ファング   作:ZERO式

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4 Sword: Tears of girl

「──ん?」

 

あれ?

ここどこだ?

オレはフィルメニムの家で寝てた……はず。

けど今オレの目の前に広がっているのは枯れた草原と山。

空は真っ赤でなんか気持ち悪い。

 

「えー……なんなのここ?」

 

「ここはレイピレスさ。そう、850年前のな」

 

「えっ?」

 

後ろを振り返るとそこには1人の男がいた。

長身で白くて長い髪、その髪を頭の後ろで結び、その身は東洋の鎧を纏っていた。

……え?

誰このイケメンなお方?

オレの知り合いにはこんな人いないぞ?

 

「そう警戒するな。何も君を殺そうと現れた訳ではない。ただ、ちょっとした興味でね」

 

そう言いながら小さく笑う男はゆっくりとこちらに歩みより、隣に立って赤く染まる空を仰いだ。

 

「……君は信じられるかい?目の前の光景を。850年前のレイピレスはこんなにも赤く染まった世界だったんだ」

 

「……信じるに決まってる。史実通りだし、今も同じような光景が広がってきているし」

 

「なら君はどうしたい?」

 

「決まってる。紅魔軍を斃す」

 

「無理だな」

 

バッサリ言い切られてしまった。

思わず隣を見ると、こちらを見つめてくる男の瞳は“紅く”燃えており、何か力強さを感じた。

 

「今の君はあまりにも弱い。雑魚であるオーガ達を斃す事はできても、幹部クラスは無理だ。いくら仲間が増えても己が強くならなければならない……」

 

「んな事は嫌と思うほど分かってるっての……。レオとの戦いもそうだし、グリールの時も……」

 

全て仲間に助けられた。

 

「だが恥じる事はない」

 

「え?」

 

「君は仲間に助けられながら強くなればいい。そう、私ができなかった事を……」

 

「?」

 

この人なんでこんな哀しそうな顔してるんだ?

できなかったって……?

 

ふと空を仰いでみると、赤い空が徐々に金色の光に包まれていくのが見えた。

まるで全てを飲み込んでいくかのような……。

 

「……どうやらここまでのようだな。話せて楽しかったよ」

 

そう言って男はこちらに背を向けて燃える山へと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと!あんた!」

 

「あぁ、そうそう。君は“創造力”が長けている。戦いにはそれを活かせ」

 

「そ、創造力?」

 

創造力って一体どういう事だ?

てか創造力でどう紅魔軍と戦えってんだ?

 

「ふっ。そう考え込む事はない。君は既に創造力で戦っていたのだから」

 

そうこうしているうちに空だけでなく、空間全体が金色の何かに飲まれていく。

男もゆっくりとそれに飲み込まれ、何かこちらに話しているように見えたが、残念ながらそれはこちらに届く事はなかった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「……うっ。おもっ……」

 

朝になった。

だが目覚めはそんなに良いものではない。

それはなぜか?

 

「むにゃむにゃ……。ぐへへ……あかんよレミリス、そんなとこ~」

 

こいつがオレの膝に覆い被さるように寝ているからだ。

というかこいつ何の夢見てるんだ?

明らかに夢の中でオレが良からぬ事をしている!

 

「おいコラ、起きろエロ娘」

 

「あ~ん、あかんレミリス。そこは──」

 

「グッドモーニング!!」

 

「あべしっ!」

 

やむを得ず手刀をディセントの頭に入れて強制的に起こす。

そこ、暴力的とか言うな。

不埒な夢見てるこいつが悪いのだ。

 

「あいた~……。ちょっとレミリス、何してくれてんねん!朝から手刀ってかなわんわ!」

 

「バカ。朝から卑猥な寝言垂れながら寝ている方が悪い」

 

オレは後ろで不満を言い放っているディセントを無視して外へと出る。

ドア付近は小さなテラスとなっているので、オレは柵に肘をついてボーっと周りの景色を見た。

 

夜とは違い、太陽の光が木漏れ日となって森全体に降り注ぎ、幻想的で綺麗な景色を作っていた。

どこから小鳥の囀ずりと川が流れているのか水の流れる音も聞こえてくる。

 

(昨夜とはえらい違いだな。……あのキメラっぽい魔力も感じないし匂わない)

 

昨日はあんなに殺気を含んだ魔力を認知できたのに今は全くと言っていい程、感じる事ができなかった。

もしかしてオレ達を見失ってどこかへ行ってしまったのだろうか?

 

(それはそれで面倒な事にならないから良いけど──って、こらっ)

 

耳に小さな虫が付いてしまった。

軽く耳を動かして虫を追っ払うと、虫が付いていたところを手ではらった。

なんか気持ち悪い……。

 

「……戻ろ」

 

1度深呼吸をしてからオレは踵を返して部屋の中へと戻る。

初と淳一は借りた部屋で寝ているらしくリビングにはいなかった。

どうやら昨夜の何時かに移動したらしい。

あー、オレも部屋借りてベッドで寝れば良かったな。

 

「あら?早いわね」

 

「あんたこそ」

 

視線の先にはバスローブを羽織ったこの家の家主で魔女のフィルメニムが立っていた。

シャワーを浴びていたらしくその銀に輝く髪と肌がしっとりと濡れていた。

 

「朝にシャワー浴びるのはあたしの日課なの。今はあなたの彼女が入ってるけどね。久しぶりのシャワー!って嬉しがってた」

 

まぁ……なかなかシャワー浴びる機会なんて無かったしな。

ほとんどが澄んだ川とか小さな滝で体を洗う程度だったし。

ディセントには悪いとは思っていたけど……。

 

「そいつはどうも」

 

「えぇ」

 

フィルメニムは冷蔵庫から牛乳の入ったビンを取り出して、コップに注いでゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

牛乳好きなんだろうか?

チラッと見たけど牛乳ビン沢山あったぞ。

 

「そういえば薬はできたのか?」

 

「あともうちょいってとこ。大丈夫、飲めるモノに作るから」

 

「むしろ飲めるモノじゃなきゃ嫌だ」

 

薬やアロエジュースくらいの苦さなら我慢できるけどそれ以上のものだったら飲もうにも飲めないからな。

ただでさえ薬の材料がゲテモノなのによ……。

 

「というかあなたとディセント以外の2人はまだ寝てるの?」

 

「あぁ。淳一はともかく初は寝ることが趣味みたいな人だからな……」

 

「ふぅん……」

 

フィルメニムはビンを冷蔵庫にしまうと新たに肉と野菜を取り出して、フライパンをコンロにセットする。

どうやら朝食の準備するらしい。

食器棚からもお皿やコップを出してテーブルにセットしていき、戸棚からもパンを出していく。

 

オレも冷蔵庫から牛乳やフルーツジュース、野菜ジュースを出して、フィルメニムと同じくテーブルに出した。

 

「あら?ありがとう。助かる」

 

「いいよ。泊めてもらってるんだし」

 

「はぁ~♪気持ちえかった~。お風呂はやっぱり最高やね」

 

ほこほこした顔でお風呂場から出てくるディセント。

かなりご満悦らしく歩き方がルンルンとしている。

 

「お?いや~素敵な朝やね~。缶詰めもそろそろ飽きてきた頃やったし。まだできひんの?」

 

「残念。今から作るの。ちょっと待ってて」

 

「なら私は2人を起こしてくるわ~」

 

そう言ってディセントは初と淳一が寝ている部屋へと向かった。

というかディセントのテンション高すぎだろ……。

 

「……あんな女の子が伝説の聖魔剣だなんて、なんか拍子抜けするわね」

 

「もう慣れた。初登場の時なんて高笑いしながらだったし」

 

そもそも聖魔剣が人型に変身するなんて聞いてなかったから、その時の驚きようって言ったら……。

 

そしてあの口調も気になるわ。

 

「彼女って東洋出身?あの癖の強い話し方は聞いたことないし──」

 

「そないな事知ってどないするんや?」

 

後ろを振り返ると眠い目を擦る2人を従えたディセントがいた。

 

「いや、その話し方はいつからなんだろうと思って」

 

「んー、フェンリルの旦那の剣としていた時からこの話し方やったけど。いつから話し始めたのかはさすがに覚えてないな~」

 

そう言いながらディセントはテーブルにつき、置いていたコップに牛乳を注いで先程のフィルメニムよろしく、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。

……なんでだろう、違和感を全く感じないぞ。

 

ディセントに気を取られていると、後ろにいた初と淳一の2人もそれぞれ席に座った。

オレも流れにのって近くの席に座り、コップに牛乳を注いで飲むことにした。

 

「腹、減ったな」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はい。これが薬よ」

 

時はあっという間に流れて今は昼間。

ようやくオレを人間の姿に戻す薬が完成した。

……あぁ、完成はしたいいけど何この色?

なんか虹色でマグマみたいにボコボコいってるんですけどこれ。

 

「な、なんか、オレが思ってたのと大分かけ離れているんだけど……」

 

「大丈夫。味はリ〇ビタンだから美味しいよ」

 

リ〇ビタン!?

この色でそんなエナジーな味がするのか!?

けど、これを飲まなきゃ始まらないんだよな……仕方ない、覚悟を決めるか。

 

「…………!!」

 

ゴクンッ!!

 

飲んだ。

あー、確かに味はリ〇ビタンです。

見た目って大事だよね、うん、せめてエナジードリンクみたいに黄色がいい──。

 

ドクンッ!

 

「……!?な、なんだ……体が熱い……」

 

身体中がすげー熱い。

そう、初めてフェンリルの血が目覚めた時と同じような……。

 

「どうやら成功のようね。鏡、見てみなさい?」

 

手渡された鏡(女性ものの手鏡だが)に映った自分の顔を見て、オレは静かに驚いていた。

 

「耳が、牙が、模様がない……」

 

そう、無いのだ。

狼の耳が、鋭い牙が、頬と目元の牙型の模様が消えているんだ。

髪も以前のように短くなってるし、尻尾も無くなっている。

 

「へー、それがあなたの人間としての姿なわけね」

 

おう。

これが人間としての姿だ。

……あ、服もあの戦闘服からあの日着ていたのに変わってるし……。

 

「ほ~。なんか懐かしいな~。やっぱり人間姿のレミリスもそそる~♪」

 

「そそるってなんだよそそるって」

 

「乙女の秘密や♪」

 

……んなウィンクしながら言うな。

一瞬可愛いと思っちまったじゃないか。

 

「そういえばあんたらステラスに行くんだったわね?あたしも行っていい?」

 

なんですと……?

ステラスに何の用があるんだ?

 

「ステラスになんの用があるんや?」

 

「ん?ステラスの大災害は私も聞いたことがあってね。確かめたい事があるんだ」

 

確かめたい事ってなんだろ?

まぁあまり詮索するのは良くないから訊かないけどよ。

けどやっぱり気になる。

 

「オレは構わないよ。ディセントは?」

 

「私もかまへんよ」

 

多分部屋に引っ込んでる2人も同意してくれるだろう。

フィルメニムの場合、ステラスに行った後はどうするんだろ?

オレ達はレオの事とステラスの大災害の真相について知れたらまた先へと進むんだけど。

 

「……恐らく、オレ達の行動は紅魔軍の奴等に監視されている可能性がある。オレ達に接触した奴も無事に生かしておくほど、奴等もバカじゃねぇ。ステラスで別れるのはリスクが高い」

 

タバコを吹かしながら初が現れた。

隣にはもちろん淳一もいる。

しかも出発する準備もバッチリときたもんだ。

 

「お?薬は効果があったみたいだな」

 

「へぇ?それがレミリスの人間モードって事か」

 

「あ、捕捉事項。戦闘モード──つまり、フェンリル化するための方法は実に簡単。変身と叫ぶのよ」

 

……変身?

へんしん?

HENSHIN?

 

「冗談よ」

 

「って、おい!」

 

「そう間に受けないで?フェンリル化は自身の血を媒介に行うのよ。そうね、簡単に言えば体内に流れるフェンリルの血と魔力に意識を集中すれば、一瞬でフェンリル化できる。もちろん、その逆の人間に戻る事もね」

 

なんかめっちゃ簡単な変身の仕方だな。

考えてたのはそれこそ変身アイテムかなんかを使ってフェンリル化するのかと。

もしくは呪文かなんかを唱えるとか。

 

「それなら安心やね。街に入っても目立たなくてすむし、紅魔軍の目も多少は欺けるやろうし」

 

うんうんと頷くディセント。

確かに人間化とフェンリル化を使い分ければ、見た目は誤魔化せるかもしれないな。

 

「フェンリル化するとさっき着ていた戦闘服へ自動的にチェンジするわ」

 

おぉ、ホントにどっかの変身ヒーローモノだな。

うーん、せっかくだから戦闘服になんか名前付けたいな。

 

「何考えとるん?」

 

「戦闘服の名前。名無しだとなんかこう、しっくりこないというか」

 

「なら『フレイムジャケット』なんてのはどうだ?」

 

意外や意外、挙手しながら言ったのはなんと淳一だった。

あまりこういう事には興味無いというか、ぶっきらぼうなイメージがあったからな。

 

「ほら、お前の魔力色って炎みたいな色だし、白基調なものだけど赤色も入ってるからな」

 

フレイムジャケット……うん、なんかかっこいいじゃん!

 

「いいね淳一、それを使わせてもらうよ。ありがと」

 

「べ、別に礼なんていらねぇさ」

 

ってこら、デレるなあぁぁぁぁぁっ!!

いや、確かに名前を付けてもらって嬉しいけど!

そこ頬を染めながら顔を背けるとこじゃないから!

男のツンデレなんて誰トクよ?

 

「さて、と。準備できとるんやったらはよ行こ~」

 

「そ、そうだな」

 

嫌な汗をかいたが気持ちを切り替え自分の荷物を抱えてオレ達はフィルメニムの家を出る。

最後に家の主であるフィルメニムが扉と家屋と大木に不可侵の術をかけて完了。

 

オレはリインフォースを起動させてディセントをおんぶする。

どうやらリインフォースは人間モードの時でも使えるらしい。

オレがハーフフェンリルとして覚醒した事によって、フェンリル化しなくても魔力を使えるみたいだ。

 

あとはフィルメニムの煎じた薬のおかげで、不安定だった魔力が安定した事も影響しているようだ。

 

そして……ディセントの非戦闘時以外の移動手段はオレの背中となった。

ディセント曰く「なんかええ」らしい。

 

「ほな行こか~」

 

「はいはい」

 

エリュクリオンを飛行モードにしてフィルメニムを先頭にしてオレ達はステラスへと向かう。

なんでもステラスへ普通の道で行くよりも早く到着できるんだとさ。

 

「この森を抜けると大体10kmの林道よ。そして、それを抜ければ目的地である風の村ステラスだから」

 

「ふ~む……。なるほど、この道で行けば正規ルートより約5kmも短縮できるぞ」

 

「こんな道もあったんやねー」

 

ディセントをおんぶしながらオレは地図を広げて確認する。

うむ、生憎とオレは魔力式ナビを持っていないからな、アナログ式の地図を使用ですわ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「……なに?“CODEーU”がステラスへ、だと?」

 

「はい」

 

俺──レオはレグルス騎士団の騎士の1人から報告を受けていた。

CODEーUが3日前に紅魔軍の監視下から脱走していた事は、その日のうちに部下から報告があった。

だがそれ以降行方知れずだったんだがな……。

 

「まったく……。これだから魔術師団どもは信用できん」

 

もともとCODEーUは850年前──つまり、クロメリス戦争時に造られた古代兵器。

しかもそれはこちらの命令を一切受け付けず、制御が困難という理由から地下深く封印されていた。

しかも800年以上もだ。

 

だが先日、魔術師どもがCODEーUの封印を解いたのだ。

恐らく、いや、間違いなく奴等を殲滅するために投入を決定したのだろう。

だが魔術師どもはCODEーUの制御に失敗、逆に喰い殺されて脱走までさせてしまった。

 

「それともう1つ。今更ですが、ハーフフェンリルの呼称が決まったようなので報告します」

 

「……本当に今更だな。で、なんだ?」

 

「はい。Fang of Fenrir──略してFF(エフツー)だそうです」

 

──Fang of Fenrir。

フェンリルの牙、ね。

随分と皮肉を込めたコードネームだな。

……フッ、意外と俺の事も該当しているのかもな。

 

「よし、報告ご苦労だった。下がれ」

 

「ハッ!」

 

こちらに敬礼をして部屋を出ていこうとしたが、部下は何かを思い出したように、その場で立ち止まってこちらに振り返った。

 

「あ、レオ様。申し訳ありません。もう1つ報告がありました」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「──FFとその一派がステラスへ向かっているようです」

 

「……なんだと?」

 

あいつら──レミリスがステラスへだと?

あいつにとってステラスなぞ無意味と言っても過言ではない。

 

なのになぜステラスへ向かう必要があるんだ?

もはやあそこには風の加護もない。

 

あるのは廃墟と倒れた塔、そして女神像。

 

「──CODEーUとFF。850年、積もりに積もった怨みや憎悪をお前はどう受け止める?」

 

「レオ様?」

 

「……いや、なんでもない」

 

レミリスよ、この俺と戦うための道のりはなかなか険しいな……。

だがな、こいつを越えなければお前はいつまでたってもオレには追い付けん。

 

……同じフェンリルの血を引く者なら、俺以上にその血を濃く受け継いでいるのなら、これくらいの試練乗り越えてみせろ。

 

「……空が暗い。夕立がきそうだな」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「──あれが、ステラスか」

 

「ほ~?やっぱ大災害の爪痕が残ってるようやな~」

 

ディセントが言う通り、ステラスの建造物の一部が破壊されたままで残っていた。

奥の方にはかつてはこの村のシンボルであっただろう、巨大な塔の跡がある。

その跡の周りには塔を形成したと思われる石が瓦礫と化している。

 

「所々、地面に抉られた跡がある。草花とかで覆われちゃいるが、明らかに戦闘による爪痕だな」

 

「……大分、いや、かなり薄れてはいるが……嫌な匂いがしやがる」

 

淳一は顔を少しだけ引きつらせて眼下に広がるステラスを見渡しながらボソッと言った。

 

「嫌な匂いって?」

 

「……いや、何でもない」

 

それ以降、淳一は頷く以外何にも喋んなくなってしまった。

一体どうしたんだろ?

 

淳一の事を気にしながらもオレ達はステラスへと入る。

……案外、村人は住んでいるみたいだ。

家もちらほら見えるし、煙突からは煙が上がっているところもある。

 

「ふーん……。それなりに復興はしているみたいだな」

 

「な、なぁ?あの鳥はなんだ?」

 

オレが指差す方向。

そこには大空を威風堂々と飛ぶ巨鳥がいた。

で、でけぇ……!

楽々人を乗せて飛ぶことできるじゃねぇかよ。

 

「あれはフェネクスやね。このステラスに生息する巨鳥や。ちなみに、ステラスの民はそのフェネクスを飼い慣らす習慣があって、家族や相棒として従えるんや。これはクロメリス戦争時から続いとる伝統や」

 

ほ~。

なんともでかいペットですこと。

というか、さっきからチラチラとステラスの住民からの視線が突き刺さる。

そんなに余所者が珍しいのか?

 

「……なんだあいつら?」

 

「紅い瞳……まさかあれが噂の……」

 

「この村にまた災いが……」

 

さっきからなんだってんだよ、まったく。

そんな蔑んだような目で見てんじゃねーよ。

 

「お主達」

 

すると前から1人の老人が出てきた。

服装から察するに、恐らくこのステラスの族長だろう。

杖をついてはいるが元気そうだ。

 

「何用でこのステラスへ来た?」

 

ギロリとオレ達を睨みながら族長が訊ねてくる。

 

「……レオ。レオ・エルフォードの正体を知るために」

 

オレのその言葉に周りにいた住民はどよめいた。

だが族長だけ静かに瞳を閉じて肩を震わせている。

 

「……知らんな。このステラスにはレオなんぞいう輩は存在せん。さっさと立ち去るがよい。紅き瞳の少年よ」

 

そう言って族長は踵を返して来た道を戻って行ってしまった。

他の村人達もそそくさと家の中に戻ったり畑に向かったりしている。

あの族長……やっぱりレオの事知ってやがるな。

族長だけじゃなくて、このステラスの民も。

 

「どうやら現地の方々にはご協力いただけないみたいやな~」

 

「ま、こうなる事も予測できたさ」

 

「だな。で?これからどうするよ?」

 

ジッと全員の視線がオレに集まる。

……オイオイ、オレが決めなきゃなの?

 

「はぁ……。とりあえず、レオの手掛かりを探そう。匂いなら覚えている」

 

そうは言っても、そのレオの匂いも嗅ぎとれない。

場所が悪いのか?

もしくは手掛かり自体が消えている?

 

「最初はあの崩れ落ちた塔に行ってみよう」

 

オレを先頭に一行は小高い丘に建っていた塔へと向かう。

塔へと続く道には戦闘痕は見受けられないが、先に進むにつれて破壊されてそのままの家屋や折れて倒れた木々、抉れた地面が視界に映る。

恐らく、これがドワーフが言っていたステラスの大災害の一部だろう。

 

「民が住む中心部をメインに復興したってか?景色が一気に変わるな」

 

初がタバコを吸いながらボソリと言った。

隣でバイクを運転している淳一もそれに頷く。

 

「大災害で沢山死んだのか?」

 

「……それもあるかもしれへんけどなぁ」

 

しばらく歩いていると、ようやく目的地である塔に辿り着いた。

うん、崩れちゃいるがやっぱりでけぇ!

残ってるとこだけでも70mはある。

もともとはこの空を突かんばかりのバカでかい塔だったんだろうな。

 

「この塔の名前はスカイフット。このステラスのシンボルや。そして、生命を司るステラスの女神『カテナ』の像を祀っとった」

 

けど、とディセントは言葉を続けた。

 

「もうここにはカテナの加護も風の加護もあらへん。魔力どころか、聖なる力も失っとる」

 

ディセントは瓦礫と化した女神像の成れの果てをそっと撫でる。

 

「大分薄れとるけど……この塔の瓦礫から負の魔力を感じる。これはステラスのものやない。……紅魔軍のものや」

 

「なんだって!?」

 

まさか、このステラスを襲った大災害の正体は、紅魔軍の攻撃だったっていうのかよ!?

 

「それじゃあ、ステラスを襲った赤い竜ってのも……」

 

「紅魔軍のに間違いなさそうね」

 

「紅魔軍の戦力は計り知れない。竜の1匹や2匹くらい持っていてもおかしくねぇ」

 

ったく、ホント紅魔軍ってのはイカれてやがる。

オーガ等の雑魚はともかく、竜まで配下にしてるとは恐れ入る。

ということは他にも強敵クラスの魔族を配下にしている可能性だってあるって事だ。

 

「……ということは、昨日オレ達が感じた合成獣らしき気配と匂いも……」

 

「もしかしたら紅魔軍が放った刺客かもな」

 

「…………許さへん……クズ共が……」

 

初達には聞こえていなかったらしいが、オレははっきりと聞き取った。

ディセントが憎々しげに紅魔軍へ敵意を、憎悪を込めた言葉を洩らしていたのを、はっきりと。

 

「で、ディセント?どうかしたか?」

 

「え?何でもあらへんよ!女の子の独り言聞くなんて、レミリスもやらしいなぁ」

 

「ば、バカ!」

 

ディセントは若干たじろぎながらもすぐにいつものようにおちゃらける。

一体、ディセントと紅魔軍はどんな関係なのだろうか?

 

ただ単に初代フェンリルの剣として紅魔軍を滅ぼしたとは思えない……。

何か、こう、深い因縁があるように思えるんだが……。

 

「ご、ごほんっ!スカイフット跡に来てから、かすかにレオの匂いを嗅ぎ取れた。とりあえずそっちに行ってみよう」

 

とにかく話を戻そう。

かすかにだが確かにあのレオの匂いがする。

 

オレを先頭にかつてレオが暮らしていた家へと向かった。

そして、到着したその場所には、大きく破壊され無惨な姿となった廃屋があった。

 

屋根には大きな穴が空いており、壁も半分以上が吹き飛んでいる。

室内も攻撃を受けた時の衝撃でか家具等が壊れ、散乱し、足の踏み場もない状態である。

 

「……間違いない。この廃屋からレオの匂いがする」

 

「そうやね。ここがレオの……」

 

オレは意を決して家の中へと入った。

中は長年雨風に晒されていたせいかカビ臭く、土臭い。

所々腐って朽ちた家具や服らしきものが目に映る。

 

「ひでぇもんだな。人が住まなくなると家ってのはあっという間に廃れる……ホントに、ひでぇな」

 

ボソッと淳一がそんな言葉を洩らした。

 

ふと窓側に視線を移すと、そこには蜘蛛の巣に覆われた板状のものが、棚に飾ってあった。

 

「これは……」

 

蜘蛛の巣と積もりに積もった埃を払い、それを手に取って見た。

それは木製の写真立てだった。

 

そして、そこに写っていたのは──。

 

「……レオ」

 

そう、レオだった。

オレがあの時見た憎しみと敵意に満ちた表情は一切無く、そこに写るレオはとても幸せそうな優しい笑顔を浮かべていた。

 

そしてそこにはもう1人、柔和な笑みを浮かべる女性がいた。

 

「これってもしかして……」

 

「レオのお母さんやろうね。ふーん、なかなかなべっぴんさんや」

 

写真立てから写真を取り出し改めて2人を見た。

 

スラッと腰まで伸びた銀髪、キリッとした顔立ち。

隣に写るレオと比べると確かに似ている。

だが唯一違うところがあった。

 

──この女性の瞳は鮮やかな青い瞳なのだ。

 

「遺伝で深紅の瞳っていう仮説は無くなった訳ね。とすると……考えられるのは──」

 

「誰っ!!」

 

フィルメニムの言葉を遮るように誰かの声が割って入ってきた。

声から察するに女性のようだ。

 

声のした方へ急いで振り返ってみると──。

 

「……誰?」

 

細身の剣の切っ先をこちらに向ける赤髪の少女がそこにはいた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「──そう、敵ではないのね。ごめんなさいね、いきなり剣を向けて」

 

「気にすんなよ。あの状況なら疑われてもおかしくないからな」

 

少女の名前はユリシア・リインフォース。

このステラス出身の女剣士だそうだ。

リインフォース……こっちの装備の名前と被るな。

 

さて、少女──ユリシアは腰を落ち着かせ、剣を鞘に納め膝の上に乗せながらオレ達に謝る。

どうやらオレ達を紅魔軍の兵士と勘違いしてしまったようだ。

 

だがあの状況、見ず知らずの集団が廃屋で不審な動きをしていたら誰だってこのご時世、紅魔軍の者ではないのか?と勘違いくらいするだろう。

 

「けど、どうしてこの家に?」

 

ユリシアはオレの顔を覗き込むようにこちらを見てきた。

どうやらまだどこかこちらを怪しんでいるようだ。

オレは右手に持っていたコーヒーを一口飲んでから口を開いた。

 

「レオという男の正体をつきとめるためだ」

 

「!!あ、あなた……レオを知ってるの?」

 

突然ユリシアはオレの肩をガッシリ掴んで引き寄せた。

何事かと思いながらもユリシアの顔を見れば、驚きと不安と悲しみを含んだ複雑な表情を浮かべているではないか。

 

「答えて!彼は……レオは今どこにいるの?!」

 

「レオは……奴は……」

 

オレは思わずユリシアから目を反らしてしまう。

というかユリシアはレオとどういう関係なんだろうか?

オレの見解が正しければレオとユリシアは何か因縁のようなものか、もしくは知り合いだったものと考えられる。

 

この廃屋と化したレオの家に来たのも偶然ではなさそうだし……。

 

「……そう、紅魔軍にいるのね?」

 

「!!」

 

「やっぱり、あの時の鎧騎士はレオだったのね……」

 

「やっぱり?やっぱりってどういう事や?」

 

ディセントの問いにユリシアは悲しみを含んだ瞳で天を仰ぎながら口を開いた。

 

「……あれは2年前。このステラスに紅魔軍の軍勢と『ガザリアス』と呼ばれる赤い竜が襲ってきたの。軍勢といっても、この間の『オペレーションラグナロク』に比べたら小規模なものだけどね」

 

「オペレーションラグナロク?」

 

「あの日──7月21日に起きた紅魔軍のクーデターの作戦名よ。さて、話を続けるわね。ステラスを急襲してきた紅魔軍は徹底的に破壊し、村人を容赦なく惨殺した。男性はともかく、私のような女性や子供もね。そして、村人の一部を連れ去ったのよ。その中には……レオのお母さんも含まれていた」

 

そこで一度話を区切ったユリシアは喉を潤すために紅茶を口に含む。

そして再び言葉を続けた。

 

「私はレオとは幼少の頃からの付き合いで、よく彼の家──ここに遊びに来たものよ。そして、同じ剣士としてよく剣を交えたものだわ。おっと、話が反れたわね。私とレオはレオのお母さんを助け出すために旅に出た。けど、私は旅の途中で紅魔軍との戦いで大怪我を負っちゃって、ステラスへ戻るはめになっちゃったけど。そして……“あの日”は訪れた」

 

手を震わしながらユリシアは言葉を続ける。

 

「私がレオと別れてステラスへ戻ってきてから2週間くらい経ったあの日、再び紅魔軍が現れたの。その中でも1人、蛇のようなデザインをした鎧を身に纏った騎士は引き連れていたオーガ達とは比較にならないくらい強かった。ステラスの上級騎士一団でさえ彼の前では赤子と大人の力比べのように、力の差が歴然としていたの。そして、その騎士は血のように赤く煌めく剣で向かってくる騎士達を殺し、スカイフットと女神像を破壊した……」

 

その光景を思い出すかのようにユリシアは目を閉じ、ぎゅうっと服の端を強く握りしめた。

 

「その瞬間、ステラスからは風の加護が消滅し、かつての風は吹かなくなってしまった……。悪魔のような高笑いを上げて、親指を下に向け、その騎士は怯える村人とステラスの騎士に向かってこう言い放った。『さぁ、地獄を楽しみなァ!!』ってね」

 

……そうか、紅魔軍がこのステラスを襲った理由はスカイフットを破壊するためだったのか。

ステラスにとってスカイフットとそこに祀られる女神像は言うなれば聖地と信仰神。

しかもこのステラスに吹き渡る風と力の源。

紅魔軍にとっては破壊すべきターゲットだったって事か。

 

「……生き残った騎士は私1人だけだった。怪我を負っていたけど、どういう理由か私だけ。……あの蛇の騎士の声、そしてあの剣捌きと魔力……騎士の正体はレオよ」

 

「!?」

 

蛇のような鎧を纏った騎士と聴いてもしやとは思ったが……まさかステラスを破壊したのがレオだって!?

レオは紅魔軍から拐われたお母さんを救うために旅に出たんだろ?

それがどうして仇敵である紅魔軍の騎士になってステラスを襲ったんだ!?

 

「ステラスの民は騎士の正体がレオっていう事を解ってはいるけど、それを言おうとはしない。というかレオ・エルフォードという人物の存在すら無かった事にしているわ……」

 

そりゃそうだ。

ステラスを襲った紅魔軍騎士がステラスの騎士なんて言えないし、何より、ステラスから紅魔軍へ寝返った者がいるなんて口が裂けても言える事じゃない。

だからあの族長はオレ達に「レオなんていう者はいない」と言ったんだ。

 

「……ユリシア、君に訊きたいことがある。レオの瞳の事だ」

 

「……族長はレオの瞳とその身に流れる血について知っていた。レオにステラスを襲われてから数日後、族長は私を破壊されたスカイフットに呼んだ。そこで明かしてくれたわ。『レオには忌々しい血が流れていた。その証拠が紅い瞳だ。そしてあの魔力と魔力光の色……レオは奴の血を引いているのだ。神滅狼であり魔狼である英雄“フェンリル”の血をな』、と」

 

やっぱり……レオはフェンリルの血を引く者だったのか。

あれ、待てよ?

という事は、オレとレオはフェンリルの血を受け継ぐ兄弟って事になるのか!?

 

「あ、それともう1つ。神滅狼って?」

 

オレは気になった単語について紅茶を飲むユリシアに訊ねた。

神滅狼なんて初めて聞いたぞ?

 

「あら?そんな事も知らないの?フェンリルの血を引く者なのに」

 

「な、なんでオレもフェンリルの血を引いてるって分かったんだ?」

 

自己紹介した時には名前しか言わなかったんだぞ?

するとユリシアはクスクスと笑いながらこちらに人差し指を突き出した。

こらこら、人を指差しちゃいけません。

 

「紅い瞳、レオと同じだもの。すぐに分かったわよ。さて、神滅狼についてだったわね。これはフェンリルの別名よ。フェンリルには他の魔族と違って恐るべき力を持っていたの」

 

「……神を滅ぼす力『滅神(ゴッド・スレイヤー)』、または『神喰(ゴッド・イーター)』と呼ばれてたなぁ。その名が示す通り、神をも滅ぼし喰ってしまうフェンリル唯一にして最凶の能力や。この力でフェンリルの旦那は紅魔軍将軍で総督のバジリスクを斃して次元の狭間に封印したんや。どんなに強い魔族でも神でも、滅神の力を持つ旦那には勝てなかったんや」

 

ココアをちびりちびりと飲みながらディセントはそうオレに説明してくれた。

 

「って、なんで今まで教えてくれなかったんだよ」

 

「だって、レミリスが教えてって言わへんかったしなぁ。なにより、私自身が忘れとったわ。アハハ~」

 

頭を撫でながら笑いまくるディセント。

なんかムカついたので拳骨を頭のてっぺんに落としてやった。

 

「このステラスはね、クロメリス戦争時にまだ紅魔軍側だったフェンリルに滅ぼされかけたのよ。だから族長とこのステラスの民はフェンリルにあまり良く思ってないの。いくら紅魔軍から人間側に寝返って、紅魔軍を滅ぼしたといってもね」

 

なるほど、だから族長のオレに対する態度と表情が厳しかった訳だ。

そういえばオレの事を「紅き瞳の少年」と言っていたし。

 

「でも、なんで私達に色々と教えてくれるの?」

 

「それは──」

 

「!!全員、横へ飛べ!!」

 

オレは声を荒げて叫んだ。事態を察したのか、ディセントや淳一達はすぐさま横へと飛ぶ。

オレはユリシアを抱き寄せてリインフォースを起動させ、高出力で今までいたレオの旧家から離れた。

 

刹那、旧家は凄まじい轟音と紫色の閃光によって跡形もなく消滅した。

 

「な、何……!?」

 

ユリシアは突然の出来事に頭の回転が追い付いていなかった。

そりゃそうだ。

オレだって今何が起きているのか説明を求めたい。

 

「……!!この匂い、とうとう来やがったか……」

 

「あぁ、例の“合成獣”がな」

 

舞い上がる土煙と黒煙、そしてクレーター状に窪んだ場所に“そいつ”は……いた。

 

左右の腕は不釣り合いの大きさと形だった。

巨大な百足の胴体に鋭い爪を持った右腕、蟷螂のような鋭利な鎌と一体化した左腕。

頭部には東洋の龍を思わせる角が生え、胴体と尾は竜そのものであり、何よりその合成獣は──少女の形をしていた。

 

合成獣──ウルタイルの鎌の攻撃を後方に回避しながらオレはリインフォースからエアブレードを放つ。

放たれた真空の刃はウルタイルに直撃はしたものの、硬い表皮をちょっとだけ削った程度のダメージしか与えられなかった。

 

「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!目ニ映ルモノ全テ

殺シテ破壊シテヤルゥゥゥゥゥ!!!」

 

「早くトドメをささないと……!エリュクリオン!」

 

フィルメニムはエリュクリオンを大戦鎌形態から、三日月状のブーメランに変形させ、ウルタイルの右腕目掛けて投擲した。

エリュクリオンは回転スピードを上げながらウルタイルに迫るが、その刃は右腕に届く前にがっしりと、狙った右腕で捕まれていた。

 

「そんな!高速で回転するエリュクリオンをノーダメージで受け止めるなんて……」

 

「グゥッ!ギュウ、ウゥゥゥアアァァァァァ!!!」

 

つんざくような咆哮を上げてウルタイルはエリュクリオンをフィルメニムへと投げ返す。

 

「中々うまくいかないものね……!」

 

フィルメニムは素早く右手の人差し指で空中に魔方陣を描く。

その魔方陣は青く輝くと、中心からいくつもの鎖が飛び出し、向かってくるエリュクリオンをがんじがらめにしてしまった。

 

「まったく、色々と規格外な合成獣ね!」

 

フィルメニムは魔方陣を解除して何事もなかったかのように、静止したエリュクリオンを回収し、ブーメラン形態から通常形態である大戦鎌へと変形させ、くるくると回した。

 

「これならどうだっ!」

 

「「ソニックスマッシャー!!」」

 

ウルタイルの死角から飛び出してオレはディセントから光の刃を放つ。

物理的攻撃と魔力攻撃が効かないのならと、光の力の塊であるソニックスマッシャーは効くはずだ!

 

──そう思ったのだが。

 

「無駄ァァァァ!!」

 

確かにソニックスマッシャーの刃はウルタイルの身体に届いた。

だが、光の力はまったくと言っていい程、ダメージを与えてはいなかったのだ!

 

「マジかよ……!?」

 

「……レミリス、あんたレオといいグリールといい、ごっつ強い敵に好かれるなぁ」

 

「うっせ!」

 

認めたくはない!

だが当たってるから余計タチが悪い。

とは言ってもなんとかここまでしぶとく生き残ってきたんだ。

 

「ここで負けてたまるかよ!」

 

オレはグリップを握りしめると、自分の魔力をディセントへと流した。

バチバチと刀身に紫電が走り、光と闇の力のオーラがディセントから滲み出て、小刻みに震えている。

 

「さて、やられっぱなしってのもいけねぇよな?」

 

「そうだな」

 

ウルタイルに吹っ飛ばされた2人も新たな武器を取り出して気合いを入れる。

初はバズーカ型のヘビィバレル、淳一は2連装ガトリング砲型のヘビィバレルをそれぞれ構えて、ウルタイルの背中に向けて魔力弾を放った。

 

「無駄ァァァァァァァ!!」

 

ウルタイルは雄叫びを上げながら2人の放った魔力弾を回避する。

だが、先程の魔力弾と違い、回避された魔力弾は弧を描いてウルタイルの背後に当たったのだ。

 

「グウゥッ……!」

 

追尾弾(ホーミング)か!」

 

そう、2人が放ったのは追尾弾だったのだ。

しかもただの自動追尾(オートホーミング)ではなく、操作追尾(マニュアルホーミング)という、ガンナー使いの中でも高度な魔力操作技術だ。

 

かなりの繊細さと技術力を求められるこの技をできるガンナー使いは少ない。

故に2人はガンナー使いの中でもトップクラスという事に他ならない。

 

「こっちも負けてられないわね」

 

そう呟いたフィルメニムは素早く右手で魔方陣を描き呪文を唱えはじめる。

 

「大地よ。我が敵とならん異形の者をその強固な枷と(くびき)で捕えよ!チェーンバインド!!」

 

カッ!と魔方陣が輝きだし、ウルタイルの足下からいくつもの鎖が出現する。

そしてあっという間にウルタイルの四肢・首・胴体を捕えた。

ウルタイルはうめき声を上げながら鎖を引き千切ろうと力をいれるが、ますます鎖がウルタイルの体を締め上げる!

 

「無駄よ?この捕縛魔術は大地のエネルギーを利用しているの。そう簡単には──」

 

「舐めるな小娘があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

バキンッ!!

 

脆く響き渡る音。

ウルタイルは意図も簡単にチェーンバインドを破壊し、その禍々しいオーラと魔力を辺りに撒き散らしていく。

障気とも呼べるそのオーラと魔力は触れた植物はもちろん、土・石・空気さえも腐らせていた。

 

あまりの濃さに近付いて攻撃する事はおろか、魔力弾でさえ障気によって侵食されてしまう。

 

「おかしい……おかしすぎるで?この魔力量と汚染率……いくら合成獣かてこないな力、外殻であるボディ自体が耐えられん」

 

一旦変身を解除したディセントは額に冷や汗を浮かべながらそう呟きウルタイルを睨み付ける。

だが、その睨み付ける表情は一転し、驚愕と半信半疑の入り交じった複雑な表情へと変わった。

 

「まさか……『ラーマヤマ』と『サンサーラ』!?」

 

ディセントから洩れた単語、残念ながらオレは耳にした事がなかった。

だがオレ以外のメンバーはそれを聞いてディセント同様驚きを隠せないでいた。

あぁ、オレってとことん無知だねぇ……。

 

「ディセント、そのぉ……ラーマヤマとサンサーラってのは何だ?」

 

「……かつて魔導師と一部の魔族達は、確実に安定的に魔力を発生させる機関ちゅーくだらんものを、クロメリス戦争以前から研究しとったんや。そしてできあがったんが世界中の魔力と術式を組み込んだ魔導書『ラーマヤマ』や」

 

けどな、とディセントは言葉を続けた。

 

「この魔導書は欠点があってな。作ったはいいんやけど、扱うには難しいシロモノなんや。そこで、魔導書を生体変化させ、空間の物質を魔力に変換し、半永久的に魔力を発生させる事に成功したんや。まさか合成獣──人間の女の子に搭載させるなんてなぁ、まったく恐れ入るわ」

 

そのラーマヤマを搭載したウルタイルは先程よりも刺々しく、禍々しい姿へと変化していた。

しかも新たに蜘蛛のような足と触手がウルタイルの体を突き破って出てきている。

 

「他にもあるでレミリス?この魔力量の異常さでピーンときたわ。魔力増幅機関、それが『サンサーラ』や。ラーマヤマで発生した魔力を宿し使いこなすには、魔力を受け止める器、簡単に言えば魔力コアが必要不可欠や。しかも発生量に対して出力が弱い。そこで、同時に開発されたんがサンサーラ。これのおかけで魔力コアの上限が大幅どころか、異常なくらい増えたばかりか、出力も桁違いになったんや」

 

その話を聞いてオレは愕然とした。

そんな危険極まりないものを1人の女の子に埋め込んだっていうのか?

馬鹿だ、大馬鹿過ぎるだろ?

 

「ウアアァァァァァァアアァアァァァアアア!!!」

 

叫びにも似た咆哮を上げながらウルタイルはこちらに魔力を収束させた魔力砲を発射してきた。

上空へとその攻撃を回避し、再びディセントを聖魔剣モードにさせてソニックスマッシャーを放つが、ウルタイルの放つオーラと魔力によって侵食され届くことはなかった。

 

再び攻撃しようと構えるがオレは思わずその行動を止めてしまった。

 

「──た──て」

 

「え?」

 

「た……す、ケ……て……」

 

泣いていた。

赤く禍々しく光る瞳から泪を流して頬を濡らしていたのだ。

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