過去話其之壱 英雄で魔物な赤ん坊
2065年9月某日。
日本の新しい首都のある場所。
かつて麻帆良学園と呼ばれ、軌道エレベーターができたことで、
この地で教鞭を振るっていた少年が設立し、今や世界の誰もが知っているまでに成長した
「ボクが、事務局長を退任するのを認めたくない人もいると思う」
そこで前事務局長、いや初代事務局長が演説をしている。
彼は、以前この地で個性的な少女たちを教え導き、裏火星、つまり
当然のことながら支持率は非常に高く、たとえ彼とともに尽力して、なおかつ彼の指名を受けたとはいっても、新しい事務局長に反対する人は少なからずいた。
また、彼の容姿も大いに関係している。
彼は今年で72歳を数えるはずなのだが、さすがに20代とはいかないまでも30代で十分通用する容姿をしているのだ。
しかし、彼は続けてこう話す。
「
でも、彼ならばそんな心配はない。彼は歳をとらないからね。
ボクは、彼は信用できると考えている。
地方の過疎化も、貧富の差の問題も、人と亜人との間の問題も。人ではないけど亜人でもない彼ならばきっと考えついてくれると信じてる。
だから、みんなも彼を信じてくれないかな?」
その、英雄のやさしく
ヤジが消えていった会場で、再び英雄は口を開く。テレビの前の民衆まで彼の言葉に注目するさなか、
「ありがとう。これからの彼の活や——」
パン、と
どこか軽い音がした。
音の発生源から彼めがけて亜音速で進んだ弾は、彼の目の前30センチほどで彼の障壁に防がれた。
当然のことだろう。彼は世界を救った英雄だ。
ただの鉛の塊程度であっけなく死ぬほど甘くはない。
———それが、ただの鉛の弾だったのなら。
ギュインと。弾が
事ここに至って近くにいた新事務局長、長年彼と対立しつつも協力してきた白い髪の青年も、嫌な予感を感じて動こうとした。
しかし、すでに取り返しのつかないところまで進んでしまっていた。
彼らが知るはずもないが、このたった一度のために膨大な資金と時間が費やされたこの弾は、何かに当たった瞬間にある魔法を発動する魔方陣を作り上げる。
その魔法は対象の肉体を分解し、魂を残して肉体のみを封印するという封印魔法。
彼の師でもある
もしくは彼の生徒であった幽霊の少女ならば、そもそも意味を成さなかったであろう。
しかし、中途半端な不死の彼には、どうしようもなく、これ以上ないくらいに効果的だった。
ほぼ全ての人と言っていい民衆が注目するなか。かつて人形だった青年の目の前で。
バシュウという音とともに、英雄は消えた。
後に残ったのは黒い飴玉のようなちいさな玉と、悲鳴と喧騒。
そして虚空へと手を伸ばし固まる白い青年の姿だけだった。
◇ ◇ ◇
——トクン、トクン——
身体が、なにか優しいものに包まれている気がする。
——トクン、トクン——
何があるのか知りたくて、目を開けようとしても開かない。
——トクン、トクン——
いや目だけじゃない。
——トクン、トクン——
身体もうまく動いている気がしない。
——トクン、トクン——
何かで縛られているような圧迫感があるわけでもない。
——トクン、トクン——
石化魔法を食らったときのように固まっているわけでもない。
——トクン、トクン——
神経毒のような感じだろうか。身体の力が入らない。
——トク、トク、トク——
石化魔法といえば、彼はどうやって世界を変えていくのだろう。
——トク、トク、トク——
彼ならばきっと変えられると思っていたから、やり方とか考えなかったな。
——トク、トク、トク——
まぁ、大丈夫だろう。
——トク、トク、トク——
なんせボクと長年やり合ってきたライバルだからね。
——トク、トク、トク——
なんか、だんだん圧迫感が出てきたな。
——ドク、ドク、ドク——
やっぱりここはどこなんだろう。
——ドク、ドク、ドク——
どんどんきつくなってきているし、何の音か分からないけれどうるさくなってきてる。
——ドク、ドク、ドク——
って、キツイキツイ!!何なに本当になんなのここ!!
——ドク、ドク、ドク——
あれっ押されてる!!ってなんか頭に輪っかみたいなのが当たってるんだけど!?
——ドク、ドク、ドク——
え!?ここを通るの!?無理無理無理!!あっ押さないで!!痛い痛い痛い!!なんか頭から涼しくなってるし、本当に痛い!!
ううぅ……。やっと出られた。
とりあえず呼吸を……あれっ!?ゴ、ガハッ
「おぎゃぁ」
「おめでとうございます!頑張りましたね!」
そうか、ボクは溺れてたのか。でも、それにしてはなんかおかしかったような?
それと相変わらず目は開けられないけど、この女の人はなにを喜んでいるんだろう?聞いた事ない声だけど。
「ほら、元気な男の子ですよ。抱いてあげてください」
「本当、可愛い子だわ。よかった。本当によかった」
あっ抱きしめられた。
へっ?男の子?ボクのこと?まさかぁ。
あれっ?でも……今までボクがいたのは……。
もっ、もしかして……。とりあえず確かめてみよう。
「お、オギャアアァ」
「よしよし。大丈夫だからね」
「
「わかりました。お願いしますね。」
や、やっぱりボクなんだ……。とりあえず……
これからどうしよう……。
◇ ◇ ◇
とりあえずこの一週間、周りから聞こえてきた情報からわかったことをまとめよう。
まず一つ目、自分が「転生」したということ。それも多分「平行世界」に。
「転生」については、
「平行世界」とはある最強頭脳曰く、
『世界はあらゆる可能性から分かれていく。それこそ朝食の内容から戦争の有無まで幅広くネ。だから、自分の世界と全く違う世界も存在するヨ。それらを平行世界と呼ぶのダガ、この『渡界機』は特定の人を設定することでその人が世界に与える影響を検出し・・・』
ということらしい。
まだこの世界の父と母の会話とかから推測するしかないが、知らない言葉や組織について話していることもあるから、まず間違いないはずだ。
二つ目に、おそらく魔法や
感覚的にだし、人目の途切れたときにごくわずかだけだったけど、間違い無いと思う。
これは、いざという時の切り札にもなるけれど、普段は大怪我とかしたらすぐにばれちゃうから注意しなくちゃいけない。尻尾とか生えるのが活性化した後でほんとよかった。
でも、なんで?これについては、一つ目も含めて仮説を立ててみた。
おそらくこれは完全体の
これをボクは膨大な魔力をもとに無理やり発動させて、魔力を限界以上に引き出すためにつかい、その際に引き出した魔力の侵食に呑まれることで魔物として生まれ変わった。
でも、これはよく考えるとおかしい。
おそらく、今回の原因はその矛盾。
かつて、封印が解けた後久しぶりに会った
「ぼーやは図体はデカくなるくせに、精神のほうは全くと言っていいほど成長しないな」
それが答え。多分ヒトが完全体の
この仮定が正しいすると、もし、あのときの魔法が肉体と魂のつながりを切ってしまうようなものだったら、『魂としては不老不死の体を持つはずなのに、体を失っている』という矛盾が起こる。
そのため魂が新たな体を得るために世界を渡ったと考えることもできる。
そうだとすればすでに完全体なのも納得できるのだ。完全体の魂をもとに体を調整したはずだから。
もともと魂は魔法的に見ても、「あることはわかってるけど、どんなものかはわからない」という感じだ。そんなことがあっても不思議じゃない。
まあなんにせよ、どうやら平行世界に
三つ目は、どうやらこの世界にも魔法はあるらしい。
というのもどうやらこの世界の父親は警察の魔法部隊に所属しているらしく、よく
「ジュッシゾクのお歴々から・・・」とか
「サイオンリョウが・・・」とか母に話してるのだ。
まだわからない単語は多いけど、とりあえず魔法はあるらしい。
ボクの知ってるものとは違う可能性が大きいけど。
四つ目、これからどうしていくのか。
これは本当に悩んだ。
なにせ今までの人生何か目標がかならずあったのだ。
『父さんに会う』だったり、『村のみんなの石化を解く』だったり。
『Blue Mars計画』は問題だらけだったし、『人類と亜人の融和』にいたっては解決への糸口すら見つけられてない。
でも今回は何もない。
だからどうしたらいいのか不安でいっぱいだった。
けど昨日、前世でみんなが揃って口にしていてたことを思い出した。
「少しは自分の幸せの為に動け」
言葉は違えど、みんなこんな内容のことを言っていた。
結局向こうではいろいろ行動していたせいで、最期までできなかったけど、こっちではそれを取り戻すくらい自分のしたいように生きてみよう。
それが今後の行動方針だ。
五つ目、前世のことについて。
これは誰にも言わないことにした。
それはこの世界の両親のことを思ってだ。
ボクは前世で両親とまともに過ごせなかった分、この世界の両親とは本当の親子として過ごしていくと決めた。
では、自分の息子に自分の親、へたすれば祖父母と同じ年代の人格が宿っていたとしたらどう思うだろうか。
少なくともボクは、ジンテツがそんな状態だったら気持ち悪いと感じるだろうし、受け入れたとしてもどこか残念に思うだろう。
この両親にそんな悲しい思いをさせたくないから、黙っていくことに決めたんだ。
あとは、えーと……ない。
……まずい!現実逃避ができない!
今一番大きな問題が目の前にあるというのに!
前世での経験は役に立たない、というか前世があるからこそのこの問題というか……。
何が言いたいかというと今目の前にいるこの二人、
「では、先生どうもありがとうございました」
「ほら〜。
ボクのこの世界の両親についてだ。
父親の名前は
春原家七代目当主で、警察の魔法部隊に勤めているらしい。
……うん。なんというか、「メガネをとったタカミチの赤カラー」で見た目と性格は100%伝わるかな。
母親の名前は
家の近くにある高校前の、喫茶店で働いているらしい。
……見た目は、「メガネをとったしずな先生」そのまんま。
……わかる?ねぇこの辛さわかる!?
そんな人たちが「ほら、おっぱいの時間ですよ」とか「
なんか罪悪感とかギャップとか羞恥心とか!!いろいろごちゃ混ぜになってすごい疲れるんだけど何これ!?
誰に向かって言ってるのかわからないけど、誰か一緒にこの気持ちを分かち合って!!
…はぁ。はやくおおきくなりたいなぁ