻するよー?」

 

「あいよー!んじゃ行ってくる!」

 

大木の上にある家から勢い良く飛び出し学校へ向かう。

オレには母ちゃんのように翼がないので空を自由に飛ぶことができない。

代わりに身体能力がかなり高いので、空を飛ばなくてもジャンプして木の枝やつるを使っての移動をしている。

オレは人間らしいけど、なんでこんなに人間離れした身体能力を持っているのかは謎だ。

 

遅れたけど、オレの名前はレミリス。

人間だけどセイレーン族の母ちゃんとその仲間と平和にほのぼの暮らしてる。

昔の記憶はほとんどないけど、母ちゃんの言うにはオレは赤ん坊の頃に前の両親と一緒に列車事故に巻き込まれたらしい。

両親はその時に死んじまったらしいけど、奇跡的にオレは生き残って気を失っていたところを、母ちゃんに助けられて今に至るって訳だ。

 

「お?レミリスじゃねぇか。おはようさん」

 

「あ、ドワーフ!はよー」

 

学校に向かって山道を走っていると、大きなカゴをを背負ってキセルをぷかぷか吸っていながら丸太に座っている鍛冶屋のドワーフがいた。

 

「ガッハッハ!相変わらずお前は忙しい奴だな!」

 

「相変わらずって……。いつもドタバタしてる訳じゃないよ。それより、依頼していた“アレ”はどこまでできた?」

 

学校まではあと少しなのでここで多少話をしても遅刻する事はない。

なので立ち止まってドワーフと話すことにした。

 

「そう焦るな。外装はもう完成している。あとはルメシナスの結晶を組み込めばなんだけどなぁ。なかなか良い大きさのが見つからなんだ」

 

『ルメシナス』とは、鉱山や洞窟なら必ず採掘する事ができる魔力が結晶化した赤く輝く魔石の事だ。

古代の魔物の血が変化したものだとか、ただの宝石に偶然的に魔力が宿ってしまったんだとか、様々な伝説があるが解明までには至っていない。

 

「ここらでは質の良いルメシナスは貴重だからなぁ。ま、妥協を許さねぇのがオレの性格だからな。最高の作品を作ってやるよ」

 

そう言いながらドワーフはオレの頭を乱暴に撫でる。

ちょっと痛いけど嫌な気持ちにはならないのでこれはこれで愛情を感じるものだ。

 

「ん、ありがとう。そろそろ学校行くわ。あー、空飛べたらいいな」

 

「ガッハッハッ!仮に飛べたとしても、お前の母ちゃんみたいに上手に飛べるのかぁ?」

 

「言ったなー?母ちゃん以上に上手く飛んでやるよ。んじゃ行ってきまーす」

 

そう最後に言って手を振りながら学校へとまた走り始める。

あと10分で授業が始まるけど、3分あれば学校に到着できるから安心安心。

 

「空を飛びたい、か……。さて、工房に急いで戻るとするかね」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「よし!ぎりちょん!」

 

授業開始まであと少しだが、まぁ遅刻扱いにはならねぇだろ。

オレ以外に不真面目な生徒とかいるからまだオレは許容範囲だ。

 

「おはよー」

 

ガラガラと扉を開けて教室の中に入り自分の席に座る。

当たり前の事だが、この学校の大半の生徒はオレのような人間じゃねぇ。

ハーピーやスライム、ケンタウロスやエルフとか、その他もろもろの魔物パラダイスだ。

人間はいたとしても魔女とかちょっとイカれてる奴等が多い。

まぁ、オレも人の事を言えた口じゃないかもだが。

 

「おっすレミリス。今日はギリギリだったなー」

 

「まったく。センコーまた怒ってたぜ?」

 

「マジで?相変わらず短気な奴だよ」

 

なかなか短気で頑固な先生でねぇ。

確かノームという老人姿の精霊の一族だった気がする。

あだ名は『ヒゲ』。

うん、どうでも良い情報だったわ。

 

「ま、関係ねぇ。いつも通り聞き流すだけ──いっ!?」

 

すると突然、背中をぬるっとした感触と冷たさが襲った。

そう、このスキンシップをしてくる奴は1人しかいない。

 

「おいスレイル……。その抱き着きは心臓にわりぃよ」

 

「にゃはは!おはよーレミリス!」

 

水色の半透明の体をぷるぷると揺らしながら笑顔を向ける少女。

名前はスレイルで種族はスライムだ。

こいつとはこの学校に入ってからの付き合いで意外と仲が良い。

 

「はい、おはよー。そして離れなさい」

 

「やだー!だってレミリスに寄りかかってるの楽なんだもーん!」

 

そう言いながらスレイルはまたオレの背中に抱き着いてスリスリし始めた。

 

「ひゅーひゅー!見せつけてくれるねー!」

 

「キスしてやれー」

 

まったくこのクラスの連中は……。

見た目とは裏腹にこういうのにはおもしろいくらい食らいつくんだから。

まぁ人間だからってハブられる事もないのが嬉しいとこでもあるが。

 

「囃し立てるなし。あー、うるせーうるせー」

 

……あ、そういえば今日はクロメリス戦争の終戦日だったな。

あとでテレビで終戦セレモニー中継が入ると思うし。

 

「……850年か」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

薄暗い大回廊を歩く1人の男がいた。

白いマントを羽織り、両肩のアーマーには彼の性格を思わせるような、鋭いスパイク状の飾りが付いている。

 

「あと数時間で作戦決行か。これで……この汚れた世界は生まれ変わる」

 

彼は邪悪な笑みを浮かべるとベルトの右に下げた愛用の武器を軽く触った。

しかしその武器には柄しか存在せず、刃や銃身等は見当たらない。

その武器の名は『ウロボロス』という。

 

「レオ様!」

 

すると後ろから一体のオークが走ってきた。

見た目はかなり不細工。

 

「なんだ一体?」

 

「あ、いえ……、黒騎士様から伝言です。“こちらの準備は完了した。貴様も『サーガ』の鎧を装着して待機していろ”だそうです」

 

「黒騎士の奴……。オレに命令するとは。……奴に伝えとけ、“貴様に言われる筋合いはない”とな」

 

「は、はい!」

 

オークはガクガクと震えながら今来た道を全速力で戻っていった。

なぜかって?

答えは簡単、レオの全身から殺気が滲み出ていたから。

 

「……やっとサーガの力を使う時がきたか。ふん……誇り高き魔狼の血を汚す者は、このオレが消してやろう」

 

憎しみの炎が静かに、だが激しく深紅の瞳の奥で燃えていた。

 

「……レミリス」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「ん?」

 

「んー?どうしたぁレミリス」

 

「え、いや、その……。なんでもないです」

 

おかしいな。

なんか誰かに呼ばれた気がしたんだけどな。

空耳か?

 

「どーしたのレミリス?」

 

クスクスと笑いながらスレイルが横から話しかけてきた。

はい、隣の席です。

 

「いや、誰かに呼ばれた気がして」

 

「うわー、自意識過剰だー」

 

「ちげーよ。それに、女か男かも分からねぇし」

 

ただ1つ分かったのはオレを良くは思ってなさそうな感じだって事。

オレなんか恨まれるような事したっけか?

 

「ま、気にしてても仕方ないし。ほっとけほっとけ」

 

もし喧嘩沙汰だったら私は逃げさせてもらおう。

まだ死にたくないからな!

ワッハッハッハッ!!

 

「レミリス、変」

 

「いつもだろ」

 

おいこらそこの生徒J。

色々とツッコミ所満載だぞその発言は。

いつもじゃない、時々だ。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「お?それじゃ今日の授業はここまで」

 

「起立。礼。着席」

 

先生は授業が終わるとさっさと教室を出ていってしまった。

教室に残されたオレ達はがやがやと騒ぎだし、各々がカバンから弁当を取り出す。

そう、みんなが楽しみなお昼休みだ。

 

「レミリス食べよー」

 

そう言いながらスレイルはこちらに有無を言わさずに机をくっつける。

 

「嫌だつっても食うんだろ?」

 

「えへへー♪」

 

「笑ってごまかすな」

 

スレイルは半透明の頬をほんのり赤く染めながら笑いかける。

その笑顔に一瞬ドキッとしまったのは男として仕方ないのか?

まぁオレとしては普通にスレイルはこのクラスでも可愛いと思う。

身体の構成と種族は違うけど、見た目は人間の女の子そのものだし。

 

「どしたの?早く食べよ」

 

「いやいやいや、もう食べてるじゃんお前」

 

「あ、バレた?」

 

「おいおい……」

 

とりあえずオレもさっさと弁当を食べる事にした。

蓋を開けてみると今日のメニューは鹿肉と野菜の炒め弁当でした。

おー、母さん今日は手抜きしなかったな。

 

「そういえば午後は体育だったよね?」

 

「ん?そうだったなー。新上ティーチャー、また面白い話してくんないかな?授業が良い感じに潰れる」

 

新上先生は東洋の国から来た先生でホソマッチョな体育専門のイケメンティーチャーだ。

だから女生徒のみならず、女教師からも人気の男子からしたらにっくき敵である。

特徴としては少し長めの黒髪、あとはオレよりも薄い赤い瞳の持ち主だ。

見た目はスレイルみたいに人間だけど、種族は不明。

多分この学校で一番謎な先生かもしんない。

年齢もさる事ながら、なんでわざわざ東洋からこんな遠い異国にはるばる来たのかの理由も教えてくれないし。

 

「相変わらずレミリスは不真面目だなぁ」

 

「体育だけは真面目に取り組んでるよ」

 

ちなみに得意なのは50m走と100m走、走り幅跳びと走り高跳びだ。

はい、走って飛んで跳ねるのが好きなんです。

 

「他の科目にも集中しなくちゃ」

 

ぱくっと野菜サラダを頬張りながらスレイルはオレに注意してくる。

 

「気が向いたらなー」

 

オレも肉を頬張りながら空返事しとく。

スレイルには悪いが苦手科目が体育と魔術以外全部なのだよ!

魔術は簡単な拘束術とか応急術が得意っちゃー得意だ。

 

「あ、そうだ。今日放課後、勉強会しようよ!もちろんレミリスの家で」

 

「はぁ?学校終わった放課後まで勉強会なんてしたくねぇよ」

 

「まぁまぁそう言わずに。他の皆も誘ってみるし」

 

「オレの家そんなに広くないぞ?……はぁ、分かったよ。その代わりあと2人までな」

 

こいつは結構わがままな一面がある。

こっちはあれこれ理由をつけて断ろうとするけど、結局最後は言うことを聞かなきゃいけなくなる。

 

「はーい!だったらハーピーの姉妹辺り声かけてみるよ。隣のクラスだし私仲が良いし」

 

「オレ、ハーピー姉妹と話したことすらないぞ?気まずくないか?」

 

「大丈夫!心配ナッシング!」

 

そう言いながら親指を突き立てて目をキラキラと輝かせるスレイル。

 

「はぁ……お前のその無駄な自信はどこから湧いてくるんだ?」

 

「?」

 

「独り言だ、忘れてくれ」

 

「独り言言うと禿げるよ?」

 

「うっせ」

 

ふと教室の時計を見るともうすぐ午後1時になる1分前だった。

ちょうど終戦セレモニーが始まる時間なので、学級委員がテレビの電源を入れてチャンネルを変える。

 

「お?もう始まるじゃん。政府のお偉いさんの長い話が始まる」

 

テレビの中では政府の最高権力者である大統領が、演説のために席を立ってマイクの前に歩いている。

 

「今年は何十分のトークかなー?」

 

「そんな事言っちゃダメだよー?」

 

「まぁそう言うなって。お?あと10秒で1時だな」

 

10……9……8……。

 

「ちゃんと観なきゃね!」

 

4……3……2……1……。

 

「んだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オペレーション『ラグナロク』発動……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

ホントに一瞬の出来事だった。

大統領が話を始めようとしたその刹那、会場が眩い光に包まれたかと思った直後、凄まじい爆音が鳴り響いた。

そしてゆっくりと映し出された映像には真っ赤な火の海に包まれたセレモニー会場と、燃え盛る大量の死体だった。

 

「う、うぐうぅぅぅ!?」

 

この世とは思えない光景に生徒達は吐き気を催し、その場に倒れ込んで胃の中のモノを全て出してしまった。

オレはなんとか堪えたが喉がとてもすっぱいし気持ち悪い。

今すぐにでも皆と同じようにこの気持ち悪さを吐き出したかったが、オレの中の何かがそうさせてはくれなかったのだ。

 

そして隣にいたスレイルも泣きながら今まで胃に入れていたモノを強制的に吐き出されていた。

 

「レ、レミリス……これ、一体何が起こってるの?わ、私、訳が分からないよ!」

 

訳が分からないのはこちらもだ。

ただ1つはっきりと分かることは、今テレビに映っている光景はフィクションではない。

リアルに起きている事、そう……これは戦──。

 

ズガアァァァン!!!

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

「あ、あれ!皆、外を見ろ!!!」

 

1人の生徒に言われるがままにオレ達は窓の外を見て、そして、言葉を失い、崩れ落ちた。

 

「あの旗……!黒地に赤い蛇と狼のマーク……!なんで……なんで……紅魔軍がここにいるんだよ!?」

 

──紅魔軍。

それはかつてクロメリス戦争で勝利を手にした魔の者の軍勢の中でも、最も残虐で非道、そして最強の戦闘軍団と恐れられたレイピレスの歴史上、史上最凶最悪の存在だ。

このレイピレスにいる者なら嫌でもクロメリス戦争時の紅魔軍の話を聞かされる。

けどもう850年も前の軍団だぜ?

冥界から蘇ったのか?

いや、紅魔軍は確かに“彼”の力によって跡形もなく消滅させたはず!

 

「こ、こっちに来るぞ!」

 

その瞬間、オレはこう叫んでいた。

 

「裏門から逃げろ!!!急げ!!!」

 

その声と同時にクラスの皆はパニックになりながらも教室を出て、学校の裏門へと必死に走った。

裏門を出るとその先には森があり、そこには地下シェルターへと続く秘密の扉がある。

なんとかそこまで辿り着けば助かったも同然だ。

 

「ちっ!先へ進めない!」

 

廊下はパニックに陥った生徒や先生で溢れかえっていて、ちっとも前に進む事すらままならない。

 

「いざって時にこうじゃ避難訓練も役に立たねぇな……」

 

「レミリス……?」

 

するとオレの右手を痛いほど握りしめていたスレイルが、目に涙を溜めながらオレに言った。

 

「私達……死んじゃうの……?」

 

普段スレイルはクラスの中でムードメーカー的存在のクラスの人気者だ。

それが今ではどうか。

いつもの元気で明るいスレイルはそこには存在せず、いるのは絶望と恐怖に怯える1人の少女だ。

 

「……縁起でもねぇこと言うなバカ!この後帰ったらハーピーの姉妹と一緒に、オレの家で勉強会するんだろ?だからいい加減泣き止め!」

 

こんな時、普通なら抱き締めて慰めるのかもしれないが、オレが取った行動はそれとは全く逆の事だった。

全く、自分のバカさ加減に泣けてくるよ。

 

「う、うん!そうだよね!」

 

「あぁ!だからさっさと──」

 

ズガアァァァン!!!

 

次の瞬間、ちょうどオレ達のいる廊下に魔力砲が直撃し、オレとスレイルは爆風と衝撃によって裏門側ではなく、正門側へと吹き飛ばされてしまった。

 

「うわあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「レミリスぅぅぅぅぅ!!!」

 

オレはせめてスレイルだけを助けようと彼女を後ろから抱き締めた。

こうすればオレがクッションになってスレイルは助かるはず。

そう思いながらオレはそのまま背中から地面に叩きつけられ、何回かバウンドして止まった。

 

「う、ぐっ……!骨は……折れてない、みたいだな……」

 

だが地面に打ち付けられた衝撃で骨と筋肉が悲鳴を上げていて動く事すらできない。

 

「す、スレイル……」

 

先程バウンドした際にスレイルを放してしまった。

一番の衝撃は受けてないから生きてはいるはずだ。

そう心に言い聞かせながら麻痺している体を引きずってスレイルに近付く。

 

「なんだ?まだ生きてる虫がいるぜ?」

 

「!!」

 

上を見てみるとニタニタと笑いながらこちらに斧を突きつけている、肉食鬼のオーガがいた。

身長は2m以上はあるだろうか?

いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

けど今はスレイルの事の方が心配だ。

 

「お前人間か?人間の肉はうめぇぞ?柔らかくてジューシーでなぁ、おまけに血も酒並にうまいときたもんだ!」

 

汚く爆笑しながらオーガは斧を振り上げる。

応急術を使いたかったが、もう間に合わない。

 

「お前とそこのスライム女は俺様がおいしーく頂いてやるぜ。んじゃまぁ……サヨウナラ!!」

 

オーガは醜い笑みを浮かべながら涎を垂らし、そのままオレの頭目掛けて斧を振り下ろした──。

 

「──ったく、少しくらい対抗意識出せってんだ」

 

「あぁん──ぐぎゃ!?」

 

近くで聞き覚えのある声がしたと思ったら、凄まじい炸裂音と突然オーガの断末魔のような声がして、そのまま重たい巨体が倒れるような音が響いた。

 

「オレの生徒に気安く手ぇ出してんじゃねぇよ」

 

ゆっくりと固く閉じた瞳を開けて上を見てみると、そこには右手に機関砲を持ち、背中や足に多数の重火器を装備した新上先生がいた。

 

「あ、新──」

 

「動くな!頭ぁ下げてろ!!」

 

「は、はい!」

 

言われるがままにオレは頭を下げてまた固く瞳を閉じた。

 

「こっち側に吹き飛んでいく生徒が何人かいてなぁ。運良く生きてたのはお前とスレイルだけだ。ったく、運が良いぜお前はよ!」

 

新上先生は至って普通に話しているが、こちらには凄まじい機関砲の炸裂音と敵の断末魔の声がでかすぎてよく聞き取れない。

 

っていうか、あんた何者!?

 

「ホントは隠し通すはずだったんだが、そうもいかねぇか。オレは“ある人”の指令でこの学校に教師として来たんだ。あ、あとこれお前に届けもん」

 

そう言いながら新上先生は右手で機関砲を構えて撃ちながら、左手で左の太もものホルスターにあった2つのハンドガンをオレの目の前に落とした。

届けもんって言われたときに少し目を開けたのでハンドガンと分かりました。

 

見るとその2つのハンドガンはロングバレルタイプで、色がダークブルーとダークレッドに別れていた。

 

「そいつぁードワーフの旦那からお前にって正午くらい来てオレに預けたんだ!名前は青いのが『アスティオン』、赤いのが『アクティオン』だ!レイピレス語で『疾風』と『祝福』だそうだぜ?」

 

ドワーフが作ってくれたその2つはキラリと輝き、オレに立って戦えと言っているような気がした。

 

「よーしレミリス、今から特別授業を始める!まずはその相棒達を持って立ちやがれ」

 

オレは左手にアスティオン、右手にアクティオンを持ってゆっくりと新上先生の後ろに立ち上がった。

応急術はさっき新上先生から頭を下げてろと言われたときに施したので、全身の痛みはある程度引いている。

 

「よし!んじゃーまず説明すると、オレの使っているコイツらとお前の相棒達は実弾を使わねぇ。中にルメシナスがあるからな!そのルメシナスの魔力を増幅させて圧縮、撃ち出す武器全般を『ガンナー』と呼ぶ。お前の銃は『ガンタイプ』、オレの機関砲は『ヘビィバレルタイプ』と種類分けされている」

 

「は、はぁ……」

 

「んであいつらが使ってるのが大砲型の『キャノンタイプ』だ。さて、ここからが本題。裏門からシェルターに向かった生徒や先公を紅魔軍が追っている。さぁ、どうしなきゃいけない?」

 

どうしなきゃって……。

この流れはオレが行って魔軍の奴等ブッ飛ばしてこいって感じじゃないか。

けど今はスレイルが……。

 

「スレイルはオレに任せとけ!だからお前はさっさと行け!こいつらはオレの獲物だ、ここにいられても邪魔なだけだ」

 

オレは覚悟を決めて裏門側に行くことを決めた。

そして行く前に新上先生に頭を下げる。

 

「……スレイルを頼みます」

 

「あいよ、オレの可愛い生徒に手は出させねぇよ!」

 

最後に気を失なって横たわっているスレイルを一瞥してから、オレは新たな相棒達と共に裏門へと急いだ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「くっ……!邪魔だ、どけ!!」

 

襲い掛かってくるオーガ達をアスティオンとアクティオンで斃していくが、なかなか先に進めない。

こいつらどんだけ出てくるんだ!?

 

「こうモタモタしてる間にも殺されていってるかもなのに……!」

 

実弾ではないおかげで弾切れはないが、こうもわんさかと出て来られたんじゃこちらがもたない。

 

(こいつらをまとめてブッ飛ばす攻撃をイメージするんだ!そう、無数の光が放たれるような……)

 

そうイメージしながらオーガ達から距離を取る。

すると自分の周りにいくつもの青と赤の魔力光が展開され、バチバチッと紫電を走らせた。

 

「……アルティレイド!!シュート!!」

 

そう叫ぶと魔力光から無数の魔力弾が発射され、目の前で群がるオーガの部隊を蜂の巣にしていった。

 

「ぎゃっ!?」

 

「ぐえっ!」

 

「あがぁっ!?」

 

あっという間にオーガの群れは先程の3分の1にまで減り、その醜い顔には焦りと恐怖が滲み出ている。

 

「はぁ……!はぁ……!もう一発撃ち込ん──」

 

「ブラスター」

 

「え──」

 

上を見上げた瞬間、真っ赤な魔力弾がオレのいる地面の後方に直撃し、その爆風でオレはまた吹き飛ばされた。

 

「うっ……!つ、次はなんだってんだ!!」

 

すぐさま起き上がり、空中にいる人影に向かってアスティオンとアクティオンを連射する。

 

「遅い、俺はここだぞ?」

 

「なっ──」

 

後ろを振り向こうとするが、それより早く声の主の武器によって、オレの左腕は貫かれてしまった。

 

「うぐぁっ!?く、くそ……い、痛い……!!」

 

「呆れたな。この程度の痛みすら堪えられないというのか。つくづくがっかりさせてくれる」

 

「ぐあっ!?」

 

声の主はため息混じりに左腕を貫いている刃をおもいっきり乱暴に抜いた刹那、強烈な横蹴りがまたもやオレの左腕を襲う。

ベキッと明らかに骨が砕けた音が辺りに響き渡り、オレはあまりの激痛でその場に座り込んでしまった。

 

「お、お前……何者……!?」

 

ゆっくりと後ろを振り向くとそこには、白いマントを羽織り、独特の形状をした青と銀色の甲冑の騎士がいた。

頭部は蛇のようなコウモリのような形をしたヘルムで覆われていてその表情も顔も不明だが、青い半透明の複眼部分からは、明らかに敵意と殺意、そして憎しみの眼差しを感じた。

 

「貴様、自分がどういう存在なのかも知らないのか?……なら丁度良い。フェンリルの血が流れる者はこの世に2人はいらない。俺だけで良い、貴様は死ね」

 

フェンリル?血?

一体何を言ってるんだこの鎧野郎は。

 

「なに、せめてもの情けだ。苦しまないように殺してやる。気付いた時には冥界の入口にいるだろうさ……」

 

そう言いながら鎧野郎は右手に持ったサーベルのような武器を頭上に構える。

 

「恨むならフェンリルの血を継いでしまった己を恨め」

 

冷たく言い放った後に鎧野郎はオレの頭上目掛けてサーベルを降り下ろした──が。

 

ガシッ!

 

「……ほう?」

 

オレは無意識のうちに折れた左腕で鎧野郎のサーベルを握っていた。

握っている左手からはボタボタと血が溢れて服と地面を赤く濡らしている。

 

「……調子に乗んなよ鎧野郎」

 

身体に流れる血が熱い。

そして沸々と身体の奥から力が沸いてくるような感覚がある。

これはなんだ……?

……1つだけ分かった。

 

「てめぇはオレがブッ飛ばす!!」

 

そう叫んだ瞬間、身体が深紅の魔法光に包まれ、鎧野郎を吹き飛ばした。

 

「ぐ、ぐぬぅ……!くあぁぁぁ!!」

 

先程まで折れていた左腕はいつの間にか治っており、貫かれていた傷口も塞がっている。

同時に髪は長く肩辺りまで伸びて犬歯と両手の爪が鋭く尖り出す。

そして耳は人間のものから狼のような形状になり、尾骨からは髪と同じオレンジ色の長くふさふさした尾が生え、瞳の色もより鮮明な深紅へと変貌した。

 

「運の悪い奴だ……。まさか目覚めてしまうとはな、レミリス。フェンリルの血を引く呪われた存在よ!!」

 

鎧野郎が何か言ってるが今はそんなのどーでもいい。

この魔法光が消えた瞬間、奴の首筋を引き裂いてやる!

 

「……うらあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

そして深紅の魔法光が消えた瞬間、オレはまっすぐ鎧野郎に突撃し手を伸ばした──。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

(……なんや?この気配は……。あぁ、懐かしいなぁ。フェンリルの魔力や……。でもなんか若い感じがするし、なんや苦戦してるみたいやなぁ……。それに、制御できてへん気もする……。しゃーない……そろそろ起きへんとあかんようやな……。また……力になるで……この降臨(ディセント)がな……)

 

瞬間、黒く赤く染まるレイピレスの空を一筋の眩い光の剣が貫いた。

 

再び、破壊と殺戮と血に染まった世界に『降臨』するために……。

 

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