短編集by???second   作:???second

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インフィニットウルトラマンジード(5)

「な、なんだあれ!?」

避難中の五反田一家や、病院から避難した人々もまた、ジードの姿を見て、恐怖・戦慄する者が続出していた。

「ベリアルだ…ウルトラマンベリアルだ!!」

「嘘でしょ…クライシス・インパクトが本当だったってこと!?」

「に、逃げろ!!早く!!」

ただでさえ死の恐怖に追われ続けている彼らに、今の一夏の姿は刺激を与えた。完全にジードをベリアルと同一視した一部の避難者にパニックを引き起こした。

 

 

 

その禍々しい姿を、秘密基地の大型モニターから束たちも確認していた。

「フュージョンライズの成功を確認しました。でも、これは…」

クロエも、物静かでリアクションが薄かったはずが、わずかに驚きを露わにしていた。

「予想はしていたけど、いざ見てみると…ね」

子供の頃、クライシス・インパクトで見た……悪魔の巨人ウルトラマンベリアルによく似ていたジードを見た時の束も、その表情があまり晴れやかなものと言えなかった。

 

 

 

スカルゴモラに変身していたあのフードの少女も、怪獣の体内の奇妙な空間からジードとなった一夏の姿を見ていた。

彼女のジードを見る目に、驚きはなかった。

「…やはり、気に入らない」

だが…なぜだろうか。彼女の目に宿る感情には、確かなものがあった。

目の前の巨人に対する、猛烈な殺意と憎しみが。

忌々しげに彼女は唇を噛みしめ、ジードに向かって吠えた。

「貴様ごときが…あのお方と同じ力を使うなど…!!」

 

 

 

変身を遂げた一夏は、自分の両手を見やる。確かに人間だった頃と異なり、肌の色が銀色だ。周囲の建物も、変身前と異なり小さく見える。

(変身できたのか…!)

束に導かれるまま変身していたが、まさか本当に変身できたとは。彼女の言うとおり、自分がウルトラマンだということになる。

…だとしたら、千冬姉も?

そんな予想がよぎったところで、スカルゴモラの唸り声が聞こえた。

奴がこちらに来ている。やるしかない!

「ウウウオオオオオオオ!!」

助走をつけ、ジードは高く飛び上がった。

(うおおおおおおお!?高!?)

気付くと、ISで飛行した時以上に飛び上がった。予想以上の今のジャンプ力に、逆に自分が驚いてしまった。

なんとか怪獣の目の前に着地できたが、隙が大きすぎた。スカルゴモラの角による押し出しによって、ジードは倒れて後ろのデパートを、まるで砂の城のように押しつぶしてしまった。

「く…ディア!!」

すぐに立ち上がり、ジードはスカルゴモラに拳を繰り出す。だがその一撃もスカルゴモラに交わされ、顔面を殴られて突き飛ばされる。

もう一度立ち上がろうとするジードに、スカルゴモラは鋭い牙をむき出して迫ってくる。

させるか!ジードは飛び上がり、両足でスカルゴモラを蹴り出す。手ごたえを感じながら、落下してすぐに立ち上がろうとすると、スカルゴモラの踏みつけが繰り出された。すぐに横に避け、ジードはさらにもう一撃胸元に蹴りを叩き込む。少し押し出したところで、少し怯んでる間に、ジードは後ろへ回りこんで尾をつかもうとする。だがその前に、スカルゴモラの尾が彼のこめかみを打ってきてそれは叶わなかった。

耳の近くに受けた鋭い痛みで悶えるジードに、スカルゴモラの角による突き攻撃が襲いかかった。

「キシャアアアア!!」

「グアアッ!!」

 

 

スカルゴモラの中にある空間の中で、フードの少女はほくそ笑んだ。

「ふん、やはり素人だな」

一見一夏よりも背が低く幼い印象の彼女だが、昔から戦い慣れているようだった。それに引き替え、ウルトラマンになったばかりの一夏は、昼間にISを起動して刃向ってきたときと同じように、素人丸出しの動きだった。こいつは自分よりも格下だ。

(全く持って理解できんな…やはり、こんなやつよりも、私の方があの方にふさわし…!)

『調子に乗るな、「M」』

優越感に浸るが、そんな彼女に水を差すように、どこからか声が聞こえてきた。

『お前の目的はそいつを殺すことではない。まだそいつには利用価値がある』

人がいい気分に浸っている時に…悪態をつきたくなったが、かといって彼女も『自分に与えられた任務』を放棄するほど堕落していない。

「…だが、こいつを追い詰めることも、目的を達するために必要なのだろ?もっと痛めつけても問題ないはずだ」

『…やりすぎるなよ』

その一言だけ残して、男の声は少女に届かなくなった。

 

 

 

ジードの動きが一時的に鈍ったところで、スカルゴモラが向かってきた。ジードは同じように取っ組み合う形で踏ん張ろうとする。すさまじい力だ。横綱力士に力いっぱい押し出されているときの感覚とはこのようなものなのだろうか。

「くっそ…負けるか!俺は…ウルトラマンなんだ!!」

でも、ウルトラマンジード=織斑一夏は意地を見せた。スカルゴモラを力いっぱい押し返していく。さらに力を強めて押し出し、少し距離が空いたところで、彼は勢いをつけたタックルを繰り出す。続けて奴の頭上から鋭いチョップを叩き込んだ。

ザシュ!と剣で切り裂いたような音が聞こえた。

「ガアアアア!!?」

怪獣がさっきまでと比べて苦しんでいる。切り傷が奴の顔に刻まれており、見事にクリーンヒットしていたようだ。

(うし!行ける!)

自分の右手を軽く握ったり広げたりして調子を確かめながら、ジードはもう一度スカルゴモラへと向かっていった。

「デヤ!!」

スカルゴモラに飛びかかった一夏は、その背中に乗り、左腕で首元を締め上げて右腕から拳を振りかざして手刀を叩き込みまくった。

 

 

ジードが両手を広げたり閉じたりする仕草。

それを見て、千冬は目を見開く。あの仕種には見覚えがあった。弟が篠之乃道場で剣道をやっていた頃、自分の調子を確かめるときにやっていた。そうしているときに限ってよく失敗を起こしていたものだが…

…まさか。

自分にとって、現実となるのを避けたかった予想が浮かび上がった。

あのウルトラマンは、まさか…

「一夏、なのか…?」

 

 

 

箒もまた、ジードとなった一夏の戦いから目を離せずにいた。

(一夏…)

荒削りながらも、それでも意地を見せて戦うジードの姿は、『あの時』を思い出させていた。

箒は姉と共に実家の道場で暮らしていた頃、父から剣道の手ほどきを幼い頃から受けてきた。そのため剣道の腕前は子供ながら見事なものだったが、同年代の男子よりも強くなった半面、『男女』だのと揶揄されてしまうようになった。表面上は気にしないままでいようと思っていた彼女だが、やはり年頃の女の子にとってそれは傷つきやすい言葉だった。リボンをつけるという、女の子ならだれでもやりそうなことにさえ口出しして嘲笑う。男子から毎日そのようにからかわれては屈辱を味わう箒は堪え続けた。だがいつまでも耐えきれるほど器が大きくないことは自分がよくわかっていた。ついに耐えきれなくなり、父から絶対にしてはならないと教え込まれていたにもかかわらず、竹刀で男子たちを殴り返してやろうと思った時だった。『あの時』、自分が竹刀で彼らをぶつ前に、一夏が彼らを殴ったのは。

『お前ら恥ずかしくねぇのかよ!たった一人の女の子に向かってよってたかってさ!』

箒は、一夏が自分を庇ったことに驚かされた。一夏の事は、最初は好きじゃなかった。自分よりも強かったくせに、力を振るうことを避けている印象だった。

しかし、知っての通り一夏の身体能力は、幼少期だから今より劣っていたとはいえ、普通の子供と比べたらオーバー過ぎた。彼に殴られたいじめっ子たちは酷い怪我を負い、保護者たちに千冬が平謝りする羽目になった。当然一夏も千冬から叱り飛ばされた。

箒は理解した。彼が暴力をさせる理由…ほんの少し手を出しただけで相手を必要以上に傷つけるからだ。剣道の試合でも、相手を必要以上に傷つけずに済ませようと気を遣い続けていたのだ。

なのに、なぜあんなことをしたのか、稽古の休憩中にそれを尋ねると…

『単純に許せなかったからだよ。女の子は悪者じゃない限りは守ってやらないとな』

今もそうなのだろう。ジードが怪獣を、街の人たちから必死に遠ざけようとしつつ戦っていることに気付いた箒は、懐かしさを覚えると同時に、心が温かくなるような感じがした。

(お前は、変わらないのだな。どんな姿になっても…等しく誰かを守ろうとする)

箒も、最初はジードとなった一夏に対して恐怖を抱いた。なにせ、幻の事件と言われたクライシス・インパクトの首謀者であるベリアルと瓜二つの姿になったのだから。

だが、彼が戦っているのを見ている内に、確信したのだ。

どんな姿をしていても彼は……自分が恋した少年だということを。

 

 

 

スカルゴモラの中、フードの少女は顔を抑えていた。見ると、彼女の額から血が流れ落ちている。現実世界のスカルゴモラの頭に、ジードが刻み込んだ切り傷と同じ個所だった。スカルゴモラが傷つけば、中にいる彼女もまた同じようにダメージを受け、傷を受ける。

自分の頭から流れ落ちる血を見て、少女は目を見開いた後、フードの下に隠れたその顔を憤怒で歪めた。

格下だと思っていた奴に、自分の顔に傷を入れられた屈辱で、果てしない激情が湧き上がっていた。

「おのれ……おのれおのれおのれえええええええええ!!

織斑一夏ああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

彼女の憎悪に呼応するように、怒り狂ったスカルゴモラがジードの両肩を捕まえた。

しまった!ジードの中に危機感が強く芽生えたが、スカルゴモラの力強い締め付けのせいで逃げられない。

逃げられないジードの肩に、スカルゴモラは彼の肩にその鋭い牙をくいこませた。剣のように、その鋭い牙は食い込み、ジードに激痛を与えた。

「グアアァッ!!」

一度口からジードを離すと、スカルゴモラは次なる攻撃を仕掛ける。足に炎のようなオーラを纏い、その足でアスファルトの道路を踏みつける。すると、足の周囲の瓦礫や道路の破片が一つ一つ炎に包まれた大きなつぶてとなる。それはジードに向かって火炎弾となって飛ばされる。

ジードはとっさに自分の腕を両腕にクロスして防ごうと図るが、肩に受けた噛みつきの傷のせいで、すぐに防御を崩されてしまった。もろに火炎弾を連続して受け、大きく怯んだジード。そんな彼にスカルゴモラはさらに角に邪悪なエネルギーをほとばしらせた突進攻撃をお見舞いした。

「ウワアアアアアアア!!」

ジードは避ける間もなく、大きく吹っ飛ばされ、近くの海辺に落下した。

 

 

フォン、フォン、フォン…

 

 

ジードの胸のランプが、青い輝きから赤い点滅へと変わった。

「なんだ…?胸のこれ、ピコピコ言ってる…」

よろめきながらも立ち上り、変身したと同時に自分の胸につけられていたランプを見下ろす。

すると、秘密基地にいる束から通信が入った。

『気をつけて!

いっくんがウルトラマンでいられるのは約180秒だけ!赤くなったらもう1分にも満たないよ!そのカラータイマーが消えて元の姿に戻ったら、ウルトラカプセルの冷却のために20時間必要だからしばらく再変身できない!』

一夏は絶句する。たった3分しかウルトラマンになれない上に、次の変身に丸一日も時間が必要なのか!?

しかも、あの怪獣はまた病院からの避難者のもとへ向かい始めている。

「ヤバい!今ここで仕留めないと!何か手はないのか束さん!?」

『落ち着いて!大丈夫、ウルトラマンには一発逆転の必殺技があるの!』

「必殺技?そんなの…?」

そんな都合のいいものがあったというのか。

…と、一夏の頭の中に、あるイメージが浮かび上がった。

ジードが、両手を十字に組んで、右手から光線を放つ姿が。

「…いや、閃いた!」

ジードはすぐに飛び立ち、スカルゴモラの進行先の真正面に降り立った。

スカルゴモラは、赤黒いオーラを全身からほとばしらせ、角にそれを集めていく。

ジードも頭に浮かんだ必殺技を発動しようと、下ろした両腕をクロスさせる。

「ヌウウウウウウ……ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

すると、彼の全身から沸き上がる膨大なエネルギーが、赤黒い稲妻となって漏れだし、両腕を頭上、そして両側に広げられるうちに、両手の平に集まっていく。ジードの感情に呼応して、彼の青く鋭い目も怪しくまばゆい光を放っていた。端から見ると、とても人を守るための戦士というには禍々しさに溢れていた。

「グルアアアアア!」

先にエネルギーをチャージしきり必殺の光線を放ってきたのはスカルゴモラだった。角に溜めたエネルギーを口から放った〈スカル振動波〉が、周囲の建物を破壊しながら、ジードに向かっていく。

ジードもチャージを完了し、両腕を十字に組んで必殺光線をスカルゴモラに向けて発射した。

「シュワァッ!」

二つの光線が、ぶつかり合う。どちらのものが競り勝つのか、束とクロエ、千冬、蘭、そして箒をはじめとした人々が見守る。

だが次第に、ジードの光線がスカルゴモラのそれに押し出されて行く。ヤバい、このままでは…やられる!

「させるか…」

脳裏に、幼い頃から共に生きてきた千冬、友人である弾や蘭、今は疎遠だが今もどこかで暮らしている幼馴染、自分に力を貸してくれた束の顔が浮かぶ。それが、踏ん張る一夏に力を与えていく。

こんな奴に…俺の大事な人たちを、街を…

 

奪われてたまるか!

 

「ウオオオオオオオオオ!!!」

ジードの力が最大に爆発、彼の目の光と赤黒いオーラがさらにスパーク。光線は更に肥大化してスカルゴモラの光線を押し返し、そして直撃した!

 

「〈レッキングバースト〉オオオオオオオオオ!!!」

 

「ガアアアアアアアアアア!!?」

自分の光線を押し返され、モロにジードの光線を食らったスカルゴモラは悶え苦しんでいく。

「ウア…ッ!」

そして、限界を迎えてジードは弾かれるように仰け反る。同時にスカルゴモラは前のめりに倒れ、木端微塵に爆発し砕け散った。

ISを退け、街を蹂躙した怪獣をジードが倒したのを見て、思わず街の人たちは歓喜しかけたが、すぐにそれはジードへの恐怖と疑心によって収まってしまった。

「はぁ、はぁ………」

カラータイマーの点滅がさっきよりもさらに早くなっていた。

息を弾ませ、酷く疲労しているのを露わにしていたジードは、霧のように消えて行った。

 

 

箒は、ジードが消えたと思われる地点を訪れていた。

しかし、その場に一夏と思われる人物の姿は見つからない。ジードとなった彼やスカルゴモラの足跡や、戦いによって破壊されたビルの残骸などがあるだけだった。

「一夏…」

まるで、夢か幻から目が覚めたような感覚だった。

何かがあったのは間違いないのに、最初からウルトラマンも怪獣もいなかったような焦燥感を抱いた。今まで彼が何をしていたのか、話したいことがあった。それ以上に、聞きたいことがあった。なぜあの姿に…ウルトラマンの姿になったのか。自分の知らない間に、彼の身にいったい何が起きたというのか。

とにかく、彼を探そうと足を速め、街の中を駆け抜けた。彼に何があったのか確かめるために。

 

 

 

スカルゴモラが倒されてから数時間後…

たくさんの建物が倒壊させられ、直ちに復興作業が行われていた。

町の一角で、スカルゴモラに変身していたあの少女が、酷いダメージと疲労で、ビルの影にうずくまっていた。

「くそ…織斑一夏…」

自分の敗北を認めたくないのか、彼女は悔しさと怒り、憎悪で身を焦がそうとしていた。

だが、彼女はどういう経緯で一夏の名前を知ったのだろうか。同時に、なぜジードの正体が一夏だと最初から気づいていたのか。

『なにやってんだM!任務中に熱くなりやがって!』

すると、彼女の耳に付けられた通信機から怒鳴り声が聞こえてきた。今度は、かなり荒っぽい女の声だった。

『あのプリュンヒルデの餓鬼は殺すなって言われてただろ!あまつさえリトルスターの回収にも失敗しやがって!』

「…気の短い貴様と一緒にするな」

『あぁ!?』

言い返されて通信先の荒っぽい女が声を荒げる。

『おやめなさい。二人とも』

だが、そんな彼女を制するように、今度は穏やかながらも、どこか不穏さを感じる女の声だ。

『ともかくリトルスターの宿主も特定し、今回の「織斑一夏を「ウルトラマン」に覚醒させる」ことはできたわ。

M、あなたへの織斑一夏への過剰な攻撃に対する咎めは、あなたの帰還後に…Mr.フクイデにどうするかは決めるわ。今回の任務の傷を治療するためにも、すぐに戻りなさい』

Mと呼ばれた少女への通信は、そこで切れた。

「…余計な御世話だ」

少女は歯を食いしばりながら、誰にも気づかれることなくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

当時のことを、ただ純粋に愛する妹のために命を捨てた男、五反田弾はそのように語っていた。

夢の中で、冷たい風が窓から吹いてくる中、ただただ目覚めぬ眠りにつき続け、訪れた死の闇の中に身をゆだねていた。

 

そんな彼のもとに…

 

 

『見てたぞ。お前、自分の命を顧みずに妹を庇ったんだな』

 

 

…一つの光が語りかけてきた。

 

 

『正直お前の動きには感動を覚えたぜ。親父と同じ名前なだけあって、見かけ以上に度胸あんじゃねぇか。

こんな妹思いの兄貴、死なせるには惜し過ぎるぜ』

 

眠る弾に向けて語りかけながら、その光は…昼間千冬の前に現れた、あのウルトラマン…ゼロの姿となった。

 

『俺はベリアルとの戦いでまだ怪我が完治していねえ。人間の姿になる余裕もない。だから、俺がお前の中に入って命を共有させる。そうすりゃお前はもう一度生きることができる。

その代り…俺の都合に突き合せちまうことになる。無理言ってることになるが、すまないな。

でも、信じてくれ。お前を二度も死なせるつもりはねぇ。次の戦いができるまで時間はかかるが、全力でお前の力になる。だから……お前の体をちょっと借りさせてくれ』

 

 

ゼロは、ゆっくりと弾にのしかかるように、彼の体の中に自ら吸い込まれていった。

 

 

 

 

戦いが終わった直後、束によって一夏は秘密基地へ回収された。初めてのウルトラマンとして変身し戦闘を行ったことで、彼の疲労はいつも以上に溜まり、戻ってすぐに彼は微睡の中に落ちた。

翌日、一夏は戦闘時のダメージの影響、および変身の際に彼の体に何かしらの後遺症のようなものがないか確かめるべく、束の手によってメディカルチェックを受けていた。

「…うん、見たところ何も異常はないみたい。疲れてどっぷり寝ちゃってたのも、体の方が戦いに慣れていなかっただけって見るべきかな」

特に問題はないそうなので、一夏は一安心する。

その後、クロエが出現させた電子モニターに再生されている朝のニュースで、変身した自分がスカルゴモラと戦う姿を見ることになったが…

『怪獣を撃破した第二の巨人の行方は、最初の個体同様不明のままです。付近の住民や避難者の人々から、ウルトラマンベリアルが復活したと、不安の声を上げています』

「あれが…俺…?」

「はい、あれが一夏様の変身していたウルトラマンです」

ウルトラマンジードの鋭い目のせいで一気にヒーローらしからぬイメージを与えるその姿に、少なからずショックを受けていた。束にもらった二つのウルトラカプセルのうち、ベリアルのものを見つめる。

「でもこれ、ベリアルのカプセルも使ったから…なんだよな」

束が言っていた。ライザーを使って変身したら、使用したカプセルに準じた姿に変身するのだと。なら、他のカプセルを使えば、こんないかつい姿にはならないはずだと一夏は考えた。

「…うぅん。予測だけど、それはない」

「え?」

束からの否定に、一夏はキョトンとする。

「いっくんのあの姿は、君の体にあるウルトラマン因子の影響…つまり遺伝によるものなんだ。衣装替えして人の印象が変わっても、その人の顔全部が整形されたように変わるわけじゃないように、どんなカプセルを使ったところであの顔は変わらないよ」

「なんでそんなこと言い切れるんだよ。束さんが自分で言ってたじゃないですか。つかったカプセルに合わせた姿になるって。だったら…」

「確かに言ったよ。全部私が言った通り。でも、それでも…うぅん、だからこそ、いっくんのウルトラマンとしての顔があんな風なのは必然なんだ」

「必然って…」

何かを言い返したくなるような衝動を覚え始めたその時、一夏の持っていた携帯電話から着信が入った。すぐに電話に出ると、とたんに千冬の怒鳴り声が彼の耳に突き刺さった。

『おい一夏!今どこにいる!?こんな朝早くからどこをほっつき歩いてるんだ!?』

「千冬姉…!」

そうだ、思えば自分は昨日の夜から自宅を出たっきりになっていたんだった。自宅に戻って、友人の死をきっかけに意気消沈だった弟がいなくなったなんて、千冬ほどの人間でも慌てない方がおかしい。それでいて怒っているようにも聞こえる姉の声に、そのことを一夏は思い出した。

すると、束が「貸して」と一夏に一言いうと、この人に説明した方が速いか…と思った一夏は自分の携帯を束に託す。

「やっほー、久しぶりちーちゃん」

『束!?』

突如昔馴染みの声を聴くことになるとは予想していなかったのか、千冬の驚く声が聞こえた。

『なぜお前が一夏と……………そうか、もしやとおもったが、やはりそういうことだったか』

一瞬弟と束が一緒であることに驚きを露わにしていたが、どうしてかすぐに納得を示した。

『束、私はお前に頼んだはずだぞ!一夏をあんな戦いに巻き込むなと…!』

「千冬姉…!?」

今の姉の口ぶりを聞いて、一夏の中に疑惑が生じた。巻き込むなと、頼んだはず?

「どういうことだよ千冬姉…まさか、知ってたのか!?俺が…いや、俺たちがウルトラマンの血を引いていたってことに!?」

『っ…それは……』

「答えろよ!!」

弟からの反撃を仕掛けるような質問返しに、千冬が喉を詰まらせた声が聞こえる。

「いっくん、落ち着いて!ちーちゃんは悪くないんだから」

傍らに寄ってきた束が、一夏に落ち着くように言う。電話を持ったまま、束の方を見やる一夏は、血眼になって今度は彼女に問い詰めた。

「束さん、あんたは俺たちの母親が、自分の科学者としての師だったって言ってたよな。知ってるなら教えてくれよ!一体俺たちの親は何者なんだ!?どうして千冬姉は知ってたのにそれを頑なに隠し続けてきたんだ!!どうしてだ!?」

「………」『……』

束も、電話の向こうの千冬も押し黙る。とにかく本当のことを話すのに、とてつもない抵抗を感じているようだ。

すると、横からクロエも話に割って入って束に勧めてきた。

「束様、ここは…まだお伝えしていない真実もお話しするべきかと。この方が中々に意地を張るタイプであることは、束様もご承知のはずです」

「クーちゃん…」

重大なことを隠されていると知られた以上、きっと聞くまで絶対に引き下がらない。クロエの言葉に押され、束は改めて千冬に言った。

「ちーちゃん、本当の事話そう。二人のご両親について」

『…わかった。だが、これは本来織斑の家の者の問題だ。私の口から話す』

 

それから間もなく、千冬が束の秘密基地に招かれた。

千冬は、一呼吸を置いたのち、一夏に向けて……自分たちの親についての真実を離し始めた。

「かつて私たちの母『織斑春七』は、科学者として高い技術力と知識を持ち合わせていた。束でさえ驚くほどのな。だが、それ故に異端の烙印を押されていた人でもあった。自分の才をどれほど疎まれようとも、あの人は自分以外の誰かのために、人の生活を豊かにするための研究を続けてきた。その際に父と出会い、私が生まれた」

「……」

その父が、自分がウルトラマンであるきっかけになった人なのだろうかと、一夏は予想した。そのように考えているのだろうと、束とクロエは一夏の顔を見て察する。だが束は、その予想が崩れ去ることを知っていた。

「だが、私と束が6歳の頃だ。クライシス・インパクトが起きたのは」

悪夢の出来事を思い出し、千冬の目に、当時の光景が蘇る。

炎の中に包まれる街。父と母と共に、炎の中を駆け巡りながら、少しでも安全な場所を求めてさまよい続けていた。周りから、ウルトラマンたちと、ベリアル軍の戦いに巻き込まれ、炎の中に消えていく人たちの悲鳴が聞こえた。幼い少女が見るには、一生残るほどのトラウマを刻み付けるに十分だった。

「私は二人と共に、ただひたすら逃げていたよ。何もできず、恐怖に慄く自分を呪いたくなるくらいに。そして…それを決定づけることが起きた」

「何が…あったんだ?」

「父が、私と母を庇って、瓦礫の下敷きになって死んだんだ」

「!?」

このタイミングで、父が死んだという話を聞いて一夏は絶句した。しかも、よりによって弾と同じ死に方をしていたとは。

「その後は束から聞いているな?あるウルトラマンの手によって、このクライシス・インパクトは、初めからなかったことのようになったという話は」

千冬からの問いに、一夏は頷く。それを確認した千冬は話を続ける。

「地球が元に戻ってから、私はあの時の恐怖を払い強くなりたいと思い、篠之乃道場の門を叩いたよ。剣道でどうにかできるなんてさすがに思わなかったが、それでも恐怖を忘れるために強さを求めた。束と出会ったのもその時だったな」

普段なら「これが束さんとちーちゃんの運命の出会いなのだ~♪」と無邪気なことを言うはずの束は、何も言わなかった。ただ話を聞いていく内に、その顔に影が差し始めていた。

「母もまた、似たようなものだった。父の死もあってクライシス・インパクトの出来事をはっきり覚えていたあの人は、ベリアルによるクライシス・インパクトの再発を防ぐために、今度は人を守るための武器と盾になる何かを設計し始めた。そしてそれは、こいつの父からの反発で母に弟子入りした束によって、完成したんだ」

「まさか、それがIS?」

一夏からの問いに千冬は頷き、そして束は肯定した。

「そう、正確にはISは束さんだけで作り上げたものじゃなくて、春七さんと束さんの共同発明品だったんだ。そしてそれは………ある人の支えなくしてできないものでもあったの」

「ある人?」

「…母の新たな夫、つまりお前の父だ」

「あ…」

一夏はそこで気が付いた。クライシス・インパクトで死んだとされた母の夫、だがその時自分は生まれていなかった。つまり…その男と自分は血がつながっていないということになる。

「俺と千冬姉は、父親が違う…ってこと?」

「ああ。そしてその父親が地球の人間ではないことも、昨日のお前が自分で証明している」

千冬にそう言われ、一夏はライザーとウルトラカプセルを見つめた。母の二人目の夫、その人が…自分がジードとなる力を遺伝という形で授けたウルトラマンなのだと悟った。まさか異父姉弟だったとは。千冬は自分と違い、ウルトラマンの血は引いていないのだ。

「その人は…クライシス・インパクトで記憶を失った人間だった。それを母が不憫に思って、自らの傍らに置いて『織斑四季』の名前と戸籍を与えた。

彼は記憶こそ失っていたが、かつて科学に精通した身だったらしく、助手となって束や母の技術力に追い付くどころか、二人共に驚かされるところも見せたことがあった。

夫を失った母、記憶を含めたすべてを失った男。そして科学者同士。その接点が、いつしか二人を結びつけて、お前が…一夏が生まれた。

私も彼を第二の父として、慕い始めていた。

だが………」

 

 

「その男こそが、すべての元凶だったんだ」

 

 

「え……」

千冬の険しい表情とその言葉に、一夏は戦慄した。

「ある日、織斑四季の知り合いを名乗る男によって四季は記憶を取り戻し、本性を現したんだ。邪悪な心に満ちた…薄汚い悪の本性を。

あまつさえその男は、私たち全員を自分の野望のために利用しようとした。その前に、母は自ら奴らを足止めするために…ただ一人残った…束に、私たち二人を逃がすように頼んでな」

嫌な予感がする。その先に…自分から求めていたはずなのに、聞きたくない真実があるような気がした。しかも、千冬と自分の父は別人。しかも自分の父は、自分にこの力を授けた種族、『ウルトラマン』の者。

その男が記憶を取り戻して、悪に戻った…!?

自分がスカルゴモラと戦うために変身したあの姿と、気づいてしまった真実が結びついた。確信を得た一夏の体が震え、表情も青ざめていく。

「まさか…」

悪のウルトラマン、そんなの一人しか思い当たらない。

 

そう、ただ一人だけ…

 

 

「まさか……

 

…そんな…

 

…嘘だ…

 

…そんなのウソだ…そんなこと…

 

 

そんなことあるもんか…」

 

「……一夏、認めたくないのはわかるが…これは真実なんだ。お前の父、織斑四季の正体は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウルトラマンベリアル』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のスカル振動波ですが、ジード第1話と違い、ゼロ距離の発動技ではなく、ゴモラの超振動波にもある遠距離ビームパターンで使わせてます。ドラゴンボールのかめはめ波等のぶつかりあいっぽくレッキングバーストとぶつけ合わせてみたかったので。
一夏と千冬の両親についても完全に自分が独自で考えたオリジナル設定です。

また、作中の一夏はウルトラマンとしての光が弱い=ウルトラマンとしての変身が単独でできない設定です。これはジード本編を見て、オリジナルのジードであるリクがウルトラカプセルがないとウルトラマンに変身できないという設定からに閃いたものです。ウルトラマンと地球人のハーフである一夏は、普通のウルトラ一族よりも光のパワーが半分以下なので、ウルトラカプセルの力で無理やりウルトラマンへ進化してる状態というわけなのです。


これにてIS×ウルトラマンジードの短編クロスは終了です。
設定だけならそれなりに考えて行ってますが、まだISについて把握しきれていない箇所の多さや、他の小説の執筆の方で手一杯ということもあり、とりあえず序盤のみという形で小説化させてもらいました。
ドーしても続きを読みたいとお考えの方は、すみませんが今のところ続きを書く予定がないので、自分の方でお書きになってほしいということで…。

最後に、読んでくださった皆様、そして原作者の方々に感謝を…


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