魔法科高校の立派な魔法師(改訂前)   作:YT-3

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過去話其之参 「其の名は」

——その時、ボクは。

 

——あんなに大変で、頭がいっぱいだったのに。

 

——これまでで一番の驚きと。

 

——それ以上の安堵で。

 

——悩んでいたことが、全部軽くなった気がした。

 

——彼女とならぜったいに解決できると。

 

——あぁ。やっぱり。

 

 

———彼女には敵わないな。

 

 

—◇■◇■◇—

 

 

 あの事件から、五日が経過した。

 

 あの爆発で、居合わせた一高の生徒がとっさに魔法で障壁を張ったため、父さんと母さん以外に犠牲者はでなかった。

 犯人も同じように、しぶとく生き残っていたそうだ。

 動機は、仲間内で一人だけ一高の受験に失敗し、それによって罵倒や暴力を受けていたことから、「一高に受かった人が少なければ、こんな状況にはなっていなかった」と、逆恨みしたことらしい。

 

 今は、二人の告別式をしている。

 今までたくさんの人と別れてきたけれど、こればっかりはいくら経験しても慣れる気配がしない。

 泣いても泣いても、どんなに泣き疲れても。

 どうしても涙が止まらない。

 

 特に今回は、ボクの二人目の両親だ。

 いくらでも思い出があるし、後悔もある。

 まさか死んじゃうなんて思ってもなかったから、別れの言葉も告げられてない。

 

 正直、今すぐ犯人のところに行って、灰になるまで焼き殺してやりたい。

 でもそれを、あの優しかった二人が望んでいるとはどうしても思えない。

 

 悲しみだとか怒りだとか喪失感だとか不安だとか、いろいろぐちゃぐちゃになっていて、頭が働かないし、何もする気が起きない。

 

「大丈夫かい、ナギ君?」

 

 

——あぁ、でも。

 

 

「ありがとうございます。えーと……」

 

「あぁ、おじさんは七草(さえぐさ) 弘一(こういち)っていうんだ。お父さんの知り合いだよ。

 実は、君のお家のことでお話があるんだけど、明日お家に行ってもいいかな?」

 

 

———時間は待っていてくれはしないらしい。

 

◇ ◇ ◇

 

 翌日、約束の時間に七草(さえぐさ)さんは来た。

 

「こんにちは。あんなことがあってすぐなのに、今日はわざわざ時間を取ってくれてありがとう」

 

 そう言って、七草(さえぐさ)さんは優しく、でもどこか哀しそうな微笑みを浮かべてみせた。

 恐怖心を与えないためにか、しゃがんで目線を合わせながら聞いてくる。

 

「急に一人になっちゃって大変だっだろう。つらいなら、また日を改めるけど」

「…ありがとうございます。でも、大丈夫です。」

 

 込み上がってきた思い出と涙を飲み込んで、絞り出すように答えると、七草(さえぐさ)さんを迎え入れて、準備をしておいた応接室へと案内する。

 

「ここです。どうぞお入りください」

「では、失礼するよ。……これは」

 

 一瞬、テーブルの上に、既にティーセットとクッキーが用意されていることに驚いたようにみえたが、すぐに元に戻って奥の席へ向かった。

 ボクも扉側のソファーへと向かい、座った。

 

「これは、ナギ君が?」

「はい。ウチにはHAR(ハル)はないので」

 

 HAR(ハル)とは自動家事システム(Home Automation Robot)のことで、家事を自動でしてくれると世界的に人気らしい。

 

「そうか……。ムリさせちゃったかな?

 あれから一週間も経ってないんだから、ゆっくりしていてもよかったんだよ?」

 

 そう言って、ボクを気遣っているように見(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 そう、この人は表面的にはどうであれ、本当は全(・)く(・)可(・)哀(・)想(・)だ(・)と(・)か(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)んだ。

 この状況で、普通に上(・)座(・)に(・)座(・)っ(・)た(・)あたり、内心見下してるのが態度に出てる。

 

「ほんとに大丈夫です。それになにかしていた方が気も紛れるので……」

 

 これは本当だ。あの日から、無駄に家中大掃除したり、「巨神ごろし(ティタノクトノン)」や「敵弾吸収陣(キルクリ・アブソル・プティオーニス)」の理論再検証をしていたりしたから。

 

「そうかい?それならいいけど……」

 

 この人は、そんな利権に飢えたような獣の目をしていて、ばれていないと思っているのだろうか。

 優しく気遣っているように見せて、懐柔しやすくしようとしているのがばればれなのだけど。

 ……いや、既にばれているとは考えてもいないだろう。

 何せ、相手は『わずか九歳の子供』なのだから。

 

「さて、じゃあナギ君もいろいろ大変だろうし、早めに終わらせようか。

 実は今日ここにきたのはね……」

 

 早速きたか!!

 この状況で考えられるのは、おそらく…

 

「ナギ君を私の養子に迎え入れたいと思ってきたんだ」

 

 やっぱりそうか……

 

「養子?」

「そうだよ。私の子供にならないかということだね。家もこの近くだから今の学校にもこのまま通えるし、年の近い娘もいるから寂しくもないと思う。

 それに、知ってるかもしれないけれど我が家は有名だからね。周りの人も反対しないと思う。どうかな?」

 

 そう、これが一番メリットがあるんだ。

 今まで隠されてきた春原家(はるばらけ)の「魔法」や、所有していた土地も実質的に手に入り、さらに『身寄りを喪った可哀想な少年』を引き取ったとして世間からの評価も得られる。

 逆にデメリットとしては、養う人が増えるといったことぐらいで、それも「七草(さえぐさ)」からすれば気にするほどの問題じゃない。本当に美味い話なんだ。

 

 ……それにしても「反対しない」か。

「反対させない」の間違いだろうに。

 

「……このまま過ごしていくことはできないんですか?」

「残念だけど、ナギ君が一人暮らしをするのは難しい。

 この家の場所とかは社会的にいろいろ重要でね。ほぼ間違いなく、ナギ君が一人で管理していくと、テロ組織とかが君を狙ってくる。

 そうしたら、君も、周りの人も、危険なことに巻き込まれるかもしれない。

 それに、今まで孝通(たかみち)君たちがやっていた仕事とかを、全部君一人でやることになるんだよ?

 でも、「七草(さえぐさ)」に君が来てくれたら、そんなことはなくなる。手を出そうなんて考える人はいなくなるし、仕事とかはほとんど私や執事たちがやってくれるんだ」

 

 

 確かにその通りだ。

 今のボクは世間的には『九歳の男の子』でしかないんだ。まさに絶好のカモだ。

 書類仕事はまだどうにかなるにしても、安全の方は問題だ。

 いくら、「魔法が使えるから」といったとしても周りを危険にさらすことに違いはないし、そもそも七草(さえぐさ)さんは『まだ未熟だから』と、聞き入れないだろう。

 

 だめだ、理屈としては向こうが正しい。

 このままじゃ養子になることを押し切られちゃう。

 そうなったら……

 

『春原家(はるばらけ)が潰れる?』

 

 父さんがあんなに自慢にしてて愛していた春原家(はるばらけ)が?

 母さんがあんなに一生懸命掃除していたこの家が?

 この、狸みたいな人がトップの家に吸収される形で?

 

 それはダメだ!!

 この家は父さんと母さんが、いや、ご先祖様たちが愛して、繋いできた大切なものなんだ!!

 こんなところで、こんな形で終わらせるわけにはいかない!!

 

「……すみません。突然のことで今は決められません。

 少し、考えさせてもらえませんか?」

 

 とにかく、今は少しでも時間を稼がなくちゃ!

 時間があれば、そのうち何か思いつくかもしれないし、対策も打てるかもしれない。

 

「……わかった。突然すまなかったね。私の考えは変わらないから、ゆっくり考えてくれて大丈夫だよ。

 その間の安全は七草(さえぐさ)のほうで警備させよう。そこは心配しなくていい。

 でも、手続きとかの問題もあるから、そうだな……。できれば一ヶ月以内には返事が欲しいんだけど、いいかな?」

 

 一ヶ月か……。長いようで実は短い期間だな。

 これじゃあ根本的な解決は難しい。

 でも、それ以上も要求しづらい。

 

 くそっ!いい期間を決めてくる!

 

「……わかりました」

「ありがとう。じゃあ、これが連絡先だ。電話に出た執事に名前を言ってくれれば私につなげるようにしておくから、何かあったら電話してくれていいよ。あぁ、ただ、昼間と夜はなかなか出られないから、夕方頃にかけてくれるかな?」

「……ありがとうございます」

「じゃあ、ナギ君もゆっくり考えたいだろうし、この辺で失礼するよ」

 

 そう言って、七草(さえぐさ)さんが立ち上がったので、慌ててボクも立ち上がる。

 

「……お見送りします」

「わざわざ悪いね」

 

 その後玄関を出で門を開けると、七草(さえぐさ)さんが乗ってきた黒塗りの高級車のそばに立っていた、初老の執事さんがこちらにお辞儀をしてきた。

 ……彼はずっと立っていたのだろうか?少なくとも家の結界に変化はなかったから、家に侵入されたということはないと思うけど。

 

「じゃあナギ君、またね。いい返事を待っているよ」

「……考えておきます。今日はわざわざありがとうございました。」

「別に構わないよ。家族になるかもしれないんだからね。じゃあ、ナギ君、元気にね。」

 

 最後にそう言って、七草(さえぐさ)さんは車に乗っていった。

 

「どうにかしなきゃ」

 

◇ ◇ ◇

 

 あれから三日が経った。

 今ボクは春原家(はるばらけ)の書斎にいる。

 

 あの後、七草(さえぐさ)さんの言い分の根拠を思い出してみたら、このまま「春原(はるばら)として」暮らしをすることができない原因は、たった一つだということに今朝気がついた。

 それは、『力を持つ人がいない』という点だ。

『まだ子供のボク』じゃない『力を持つ人』が一人でもいれば、七草(さえぐさ)さんに「養子縁組」ではなく、「後見人(・・・)」になってもらうことでも、問題はクリアする。

 書類仕事は慣れていたから大丈夫だし、安全については、「七草(さえぐさ)」の名前で抑えて、その人が対処するという二重の守りを敷くんだ。

 また、七草(さえぐさ)さんとしても、「後見人」という強いつながりが得られるので決してマイナスじゃない。

 

 ただこれには、七草(さえぐさ)さんに認められるほど実力のある人物じゃなきゃならない。

 ボクにはそんな人脈はないので、父さんの知り合いで誰かいなかったかを探しているんだけど。

 

「これも違う、これも違う、違う、違う、違う!

 はぁ。この段も全滅かぁ」

 

 整理がされていなくてごちゃごちゃなんだ!!

 契約関係の書類を除いて、三つある書類棚に時代も内容もバラバラに入っているから、一段一段棚から出して確認しなくちゃいけなくて、全然目当ての書類が見つかんない!!

 それにいくらラテン語とかで書かれていて読めなかったからといって、初代とか二代目が遺した魔法に関係する書類までここに入れるのはどうかと思うんだけど!!

 

「まったく……。この話が終わったら、整理しようっと、うわぁぁ!!」

 

 ビックリした〜。まだ見てない段の書類が落ちてきただけか。あ、また魔法関係の書類がある。

 これは何が書かれてるんだろう。えーと?

『どんな存在を封印しているのか。(Quae hic monstra signati Qualis est usque adhuc.)』?

 確か「化け物」だとか「怪物」だとか、詳しくは伝わっていないんだっけ?

 少し気になるな。大して量もないし、休憩がてらサラッと読んで次に行こう。

 なになに、えーと、…………

 

「………………へ?」

 

 まさかぁ。嘘でしょ?ナイナイ。そんなはずがないじゃん。

 ……でも、……ありえないと思うけど、

 

 

『もし本当だとしたなら(・・・・・・・・・・)?』

 

 

「っ!!」

 

 その可能性が頭に浮かんだとき、すべてのピースが綺麗に組み合わさった!

 

 そういわれればそうだったんだ!

 ボクの考えたやり方ならば、“「力のある人」の名前は必要ない”!

 七草(さえぐさ)さんにだけわかってもらえればいいんだから!

 

 こんなことしてられないっ!確かさっきここら辺に封印関係の書類があったはず!!

 絶対に失敗できない!徹夜で解析だ!!

 

◇ ◇ ◇

 

「・・・ならば、それを止める枷となろう(Si,Ego ero seruus in compedibus.)」

 

 七草(さえぐさ)さんが家に来てからちょうど二週間。

 

 ——【彼(か)の者の前では、はるかに矮小な人間が震え、】——

 

「開け!(Aperta!)『異界の扉!(Ostium ad alia mundi!)』」

 

 封印の解析が終わり、二時間をかけた詠唱が完成し、

 

 ——【彼(か)の者の隣には、血の通わぬ兵隊が立ち並び、】——

 

「ッ!!」

 

 二百年の時を経て封印から解き放たれた彼女は、

 

 ——【彼(か)の者の背後には、弱者が捨て置かれる。】——

 

「む?どこだここは?……子供?」

 

 金砂のように美しい髪を身にまとい、

 

 ——【彼(か)の者は少なくとも四百年前には存在しており、】——

 

「……ほぅ、ぼーやがあの封印を解いたのか?」

 

 氷のように透き通った眼差しを怪訝の色に染め、

 

 ——【彼(か)の者は、最強にして最悪の魔法使い。】——

 

「オイぼーや、聞いているのか?」

 

 鬼のように恐ろしく、

 

 ——【彼(か)の者を著(あらわ)す呼び名は星の数ほどあれど、】——

 

「……まぁいい。私は悪だ、ゆえに礼儀は尽くそう。」

 

 闇のように妖しくて、

 

 ——【真に彼(か)の者の恐怖を著(あらわ)す呼び名とはこれ一つ。】——

 

 

 

「私の名はエヴァンジェリン。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 悪事の限りを極めた吸血鬼だよ。

 それでぼーや、君の名は?」

 

 

 

 でも、人のように暖かかった。

 

 

 

 ——【『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル】——

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