千冬は、自分の勤務先であるIS学園へと到着した。
学園は、日本領内にある一つの島をまるごと教育機関として設置されていた。
到着後、彼女は後輩教師である山田真耶共に、校舎内の会議室に到着した。
すでに会議室には、IS関係の要人たちが集まっていた。当たり前だが、この場に男性は一人もいなかった。
「これは、かのプリュンヒルデの織斑千冬さん。やはりあなた様もこちらに来られたのですね」
入口の傍らにいた女性が、握手と共に千冬を出迎えてくる。
「その呼び名は止めてくれ。あまり好きじゃないんだ」
「失礼しました。ですが、あなたが我々にとって尊敬すべき方であることに変わりありません。同時に…この状況を打開するには必要不可欠な方でもある」
「……引退した私に、もう一度ISに乗れと?」
薄々勘付いていた予想を口にすると、その女性は頷いた。
「ええ、あなたはまだ十分に若い。この学園で聞かせていただいたお仕事ぶりと併せて考えても、ISパイロットとしてもまだ完全にさびているようには思えません」
やはりそうか。彼女たちは自分をもう一度ISパイロットとして味方につけたいと考えていた。当然と言えば当然か。既存のIS部隊が一方的にやられたのだ。ISの無敵伝説を継続させるには、これまでのISパイロットの中でも最強とうたわれ続けている自分の存在なのだろう。要は…安心したいのだ。強力な味方を自分たちに付けることで。
(……)
だからこそ、気が進まなかった。
彼女たちは、依存先を求めているのだ。ISに代わる、絶対的な安心をくれる何かを。
しかし、彼女たちの頼みを無碍にできない自分もいた。たった一人の家族である弟を、この街を守らなければならない立場にあるのだから。
すると、会議長であるIS委員会の議長が、手を叩いて出席者の注目を集めさせた。
「織斑女史も揃いました。それらについても含め、今から行う会議で話をするとしましょう。これからのIS部隊、そして昼に出現した怪獣と巨人のことについてもね」
束と予想外の再会を果たした一夏は、彼女が出現させた謎のエレベーターによって地下に向かっていた。
「ようこそ、束さんの秘密基地へ!」
到着と同時に、束からの来訪者へのあいさつが飛ぶ。
SF映画の中でしか見られないような未来的すぎる、円形の様式のフロアに、束の私物と思われる人形やらドンシャイングッズやら、散らかったコードなど、歩きにくそうな状態だ。だがそれでも、この未来的なフロアの光景に一夏は目を奪われていた。
っていうか、束さんもドンシャイン見てたのか…。
「といってもこれ、束さんが作った基地じゃないんだけどね」
「え?俺、てっきりそうだと思ってたのに…」
「正確には、クーちゃんと一緒に奪ったの」
「クーちゃん?」
一夏は目を丸くする。もしや、この自由人過ぎる束と行動を共にしている人がいるのか。
「私の事です。織斑一夏様」
すると、自らがそうであるというように、部屋の奥の扉から銀髪の少女が姿を見せた。
「初めまして、私はクロエ。クロエ・クロニクルと申します」
「ここに住まわせてから、束さんの家事手伝いをやってもらってるんだ。ちょっと不器用さんだけどね」
「………」
本当に意外だ。束が本当に、誰かを旅の道連れにしていたとは。本当にこの人の、人を見る判断基準がわからない。だから疎まれもしたのだろう。平気で白騎士事件とか起こすし、今だってこの基地を奪ったとか…
「って、そういえば束さん。この基地ってなんなんです?誰かから奪ったとか、なんか穏やかじゃないことまたやらかしてるみたいだけど…」
一夏がそう尋ねると、束は部屋の隅の棚に置いてあったテレビをつける。
ちょうど、ニュースキャスターが昼間の事件について、ウルトラマンと怪獣の戦いの映像が取り上げられてた。
『ニュースをお伝えします。今日の午前9時ごろ、市街地にて50mと超える巨大生物が出現し、街が混乱に陥るという異例の事態が発生しました。この生物に対しIS部隊が対応しましたが…IS部隊が逆に反撃を受け、撤退を余儀なくされたとのことです』
無理もないだろう、ISの力をもってしても勝てなかった化け物と、それにただ一人対抗することができた巨人『ウルトラマン』。どちらも幻の事件であるクライシス・インパクトの中にしか存在しないはずと断じられていたのに、それが現実に現れたのだ。取り上げられない方がおかしい。
さらにニュースでは、これに関して新たな続報があった。
『IS部隊の敗北を聞き、各地では不安の声が上がっています』
『ISが勝てないなんて…』
『これから県外へ家族と疎開しようと思います。ここにいると、いつ怪獣に襲われるかわからないので』
『ISが負けるなんてありえないわ!あれは篠之乃束様が私たちに授けてくれた神の…』
と、最後にコメントしていた女性の言葉を遮るように、束はチャンネルを変えた。
「勘違いも甚だしいね。束さんは神様じゃないってのに。所詮はゲームでいうモブってところかな」
不愉快そうに束はテレビを睨んでいた。よほど最後の女性のコメントが気に食わなかったようだ。ISの出現で調子に乗った女尊男卑の女性たちの中には、束の存在を神格化するというカルト的な集団までいる。束はそんな人間を特に嫌っていた。
「ねぇ、いっくん。クライシス・インパクトのことは知ってるよね?」
束は一夏の方を振り返り、いつになく神妙な顔つきで彼に尋ねた。
「あ、はい…18年前に、ウルトラマンベリアルが光の国と対立して地球が滅亡しかけたっていう…やっぱり本当のことだったんだよな」
「うん、私もその現場にちょうどいたからね。ウルトラマンや怪獣の存在も知っていたよ」
「!!?」
束の口から語られた事実に、一夏は言葉を失った。束が、クライシス・インパクトの現場にいただって!?
「あの時、あるお髭のウルトラマンが、自分の持つ力のすべてを使って、この宇宙を修復したの。だからクライシス・インパクトの痕跡は見当たらなかった。
まだ6歳だったけど、束さんは今でもはっきりと覚えてるよ。あの時の光景…」
それは嘘偽りのない告白。今でも彼女は、頭の中で鮮明に当時の記憶をよく思い出す。
火の海に包まれた都市の真ん中に立つ、あの悪魔の巨人の高笑いも…
あの光景は、束に今でも恐怖を抱かせた。
「だから、またベリアルや怪獣が襲ってきても大丈夫なように、実家の道場の跡継ぎを放棄して、ISを設計・開発したんだ。みんなを守るための、剣と盾になれるようにって。…結局、力不足だったんだけどね。自分でも天才って思ってたけど、束さんもまだまだ未熟でしたってことかな」
「そうだったんですか…」
彼女の実家は、長い歴史を持つ伝統ある剣道の道場『篠之乃道場』だった。
まさか、ISの開発のきっかけがクライシス・インパクトにあったとは。これを世間に知られたらかなりの衝撃ものだ。
「でもね、知っての通りクライシス・インパクトは幻の事件扱いになってるでしょ?だから、束さんがどれだけあの事件が本当のことだって言っても…誰も信じてくれなかった。学会の人たちも、お父さんたちも……………信じてくれたのは、ちーちゃんと、いっくんのお母さんだけ。それ以来、ほとんどの人のこと信じられなくなったちゃった」
束の中には、クライシス・インパクトが事実だという確固たる記憶があった。だが、自分が確かだと考えていることを世界レベルで、それも肉親からも信じてもらえない。それは耐えがたい苦痛なのだろう。
彼女が極端に人を避けるようになった理由を、一夏は理解した。
だが、もう一つ気になることがある。束は、自分と千冬の母について触れてきた。
「じゃあ束さんは、俺たちの母さんと会ったことがあったのか?」
「うん。元々ちーちゃんと私の出会いって、両親が知人同士だったから。いっくんたちのお母さんは、もともと科学者だったんだよ。束さんが科学の道に行けたのも、その人のおかげ。つまり、恩師ってことかな」
一体どれだけ驚かせたら気が済むのかと言いたくなる。まさか母とも知り合いで、束が剣道の名門でもあった実家の跡継ぎを蹴って科学者になったきっかけも母だったとは。
でも、待てよ…だとしたら…
「俺たちの両親が……蒸発した理由も?」
千冬との間では決して口にしなかったその質問を束に向ける一夏。
「………………」
しかし束は、それをためらうかのように一夏から視線を逸らして口を閉ざしていた。こんな束を見るのは、僅かとはいえ子供のころの彼女との記憶を含めても初めてだ。
「束さん。何とか言ってください!俺、なんでか親といたときの記憶がないんです。でも束さんなら知ってるん…」
「お二人とも、これを!」
その時だった。二人が話していている間に展開した電子モニターから、外の様子を眺めていたクロエが、二人に向けて声をかけてきた。一夏と束は、咄嗟に彼女の方を見やる。
クロエは二人が視線をこちらに向けると同時に、二人が見えるように、さらに大型電子モニターを出現させる。
そこには、昼間に町を蹂躙した、あの二本角の怪獣の姿が映されていた。
怪獣が再出現する少し前…
ビルの屋上に、あのフードの少女が姿を見せていた。
『こちらの調べだと、ウルトラマンゼロは次の戦闘に必要なエネルギーが戻っていないようだ。奴の切り札でもある腕輪の破損も確認できている。どうも、「あの戦い」での後遺症が今も強く残っているようだ。
この隙になんとしても任務を成功させろ』
「了解」
耳に付けた通信機から指令を受け、少女はその手に黒いカプセルを取り出す。カプセルには、昼間自分が変身していた怪獣と同じ特徴を持った怪獣が、それぞれ絵柄として刻まれていた。
「冷却完了…今度こそ手に入れてやるぞ。『リトルスター』を」
彼女は、二つのカプセルのスイッチをスライドさせ、次に取り出した黒い基盤の穴にセットすると、さらにもう一つ赤い認証機械のようなアイテムを取り出して、黒い基盤にスライドさせる。
すると、妖しげな音声が赤いアイテムから再生され、少女に変化をもたらした。
【フュージョンライズ!】
あの黒い悪魔の巨人…ウルトラマンベリアルへと。
【ゴモラ+レッドキング+ウルトラマンベリアル!】
黒い巨人となった彼女は、二体の怪獣をその口の中に吸い込んでいき、そしてその姿は、昼間に出現した怪獣の者へと変貌した。
【スカルゴモラ!】
怪獣スカルゴモラの出現と同時に、再び町中に警報が鳴り響いた。
「くそ…変身する前に見つけられなかったか…!」
箒はこの時、弾たちが留まっている病院の傍にいた。病院内でも、怪獣出現と同時に入院者たちがパニックに陥っていた。しかもそれだけじゃない。あの怪獣は、こちらにまっすぐ向かってきているではないか。
「か、怪獣がこっちに来てるぞ!」
出現しただけでも大事なのに、こちらに向かってくるなんて冗談じゃない。院内の人たちは、動ける人間はすぐ外に出始める者や、院内で動けない患者がないか急いで確かめに行く者と二つに分かれた。
箒はあの怪獣がどうしてこちらに向かってきているのか…検討がついていた。
「まさか、この院内の患者に『リトルスター』が!?」
何かに気が付いたのか、彼女はすぐに病院内へ駆け込んだ。
一方、千冬のいるIS学園でもスカルゴモラの出現の情報がすぐに届いた。
校舎の窓から見える街に、再び火の手が上がっているのが、遠くから見ている千冬たちにも見えた。
「残存している隊員を現場に派遣し、様子を見させて!」
「了解!」
すぐに現場に向かって、IS部隊の残った隊員たちがISを展開して派遣された。しかしできることといえば、怪獣の手から現地の人たちを避難させるか、怪獣の様子をモニター通信でこちらに配信することだけだった。
「まだ新部隊の編制に入ったばかりだというのに…」
こんなところでもたついたら、街の人たちは…一夏が…!
だが、今の自分の立場を放棄すれば、ここにいる彼女たちにも迷惑をかけることになってしまう。板挟みにあう千冬の頭に、浮かび上がるものがあった。
現役引退と同時に封印していた…自分の愛機だったISが。
「怪獣がまた…!」
一夏は大型電子モニターに映る怪獣を見て戦慄する。
しかし、今度は誰も怪獣に対して抵抗ができないという状況だった。IS部隊は壊滅的打撃を受け、あまりに早すぎた再出現に再編成が追いついていない。そもそも歯が立たない以上、現場での避難誘導がやっとだろう。
「けど、怪獣が出たのなら、あのウルトラマンだって…!」
昼間もスカルゴモラと共に現れたあのウルトラマン…『ゼロ』がまだ最後の砦として存在しているはずだ。
「…たぶん、ゼロはこれないよ」
だが、束はゼロが来ないと断じた。
「なんで!?」
「束さん、いっくんが来るまで確認していたけど、どうもウルトラマンゼロはベリアルとの戦いのダメージが残ってたみたいなんだ。ウルトラマンは万全の状態でも3分間しか地上にいられないし、今は当てにできないと思う」
「そんな…でも、このままじゃ街の人たちは!?千冬姉や蘭たちは!?」
何一つ、勝つ方法どころか抵抗する術さえもない。今度こそあの怪獣の餌食にされてしまう。そんなこと…!!
焦る一夏に、さらに束は疑問を募らせるような質問を問いかけてきた。
「いっくんは、まだヒーローになってみたいって思う?」
「え?」
こんな時に何を尋ねてくるんだ。一夏は意味がわからずに束を見る。
「もし、自分にあの怪獣を倒せる力があるなら、戦いたい?」
「………はい」
「どんなに罵られるようなことがあっても?」
連続するそれらの問いかけに答えている場合なのかそもそも疑問に思ったが、一夏は頷いた。
「俺、ISを動かしたとき、舞い上がってました。千冬姉や、子供のころにあこがれたドンシャインみたいに、誰かを守れる人間になれたんだって。でも結局、俺は怪獣を怒らせただけで…それで友達が死んでそいつの妹から恨み言言われたんです。
それでも、俺が弾への償いも含めて、誰かを守ることができるっていうなら…俺は、戦いたい!!」
もし本当にその力があって、あの怪獣を倒すことができても、弾が二度と帰ってこないことはわかるし、蘭がもう一度自分と向き合ってくれる保証なんてない。でも自分にはまだ、千冬という大切な家族がいる。たとえ永遠に和解できなくても、蘭にも兄を失った悲しみと自分への恨みだけ抱いて死なせたいとも思わない。
だから、願うなら戦いたい。今度こそ…大切な人たちを守れるヒーローになりたい。
一夏の強い願いを聞いて、束は笑みを浮かべてクロエに視線を向けた。
「クーちゃん」
「はい」
クロエは電子基板を出現させて、電子スイッチをタッチすると、基地の中央にあるテーブルの上にあるアイテムが出現する。
それは……あのフードの少女も使用していた、あの赤い認証機械と、白く透明な二つのカプセルだった。
「これは?」
「『ウルトラカプセル』と『ライザー』。昔、ウルトラマンヒカリがベリアルに対抗するために開発した、ウルトラマン専用のパワーアップアイテムだよ」
「ウルトラマンが作った!?」
驚く一夏に、束は頷く。
「これを使うとね、ウルトラマンたちはそのカプセルに描かれているウルトラマンの能力に合わせて、自分の能力と姿を変異させられるの」
カプセルには、確かにウルトラマンの絵がえがかれていた。一つは、至ってシンプルかつヒロイックな姿をした銀色のウルトラマン。だがもう一つは…一夏も息をのませるものだった。
「ベリアルのカプセル…!」
クライシス・インパクトを引き起こした、ウルトラマンベリアルの絵が描かれたカプセルだった。
「今使えるのは、その初代ウルトラマンと、ベリアルのカプセルだけだよ。大丈夫、いっくんの体には害はないはずだから」
はずって…なんだか束にしてはあまり自信を感じさせない言い方だ。
「もしかして、これを俺が使うんですか?でも俺…」
ウルトラマンじゃない。そう否定するつもりだった。なにせこのライザーというアイテムは、ウルトラマン専用のアイテムだと束自身が言っていた。
が、その前に束が言い放った。
「うぅん。実はね、いっくんには……ウルトラマンの血が流れているんだよ」
「………!?」
俺に……ウルトラマンの血が?
「…すみません、冗談じゃないですよね?」
「じゃあどうしていっくんは、今まで体育の成績がずば抜けていたのかな?剣道でも、少なくとも束さんが見てる間も、格上の人相手にも無敗だった。
普通のウルトラマンのパワーと比べると強くはないけど、それでも人間以上の力を出せていたのがその証拠だよ」
耳を疑ったが、束のその言葉で息を詰まらせた。
彼女の言う通りなら、納得ができた。この身に宿る異常な身体能力の理由が、ウルトラマンの血を引いているというのなら…。
「それに、こんな時に冗談なんて言える?」
改めて束は、大型モニターの方に視線を向け、一夏も流されるようにそちらを見た。スカルゴモラは、遠く離れているとはいえ、弾たちのいる病院にまっすぐ向かっている。道中に見える建物や車を容赦なく踏み潰し続け、それに伴う火災など無視し続けながら。
「時間がないよいっくん!覚悟があるなら、すぐに外に出て変身して!やり方はそっちで教えるから!」
束はエレベーターを出現させる。状況が状況なだけに、一夏も慌ただしくその中へ駆け込んだ。
彼を乗せてエレベーターが地上へ向かうのを確認したところで、クロエは口を開いた。
「よろしいのですか、束様?」
「何が?」
「あなたは、千冬様と同じように、一夏様を運命から遠ざけたかったはずでは?
この秘密基地を奴らから奪ったのも、敵の思惑から一夏様を巻き込むことなく我々だけで事を解決するためだったはずです。
彼がウルトラマンになることは、敵の計画の内ですから」
おそらくこれを一夏が聞けばまた驚くだろう。だが、それを一夏に伝えずにいた。
「…ISでどうにかしたかったけど、もう間に合わないって気づいたから。それに…薄々感じていたんだ。こうなることは、きっと運命だったって」
そのように言ったときの束は、どこか苦しげだった。
「でも、私はただ運命に流される気はないよ。それはあいつらに自分から負けを認めたってことになる。
私はあいつらの思惑に乗りつつも、最後にいっくんたちと一緒に、運命に勝ってみせる」
病院にて箒は、逃げていく患者を目で追いながら、あるものを探していた。
「誰だ、一体誰の身にリトルスターが…?」
しかし雪崩のように外へ出て避難していく患者や看護師たちの中に、探している対象の人は見あたらない。そんなとき、カウンターに看護師の声が耳に入る。
「五反田さんの避難は!?」
「死んだ人間なんて放っておきなさいよ!」
「何言ってるの!遺族から後で酷いクレーム来るわよ!その遺族もご一緒だっていうのに!」
どうもまだ残っている人がいるようだ。五階へ急ぐ看護師たち。
すると、その五反田一家がエレベーターの方から現れた。証拠に蘭と、目覚めない弾を背負っている彼の父、同行していた母と祖父も一緒だ。
「よかった!すぐに避難してください!」
看護師たちは一家に急ぐように伝え、彼らを連れて避難を開始した。どうやら彼らで最後らしい。箒も着いていく形で病院から外に出る。
怪獣の方を見ると、奴の行動にわずかな変化を見受けた。まっすぐ病院へと向かっていたのが、今度は病院から避難していた人たちの方へ進路を変えたのだ。
「やはり、リトルスターはあそこの誰かにあるのか!」
引き続き、箒は病院からの避難者のもとへ急ごうとした、その時だった。
数年ぶりに、幼馴染の顔を見ることになるとは、この時の彼女は予想もしなかった。
「…一夏?」
最後に会ったのは、小4…篠之乃束の関係者という理由で、彼女と束…篠之乃一家の全員が政府から発令された『重要人物保護プログラム』で一人ずつ別離する羽目になった。そのため道場に通い出してからずっと一緒だった一夏や家族とも離れ離れになった。
その一夏が、なぜ…突然現れたエレベーターのようなものの中から姿を現したのだ。
地上、怪獣が狙う病院のすぐ脇に出た一夏は、町の様子を確認した。夜だというのに、町に上がっている炎のせいで街が明るい。
スカルゴモラは病院へとまっすぐ向かっていた、が…病院を出た避難者の方へ進路を変えていた。耳を澄ませると、遠くから逃げ惑う人たちの声が聞こえる。
「やばい…ここで食い止めないと!」
『いっくん、聞こえる!?もし聞こえるなら、ライザーと一緒に持たせた装填ナックルを触って返事して!』
束の声が聞こえる。言われてみて、一夏はライザーとカプセル以外に持った、黒い基盤に触れる。
「聞こえます、束さん!これ通信機にもなってたのか…」
『そういうこと。でも触れてない時は、こっちからの声は聞こえるけど、そっちからの声は聞こえないから気を付けて。
じゃあ、今から本来の使い方を説明するね』
「はい!」
決して聞き逃すまいと、束の声に一夏は耳を澄ませた。
『まず、さっきの二つのカプセルのスイッチをスライドして、装填ナックルに装填して』
一夏は第1に、初代ウルトラマンとベリアルのカプセルを二つ共取り出す。
『装填したら、ライザーのスイッチを押して、その先端を装填ナックルにスライドさせてカプセルの中にある力を認証させるの。後はもう一度ライザーのスイッチを押せば大丈夫。普通のウルトラマンたちより光の力が弱いいっくんでも、カプセルに秘められたウルトラマンたちの力を借りることで変身できるよ』
束はさっき、自分の中にあるウルトラマンの力は弱いと言っていたが、なるほど、光の力をお借りすれば問題ないということか。
ここまでわかれば、もう不安はない。後は変身して…今度こそ皆を守って見せる。ISに乗ったことで調子に乗って立ち向かった昼間のような失敗はもうしない。
『じゃあ最後。変身した後の君の…ウルトラマンとしての名前を決めて。それでライザーは反応するはずだよ!』
「わかりました!束さん、ありがとう!」
『頑張って、いっくん…!』
束の祈るような声を最後に、彼女からの通信は終わった。
一夏は二つのウルトラカプセルを見る。
自分の中にある、普通よりも弱い形だが、それでも人間以上の力の恩恵を与えてくれたウルトラマンの血。なぜこれが自分の中にあるのか…束は自分よりも自分のことを知っているようだ。
それに……初代ウルトラマンの方はともかく、片方は…クライシス・インパクトを引き起こしたあの悪のウルトラマン『ベリアル』の力を秘めているものだ。悪の力を行使する…考えてみると不安だ。
だが…ためらっている暇はない!
「ジーッとしてても…ドーにもならないからな!!」
今自分がすべきことは、皆を守るためにウルトラマンとなって戦うことだ!!
「〈
一夏は第1に、初代ウルトラマンのカプセルを機動する。すると、カプセルから漏れ出た光が、彼の隣で初代ウルトラマンの姿となって現れる。
「〈
初代ウルトラマンのカプセルを装填し、続いてベリアルのカプセルを起動する。今度はさっきの初代ウルトラマンのように、カプセルから出てきた黒いエネルギーがウルトラマンベリアルとなって反対側に降り立つ。
「Here We Go!!」
一夏はベリアルのカプセルも装填し、ライザーのスイッチを、かつて憧れたドンシャインの決め台詞として覚えていた言葉と共に押す。
そして装填ナックルをスライド、二つの力をライザーが認証した。
【フュージョンライズ!】
------決めるぜ、覚悟!!
友の死という自分の過ちも、この先の過酷な戦いに対する覚悟を決め、一夏は再びライザーのスイッチを胸の前で押し……
自分のウルトラマンとしての名前を高らかに叫んだ。
「ジイィィィィィーーーーードッ!!!」
一夏の姿は、彼の姿をよく確認しきれないほどのまばゆい光に覆われ、ウルトラマンとしての姿に変異する。
【ウルトラマン】+【ウルトラマンベリアル】
続いて、隣に立っていた初代ウルトラマンとベリアルの姿が、一夏の体と重なり、新たな変化をもたらした。
【ウルトラマンジード・プリミティブ!】
そして…光と闇の渦に包まれた一夏の体は……巨人『ウルトラマンジード』へと変身を遂げた。
「シャァ!」
その様は、実は一夏の事が気になって密かに隠れて見ていた箒に見られていた。
「な…!?」
ただでさえ予想外にも幼馴染の顔を見ただけでなくまさか人ならざる者へ変身を遂げるなど予測などできるはずもなかった。巨人への変身を遂げた一夏の姿を、箒はただ驚愕のあまり呆然と硬直していた。
千冬のいる、IS学園の会議室は混乱していた。新たなIS部隊の編制どころか、メンバーの選抜もロクにできていない状況。対抗策がまるでない状況だった。そんな時にまたしても、IS部隊を壊滅させたあの怪獣が現れてしまった。
「こんな時に…!!」
怪獣スカルゴモラは街を壊しながら、どこかへと向かっていく。
「IS部隊の残存している隊員は?」
「…戦闘可能な者は5名にも満ちてません。午前中の戦闘ですでに半数以上が負傷、死亡しています。負傷兵を含めても、応援に向かわせるだけの余裕もありません」
千冬からの問いに、出席していたIS部隊の隊長代理の女性が、とても十分なん戦力じゃないことを報告する。
千冬は歯噛みする。こちらから満足に反撃に出ることさえもできない。
(…行くしか、無いのか)
千冬は、引退と同時に封印していた自分のISのことを思い出す。一夏や町を守るためにも、自ら出向くべきかと考え始めた…その時だった。
街の上空に、花火のように一つの光が打ち上げられ、巨人の姿となって地上に降り立った。
「あれは…」
遠すぎて、突然現れた巨人の姿がよく見えない。
「IS部隊、聞こえるか!?そちらの様子を映してくれ!こちらでも様子を見たい!」
すぐに千冬が現場にいるIS部隊隊長代理の女性に通信を入れ、会議室のスクリーンも下ろす。現地の隊長代理の女性のISのモニターを通して、スクリーンに巨人の姿が映しだされた。
途端に、彼女たちの顔が蒼白になった。
「あ、ああ……そんな…」
震えあがる彼女を見て、千冬も、そして会議に参加していた他の面々も、映像を確認して戦慄、恐怖した。
銀色の体の上に刻まれた、禍々しい赤と黒の模様、牙をむき出したような口、そして……鋭く吊り上った、青い目。
その映像内の巨人……一夏の化身であるウルトラマンジードの姿を見た千冬は、ある名前を口にした。
「ベリ…アル…!?」
「相合じゃなくてアイ、ゴー!だろ」っと疑問を抱く人もいたかと思いますが、当然僕の勝手な当て字みたいなものです。意味としては、『融合相手』『相手と融合』のつもりです。
一夏の変身時の叫びのポーズ、イメージとしてはアニメでの白式展開時のポーズそのまんまです。コラ画像でジードへの変身シーンを表現するにはちょうどいいポーズ