——その時、ボクは。
——あんなに大変で、頭がいっぱいだったのに。
——これまでで一番の驚きと。
——それ以上の安堵で。
——悩んでいたことが、全部軽くなった気がした。
——彼女とならぜったいに解決できると。
——あぁ。やっぱり。
———彼女には敵わないな。
—◇■◇■◇—
あの事件から、五日が経過した。
あの爆発で、居合わせた一高の生徒がとっさに魔法で障壁を張ったため、父さんと母さん以外に犠牲者はでなかった。
犯人も同じように、しぶとく生き残っていたそうだ。
動機は、仲間内で一人だけ一高の受験に失敗し、それによって罵倒や暴力を受けていたことから、「一高に受かった人が少なければ、こんな状況にはなっていなかった」と、逆恨みしたことらしい。
今は、二人の告別式をしている。
今までたくさんの人と別れてきたけれど、こればっかりはいくら経験しても慣れる気配がしない。
泣いても泣いても、どんなに泣き疲れても。
どうしても涙が止まらない。
特に今回は、ボクの二人目の両親だ。
いくらでも思い出があるし、後悔もある。
まさか死んじゃうなんて思ってもなかったから、別れの言葉も告げられてない。
正直、今すぐ犯人のところに行って、灰になるまで焼き殺してやりたい。
でもそれを、あの優しかった二人が望んでいるとはどうしても思えない。
悲しみだとか怒りだとか喪失感だとか不安だとか、いろいろぐちゃぐちゃになっていて、頭が働かないし、何もする気が起きない。
「大丈夫かい、ナギ君?」
——あぁ、でも。
「ありがとうございます。えーと……」
「あぁ、おじさんは
実は、君のお家のことでお話があるんだけど、明日お家に行ってもいいかな?」
———時間は待っていてくれはしないらしい。
◇ ◇ ◇
翌日、約束の時間に
「こんにちは。あんなことがあってすぐなのに、今日はわざわざ時間を取ってくれてありがとう」
そう言って、
恐怖心を与えないためにか、しゃがんで目線を合わせながら聞いてくる。
「急に一人になっちゃって大変だっだろう。つらいなら、また日を改めるけど」
「…ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
込み上がってきた思い出と涙を飲み込んで、絞り出すように答えると、
「ここです。どうぞお入りください」
「では、失礼するよ。……これは」
一瞬、テーブルの上に、既にティーセットとクッキーが用意されていることに驚いたようにみえたが、すぐに元に戻って奥の席へ向かった。
ボクも扉側のソファーへと向かい、座った。
「これは、ナギ君が?」
「はい。ウチには
「そうか……。ムリさせちゃったかな?
あれから一週間も経ってないんだから、ゆっくりしていてもよかったんだよ?」
そう言って、ボクを気遣っているように
そう、この人は表面的にはどうであれ、本当は
この状況で、普通に
「ほんとに大丈夫です。それになにかしていた方が気も紛れるので……」
これは本当だ。あの日から、無駄に家中大掃除したり、「
「そうかい?それならいいけど……」
この人は、そんな利権に飢えたような獣の目をしていて、ばれていないと思っているのだろうか。
優しく気遣っているように見せて、懐柔しやすくしようとしているのがばればれなのだけど。
……いや、既にばれているとは考えてもいないだろう。
何せ、相手は『わずか九歳の子供』なのだから。
「さて、じゃあナギ君もいろいろ大変だろうし、早めに終わらせようか。
実は今日ここにきたのはね……」
早速きたか!!
この状況で考えられるのは、おそらく…
「ナギ君を私の養子に迎え入れたいと思ってきたんだ」
やっぱりそうか……
「養子?」
「そうだよ。私の子供にならないかということだね。家もこの近くだから今の学校にもこのまま通えるし、年の近い娘もいるから寂しくもないと思う。
それに、知ってるかもしれないけれど我が家は有名だからね。周りの人も反対しないと思う。どうかな?」
そう、これが一番メリットがあるんだ。
今まで隠されてきた
逆にデメリットとしては、養う人が増えるといったことぐらいで、それも「
……それにしても「反対しない」か。
「反対させない」の間違いだろうに。
「……このまま過ごしていくことはできないんですか?」
「残念だけど、ナギ君が一人暮らしをするのは難しい。
この家の場所とかは社会的にいろいろ重要でね。ほぼ間違いなく、ナギ君が一人で管理していくと、テロ組織とかが君を狙ってくる。
そうしたら、君も、周りの人も、危険なことに巻き込まれるかもしれない。
それに、今まで
でも、「
確かにその通りだ。
今のボクは世間的には『九歳の男の子』でしかないんだ。まさに絶好のカモだ。
書類仕事はまだどうにかなるにしても、安全の方は問題だ。
いくら、「魔法が使えるから」といったとしても周りを危険にさらすことに違いはないし、そもそも
だめだ、理屈としては向こうが正しい。
このままじゃ養子になることを押し切られちゃう。
そうなったら……
『
父さんがあんなに自慢にしてて愛していた
母さんがあんなに一生懸命掃除していたこの家が?
この、狸みたいな人がトップの家に吸収される形で?
それはダメだ!!
この家は父さんと母さんが、いや、ご先祖様たちが愛して、繋いできた大切なものなんだ!!
こんなところで、こんな形で終わらせるわけにはいかない!!
「……すみません。突然のことで今は決められません。
少し、考えさせてもらえませんか?」
とにかく、今は少しでも時間を稼がなくちゃ!
時間があれば、そのうち何か思いつくかもしれないし、対策も打てるかもしれない。
「……わかった。突然すまなかったね。私の考えは変わらないから、ゆっくり考えてくれて大丈夫だよ。
その間の安全は
でも、手続きとかの問題もあるから、そうだな……。できれば一ヶ月以内には返事が欲しいんだけど、いいかな?」
一ヶ月か……。長いようで実は短い期間だな。
これじゃあ根本的な解決は難しい。
でも、それ以上も要求しづらい。
くそっ!いい期間を決めてくる!
「……わかりました」
「ありがとう。じゃあ、これが連絡先だ。電話に出た執事に名前を言ってくれれば私につなげるようにしておくから、何かあったら電話してくれていいよ。あぁ、ただ、昼間と夜はなかなか出られないから、夕方頃にかけてくれるかな?」
「……ありがとうございます」
「じゃあ、ナギ君もゆっくり考えたいだろうし、この辺で失礼するよ」
そう言って、
「……お見送りします」
「わざわざ悪いね」
その後玄関を出で門を開けると、
……彼はずっと立っていたのだろうか?少なくとも家の結界に変化はなかったから、家に侵入されたということはないと思うけど。
「じゃあナギ君、またね。いい返事を待っているよ」
「……考えておきます。今日はわざわざありがとうございました。」
「別に構わないよ。家族になるかもしれないんだからね。じゃあ、ナギ君、元気にね。」
最後にそう言って、
「どうにかしなきゃ」
◇ ◇ ◇
あれから三日が経った。
今ボクは
あの後、
それは、『力を持つ人がいない』という点だ。
『まだ子供のボク』じゃない『力を持つ人』が一人でもいれば、
書類仕事は慣れていたから大丈夫だし、安全については、「
また、
ただこれには、
ボクにはそんな人脈はないので、父さんの知り合いで誰かいなかったかを探しているんだけど。
「これも違う、これも違う、違う、違う、違う!
はぁ。この段も全滅かぁ」
整理がされていなくてごちゃごちゃなんだ!!
契約関係の書類を除いて、三つある書類棚に時代も内容もバラバラに入っているから、一段一段棚から出して確認しなくちゃいけなくて、全然目当ての書類が見つかんない!!
それにいくらラテン語とかで書かれていて読めなかったからといって、初代とか二代目が遺した魔法に関係する書類までここに入れるのはどうかと思うんだけど!!
「まったく……。この話が終わったら、整理しようっと、うわぁぁ!!」
ビックリした〜。まだ見てない段の書類が落ちてきただけか。あ、また魔法関係の書類がある。
これは何が書かれてるんだろう。えーと?
『
確か「化け物」だとか「怪物」だとか、詳しくは伝わっていないんだっけ?
少し気になるな。大して量もないし、休憩がてらサラッと読んで次に行こう。
なになに、えーと、…………
「………………へ?」
まさかぁ。嘘でしょ?ナイナイ。そんなはずがないじゃん。
……でも、……ありえないと思うけど、
『
「っ!!」
その可能性が頭に浮かんだとき、すべてのピースが綺麗に組み合わさった!
そういわれればそうだったんだ!
ボクの考えたやり方ならば、“「力のある人」の名前は必要ない”!
こんなことしてられないっ!確かさっきここら辺に封印関係の書類があったはず!!
絶対に失敗できない!徹夜で解析だ!!
◇ ◇ ◇
「・・・
——【
「
封印の解析が終わり、二時間をかけた詠唱が完成し、
——【
「ッ!!」
二百年の時を経て封印から解き放たれた彼女は、
——【
「む?どこだここは?……子供?」
金砂のように美しい髪を身にまとい、
——【
「……ほぅ、ぼーやがあの封印を解いたのか?」
氷のように透き通った眼差しを怪訝の色に染め、
——【
「オイぼーや、聞いているのか?」
鬼のように恐ろしく、
——【
「……まぁいい。私は悪だ、ゆえに礼儀は尽くそう。」
闇のように妖しくて、
——【真に
「私の名はエヴァンジェリン。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
悪事の限りを極めた吸血鬼だよ。
それでぼーや、君の名は?」
でも、人のように暖かかった。
——【『