ファング   作:ZERO式

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8 Sword: Imagination Birth

オレ──レミリスと仲間達がステラスを経って3日が過ぎた。

その間紅魔軍の部隊やならず者達に襲われるも大したダメージを受けずに蹴散らし現在に至る。

 

だが野宿が続いているため女性陣からは度々ブーイングが男性陣へと浴びせられていた。

 

「なぁレミリス~?そろそろ水浴びやのうてお湯に浸かりたいんやけど~?あ、そや!フィルメニムの魔術で温泉出してくれへん?」

 

「あのねぇ、私は移動式銭湯じゃないのよ?」

 

「わ、私は水浴びでも……構わない、ですよ……?むしろ、レミリスさんと……一緒に浴びたい……」

 

「「やめなさいあんた」」

 

フィルメニムとユリシアからの的確なツッコミをものともせずにウルは頬を淡いピンクに染め、目を閉じ何やら妄想をし始めた。

ウルの発言に自称オレの正妻であるディセントは指定席であるオレの背中でぷくーっと頬を膨らませていた。

 

「むー、レミリスの正妻は私や!愛人とか第二夫人とかはお呼びやないで!」

 

「というか正妻だと認めてないからな?」

 

「な、なん……やて……!」

 

ヨロヨロと衝撃を受け大袈裟にのけ反るディセントを尻目にオレは淳一の駆るバイクのサイドカーで寛いでいる初の横へ並ぶように降下する。

初はこちらに気付くと意図を察したかのように懐から地図を取り出し、ふむんと場所の確認をした。

 

「……そろそろ連合軍の拠点である城が見えてくる辺りだな。聞いた話ではそこでは紅魔軍討伐のための精鋭が集まっているらしい」

 

この城を知ったのはつい昨日の事、ならず者を返り討ちにした際に手に入れた情報だ。

この城はクファル大陸の中心に近い所に建造されており、関所のような役目も果たしているらしい。

 

オレ達の目的は主に城で少しばかり休息を取らせてもらう事、あとは紅魔軍の情報入手とあわよくばバックアップしてもらえないかの交渉だ。

 

恐らくオレ達は紅魔軍から見たら異常な戦力(フェンリルの子孫、聖魔剣、合成獣etc…)を持った勢力だろうというのが初とユリシアの見解だ。

けど戦力に優れていても所詮は生身、疲労もするしできる事に限界もある。

 

そのため万全な状態で紅魔軍に挑むためには十分な休息と情報共有が必要なのだという。

 

「城についたらまずは風呂と飯だ。いくら紅魔軍からターゲットにされてるからって入った途端、捕縛されて幽閉なんて事はありえねぇだろ」

 

「それもそうね。むしろ歓迎されちゃうんじゃない?」

 

「…………」

 

淳一とフィルメニムが盛り上がる中、フィルメニムのエリュクリオン(箒モード)に乗同乗するユリシアは1人、浮かない表情をしており、2人のやり取り等全く耳に入っていない印象だ。

それに気付いたオレは飛んでいた所より少し高度を上げ、フィルメニムと並ぶように飛びユリシアに声をかけた。

 

「気になるのか?その、レオの事……」

 

「え?えぇ……。その、貴方やステラスの民達には悪いけど、どうしても私にはレオを絶対悪とは割り切れないの……。確かに彼は容姿の事で周りからは良い顔はされてなかったわ。それどころか類い稀な強さと魔力の持ち主でもあったから、疎まれ妬まれ何かと因縁をつけられる事もしばしば……。でも私は知ってる、彼の優しさ、お母さんを誰より愛してた事、エリナ( ・ ・ ・ )の唯一の理解者だった事も……」

 

「エリナ?」

 

こちらの問いにユリシアは当時を思い出すように少しだけ笑みを浮かべながら話してくれた。

 

「エリナはステラスの初代指導者の血を受け継ぐ女の子で族長の正当後継者、いずれステラスを導くとされていた1人よ。これは後からレオから聞いたんだけど、彼女は一族の証とされる予知夢の力を持っていたんだって。でも周りの大人達はこの能力をむしろ邪魔に感じていて、エリナがステラスの大災害を予知夢で見たって訴えても信じてくれなかったみたい……。そんな中レオは彼女の数少ない理解者、そして彼女専属の騎士となったわ……」

 

「それで、そのエリナって子は今どこに?」

 

この質問はいけなかったのか、途端にユリシアの表情は曇り、思わず視線を外した。

 

「……エリナはもういない。紅魔軍が再びステラスに攻めてくる前に死んだわ」

 

「そっか……すまない、その、嫌な事思い出させて」

 

「うぅん、気にしないで。レミリスは悪くないわ」

 

「……おいレミリス、話し中に悪いが、ちと問題発生かもしれん。もうそろそろ正面にでかい城壁と城が見えてもいい頃なんだが……妙だな」

 

そう話す初の顔がだんだん険しくなり、吸っていたタバコを吐き捨てる。

オレの頭には当たってほしくない予想が駆け巡り、背中に嫌な汗が垂れるのを感じた。

 

「ちょっと見てくる!」

 

「な、なら私も……!」

 

ディセントを抱えたままオレは上空へと上昇し城があるであろう地点へと向かう。

それを追うようにドラゴンの翼を生やしたウルも飛び立ち、すぐに隣に並んで共に飛んだ。

 

「レミリスさん……あれ……!」

 

「……勘弁してほいねまったく!」

 

「何があったんや?これ……」

 

ウルが指差す方向を見てオレとディセントは目を疑った。

本来城があるはずの場所には城はおろか城壁すら存在せず、代わりに巨大なクレーターと波紋のように盛り上がったいくつもの小さな丘がそこにはあった。

 

命の気配等存在するはずもなく、ぽっかりと空いたクレーターはまるで冥土への入口のようにも思えた。

 

「紅魔軍もバカじゃない、自分達を斃そうとしている連中を野放しにするはずないもんな……」

 

「地形が変わる程の攻撃……。対城か対軍に特化した兵器やろうね。それが魔術の類なのか、ウルみたいに生み出されたキメラかは残念やけど分からんねぇ……」

 

すぐさまオレ達は引き返し、城へとバイクを走らせる淳一達に状況の説明をした。

 

「初、やられた!城はもうない!紅魔軍に堕とされた!」

 

「なんだと?奴等城ごと破壊したってのか?」

 

「分からない。けど城があったとこにはどでかいクレーターができてて城の痕跡どころか瓦礫すらないよ」

 

「考えたくはねぇが奴等、どんどん力を増してきてやがるな……数百年の怨みは伊達じゃないってか?」

 

もしかしたら紅魔軍の尖兵が潜んでいるかもしれない、オレ達はいつでも戦闘へ入られるように気持ちを切り替える。

ディセントも人から聖魔剣へと変身、オレ自身も戦闘モードである魔狼形態(フェンリルモード)へと姿を変え、ディセントを握りしめた所で一行は森を抜けた。

 

城へと続いていたであろう道は崖となり寸断され、周りの森も攻撃の影響か吹き飛んでしまっている。

 

「こいつはひでぇ……跡形もなく吹き飛ばすとは(やっこ)さん方も容赦ねぇな」

 

「けど周りには敵の気配はないわね。レミリス達が城に飛んで行った時から索敵の術を展開してたけどそれらしいのは引っ掛からなかったわ」

 

フィルメニムが手のひらに青い花の形をした魔方陣を浮かべる。

どうやらこの魔法に引っ掛かると色が青から赤へと変わるらしい。

 

「残留魔力レベルは……うん、問題なさそう。人体へ影響が出る程の値じゃないわ」

 

「仕方ない……。今日はここに野営しよう。どのみちもうすぐ日が暮れる。敵の目がない今少しでも休んでおくぞ」

 

「幸いにも近くに川があるわ、そこに移動しましょ?道案内は私がするわ」

 

「さすがに山ん中はバイクは乗れないか。しゃーない、その川まで押していくしかねぇか」

 

「……一体、ここでいくつの命が消えたんだろう」

 

自分の無力さにオレはやるせない思いを抱いた。

そんなオレの気持ちを察したのか初は肩に手を置き諭すように言った。

 

「レミリス、お前がそこまで気に病む必要はないぞ、残酷かもしれないけどな。連合の拠点の1つになってた以上、遅かれ早かれここはこうなってたんだ。この先こーいう光景は増えていく、言い方はあれだが慣れるしかない。いちいち感傷に浸っている暇はない、度を越えればそれは“傲慢”だ」

 

「お、オレはそんな……!」

 

「“こうしていたら良かった”、“自分が強ければ”なんてたらればな感情はな、後悔であり傲慢でもある。……お前は根が優しいからな、1つ1つバカ正直に受け止めちまう。けど今は戦争中だ、どこかで割り切らなきゃ……お前死ぬぞ」

 

ぞくり、初の言葉に背筋に冷たいものを感じオレは心臓を鷲掴みされたような感覚を覚える。

だが当の初は真剣な表情からいつもの気だるそうな表情へと戻し、そそくさとフィルメニム達の方へと歩き始めた。

 

「なーに、お前1人で何でもかんでも背負いこむなって事だ。口うるさいじじいの説教とでも受け止めておけや」

 

「…………」

 

「レミリスさんには、私が()ついてます……。どんな敵でも……やっつけちゃいますから……!」

 

両手をぐっと握りしめながらウルは力強くオレに向けて言った。

どこか可愛らしいその姿に気持ちも落ち着きオレは感謝の意味も込めてウルの頭を撫でる。

 

「ありがとうなウル。おかげで少し楽になったよ」

 

「えへへ、レミリスさんに頭撫でられた……。撫でられた……撫でられた……」

 

顔を真っ赤にさせながら幸せそうに笑みを浮かべるウルを見たディセントは、すぐさま聖魔剣から人モードへと戻り、ずずいっ、とレミリスへと自分の頭を強調した。

 

「レミリスレミリス!私の頭も撫でてぇな!私むっちゃ頑張ってるで?ウルばっかりずるいで!」

 

「あーはいはい、ディセントも頑張ってるよありがとう」

 

ディセントのこれ見よがしのアピールに呆れつつリクエスト通り頭を撫でるが、どうも期待していたのとは違うらしく、少々不満げだ。

 

「むぅ、レミリスは女の子の気持ちを分かってないよ。あぁでもこの投げやりな感じもまた1つの愛?レミリスったらホントにツンデレ──」

 

「よしウル行くぞー」

 

「はーい」

 

ディセントがおかしな事を言い始めたためオレはウルの手を取ってさも当たり前のように初達の後を追うことにした。

 

「ちょ、レミリス、私が悪かった!悪かったから無視だけはやめたげて!さすがの私でもちょっちー傷付くんやで……」

 

少々涙目になりながらディセントも慌てオレ達の元へ飛んでくる。

さすがに少しうしろめたさがあったのでディセントに謝罪しつつも、オレは夕闇へとゆっくり消えていく城跡の光景から目を離せられないでいた。

 

「……嫌な予感がする」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「──なに?確かなんだろうなその情報は」

 

「間違いありません。先日攻略した山城の森で監視任務中だった使い魔からの報告です」

 

同刻、メサイアの自室にいたレオは部下であるジンからレミリス達の報告を受けていた。

ちょうど入浴している最中だったため、レオはその身に真っ白なバスローブを纏っており、水気を含んだ特徴的な青みがかった銀髪はより妖艶な輝きを放っていた。

 

「これはチャンスです団長。現在FFの周辺には紅魔の部隊はおりません。団長自らの手で彼を斃すべきだと私は推奨します」

 

「……ジン、お前いつから俺に意見する程偉くなった?」

 

「は……も、申し訳ありません」

 

キッ、とレオに睨まれたジンはたじろぎ頭を深々と下げる。

 

「まぁいい。紅魔に忠実なお前の事だ、障害となるものは早急に排除したいという気持ちも分からないではない」

 

愛用のイスに座るとレオはジンがグラスに注いだ鮮やかな赤い色の飲み物を一口、口に含みその香りと味を懐かしむようにゆっくりと飲み込んだ。

 

「……まだ残っていたとはな」

 

「えぇ、ステラス産の茶葉は有名でしたから。お気に召されなければ処分致しますが」

 

「任せる」

 

グラスに残った飲み物を全て飲み干すとレオは身長大の魔方陣を展開、身体が魔方陣を通り抜ければサーガの鎧を纏った冷酷な騎士がそこにいた。

 

「……動ける騎士はすぐに召集しろ。夜明けと共に奴等を強襲、殲滅だ。FFと聖魔剣は俺自ら殺る、他の取り巻きはお前達が処分しろ」

 

「はっ!」

 

「小規模転移魔術を使う。上には俺が言っておく、準備させろ」

 

「了解です。ではまた後ほど」

 

ジンが出て行った後、レオは窓の外で沈み行く太陽を睨む。

山々の中へと姿を消していくそれはレオとレミリス──2人の瞳ような紅い輝きを放っており、レオは忌々しく舌打ちした。

レオにはそれが一瞬、自分とレミリス、世界が今後迎えるであろう未来を見透かしたフェンリルの目のように見えたのだ。

 

「忌々しい亡霊が……神にでもなったつもりか」

 

──裏切りの英雄、叛逆の騎士、彼をそう呼ぶ者は少なくない。

元々レオはその力を覚醒させる前からフェンリルを、その思想を、世界を嫌悪していた。

そんな彼がフェンリルの血の力を覚醒させたとしても、脅威(紅魔)から世界を救うなぞ到底考えられるはずもなく、殺戮者として世界に牙を向くのは自明の理だった。

 

「1人は世界を滅ぼすため、1人は紅魔を滅ぼすため……。陰の魔狼()陽の魔狼(お前)、果たしてどちらが本当の姿なんだろうな」

 

レオは蛇の頭部を模したサーガのマスクを手に取り脇に抱えると、ツカツカと歩きレグルス騎士達が待つ中央会議室へと向かった。

 

その様子を1匹の黒猫が外のベランダの柵に座り、じっと静かに見ていたが、レオが部屋から出ていくと黒猫は沈み行く太陽へと視線を移し口の端を上げた。

 

「……私を失望させてくれるなよレオ?」

 

いつの間にか黒猫は可憐な少女の姿になっていた。

が、太陽が完全に消え星が瞬き始めると再び黒猫の姿に戻り、闇夜に紛れてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が満点の星空の真上に差し掛かる頃、オレ──レミリスとその一行は川のほとりで野営をしていた。

既に食事は済ませており、女性陣はフィルメニムの作った風呂に入りに行っている。

対してオレ達男組は周辺の警戒をしつつ各々の武器の手入れを行っていた。

 

「おい初、その工具貸してくれ」

 

「ん、ほれ」

 

ガンナー使いの2人は当たり前だが馴れた手つきで自分達の武器をオーバーホールしては組み上げていく作業を何回も繰り返している。

対するオレはアスティオンとアクティオンしかない訳だが、2人に教えてもらいながら同じように整備を行った。

 

「そうそう、ガンナーは鉛弾を打ち出す銃とは違うからな」

 

「前よりはスムーズになってきたじゃないか?」

 

「2人の指南のおかげでね。まだ細かいとこは難しいけど」

 

先に組み上がったアスティオンをホルスターに仕舞い、続けてアクティオンに取り掛かる。

すると脇でその様子を見ていた淳一がぽつりとこちらに呟いた。

 

「お前、そんな立派なガンナー持ってんのにあまり使わないのな」

 

「え?」

 

「そのまんまの意味だ。ディセントばっかり使ってそっちは(おろそ)かになってる気がしてな。仮にだ、仮にディセントが使えない状況に遭遇したとして、唯一使える武器がその二挺しか無かったらレミリスはちゃんと使えるか?」

 

「まぁまぁ、意地悪な質問は程々にしとけよ?だが淳一の言うことも分かる、けどオレ達は強要できないぜ?確かにガンナー使いからしたら気にはなるが、それを決めるのはレミリス自身だからな」

 

ガトリングガン型のヘビィバレルを整備しながら初は淳一を宥める。

淳一は整備を終えたガンナーのいくつかを拘束具服型のデザインをした夢幻へと仕舞い込み、ふいにオレのホルスターからアスティオン抜きくるくると回し始めた。

 

「それは百も承知だ。けどディセントはこいつらみたいに常にレミリスの懐にいる訳じゃない、お互い離れ離れにでもなってみろ。ディセントに世話になりっぱなしのレミリスは自分の実力のみで戦うしかないんだぞ?」

 

「そんなのレミリス本人が一番自覚してるだろさ。な、そうだろ?」

 

「あ、あぁもちろんさ」

 

適当に相槌を打ちつつオレは2人の言葉にどこかチクリと刺さるものがあった。

確かに最近はディセントに頼っててアスティオンとアクティオンはあまり使っていなかった。

けど時折ディセントと併用したり、2人やフィルメニムに訓練してもらったりしているのもまた事実。

まったく全然と言う程ひどくはないと思うのだけど……。

 

「ま、1つの事を極めるのもまた強くなるための一歩だ。ただレミリスは中途半端な気がしてならなくてね……どれ、ちと小便してくる」

 

アクティオンをオレに返すと淳一は少々バツが悪そうに頭をかきながら茂みの奥へと消える。

当のオレもなんだか痛いとこを突かれた感じであり、淳一から受け取ったアクティオンに目を落とした。

 

「あいつも心配してんのさ。いきなり戦いに巻き込まれたお前の事をな」

 

「うん、分かってる。……ちょっと荷物テントに片付けてく──あ」

 

アクティオンも組み上がり整備用の工具やその他諸々を入れたカバンを肩に担いで立ち上がる。

すると荷物を入れすぎていたのか、はたまたカバンが限界にきていたのか、突然底が破けてしまい、仕舞っていた荷物が全部地面へとぶちまけられてしまった。

 

「あちゃー……やっちまった。どうしよ、直してもまたすぐに破けるよなこれ?」

 

「底だから結構負担かかるしな。そもそも詰め込み過ぎたんじゃないか?」

 

「だよなぁ。替えの欲しくてもこんな山奥に店なんてなさそうだし……困った」

 

どうしようかと頭を悩ませているとその様子を見ていた初が何か閃いたような仕草をした。

 

「カバンは買う必要はないぞ。それよりもっと便利なのがある」

 

「へ?」

 

「新上先生の特別授業だレミリス。今回は……こいつだ」

 

そう言うなり初は懐(夢幻)に手を入れごそごそとし始めると、様々な大きさの布を数枚取り出し、オレへと手渡してきた。

 

「なにこれ?」

 

「こいつは“夢幻”だ。オレや淳一が着用している衣類型に加工する前の段階のものさ。それを用途に応じて様々な大きさに裁断していてな、衣類型に比べれば容量は少ないが、持ち運びには便利になっている。ま、とりあえずこれをカバンの代わりに使ってみろ」

 

「でも夢幻ってガンナー使いの装備だろ?ガンナー以外は仕舞えないんじゃないの?」

 

「そんな事はないぞ?確かに夢幻はガンナー装備として作られはしたが、その収納空間には収納するものへの制限はない。だから近接武器を仕舞ってる奴も中にはいる、中には衣類型を直接切る奴もいるしな。戦闘用に使うならその中に武器を仕込んでおくのも手だ」

 

初の言う事ももっともである、うまく活用すればトラップや死角からの攻撃等トリッキーな戦法もできない訳ではない。

オレは初に礼を言うと早速布切れの1枚を取り出し、脇に置いていたリインフォースを入れる。

布切れよりリインフォースは大きいのだが、不思議と引っ掛かりもなくすんなりと入っていき、その妙な感覚にオレは震えた。

 

「おぉ、さすがでかいヘビィバレルを仕舞えるだけの事はある」

 

続けてオレは地面に転がっていた荷物をどんどん入れていき、全て仕舞い終わると夢幻を懐へと入れた。

 

「……っていうか、もうガンナー装備って言えなくないそれ?」

 

「馬鹿野郎、道具を本来の用途に拘らず多種多様に利用する事が人間だぞ。オレ死人(アンデッド)だけど」

 

妙に説得力があるのでこれ以上は言わないでおこう。

しばらくすると淳一がトイレから戻って来るのと同じくタイミングで風呂に入りに行っていた女性陣が戻ってきた。

 

「たっだいま~レミリスぅ」

 

「おうおかえり。皆満足したみたいだな」

 

「おかげさまでね。さ、早く貴方達も入ってきなさないな」

 

「その間は私達が引き続き見張りをしてるから。何かあったら知らせるわ」

 

そう言いながらユリシアは腰に携えた細身の剣柄をを軽く握る。

 

「よし、んじゃ入ってくるか。行くぞレミリス」

 

「ん」

 

「私も……」

 

風呂へ初と向かおうとすると、さも当たり前かのようにウルも一緒に行こうとオレの後に続く。

しかしそんな行動を女性陣が見逃す訳がなく、すかさずユリシアがウルの襟を掴んでその計画を阻止した。

 

「なーに貴女も入ろうとしてるのよ。貴女はさっき入ったでしょ、まず年頃の女の子が異性とお風呂に入るんじゃありません」

 

「いやまず年頃と呼べるん生きてきた年代的に?」

 

「む……それ、言っちゃ……ダメです。それに……ディセントさんも……私と同じ……年代生きてる」

 

「ハッ!」

 

後ろで何やらコントが繰り広げられているが、内容に気にしたら負けが気がする。

ふと初へ視線を移すとニヤニヤとわざとらしい笑みを浮かべていた。

 

「まったく見せつけてくれるな色男。モテ期か?モテ期なのか!」

 

こっちの気苦労も知らないでモテ期で片付けようとしないでもらいたい。

夜な夜なウルがオレの寝床に入ってきてはディセントやユリシアから責められてるのだ、年頃の男子には色々な意味で刺激が強くて大変なんだから。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「──レグルス騎士団、配置につきました」

 

空が白み始めようとする頃、レグルス騎士団の本拠地であるメサイアではレオの指示で召集された騎士達が隊列を組んでレオの前に並んでいた。

 

その隣には長大なハルバードを右手に持ち、頭以外青いプレートアーマーを身に纏ったジンがおり、彼の腰には鞘に納まった金色のロングブレードが携えられている。

 

「……作戦内容は先に説明した通りだ。我等は紅魔に仕えし従順なる騎士であり高潔な獅子、紅魔に仇なす者は獅子の牙と爪をもって蹂躙しろ。容赦はするな。逃がせば負けと知れ!」

 

「イエス、マイロード!!」

 

騎士達の猛った声と共に床一面に巨大な魔方陣が展開される。

レオはそれを確認すると腰から愛剣──ウロボロスを抜き放ち、高らかに掲げ開戦の合図を告げた。

 

「レグルス騎士団、出陣!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──!」

 

突然の殺気と魔力反応を感じたオレは寝床から飛び起き、魔狼形態(フェンリルモード)へと変身する。

それと同時にテントの外で見張りをしていた淳一が大声を上げて寝ている皆を叩き起こした。

 

「敵襲だ!すぐ近くからだ!とっとと起きろ!」

 

「っ!ディセント!!」

 

「はいなっ!」

 

オレの呼び声にディセントは寝ていたテントから聖魔剣モードで飛び出し、ベストなタイミングと位置で構えていた右手に納まる。

全員が戦闘モードになったと同じくして前方の河川敷に巨大な赤い魔方陣が浮かび上がる。

魔方陣に描かれている紋様は蛇であり、こんなものを使うのは1つしかない。

 

そしてより強く魔方陣が輝いたその時、1体の影が魔方陣から飛び出るや否や、まっすぐオレに向かって襲い掛かってくる。

その初撃をオレはディセントで真正面から受け止め、攻撃してきた主へと怒号を飛ばした。

 

「やっぱりお前か!レオ!!」

 

「少しはやるようになったな!レミリスッ!!」

 

バチバチとウロボロスとディセントが接している刃から互いの魔力が(ほとばし)る。

鍔迫り合う中、オレは自分の周りに魔力の刃──ブラッディーダガーを複数召喚、目の前のレオ目掛けて放った。

 

だがレオはこの攻撃を後方へと飛び退きながら複雑に動くダガー全てをウロボロスで砕き、反撃と言わんばかりに魔力弾を撃ってくる。

 

全て切り裂こうと構えると後方にいたウルが目にも止まらぬ速さでオレの前に立ち、両腕を金剛竜(ヴァジュラドラゴン)の竜腕へと変化させ、胸の前で両腕を交差する。

放たれた魔力弾は全てウルの腕に直撃するが、高い防御力を誇る金剛竜を取り込んでいるウルには効かず、傷1つついてもいなかった。

 

「手加減してたとはいえ、全て受け止め無傷とは……さすがCODEーU──いや、ウルタイルと呼ぶべきか。理性を取り戻しより能力が向上したか」

 

「レミリスさんには……指一本、触れさせ、ない……!」

 

竜腕から更に半月状のブレードを生やし、ウルはじっとレオを鋭い目付きで睨み付ける。

先手必勝、両足をバッタの後ろ足に酷似した形態へと変身させると、ウルは驚異的な跳躍力でレオの目掛けて一直線に襲い掛かる。

 

凄まじい筋力による踏み込みにより地面は大きく陥没し亀裂が走る。

狙いは心臓、一突きで仕留めようとウルは鋭利な爪が生えた指を伸ばし、渾身の突きを繰り出した。

 

ガギィッ!!

 

「っ!!」

 

だがウルの攻撃はレオには届かず、間に割って入ってきた騎士──ジンの持つハルバードによって阻まれてしまった。

 

「団長は殺らせませんよ」

 

「こい、つ……!」

 

「ウル!下がれ!」

 

オレの呼び掛けにウルは素早く後退をする。

その様子をジンは少し感心したような眼差しでウルを見つめた。

 

「ほう?どうやら自我はしっかりとお持ちのようですね。合成獣ならとっくに自我は崩壊されているはずですが……」

 

「私は……もう、あの頃、とは……違う……!ますたぁ、を……レミリスさんを、いじめる奴……許さ、ない……!!」

 

「ウルタイル、お前は勘違いをしているぞ」

 

レオはゆっくりとジンの前に立ちウロボロスを構える。

よく見ればその後方には紅魔軍の旗と共に獅子を象った白い旗を掲げ、全員が白いフルフェイスのマスクを被った鎧姿の騎士団がおり、各々が様々な大きさのガンナーを手にし既に臨戦態勢にあった。

騎士団というよりは銃士隊という印象が強いかもしれない。

 

「これは喧嘩でもいじめでもない。戦争で、殺し合いだッ!!」

 

「チッ!!」

 

オレとレオはほぼ同時に踏み出し再び真正面からぶつかり合った。

それをきっかけにレオの率いる騎士団も咆哮し隊列を組むとガンナーを展開、攻撃を開始しウルや初達と戦闘を開始する。

 

一方、オレとレオは互いに激しく剣撃を繰り出し、一進一退の攻防を繰り広げており、ウロボロスとディセントがぶつかり合う度に凄まじい衝撃と魔力が迸っていた。

 

気付けばオレ達は先程いた場所から大分移動しており、現在は高い崖にかけられた全体を石で作られた石橋の上にいた。

橋の下には先程の川が流れているが、朝方という事もあり、橋の下は濃い霧に覆われている。

 

「俺の剣についてくるか、おもしろい!」

 

「こっちだってフェンリルの血を引いてるんだ!そう易々と死んでたまるかよ!お前こそ、同じフェンリルの血を引いてるくせになんで紅魔軍なんかに与するんだ!」

 

オレはディセントを横凪ぎに振り払い、三日月状の光の刃──ソニックスマッシャーを放つ。

ソニックスマッシャーはブーメランのように高速で回転しながらレオへとまっすぐ向かっていくが、レオはウロボロスを形態変化させ、鞭剣であるソードロッド形態で迫りつつあったソニックスマッシャーをバラバラに引き裂いた。

 

「知れた事!人間もこの世界も護るに値しないからだ!」

 

「オレは違う!オレは皆を護るために戦う!魔族だろうと人間だろうと関係ない!お前達紅魔がレイピレス支配のためにこの世界を壊して、人間や同胞である魔族を殺すのなら!オレはお前達を絶対に斃してやる!オレやお前の中にいる──」

 

「フェンリルのように、か?語り継がれる大英雄に憧れるのは否定しない。一度は誰もが通る道だからな。だが……果たしてそれは正しいのか?お前が護ろうとしている奴等は、本当に護るに値するのか?そもそもその暑苦しい戯れ言は貴様が真に抱いているものなのか?」

 

「な、なに……?」

 

オレはレオの問いに思わず聞き返し、ディセントを下ろした。

レオもそれに応えるかのようにウロボロスを下ろし、マスク越しだがしっかりと、まるで射抜くかのような視線でオレと対峙した。

 

「簡単な事だ、貴様が言う戯れ言は“フェンリルの血”に刷り込まれたもの、という事だ。貴様自身が抱いたものではない。いわば一種のプログラム──呪いと言っても過言ではない。そして──」

 

「レオッ!!」

 

自分の名を、しかも昔から聞き慣れた声で呼ばれたレオはハッとしながら声がした方へ振り返る。

そこにはかつて幼馴染みとして、相棒としていつも自分の隣にいた赤い髪の騎士──ユリシアがいた。

 

「ユリシア……!?な、何故、お前がここに……!」

 

「もうやめてレオ!2人が争う必要なんてないでしょ!?」

 

ユリシアとの思いもよらない再会にレオは珍しく戸惑っていた。

だがすぐに気持ちを切り替え再びオレに向け攻撃を仕掛けてきた。

 

「フェンリルの血を引く者は2人もいらん!ユリシア、お前はさっさとこの場から去れ!目障りだっ!」

 

「お前、ユリシアはお前の仲間だったんだろ!?そんな言い方あるかよ!!」

 

「貴様に俺とユリシアの何が分かる!知ったような口をきくな小僧ッ!!」

 

怒号を飛ばしながらレオは左手を前へと突き出す。

レオの怒りを表すかのように突如突風が吹き荒れ、今まさにディセントを振り下ろそうと構えていたオレは吹き飛ばされ、そのまま固い石橋へと叩きつけられた。

 

「ぐはぁっ……!」

 

「貴様はこの戦争の戦火を広げる元凶の1つ、これ以上無駄な血を流さないためにもさっさと死ぬがいい。偽りの信念を抱いている限り、お前は俺どころか紅魔の幹部クラスにさえ敵わんだろう」

 

「……さっきから……好き勝手決めつけやがって!!」

 

ディセントを杖代わりにして立ち上がると、怒号と共にオレの体から魔力が稲妻のように迸った。

放出される魔力によって戦闘服──フレイムジャケットの腰に接続されているサイドスカートが激しくはためき、足元の地面には亀裂が無数に走っている。

 

「このたぎる力と信念は……お前が言う偽りの、フェンリルの呪いなんかじゃない!オレは物心がつく前から人間と魔族の両方に育てられ共に平和に生活してきた!そして知った、どちらの種族も同じように命を大切にして手を取り合っている事を!もう争い事なんて望んじゃいない事を!人間も魔族もどちらも温かくて尊くて種族を超えて結ばれる人達も沢山いる!ならその人達を護るためにオレはとことん戦ってやる!この……“力”で……ッ!!」

 

頬の紋様と纏う魔力のオーラが濃くなる。

オレは左腕に意識と魔力を集中させると、親指の付け根辺りに噛みついた。

 

「あの噛みつきは……」

 

どこか思うところがあるのかレオはかすかに目を細める。

噛みついた傷から血が滴り落ちると滲み出ていた魔力と混ざり合い、“形”あるものへと再構築される。

そして魔力が完全に物質へと変換し終わるとそこにはディセントに瓜二つの紅い魔剣が握られていた。

 

「貴様……!?」

 

「え、え、えぇっ?!ちょ、ちょっとレミリス!?これはどういう事や!?」

 

レオはともかく、ディセントも驚くのは無理ないだろう。

まずオレ自身もぶっつけ本番でうまくいくとは思ってもいなかった。

 

「夢の中でフェンリルが言ったんだ。オレには“想像力”があると。ならその想像力を活かして何かできないかと……。そしてようやく、形になった……。これがオレのフェンリルとしての力であり牙──『想像創造(イマジネーション・バース)』だッ!!」

 

紅い魔剣──さしずめレプリカディセントとオリジナルのディセントを構えオレはレオへと突貫する。

レプリカディセントを振り下ろす直前に自分の魔力を流し攻撃力を上乗せする。

対するレオは反撃する事なく真正面からウロボロスでレプリカディセントを受け止めてみせた。

「面白い!己の血と魔力を媒体にして武器を創る能力とはな!だがッ!!」

 

レオは再びウロボロスの刃をソードロッドへ変化させるとレプリカディセントを弾く。

ウロボロスの刃がしなり切っ先がオレの顔面目掛けて迫るが、オレはディセントとレプリカディセントを交差、クロスに振り下ろし光と闇の力を宿した半月状のエネルギー刃を放つ。

 

X字状に放たれたエネルギー刃はレオのウロボロスと真正面からぶつかり合い、派手な爆音と共にエネルギー刃は消滅するが、ウロボロスは弾き飛ばさた。

 

「……なるほど、その喋る剣を模しただけはある。だが、まだ甘いな」

 

レオの視線がレプリカディセントに移る。

よく見ればレプリカディセントは刃全体が刃こぼれをし、ヒビも無数に入っててこれ以上は使えそうにはない。

 

そう思った矢先レプリカディセントは零れ落ちる砂のように崩れ霧散して消滅してしまった。

 

「まだだ!」

 

再び左手に魔力を集中させ切っ先が二又に分かれた剣を作り出す。

剣は帯電しており二又の切っ先からはバチバチと音を立てて稲妻が走っている。

 

雷竜剣(ボルト・レーム)!!」

 

右薙ぎに雷竜剣を振りはらい強力な稲妻も同時に放つ。

だが当のレオはマスクの中でニヤリと笑みを浮かべると、ウロボロスを橋に刺し腕組みをして言い放った。

 

「甘いと言ったはずだ!」

 

怒号と共にレオは右手を突き出すと、あろうことか掌から青い雷撃を放ち、雷竜剣から放った雷撃を簡単に打ち破ってしまった。

予想だにしてなかった反撃に成す術なく、オレは真正面からレオの放った雷撃をくらった。

 

「あああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

雷撃の威力で雷竜剣は破壊され、右手に持っていたディセントも衝撃で弾き飛ばされて宙を舞う。

剣から人モードにディセントは戻るも、受けた雷撃のせいか体が思うように動かず、そのまま橋に落下してしまった。

 

「あぅっ……!な、なんや今の雷撃、魔術的なものとはちゃう……!」

 

ディセントとオレの体からは紅い電気が走り、麻痺してるのか体が思うように動かなかった。

 

「言い忘れていたが俺に流れている血は狼だけではない。雷撃はもう1つの血の力だ」

 

「くそっ……!負けて、たまるかぁっ!!」

 

「だ、ダメやレミリス!一旦引かんと!死んでまう!!」

 

ディセントの静止を無視してオレは立ち上がり、両手に炎熱を纏った剣──火炎剣(ファイア・リール)を召喚、雄叫びを上げながらレオへと突撃する。

レオは再び雷撃を放ちこちらに命中するが、対するオレは怯まずに全速力で向かっていく。

 

(雷撃が効かない?……そうか、火は電気を通す。あの剣から常に炎を放出させる事で、体に受けた雷撃を炎から放電させているという事か……!)

 

「燃え散れ、レオッ!!」

 

「そう来なくてはなぁっ!!」

 

レオは右手に雷撃を集中させ、大出力の雷光刃を展開、飛び上がって空中から斬りかかったオレに切っ先を向ける。

互いの刃がぶつかり合おうとした──その時。

 

「な……ッ!?」

 

「……ッ!!」

 

なんとレオが立っていた橋の足元に亀裂が入り、瞬く間に轟音を立てて崩れ始めたのだ。

石橋をよく見れば互いの攻撃の爪痕が刻まれており、どうやら石橋が限界を迎えたらしい。

 

「やばっ……戻れねぇ……!」

 

魔狼態の今なら動体視力も優れており、この崩れていく石橋の石を足場にして戻れた。

だが先程受けた雷撃のダメージのせいで体がうまく動かせず、苦し紛れにオレは離脱しようとしたレオの右足を掴んだ。

 

「貴様……ッ、離せ!」

 

「逃がす、かよ……!!」

 

 

激しい轟音との中、オレはレオの足を掴んだまま、レオと共にまっ逆さまに濃い霧がかかった橋の下の川へと落下した。

頭上からは沢山の大きな石も絶えず落ちてきており、今はこの降ってくる大石で潰されないようにするのがやっとである。

 

「う、ウソやろ?レミリスー!!」

 

「そんな、レオ!レオー!!」

 

ディセントとユリシアの2人が叫ぶも虚しくその声は轟音の中にかき消された。

2人は橋の下を覗き込むが立ちこめる砂埃と濃霧によって下の様子が全く見えず、オレとレオの安否等確認できるはずなかった。

 

「こんなとこで、死んで……たまるかよ!」

 

川の中に引きずり込まれて沈まないようにもがき、タイミング良く流れてきた丸太に必死に捕まりながらオレは叫んだ。

何度も岸へ上がろうと試みたものの流れが急すぎてうまく進めない。

そうしてもがいているうちに川は途中から滝となり、どうする事もできずにオレは滝壺へと落ちて行った……。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「──…………ん。う、ぐぅ……いてぇ……。ここ、は……?」

 

全身に走る痛みでオレ──レミリスは目を覚ました。

どうやら滝壺に落ちてから奇跡的に中流か下流の河岸に流れついたようで、無傷とは言えない状態だが生き延びる事ができたようだ。

 

上体を起こしてみると半分川に浸かっている状態だったため、ゆっくりと立ち上がり川から上がって数歩歩くと、崩れ落ちるようにその場に座り、倒れ込んだ。

 

「はぁはぁ……!ここ……どこだ……?生き延びたはいいけど……」

 

周りを見渡すも辺りはまたもや濃霧に覆われており、周りも鬱蒼とした木々が生い茂った薄気味悪い森としか知りようがなかった。

しかも追い討ちをかけるように周辺からは生き物の気配すらしない、初めて味わう“孤独”というものに情けなく身体が震えてしまう。

 

──パキッ。

 

「!!」

 

不意に聞こえた木の枝が折れるような音にオレは飛び起きホルスターからアスティオンとアクティオンを抜いた。

耳をすませばこちらにゆっくりと近付いて来る足音も聞こえ、ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音も聞こえてきた。

 

だが霧の中から現れた“人物”にオレは思わず目を見開いて固まってしまった。

 

「……貴様も生きていたのか、レミリス」

 

「──レオ!?」


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