「マガバッサーの回復にはどれほど時間がかかる…?」
「怪獣カードのエネルギーを食わせればすぐに治せますよ。ただ、今のカードの補充数を考慮すると、全快とはいえませんね。やはり、『二重封印』の影響で力が弱まっていたことも関係しているのでしょう」
「っち…なぜあんな男を、聖剣は選んだのだ!本来なら、この俺が…」
「どうも聖剣は、我々の存在を疎ましく思っているのでしょう。何せ我々は……を否定する………ですからね」
「その……の無価値さを理解できないとは…ふん、所詮無能のなまくらだな。思えばあの男も、こんな世界のために聖剣を捨てた愚か者だからな」
「…あまりそのような陰口をいうものではありませんよ?返り討ちにあったとあれば、その分だけ自分のみっともなさを思い知らされますから」
「うるさい、黙れ。それよりさっさとマガバッサーを回復し活動再開させろ。
今度こそ…あの男からすべてを奪い去っておかねば…!」
一方その頃、鈴々が庄屋の命令で鈴々の捕縛を命じられた兵たちに狙われていると知った関羽は、一刀のことをひとまずおいて彼女の身の安全を確保するべく、村付近の裏山へと向かっていた。裏山のふもとあたりで、彼女はふもとにある一本杉の辺りで道が二つに分かれていることに気付く。女将の話だと左の道を道なりに進めば鈴々の小屋に繋がっているそうだ。当然左の道を選び、道なりに進む。
それにしても、まさか女将の言っていたことが真実だったとは。5年前に現れたという、鳥の化け物の起こした突風のせいで滅亡の危機に瀕していた。それを聞いたときは正直半信半疑だった。だが昨日発生した異常すぎる暴風によって村が破壊されたこと、さらには…自分があの暴風によって遥か上空へ舞い上げられた時に見た、あの青い翼の巨大な怪鳥。夢というにはあまりに現実味を帯びた形で記憶している。真実と認識するしかない。
だが、もう一つ気になることもある。そういえば意識を失う直前、光に包まれた巨人を見たような…。空中に舞い上げられ、身動きできなかった自分はあの怪鳥に食われるはずだった。たとえ食われなかったとしても、そのあと地上へ落下して…。
(あの光の何かが、私を救ってくれたのか?…いや、そんなまさか…)
答えの見えない疑問ばかりが浮かび続ける。
いや、今は早く鈴々を見つけて保護してやらなくては。自分のために薬草を探しているという一刀を待たせることも避けたい。再び前を向いて歩き出した。
すると、道の両端に生い茂る草むらから、4人の子供たちが現れる。鈴々山賊団に所属している子供たちのようだ。
「役人の手先だな!」
「帰れブス!オヤビンのとこにはいかせないぞ!」
「年増!」
「な…だ、誰が年増だ!私はまだ17歳…」
口々に悪口を言われ、関羽はカチンときて近づこうとしたところで、足を止める。ちょうど足もとに、木の葉が大量に敷かれている。何ともあからさまに存在感を現しているのか。
「ふぅ…なるほど、落とし穴か。子供にしては知恵を絞ったみたいだが…この関雲長には通じんぞ!」
とぉ!と魅せるかのように飛んだ彼女は、そのまま落ち葉の上を飛び越えた。着地したところで、どうだと言わんばかりにドヤ顔を浮かべる。
しかし、足の感触に彼女は違和感を覚える。見れば、目の前の子どもたちがしてやったり、といった感じの悪い笑みを見せている。なぜそんな顔を浮かべる?
その直後だった。関羽の足もとがズボッ!と崩れ、彼女は落ちた。木の葉のダミーを使った落とし穴作戦。裏をかけなかった関羽はもろに引っかかってしまったのである。
「やーいやーい!」
「引っかかりやがった!」
子供たちは穴から関羽を覗き込んで大笑いしていた。一生の不覚だ…関羽は自分の浅はかさを呪った。まさか二重トラップとは…相手が子供だからって舐めていたのが祟ったのだと痛感する。
「足止めは出来た!今のうちにオヤビンを役人から逃がすぞ!」
山賊団の一人の大柄な少年が、同じく山賊団メンバーである3人の少女たちに言う。少女たちも頷き、一目散に関羽の落ちた穴から離れようとする。
「待あああああああてええええええええ!!!」
「ひぃ!!?」
が、その途端穴からすごい勢いで関羽が飛び出し、逃げようとした子供たちの前に着地した。あまりの勢いに子供たちは動揺し、動けなくなる。そこからは関羽のターン、雑巾絞りや万力などの体罰を加えて子供たちを懲らしめてしまう。
「ふぅ…まったく、手を焼かせる子供たちだ」
「ち、ちくちょう…オヤビンさえいれば、お前なんか!」
「オヤビンは役人の手先なんかに負けないんだぞ!」
山賊団の子供らが口々に捨て台詞のような言葉を飛ばす。役人の手先だと誤解されている。すでにこの子たちも、鈴々が役人に狙われているのだと知っていた。
「待て待て。私は鈴々を役人に引き渡しに来たわけではない。寧ろその逆だ」
それから関羽は、なるべく子供たちに不安を与えないように、優しげな口調を保たせながら、自分が鈴々を役人の手から逃すために来たのだと語る。
「本当に役人にオヤビンを渡したりしない?」
「もちろんだ。この偃月刀に誓おう」
関羽は持ってきていた偃月刀を掲げて誓いを立てる。多少の不安こそあるようだが、子供たちも納得し、村へと戻って行った。子供たちが戻って行ったところで関羽は少し疲れたようにため息を漏らす。
「まったく、子供という者の相手は妙に体力を使わされるな」
まぁ、別に賊を斬るよりはずっとマシだ。それよりも、鈴々を早く探して一刀とも合流しよう。そう思って鈴々の小屋の方へと視線を向き直った。
ふと、関羽は自分が通ろうとして来た道の先に、二人組の姿を見つける。
両者共に見覚えがある。あれは一刀と……鈴々ではないか。
「関羽?村にいたんじゃなかったのか!?」
「北郷殿こそ、薬草を探していたのではなかったのか?なぜ鈴々と…」
「なるほど、北郷殿まで鈴々を探しに…だったらそうと仰ってくださればよかったではないですか」
一刀から、彼もまた鈴々に会いに言っていたことを知った関羽は、やや不服そうに一刀を睨む。一刀はその視線を向けられ気まずくなる。
「ご、ごめん…でも、どうしても気になることがあってね。そのために鈴々からどうしても話を聞いておきたかったんだ」
「気になること?」
嘘ついて自分より先に鈴々と接触を図りたくなるほどなのか。一刀は鈴々の目線に合わせて身をかがめ、鈴々に訪ねた。
「張飛。君は昨日村を襲った怪鳥について何か知っていないか?それに、俺が君の大事なものを盗んだっていうことも…」
「……わかったのだ。お前には役人から庇ってもらった借りがあるのだ」
かつて鈴々には、親に代わって引き取ってくれた育ての親がいた。自分の親とはある事情で知り合っていたらしい。年配の人間だったから鈴々は彼のことを「おじいちゃん」と呼び慕っていた。自分に文字の読み方と書き方、狩りの仕方、護身術、さまざまな知識と技術、そして愛情をもたらしてくれた。
しかし、あの怪鳥が5年前に村を滅ぼそうとした。昨晩のような激しすぎる突風。彼はその中に自ら飛び込んでいった。その後で、風がやむと同時に怪鳥は姿を消してしまった。
彼が身を挺して封じ込めた…という。どんな技を使ってあの怪鳥を封じていたかはわからないが、祖父と慕っていた男が、村を守るために自分の身を挺して守ってくれたのだと確信した。
その後、鈴々の小屋の前にて男は鈴々の目の前で異変を起こした。彼は人の姿から光の粒子状に散り始めたのだ。
『許してくれ、鈴々。私は、これ以上お前の祖父代わりをできそうにない』
少なくとも、今まで通り祖父と慕う男と共にいられなくなる。それを予感した鈴々は叫んだ。
『やだよ…やだよおじいちゃん!!鈴々を置いて行かないで!!一人にしないで!』
手を伸ばして祖父の手をつかもうとする。まだその時は、手を握ることができた。
『よく聞くんだ鈴々。この先の未来、私の力を継ぐに相応しい戦士が、お前の前に現れるはずだ。その時まで、私の力で奴を封じ続ける。その札は、悪しき者の手に渡らぬよう、この場から決して動かさずに安置しておきなさい。そうすれば、あの怪物は目覚めない』
『おじいちゃん…』
『…いいか、鈴々。お前は決して一人ではない。私は常にお前と、お前が大切に思う人たちのことを見ている…』
それが、鈴々が最後に祖父が残した言葉だった。祖父はやがて人の姿を保たなくなり、赤い光の雫となって天へと昇り、姿を消した。
遺された鈴々の、祖父の手を握っていた手に握られたのは、一枚の札だった。見たこともない姿をした人型の戦士の姿が、絵型として刻まれていた。
「あの札がとられちゃったから、おじいちゃんが封じていたあの鳥が復活しちゃったのだ…そのせいで村がめちゃくちゃにされてしまったのだ…」
「札の力で、あの鳥を封じていたというのか…?」
にわかには信じがたそうにつぶやく関羽に、鈴々は目くじらを立てる。
「おじいちゃんは嘘をつかないのだ!」
「わ、わかっている。決してそなたの祖父を侮辱したわけではない。すまなかった…」
嘘つき呼ばわりされたように聞こえ不快感を覚えた鈴々に、関羽は謝罪する。しかし、あの怪鳥を封じ込めていたという札…もし本物だとしたら、一体どんなものなのだろうか気になってしまう。
(にしても、鈴々のおじいさんって…まさか…)
一刀は鈴々の祖父のことに、何かしら確信めいた予感をよぎらせたが、この事についてはひとまず置いておくことにした。気になるのはそれだけじゃない。
「で、君は俺を、札を盗んだ犯人だと思っていたのか。大方山賊団の子供たちにも、そのことを伝えてたから、あんな出迎えだったのか」
鈴々が自分に対して敵意を向けてきた理由がなんとなくわかった気がした。祖父から託された大切なものを奪われて気が立っていたのだろう。
(…この子は、『彼女』のバレバレな変装にも気づかなかったくらいだしぁ…)
「だって、おじいちゃんの札を盗んだ奴、白い服を着ててちょうど、お前と同じくらいの年の男だったから…」
「…なに?」
鈴々からそれを聞いた一刀は一瞬耳を疑った。
「そいつの特徴…他に何かなかったか?」
彼女の祖父の残した封印の札を奪った男について、彼は詳細に訪ねる。
「え、えっと…あいつの顔は影になってて見えてなかったけど、確かに若い男だったのはわかったのだ。武器は持ってなくて、代わりに蹴りがすごかったのだ。あの蹴り、すごく重くて、鈴々…悔しいけど一撃でやられたのだ…」
蹴りが重くてすごい。そして一刀と同じ年齢に見られた若い男。且つ、白い服。
一刀の記憶の中で、思い当たるのは一人しか浮かばなかった。
長い長い時を経て結ばれた因縁を持った、あの男の顔。
(…くそ、あの野郎…またか…!)
一刀の顔が険しくなっていく。まるで、憎き親の仇を目の当たりにしたような鋭い眼光があることに気づく。そして…一刀があのような顔を浮かべていることに、…関羽と鈴々はわずかに恐怖を感じた。
(北郷殿…)
ガシャアアアアアン!!
大地が割れたような音が轟いた。三人はその音に強く反応し、音の聞こえた方を見やる。
自分たちがいる山のすぐ隣の山の表面が崖崩れを起こしている。崩れた土砂の中から、巨大な怪鳥がその姿を現した。
「あ、あれは…!!」
間違いない。目を見開いて関羽と鈴々が、そして一刀は確信した。こいつは昨日、村を荒らしたあの怪鳥だ。
「そこに隠れてやがったのか…『マガバッサー』!!」
一刀は敵意をむき出しにしながら、怪鳥の名を口にした。
「回復したようですね…さあ、外史破壊のために生まれた『魔王獣』が一体…
『風ノ魔王獣マガバッサー』よ」
「奴を……北郷一刀をこの外史もろとも八つ裂きにしろ!!」