ファング   作:ZERO式

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2 Sword: Light and Darkness

「うらあぁぁぁぁぁあ!!」

 

鎧野郎を一撃で斃す勢いでオレは左手を前方へと突き出す。

 

「ふん」

 

が、それも虚しくオレの左腕は奴の持っていた武器によって捕縛されてしまう。

赤いサーベルだったのがいきなり形状が変化して鞭状になったのだ。

 

「なっ!?」

 

「ただ突っ込むだけでは攻撃とは言わん。責めて溜めて放つ事くらいしたらどうだ?」

 

そう鼻で笑ってから鎧野郎はそのままオレを空中へと投げる。

そして空中で無防備になったオレより跳躍すると、先程のオレとは違い、左腕に魔方陣を展開した。

 

「身を持って知れ哀れな狼よ。これが……本当の攻撃というものだ」

 

「くっ!」

 

鎧野郎は何の躊躇もする事なくオレの腹に魔力で強化したパンチを放つ。

当然ながら防御などできるはずなく、もろに喰らったオレは口から大量の血を吐いてしまった。

 

「がはっ!?て、てめ──」

 

「堕ちろ」

 

そしてまたもう1発、鞭で封じられている左腕にパンチを喰らい、そのまま真下に落下した。

……どうやらこの左腕に絡まっている鞭はどこまでも伸ばす事ができるらしい。

一体何で構成されているんだ?

サーベルになったかと思ったらいきなり鞭になるし……。

 

「ガハッ……!何なんだよチクショー……!これじゃ人間の姿の時と変わらねぇじゃねぇか……」

 

「ふん、己の力をコントロールできないとは……。矮小だ」

 

は?

ワイショー?

テレビでやってるニュースの事か?

難しい言葉使ってんじゃねぇよ。

 

「1つサービスで教えてやろう。この俺の武器の名前は『ウロボロス』。俺の意思1つで合金にも勝る固さと切れ味を持つ剣や、限界無く無限に伸びる事ができる鞭にもなる」

 

そう言いながら鎧野郎は空中からゆっくりと降りてきてオレに近づく。

 

「なぜわざわざ敵に自分の武器の情報を言うと思う?」

 

「ハッ!いちいち考えてられるかよ」

 

「物分かりが悪い者は嫌いだ。なら教えてやろう。今、この場で貴様は俺に討たれるからだ」

 

そう冷たく言い放つと、鎧野郎は鞭形態になっていたウロボロスをサーベル状に戻して、オレの右の首筋にその赤い刃を当てる。

軽く切れたようで真っ赤な血が首と刃に流れ落ちる。

 

「貴様は我々にとって最大の脅威となる。今すぐ俺が消して──」

 

「させへんでー!」

 

「「!?」」

 

どこからか変な言葉が聞こえたかと思うと、空から沢山の光の矢が降ってきた。

 

「ちっ……!」

 

「どわわわわ!?」

 

鎧野郎は余裕で回避したが、オレは逆にカッコ悪くギリギリ避けた。

な、なんだ一体!?

 

「あーごめんなー?ちょっちー手元狂ったわー」

 

上から声がしたので上空を見てみると、そこには腰まですらっと伸びた銀髪にサファイアのような綺麗な青い瞳をした女の子がケタケタと笑いながら頭をかいていた。

……え?

ちょっと、誰ですかこの笑い上戸のような美少女は。

 

「……ん?おりょー?こらまたフェンリルの旦那、どうしたんやこない若返ってもーて」

 

「……は?」

 

すると美少女はふわりと降りたかと思いきやずずいっとこちらの顔を覗きこんできた。

 

「あれ?あんさん今までこないなふっさふさの耳あった?あとは……しっぽまで。どーしたんや一体!」

 

「だまらっしゃい!!」

 

「げふっ!?」

 

はい、殴って黙らせました。

女の子に手は出したくないけど致し方ない。

 

「い、いきなり何すんねん!?人が心配してるっちゅーのに!」

 

「それはありがとう!けどオレはフェンリルじゃない、レミリスだ!」

 

それを聞いた美少女はきょとんとすると、くんくんとこちらの匂いを嗅ぎ出した。

えぇい、犬かお前は!

 

「……匂いは旦那と同じなんやけどなぁ……?そういえば目元と頬にあるラインがちょっちー違う形?うー──」

 

「いつまでごちゃごちゃと話している!」

 

すると突然、土煙の中からいきなり鎧野郎が美少女に向かってウロボロスのサーベル形態で斬りかかってきた。

 

「お、おい!」

 

「人が考え事してる時に邪魔すんなや」

 

美少女が冷たい眼差しで鎧野郎を睨んだ瞬間、美少女の足元から沢山のでかいスパイクが出現し、向かってきていた鎧野郎に襲い掛かった。

 

「くっ……!厄介な……。だがこれではっきりした」

 

鎧野郎はその攻撃を空中へとジャンプする事で少々ギリギリで回避し、そのまま空中に静止した。

 

「光の矢……そして闇の頚木……。魔を消滅させる聖なる力と聖を喰らう魔の力……かつてフェンリルはある『降臨』の名を冠した剣を振るい、迫り来る1万の兵をたった1人で斃したそうだ。その剣は相反する2つの力、光の『聖』と影の『魔』をその身に宿し、レイピレス三大最強武器の1つに数えられたそうだ。その名は、聖魔剣……聖魔剣『ディセント』!!」

 

鎧野郎はサーベルの切っ先を真っ直ぐディセントと呼ばれた銀髪の少女に向ける。

だが攻撃を仕掛けようとはまだしていない。

 

「ふん、戦争終結後は行方不明となっていたはずなんだがな。今更ノコノコと何をしにきた?まさか我等の邪魔をしにきたのか?古き剣よ」

 

「邪魔も何も私は旦那の危機に飛んできただけや。まぁ……その旦那と思ってたんが、血を半分引いてる子ってオチやったけどな。だからって……」

 

そう言葉を切ってディセントは右手に光の剣を召喚して、鎧野郎に対して切っ先を向けた。

 

「だからって私があんたら側に寝返るなんて考えてたんなら、あんさん……とんだ勘違いやで?私は聖魔剣ディセント。かつて旦那……いや、フェンリルが破壊と殺戮を阻止し平和のために振るった力なら、私は今からこの子……レミリスの剣になり、あんたらをこの世から滅する!!」

 

そう言うとディセントは光の剣を横薙ぎに振り払い、叫んだ。

 

「ソニックスマッシャー!!」

 

その瞬間、刀身から三日月状の光の刃が放たれた、加速しながら鎧野郎へと向かっていく。

 

「レオ様!お下がりく──ぐぎゃっ!!」

 

「このような攻──ぐげぇ!?」

 

レオと呼ばれた鎧野郎を守ろうとしたオーガ2体が出てきたが、それも虚しく真っ二つにされ跡形もなく消滅してしまった。

対して光の刃はより加速しながら威力を弱める事なくレオへと向かっていく。

 

「こんなもの……避ける必要などない!」

 

するとレオは左手を前に突き出してディセントの放ったソニックスマッシャーを真正面から受け止めた。

 

「は!?」

 

「う、うそーん!?」

 

「はぁぁぁ……はぁっ!!」

 

そしてそのままソニックスマッシャーを何らかの力で粉々に砕いてしまった。

 

「ふん、これがレイピレス三大最強武器の力か?笑止!」

 

次の瞬間、レオはディセントの右腕を鞭形態になったウロボロスで拘束する。

ディセントは拘束から抜け出そうとするが、絡み付いた鞭はびくともしないばかりか、どんどん締め付ける強さが増している。

 

「う、ぐっ……!」

 

「先程は油断して不意を突かれてしまったが、オレに二度は通じん。今度はオレの番だ」

 

レオは先程のオレのようにディセントを空中へと投げ、ジャンプして右腕の鞭を一旦戻し、またウロボロスをサーベル形態にした。

 

「くっ!ソニック──」

 

「やらせん!!」

 

ディセントが技を出すよりも速くレオは己の赤い剣でディセントと光の剣を切り裂いた。

 

「あぐぅ……!!な、なんで──」

 

「簡単な事だ。今の貴様はオレには敵わない。それだけだ」

 

そしてレオは何の躊躇も無くディセントの左腕をウロボロスの凶刃で真っ二つにして、最後に腹に蹴りを入れて地面に叩きつけた。

 

「で、ディセント!!」

 

オレは全身に激痛が走りながらもディセントの元へと急いで走った。

 

「こ、ここまで苦戦するなんてなぁ……あかん、油断してもーたわ……」

 

ディセントはゆっくりと立ち上がりながら空中にいるレオへと視線を向ける。

その顔は切断された左腕の苦痛と激痛を堪えているかのように、唇をきつく噛み締め、レオを睨んでいる。

 

「ディセント……お前……」

 

「……し、心配せんでもえーよ。けど、これはなかなか厳しいわ……」

 

そう言いながらディセントは右手に闇の剣を召喚してレオに立ち向かおうとする。

 

「ま、待てよ!これ以上やったら死ぬぞ!」

 

「何言っとんのや。“殺らなきゃこっちが殺られる”戦いっちゅーのはそういうもんや。あんさんはそこで見──」

 

「うっさい!!なら1人じゃなくて2人で戦えばいいだろ!!」

 

こちらの大声に一瞬きょとんとしたディセントだったが、内容を理解すると怒るでも呆れるでもなく、優しく笑った。

 

「……まったく。何を言い出すかと思ったら……。そう啖呵切ったなら、あのスカシの顔隠してる面くらい壊さなー許さへんよ?」

 

静かにそう言うとディセントの体から金と黒の魔法光が放出し始め、ゆっくりと空中に浮いた。

 

そして強く輝き、その輝きが弱まるとそこには両刃の両刃の剣が浮いていた。

その剣は刀身がかなり長く、何故か鍔が剣と同じ幅になっている。

また、剣には包帯のような布状の物が約30cmほどの高さまで鍔から巻かれている。

 

 

「これが……聖魔剣ディセント」

 

ゆっくりと落ちてくるディセントのグリップを右手で掴むと、ビリビリとディセントの力が体に流れ込んできた。

 

「す、すげぇ……」

 

「さて、準備完了や。ぶっ飛ばすでレミリス」

 

「うおっ!?喋るのかよ!!」

 

「当たり前やろ?剣モードになったからって、喋らないなんて設定はあかんで?」

 

「設定てお前……。はぁ、まぁいいや」

 

ため息を1つついてオレは、空中に浮かんでこちらを凍るような視線と殺意で睨むレオを見上げた。

 

「……覚悟はできたか?」

 

「あぁ……」

 

ディセントの切っ先をまっすぐレオに向けてオレは言った。

 

「てめぇをぶった斬る覚悟がな」

 

「ふっ……笑わせてくれる。ならば、やってみるがいい!!」

 

次の瞬間、レオは自身の周りに複数の黒い魔方陣を展開した。

その魔方陣からはバチバチと紫電が走り、球体状の黒い魔法光が現れる。

 

「アグル」

 

レオがそう言うと魔方陣かられた魔法光がレーザーのようにこちらに放たれる。

 

「避けられねぇ……!」

 

「避ける必要はあらへん。イメージするんや、迫り来る敵を消し去る一撃を!」

 

ディセントのに言われた通りにオレは目を瞑り、あの攻撃を消し去る一撃をイメージする。

 

(一撃で消し去る攻撃……。全てを切り裂く瞬速の剣……これだ!!)

 

するとディセントの刃がいきなり複数に分離した。

そして、その刃1つ1つは光と影の鎖によって繋がれている。

言うなれば連結刃(チェーン・エッジ)と言ったところか。

 

「来るで、レミリス!!」

 

レオの放ったアグルはもう目の前まで迫ってきている。

が、今はこいつを消し去る力を持っている。

 

「……切り裂け……『ドラグナー』!!!」

 

そう叫びながらディセントの刃は複雑な軌道を描きながら、迫り来るアグルのレーザーを竜の牙と爪の如く、粉々に切り裂いていった。

 

「くっ……このような攻撃など!」

 

レオは防御魔方陣を展開して目の前まで迫っていたディセントの切っ先を防御する。

 

「ちぃ!」

 

「落ち着きぃやレミリス!まだ終わってないで!」

 

オレはディセントを軽く振りドラグナー形態の連結刃の軌道を変える。

レオに弾かれた切っ先は再びレオを捉えその背後へと回った。

 

「なかなか面白い戦法だ。だがこれではオレを斃すどころかこの鎧を破壊する事もできん!」

 

しかしレオはこの自分の周りを取り囲む連結刃の動きに不信感を抱いた。

 

(……おかしい。いくらなんでも攻撃が甘い。どちらも覚醒したばかりとはいえ不自然──まさか!)

 

ここでレオは地上にいるレミリスを見る。

そこには「かかったな」と言わんばかりに口の端を上げ笑っているレミリスがいた。

すると、連結刃の1つ1つが鎖のように闇と光の魔力でコーティングされ、あっという間にレオは連結刃の中に閉じ込められた。

 

「やらせ──」

 

「「『クロスミラージュ』!!!」」

 

そう叫んだ刹那、連結刃は螺旋を描きながらレオを切り刻み途端に魔力と魔力のぶつかりあいで爆発を起こした。

 

「わわわっ!」

 

ディセントは刃を元に戻して通常モードになる。

どうやら爆発でちょっとビビったらしい。

お前伝説の剣なんだからあれくらいの爆発ビビってどうするよ?

 

「び、ビビってなんかあらへんよ!ちょっと驚いてもーただけやし!」

 

おかしい。

オレは言葉にしていないはずなのに考えていた事がバレちまってるし。

 

「あーそうかいそうかい。それより、殺ったのか……?」

 

「斬った手応えはあった。けど、致命傷までは与えられていない……」

 

空中にはもくもくと黒煙が上がっているが、それも風によって流されてようやくレオの姿を見る事ができた。

 

「……貴様等」

 

「なっ……!?」

 

「えっ……!?」

 

レオの顔を隠していたヘルムは跡形もなく破壊され今レオの素顔がはっきりと見えた。

そこにはオレと同じ赤い瞳と牙を持った銀髪の青年がいた。

 

「貴様なんぞに!」

 

怒りを露にしながらレオはウロボロスに力を込める。

それに応えるようにウロボロスは真っ赤な魔方陣をその刀身に展開した。

 

「──そこまでだ」

 

「!貴様……」

 

瞬きをしたその瞬間、レオの右隣に漆黒の甲冑を纏った騎士がいた。

しかも今しがたレオが持っていたはずのウロボロスをその左手に持っている。

 

「黒騎士……何の理由でオレの邪魔をする?返答次第では貴様もただでは──」

 

「邪魔するもなにもフェイズ1はとっくに終了している。私はそんな事も気付かないで私闘をしている貴殿を迎えにきただけだ」

 

レオは差し出されたウロボロスを舌打ちしながら黒騎士から受け取り鞘に納める。

 

「……興が逸れた。次会う時は必ず貴様を殺す」

 

最後に憎しみを込めた眼差しでレオは黒騎士と共に移動魔方陣を展開してこの場を離脱した。

 

「……はふぅ」

 

へなへなとその場に力が抜けたようにオレは座り込む。

同時にディセントも剣モードを解除して人間形態へ戻った。

 

「はぁ。あの黒い騎士のおかげで命拾いしたわぁ」

 

「あ、そういえばお前腕斬られたまんまじゃねぇか!」

 

そう、ディセントはレオに左腕を肩から切断されたままなのだ。

……あれ?

血が出てないぞ?

 

「そういえばそうやったねぇ。血は魔力で出るの抑えてるし、あとは斬られた腕繋げるだけや」

 

そう軽い感じで言いながらディセントは地面に落ちた自分の左腕を掴む。

 

「あーん。土や泥で汚れとる。まー傷口は魔力でちょいちょいっときれいにして……よいしょっ」

 

そのまま左腕を簡単にくっつけた。

 

「……え?くっつけた?」

 

「ん?なんかおかしいんか?」

 

「おかしいも何も……はぁ、なんでもない」

 

「?」

 

そうだった。

こいつは普通とは全然違うんだったわ。

普通なら一度離れた腕や足を繋げるには、高度な治癒魔法が使える者を頼るか手術で繋げるしかない。

けどこいつはただ傷口を魔力できれいにしただけであとは至って自然に繋げやがった。

実際のところ腕はぐるぐる回してるし指や肘も何の問題もなく曲げている。

 

「お?どうやらこっちも終ったみてぇだな」

 

「新上先生!無事だったんですね!」

 

現れたのは右肩にヘビィバレルタイプのガンナーを担いだ新上先生だった。

どうやら先生の方の戦闘も激しかったらしく先生の服やズボンは所々破けている。

 

「……ほぉ?それがお前の本来の姿という訳かレミリス」

 

「え?あ、はい……。そういう事になりますね……」

 

「で?こちらの女の子は誰よ?」

 

新上先生は隣にいたディセントを怪訝そうな表情で睨む。

だが表情だけで右肩のガンナーのセーフティーロックは解除していない。

 

「まぁそう睨まんといてや~。私の名前はディセント、あんさんも小耳にはした事あるやろ?聖魔剣の伝説」

 

「……ふーん。あんたみたいな女の子がねぇ」

 

「お?女の子だからって舐めたらあかんよ?女の子には表には見えないバラの棘っちゅーもんがあって──」

 

「こらこら。話が反れてるぞ」

 

「あ、めんご」

 

ディセントは舌をちょこっと出して軽い感じで謝る。

ちょっと可愛いと思ったオレが情けない。

 

「なんか調子狂うな……。まぁいいや、敵じゃねぇってのは理解したよ」

 

そう言って先生はディセントを睨むのをやめていつものダルそうな表情に戻した。

そしてガンナーを右肩から下ろしてその場にドカッと座り込んだ。

 

「ふぅ~。まったく……群れると厄介だぜあいつら……」

 

先生は胸元のポケットからタバコを1本取り出して吸い始める。

 

「なぁなぁディセント?」

 

「うん?なんやレミリス?」

 

「……この姿解除できないのかな?」

 

未だオレはフェンリル化から元の姿に戻れていない。

もし元に戻らなかったらどうしよ……?

オレかなりへこんじゃうよ?

 

「んー……今はまだ魔力が安定してへん。人間の姿に戻れるのはちょこっと先やね」

 

「なんと……。それまでこの姿かよぉ……トホホ」

 

今のオレの気持ちを表すかのように耳と尻尾が垂れ下がる。

うはー、気持ちを表現するのに耳が動くって便利だなオイ。

 

「そんな落ち込まんといてや~。むしろ人間の姿よりはマシやと私は思うで?ほら、耳や鼻はよう利くやろ?人間の姿だとあまり聞こえないし匂いに敏感じゃないし」

 

「それはそうなんだけど……」

 

「なら結果オーライや。あまり気にしててもなんも進まへんよ」

 

そう言いながらディセントはこちらに優しい笑みを見せてくれた。

オレは一度深い溜め息をついて気持ちを切り替えディセントを見据える。

 

「そうだな。とりあえずは山へ向かった皆のところへ──」

 

「おっと。ちょいまち」

 

すると隣でタバコをふかしていた先生が横やりを入れてきた。

 

「オレを含めてお前はすぐにここを立ち去らなきゃならねぇ」

 

「えっ?な、なんでですか?」

 

「当たり前だろ?オレとお前は紅魔軍に対して反旗を翻して戦ったんだぜ?オレはともかく……お前は特に狙われる。フェンリルの血を引いているお前を野放しにしておく程、紅魔軍は馬鹿ではないさ」

 

「気付いていたんですか……。オレがフェンリルの血を引いているって事……」

 

「その紅い瞳、目の下と頬の牙型の紅い痣……。分かる奴には分かるもんさ。それに、前からもしやとは思っていたんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「紅魔軍に関しては大丈夫やで。さっきの私達の攻撃で壊滅や」

 

よくよく考えてみればオレのアスティオンとアクティオンの攻撃はともかく、ディセントのソニックスマッシャーやクラールディセンターで群がってたオーガ達を斃してたしな……。

さすが伝説の聖魔剣って感じだよな。

 

「そうと決まれば即決行ってね。ほら、とっとと行くぞ」

 

短くなったタバコを捨てて新上先生はガンナーを再び担いで立ち上がる。

 

「はい、レミリス。大事もん忘れたらあかんよ?」

 

そう言いながらディセントが差し出してくれたのは、あの騎士との戦いの時に落としたアスティオンとアクティオンだった。

戦闘によるダメージは全く無く、砂や土で多少汚れた程度で済んだのは不幸中の幸いかもしれない。

 

「あ、サンキュ」

 

ディセントからアスティオンとアクティオンを受け取り、腰に巻き付いているベルトにと腰の間に挟み込んだ。

 

「……ホルスター欲しいな」

 

「なぁに。どっか無事な町や村があればそこで手に入れればいいさ。ほら、行くぞ」

 

新上先生は再びタバコを口にくわえて歩き出す。

あのヘビィバレルのガンナー以外に複数武器所持してるのによくあんな早く歩けるな……。

それよりまずすげー力持ち。

 

「……よし、応急術したからさっきよりマシになった」

 

「ならぼちぼち行こうか~。はよ行かんとあの新上っちゅーガンナー使いに遅れてまうわ」

 

「はいはい」

 

差し伸べられた手を握って立ち上がりディセントと肩を並べて歩き出す。

歩きながら周りを見渡すと辺りにはさっきオレやディセント、先生が斃したオーガの死体はもちろん、逃げ遅れた生徒や先生、村人の死体も転がっていた。

 

「……信じたくねぇよまったく……。なんでオレ達が巻き込まれなきゃなんねぇんだよ」

 

「現政府内には未だ人間との共存を良く思っていない輩が多数いる。もちろんそいつら以外にも人間を嫌っている者はいないとは言えねーよ」

 

「その通りや。戦争終結から850年経ってもこのレイピレスで一番多いんは魔物や。魔力を持たない人間と暮らすなんて、って差別的な態度を取るもんもいる」

 

それでもオレには理解できなかった。

なぜ同胞でもある魔物も殺さなければならないのか、なぜ今になって紅魔軍が姿を現したのかという事。

 

「……母さん無事かな」

 

セイレーン族はただでさえクロメリス戦争時から人間に友好的だった数少ない一族。

狙われないなんて保証はあるはずがない。

 

「確かお前の母親はセイレーン族の1人だったな……。なに、お前が心配する必要はない。セイレーンには“歌” がある」

 

「ほ~。レミリスの母ちゃんってセイレーン族やったんや。なら安心やね。その先生が言う通り、セイレーン族には『悪魔の歌声(フェレネスト)』がある訳やし」

 

悪魔の歌声(フェレネスト)』。

その歌声は聞いた者を死に導くと言われているセイレーンの能力。

ただし自分が敵と見なした者以外にはその死の歌声はただの美しい歌声にしか聞こえない。

実際に母さんや仲間達が使っている姿は未だ見たことがないけど。

 

「お前の気持ちは分かるが今は一刻も早くここから出る事が優先だ」

 

「……分かりました」

 

オレは拳をきつく握りしめ感情を抑えながらひたすら歩き続けた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

「ひぎいぃぃぃぃ!!」

 

無惨に赤い剣で切り裂かれる兵士達。

飛び散る返り血をその白い鎧に浴びながらレオは退屈そうに舌打ちをした。

 

「貴様等ではオレを斃す事はできん。雑兵は雑兵らしく我がウロボロスの糧になれ」

 

「ふ、ふざけるなっ!」

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

怒りを露にしながら現政府軍の兵士達は己の武器を握りしめてレオに襲いかかる。

しかしレオは彼等よりも“速く”動きながらウロボロスでの凶刃で兵士達を斬っていく。

 

「な、なに……」

 

「そんな……」

 

「なに、絶望する事はない。純粋に貴様等の力ではオレには敵わないというだけだ。安心して冥界へと旅立つがいい」

 

ウロボロスの刃に付着した血をはらうと同時に兵士達の体はバラバラの肉塊なり、大量の血を撒き散らしながら地面に転がった。

 

「さすがレオ様ですね。鮮やかな剣捌きです」

 

するとレオの後ろから甲冑を纏ったリザードマンが拍手をしながら現れた。

その右手には刃の先端が鎌のように曲がった剣が握られており、レオ同様に血に染まっていた。

 

「……グリールか。その様子だとそちらも終わったようだな」

 

「えぇ、もちろん。政府軍の兵士は平和ボケし過ぎですね。赤子の手を捻る──いや、無意識に息をするようにと言うべきでしょうか……。あまりの弱さに落胆してしまいますよ」

 

「お前とその“フォルケード”の前には政府軍などまさに玩具の兵隊だろうな」

 

「まったくです。張り合いが無さすぎて困ります。あぁ、このグリール、早く強者と刃を交えたいです」

 

醜悪な笑みを浮かべながらグリールはフォルケードの刃から滴る血を舐める。

それだけでは足りなかったのかグリールは刃と甲冑にべっとりと付いた血を美味そうにピチャピチャと舐めはじめた。

 

(……なぜオレの部下はこのような輩しか集まらんのだ)

 

夢中で血を舐めるグリールを冷ややかな目で睨みながらレオはウロボロスを左腰のホルスターに納める。

正直レオはグリールが嫌いだ。

その腕前は確かに一般兵士よりも遥かに上だがその異常と呼ばざるを得ない程の戦闘狂なのだ。

それどころか殺した相手の血を舐め、飲むという狂っているところもある。

こちらにもオーガという人食い鬼がいるがそいつらとは訳が違う。

 

「……行くぞグリール。“大聖堂”は破壊した」

 

「あと“5つ”ですね……」

 

「そうだ。我等が盟主が復活するのもそう遠くはない」

 

そう……遠くはない。

そしてオレは貴様──レミリスを斃す事でフェンリルの真の力を手に入れるのだ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──オペレーションラグナロクから2日後。

 

「今日はここで休もう」

 

村を出た翌日。

オレ達旅の一行はアウィッグ山を越えて隣村のスローネへと向かっていた。

スローネはオレのいたメルムとは異なり、住民は全て魔物や悪魔で人間は誰1人としていない。

もし紅魔軍が人間と暮らしていた街や村をターゲットの1つにしていたのなら、スローネは攻撃を受けていない可能性もある。

 

実際、昨日紅魔軍に襲われたのは大半が“人間”と共に暮らしていた街や村だとラジオで放送していた。

 

「え……まさかのここ……?」

 

「中散らかってそうやなぁ。カビ臭そうやし」

 

そしてオレ達はスローネへ向かう途中で偶然見つけた廃屋で一夜を過ごす事になったのだ。

外装はかなり朽ちておりその様子からかなりの長い期間、人が住んではいなかった事が窺える。

 

「うっせー。屋根があるだけマシだろうがよ」

 

新上先生は1人ドカドカと廃屋に入っていき屋内を詮索し始める。

中からはガラガラと何かが落ちたり移動させている音が喧しく響き渡り、入口や窓からは大量のホコリが舞っていた。

 

「うはぁ……。この音で敵が来なきゃいいけどな……」

 

「周囲からは紅魔軍の気配はあらへんよ。もちろん私達以外の魔力や気配もや」

 

「それならいいけど」

 

「おいガキども。いつまで外に突っ立ってる気だ?さっさと入ってこい」

 

入口から顔を覗かせた新上先生に言われるままにオレとディセントは屋内へと入る。

屋内は予想していた通りホコリっぽいがあまり散らかってはいなかった。

先程の音は一体何を片付けていた音なのだろう……?

 

「えっとランプあるかな?──お?これ使えるかな?」

 

オレは部屋の隅に転がっていたロウソク数本を見つけた。

大分短くなっているが今日1日過ごす分ってだけなら十分だろう。

先生からライターを借りてロウソクに火を灯し溶けたロウを机や壊れたランプの中に固定した。

 

「……この布団使えると思う?」

 

「やめとけやめとけ。せめてそのベッドだけにしておけ」

 

色々とぶっ飛んではいるがディセントも女の子だ。

できればふかふかのベッドで寝かせてやりたいがいかんせん今はそれどころではない。

 

「ほら、今日の晩飯だ」

 

そう言って新上先生はカバンの中から缶詰やパン、干し肉を取り出す。

缶詰やパンは昨日壊滅した市場を通った時にたまたま拾ったものだが、干し肉は先生が元々持っていたものだ。

 

「明日にはスローネに辿り着けると思う?私そろそろ温かい食事が食べたいんやけど……」

 

「それはお前等の足次第だな。けどまぁ……早くて明日の正午くらいには着けるだろう」

 

新上先生は干し肉にかぶり付きながら缶切りで缶詰を開ける。

ちなみに先生が開けているのはテリヤキチキンである。

 

「なら良いけど」

 

オレはカレーの缶詰を開けてパンに付けながら頬張る。

ちょこっとしかないから大事に食べなくては……!

 

「つってもスローネにいるのは1日か2日程だけどな。食料の調達や休息のために」

 

「さすがに居座り続けようなんて思ってないよ」

 

「当たり前だ」

 

自分の分を食べ終わった先生はタバコを吸い始め窓側へ移動する。

窓と言ってもそこには割れて汚れた窓ガラスが辛うじて残っているのみ。

オレからみたらただ壁に穴が空いてガラスがくっついているだけだ。

 

「ごちそうさま」

 

オレはベルトに挟んでいたアスティオンとアクティオンを取り出して壁に銃口を向けてみる。

 

「どうしたん?」

 

すると干し肉とテリヤキチキンの缶詰を食べながらディセントが訊いてきた。

 

「いや、特に意味はないよ。ただ構えてみただけ」

 

ふぅん、と言うだけでディセントは再び食べることを再開する。

……こうしてみるとホントにただの女の子にしか見えないよな。

 

「……ん?なんやレミリス、じろじろさっきから見て──ハッ!ま、まさか私に欲じょ──」

 

「してねぇよバカ!」

 

「真っ向から否定されるとさすがにショックや……」

 

変な事ほざこうとした貴様が悪いのだ。

部屋の隅でのの字を書きながら体育座りでいじけているディセントを尻目に、オレはアスティオンとアクティオンをベルトに戻して外に出た。

 

「女には優しくしとけよ?後々面倒だからな」

 

「からかってくるあいつが悪いんです」

 

新上先生は苦笑を浮かべながらこちらを一瞥し、夜空に浮かぶ満月を見つめる。

 

「……先生って人間ですよね?」

 

「なんでそう思う?」

 

「単純な理由ですよ。魔力を感じません」

 

口からタバコの煙吐き出して先生は短くなったタバコを窓枠で潰して捨てた。

一度目を閉じてから先生は再び目を開けて口を開く。

 

「正解とも不正解とも言えないな」

 

「は?」

 

あまりにもちんぷんかんぷんな返答にオレは拍子抜けした声を出してしまった。

それに対して先生は軽く笑いながら続けた。

 

「悪い。ちと意地悪だったな。確かにオレは人間だ……けどな、オレは“死ぬ”って事ができねぇのさ……」

 

そう静かに言った先生の表情はどこか寂しそうな哀しそうな、そんな複雑な顔をしていた。

 

「……それって“不死身”って事、ですか?」

 

「まーそんなとこだ。いくら撃たれて穴だらけになろうが、いくら剣で細切れにされてもすぐに再生するんだ」

 

「なんというか……便利な能力ですね」

 

「便利ねぇ……。死ねないってのはある意味辛いものさ……」

 

それだけ言って先生はまたタバコを吸い始めた。

 

「……つまんねぇ話しちまったな。さっさと中に入って寝ろ。交代の時には起こすからよ」

 

「分かりました」

 

オレは先生に言われた通り中に戻って床に寝ようと横になった。

 

「もう寝るん?」

 

「あぁ。明日も早いしな。ディセントもベッドで寝とけよ」

 

「うん」

 

ディセントは頷いて、ベッドにローブ(市場から拝借)を敷いてその上に寝転ぶ。

少々ホコリっぽかったのか小さく咳払いをしてから目を閉じた。

 

しばらくすると静かな寝息が聞こえてきてそれにつられてオレも深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──確か“あの時”もこんな満月の綺麗な日だったな。

 

壊れた窓枠に座りながら新上は夜空に煌々と煌めく満月を仰いでいた。

奥には1時間前くらいに眠りについたレミリスとディセントがそれぞれ寝息を立てている。

 

「こんなガキ共がフェンリルの血を受け継ぐ者と伝説の剣とは……」

 

あのフェンリルの血を受け継ぐ者がいると聞いた時にはかなり驚いた。

同時に戦闘には相当な手慣れなのだろうとも新上は思っていた。

ところが実際は戦いというものを一切知らないただのガキ。

後から現れた伝説の聖魔剣『ディセント』もその容姿はどこにでもいるような女の子だった。

 

「……こんな寝顔する奴等が戦いに巻き込まれるなんてな……」

 

ディセントはともかくレミリスはまだ子供。

そしてまさか自分がフェンリルの血を引いている者だなんて信じたくはなかっただろう。

 

「……あぁ、分かってるよ“葉萪”。分かってる……」

 

タバコの煙を口から吐き出しながら新上は空に浮かぶ満月を改めて仰ぐ。

その赤い瞳に哀しみと決意の火を灯しながら……。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「……匂う。匂いますよ。裏切り者の狼の匂いが」

 

暗闇が支配する深い森の中。

レオの部下であるグリールはニタニタと醜悪な笑みを浮かべながらゆっくりと歩いていた。

その鋭い歯が沢山生えている口からはヨダレが時々垂れている。

 

「レオ様には悪いがフェンリルの少年はこの私、グリール・リザードが仕留めさせていただく」

 

グリールは肩に担いでいる大剣『フォルケード』を抜いて刀身を長い舌で舐める。

 

元々グリールがレオの部下になったのは沢山の人間や魔物を殺す事ができ、血を浴びる程飲めるからという理由からであった。

レオを団長とする騎士団『レグルス』は紅魔軍の中でもエリート部隊だ。

そんな部隊だからこそ多くの戦場に赴き沢山殺せる。

グリールに取ってはまさに理想と言っても良い程だ。

「あの伝説の魔狼フェンリルの血を受け継ぐ者……。想像しただけでヨダレが垂れてしまいますね」

 

グリールの頭の中はどうやってレミリスを喰おうかという事でいっぱいだ。

四肢からじわじわと味わって喰うか、それとも瀕死状態にまで切り刻んで頭から喰うか……。

後は一緒に行動している女と人間の殺し方と喰い方もだ。

 

「クックックッ……。匂いが濃くなってきましたねぇ。もうそろそろコンタクトと言ったところでしょうか……」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「……ディセント。起きてる?」

 

「……とっくに起きてるで?」

 

オレとディセントは素早く起きると相変わらず窓際でタバコを吸っている新上先生の隣に行った。

 

「ちゃんと眠れたかガキ共?」

 

「おかげさまでな。けど、今はその話しとる場合じゃあらへんで」

 

「分かってる。敵は……え?1人だけ……」

 

「そのようやね。仲間を引き連れている気配は感じられへん」

 

新上先生は裏口側の壊れた窓へ静かに移動して外の様子を伺う。

 

「気配は感じるが姿が見えねぇ。この暗闇のせいってのもあるんだろうが──」

 

室内にそよ風が吹いたかと思った刹那、先生がいた窓を基点として小屋が真っ二つになった。

 

「ほいっ」

 

「うおっ!?」

 

とっさにディセントが後ろに引いてくれたお陰でオレは謎の攻撃で真っ二つにならずにすんだ。

 

「さ、サンキュー……」

 

「お礼は後でゆっくりと。今はこのお客様相手にせんといかんみたいやからね」

 

ディセントが睨む先──土煙が舞う先にそいつはニタニタと笑いながら大剣を肩に担いでいた。

 

「満月煌めく夜に失礼致します。私、レオ様直属の部下のグリール・リザードと申します」

 

深々とバカ礼儀正しくお辞儀するグリール・リザード。

名前からもだがどうやらリザード族らしくその竜のようなトカゲのような頭が特徴的だった。

いやいや、それよりも今何て言った?

“レオの直属の部下”?

 

「あの鎧野郎が部下にレミリスを殺すように命令したとは思えへんけどなぁ……」

 

「なかなか勘の鋭いお嬢さんですね。察しの通り、レオ様は己の手でそちらのレミリス様を斃そうとしています。しかし……」

 

そう途中で言葉を切ってグリールは大剣の刀身を長い舌で舐め回す。

 

「私は血が大好きでしてねぇ。レオ様がレミリス様を殺すくらいなら私が殺してその血肉を味わいのですよ……フェンリルの血、一体どんな味がするのでしょう?」

 

「……狂ってやがる」

 

「正直ヘドが出そうやわ。こないな奴、さっさと消そ」

 

「おう」

 

「それにはオレも賛成だ」

 

がらがらと崩れるガラクタの中から鬱陶しそうに新上先生が起き上がる。

それを見てグリールは若干驚いた表情を浮かべた。

 

「……ほう?先程の直撃を受けて傷1つないとは……。貴方、おもしろいですね。一体どんな能力なのですか?」

 

「うっせーよ。とりあえず吹き飛べ」

 

先生は右手にガトリングタイプのヘビィバレルガンナーを展開して、グリールに向けて大量の魔力弾を放つ。

 

「おっと。残念ですが当たる訳にはいきませんねぇ」

 

グリールは余裕の笑みを浮かべながら新上先生の攻撃を真上にジャンプして回避する。

先程の攻撃で小屋の屋根は跡形もなく吹き飛んでいるため上方に回避できたのだ。

 

「ちっ!」

 

オレは空中にいるグリールに向かってアスティオンとアクティオンの魔力弾を発射する。

その横でもディセントが光の矢を放つがグリールはこちらの攻撃を全て回避してしまう。

 

「戦い方が素人ですねぇ。それでフェンリルの血を受け継ぐ者とは……あまり私をがっかりさせないでください」

 

グリールは鎌のように先端が湾曲した大剣を頭上に構える。

すると大剣から風が発生し螺旋を描くように刀身に巻き付いた。

 

「なっ……!?」

 

「風の魔剣フォルケード。この真空の刃を貴方達は耐えられますか?」

 

グリールがフォルケードを振りかざすと大量の真空の刃がオレ達に向かって飛んできた。

刃は1つ1つがブーメランのようになっており、高速で回転しながら襲いかかってくる。

 

「こんな攻撃!」

 

ディセントは左腕を前に突きだし光の防御フィールドを展開する。

防御フィールドはオレとディセントを包み込みフォルケードの攻撃を防いでいく。

 

「お前等!小屋の中じゃ不利だ!一旦防御フィールドを解除して外に出ろ!」

 

新上先生はガンナーを放ちながら人間とは思えない速さで外に移動した。

移動してからも右手でヘビィバレル、新たに左手でガンタイプのガンナーを展開してグリールに魔力弾を撃ちまくり、こちらが移動できる隙を作ってくれた。

 

「今や!」

 

「あぁ!」

 

防御フィールドを一時解除してオレ達は同時に外へと跳躍して小屋から脱出する。

後ろに飛び退きながらグリールに向かってアスティオンとアクティオンのチャージショット『ヴェルティングシューター』を放った。

 

「チャージショットですか……。連射性にも優れているようですが狙いが甘いですよ」

 

グリールは回避をしようとはせず、フォルケードで放たれた魔力弾を全て叩き落とし、余裕の笑みを浮かべていた。

グリールは狂ってる奴だからその笑みはかなりムカついて仕方ない。

 

「まるで豆鉄砲ですね。その様子だと徒手空拳もただの殴りあいなのでしょうね」

 

「なんだと!?」

 

「挑発に乗ったらあかんでレミリス。あないな奴、さっさと消すで!」

 

聖魔剣に変身したディセントのグリップを握ってオレはグリールに果敢に斬りかかっていく。

それに対しグリールは歓喜しながらこちらの斬撃をフォルケードで防いだ。

 

「いいですね、いいですよ!命のやり取り、殺し合いというものはやはり楽しいですね!」

 

「黙れ狂気野郎。お前の戯れ言聞いてる程、オレは余裕じゃねぇんだよ」

 

「それは残念。しかし貴方も私との戦いを楽しんでいるのでしょう?戦士とは戦いを楽しまなければならないのです」

 

グリールはフォルケードを中段で薙ぎはらいながら再び刀身に風を発生させる。

またあの真空の刃を飛ばすつもりのようだ。

 

「ちっ!」

 

咄嗟にオレは左腕を前に就き出す。

するとオレの体を囲むように深紅の魔力刃でできたダガーが複数展開された。

 

「これは──」

 

「さぁ、切り刻まれなさい!」

 

こちらの言葉を遮りグリールはフォルケードから真空の刃を放つ。

 

「レミリス!」

 

「貫け。『ブラッディーダガー』!」

 

前に突き出した左腕を外側にはらうとオレの周りに展開されたダガーが、多角的に動きながら向かってくる真空の刃を全て貫いた。

真空の刃を貫いたダガーはそのままグリールへとその向かっていく。

 

「これは……ぐぁっ!」

 

グリールは回避しようと複雑な動きをしていくが、それより早くダガーがグリールの左腕を貫き、胸部の鎧を破壊した。

 

「当たった……?」

 

「凄いやんレミリス~。いつの間にそんな技出せるようになったん?」

 

「いや……あの真空の刃を貫く力ってイメージしてたら……できた」

 

「んな……テキトーなのか凄いのか分からへんわ」

 

(なんか呆れられてる気がするんだが……)

 

グリールに視線を戻す。

こちらの攻撃が当たるとは思ってなかったらしく破壊された胸部の鎧と、血が滴る左腕をマジマジと見ていた。

 

「……この私に血を流させるとは……。貴方を甘く──」

 

「よそ見してんな!」

 

「!!」

 

オレは左足に魔力を溜めながらグリールの懐へと1回の跳躍で入り込む。

 

“──ただ突っ込むだけでは攻撃とは言わん。責めて溜めて放つ事くらいしたらどうだ?”

 

「これがオレの一撃だ……『アクセルスパイク』……」

 

何故かは知らないがレオの言葉がオレの脳裏をよぎった。

とってもムカつくけど、オレは左足に収束した魔力で威力強化した蹴りを、グリールの鳩尾へと叩き込む。

 

「ごはぁっ!?」

 

「怯んでるんじゃねぇぞトカゲ野郎。2コンボだ」

 

口から大量の血を吐きながら苦悶の表情を浮かべるグリールに対して、オレはニヤリと口の端をあげて笑う。

 

「しまっ──」

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

ディセントを連結刃ドラグナー形態にしてグリールを無数の刃で包み込む。

 

「「クロスミラージュ!!」」

 

そう叫んだ刹那、連結刃は螺旋を描きながらグリールの体を切り刻み、光と闇の力のぶつかりあいを利用して爆発を起こした。

 

「オレの血を飲もうとするなんて千年速──」

 

「レミリス!!前!!」

 

振り返った瞬間、首に何かが食い込み大量の血が吹き出すと共に激痛が全身を駆け巡った。

何が起こったのかと混乱していると、聞き覚えのある汚い声が耳元で聞こえてきた。

 

「よそ見は関心しませんねぇ。まだ戦いの真っ最中ですよ?」

 

「ぐ、グリール……!!」

 

グリールはすでにズタボロだ。

纏っていた黒い鎧はすでに原型をとどめておらず、ベルトや金具でギリギリ繋がっている状態。

クロスミラージュによる攻撃で右腕は吹き飛び、足も骨が見えて他、全身に瀕死のダメージを負っていた。

 

「この私が斃されるなんて微塵も思っていませんでしたよ……。だが!私が死ぬ前に貴様を喰い殺してやる!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

グリールはオレの肩と首を噛みきるようにその顎に力を入れる。

ミシミシと筋肉と骨が軋む音が嫌でも耳に入ってくるが、だんだんと感覚が失われていくのが分かった。

 

「レミリス!」

 

ディセントは変身を解除し右手に光剣を展開しグリールに斬りかかるが、グリールの長く太い尾によって地面に叩き落とされた。

 

「あ、ぐ……ぁ……」

 

「フヒヒヒ!美味い!美味いぞフェンリルの血は──」

 

「油断禁物だぜ?トカゲちゃん」

 

「ギャアァァァァァァ!!!」

 

すると突然つんざくような悲鳴がグリールから発せられ、奴の牙から解放されたオレは真下へとそのまま落下する。

 

「っと!しっかりしろレミリス!」

 

「あ、新上……先生」

 

地面にぶつかる前に新上先生が落ちてくるオレをキャッチしてくれた。

すぐに新上先生は応急措置術を施し、首の傷は塞ぐ事ができた。

 

「な、なにが……」

 

空中を見上げるとそこには上半身と下半身を引きちぎられたグリールの姿があった。

しかもその体は後ろから何者かに掴まれている。

 

「あ、ぎ、がぁ……」

 

「こんな奴がレグルス騎士団の幹部とはねぇ。あまりオレをがっかりさせないでくれよ」

 

「き、貴様は……!」

 

「おっと。まだ生きていたとはねぇ……死ねよ」

 

そう男は冷たく言い放ち、グリールの上半身と下半身を真上へと投げ飛ばす。

その手には新上先生と同じヘビィバレルタイプのガンナーが2丁も握られていた。

 

「散れ」

 

次の瞬間、ガトリング砲の銃口から翠色の魔力弾が無数に放たれ、空中に浮かんでいたグリールの体を貫き肉片と血の雨を地上に降らせた。

 

男はゆっくりと降りてくるとこちらに向かって歩いてくる。

先生はオレを地面に寝かせてからガンナーの銃口を、ディセントは右手に光剣、左手に闇剣を展開して男にその銃口と切っ先を向けた。

 

白の髪、拘束服のように腕等にベルトが付いた漆黒の服装。

月明かりに照らされた彼を一言で表すなら『不気味』という言葉が合っていた。

 

「おっと。敵対する意思は持ってねぇよ。とりあえずそのガンナーと剣を下ろしてくんないかな?」

 

白髪の男は両腕を上に上げて敵意がない事を示す。

2人とも警戒は解かないがひとまずガンナーと剣を下ろして男と向き合う。

 

「……レミリスを助けてくれた事には礼を言う。だが、なぜ見ず知らずのオレ達を?」

 

白髪の男は一度考えるような素振りを見せてから答える。

 

「紅魔軍を相手にしようなんざそうできるもんじゃない。けど、なかなか面白そうじゃないの。オレも交ぜてくれよ」

 

「……あんさんの事、信じてもいいんか?」

 

「オレは仲間を裏切らない。それに嘘をつかない事を性分にしている」

 

白髪の男は真剣な眼差しで新上先生とディセント、そしてオレを見据える。

 

「そうだな。味方は多い方がいい。オレの名前は新上初、人間で不死身(アンデッド)だ」

 

「私は聖魔剣ディセントや。よろしゅーな。んで、あんたが助けてくれたんがレミリスや。何気にあのフェンリルの子孫なんやで」

 

「ほぉ?あのフェンリルのねぇ……。オレは萩野淳一。東洋の出身でベオウルフだ。よろしく」

 

萩野は新上先生から順に握手をしていき、最後にオレも握手を交わした。

……なるほど、東洋出身って事で顔つきと肌の色が新上先生と似ている。

もしかして同じ国の出身なのか?

 

「で?首の傷はどうだい?それなりに深かったように見えたが……」

 

「あ、はい……。応急術ですけど傷口は先生が塞いでくれたので……」

 

オレはゆっくりとディセントの肩も借りながら立ち上がるり、改めて萩野と向かい合う。

 

「助けてくれてありがとうございました……。これから色々とお願いします」

 

「おう。それと紅魔軍相手にすんならレミリス、君も強くならなきゃいけない。今のままじゃとてもじゃないが生き残るのは難しいだろう」

 

「……それは自分でも分かっています。そのためにも力をつけていきます」

 

萩野を含め新上先生とディセントもこちらを優しい笑みを浮かべながら頷く。

 

「新参者で偉そうな事は言いづらいが、あのフェンリルと同等の──いや、超えられるように鍛えよう」

 

「……さて、スローネに行くその前にレミリスの服を変えよう。さすがに血だらけの服じゃ怪しまれるしな」

 

「そうやね。あとスローネに着いたらレミリスの傷の手当てもきちんとせなあかんし」

 

レグルス騎士団幹部、グリール・リザードを斃したベオウルフの萩野淳一を新たに仲間に加わえ、オレ達はひとまずスローネ村を目指すのだった。

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