短編集by???second   作:???second

12 / 17
予告通り、毎週土曜、劇場版ウルトラマンジード公開日まで短編を最大5分割で投稿していきます。

インフィニットストラトス×ウルトラマンジードのストーリー、お楽しみいただけたら幸いです。

…ちなみに自分、ISはアニメ1期を見ただけです。後は二次創作やwikiなどでかいつまんだ知識をもとに書かせてもらってますので、不満を抱く人もいるかもしれませんが、できうる限り楽しめるように書いておりますので、どうかご了承ください。

誤字脱字については、自分でも見落とすこともあるので見つけたらお知らせください。

ハーメルンでは、よくISは一部キャラへのアンチもの(特に織斑姉弟や篠之乃姉妹に対して)が多い印象ですが、このようなジャンルは正直読んだら気分が悪くなるという自分の意向で、本作品はそういったものを極力避けて執筆いたしております。悪い敵役でない限りはディするより綺麗なキャラとして描いた方がいいと思うので…

では、どうぞ!


インフィニットウルトラマンジード(1)

M78星雲に、とあるひとつの星がある。

その星は、われわれの地球と非常によく似た環境ゆえに、地球と同様に人間が(正確には人間に限りなく近いヒューマノイド型宇宙人)、悠久の平和のときを過ごしながら暮らしていた。

星の文明も地球よりもはるか未来の系譜にあり、まさにSF映画の一幕をそのままリアルに表現したかのような光景が広がっていた。

しかし、現在から20万年以上前のある時期、彼らの星の太陽が寿命を追えて爆発してしまう。太陽を失い、世界は凍てつく暗闇に閉ざされてしまい、その星の人間たちは絶望と共に滅びのときを迎えようとした。

しかし、その星の科学者たちをはじめとして、諦めない心を糧に、新たな太陽を作り出す計画が始まる。彼らの尽力により、人工太陽『プラズマスパークコア』が完成する。コアのエネルギーをタワーに接続させ、星全体にそのエネルギーが行き届いたそのとき、彼らの体に異変が起きた。

人間のシルエットをベースに、彼らは予想外の進化を果たした。

 

彼らは後に、『ウルトラマン』と呼ばれる。

 

 

ウルトラマンとなったその星の人類は、その力を正しいことのために使うべく模索し、『宇宙警備隊』を結成する。

 

あらゆる自然脅威、侵略、災害…彼らの活躍により数多の星で発生したそれらは解決され、乱れていた宇宙の秩序は徐々に正されていった。

 

しかし、長い歴史の中でただ一人、ウルトラマンの強大な力の誘惑に負けてしまった男がいた。

 

 

名は…『ウルトラマンベリアル』。

 

宇宙警備隊の中でも、後にウルトラの父と呼ばれる戦士『ウルトラマンケン』と肩を並べる凄腕の戦士。しかし以前から彼は、「悪は徹底的につぶすべし」という、正義というには過激な思想を持っていた。

それゆえに彼は、光の国に宣戦布告し後に『ウルトラ大戦争』と呼ばれる戦争を起こした『暗黒大皇帝エンペラ星人』の邪悪な闇の力に心惹かれていた。

やがて、悪と正義の境界線の上にあるその過激な思想を持つ彼よりも、堅実かつ最善の結果で平和を求めるケンの方が周囲から理解され、そして力をつけていく。やがて宇宙警備隊の大隊長に任命された彼に嫉妬を抱いたベリアルは、禁忌に触れてしまう。

それは、人口太陽『プラズマスパークコア』のパワーを手に入れること。

これを得れば、そのウルトラ戦士は莫大なエネルギーと力を得られるが、それは同時に光の国から、再び光を奪い、闇に閉ざされた氷の星へと変えてしまうこととなる。故に触れることは禁忌とされ、光の国では最悪の罪となる。

力を渇望していた彼はかまわずにコアに触れてしまう。

 

 

―力だ、力が欲しい…

 

―越えてやる…俺を見下したあいつらを!

 

 

だがコアの力はベリアルほどの戦士でも耐えられるものではなく、逆に彼の体を苦しめる。禁忌に触れたことが露となったベリアルは、光の国からの追放処分を下された。

そして彼の運命を決定付ける出来事と遭遇する。

 

『光の国が憎いか?』

 

『だ、誰だ…?』

 

暗い宇宙の片隅にある星。傷ついていたベリアルは、ある思念体と遭遇する。思念体はベリアルに語る。

 

『私はレイブラッド。全宇宙を支配する者だ。お前に力を与えてやろう』

 

それは、かつて宇宙を制覇し恐怖に陥れた、宇宙の歴史の中でもっとも最悪の宇宙人、レイブラッド星人だった。

数多の怪獣軍団を率い、強大な力を持ったレイブラッド星人だが、肉体の限界を向かえ、いわゆる幽霊の状態でさまよっていた。再び宇宙の頂点に返り咲くため、自分の遺伝子を受け継がせた星人たちを争わせたりなど策謀をめぐらせていたが、その果てに彼はベリアルを見つけ出したのだ。

 

自分の野望を受け継ぐにふさわしい、器として。

 

『うわああああああ!!やめろおおおおお!!!』

 

この時点でのベリアルは、まだ正義の心が残っていた。しかし、レイブラッドはベリアルの意思を無視し、彼の体に入り込んでいく。

やがて、ベリアルの銀色の体は…暗黒の色に染まり、その顔も鮫のように凶悪な容姿に変貌してしまう。

 

これが、光の国唯一の悪の戦士、ウルトラマンベリアルの誕生だった。

 

 

これをきっかけに、ベリアルは自分の故郷への復讐と全宇宙制覇に乗り出す。

 

強大な力を持つベリアルはまさに無双の力の持ち主。ウルトラ戦士が何人相手でもかなわないほどで、しかも何度も敗北と死を迎えてなお、彼は復活し宇宙警備隊を苦しめていく。

 

それは、ウルトラの父以外でベリアルと因縁のある若き最強戦士『ウルトラマンゼロ』でも手を焼くほどだった。

 

最初は善戦していたゼロだが、とある別宇宙の地球での決戦で、自分よりも高い成長を見せたベリアルの前に敗北する。

「どうしたゼロ?貴様の力はその程度か?俺が貴様の肉体を乗っ取った時に見せたあの力も出せないか?」

「ちっくしょおが…」

敗北したゼロの左腕には、かつてはベリアルとの戦いで勝利への切り札となったウルティメイトブレスレットが巻かれていたが、ベリアルの攻撃によって無惨にも破損していた。

ゼロでさえ勝てず、彼と共にベリアルに挑んだ戦士たちにも、ベリアルに勝てる者はもはやいなかった。

「くくく、ゼロ、ケン、そして他のウルトラ戦士共。貴様らは俺の宇宙制覇に何度も邪魔をして来た。俺も同志の多くを失ったが、ここまで俺を手こずらせた褒美を貴様らにくれてやる」

「なにをする気だ!?」

ゼロを庇うようにかれの前に立った戦士の一人、ウルトラマン80が問うと、ベリアルは上空に巨大な鉄製の塊を出現させる。

「貴様らが我が僕共の相手をしている間に作らせたものだ。こいつを起動させる」

100体もの怪獣を操り、且つ武器にもなる究極の魔具、ギガバトルナイザーを掲げるベリアル。すると、頭上に出現した鉄の塊が動き出した。

「貴様らへのプレゼント…それは…」

 

 

地球の…この宇宙の最期の光景だ!

 

 

 

ベリアルが動かしたそれは、宇宙を破壊するほどの威力を持つ史上最悪の破壊兵器『超時空消滅爆弾』だった。

地球を中心に起動したその兵器は、ウルトラマンたちでも止められないものだった。

大気圏外から脱出したウルトラ戦士たちは、赤く染まり、ひび割れていく地球を見つめるしかできなかった。

「何とかしないと!」

「行くなゼロ!もうこの宇宙は持たない!」

阻止しようとするが、父であるウルトラセブンから止められるゼロ。

 

超時空消滅爆弾によって、地球を中心に断層が発生する。それはやがて太陽系を、そしてその外の銀河系の星々さえも飲み込んでいった…

 

 

 

 

 

かに見えた。

 

 

 

 

 

地球を覆う炎の中、多くの人々が無に帰っていった。その中で、一人の少女が傷ついた状態で空を見上げた。

もう、私はここで死ぬのだろう。できることなら、あの空の彼方へ行ってみたかった…

 

しかし、その時だった。

金色に光る流星が飛来した。

 

髭を生やし、赤い目を持つ顔。雄々しいマントを羽織り、まるで神のようにも見える神々しさを備えた、巨人だった。

 

彼は自らを黄金色に輝かせ、崩壊していく地球を包むように天を仰いだ。

 

少女は、その奇跡のような光景を、ただ脳裏に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

インフィニット・ウルトラマンジード

 

 

 

 

 

 

今から10年前だ。この世界にインフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれるパワードスーツが開発された。

これは人間が等身大のまま宇宙への潜行が可能となる上にコンパクトで強力な武器が仕込まれたもので、それを開発したのは、当時まだ14歳の少女、『篠之乃束』だった。しかし科学者たちはまだ若い彼女の発明を「所詮子供が作ったものだ」と嘲笑い、認めなかった。

彼女はよくも悪くも天才過ぎたが故に、異端児だった。そして同時に…非常に問題のある人格だった。彼女は天才過ぎたがゆえに、相手が興味を抱くに値しない凡人とみなせば顔の認識さえできない有象無象でしかなかった。彼女が認められなかったもう一つの理由、その人格故に『もてあましすぎた頭脳を悪事に使うのではないのか?』という大人たちの考えによるものが最もだった。

しかし、逆にそれが彼女に火をつけることになる。

認められなかったことに不満を抱いた彼女は、後に『白騎士事件』と呼ばれる事件を引き起こす。

それは、彼女の開発したIS『白騎士』を身に纏った人物に、束がハッキングして捜査している各国のミサイル等の兵器を返り討ちにするというものだった。ありとあらゆる兵器が、『白騎士』に向けて放たれる。

だが、白騎士は全ての兵器を……『傷一つ追うことなく』返り討ちにして見せた。

 

束を否定していた大人たちは、彼女の持つ技術を認めざるを得なかった。

白騎士事件をきっかけに、世界各国でISが普及され始めた。

だが、それは世界を悪い方向に傾けてしまうこととなった。

 

なぜなら…ISは『女性にしか動かせない』という致命的な欠陥があったからだ。

 

正確には、一部の女性にしか動かせないというものだが、最強の兵器でもあるISを優先して保有しようとする国は、『アラスカ条約』を締結して兵器としてではなくスポーツのようなものとして扱うと取り決めた一方で、女性優先の法律を定め力をつけて行った。それに伴い、ISの存在を盾に、女性による犯罪・冤罪が続出していったのだ。法的にも肩身の狭い男性の失業率、自殺率が年々高まっていった。かつて女性にも男性と同等の権利を与えよと主張してきた女性利権団体も、今ではその大半が女尊男卑主義者で構成されるという、愚かしい姿へと堕ちてしまっていた。今では政界でもこのような差別を平気で行う女性が乗り出すことも多くなった。

当然これを快く思わない女性もおり、同じ女性として恥ずべきだと主張して、今の世に不満を抱く男性たちと結託して女尊男卑主義の女性たちと対立を深めていった。

そして、事件の首謀者だった束は一時政府に監視の身となっていたが、ある日450を超えるISコアを残して姿を消した。

 

 

 

 

都内のとある一軒家。表札には『織斑』と名前が刻まれている。

『ニュースをお伝えします。おととい、新宿駅にて女性が男性から体を触られた事件ですが、実際には女性が男性からの慰謝料を払わせるために公言した冤罪だったことが判明しました。警視庁によりますと、女性は近くにいた男性を見て………』

その家で一人の少年が、アパートで、テレビニュースを危機ながら朝食をとっていた。

「また女による冤罪事件か」

向かい側で、同じように朝食をとっているスーツの女性が、苦々しげに呟く。

「ISがあるからという理由で、すべてを正当化する…まったく、馬鹿な女たちが増えたものだ。お前も巻き込まれないように気をつけろよ」

この女性は織斑千冬。かつて世界一のISパイロットとして世界に名を馳せたことがある。現在は現役引退し、ISパイロットを養成する学校『IS学園』の教師をしている。

「わかってるよ。二度も誘拐されるのはごめんだ」

それに対して、少年は頷く。

彼の名は一夏。千冬の弟で15歳。今年から高校生として藍越学園を受験することになっている。

実は、彼は数年前に本当に誘拐されたことがあった。

 

前述で語ったように、千冬がISパイロットだった頃、世界一のISパイロットを決める大会『モンドグロッソ』が開催されていた。一度優勝経験がある千冬の二連覇を見ようと、一夏も応援に来ていた。

だが、千冬の優勝を妨害しようと、一夏を何者かがさらって人質にするという事件が起きた。決勝戦前にこれに気づいた千冬は、自ら決勝戦を辞退、優勝の栄光を捨てて一夏を救ったのだった。

 

『今でもこの白騎士の正体についてはわかっていません。一説によれば、篠之乃束博士による犯行と見られています』

テレビには、解説者が白騎士を遠くから撮した写真を視聴者に見せている。白くてごつい鎧に身を包む謎の女戦士の写真を見て、一夏は口を開く。

「白騎士って、なんであんなことしたんだ?束さんにしたって、ISって女性にしか使えないなら、まず男から使えるようにしてから発表した方がよかっただろうし」

実を言うと、篠之乃束とこの姉弟は知り合い同士でもあった。だが、白騎士事件が起きて以来、束は各国の政府に追われる身となり、消息を絶っている。彼女にも家族はいたのだが、血縁者ということでそれぞれ政府の監視下に置かれるという不遇な立場に追いやられたほどだ。

「いくら頭がよくても、あいつが人の気持ちをいちいち気に留めるような奴か?」

「…だよね」

束の性格の悪さもまた、二人は認識しているようだ。

二人がそんな風に会話しているころには、ニュースは次のコーナーに入ったころだった。

『今回も、この事件の秘密に迫ります。白騎士事件も謎ですが、もう一つ人類が無視できない謎があります。それは…クライシス・インパクト』

『クライシス・インパクト』と呼ぶ事件について触れると、解説者は新たに写真パネルを視聴者に見せてくる。

 

クライシス・インパクト。

白騎士事件よりさらに以前の時期に発生したとされている。

話によると、この戦いで『ウルトラマン』と呼ばれる巨人の姿をした宇宙人が、自分たちの故郷でただ一人反逆を起こした『ベリアル』率いる軍勢と戦い、地球が壊滅しかけたという。

だが、当時の資料がほとんど存在せず、地球が傷ひとつなく存在しているということもあり、そもそも発生していたかどうかさえも不明…いや、起きてもいない幻の事件とされている。

だが、公式の資料や各国のデータベースで、ウルトラマンやベリアルなど、クライシス・インパクトに関する記述がわずかに残されていたこともあり、実は何かしらの形で発生していたのではないだろうかと噂されている。とはいえ、ISの存在が強く浸透しているこの世界では、ただの都市伝説程度にしかなっていなかった。特に女尊男卑主義の女性からは強く否定されている。

 

「…」

ニュース番組の出演者たちも見ている、『ベリアル』の写真は白黒でとても画質がよいとはいえなかった。だが、確かに見える。モノクロの写真の中に、釣り上がった目を持った黒い悪魔のような巨人がいる。ベリアルを見ている千冬の目は、鋭かった。

「千冬姉、聞いてる?」

「む、あぁすまん。少しボーっとしていたよ」

なぜか千冬はすぐに返事をせず、弟の呼びかけで我に返る。

「ビール飲み過ぎじゃね?千冬姉って外じゃしっかりしてる割に、うちの中じゃすげぇズボラだし。これじゃいつ婿さんがくるのかわからねぇな」

「…ほぅ、それは私に対する挑戦か?一夏」

「…あ、やべ…」

生意気にもからかってきた一夏に、千冬は不敵に笑って腕をポキポキと鳴らす。やばいと思ったそのときはもう後の祭りだった。

千冬の最強ぶりは弟である一夏もよくわかっている。同時に女尊男卑の世の中だから、千冬の近づく男性は今でも一人もいないので、本人も気にして悟られないようにしている。

下手に機嫌を損ねれば……一瞬でボロボロにされる。当然ながら姉の逆鱗に触れてしまった一夏はしばらく物言わぬ屍になる……と思われたがそうはならなかった。

「三十六計逃げるにしかず!!」

「逃がすかこの愚弟め!!」

「やっぱ昨日の酒残ってるだろ千冬姉!?」

急いで受験対策グッズを詰め込んだ鞄を持ってとんずらを図る一夏を、千冬はどこからか出した竹刀で襲いかかってきた。その時の彼女の顔は、一夏の思った通り酒気を帯びているためなのか、赤ら顔になっている。

逃亡を図った一夏はすぐにリビングの扉を閉め、すぐに玄関を出て少しでも恐ろしい鬼と化した姉の魔の手から逃げ切ろうとする。千冬がリビングの扉を蹴破り、そしてすぐにでも一夏を捕まえてとっちめてやろうとした。だが彼女が玄関から外に出た時には、一夏の姿は家からかなり遠くの路上に立っていた。

「おのれぇ……なぜあの馬鹿はいつもいつも私の手から逃げ切れる…」

このままムキになって追い続けても追いつけない。

ようやく落ち着きを取り戻した千冬は、既に豆粒以上に小さくなって見える一夏の姿を追いながら考える。自分でも、身体能力は人並み以上だという自負はある。だが……彼女は知っていた。

 

弟の一夏の方が、自分より遥かに身体能力が優れているということを。

 

自分は絶え間ない努力と生まれ持った才能で、ISの名パイロットとしての栄誉を得た。個人的に好ましい呼び名ではないが、『ブリュンヒルデ』という敬称で呼ばれ、男性より女性のファンが圧倒的に多いくらいだ。

だが…一夏は違う。

あいつは昔から、身体能力については『異常』だった。

子供のころ、少しでも体力をつけられるようにと、束の実家でもある篠之乃家の剣道道場に通わせたことがある。その時の一夏は…自分より格段上の相手をたった一瞬、力が入り過ぎて面への一撃でノックアウトしてしまった。使っていた竹刀さえ、ひび割れたほどである。これには千冬自身でも、大概の事では驚かないつもりでいたが…弟に対して戦慄さえ覚えた。

それ以降、彼は初めての学校の体力テストでもあり得ない数値を出した。

短距離走は誰よりも速く走り、握力テストでは使っていた器具さえも壊しかけ、全員がマラソンでばてばてなのにただ一人だけ息切れ一つ起こさなかった。

もしあいつがISに乗れたら…一瞬で自分など超えられるだろう。同時に彼の存在は世間的に目立ちすぎたものへと変わってしまう。

だから千冬は、一夏に力をなるべく目立たないようにコントロールしろと念を押した。目立ち過ぎれば、一夏に何をされるかわかったものじゃない。

(…やはり、あいつは…『そう』なのか?)

 

 

 

 

「ふぅ…あっぶねぇ…ったく、千冬姉も冗談通じないよな…」

確かに頭に血が上りやすい千冬も問題ないわけではないが、デリカシーがない自分が一番悪い癖に愚痴をこぼしながら、一夏はある場所を目指していた。

今年受験するこちになっている高校、藍越学園だ。しばしばIS学園と名前の響きがかぶっていることでちょっと有名だ。

しかし、この短時間でここまで逃げ切れるとは。一夏も自分の身体能力については異常だと思っていた。最初にこれに気が付いたとき、調子に乗ってあちこち走り回って見せたが、千冬から調子に乗り過ぎだとこっぴどく叱られた。子供は少しでも自分が他人より優れた部分があると調子に乗って間違いを犯す。それを千冬は避けたかったのだと今なら理解できる。

千冬の2連覇を賭けたモンドグロッソで誘拐された時は、さすがに逃げ切ることはできなかった。なぜなら誘拐犯の一部にISを使った女性工作員がいたからだ。いくら素の身体能力が優れている一夏でも、ISを纏った人間相手では敵わず、千冬の助けが来るのを待つだけだった。

彼はその時、誘拐の理由には自分のこの『異常な身体能力』が関係しているのではと思った。あくまで憶測でしかないが、以後一夏はめったなこと以外では本気で運動することは避け、剣道もやめた。

(……)

駅に着いて、自分の手を見る一夏。

この異常な身体能力の正体は、今でもわからない。ただ、子供というものは親から才能を遺伝するといったことは聞いたことがある。千冬も結構な才能もちだし、自分もそうなのだろうと、自惚れた言い方になるがそう思っている。もしこれが親からの遺伝だとしたら…

(俺の親って、どんな人だったんだろうな…)

…実は、二人の両親はずっと昔に蒸発していたのだ。千冬はともかく、一夏はどうしてか、両親の顔はまったく覚えていない。というか、七歳以前の記憶があいまいだ。

一番昔の写真といえば、小学1年の一夏と高校1年の千冬のツーショットのみ。ゆえに、子供の頃は消えた両親の残した貯金と、姉が必死に行ったバイトの稼ぎで食いつないできたのだ。初優勝した時のモンドグロッソの優勝賞金も全部一夏との生活のために、彼女は使い切ってしまっている。そんな姉のために、彼は剣道を放棄してバイトを始めた。高校に行かず働こうとも考えていたが、中卒の…それも男性の就職率の低さゆえに反対された。だからせめて、学費も安くて就職率が高いとされる藍越学園を受験することにしたのである。

自分たちを勝手に生んで、貯金を残すだけ残して勝手に姿を消したという両親。ちょっと気にはなるが、今は千冬との間で出来た暗黙のルールで禁句としている。だから今でも、親のことについては貯金以外の事は何も知らない。

「って、今はそんなこと言ってる場合じゃないか」

今は顔も覚えていない親の事なんかより受験だ。

モノレールに乗り、藍越学年を目指す一夏。

そんな中、彼と同じ車両に載っていた幼い子供が、泣きじゃくっているのを見かけた。

「うああああああん!!」

「もう、泣いたっておもちゃは買ってあげないわよ!」

「やだやだだ!!買って買って買ってええええええ!ドンシャイングッズ買ってよおおおお!!」

どうやら欲しいおもちゃを母親に買ってもらえずに泣いているようだ。一夏はちょっと懐かしく思った。ああいうわがままな態度を千冬相手にもとったことがあるからだ。

それに、彼の言う『ドンシャイン』については自分も知っている。

『爆裂戦記ドンシャイン』。

自分が子供の頃から、何度か再放送されているほどの根強い人気のある特撮ヒーロードラマだ。子供のころ、グッズが欲しくて姉に何度もしつこくねだっては「甘ったれるな」と怒られたものだ。その反動で、ちょこっとバイト代を使ってグッズを買ってたりする。

ふと、周囲を見ると、列車内にいる何人かの人が不機嫌そうに子供をにらんでいた。特に女性が目立つ。女尊男卑主義の人なのだろう。酷ければ、彼女たちはあの男の子と母親に噛み付いてくるかもしれない。

ドンシャインや、姉千冬への憧れもあって、一夏はヒーローへの願望というものを今でも消せずにいた。

(ジーッとしてても、どうにもならないな!)

見過ごせなくなった彼は、その男の子の元へ席を立って歩み寄ってきた。

「君、ドンシャインが好きなのか?」

「ぐず…ふぇ?」

いきなり声をかけられて男の子は泣き止んで戸惑いを見せてくる。

「お下がりでいいなら、ジャーーーーン!!」

そう言って彼がかばんから取り出したのは…ドンシャインのチェーンキーホルダーだった。

「これをあげるから、ドンシャインみたいにわがまま言わないで強くなるんだぞ?」

「…お兄ちゃん、いいの?」

「そ、そんな悪いですよ…!」

子供に変なものを与えないでと言うことなく、申し訳なさそうに母親が一夏に返そうと思ったが、彼女はここで周囲の視線がきついことに気がついた。特に同性からの視線が重い。ここで何とか大人しくさせないと、彼女たちから息子が何かしら因縁をつけられるかもしれない。

「遠慮しなくていいですよ。まだ家に別のグッズありますし」

「すみません、ありがとうございます…」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「おう、兄ちゃんとの約束忘れるなよ?」

「うん!」

親子から礼を言われたのとちょうどそのとき、一夏は目的の駅へとたどり着いた。

少しはドンシャインに近づけたかな?内心一夏は、小さな子供に手を差し伸べられた自分に満足感を覚えていた。

 

 

 

 

一夏が列車に乗る前の時間…。

彼と同様に、受験を控えた長い赤茶色の髪をした少年と少女が、町のとある食堂『五反田食堂』から飛び出してきた。

「あああああやばいやばい!!後少しで試験始まるじゃんかよ!!こっから15分もかかんのに!!」

「もう!お兄ってばなにやってんの!あたしはともかく受験生のお兄が遅刻するとか!!」

後から遅れて、妹と思われる少女が兄に対して文句を言う。

二人はめちゃくちゃ慌てていた。どうやら自分が受ける受験校までの到着予定時間を大幅に遅れてしまったようだ。一夏は彼と比べて試験開始時間は遅れているので心配はなかったのだが、彼は朝早い時間帯らしい。その影響で、本当なら妹の出発時間よりも早いはずが、一緒の時間帯となっていた。

この兄は結構ずぼらな面が目立つようだ。

「くっそ、電車の時間を読み間違えるとか、俺の馬鹿!!試験に間に合わなかったら、じいちゃんたちに叱られる!」

とにかく少年は必死こいて駆け出していった。

 

 

この少年…五反田 弾と、

 

 

織斑一夏。

 

 

 

二人はこれから…大いなる運命と立ち向かうことを余儀なくされるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。