ファング   作:ZERO式

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5 Sword: Sacred Archer

──どこにでもいる“人間”だった。

ただちょっと地味で人見知り、目立たない子だった。

私──美琴はそんな女の子だ。

 

私は東洋の島国の出身だが、未開拓地を開拓するためのメンバーとして、家族全員でレイピレス最大の大陸『バルケダ』にやってきた。

バルケダには未開拓地がまだ沢山あり、人間と魔族が互いの領土を広げるために日々争っている。

 

領土面積としては人間側よりも魔族側がかなり大きいのだが、魔族は人間を毛嫌いしているので、人間側に1つでも渡したくないのだ。

 

「ふぅむ……。また魔族側に開拓されてしまったようだな」

 

父さんは新聞を読みながらコーヒーをすすり、テーブルに置かれたパンを口にふくむ。

パンにはマーマレードが塗られており、柑橘類の甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。

 

「あっちは異能を持ってるものね。どうしても人間より有利よね」

 

そう言いながら母さんは父さんの隣に座ってマグカップに注がれた紅茶を一口飲む。

それにつられて私も同じように紅茶を飲んだ。

 

コーヒーは苦くてマズイから嫌いだ。

よく父さんはあんな苦いものを飲めるなといつも感心してしまう。

 

「だがこれ以上魔族なんかに土地を取られてたまるか」

 

父さんは根っからの魔族嫌いだ。

反魔族団体──通称『反魔』にも所属しており、定期的に行われる集会やデモにも参加している。

対する私はそこまで魔族を恨んではいない。

自分の身にも家族にも害を受けた訳でもないから、そこまでの気持ちが出てこない。

 

「ほら美琴、あなたも学校へ行く時間よ」

 

「……うん」

 

私はイスの横に立て掛けていたカバンを手に取り玄関へと向かう。

 

「……行ってきます」

 

あぁ、そういえば恨んでる奴等が私にもいた。

……魔族ではない。

……同じ人間だ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

……あぁ、今日もか。

 

「…………」

 

びちゃびちゃに濡れたイス、罵詈雑言が書かれた机、ボロボロにされた教科書やノート……。

 

「こっち見んな東洋人。猿菌に感染しちまう」

 

「ホントホント。穢れてしまうわ」

 

ケラケラと笑いながら蔑んだ目でこちらに暴言を吐いてくるクラスメイト。

そう、私は東洋人という理由だけで“いじめ”を受けている。

しかも毎日だ、そう……毎日だ。

 

ここでは何故か東洋人は毛嫌いされている。

ここと言ってもこの学校内だけだ。

何故東洋人を毛嫌いするかは分からない、知りたくもない。

 

「…………」

 

私は無言で自分の机やイス、教科書等を片付ける。

その様子をクラスメイトはおもしろそうに笑い楽しんでいる。

 

(……何故私だけがこんな目にあわなければならないの?)

 

魔法さえ、そう、魔法さえあればこんな奴等ぶっとばせるのに……。

やられてきた分、何倍にもしてかえせるのに。

 

「何をしている?さっさと席につけよ」

 

ガラガラと教室の扉を開いて担任の先生が入ってくる。

あぁ、そういえばこいつもこいつらと“同類”だったな。

 

「何をやっている吉良?さっさと席につけと言ったんだ。まったく、これだから東洋人は……」

 

そうぶつくさ文句を言いながら担任はこちらに舌打ちをし、それを見ていたクラスメイトはクスクスとあからさまに笑う。

 

この黒い思いは一体どこに発散させれば良いのだろう?

 

もし、私に力があれば……こいつらを“殺す”事ができるのに……。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「──なに?それは本当か?」

 

「はい。調査の結果、この集落には我々の“研究資材”として利用できる人間がおります」

 

雷鳴轟く暗雲が浮かぶ夜、暗闇の中話す者達がいた。

人間ではない、魔族だ。

 

「ほう?して、資材候補はどれくらいあるんだ?」

 

魔族の一部は人間を同じ生き物とは考えておらず、ただの虫けら同然の扱いだ。

故に人間を殺す事など、なんの躊躇いもない。

それは人間がハエや蚊を当たり前のように殺すように、彼等魔族にはそれが当たり前なのだ。

 

「今のところ13ってところです。なにぶん小さな人間の集落なもんで」

 

コウモリのような姿をしたそれはテーブルに置いてあった“赤い液体”の入ったグラスを取ると、ごくごくと中の液体をうまそうに飲み干す。

部屋には金属の匂いが若干立ち込めていた。

 

それを見ていた大きなイスに座る者もつられてグラスを口に運ぶ。

彼のは“人間”から作った酒だ。

 

「まぁいい。ともかく資材を確保する事が最優先だ。それ以外の人間はオーガや魔獣どもにでも喰わせろ」

 

「分かりました。これで我等が生み出した魔導書実験ができますな。しかも私の部下の調査によれば、他の人間よりも適合率が高い者がいます」

 

「ほう?それはどんな奴だ?」

 

コウモリのような魔物はニタニタと笑いながら上官の問いに答える。

 

「えぇ、人間のガキで女です。名前は──『吉良美琴』」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──夕刻。

私──美琴は帰り道でまたあいつらから執拗なイジメにあっていた。

服は土や泥で汚れており、傷もできて血も出ている。

 

「お前も分かんねぇ奴だな?目障りなんだよ、お前が学校にいるのが」

 

「バカなの?あぁ、東洋人だから私達の言葉が分からないのね」

 

……同じ人間として疑いたくなる。

なぜ人種が違うだけでこうまで差別されなきゃいけない?

私は沸々と心の奥底から沸き上がるこの気持ちを抑える事が限界に近付いてきた。

憎悪、怨恨、怨嗟、殺意、悲哀、妬み、憤怒、憎しみ、怨み、ありとあらゆる負の感情が私の心を支配していく。

 

それはさながらゆらゆらと静かに、だが激しく燃える炎だ──闇のようにどす黒い炎、それが段々と私の心を支配していった。

 

「──ろ」

 

「あん?」

 

「消 え ろ」

 

──ドパンッ!!

 

そう私が呟いた瞬間、目の前にいたメガネの男子は“弾けた”。

周り一面血の海と化し、周りにいたクラスメイトと私に血が肉が臓物が飛び散る。

 

「……え?」

 

「て、てめぇ!!」

 

「今なにしやがった!!」

 

激昂した男子の1人が私の首を絞めてくる。

この力、私をこのまま絞殺する気だろう。

 

「お ま え も 消 え ろ」

 

ドパンッ!!

 

また弾けた。

弾けた血によって私は全身を赤くしていた。

あぁ、なんだ、簡単じゃん。

 

「……人って簡単に死ぬんだね」

 

「ひっ……!?」

 

ドパンッ!!

 

悲鳴を上げた女子を睨む。

こいつはいじめの中心的な奴だった、だからこいつはじわじわと殺そう。

 

「ま、待って?謝るから、今までの事謝るからぁぁぁぁぁ!!」

 

顔中涙や鼻水等でぐちゃぐちゃにしてこちらに謝罪してくる。

 

チュバンッ!!

 

「いやあぁぁぁぁぁ!!」

 

左腕を吹き飛ばした、左足を吹き飛ばした、左腕を吹き飛ばした、左足を吹き飛ばした。

 

恐怖と苦痛により女子はもはやまともな事を口にしていなかった。

しかも失禁までしている。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

「ま、魔女だ!!人間の皮を被った化けも──」

 

ドパンッ!!

 

うるさい、さっさと死ね。

さて、残りはこの女子となった。

私が今いるところはこいつらが毎日のように呼び出してはいじめを行っていたところだ。

幸い、ここは民家がある場所から大分離れたところにある廃屋のため、滅多にここを人が通る事はない。

おかげでこうして気兼ねなく殺せるというものだ。

 

「私の腕、足……痛い、痛いよ……」

 

「そう?それは良かった。私もね、痛かったの。体も心も……それじゃ、バイバイ♪」

 

「ま、待って!お願い!殺さないで!!やめてぇぇぇぇ──」

 

ドパンッ!!

 

体が弾け飛び、恐怖に顔を歪めた頭が私の足元に転がる。

それを見て私は思わず大きく高笑いをした。

 

「アハハハハハハ!!!まだまだだ!!私をバカにした奴、全て殺す!!コロスコロスコロス!!!」

 

私の心は既に負の感情によって支配されていた。

同時に体の奥底からどんどん力が湧いてくる。

それは今まで感じたことのない素晴らしいもの、神様がくれたプレゼントだ。

 

「………………」

 

だがその前に帰ろう。

復讐はその後からでもいい、うん、そうしよう。

私は血で汚れた体に右手を添える。

すると、瞬く間に服と体から返り血が消え、朝と同じように戻っていた。

そして辺りを見渡してから廃屋から出て家へと向かう。

 

「ただいま」

 

「あら、おかえり。今日は遅いのね」

 

エプロンをしたお母さんが夕飯の支度をしながら声をかけてくる。

 

「うん。散歩がてら回り道してきたから」

 

「そう?」

 

それだけ言ってお母さんは再び夕飯の支度に戻る。

どうやら今日の夕飯はミネストローネのようだ。

トマトとコンソメの香りがするし、材料もそれに必要なものだし。

私は部屋に戻ると今着ていた物を脱ぎ捨て、真っ白なワンピースに着替える。

 

「…………」

 

まだだ。

まだ殺し足りない。

私をバカにした奴等は全員この力で殺す、謝罪されてもだ。

 

「フフフ……アハハハハハハ!!!」

 

──夕飯を食べてから私は部屋で本を読んでいた。

やることもないし、睡魔もないからこうやって暇を潰している。

そういえば夕飯の時に私が殺した4人の親が訪ねてきた。

家に帰ってこないから何か知らないか?という事だったが、帰らないのは当たり前だ──私が殺したのだから。

 

私は知らないと言ってあいつらの親は帰っていった。

ふん、次はあの担任辺りでもターゲットにしようかな?

あいつへの怨みも計り知れないしね。

 

どう奴等を殺すか思いを巡らせている時──それは起きた。

 

「キャアァァァァァ!!」

 

「ぐぎゃっ!?」

 

外から断末魔のような声が聞こえてきたのだ。

私はまだ力を使っていない……不審に思いながら窓から外を覗くと、そこは信じられない光景が広がっていた。

……いるはずのない、いや、いてはならない存在である魔族が村人を殺していたのだ。

 

「サンプル以外は殺せ!喰っても構わん!」

 

その言葉に従っている魔族(恐らくオーガやオーグだろう)は、容赦なく村人を襲い、文字通り喰っていた。

 

「美琴!!」

 

「何をしている!?逃げるぞ!!」

 

かなり慌てた様子の両親が私の部屋に駆け込んできたと思いきや、そのまま私の手を引いて裏口から逃げようとする。

裏口の目の前はすぐに山だ。

恐らく山へ逃げ込むつもりだろう。

 

「おい、あそこの人間逃げようとしているぞ!」

 

「問題ねぇ、喰うだけだ!」

 

見つかった。

気持ちの悪い醜悪な笑みを浮かべながら2体のオーガがこちらに近付いてくる。

その手には巨大な戦斧や石でできたハンマーを持っており、あれを食らえば人間なんて簡単にぐちゃぐちゃにされてしまう。

 

「えぇい!ここから去れ化け物共が!」

 

お父さんは薪割りに使っていた斧を手に取り、そのままオーガ達に向かって走っていく。

 

「は?人間ごときがオレ達に勝てる訳ねぇだろ?」

 

ドスッ!!

バキバキバキ!!

 

オーガの振り上げた戦斧は無情にもお父さんの肩に食い込み、文字通り真っ二つにしてしまった。

肉が千切れ、噴水のように血が吹き出す下半身……その光景を見ていたお母さんは叫び声をあげながらその場に座り込んでしまう。

 

「……ほぉ?こいつは最優先回収対象のガキだ。まさかこんなに早く見つかるなんてな」

 

ぐちゃぐちゃとお父さんの死体を食べながらオーガはこちらを見てニタニタと笑う。

最優先回収対象?

一体何だというのだ?

 

「で?隣の人間はどうするよ?」

 

「回収対象じゃねぇ。お前が食え。オレはこのガキを連れていく」

 

「げへへへ。了解だ」

 

……逃げられない。

足がガクガクと震えて体が動かない。

 

「──や」

 

「あん?」

 

「いやっ!!!」

 

その瞬間、私の腕を掴んでいたオーガの腕の肉が弾け飛ぶ。

しかし──。

 

「あん?お前魔力使えるのか?」

 

けろっとしているオーガ。

そんな、あいつらを殺したのと同じくらいの力だったのに……。

 

「オレ様に逆らった事、後悔するんだな」

 

オーガは私の両腕をその巨大な腕で掴むと凄まじい力を込めて握って──。

 

グシャッ!

 

私の腕を潰した。

潰した圧迫により、指先から勢いよく指の骨が肉を突き破り、私はあまりの激痛に絶叫した。

 

「いやあぁぁぁぁああああ!!!」

 

そしてオーガは握り潰した私の腕を引きちぎりうまそうに食べ始めた。

 

「逆らったお前が悪い。大人しくしていれば無事だったものを……」

 

「連れてけ。これ以上手を出すとオレ達が殺される」

 

パキパキという音で振り返ると、そこには変わり果てたお母さんの姿があった。

ありとあらゆる人間のものがぶちまけられ、もはや人間の形をしてはいなかった。

 

「お母さん……。いや……いやぁぁぁぁあああああっ!!!」

 

なんで私ばかりこんな不幸なの?

なんで?……私は生まれてきちゃいけなかったの?

生きちゃいけないの?

あいつらを殺した罰なの?

 

悲しみと怒りと怨みと痛みで涙を流しながら、私は魔族達に拉致された。

そして村は……文字通り壊滅し、連れ去られた人間以外は全てオーガやオーグの餌と化した。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

村を襲われ拉致されてから数時間が経過した。

オーガによって引き千切られた腕の手当ては、私と同じように拉致された人によって行ってもらった。

血が大量に出たので体がピクリとも動かすことができない。

 

「私達、どうなるんだろ?」

 

「知るかよ。奴等のエサにでもなるんじゃねぇの?」

 

「……もう嫌」

 

周りは何もかも諦めた人、泣き叫ぶ人、そして自決した人の死体が転がっている。

あぁ、私もあいつらに食われるくらいなら自分の呪いで死にたい。

けど呪いは私自身には効果がないみたいだ。

 

誰かに殺してもらおうとしたが声が出ない。

 

すると薄暗い奴隷用馬車がいきなり止まった。

どうやら目的地に到着したらしい。

 

「ご苦労」

 

「これはこれは──殿。このような場所に何用で?」

 

「なに、ここの所長に頼まれていたものを届けに来たのだ。全く、この私を使いに出すとは、“蛇”の奴め」

 

「同志であり友である──殿だから任せたのでしょうな」

 

「フッ……。言ってくれる」

 

外で話し声が聞こえる。

僅かに空いた隙間から外を覗いてみると、蝙蝠のような男が誰かと話している。

長身で銀色の長髪、見たことない形の鎧を胸の部分と腕にしか付けてない。

服装も恐らく東洋の島国辺りのものだろう。

そして何より、“紅い瞳”が印象的な男だ。

 

「……では私は蛇のところに戻る。貴殿達の実験が成功すれば我々、魔族の戦力は格段に増す。期待しているぞ」

 

「ははっ!」

 

そう言って長髪の男はその場から立ち去り、視界から見えなくなった。

男を見送った蝙蝠はこちらをギラギラした目でこちらに視線を移し、ニタニタと醜悪な笑みを浮かべながら馬車の扉を開けた。

 

「フフ。盗み聞きとはいけませんねぇ。人間風情があのお方のお姿を見れるとは本当に運が良い。普通なら見る事はおろか近くにいる事すら不可能。そのお姿を脳みそに深く刻みながら、貴女は素晴らしい力を手に入れ至高の存在となるでしょう!」

 

そう言って蝙蝠は私の首を掴み、奥にいた兵士の1人に投げ渡した。

そして兵士は私を肩に担ぎ、不気味な建物の中へと入りどこかへ連れていく。

 

「試験体01。“U計画”を成功させるためにはお前のような魔力の高い人間が必要だ。良かったな、普通なら虫けら以下で餌のような存在の人間がよ、オレ達と同じ存在になれるんだからなぁ」

 

ゲラゲラと気分の悪くなるような笑みを浮かべる兵士。

私は一体何をされるの?

 

「私に……何をする……の……?」

 

「あ?そうだなぁ、簡単に言えばテメェは『合成獣』になるんだよ。我等が素晴らしい技術でなぁ!」

 

合成……獣?

イヤだ……イヤだ!

 

「イヤァァァァァァ!!離してッ!!離してぇぇぇぇぇ!!」

 

イヤだ!

合成獣になんてなりたくない!

なんで!?

なんで私なの!?

 

「ハッ!そこはむしろ喜ぶところだぜ?つまんねぇ人間から卒業できるんだからな!」

 

私の意思なんて届くはずもなく、私は不気味な薄暗い部屋へと通される。

そして暴れる私の両足を折って拘束具の付いたベッドに寝かされ、首・腰・足を拘束具でガッチリ固定された。

 

「素晴らしい!素晴らしい魔力値の高さだ。普通の人間ではこうはいかん。これならU計画は成功したも同然だ!」

 

私に宿っている魔力値を見て魔族の研究員は歓喜の声をあげ、様々な道具を大量に持ってきた。

続々と手術室に研究員達が入ってくる。

着ている衣服には禍々しい紋様が描かれており、見るだけで吐き気がするくらいだ。

 

「さて──始めようか」

 

すると研究員の2人が何やら奥から光輝くものを持ってきた。

1つは触手のようなものがいくつも生えた肉の塊、そしてもう1つが紫色に輝くガラス玉のようなものだった。

 

「フフッ。これが何か分かるかね?魔導書『ラーマヤマ』。これは魔力を半永久的に発生し続ける代物でね。それをこの計画で使うために、生体変化させたのだよ。──さぁ、素晴らしい実験の始まりだ」

 

その言葉で私の体にはいくつもの注射針が射され、何なのか分からない薬品が流されていく。

そして大きな手で私の頭を掴み、巨大なノコギリで──切り始めた。

 

「ギャアァァァァァァァ!!痛い!!痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「ハッハッハッ!悪く思わんでくれよ?その痛みと恐怖により抽出される、脳内物質がラーマヤマへの拒絶反応を無くすのでね。あぁ、心配しなくて良いよ。今体内に注入している薬物のお陰で死なないから」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

こんな思いするなら、いっそのこと殺して欲しい!!

ゴリゴリと頭蓋骨をノコギリで削る音が部屋に響き、私の耳にも入ってくる。

そしてガパッという音と共に、完全に脳が露出した事が嫌でも分かってしまった。

 

「どれ、頭蓋骨は無事に開ける事ができたな。なら次だ」

 

研究員の1人が小指程の大きさの機械を私にチラチラと見せ、頭に、というよりも脳みそに直接埋め込み始めた。

 

「今君の脳幹に埋め込んでいるのはラーマヤマと増幅機関『サンサーラ』の統制制御する術式を組み込んだものだ。これがなくては2つを安定させる事ができないんでね」

 

そんな事を言われても今の私にはどうでも良い事だ。

もう痛みなんて通り越して感覚すらない。

今は早く死にたい、けど体に流されている薬のせいで死ぬことができない。

苦しい、辛い、悲しい、痛い、憎い……様々な負の感情が私を今まで以上に支配していく。

 

「制御術式安定に稼働開始。……よし、これなら適合できる」

 

「では次だ」

 

その言葉と共に寝ていたベッドが回転し上下坂さまになる。

そして背骨付近の台座が開き私は更に叫んだ。

 

「嫌だぁぁぁぁぁ!!もう殺してぇぇぇぇぇ!!」

 

「ハッハッハ!元気な人間だよ君は。これなら実験は成功間違いなしだ。では次に移行するとしよう!」

 

次の瞬間、私の背中は鋭利な刃物で切り裂かれ背骨が露になる。

更にそこに魔物達は骨に直接魔力循環の機械を、まるでボルトでも埋め込むように設置していった。

 

そして再びベッドの位置を元に戻し、あろう事か私の胸を触り始めたのだ。

 

「人間の女、男の慰みもの的な存在だからな。せめて人間でいられるこの瞬間だけでも楽しもうじゃないか」

 

そう言って魔物は醜悪な笑みを浮かべながら、気色悪い手つきで私の体を弄り始めた。

 

意思もプライドも何もかもズタズタにされた私。

今唯一残されているのは体の奥底から沸き上がる殺意だけだった。

 

「……さて、これで終わりだ」

 

再び鋭利な刃物で私の胸を引き裂く。

そして露になった肋骨をゴリゴリとノコギリ状の刃物で切除し、現れたのは私の脈打つ心臓だ。

 

「では、さらばだ人間の少女よ。そして──ハッピーバースデー!“ウルタイル”!!」

 

私から心臓を抉り取りその心臓を高らかに掲げる魔物。

あるはずのものが無くなった空間、そこに脈打つ“青白く光る心臓”のようなものを移植された瞬間──。

 

「ぐ……ぶ、う、ぐぶぉぉぉぉぉああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!!!」

 

今まで感じたことのない力が体中を走る。

開かれていた胸や頭はまるで映像を巻き戻すように元に戻り、更に体のあちこちから様々な動物や魔物の体の一部が生えてきた。

右腕はぐにゃぐにゃと気持ち悪く肉が蠢き、百足の胴体のような姿へ変貌し、鋭い爪が節々が出てくる。

 

左腕は裂けて再び合わさるが右腕と同じく人間のものではなく、蟷螂のような鋭く巨大な鎌となる。

 

頭からはメキメキと肉を突き破り2本の龍のような角が生え、胴体も竜に変わり、尻尾まで出てきた。

 

……もうそこに人間だった私はいなくなり、鏡に写るのは醜い化け物へと変貌した私がいた。

 

「フフ……フハハハハハ!!実験は成功だ!!魔力心臓に変化したサンサーラとラーマヤマも拒絶反応無し!これで私はあのお方の力になれるのだ!!」

 

高笑いしながら魔物はこちらに向き直り近づいてきた。

手には花束が握られており、それを私に突き付ける。

 

「おめでとうウルタイル。これで晴れて君は我々の仲間になったのだ。さぁ、これを受け取りたまえ。人間だったのだから花を送られる事の意味は分かるだろう?」

 

「………………」

 

私は無言で花束を受け取る。

それを確認すると魔物はどこからか取り出した地図を開きぶつぶつと何か言い出した。

 

「さて、では早速テストを始めるとしよう。戦闘力を調べるには……あぁ、この人間の村が近いか。ここでとりあえず人間どもを皆殺──」

 

「オい」

 

「ん?なん──」

 

刹那、血の噴水が部屋を真っ赤に染めあげる。

目の前には先程までぶつぶつと言っていた魔物の“首のない”体がフラフラと立ち、やがて膝から崩れ落ちる。

 

首は右側にあった壁に叩きつけられ原型をとどめる事なく、ドロドロと真っ赤な血と脳奬をぶちまけていた。

 

「ひ、ひいぃぃぃっ!!」

 

「逃ガすカッ!!」

 

悲鳴を上げ逃げ出そうとした魔物を右腕で捕縛し手繰り寄せる。

ガタガタと震えながら魔物は叫んだ。

 

「何故だ!?私達は言わばお前の親なんだぞ!何故──」

 

「黙レッ!!」

 

叫び騒ぐ魔物を私は頭から食らいつき引き千切る。

ボリボリと骨を砕く音を響かせながら私は“それ”を飲み込み、床にゴミのように倒れている胴体を踏み潰して室内にあるものを破壊し始めた。

 

「絶対ニ許さナい!!ミんナ壊ス!!殺ス!!壊シて壊しテコワシテヤル!!魔物モ人間も全てヲッ!!!」

 

果てしなく沸き上がる殺意と破壊衝動。

それに突き動かされるように私は施設を破壊しそこにいた魔物も人間も全て殺し、喰った。

もう私は人間には戻れない。

この体にした魔物達を許さない。

そしてこの世界に生きる全てのものを殺し、存在するもの全てを破壊してもこの気持ちは──哀しみは消えない。

 

あぁ、誰か。

誰でもいい……私を…………。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「た……す、ケ……テ……」

 

泣いていた。

禍々しい姿になり、辺りを侵食しながらウルタイルは、その赤く光る瞳から大粒の泪を流して泣いているのだ。

 

「まだ人間の感情が残ってるとでも言うの?」

 

そんな疑問を抱くユリシアの言葉を否定するように淳一はヘビィバレルの銃口をウルタイルに向けた。

 

「淳一!」

 

フィルメニムが名前を呼ぶが淳一はそれを遮るように大声で言う。

 

「情けは捨てろッ!見ての通りこいつは敵!仮に人間の感情が残っていたとしても元には戻れない!だったら今ここで殺す事が奴にとっても幸せなんだ!」

 

「まだ方法があるかもしれない!なのにそれも探しもしないでここで殺すの!?」

 

「その方法が見つかるまでどれくらいかかる?1年か?10年か?もっとか?その助かる方法が見つかるまで一緒に行動して安全だという保障がどこにある!」

 

言い争うフィルメニムと淳一へ向けて魔力弾が撃ち込まれる。

それを2人は回避するがフィルメニムに反して淳一はヘビィバレルのトリガーを引き、魔力弾を弾雨の如くウルタイルへ浴びさせる。

だがやはり魔力弾はウルタイルを包むオーラによって侵食され、届く事はない。

 

「ッ!見ろ、これが現実だ!あいつはオレ達を敵と見なして攻撃してきている。今ここであいつを殺らなければオレ達が殺られる!」

 

「い……ヤ……!壊さナキゃ……ダメ……殺ス、たくない……」

 

ウルタイルは新たに生えてきていた竜の腕で顔を押さえながら周囲を攻撃する。

その顔にはピシッ亀裂が入り、さらに目玉が出てこちらを不気味に見ている。

 

「……あかん。あの子の中のラーマヤマが暴走しとる。ここに来て肉体がラーマヤマとサンサーラの出力に耐えきれなくなってきてるんや……」

 

「なんだって!それじゃこのままじゃ……」

 

「自滅は確定やね。ただし、あれを中心に半径約数kmは一緒に消滅、草どころか私達まで塵になるっちゅー特典付きでな」

 

ディセントの言葉に一同は驚きを隠せずにいた。

そりゃそうだ、ウルタイルが死ねばオレ達どころか半径約数kmの命が消えると言われれば、誰だって驚愕するだろう。

 

「そんな事、させるかよ!」

 

「ちょっ!レミリス!?」

 

「あの馬鹿ッ!!」

 

オレはまっすぐ迷う事なくウルタイルへ向かって走った。

もちろんウルタイルからは無慈悲な攻撃が降り注ぐが、それを自分でも驚くくらい全て回避しているのだ。

 

「どうする気やレミリス?」

 

とそこへディセントが隣へ飛んでくる。

 

「決まってる!あの子を助ける!」

 

「やめとき。あの子はもう助からへん。今は一刻も早くあの子から離れるんや」

 

ディセントにしては珍しい発言だった。

それだけあの子の中のラーマヤマとサンサーラは危険な物という訳か。

 

「……そりゃオレだって逃げたいさ」

 

「なら──」

 

「けどな!目の前で涙を流して助けてと泣いている女の子を、見捨てるなんてできるかってんだ!」

 

今逃げれば助かるかもしれない。

だけど、絶対後になってオレは後悔する。

自分の命惜しさに女の子1人を助けなかった卑怯者だと……。

ならば、オレがする事は決まっている!

 

「けど助けようにもこっちの攻撃はあのオーラに阻まれるで?しかも近付く事もままならない訳やし」

 

「届かせてみせる!絶対に届いて貫く刃!伝説の聖魔剣ならそれくらいできるだろ!」

 

「……ホント、レミリスは無茶苦茶や。けどな、嫌いじゃないで?そーゆうトコ」

 

ディセントがこちらにウインクをした瞬間、彼女の体が金色に輝きだし眩い閃光に包まれる。

その光は聖の光でこちらに迫っていたウルタイルのオーラと触手を消滅させた。

 

そして、光が消えるとオレの手には双剣を合体させたような白と金に輝く、大型の弓が握られていた。

 

「これは……」

 

「新形態……一撃必中の『ボーゲンフォーム』や!」

 

ボーゲンフォームと呼ばれる新形態になったディセントからは、聖なる波動が静かに、だが大量に溢れ出ている。

 

「私の光の力であの娘の中で暴走してるラーマヤマとサンサーラを止める!莫大な量の魔力にそれ以上の聖力をぶつければ暴走は止まって、出力も安定するはずや!」

 

「けど魔力の塊であるウルタイルに聖なる力を撃ち込めば消えてしまうんじゃ──」

 

「そこはレミリスの腕の見せ所やで?大丈夫や、自分の力と私の力を信じるんや」

 

「……分かった!」

 

ドウッ!!とディセントの聖なる波動が増大する。

その波動はオレ自身をも包み込み、ボロボロになっていたジャケットとダメージを受けていた体を修復し癒した。

 

「初!淳一!フィルメニム!」

 

「おうよ!やってやれレミリス!」

 

「ったく、啖呵切ったからには絶対に助けてみせろよ!」

 

「援護は任せて!数秒でも捕縛してみせる!」

 

3人は上空へ飛び上がり、ウルタイルに向けてそれぞれの武器で攻撃する。

フィルメニムも攻撃しながら先程よりも強力な捕縛魔法でウルタイルをがんじがらめにした。

 

だがその捕縛魔法の鎖もウルタイルから放たれるオーラによってジワジワと侵食され始めている。

 

「く、来ルな……!コロセ、コロセコロセ殺しテヤるぅぅぅああぁぁぁっ!!」

 

絶叫しながらウルタイルは右手を横へ向ける。

すると手を突き破り1本の長大な野太刀が姿を現した。

その野太刀からはウルタイルと同じように禍々しい力が溢れており、実体刃なのか魔力刃なのか判別できない刀身が特徴的だった。

 

「消えろぉぉぉぉぉっ!!」

 

その野太刀をウルタイルは地面へと叩きつける。

その刹那、ウルタイル周辺の地面と空間が爆発し、ぽっかりとでかいクレーターができあがった。

 

「なんて威力だよッ!」

 

「レミリス!!」

 

「あぁ!後は任せろ!」

 

足元に深紅の魔方陣が展開される。

さらにその魔方陣からは聖なる金色の光も溢れてだしており、莫大な量のエネルギーが周囲を包み込む。

 

こちらに迫っていたウルタイルの攻撃の衝撃波とオーラも打ち消されている。

 

「うぐっ……ごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

フィルメニムの捕縛魔法を引き千切りウルタイルがこちらに突撃してくる。

 

「くっ!」

 

ぶつかる前にオレは左手を前に突き出し防御壁を展開する。

バチバチと両者の間に紫電が走る。

 

ウルタイルの体には亀裂が入り、ボロボロと崩壊が始まっていた。

恐らく体という器がラーマヤマとサンサーラの出力を受け止めきれなくなってきているのだろう。

 

「もウ……だめ……逃ゲテ、私ガ死ぬ前ニお前死ヌ……」

 

ウルタイルは涙を流しながら言った。

人間だった頃の自我が解放されつつあるのか、先程のような禍々しい殺意はあまり感じ取れない。

 

「これ以上殺しタくなイ……!早ク逃げルカ私を殺シテ!!」

 

「……さっき言ったよな、助けてってさ。ならオレはその言葉通りに動くまでだ!」

 

防御壁から光の力の捕縛魔法を展開しウルタイルの動きを封じ、オレは彼女から距離を取る。

 

そして上空へ飛び上がり、ウルタイルに向けてディセントを構えた。

 

「……いいかウルタイル。生存欲求には大きく2種類ある。『死にたくない』と『生きたい』だ。その2つの間には天と地ほどの開きがある。『死にたくない』で生きていけるほど、お前の道は優しくない。ましてや死にたいなんてご法度だ。お前を生かすただ1つの言葉は『生きたい』だッ!」

 

「──ッ!!……私ハ……生きタイ!!だカら……お願イ……助ケテッ!!」

 

心の底からの言葉。

ウルタイルは泣きながら大声でそう叫んだ。

 

「あぁ、助けるさ!!」

 

右手に光の力が集まり1本の矢が召喚される。

金色と銀色に輝くそれをオレはディセントにセットし、力いっぱいに弦を引く。

 

弦が引かれるごとに矢とディセントの聖なる波動が増大する。

そしてそれが最大になった時、オレは叫んだ。

 

「「穿てッ!!セイクリッドアーチャーッ!!」」

 

勢いよく放たれた矢はその形を変えて金色の狼となった。

そしてそのまままっすぐ何にも妨げられる事なくウルタイルの胸のど真ん中に突き刺さり、ぽっかりと穴が空く。

 

刹那、莫大な量の金色の聖力がウルタイルを包み込み、その禍々しいオーラと魔力を打ち消していく。

 

「アアアアアアァァァァァァァァァァァァァ──」

 

ウルタイルの合成獣の体は霧散して消滅していく。

そして全ての元凶であるラーマヤマとサンサーラの禍々しい魔力も、セイクリッドアーチャーの力で否応なしに消滅していった。

 

……眩い光が収まるともうあの禍々しい力は一切感じられず、ウルタイルの“合成獣の姿”も無くなっており、クレーターの中心には腰まで伸びた黒髪の少女が一糸纏わぬ姿で倒れていた。

 

オレは急いで駆け寄ると少女を抱き上げ、着ていたジャケットの上着を被せた。

 

「……良い寝顔じゃん」

 

少女──ウルタイルは幸せそうな笑みを浮かべながら静かに寝息を立て、レミリスの腕の中で眠っていた。

 

悪しき力から文字通り身も心もウルタイルは解放されたのだ。

 

「……ラーマヤマもサンサーラも安定してる。私の力で浄化されたから、もう二度と暴走はせえへんよ」

 

ボーゲンフォームから人間形態になったディセントはそう言いながらウルタイルの頭を優しく撫でる。

その様子を見て初や淳一達も武装を解除して近付いてきた。

その後ろにはユリシアの姿もある。

 

「やったなレミリス。それでこそオレの生徒だ」

 

初はそう言いながら肩を組みオレの頭を拳でグリグリとしてきた。

微妙にこめかみに入っているので痛くて辛い。

 

「分かった!分かったから頭グリグリするのやめてくれ!ウルタイルが落ちる!」

 

「おっと、わりぃわりぃ」

 

「まったく……」

 

「……これがフェンリルの血を継ぎし者の力か」

 

ボソッと淳一が言う。

 

「それだけやない、レミリスだからこそ発揮できる力や」

 

「フッ……。そうかも知れないな」

 

ドカッと淳一その場に座り、つられるように初やフィルメニム、ユリシアも座り込んだ。

全員疲労困憊、体力も魔力もすっからかんである。

 

「ユリシア、ステラスには医者はいるか?」

 

「もちろん。小さい頃からお世話になってる人だから、事情を話せば診てくれるわ」

 

「そっか。ならその医者の所へ行くと──」

 

「そいつがウルタイルか?」

 

『!!』

 

突然の声にオレ達は上を見上げる。

そこには背に携えた大剣の柄に手をかけ、左手に握られた銃をこちらに向ける1人の男がいた。

 

「……殺す」

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