第零話 桜舞う頃
ここは東京にある、とある学校。
全国にも九つしかない魔法を学ぶための高校の内の一つ、国立魔法大学付属第一高校。
「はぁ〜」
一人の少年がため息を吐きながら人気のない道を歩く。
少し長めの、しかし肩まではかからない程度の赤毛の髪を後ろでひとつに束ねていて、どこか優しそうな整った顔は明らかに落ち込んでいる。
真新しい第一高校の制服に身を包んだ赤毛の生徒は立ち止まり、今日行われる入学式まで大いに余裕のあることを再度確認すると。
「はぁ〜〜」
再び、ため息を吐く。
「なんで、こんなに早くきちゃったんだろう」
ただただ呆れる。まるでそう言わんばかりにもう一度ため息を吐く。
仕方がない。やはり自分にとって式典行事は早めに行ってさまざまな準備をするものなのだ。などと考えながら頭を振る。
ふと。
満開の桜が目に映った。
ひらひら、ひらひらと薄桃色の花びらが舞っている。
少し考えていたからだろうか。
昔、それこそ
わずか1年半の、でも、ずっと色褪せない彼女たちとの思い出が湧き上がってくる。
毎日元気に笑いあったり。
一人の少女の気高い思いを否定するため過去と未来を飛び回ったり。
ひとつの世界の命運をかけた大冒険をすることになったり。
いろいろ思い出はあるけれど、最後に必ず思い出すものがある。
あの桜の下で。
涙が流れてても。
笑って再会を約束したあのときを。
「…ふふっ」
やっぱり彼女たちには敵わない。
どんなときでも、思い出すだけで笑顔になれるなんて。
きっと、いつまでたっても教師の感覚がなくならないのは彼女たちのせいだ。
そんな、あの少女たちが聞いたら怒りながら笑顔で襲いかかってきそうなことを考えていた。
「さて」
気を取り直して少し、この辺りを歩き回ってみよう。
まだ時間はかなりあるけれど、人が全くいないとは決まってないんだ。
同じように早くきてしまった人と友達になって、お互いの話でもしていれば時間も潰せるだろう。
なにより、あのクラスの担任だったボクが、こんなことでうだうだ悩んでるのは彼女たちに怒られそうだ。
先ほどまでの、自分に対しての呆れを振り切って、取り敢えずの行動方針を決めた赤毛の少年は笑顔で歩き始めた。
その顔にあるのは、
初めての高校生活に対する期待と不安。
新たな友人関係を築いていこうとする目標。
そして、自らのために目的を達成しようとする覚悟。
そんな、ある意味で年相応でもあり、しかし実際には不相応である考えを抱きながら、少年は歩く。
しばらく桜を見ながら進んでいた少年は、入学式の会場である講堂が見えてきたことに気付いて、折返そうか考え始めたところで、自分と同じように真新しい制服に身を包んだ一組の男女を見つけた。
「納得できません!」
花をあしらった模様のついた第一高校の制服を着ている少女は、降り積もった新雪のような冷たくも柔らかい印象を受ける、その美しい顔を悲しみと怒りで染めながら、目の前の少年に詰め寄っている。
少女と相対する少年は、花柄のない制服とどこか似通った、比較的整っているがどこか個性のない顔を、わずかに困惑に染めて少女の話を聞いている。
「ケンカはダメだよね」
男女の言い争いを見た赤毛の少年は、そう呟きながら二人の方へ足を進める。
あの二人は知り合い、どことなく顔のつくりが似ているからおそらく兄妹なのだろう。
本当は他人の事情に首を突っ込むのはよくないのはわかっている。
でも、せっかくの入学式でケンカして居心地の悪いまま受けるのはもったいないと思うだろうし。
内心でそんな言い訳をしながら、赤毛の少年は兄妹に声をかける。
「まあまあ。少し落ち着いてください」
兄妹は言い争いを止めてこちらを見る。
少女は先ほどまでの言い争いを他の人に見られていたという羞恥に頬を染めて。
少年はやはりわずかに、驚きと先ほどとは違う困惑に顔を染めて。
「せっかくの入学式なんですから、ケンカばかりしているともったいないですよ」
「あっ。自己紹介がまだでしたね。春原家八代目当主をさせていただいています、
これは有り得るはずのない物語。
陰謀渦巻く世界で生きていく魔法師たちの物語に、
ただそれだけのお話。