ファング   作:ZERO式

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7 Sword :Princess of poison

「──んぁ?」

 

朝である。窓からは太陽の光が眩しく射し込み部屋の中を照らしている。……同時になぜか体を動かす事ができない、というか圧迫感がある。

眠い目を擦りながらオレは圧迫感のある左側へ視線を移した。

 

「………………」

 

「………………」

 

鮮やかな黒髪ロングな少女、ウルタイルことウルが寝ていました。いや、寝ている事もおかしいが、それよりも“何故服を着ていないのか”という事が一番おかしいだろう。

 

「……ん……あ、おはようございます……」

 

「お、おはよう……。して、ウルさんは何故裸なのかな?」

 

こちらの視線に気付いたのかウルはもそりと布団から起き上がり一言。寝ぼけているのかまだうとうとしている。

 

「…………夜這い?」

 

「オイコラちょっと待てや」

 

「?」

 

可愛らしく首をかしげるウルだが、すまんが今のオレに胸キュンする余裕はない。一人部屋ならまだここまで緊張しなくてもいい、だがここには皆いるのだよ。

 

「……夜這いしようとして、潜りこんだのはいいけど……レミリスさんの尻尾が気持ち良くて……そのまま寝ちゃいました」

 

よく見るといつの間にかフェンリル化していた。おかしいな、寝る前にちゃんと解除してたはずなんだが……。

 

「……レミリス、これはどーゆう事や?」

 

「ファッ!?」

 

振り向くとそこには呆れた顔のディセントとフィルメニム、笑顔でゴゴゴなユリシア、笑いを堪えている淳一と初がいた。……あれ、これって最高にまずい状況じゃね?

 

「正妻という私がおるのに……あの激しく愛し合った夜はなんだったんや!!」

 

「だあぁぁぁぁ!!誤解を招くようなデタラメ言うんじゃねぇ!!」

 

「とりあえず、言い残すある?」

 

ヨヨヨ、と嘘泣きするディセントをどけてゴゴゴなユリシアが指をポキポキと鳴らしながら前に出る。あぁ、どうやら話は通じないらしい。

 

「……オレ、この戦いが終わったら結婚するんだ」

 

「残念ね、それ死亡フラグよ」

 

「チョバムッ!!」

 

ドゴォッ!!とユリシアのパンチがオレの鳩尾にクリーンヒットした!

 

ウルとの戦いで受けたダメージが残る体には十分な威力、文字通り虫の息になったオレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、と。準備完了っと」

 

なんとかユリシアのパンチから回復したオレ、外で両足にミラージュを装着し軽く体操する。ディセントや初達も各々準備をしている。

 

「もう行くのかい?」

 

歯磨きをしながら先生が顔を出す。時刻は午前7時、早いったらありゃしないが致し方ない。

 

「オレ達は狙われる身だからな。長居してもいられないんだわ」

 

そう初は言いながらタバコを吹かす。

 

「先生も気を付けてね。あたし達に関わったんだ、無事でいられるっていう保証はないんだから」

 

不安そうな表情を浮かべながらフィルメニムが言うが、対して先生は口の中の歯みがき粉をペッと玄関で捨て、カラカラと笑うだけだ。

 

「心配しなさんな。自分の身を守るくらいの術は心得ているつもりさ」

 

「……先生、ありがとうございました。先生のお陰で元気になりました」

 

ペコリとウルは頭を下げ感謝の言葉を述べる。その頭を先生は優しく撫でた。

 

「ふふっ、医者冥利に尽きるって感じだね。またおいで、次は友達としてね」

 

「はい……!」

 

笑顔でウルは答えオレの隣に歩いてくる。あれ、もしかしてディセントのようにおんぶしてくれってせがみに来たのか?

だが予想は大きく外れる。なんとウルの背中からゆっくりとドラゴンの翼が文字通り生えてきたのだ。

オレの視線に気付いたのかウルは軽く翼を動かしながら話し始める。

 

「あ、これですか?合成獣だった身としては、これくらいの翼を生やすのなんて造作もないですよ。もちろん戦闘だっていけます」

 

えへん、とでも言いたげにウルはさらに右手の細胞組織を変化させ、びっしりと硬質の鱗に覆われた鋭い爪を持つドラゴンの腕へとチェンジしてみせる。

 

「昔食べた金剛竜(ヴァジュラドラゴン)の竜腕です。辞書数冊程度の厚さの鉄板なら簡単に貫きます」

 

「食べた、ねぇ。いくら腹が減ってても金剛竜は頂けないな。硬い」

 

相変わらずタバコを吸いながら初は言うが、突っ込む所違うから。

だが一方でフィルメニムはまじまじとウルの右腕を見て、何かぶつぶつ言っている。

 

「……ただ取り込んで能力を使ってる訳じゃない、魔導書の力で元の素材を強化させてるのね、しかも分子レベルで。あとはあとは──」

 

目をキラキラさせながら何やら探ってる。魔女だからそういう類いのものにはひかれるのだろうか、よく分からん。

 

そのフィルメニムも一通りウルへの調べが終わったのか、自身の武器であるエリュクリオンを形態変化させる。カシャッと一瞬で鋼鉄の翼へと変形し、フィルメニムの背中に装着された。

鳥の翼というよりも、蝙蝠の翼に近いフォルムだ。

 

「飛行に優れた形態よ。残念ながら戦闘はできないけど」

 

軽く翼を動かしながらフィルメニムが話す。

 

「便利だなエリュクリオンって」

 

「状況によって形態を変えられるから、オールラウンドで戦える……ふむ、ただの術式ではないようだ」

 

今度は淳一が興味を持ち始めた。だがこれ以上はきりがないので、一旦考えるのをやめて頂こう。

 

「まぁ、そろそろ行こうか。これ以上談義してちゃ時間がもったいない」

 

「それもそうだな……悪い、行こう」

 

淳一はバイクに跨がりエンジンを入れ、軽くエンジンをふかしディセントも空中にふわふわと浮かび、ウルと同じようにオレの横に並ぶ。

 

「ありがとう、この恩は忘れません」

 

「気をつけてな。落ち着いたら顔見に来なさいな」

 

「必ず」

 

深く先生に向けて頭を下げ、オレ達は新たな行き先である大陸へと向かい始めた。目指すは帝都フェンリティニティ。そこにいるであろう味方と合流して共に手を取り合って紅魔軍を倒すんだ。

そうオレは胸に熱い想いを抱きながら次の場所へと向かうのだった。

 

 

「……英雄の子孫、片方は世界を救おうと、片方は世界を滅ぼそうとしている。そして漆黒の男……世界はどうなっちまうんだろうねぇ」

 

「それは神のみぞ知るというやつだろう。だが私は古き軍団如きには屈しはしない」

 

独り言のように呟く先生の背後から1人の女性が現れる。騎士甲冑を身に纏っており、顔以外にはべっとりと魔物の血が付いていた。

 

「お、ご苦労様“シャーロット”。あれ、相方さんは?」

 

「まだ仕事中だ。あいつのターゲットが無事にステラスを抜けるまで見送るとの事だ……」

 

「熱心だね、お陰であの子らは無事に出発できたけど」

 

「ステラスの周囲に展開していた紅魔軍の部隊を壊滅させたのだからな。無事に出発してくれなきゃ気分が悪い」

 

シャーロットは先生の横に並びレミリス達が向かって行った先を見つめた。

 

「貴女からの依頼『英雄フェンリルの子を影ながら護衛せよ。状況によっては加勢し剣となれ』。契約は守る、騎士の誇りにかけて」

 

シャーロットは遥か遠くのレミリス達を確認すると、自身の愛馬を呼びその背に跨がり、その行き先を見据える。

 

「……行き先は大陸の方か。途中には確かレグルス騎士団の本拠地があったはず。交戦は避けられそうにないな」

 

シャーロットは自身の頭上に魔方陣を浮かび上がらせ、鎧にべっとりと付いた血を魔法で消す。そして今まで左腕で抱えていたヘルムを被り右手に両刃のロングソードを召喚した。

 

「先に行ってるミリアにもよろしく言っといて」

 

「了解だ。ではな」

 

先生に軽く手を振りシャーロットは自身の相棒の手綱を引き、あっという間に行ってしまった。

その様子を見ながら先生はポケットの中からタバコを出し口にくわえて吸い始める。

 

「……死ぬんじゃないよレミリス。あんたは私とあの人の“息子”なんだから」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──クファル大陸はレイピレス最大の大陸であるバルケダと陸続きの大陸である。レミリスの故郷であるファンクルやステラスもこの大陸にある。

その大陸とバルケダとを結ぶ大地──通称『アルベル』は草木どころか生き物も生息しない荒野だ。かつてのクロメリス戦争時に使用された特殊兵器によって、この地は文字通り全てが死に絶え、800年経った今日までその影響が残っていた。

 

場所によっては強い致死量を有した魔力の貯まった穴があり、ここへ落ちてしまえば何者であろうと体を侵食され死に絶えてしまう。

そのためクファルとバルケダはほとんどの者が航路での渡航を選んでいた。

そのような危険な大地を1人の男──ベルセルクは愛馬スレイプニールと共に横断していた。

 

「止まれ」

 

ベルセルクのその声にスレイプニールは歩みを止め、低い声で唸り始める。ベルセルクとスレイプニルの視線の遥か先、そこには真っ黒のローブで身を包んだ者がいた。

全身から滲み出ている嫌な魔力と殺気をベルセルクはすぐに感じとり、背に携えたヨルムンガンドに左手を伸ばす。

 

「君がベルセルクかな?」

 

背後から声がする。感じる魔力と殺気からして間違いなく先程まで遥か先にいたローブの者だ。声からして男、そして相当な実力の持ち主だとベルセルクは瞬時に悟った。

 

ベルセルクは問いの答えだと言わんばかりに左腰に携えていたルメシナス式散弾銃『ニーズヘッグ』を右手で抜き、振り向かずに背後のローブ男に向けて無数の魔力散弾を放つ。──だが手応えがない。

 

「おやいけないな、人の質問に魔力弾で答えるなんて」

 

見上げれば先程背後にいたはずのローブ男がベルセルクの頭上にいた。今放った攻撃のダメージは見受けられない。

 

「……魔術師か」

 

「左様、ネクロマンサーだ」

 

瞬間、ベルセルクを取り囲むように無数の敵兵が現れる。だがただの敵兵ではない、全てがネクロマンサーによって操られている、魔物や人間の死体だ。

 

「君を死へと誘う男だ」

 

ベルセルクはニーズヘッグをネクロマンサーに向け、再び引き金を引く。放たれた散弾は確かにネクロマンサーに当たった、だが当たった瞬間にネクロマンサーの姿は消えて無くなってしまった。ネクロマンサーが作り出した幻だ。

 

「……チッ」

 

「さてベルセルク君、君は生きてこのアルベルから抜け出せるかね?」

 

どこからともなく聞こえる奴の声、だが姿も見えなければ魔力も殺気も感じられない。

そこへ1体の魔物の死兵が跳躍し手に握られていた斧をベルセルクの頭上へと振り下ろしてくる。

 

だがその斧がベルセルクの体を引き裂く事はない、なぜなら既に死兵はスレイプニールの炎に焼かれ灰塵に帰しているのだから。

 

「スレイプニール」

 

ベルセルクの掛け声によりスレイプニールは高く鳴くと、その巨大な体から真っ赤な炎を燃え上がらせる。

ベルセルクは背に携えていたヨルムンガンドを左手で抜き放ち、自身とスレイプニールに向かってくる死兵に恐れる事なく突撃する。

 

まるベルセルクは槍を片手で回すように巨大なヨルムンガンドで群がる死兵達を斬り、潰し、引き裂いていく。

 

「ほう?この物量を見ても臆して逃げる所か進んで立ち向かうか。結構結構、そうでなくてはこちらも準備して来た意味がないというもの。楽しませてくれよ?」

 

刹那、上空に巨大な魔方陣が現れ紫色の稲妻が周囲に落ちる。

稲妻が落ちた場所には体長10m~15mはある青白く光るドラゴン型のモンスターが出現し、その邪悪に満ちた瞳でベルセルクを睨み付けた。

 

「……『雷撃竜(サンダーボルト)』か」

 

「左様。ドラゴンの中でも危険種に分類される凶暴なドラゴンの1体だ。その実力は知っていよう?」

 

サンダーボルトはその巨大な翼を広げ天に向けて低く、だが大きく吼える。

上空に紫電が走った刹那、ベルセルクの周辺に紫色の雷が降り注ぎ、味方であるはずの死兵達も巻き添えに無差別に攻撃していく。

 

ベルセルクはスレイプニールを走らせ迫り来る死兵達を薙ぎ倒し、放たれる雷を避けながらサンダーボルトへと突進する。

 

それに対しサンダーボルトは口を大きく開き口腔内にバチバチと紫色の雷が集束されていく。

 

そして次の瞬間、サンダーボルトの口から極太の雷撃を纏った咆哮がベルセルクとスレイプニールに向けて放たれた。

 

直撃、ベルセルク達を咆哮は包み込み辺りにいた死兵達をも消し炭に変える。

 

ニヤリと邪悪に口の端を上げて笑うサンダーボルトだったが、次の瞬間、その表情は驚愕へと変わり目を見開いた。

 

「まだだ」

 

なんと放たれた雷撃の咆哮の中を突き進んで来ているのだ。

炎は電気を通す、スレイプニールから放たれる炎をより巨大に出し続ける事で、体を焦がすはずの電気を放電し、感電を防いでいるのだ。

 

そしてそのままスレイプニールはその巨大な体躯でサンダーボルトの鳩尾に体当たりをかます。

あまりの衝撃にサンダーボルトは胃液とどす黒い血液を口から撒き散らしながら後方へと倒れる。

 

霞む視界でなんとかゆっくりと起き上がり自分に体当たりした敵へと視線移す。

視線の先には体当たりしたスレイプニールは確かにいた、だが“乗っていた人間の姿がない”。

 

まさかと思いサンダーボルトは振り返る。

男──ベルセルクはその巨大なヨルムンガンドを両手でしっかりと握りしめ、こちらに向かって跳躍してきていた。

 

「終わりだ」

 

苦し紛れにサンダーボルトは右腕を前に突き出しその鋭い爪で串刺しにしようとするが、その攻撃をベルセルクは簡単に避け左切り上げで腕を切り落とす。

 

切り落とした腕を踏み台にしベルセルクは更に跳躍する。

そしてサンダーボルトの喉元に近付いた瞬間、右薙ぎにヨルムンガンドを振るいその首を胴体から切り飛ばした。

 

「この短時間にサンダーボルトを斃すとはな、さすが紅魔軍に1人で反旗を翻すだけの事はある。だが、危険種1匹を斃したからと油断してくれるなよ?」

 

響き渡るネクロマンサーの声に、ベルセルクは嫌悪感を抱きながら、崩れ落ちどす黒い血液を流すサンダーボルトの体に着地した。

 

周りを見渡せば旅団規模ではないかと疑いたくなるような死兵の数、いちいち相手をしなくても突破しようと思えばできるのだが、ネクロマンサーがこの空間に何かしらの細工をしている可能性もある。

 

多少面倒ではあるがネクロマンサーを斃してこのアルベルから抜け出す。

そのためにはこの迫り来る死兵の軍団を殲滅しなくてはならない。

 

「スレイプニール、任せた」

 

低く唸り声を上げてスレイプニールは主の命に応えるように、巨大な体躯から真っ赤な炎を最大限に放出させ、迫り来る死兵の軍団へと突進する。

 

あまりの速度と攻撃力に死兵は踏み潰され、燃え、上空へと飛ばされる。

剣や斧で斬りつけようとするもスレイプニールが纏う真っ赤な炎により妨げられ、ドロドロに刃を融解され抗う事もできずに炎によって灰塵へと化された。

 

ベルセルクも向かってくる死兵相手に一騎当千の如き強さで蹴散らしていく。

ヨルムンガンドで薙ぎ払い、ニーズヘッグの散弾で死兵達を穴だらけにし、徒手空拳も織り交ぜながら群がる死兵を斃していく。

 

その様子を小高い丘の上から伺う1人の大巨漢がいた。

 

「ガッハッハッ!何万もの死兵相手にここまで粘るとは見事なり。だが……それもここまでよ」

 

鬼のような体に牛のような角、身の丈は約3mはあろうこの大巨漢、その風貌から牛鬼将軍と恐れられている紅魔軍の将である。

名をゴヴ、紅魔軍の中でもかなりの実力を有し、ネクロマンサー直属の臣下でもある。

 

「牛鬼将軍よ。あやつはお主が知っての通り、FFと同等かそれ以上の障害だ。この作戦で必ず仕留めなければならない」

 

「おう、任されよネクロマンサー殿。我が精騎兵3千と六鬼将が必ずや奴の首を討ち取ってごらんに見せましょうぞ!」

 

豪語するゴヴの遥か後方に彼と同じ魔獣牛馬に騎乗した甲冑の兵がズラリと並ぶ。

そしてその前方には6人の将軍、六鬼将と彼等が率いる1万2千の精兵が隊列を組んで戦闘開始の合図を今か今かと待っていた。

 

「六鬼将、黄泉軍(ヨモツイクサ)、前進!!」

 

『はっ!!』

 

ゴヴの掛け声と共に六鬼将とその精兵、黄泉軍が前進を始める。

丘の上から全速力で駆け降り、群がっていた死兵達を潰しながらベルセルクへと攻撃を仕掛けた。

 

「水鬼隊、攻撃開始!」

 

「火鬼隊、攻撃開始!」

 

水鬼将軍と火鬼将軍の合図と共に彼等の兵は魔力を展開する。

そして水鬼隊は水属性、火鬼隊は火属性の攻撃をベルセルクへと放った。

 

「新手か……ッ!」

 

死兵達を盾にしながらベルセルクは攻撃から回避し身を守る。

いつの間にかあれだけいた死兵はベルセルクの攻撃と味方である黄泉軍からの攻撃でほとんど全滅していた。

 

「オラオラオラ!邪魔だテメェ等ッ!!」

 

するとベルセルクの左側から土煙を巻き上げながら近付いてくる者達がいた。

紅魔軍配下、第九機械化騎兵隊である。

ゴヴや六鬼将達の兵とは違い、馬の代わりに武装したバイク部隊で構成された騎兵隊だ。

 

「ベルセルクの首はぁ!この淡興様のものだぜぇっ!」

 

部隊の隊長である男──淡興はバイクの後部に接続していたガンタイプのガンナーを左手に構え、銃口をベルセルクへと向ける。

 

「各自陣形を維持しつつ先行!ランスで奴を串刺しにしてやれ!」

 

『了解っ!』

 

淡興の命令で部下2人が先行しランスを構えながらベルセルクへと突撃する。

その後方からは淡興と他のメンバーが己のガンナーでベルセルクへと銃撃や砲撃を開始した。

 

「…………っ!」

 

馬とは違う速度と攻撃方法、ベルセルクは回避し反撃しようとするが、淡興の放った魔力弾によって持っていたニーズヘッグを破壊されてしまう。

舌打ちしつつベルセルクはヨルムンガンドで銃撃を防ぎつつ、重量武器であるヨルムンガンドを使っているとは思えないほどのみのこなしで騎兵隊の攻撃を回避していった。

 

「ちょこまかと……!」

 

攻撃が当たらず苛立つ1人がランスを後ろ手に引きながらベルセルクへと迫る。

すれ違い様にベルセルクの腹に突き刺そうとするが、肝心のベルセルクはあろうことか放たれたランスをなんと素手で掴んでしまった。

 

「降りろ」

 

「なん──ぐはっ!」

 

突然攻撃を止められた騎兵隊員はベルセルクに掴まれたランスごとバイクから引きずり降ろされ、そのままベルセルクの足元へと落下する。

乗り手を失ったバイクはバランスを崩し転倒、ガリガリと右側のフレームを削りながら数メートル滑り止まった。

 

落下した衝撃で肺の中の空気を強制的に排出された隊員は起き上がる事ができず、自分を見下ろすベルセルクを憎々しげに睨むしかできなかった。

そんな隊員を尻目にベルセルクは掴んでいたランスを放り投げると、先程まで隊員が乗っていたバイクをお越し跨がった。

 

「お、お前……オレのバイクを……!」

 

「借りるぞ」

 

隊員には見向きもせずにベルセルクはバイクを発進させ、騎兵隊や黄泉軍達へとヨルムンガンドを左手に持ち突撃する。

アクセルグリップを捻り、ベルセルクはスピードを上げながら迫る敵達の攻撃を受け止め、回避し、ヨルムンガンドによって薙ぎ払い屠り、蹂躙していく。

 

前方が開けた瞬間、ベルセルクは一度ヨルムンガンドを背に携え、バイクの後方に装備されていた機関銃型のヘビィバレルタイプに手を伸ばし構える。

そしてバイクをターンさせ再びアクセル全開でヘビィバレルから無数の魔力弾を黄泉軍へと叩き込んだ。

 

放たれた凶弾により黄泉軍の兵士達は哀れな肉塊へと姿を変え、さらに無慈悲に味方である牛馬に跨がる精騎兵によって踏み潰されていった。

 

外道めとベルセルクは誰にも聞こえない程の声を漏らし、沸き上がる怒りを抑えながら戦う。

 

「ベルセルクの首、取ったり!」

 

するとベルセルクのバイクに並ぶように1体の真っ赤な鬼──火鬼が丸太のような腕に持った戦斧をベルセルクの頭へと振りかざす。

 

だがベルセルクは何を思ったか火鬼が跨がる魔馬にバイクを寄せた。

 

「なん──どあっ!?」

 

急にバランスが崩れ火鬼は空中へと投げ出された。

何事かと火鬼は自分の魔馬を見て驚愕する。

 

なんと魔馬の前脚がベルセルクの乗るバイクの前輪に備え付けられていたスパイクによって、ズタズタのぐちゃぐちゃに潰されていたのだ。

 

「死ね」

 

「ひっ──」

 

ベルセルクはバイクの前輪へと急ブレーキをかけ、その反動で後輪を宙へと浮かせる。

後輪は回転しながら恐怖の表情を浮かべながら宙にいた火鬼の頭を、魔馬の前脚のようにぐちゃぐちゃに潰した。

 

うまくバランスを前輪で取りながらベルセルクは方向転換し、血みどろになった後輪が地面についた瞬間再びアクセル全開で精騎兵と黄泉軍へ漆黒のマントを靡かせながら突撃をした。

 

「……はあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

──どれくらい時間が経っただろうか。

半日、それとも1日以上か、それすらも分からない程の戦闘が未だに続いていた。

 

茶色い不毛の大地だったはず、だが今の大地は真っ赤な鮮血によって染まり、辺りにはかつて動いていた者達の成れの果てが無惨に転がる地獄絵図と化していた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

何千という敵に囲まれながらもベルセルクはまだ生きていた。

だがさすがに無傷と呼べる状態ではなく、纏っている外套や衣服は破け、露出している肌からは擦り傷や切り傷からなる出血があった。

 

何よりも肩で息をしている事からベルセルクの消耗と疲労が蓄積している証拠だ。

 

「……はああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

ベルセルクはヨルムンガンドを地面に突き刺し、落ちていたロングソードとグラディウスを手に取ると、二刀流で向かってくる精騎兵や黄泉軍達へ対抗する。

 

まだ体力があるのか縦横無尽で駆け、舞い、両手のロングソードとグラディウスで確実に目の前の敵を屠る。

だがいくら斬っても斬っても敵は減らず、時間とベルセルクの体力が奪われていくだけだった。

 

何十体か斬り伏せたところで両手に持っていたロングソードとグラディウスは音を立てて砕け散る。

 

小さく舌打ちをするとベルセルクは使い物にならなくなった2本を棄て、マントを翻しながら己に向かってくる敵を徒手空拳で薙ぎ倒し始めた。

 

ただのパンチやキックではない、自分の魔力を身体強化に変換しているため、その攻撃力は容易く相手の体を吹き飛ばす程の威力だ。

 

現にベルセルクは向かってくる敵の攻撃を必要最低限の動きで回避、隙を突いてパンチを放ち、カウンターを決めている。

 

「ふん!やりおるわ……なら、これはどうだ!」

 

緑色の体をした六鬼将の1人、風鬼は手にした蛮刀を天に向ける。

 

「むんっ!!」

 

風鬼が魔力を蛮刀へ送ると蛮刀から緑色の魔力光が溢れ、空に浮かぶ雲から1本の竜巻が降りてくる。

その竜巻は死兵達をも巻き込みながらベルセルクのいる場所へと一直線に向かっていた。

 

「我が風によりその体引き裂いてくれる」

 

「……ッ」

 

咄嗟にベルセルクは突き立てていたヨルムンガンドの場所まで跳躍、柄を掴んだ瞬間に竜巻がベルセルクを包み込み、そのままベルセルクは空へと舞い上がってしまう。

 

「ハッハッハッ!呆気ないものよ。これは牛鬼将軍の手を煩わせる程では──」

 

「見つけた」

 

「!!」

 

風鬼はその声がした空を仰ぐ。

そこには竜巻で舞い上げられたベルセルクがおり、あろう事かピンピンしているのだ。

 

対してベルセルクは左手で持っていたヨルムンガンドを逆手に持ち、重さ約500kgはあるヨルムンガンドを風鬼に向けて投擲した。

 

「そんな、馬鹿な──」

 

ベルセルクの身体強化された力によって投擲されたヨルムンガンドは吸い込まれるように風鬼に直撃し、その質量と衝撃から風鬼もろとも周りにいた黄泉軍や死兵達を跡形もなく葬り去った。

 

風鬼が死んだ事により竜巻は消滅、滑空しながらベルセルクは自分の落下地点にいた敵を拳と落下時の衝撃波によって、断末魔の叫びすら上げさせずに肉塊へと変え絶命させた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

(クックックッ……隙だらけだぜぇ?)

 

魔力と体力の消耗により、肩で息をするベルセルクに近付く者がいた。

名は鉄鼠のカタキラ、鉄の鼠の頭を模した仮面を被った細身の男で紅魔軍兵の1人。

 

毒を専門に扱うこの獣人は腰から吹き矢を取り出し、味方であった仲間達の死体に身を隠しながら毒矢を装填する。

 

(いつもは毒を仕込んだ鼠で町を潰すのが楽しみだが……こんな大物をオレの毒で殺すのも悪くねぇ……今だ!!)

 

一瞬ベルセルクが汗を拭ったその隙をカタキラは見逃さず、吹き矢に装填していた毒矢をベルセルクの右足に向けて放つ。

万全の状態であればベルセルクもこの程度の攻撃は回避できただろう、しかし、今のベルセルクは消耗して集中力も落ちていた。

 

故に放たれた毒矢はカタキラの思惑通りベルセルクの右足に刺さった。

 

「ぃやったっ!!このカタキラ様があのベルセルクを仕留めたぜぇ!!」

 

あまりの嬉しさにカタキラは隠れていた死体の中から飛び上がる。

だが、これがいけなかった……。

 

「…………」

 

「んでだよ……なんでまだ生きてんだよ……!」

 

普通の人間や獣人ならあの1発ですぐに毒が回り10秒もかからずに死ぬ。

にもかかわらず、目の前の男はそのような様子等無く、平然と矢を引き抜き、こちらに近付いてきた。

 

「……なら、お前で試すがいい」

 

「へ?」

 

間の抜けた声を上げるカタキラをよそにベルセルクは握っていた毒矢をカタキラの右目へ容赦無く突き刺した。

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

激痛と毒による苦しみに悶えながらカタキラはその場でのたうち回り、10秒程で口から泡を吹きながら事切れた。

 

「悪いな……オレに毒は効かな──」

 

効かないはずだった。

だがベルセルクはあろう事か片膝をつき全身に流れる痺れに対し驚愕していた。

 

「なんっ……だと……!?」

 

「ふん……いくら全ての毒に耐性があろうとそこまで消耗していたらある程度は効果が出るという事だな」

 

「貴様……!」

 

自分を見下すように見る牛鬼将軍をベルセルクは憎々しげに見上げる。

既に四方は囲まれており、今の体では逃げられない。

スレイプニールを呼ぼうにも毒が回りうまく声が出せなかった。

 

「牛鬼将軍ゴヴだ。さて、チェックメイトだなベルセルク。散々我等の手を煩わせおってからに……」

 

「黙れゲスが……」

 

ヨルムンガンドを支えに立ち上がろうとするも力が入らない、ようやく立ち上がってはみたものの足元はフラフラとしており、これが先程まで鬼神の如く戦場を蹂躙していた者の姿とは思えない程だった。

 

「ふん、どの口が言うのだ……?」

 

ニタァっと笑いながら牛鬼将軍はベルセルクの鳩尾に向け、その巨大な拳を繰り出す。

拳はベルセルクの鳩尾にクリーンヒット、あばらは折れなかったもののベルセルクは口から血を少量吐きながら後方へと吹き飛んだ。

 

「ぐぅっ……!!」

 

「ほう?やはりこの程度の攻撃ではくたばりはせんか。ならば」

 

そう言うと牛鬼将軍は自分の股がっていた魔獣牛馬に乗せていた巨大な戦斧を取り出し、その刃を倒れているベルセルクの首へ当てた。

 

「せめてもの情けだ。このゴヴ自ら貴様にトドメを刺してやる。なに、痛み等感じさせぬよう努力はする。それが強者への礼儀だろう?」

 

「……俺は死なんぞ。貴様等を滅ぼすまでな」

 

言葉に怒気をはらみながらベルセルクはゆっくりと立ち上がる。

それに呼応するかのようにカタカタとヨルムンガンドが小刻みに震え始めた。

 

同時に黒紫色のオーラが滲み出し辺りにいた死兵や黄泉軍の兵士が苦しみ悶え、体を流れる血液が沸騰し破裂した。

 

「なにっ……!?」

 

「貴様等を……紅魔軍を……バジリスクをこの手で滅ぼすまではなぁッ!!!」

 

ベルセルクの怒りが最高潮に達したその刹那、彼の体から黒紫色の魔力が溢れ出す。

そしてそれに応えるかのようにヨルムンガンドのオーラが爆発した。

 

「な、なんだっ!?」

 

「あ、あれを見ろっ!!」

 

黄泉軍の1人がヨルムンガンドが爆発した場所を指差す。

するとその場所から一糸纏わぬ金髪の少女が姿を現した。

 

「な、なんだこの娘は──」

 

「戻りなさい牛鬼将軍!!」

 

ネクロマンサーの声と共に牛鬼将軍はその場から転送魔法によって飛ばされ、ネクロマンサーのいる丘の上へと召喚された。

 

「ネクロマンサー殿!!戦士の戦いに水を差すとはどういう──」

 

「静かに。事態は非常に最悪ですよ……」

 

少女は辺りを見渡し手を握ったり開いたり、ジャンプしたり回ったりしている。

「お、お前は……?」

 

「……ゴシュジン?……ヘビ……ニオイ、オンナジ……?」

 

訝しげにその様子をベルセルクと回りの兵達は見ていたが、次の少女の行動で紅魔軍側は震え上がる事になる。

 

「オナカ、ヘッタ……イタダキ、マス」

 

その言葉と共に少女は近くにいた兵に食らいつき、文字通り食事( ・ ・ )を始めた。

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「モット……ゴハン……!」

 

無表情で回りの兵達を貪り食う少女に紅魔軍兵士は戦慄し、恐れ、パニックに陥る。

 

「この娘、殺してくれる!」

 

兵達が少女に食われ逃げ惑う中、水鬼とその部下は果敢にも少女へと立ち向かい、己の武器を振り上げる。

 

だが少女は特に関心もなく、死兵の腕を食いながら右手を前に突き出した。

 

「チョット……ウルサイ……」

 

少女の頭上に水鬼達の槍が振り上げられた瞬間、少女は突き出した右手から黒紫色の(もや)のようなものを出す。

靄は迫っていた水鬼達の体にまとわりつき、その強力な酸性の毒で水鬼達を溶かし始めた。

 

「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「こいつ……俺達をこの毒の靄で取り込んでやがる!!」

 

「そんな、我等が……黄泉軍がこんなぁっ!!」

 

ぶくぶくジュージューと音を立てて水鬼達は溶解し、少女の体へと養分として取り込まれた。

その光景を見ていた黄泉軍は我先にと叫び声を上げながら逃げ惑うが、目の前にいる空腹の少女はそれを許さない。

 

右手と左手を横へと広げれば先程水鬼達を溶かし取り込んだ毒の靄が再び発生する。

 

「コッチノガ……タクサ……タベレル」

 

その言葉と共に靄はまるで生き物のように蠢き、ベルセルク以外の者を根絶やしに取り込み始めた。

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「い、いやだ……食われたくない食われたくないぃぃぃぃぃぃ!!」

 

まさに地獄絵図、阿鼻叫喚で支配されている地を騎兵隊隊長こと淡興は己のバイクをフルスロットルで走らせ、我先にと仲間を率いて逃げていた。

 

「なんなんだあいつはよぉっ!」

 

「黙って走りやがれ!すげぇ……すげぇぜベルセルク!あんなの隠し玉として持ってたとは、奴は計り知れないぜ!」

 

仲間に怒号を飛ばしながらも淡興は何故か興奮していた。

もちろん退却する事に関しては腹が立っていた。

だがそれ以上に淡興を支配していたのはベルセルクに対しての興味と畏怖にも似た不思議な感情であった。

 

「ベルセルク……奴は何モンなんだ?今まで生きてきてこんなに心が踊る感覚は久しぶりだぜぇ!!」

 

持ち前のバイクテクニックで背後から迫る毒の靄を避けながら淡興は歓喜しながら残った仲間達と共に退却した。

 

「これは……ベルセルクめ、こんな隠し玉を持っていようとは……。よくも我が部下達を……!」

 

眼下で繰り広げられている一方的な虐殺に牛鬼将軍は歯軋りし、右手に持っていた巨大な戦斧をギリッと強く握り締めた。

その一方、隣にいるネクロマンサーはどこか興奮しているような表情をしていた。

 

「まさか彼が“遺されし遺産”を持っていたとは……しかも覚醒するなんて思いもよらなんだ。私の中の予想が確信になりましたねぇ……牛鬼将軍、残念ですがここは撤退しますよ。黒騎士やレオ(ガキ)には自ら抹殺すると言っておきながら逃げるのは些か不愉快ですが……まぁ、収穫もありましたからね」

 

「……っ。いいでしょう、従います。おのれベルセルクめ……今日の恨み、絶対に忘れんぞ!次に会う時はこの牛鬼将軍自ら貴様の首を引き抜いてやるわっ!」

 

そう大声で叫びながら牛鬼将軍はネクロマンサーと共にこの死の大地から姿を消した。

2人の紅魔軍の将が消えた大地では既に決着がつき、動いているのは今しがた食事( ・ ・ )をしていた金髪の少女、そして片膝をつき消耗しているベルセルク、ベルセルクの愛馬スレイプーニルだけだった。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「……ゴ主人、毒、苦シソウ……?」

 

金髪の少女はそう言いながらベルセルクの顔を覗きこむ。

心なしか話す言葉が先程よりも聞きやすくなっている。

 

「……黙れ……俺に、構うな……」

 

「待ッテ?毒……抜ク……ッポイ?」

 

キッと睨み付けるベルセルクをよそに金髪の少女は躊躇う事なくベルセルクの首筋に噛み付いた。

犬歯が食い込む痛みに少々顔を歪めるベルセルクだったが、しばらくすると体を支配していた痺れが無くなり、消耗していた体力まで回復した。

 

「……毒、吸ッタ。体モ、元気二ナッタ、ヨ?」

 

「貴様は……何者だ?」

 

ベルセルクの問いに金髪の少女は無垢な笑顔を浮かべながら、こう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシ、ヨルムンガンド!」

 

 

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